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削って、掘って、

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Academic year: 2021

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14 Field+ 2011 07 no.6

考古少年、地理学から環境考古学の道へ  私は小さな時から遺跡大好きな「考古少 年」でした(写真1)。当時はいっぱしの考 古学者気取りで、自転車で遺跡探検に出か けていました。当然、大学では考古学を勉 強する予定が、自然科学も人文・社会科学 も勉強できるといううたい文句に誘われて、

地理学を学びはじめました。

 このように、私は地理学を専攻し、「自然 環境の変化と人間活動の対応関係の解明」

を研究テーマにしています。またこの研究 テーマは、歴史学や考古学などの異分野の 研究とつながりが深く、環境考古学や環境 史とも呼ばれています。

 ここでは、私自身の経験から、研究や フィールドワークの魅力についてご紹介しま す。

土地の履歴

 大学院の博士課程の時、指導教官から「ヒ マラヤに行ってみないか?」と誘われまし た。もともとヒマラヤという高所への憧れを もっていましたので、二つ返事でヒマラヤに 出むき、今に至っています(図1)。

 ヒマラヤでは、研究のトピックとして、高 所にいつ、どのようにしてヒトが住み始めた のか? という議論があり、それをテーマ にしました。ほんとうは、ヒマラヤでの山登 り・トレッキングがたいへん魅力的だったの ですが、あえて、ここでは書きません。

 過去を対象として研究する場合、日本の ように文字記録や、考古学の情報が豊富な 地域はまずありません。したがって、言語学 的な情報や、伝説などが研究素材として用 いられますが、この情報も限定的です。もち ろん、ヒマラヤも状況は同じです。そのよう な中、「埋まいぼつしょくそう」という堆積物の層に 注目しました(写真2)。

 ある土地において、山野を焼くなどの火 入れを伴う土地開発が行われていた場合、

当時の地表面の土壌化が促進され、その後 の堆積作用によって、当時の地表面が埋没 して残されます(図2)。また、この埋没腐 植土層中には、火入れの痕跡として、炭化 した木片(炭)(写真3)を含む場合もあり ます。

 つまり、ヒトの土地への働きかけ(土地開 発)によって形成された埋没腐植土層の各 種分析から、当時の自然への働きかけの一 端を明らかにできます。例えば、埋没腐植 土層に含まれている炭化した木片の年代測 定から、いつこの地に火入れを伴う土地開 発が行われたか、ということが分かります。

さらに、埋没腐植土層中に含まれている花

削って、掘って、

そして、つなぐ

宮本真二

 みやもと しんじ / 滋賀県立琵琶湖博物館、AA 研共同研究員

削ることによって、何が分かるのでしょうか?

また、削ったり、掘ることにこだわって、

フィールドワークをするのはなぜでしょうか?

過去をつなぎ、異分野をつなぐ仕事とは?

写真1 滋賀県、守山市の弥生時代の遺跡での調査風景

(左端が著者)。考古学の遺跡の場合、世間的な注目は、「最 古の……」のような遺物(モノ)だが、私は、トレンチ(壁)

の堆積物に夢中になって、なぜ、この場所に、ヒトが住み 始めたのか? ということに興味をもって調査している。

写真2 インド北東部、アルナーチャル・プラデシュ 州のタワン近郊の埋没腐植土層(黒色部)(人物は、

京都大学・院 石本恭子さん)。

ネパール インド

中国

ブータン バングラデシュ

過去 堆積

変化型

変化型植生

植生・堆積 変化型

現在

図2 埋没腐植土層の形成モデル。堆積変化型は、地すべりや 火山灰の降下など急速な堆積作用によって過去の地表面が保存 された場合、植生変化型は、火入れを伴う土地開発が過去の地 表面の土壌化を促進させた場合。植生・堆積変化型は、両者が 組み合わさったもの。

図1 主なフィールド であるヒマラヤ東部地 域とブラマプトラ川流 域。

掘る 1

(2)

15 Field+ 2011 07 no.6 粉の化石を分析することによって、どのよう

に植生が改変されたのかということも推定 できます。

 このように、美しくはない黒い埋没腐植土 層や、それに含まれている炭がヒトの移動と 土地開発を特定する有効な指標となり、「土 地の履歴」を明らかにすることにつながりま す。つまり、この埋没腐植土層は、火入れな どのヒトの土地に対する働きかけの結果、形 成されたと言えるのです。

 

「削ること」、「掘ること」

 つづいて埋没腐植土層や炭を探し出し、

「語らせる」ために、「掘ること」と、「削る こと」をご説明します。

 平たく言えば、「削る」ということは、道 路工事などでできた露頭に近寄って、堆積 物を詳しく観察するために、クリーニング

(掃除)することです。まず、歩き回って危 険がない適切な場所を探します。そして、

ヘビや危険なムシがいないことを確認し、

草や根、さらに、「不快」なもの(排泄物など)

をスコップで排除します。つづいて、ねじり 鎌(園芸用の草切り道具)で、地層の上か ら順番に堆積物の性質の違い(砂とか泥と かの区分)を観察しながら、「美しく」クリー ニングします。その後写真をとって、もう一 度、クリーニング後の「美しくなった」露頭 をガリガリ「削り」つつ、地層の境界などに クギで線をひきながら、どのように堆積した のかを考えます。さらに写真撮影後、線で 区分した地層ごとに、堆積物の特徴をフィー ルドノートに書きとめ、最後に必要な試料を 採取します。また、露頭がなく削れない水 田などでは、トレンチという、人が一人だけ 入れるような穴を「掘って」、同じ作業を行 います。

 この作業だけで数時間はかかり、集中力

(根気)と体力(腰痛との闘い)の勝負です。

勝負する必要はないのですが……。

間接的に歴史を描いて過去を「つなぐ」

 図3では、土地開発史を明らかにするため の方法をフローチャート的に示しています。

各種の分析項目がでていますので、先の「削 り」、「掘る」作業と、各段階で明らかにした いこととの関係がお分かりいただけると思 います。ここで重要なのは、ヒトが残したモ ノ(考古学の遺物や遺構や、文字史料)で はなく、埋没腐植土層や炭化木片などの「間 接的な素材」を用いて、民族の移動と土地 開発史という、歴史の一端を描くということ です。歴史学や考古学の研究では、ヒトが 残したモノによって、研究が時代的にも、地 域的にも限定的されるのに対し、私たちの 方法では、堆積物という、どこにでもある 素材から、歴史の一端を描けることに利点 があります。

 いわば、文字や遺物や遺構が残されてい ない地域でも、堆積物によって歴史の一端 を描けるという利点です。

 「パーツとして分散している過去の情報 を、たまたま残った堆積物に語らせること で、パズルを組み立てながら歴史を描くこ と(復原)」が可能になり、迷路のような歴 史のパーツを「つなぐ」こともできます。

過去を復原して異分野を「つなぐ」

 最後に、異分野を「つなぐ」ことを考え ます。

 これまでくり返し自然科学や人文・社会 科学の「乖離」が問題視されてきました。

 例えば、歴史学や考古学といった過去を 対象とした人文科学に限定しても、その領 域内で完結するような「閉じた研究」が多 いと思います。「狭く・深く」といった学問 の個別細分化への弊害で、「分断の溝」は未 だ深いのが実情でしょう。

 堆積物からみた人間活動に関心がある私 としては、「ヒトにとっての自然」=「生活 舞台としての自然」という視点を大切にし ています。フィールドワークを伴う地域研究 は、自然科学の研究者も人文・社会科学の 研究者も行っています。しかし、「お題目で はない」総合的な地域研究を行うためには、

自然科学の研究者は、人間の生活舞台とし ての自然という視点をもつことで、メカニ ズム研究の素材としての自然のみではなく、

人間にとっての自然研究を展開すべきでしょ う。いっぽうの人文・社会科学の研究者は、

自然科学の分析や技術といった高度化され た方法をまずは理解しつつ、自己領域内で 完結するような内向的な(閉じた)研究テー マ設定だけでなく、問題関心が他分野へと 開かれるような問題設定の提案が強く求め られるでしょう。これが結果として、異分野 が「つながった」共同研究を生み、実体を 伴った総合的な地域研究へと展開できます。

 もちろんこのような研究スタイルが難し いことは承知の上ですが、今後の「地域研 究」を考える場合、多様な分野を「つなぐ」

ことができる研究方法は、とても大事です。

 異なる分野の方とフィールドを歩くと、予 期せぬ発見の連続です。何気なく感じてい たものが、とても重要なことであったり、返 答に窮するような異分野の視点の違いは、

予期せぬアイデアさえ浮かんできます。

 「ああ……! こういうことか!」と、

フィールドでひらめく瞬間は、フィールド ワーカーなら、容易に共有できることで しょう。

 私自身、多様な分野からの批判に学べる ような「やわらか頭」で、今後もフィールド を歩きたいと思っています。

 ただ、「宮本は、落ち着きがなく、世界各 地をフラフラしている。」と、某先生の悪口 が……。

写真3 インド北東部、アルナーチャル・プラデシュ州での炭化した木片の調査。この黒っ ぽくなっている部分は、火入れによって焼けた木の根の部分だと考えられる。標高2860m。

現在はヤクの放牧地になっており、草原化している。

考古・文献史・資料にとぼしい地域

土地開発史の復原 植生変遷の解析

樹種同定

花粉分析

埋没株 炭化木片考古遺物 堆積物試料 埋没腐植土層

(埋没土壌)

洪水堆積物 斜面堆積物 山地貧泥炭 史料・資料

14C年代測定 遺物編年

地形図判読 衛星画像解析 空中写真判読 現地形分類 堆積層・相解析 発達史的地形分類

(マイクロ地形 発達史の解析)

時期の特定 対象とする素材 土地の履歴解析

図3 間接的な歴史の描き方。

参照

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