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博士論文要旨

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Academic year: 2021

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1 博士論文要旨

小集団の社会人類学的考察

――日本本土・台湾・沖縄における空手会派間の比較――

申請者 小林貴幸

私たちが、人と人との関係の中で日常を生きているとき、その関係は役割や意味によっ て固定された単一のものというわけではない。とりわけ、小さな持続的な集団における関 係は、役割を超えたり役割に反したりするような関係にもなる。人はそのような集団と個 人のあいだをどのように生きている、あるいは生きられているのだろうか。本論文では、

この課題を、持続する関係からなる「小集団」という単位を設定し、社会人類学的に考察 することを目的とする。

本論文が対象とする事例は、日本本土・沖縄および台湾の空手会派である。つまり、日 本本土・沖縄・台湾の空手会派団体といった「大集団」を構成する支部や道場といった、師 をトップとし、弟子を成員とする集団を「小集団」として捉え、そこにおける師弟関係と 個人の主体生成との関わりから見て取れる小集団の構造、そうした小集団と小集団の関係、

および小集団と大集団との関わりについて、民族誌の記述をとおして比較・検討する。

個人が個体として、分割不能な個体であることは自明であり、その個人が最小の社会関 係の構成単位であることも自明とされている。一方で、人びとは群れをなす。それをグル ープや集団、あるいは仲間といいかえてもよいが、それらの集団は、いわば「塊」として 一つの主体性の単位として行動する。現代的な社会では、個人が強調され、見えにくい局 面もあるが、社会で生きようとするかぎり、あるいは活動しようとするかぎり、一時的で あれ、継続的であれ、他者との協働関係は不可欠であり、あるいはエモーショナルにも他 者との共在感覚は必要とされる。そのような塊としての集団的主体性をもつ集団を、「小集 団」および「仲間集団」として捉えたい。

この小集団と仲間集団という概念は、それぞれ中根千枝の日本型「小集団」の議論と米 山俊直による「仲間」の議論を祖型としている。中根の議論と米山の議論は、日本社会の

「小集団」を構成する関係を、前者がタテ関係を中心とするのに対して後者がヨコ関係を 重視するといった対比によって捉えられることが多い。けれども、本論文の採る視座から すれば、両者の違いのポイントは「タテかヨコか」というところにあるのではない。そこ で、両者の議論の対立を、ヴィクター・ターナーの「構造/反構造(コムニタス)」という 視点を援用しながら、明らかにすることによって、その対立を超える本論文の視座を提示 することにしたい。

なお本論の議論は、以下の二点を示唆することにつながっていると考えている。一つは、

次の点である。米山や本論がいう仲間集団は、その場・その時に、個と個の対面的な関係 からなる私たちが日常を生きる場である。こうした集団や境界は、永続的・固定的なもの

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ではなく、その場・その時の個と個の関係に応じて、たえず変更されている。ゆえに構造 化されにくく、システムには組みこまれにくい集団であるといえる。一方、本論がいう小 集団は、そうした仲間集団であるとともに、より大きな集団のシステムに組み込まれうる 構造をもつ二重の集団だといえる。つまりシステムの位相として、その一部でありながら、

システムに組み込まれない個と個の位相における日常の場でもあるということである。そ うした小集団の二重性が、システムに組み込まれながらも、それと折り合いをつけて、私 たちが生きられる日常の領域を確保しているということ、また二重性がゆえに小集団は、

システムに対して私たちの日常の場からの異議申し立てやその変容を迫る拠点となる可能 性であるということである。

また一つは、仲間集団や小集団といった集団における個人は、「わたし」という対自的あ るいは個別主体、「あなた」に対する「わたし」という対他的主体、あるいは「わたし」と

「あなた」の間の「わたしとあなた」という間主体、そして「わたしたち」といった自己 に必ずしも中心性がない集団主体をもつ。それは、新規入門者が師との「わたしとあなた」

という二者の「間」の確かさによるものであり、大集団や国家といった同一性のカテゴリ ー(中根のいう「資格」[中根 1967:28-30])や「わたし」と全体の関係といった論理に よるものとは別の次元だということである。

こうしたことを、代替不可能な個人と個人の関係からなる日常の「場」を個と個の位相、

制度化された組織や「枠」、そこにおける代替可能な関係をシステムの位相と呼び、それら を用いて考察したい。

参照

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