九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
ビッグバン元素合成とダークエネルギーの進化
一政, 遼太郎
https://doi.org/10.15017/1806810
出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(理学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(様式3)
氏 名 : 一政 遼太郎
論 文 名 :
Big Bang Nucleosynthesis and Evolution of Dark energy
(
ビッグバン元素合成とダークエネルギーの進化)
区 分 : 甲
論 文 内 容 の 要 旨
ビッグバン理論に基づく標準宇宙モデル(ΛCDMモデル)は,近年の観測程度の飛躍的な向上によ り,多くの現象を再現しうる理論として確立している.代表的な観測として,我々が現在直接観測 可能な最も古い時代の情報であるWMAP 衛星やPlanck衛星による宇宙背景放射(CMB)の観測(赤 方偏移: z ~1100),そしてIa型超新星を用いた宇宙膨張の観測(z<1.4),ハッブルパラメータ H0の 観測(z <0.15),また宇宙初期(z ~109)に起こるビッグバン元素合成(BBN)によって合成される軽元素 の観測量がある.これらの観測により,現在の宇宙の組成のうち,我々のよく知っているバリオン 物質はおよそ 4%しか存在せず,残りは 28%のダークマター(DM)と 68%のダークエネルギー(DE) に支配されていることが明らかとなった.宇宙進化や元素の進化を正しく記述するためには,これ らの成分の時間進化を正確に予測することが必要となる.言い換えると,バリオン,DM,DEの組 成比はほぼ正確に決定されたが,それらの性質や正体を調査するために,より詳細な観測や解析が 必要とされている.
まず,宇宙初期に起きる BBN において特に重要なのは,ヘリウムや重水素の観測量である.こ のうちヘリウム4に関するものは観測の不定性に加え,銀河の化学進化モデルを用いて宇宙初期の 量を評価しているため不定性が大きく,解析グループによって結果が大きく異なる.一方,重水素 の量は銀河形成が始まった頃の原始銀河であるクエーサーからの吸収スペクトルから推定されてお り,高い精度で決まっている.これらBBNで合成される軽元素の量を理論的に予測するためには,
中性子の半減期を含めた核反応率や,ニュートリノ数などを精度よく決定する必要がある.
一方,現在近傍の宇宙ではDEが支配的になっており,DEの性質が宇宙進化を特徴づけるため,
その性質を明らかにすることは現代宇宙論における重要な課題の一つである.DE の候補として理 論的に予測されているものはいくつかあり,その一つに宇宙項が存在する.これはアインシュタイ ンによって導入された静的なDEである.また,他の候補として,クインテッセンス場やファント ム場といった動的なDEも理論的に予測されている.このように,スカラー場のダイナミクスによ ってDEの特徴を記述する方法があるが,修正重力場理論,状態方程式(EoS)を用いることでも,同 様に特徴づけることもできる.
近年では,ガンマ線バースト(GRB)の DEの性質に対する制限への利用可能性について多くの議 論がなされている.従来Ia型超新星を用いることで極近傍の DEの性質に対して制限が加えられて きたが,GRB を用いることができれば,赤方偏移にしておよそ7倍も広い範囲(z < 10)の情報を使 用した制限を加えることができる.
一方,これらの上記のモデルでは暗にDEは独立にエネルギーを保存しているという仮定がなさ れているため,エネルギー輸送の有無を明らかにする必要がある.近年の研究では,DE・DM間の
相互作用に関する議論が多くされており,最新の観測データを用いた解析結果によると DE・DM 間の相互作用は認められていない.この他にも,DE・光子間のエネルギー輸送が存在しうる.観測 精度の向上により,3%の精度で低い赤方偏移におけるCMB光子の温度を決定することが可能とな っている.さらに,Luzziらの研究によると,1σの信頼度でCMB光子のエネルギー密度が保存さ れていない可能性が示唆されている.これを再現可能な,DE・光子間に相互作用が存在するモデル が提案されている.しかしながら,このように DE・光子間に相互作用が存在する場合,宇宙初期 に起こるビッグバン元素合成に影響を与える可能性がある.
本研究では,第一にBBN期におけるヘリウム4に対してIzotov et al.(2013) とAver et al. (2013) の観測値,重水素の観測値にCooke et al.(2014)のものを採用した.また,BBN計算の核反応率に は,最新の実験値を用いた天体核反応率(NACRE-II),中性子の半減期には 880.1±1.1[s] (J.
Beringer et al. 2013)を用い解析を行った.この結果,Aver et al.(2013)の観測値を採用すると標準 宇宙モデルで再現できた.しかしながら,Izotov et al.(2014)の観測値を信頼する場合,BBNの観 点からバリオンの数密度を一意に決定することができない事が明らかとなった.したがって,電子 ニュートリノの縮退パラメータ(ξ)を考慮したモデルを採用し計算を行った.この結果,1σ信頼度 で縮退パラメータは非ゼロの値を取りうる事が明らかとなり,最確値はξ=2.6×10-2であった.こ れは電子ニュートリノが反電子ニュートリノに対して9.7×10-3パーセント多い状況に対応する.
第二に,低赤方偏移の宇宙におけるDEの性質を明らかにするため,一般化されたEoSを採用す ることで尤もらしいDEの密度進化を調査した.さらに,Ia型超新星爆発とGRBの観測値を用い ることでEoSの時間進化に対して制限を加える事ができた.その結果,ファントムからクインテッ センスへと振る舞いが変化するDEのモデルを2.4σの信頼度で除外することができた.