チベット語アムド方言の敬語
海 老 原 志 穂キーワード:チベット語, アムド方 言, 敬 語
1 は じ め に
チベット語 の文 語 および口 語 諸 方 言 には, 敬 意 を表 すための一 連 の言 語 形 式 (敬 語 ) が存 在 する。チベット語 における敬 語 については, 特 に, 中 央 チベットのラサ方 言
(北 村 1974, Denwood 2000) やラダック方 言 (Koshal 1979, Koshal 1987) につい てまとまった研 究 がある。ラサはかつて, チベットの政 治, 文 化 的 な中 心 であり, 固 定 的 な階 層 社 会 であったために, その反 映 として敬 語 が発 達 したものと考 えられている (北 村 1974: 70-71, Denwood 2000: 215, Kraft & Hu 2000: 47)。ラダックも以 前 は一 つの 王 国 として機 能 していたため, 明 確 な社 会 階 層 が存 在 していた(Koshal 1987: 152)。
本 論 文 では, 従 来, ほとんど扱 われてこなかった, 東 北 チベットのアムド方 言 におけ る敬 語 を考 察 対 象 とする。豊 富 な表 現 形 式 をもつラサ方 言 の敬 語 に比 べ, アムド方 言 の敬 語 は語 彙 も少 なく, 使 用 の対 象 も限 定 されている。本 稿 では, アムド方 言 の敬 語 の使 用 対 象 とその語 彙 を示 し, どの品 詞 によって, また, どのような方 法 による敬 語 表 現 が存 在 するのかを考 察 する。最 初 にチベット文 語 とアムド方 言 以 外 のチベット語 諸 方 言 における敬 語 を概 観 する。
2 チ ベ ッ ト 文 語 と チ ベ ッ ト 語 諸 方 言 に お け る 敬 語 概 観
最 初 に, チベット文 語 と, アムド方 言 以 外 のチベット語 方 言 の敬 語 に関 する先 行 研 究 を概 観 する。ただし, 敬 語 の使 用 には発 話 者 の階 層 や職 業, 年 齢, 発 話 場 面 にお ける感 情 なども関 ってくる。よって, ここで示 す内 容 は先 行 研 究 の記 述 の範 囲 に限 定 さ れていることを付 け加 えておく。敬 語 の品 詞 と使 用 対 象 の 2 つの面 からまとめる。アムド 方 言 とこれらの相 違 点 については 8章 で述 べる。
2.1 チ ベ ッ ト 文 語
名 詞, 代 名 詞 (1, 2, 3 人 称 ), 動 詞 に敬 語 がみられる (Beyer 1992: 154)。使 用 対 象 に関 しては, 社 会 的, 宗 教 的 な上 下 関 係 に応 じて用 いる (Beyer 1992: 153)。
2.2 ラ サ 方 言
中 央 チベットのラサ方 言 における敬 語 は, 「おそらく数 詞, 接 続 詞 を除 く, 他 のすべて の品 詞 に認 められる」 (北 村 1974: 71) という。使 用 対 象 についてはDenwood (2000:
215) が, 社 会 的, 宗 教 的 に高 い地 位 にある人, 見 知 らぬ人, 外 国 人 などに対 して使 用 することを述 べている。自 分 の召 使 や子 供 に対 して敬 語 を用 いるような使 用 例 も報 告 されているが, これについては, 過 剰 敬 語 であると考 え, ここでは扱 わない。
2.3 カ ム 方 言
東 チベットのカム方 言 には敬 語 についての簡 単 な記 述 (Kraft & Hu 2000: 47-52, Häsler 1999: 91, 109-111) がある。敬 語 の品 詞 については, 名 詞, 代 名 詞 (2, 3 人 称 ), 動 詞 のみが記 述 されている。敬 語 の使 用 対 象 については, Häsler (1999: 109)に, 自 身 より社 会 的 に高 い地 位 の人 に対 して用 いることが述 べられている。ラマ (高 僧) に 対 する敬 語 の例 があることから, 宗 教 的 な上 下 関 係 での使 用 も含 まれているものと考 え られる。
2.4ラ ダ ッ ク 方 言
インドのカシミール地 方 で話 されているラダック方 言 には, 名 詞, 代 名 詞 (2, 3人 称 ), 動 詞 において敬 語 形 式 が存 在 することが述 べられている (Koshal 1979: 97-101, 180, 250-259, 262, Koshal 1987: 153-162)。敬 語 の使 用 対 象 としては, 発 話 者 よりも年 上 の 者, 社 会 的, 宗 教 的 に高 い地 位 の人, 一 般 的 な見 知 らぬ者 に対 して使 用 するとされ ている (Koshal 1979: 97, Koshal 1987: 162)。
2.5 ゾ ン カ 方 言
ブータンのゾンカ方 言 では, 名 詞, 代 名 詞 (2, 3人 称 ), 動 詞 において敬 語 が用 いら れている(van Driem 1998: 421-427)。敬 語 の使 用 対 象 は, 高 いランクの人 (’people of high rank’, van Driem 1998: 421) とだけ書 かれており, 詳 しくはわからない。 ただ し, ラマ (高 僧) に対 する敬 語 の例 が存 在 することから, 宗 教 的 な上 下 関 係 での使 用 も含 まれているものと考 えられる。
3 ア ム ド 方 言 に つ い て 3.1 ア ム ド 方 言 の 概 要
本 節 では, アムド方 言 に関 して述 べる。アム
ド方 言 は, 系 統 的 にはシナ・チベット語 族, チ ベット・ビルマ語 派 のチベット諸 語 に属 する言 語 である。話 者 は SIL によって約 80 万 人 程 度 い ると推 定 されている。主 に, 中 国 の西 北 部 にあ たる, 青 海 省 の全 域 と甘 粛 省 の南 部, 四 川 省 の 一 部 で 話 さ れ て い る 。 ア ム ド 地 方 は チ ベ ッ ト 文 化 圏 の中 では, 東 北 部 に位 置 する。
図 1 アムド方 言 の話 されている地 域
3.2 調 査 協 力 者
調 査 協 力 者 はアムド方 言 の母 語 話 者 であるカモフチ氏 (女 性, mkha’ mo skyid: 斜 体 はチベット文 語 のワイリー転 写 表 記 であることを表 わす) である。カモフチ氏 は, 中 国, 青 海 省, 海 南 チベット族 自 治 州, 貴 徳 県 出 身 である。2005 年 12 月 に来 日 し, 現 在 も 日 本 に滞 在 しておられる。アムド方 言 は農 区 下 位 方 言 と牧 区 下 位 方 言, そして, その2 つの中 間 にある半 農 半 牧 下 位 方 言 の 3 つに分 類 できる。氏 の母 語 は, そのうちの半 農 半 牧 下 位 方 言 にあたる。
4 ア ム ド 方 言 の 敬 語
敬 語 は, アムド方 言 で, cesha (zhe sa, 「尊 敬 の場 所 」), または cettshEk (zhe tshig,
「尊 敬 の語 」)と呼 ばれている。ラサ方 言 の敬 語 は, 「文 語, 口 語 を通 じてもっとも複 雑 な 形 態, 用 法 を発 達 させ, 動 詞, 名 詞, 形 容 詞, 副 詞 などいろいろな品 詞 について敬 語 形 式 を豊 富 に持 っている」 (北 村 1974: 69) とされる。一 方, アムド方 言 における敬 語 は, 形 態 や用 法 においてラサ方 言 ほどの複 雑 さはない。
アムド方 言 の敬 語 に関 する記 述 には, 周 (2004: 65), Haller (2004: 60, 136) があ る。ともに, 名 詞 と動 詞 の敬 語 語 彙 を数 例 収 めているのみで, 使 用 対 象 や, 形 態 に関 する分 析 などは行 っていない。アムド方 言 の辞 書 である華 & 龍 (1993) は, 名 詞, 代 名 詞, 動 詞 について敬 語 語 彙 を収 録 している。本 稿 ではこの語 彙 集 も参 考 にしている。
一 部, 筆 者 の調 査 において, 華 & 龍 (1993)の語 彙 にはなかったものや, 華 & 龍
(1993) と形 態 が多 少 異 なるもの, 華 & 龍 (1993) では敬 語 とは記 述 されていないが,
敬 語 と認 められるものなどがあった。敬 語 (敬 体 の言 語 ) は普 通 語 (常 体 の言 語 ) の 全 てに対 応 する語 彙 をもつわけではない。敬 語 の語 彙 は普 通 語 に比 べてかなり少 ない。
名 詞 では, 敬 意 の対 象 となる人 物 の身 体 部 位, 所 有 物, 親 族, 排 泄 物, 身 体 現 象, 心 理 現 象, 作 品 などに敬 語 がみられる。代 名 詞 は2, 3人 称 のみに敬 語 形 が存 在 する。
動 詞 に関 して言 えば, 日 常 的 な動 作 に関 して敬 語 がみられる。特 に動 詞 においては敬 語 の 1つの語 彙 が, 普 通 語 の 2つ以 上 の語 彙 に対 応 することもある。
敬 語 には, 話 題 中 の素 材 (reference) に関 する敬 語 (「素 材 敬 語 」) と話 し相 手
(address) に関 する敬 語 (「対 象 敬 語 」) の 2 種 類 がある。アムド方 言 においては, 特 に, 素 材 に対 する場 合 と対 象 に対 する場 合 で使 用 する敬 語 に違 いがないと思 われるた め, この2種 類 は分 けない。さらに, 聞 き手 に対 する敬 語 として丁 寧 語 をもつ言 語 もある が, これも認 められなかった。
5 ア ム ド 方 言 に お け る 敬 語 の 使 用 対 象
アムド方 言 において, 敬 語 を使 用 する対 象 は, 基 本 的 に, 仏 教 に関 係 する人 物 や 事 物 に限 定 される。対 象 は, 主 に, i) 神 仏 などの神 格, ii) 僧 侶 や活 仏 などの人 間, iii) 仏 像, 仏 画, 寺 院, 仏 跡 などの無 生 物 である。ただし, 仏 像, 仏 画, 寺 院, 仏 跡 などの無 生 物 に対 する敬 語 は, 動 詞 のみであり, そのうち, 非 主 語 敬 語 動 詞 (いわゆ る謙 譲 語 ) に限 定 される。以 下 にそれぞれの例 文 を示 す。例 文 中 の敬 語 表 現 には下
線 を付 す。
i) 神 仏 などの神 格
(1) sangdje kE song nEre. 「仏 がおっしゃった」
仏 ERG おっしゃる AUX
ii) 僧 侶 や活 仏 などの人 間
(2) akhE lopzang kE napza ji nEre.
アク (僧 侶 につける敬 称) ロブザン ERG お召 し物 召 す AUX
「アク・ロブザンがお召 し物 をお召 しになった」
(3) alak trhEwa -tsang nga ci zEk.
アラク (活 仏 につける敬 称) チュワ -様 DAT 申 し上 げる AUX 「アラク・チュワ様 に申 し上 げた」
iii) 仏 像, 仏 画, 寺 院, 仏 跡 などの無 生 物
(4) nga hkEmbEm a ndja tang nga.
1SG:ABS クンブム(寺 ) DAT 拝 する AUX AUX
「私 はクンブムを拝 した」
(5) khEga amnyimatchen na ndja tang zEk.
3SG:ABS アムニマチェン(聖 山 ) DAT 拝 する AUX AUX
「彼 はアムニマチェンを拝 した」
僧 侶 でも活 仏 でもない一 般 人 は, 特 に, 高 僧 (ダライ・ラマ, パンチェン・ラマをはじ めとする) や活 仏 (僧 籍 にない者 もいる) に対 して敬 語 を用 いる。僧 侶 や活 仏 同 士 の 間 でも, 上 下 関 係 に応 じて敬 語 を用 いるようであるが, 詳 しい使 用 の実 態 は今 のところ よくわからない。
年 上 の者 や, 社 会 的 身 分 が上 位 の者 (領 主, 共 産 党 幹 部, 職 場 の上 司 など), 先 生 などであっても, 宗 教 的 に上 位 にない者 には一 般 的 に敬 語 は用 いずに, 普 通 語 を 用 いる。例 文(6)は gegen「先 生 」が僧 侶 である場 合, 例 文(7)は gegen「先 生 」が俗 人 で ある場 合 の例 である。例 文(6)には敬 語 が使 用 される。
(6) gegen kE tE ki song nEre.
先 生 ERG DEM ERG おっしゃる AUX
「先 生 がそのようにおっしゃった」 (先 生 =僧 侶 の場 合 ) (7) gegen kE tE ki ce nEre.
先 生 ERG DEM ERG 話 す:PAST AUX
「先 生 がそのように言 った」 (先 生 =俗 人 の場 合 )
例 外 的 に, シャーマンであるlhawa (lha ba) やニンマ派 の在 家 修 行 者 hngoxxa
(sngag pa) に対 しても敬 語 を使 用 することがある (例 文(8))。しかし, 彼 らに対 しては, 儀 式 の最 中 においては敬 語 を使 用 するが, それ以 外 の日 常 の場 面 では敬 語 を使 用 し ないという。
(8) lhawa kE lhahke song gogE.
シャーマン ERG 神 託 おっしゃる AUX
「シャーマンが神 託 をおっしゃっている」
(シャーマンが祭 祀 の最 中 で神 がかっている場 面 において)
儀 式 中 のシャーマンや在 家 修 行 者 は, 俗 人 といえども, 神 仏 に近 い, または, 神 仏 を代 弁 する存 在 として敬 意 の対 象 となるのだと考 えられる。
ただし, アムド方 言 の敬 語 は, 上 述 の対 象 に対 してであっても, 必 ずしも使 用 しなくと もよい。特 に, 発 話 者 の側 に敬 語 の知 識 がない場 合 には, 普 通 語 で発 話 してもかまわ ないという。
6 敬 語 の 品 詞
ネウストプニー (1974: 18) によれば, 敬 語 の類 型 的 な観 点 からみると, 「人 称 代 名 詞 に敬 語 的 な区 別 が圧 倒 的 に多 い」という。そして, 「代 名 詞 のつぎに命 令 型 が加 わり, それに動 詞 の他 の形 式 と名 詞 など」に敬 語 表 現 が存 在 するそうである。アムド方 言 でも, 名 詞, 代 名 詞, 動 詞 において敬 語 表 現 がみられる。
6.1 名 詞
名 詞 には, 敬 意 の対 象 となる人 物 の身 体 部 位, 所 有 物 (持 ち物, 衣 類 のような具 体 物 か ら, 名 前, 知 識 な ど の 抽 象 物 ま で ), 親 族, 排 泄 物, 身 体 現 象, 心 理 現 象, 作 品 などに敬 語 がみられる。 所 有 物 であっても, 愛 玩 動 物 に対 する敬 語 はみられなか った。tcEppa 「(お乗 りになる)馬 」 (tcEp は「乗 馬 する」という敬 語 動 詞 )という敬 語 形 があるが, これは愛 玩 動 物 というよりは, 乗 り物 である。
表 1 身 体 部 位
敬 語 普 通 語
「頭 」 RE n.go
「顔 」 cel, ce-ngo ngo
「首 」 djampa hki
「喉 」 ndrEmba nyEttok
「目 」 htcen nyEk
「鼻 」 syang nha
「口 」 cel kha
「歯 」 tshem sho
「手 」 cek lokkwa
「指 」 cek-ndzEk ndzEk
「足 」 cep hkongnga
「心, 心 臓 」 thEk shem「心 」, nyhang「心 臓 」
「舌 」 djEk htci
「体 」 hkE hongwo
「遺 体 」 hkE-dong ro
表 2 親 族
敬 語 普 通 語
「衣 服 」 napza gondjE
「馬 」 tcEppa, tchEppa hta
「椅 子 」 trhE onghtcek 「名 前 」 tshen nyang
「知 識 」 tchenrap syerap
表 3 親 族
敬 語 普 通 語
「衣 服 」 napza gondjE
「父 」 yap apa
「(ダライラマの)父 」 yapji ama
「父 母 」 yap=yEm hama
「息 子 」 si wE
「娘 」 simo cimo, omo
表 4 排 泄 物
敬 語 普 通 語
「涙 」 htcen=tchep nyEk=tchE
「小 便, 大 便 」 tchepsang htcEn「小 便 」, htcokka「大 便 」
「小 便 」 htsang=tchep htcEn
「鼻 水 」 nha=tchep nha=tchE
表 5 身 体 現 象
敬 語 普 通 語
「病 気 」 hkE-nyong ne
表 6 心 理 現 象
敬 語 普 通 語
「夢 」 nelhti nyilem
表 7 作 品
敬 語 普 通 語
「著 書 」 song-nbEm, htsom song-htsom, cek-htsom
「書 いたもの, 手 紙 」 cek-tri, cek-yEk yegi
表 8 その他
敬 語 普 通 語 「水 」 tchep tchE (仏 教 儀 式 などに用 いる聖 水)
6.2 代 名 詞
代 名 詞 の敬 語 は, 2人 称3人 称 において確 認 された。単 数, 双 数, 複 数 全 てにおい て敬 語 が存 在 する。
表 9 2人 称 (普 通 語)
単 数 双 数 複 数
絶 対 格 形 能 格 形 絶 対 格 形 能 格 形 絶 対 格 形 能 格 形 tcho tchi tchonyika tchonyiki tchitcho tchitchoki
表 10 2 人 称 (敬 語)
単 数 双 数 複 数
絶 対 格 形 能 格 形 絶 対 格 形 能 格 形 絶 対 格 形 能 格 形 tchel tchekki tchelnyika tchelnyiki tchetcho tchetchoki
hnambanyika hnambanyiki tchelnambatso tchelnambatsoki tchelnambanyika tchelnambanyiki tchelnambazo tchelnambazoki
表 11 3人 称 (普 通 語 )
単 数 双 数 複 数
絶 対 格 形 能 格 形 絶 対 格 形 能 格 形 絶 対 格 形 能 格 形 khEga khEgi khEnyika khEnyiki khEtcho khEtchoki
表 12 3 人 称 (敬 語)
単 数 双 数 複 数 絶 対 格 形 能 格 形 絶 対 格 形 能 格 形 絶 対 格 形 能 格 形 khong khonggi khongnyika khongnyiki khongtcho khongtchoki khongnambatc khongnambatchoki khongnambazo khongnambazoki
2人 称, 3人 称 代 名 詞 の敬 語 の例 文 を示 す。敬 意 の対 象 となる人 物 の行 為 に関 して, 主 語 となる代 名 詞 と述 語 動 詞 がともに文 中 に現 れる場 合 には, これら両 方 が敬 語 形 を とらなければ不 自 然 であるという (例 文(9), (10))。
(9) tchel lhasha a hep ni 2SG:ABS ラサ DAT いらっしゃる AUX 「あなた様 はラサに行 かれるのですか?」
(10) khong lhasha a hep nEre. 「彼 はラサに行 かれました」
3SG:ABS ラサ DAT いらっしゃる AUX
6.3 動 詞
動 詞 における敬 語 には, 主 語 に対 する主 語 敬 語 (いわゆる尊 敬 語) と非 主 語 敬 語
(いわゆる謙 譲 語 ) の2 種 類 がある。最 初 に主 語 敬 語 について述 べる。
6.3.1 主 語 敬 語 動 詞
主 語 敬 語 動 詞 は, 日 常 の基 本 的 な動 作 に対 する敬 語 がある。一 部 の敬 語 動 詞 は, 1 つの語 彙 に, 2 つ以 上 の普 通 語 の語 彙 が対 応 していることがある。これは, 日 本 語 にお いても, 敬 語 の「いらっしゃる」に, 普 通 語 の「行 く」と「来 る」両 方 が対 応 しているのと同 様 である。アムド方 言 においても hep「いらっしゃる」という敬 語 の語 彙 が ndjo「行 く」, yong「来 る」両 方 に対 応 する。ji「召 す」についても, sa「食 べる」, thong「飲 む」, kon「着 る」, len「取 る」, khu「(病 気 に)なる」に対 応 している。jaŋ「お立 ち上 がりになる, お建 て になる」の場 合 は, lang「立 ち上 がる」と tsEk「建 てる」に対 応 している。意 志 動 詞 と無 意 志 動 詞 が敬 語 において中 和 している例 もある。zEk「ご覧 になる」はhta「見 る」, thong「見 える」に, sen「お聞 きになる」はnyen「聞 く」, ko「聞 こえる」に対 応 している。表 13に主 語 敬 語 動 詞 と普 通 語 の対 応 を示 した。後 述 のように敬 語 動 詞 のほとんどは活 用 をもたない。
普 通 語 のうち活 用 のあるものに関 しては, 非 過 去 形 を示 す。
表 13 主 語 敬 語 動 詞
敬 語 普 通 語
hep「いらっしゃる」 ndjo「行 く」, yong「来 る」
ji「召 す」 sa「食 べる」, thong「飲 む」, kon「着 る」, len「取 る」, khu「(病 気 に)なる」
jaŋ「お立 ち上 がりになる, お建 てになる」 lang「立 ち上 がる」, tsEk「建 てる」
zEm「お休 みになる」 nyal「寝 る」
soŋ「おっしゃる」 cel「話 す」
zEk「ご覧 になる」 hta「見 る」, thong「見 える」
jEk「いらっしゃる」 dol「いる」, htsok「座 る」
hnang「給 う, なさる」 hter「与 える」, yel「する」
ndze「なさる」 yel「する」
tchen 「ご存 知 である」 syi「知 る」, ko「わかる」
cEk「亡 くなる」 syE「死 ぬ」
tcEp「(馬 に)お乗 りになる」 con「乗 る」
sen 「お聞 きになる」 nyen「聞 く」, ko「聞 こえる」
dji「お喜 びになる」 ga「喜 ぶ」
(11) hlama jEk i de yo nEre ラマ(高 僧) いらっしゃる(いる) CON いる ある AUX
「ラマがいらっしゃっている」
6.3.2 非 主 語 敬 語 動 詞
非 主 語 敬 語 動 詞 は, 直 接 目 的 語 や間 接 目 的 語 (与 格 目 的 語 ) に対 する敬 意 を 表 す。nbEl「献 上 する」, ndja「お目 にかかる, 拝 する」, ci「お仕 えする, 申 し上 げる」, drong「弑 する」などがある。
表 14 非 主 語 敬 語 動 詞
敬 語 普 通 語 nbEl「献 上 する」 hter「与 える」
ndja「お目 にかかる, 拝 する」 hta「見 る」, thEk「会 う」
cE(非 過 去 形 ), ci(過 去 形, 命 令 形 ) cel「話 す」, yel「する」
「申 し上 げる, お仕 えする」
drong「弑 する」 sol「殺 す」
非 主 語 敬 語 動 詞 では, 仏 画, 仏 像, 寺 院, 仏 跡 などの無 生 物 に対 する敬 意 も表 す こ と が で き る(例 文( 4 )( 5 ) )。 非 主 語 敬 語 動 詞 を 用 い た 複 合 語 も 存 在 す る 。c i = y E k ,
cE=yEk「奏 上 書 」 (申 し上 げる=手 紙), ci=don, cE=don「奏 上 内 容 」 (申 し上 げる=意 味 内 容) などである。これらの複 合 語 は, 奏 上 の受 け取 り手 に対 する敬 意 を表 すのに 用 いられる。
6.4 活 用 に つ い て
アムド方 言 の動 作 動 詞 には通 常, 非 過 去 形, 過 去 形, 命 令 形 の活 用 があるが, 敬 語 動 詞 の多 くには活 用 がみられない。例 えば, 表 15 のように, 動 詞 「食 べる」は, 普 通 語 の場 合, 非 過 去 形 は sa, 過 去 形 は si, 命 令 形 は so という活 用 をもつ。一 方, 敬 語 の場 合 にはそのような活 用 がなく, 全 てji「召 す」である。
表 15 動 詞 「食 べる」の敬 語 形 と普 通 語 形 の活 用
敬 語 普 通 語 非 過 去 形 ji sa 過 去 形 ji si 命 令 形 ji so
ただし, cE (非 過 去 形 ), ci (過 去 形, 命 令 形 ) 「申 し上 げる, お仕 えする」は例 外 的 に活 用 をもつ。命 令 形 には, 命 令 を表 す終 助 詞 である la tong (laは音 変 化 する) を つける。アムド方 言 の命 令 形 は, 丁 寧 な命 令 も表 すことができる。
7 敬 語 を 表 す 方 法
敬 語 を表 す方 法 には, 語 彙 的 な方 法, 形 態 的 な方 法, 句 的 な方 法 の3 つがある。
7.1 語 彙 的 な 方 法
語 彙 的 な方 法 による敬 語 とは, 普 通 語 形 とは異 なる別 の語 彙 を敬 語 形 として用 いる 場 合 である。今 まで提 示 してきた語 彙 の多 くはこの方 法 によるものである。例 えば, 「目 」 の敬 語 が htcen, 普 通 語 が nyEkというように語 彙 が全 く異 なるものである。
Thubten Jigme Norbu & Takeuchi (1991) および武 内 (1994: 98-103) によると, ラ サ方 言 においては, モンゴル語 からの借 用 語 が敬 語 形 式 となるケースがあるようである。
武 内 は, アムド方 言 にはこのようなモンゴル語 からの借 用 語 彙 が敬 語 として普 及 してい ないことを述 べているが, これは今 回 の調 査 においてもみられなかった。
7.2 形 態 的 な 方 法
形 態 的 な方 法 とは, 敬 語 形 をつくる際 に全 く別 の語 彙 を使 用 するのではなく, 対 応 する普 通 語, または普 通 語 の一 部 に, 敬 語 形 式 をつくる接 辞 を付 加 するという派 生 的 な方 法 と, 普 通 語 の複 合 語 の1部 の形 態 素 を敬 語 に入 れ替 える複 合 的 な方 法 がある。
7.2.1 派 生 的 な 方 法
普 通 語 に, 敬 語 をつくる接 頭 辞 または接 尾 辞 を付 加 して敬 語 形 をつくる場 合 がある。
この敬 語 接 辞 の多 くは, 敬 語 名 詞 か敬 語 動 詞 に由 来 する。
[接 頭 辞]
接 頭 辞 には, 名 詞 由 来 の接 頭 辞 と動 詞 由 来 の接 頭 辞 がある。名 詞 由 来 の接 頭 辞 を 用 いる例 の多 くでは, 名 詞 の表 す意 味 と関 係 する身 体 部 分 に由 来 する接 頭 辞 が付 加 される。例 えば, cek- (敬 語 名 詞 としての意 味 は「御 手 」) という接 頭 辞 は, cek-thi「御 印 章, 御 掌 」, ceknyEk「御 筆 」, cek-trhang「御 数 珠 」, cek-khEk「御 手 提 げ」, cek-yEk
「御 文 字 」, cek-dji「御 功 績 」, などの手 の部 分 や, 手 で使 う道 具, 手 で行 う行 為 やその 結 果 などの敬 語 をつくるのに用 いられる。以 下 に, 接 頭 辞 ごとにいくつかの例 を示 す。
( ) 内 に示 したのは, 各 接 頭 辞 が由 来 している名 詞 または動 詞 の単 独 の意 味 である。
表 16 cek- (「御 手 」)
敬 語 普 通 語
「印 章 」 cek-thi thi
「掌 」 cek-thi lak-thi
「ペン」 cek-nyEk nyEk 「数 珠 」 cek-trhang trhangnga
「手 提 げ」 cek-khEk khEkma
「文 字, 手 紙 」 cek-yEk yegi (yEkは yegiの拘 束 形 態 素 形)
「功 績, 貢 献 」 cek-dji ci=dji
表 17 hkE- (「御 体 」)
敬 語 普 通 語
「体, 健 康, 調 子 」 hkE-nkham kham
「長 寿 」 hkE-tsherang tsherang
「一 生 」 hkE=tshe tshe
「面 倒 」 hkE-tshak tshak
「兄 弟 」 hkE-hpEn hpEn
「僧 服 の上 衣 」 hkE-zen zen
表 18 Ro- (「御 頭 」, 単 独 の敬 語 名 詞 としての形 はRE)
敬 語 普 通 語
「髪 」 Ro-htra htra
「御 帽 子 」 Ro-ja (caが有 声 化 している) cato
表 19 dong- 「御 遺 体 」
敬 語 普 通 語
「家 系 」 dong-djel djEppa
表 20 gong- (単 独 で不 使 用 )
敬 語 普 通 語
「年 齢 」 gong-lo lo
敬 語 動 詞 由 来 の接 頭 辞 を付 加 するものには次 のような例 がある。
表 21 song- (「おっしゃる」)
敬 語 普 通 語
「声 」 song-hkel hkel
「著 書 」 song-htsom htsom
「話 」 song-cel cel (「話 す」という動 詞)
表 22 sol- (「供 養 する, 祭 る」)
敬 語 普 通 語
「お茶 」 so-dja tca (dja は tcaが有 声 化 したもの)
「肉 」 so-sya sya
「台 所 」 sot-thap thapka
[接 尾 辞]
接 尾 辞 には, 名 前 につける接 尾 辞 -tsang「~様 」 がある。 -tsang は名 詞 の tshang
「家, 巣 」に由 来 するが, 接 尾 辞 になると気 音 を失 い -tsang となる (-zang になることも ある)。これは, 基 本 的 に僧 侶 や活 仏 の名 前 に後 接 し敬 意 を表 す (Wang (1996: 6-7) にも同 様 の記 述 がある)。日 本 語 の「~さん」, 「~様 」, ラサ方 言 の -laa「~さん」と似 て いるが, アムド方 言 の -tsangは一 般 的 に俗 人 の名 にはつけない。
(12) gendEntchEnphet -tsang 「ゲンドゥンチュンペー様 」 ゲンドゥンチゥンペー -様
(13) radrang -tsang 「ラジャン様 」 ラジャン -様
(14) gepce -tsang 「ゲシェ様 」 ゲシェ (僧 侶 の位 階 のひとつ) -様
7.2.2 複 合 的 な 方 法
普 通 語 が複 合 語 の場 合, その一 部 を敬 語 に入 れ替 えて, 全 体 を敬 語 にすることが ある。名 詞 形 態 素 を入 れ替 えるものと, 動 詞 形 態 素 を入 れ替 えるものがある。
[名 詞 形 態 素] 表 23 cek「御 手 」
敬 語 普 通 語
「手 袋 」 cek=syEp lak=syEp 御 手=皮 手=皮
表 24 Ro 「御 頭 」 (単 独 の敬 語 名 詞 としての形 はRE)
敬 語 普 通 語
「髪 飾 り」 Ro=djen n.go=djen 御 頭=飾 り 頭=飾 り
表 25 htcen 「御 目 」
敬 語 普 通 語
「目 玉 」 htcen=ril nyEk=ril 御 目=玉 目=玉
表 26 cel 「御 口 」
敬 語 普 通 語
「話 」 cel=da kha=da 御 口=合 図 口=合 図
「遺 言 」 cel=tchem kha=tchem 御 口=遺 言 口=遺 言
表 27 cep 「御 足 」
敬 語 普 通 語
「歩 く」 cep=thang hkang=thang 御 足=地 面 足=地 面
表 28 thEk 「御 心 」
敬 語 普 通 語
「心 配, 関 心 」 thEk=khEr sem=khEr 御 心=担 ぐ 心=担 ぐ
[動 詞 形 態 素]
表 29 trhong 「お生 まれになる」
敬 語 普 通 語
「出 生 地 」 trhong=yEl htci=yEl 「出 生 地, 実 家 」 お生 まれになる=故 郷 生 まれる=故 郷
「出 生 地 」 trhong=sha htci=sha お生 まれになる=土 地 生 まれる=土 地
「誕 生 日 」 trhong=hkEr htci=hkEr お生 まれになる=星 生 まれる=星
「活 仏 の世 系 」 trhong=rap htci=rap お生 まれになる=代 生 まれる=代
表 30 ndze 「なさる」
敬 語 普 通 語
「功 績, 貢 献 」 ndze=dji ci=dji
なさる=跡 する=跡
7.3句 的 な 方 法
名 詞 と動 詞 による組 み合 わせがイディオムとして使 用 されることもある。「亡 くなる」とい う意 味 の敬 語 動 詞 は 1 音 節 の動 詞 cEk「亡 くなる」も存 在 するが, 次 のようなイディオム でも表 現 可 能 である。
(15) pantchenrinpotche hkE ma jEk zEk.
パンチェンリンポチェ 御 体 NEG いらっしゃる AUX 「パンチェンリンポチェがお亡 くなりになった」
(16) pantchenrinpotche gongpa dzok shong nEre.
パンチェンリンポチェ 御 心 終 わる:PAST AUX AUX
「パンチェンリンポチェがお亡 くなりになった」
分 析 的 に解 釈 すれば, hkE ma jEk は「お体 がいらっしゃらなくなった」という意 味 であ る。gongpa dzok は「御 心 が終 わる」という意 味 である。ともに「亡 くなる」を婉 曲 的 に表 現 している。
ほとんどの敬 語 動 詞 は敬 語 形 を 1つしかもたないが, 「亡 くなる」に関 しては敬 語 形 を 複 数 もつようである。これはチベット文 語 についてもいえる。チベット文 語 の敬 語 辞 書 で ある索 郎 多 吉 他 編 訳 (1993) では, ほとんどの語 彙 については普 通 語 と敬 語 が 1 対 1 対 応 であがっているが, 「死 ぬ」に関 しては18の語 彙 があがっている。
dji「お喜 びになる」という動 詞 は, 単 独 でも敬 語 として用 いられるが, thEk dji「御 心 が お喜 びになる」 (御 心 お喜 びになる) も可 能 である。同 様 の例 にhkE trhong 「御 体 が
お生 まれになる」 (御 体 お生 まれになる) などがある。これらも句 的 表 現 と考 えてい る。
8 ア ム ド 方 言 の 敬 語 と そ の 他 と の 比 較
武 内 (1987: 67) も指 摘 するように, チベット語 における敬 語 の使 用 状 況 は, 時 代 により, また方 言 により大 きく異 なる。アムド方 言 の敬 語 の使 用 に関 して, チベット文 語 や他 の口 語 諸 方 言(2 節)と比 べると, 品 詞 の面 では文 語 や他 の諸 方 言 (ラサ方 言 を除 く) と同 様 である。つまり, 名 詞, 代 名 詞, 動 詞 において敬 語 表 現 みられる。アムド方 言 に関 して特 に興 味 深 い点 は, 敬 語 の使 用 が, 社 会 的 な上 下 関 係 ではなく, 仏 教 上 の宗 教 的 な上 下 関 係 に限 定 されている点 である。
敬 語 の使 用 対 象 に関 しては, Brown & Gilman (1960) の研 究 がある。Brown &
Gilman (1960) によると, 敬 語 には, 身 分 の上 下 関 係 で使 用 するもの (power, 「力 」 の 用 法) と, 水 平 的 な 親 疎 関 係 (社 会 的 ・ 心 理 的 距 離 の 遠 近) で 使 用 す る も の
(solidarity, 「連 帯 」の用 法 ) の 2 つがあるという。チベット文 語 および口 語 方 言 におけ る敬 語 の使 用 対 象 をこの点 から以 下 のようにまとめる。上 下 関 係 における敬 語 の使 用 は, 宗 教 的 な上 下 関 係 で用 いるものと社 会 的 な上 下 関 係 で用 いるものとに分 ける。年 齢 的 な上 下 関 係 については, 今 回 は資 料 が足 りないため言 及 しない。
表 31 親 疎 関 係 と上 下 関 係
(+ は敬 語 が使 用 されることを, - は使 用 されないことを表 わす) 親 疎 関 係 上 下 関 係
宗 教 的 社 会 的 チベット文 語 - + + ラサ方 言 + + + ラダック方 言 + + + カム方 言 - + + ゾンカ方 言 - + + アムド方 言 - + -
ラサ方 言 とラダック方 言 では敬 語 の使 用 の範 囲 が広 く, 見 知 らぬものや外 国 人 などと の間 の親 疎 関 係 を表 す場 合 においても敬 語 が使 用 されていることがわかる。アムド方 言 には, このような親 疎 関 係 における敬 語 の使 用 はみられず, 上 下 関 係 についても宗 教 的 な上 下 関 係 のみと, 使 用 対 象 はかなり限 定 されていることがわかる。
9 結 語
本 稿 では, 主 に, チベット語 アムド方 言 の敬 語 について論 じた。具 体 的 には, アムド 方 言 の敬 語 の使 用 対 象, 敬 語 の品 詞, 敬 語 を表 す方 法 について述 べた。そして, 最 後 に, チベット文 語 と他 のチベット語 諸 方 言 における敬 語 と比 較 した。品 詞 に関 しては, チベット文 語 やその他 の方 言 (ラサ方 言 を除 く) と同 様 に, アムド方 言 でも, 名 詞, 代 名 詞, 動 詞 において敬 語 表 現 があることがわかった。敬 語 の使 用 対 象 については, 親 疎 関 係 においても敬 語 を用 いるラサ方 言 やラダック方 言, 社 会 的 な上 下 関 係 にも使 用 するチベット文 語, カム方 言, ゾンカ方 言 と異 なり, アムド方 言 においては, 敬 語 使 用 が宗 教 的 な上 下 関 係 に限 定 されることが明 らかになった。
付 録 1: ア ム ド 方 言 の 音 韻 表 記 と そ の 置 き 換 え 子 音 ―41音 素
p-/-/, b-/, t-/, th-/, d-/, tr-/, trh-/, dr-/, k-/, kh-/, g-/ɡ-/-/-/-/-/-/-/-/-/z-/, sr---/sy-/ç/,x-/R-/-/-/-/-/-/-/
-/-/-/-/-/-/-/-/
(l が末 子 音 になると, 後 部 要 素 が無 声 音 の場 合 それに逆 行 同 化 する。後 部 要 素 が有 声 音 の場 合 には現 れない。複 合 語 の第 1要 素 の末 尾 では脱 落 することもある) 母 音 ― 6 音 素
i-/ e-/ a-/ o-/ E-/ u-/
付 録 2: ア ム ド 方 言 の 格 接 辞
能 格 (属 格 と同 形) -ki, kE (普 通 名 詞 のみ。人 称 代 名 詞 は格 で屈 折 する); 絶 対 格- φ; 与 格-la (形 態 音 韻 的 変 化 をする, 方 向 格 と同 形); 場 所 格-na; 奪 格-ni.
付 録 3: 略 号 一 覧
‘-’ は接 辞 境 界 (前 後 いずれかが接 辞 である) を, ‘=’ は自 立 形 態 素 境 界 を表 す。
ABS - absolutive; AUX - auxiliary verb; CON - conjunction; DAT - dative; DEM - demonstrative; ERG - ergative; GEN - genitive; IMP - imperative; NONPAST - nonpast; PAST - past: PL - plural; SG - singular; 1 - first person; 2 - second person; 3 - third person.
参 考 文 献
Beyer, Stephan (1992) The Classical Tibetan Language. Albany, N.Y.:
State University of New York Press.
Brown, Roger and Albert Gilman (1960) The pronouns of power and solidarity.
In: Sebeok, Thomas A. (ed.) Style in language. N.Y.: Wiley and Sons, 253-276.
Denwood, Philip (1999) Tibetan. Amsterdam, Philadelphia: John Benjamins.
Hasler, Katrin L. (1999) A Grammar of the Tibetan Dege (Sde dge) Dialect. Zurich.
Unpublished PhD dissertation.
華 侃 ・龍 博 甲 (1993) 『安 多 藏 語 口 語 詞 典 』 蘭 州: 甘 粛 民 族 出 版 社.
北 村 甫 (1974) 「チベット語 の敬 語 」 林 四 郎 ・南 不 二 男 (編) 『世 界 の敬 語 』, 敬 語 講 座 第 8巻. 明 治 書 院: 69-93.
Koshal, Sanyukta (1979) Ladakhi Grammar. Delhi etc.: Motilal Banarsidass.
Koshal, Sanyukta (1987) Honorific systems of the Ladakhi language , Multilingua:
Journal of Interlanguage Communication 6.2: 149–168.
Kraft, George C. & Heng Hu (胡 恒). (2000) Tibetan-English Colloquial Primer Kham Dialect (2nd ed.). China: OMF International.
ネウストプニー, J.V. (1974) 「世 界 の敬 語 」 林 四 郎 ・南 不 二 男 (編) 『世 界 の敬 語 』, 敬 語 講 座 第 8巻. 明 治 書 院: 8-40.
索 郎 多 吉 編 訳 (1993) 『蔵 語 敬 語 詞 典 』 北 京: 民 族 出 版 社.
武 内 紹 人 (1987) 「チベット語 の敬 語 」 『月 刊 言 語 』 1987年 7月 号: 66-67.
武 内 紹 人 (1994) 「『鉛 』と『お顔 』 ―チベット語 敬 語 語 彙 形 成 過 程 をめぐって― 」
『内 陸 アジア言 語 の研 究 』 9: 95-104.
Thubten Jigme Norbu & Tsughito Takeuchi (1991) Mongolian Loan -words in Tibetan and their Socio-cultural Implications. In: Steinkeller, E. (ed.) Tibetan History and Languages: Studies dedicated to Uray G éza on his seventieth birthday. Wein:
Universitat Wien. 383-386.
van Driem, George (1998) Dzongka (Languages of the Greater Himalayan Region, 1.) . Leiden: CNWS.
Wang, Qingshan (1996) A Grammar of spoken Amdo Tibetan. 成 都: 青 海 民 族 出 版 社.
The Honorifics in Amdo Dialect of Tibetan
Shiho Ebihara
The main topic of this paper is the honorific expressions in Amdo dialect of Tibetan.
Unlike in the case of Lhasa and Ladakhi dialects, honorifics in Amdo dialect has not been well-researched so far. In terms of the part of speech, Amdo dialect has honorific nouns, personal pronouns (second person and third person) and verbs.
There are three ways to express honorifics; l exical, morphological and phrasal way.
Compared to written Tibetan and other Tibetan dialects, it is interesting that in Amdo dialect honorific expressions are usually used only in the religious domain.
(海 老 原 志 穂, 東 京 大 学 大 学 院 博 士 課 程, 日 本 学 術 振 興 会 特 別 研 究 員)