2014年1月 理科カリキュラムを考える会全国大会 発表要旨
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理科教員が養うべき「科学リテラシー」とは
大川小学校被災に学ぶ
林 衛 HAYASHI Mamoru 富山大学人間発達科学部
【キ‐ワード】 阪神・淡路大震災,東日本大震災,震源過程,津波,防災,地学リテラシー
1 阪神・淡路大震災は「やはり」おこった 世界で最も活断層の研究が進み,神戸市自身 が 1970 年代に報告書を出版,「直下地震の恐れ あり」と神戸新聞夕刊一面に報道されてきた地 域で,阪神・淡路大震災(1995)が生じた。東 京書籍の中学校理科の教科書にも,六甲・生駒 の地質断面図がその 14 年前の 1981 年から掲載 されていた。同教科書本文の記述から,100 万 年で垂直方向に 800m の変動が地震の繰り返し とともに六甲山と神戸・阪神間の平野という大 地形をつくりだしている事実がわかる。
100 万年で 800m すなわち,1 万年で 8m 1250 年で 1m
600 年で 50cm
と大地震 1 回あたりの断層のずれでみてみ ると,歴史時代に「大きな地震がない」という 経験は,「地震がない」あいだに歪みが蓄積し,
いつ大地震が生じても不思議ではない準備状 況にあるのを意味しているとわかる。
こういった定性的・半定量的な科学的理解か らみて,神戸市が 1980 年代に震度 5 強(家が 壊れない)の地域防災計画を立てた不作為,し かも,予算が限られていたために震度 6 以上の 防災対応の優先順位を下げたにしても市民に 広く震度 6 以上の直下地震の恐れありと伝え 続けなかった道義的責任を指摘する「科学(地 学)リテラシー」を私たちは備えうるといえる。
自然災害には,自然的側面と人間・社会的側 面(人災的側面)の両面がある。自然的側面だ けとりあげていても,それは災害軽減をもたら さない,すなわち,科学リテラシーは発揮され ないという教訓を,阪神・淡路大震災は教えて くれた。平時の市民生活・社会に内在されてき た矛盾があらわになり,不平等に人々を苦しめ るのが大震災の本質なのだ。だとすれば,科学 リテラシーとは,それを未然に発揮することに よって,たとえ地震そのものを予知したり,制 御したりできなくとも,人間・社会的側面によ る震災深刻化の防止・軽減を可能にするために 存在しているといってよいだろう。
2 東日本大震災・原発震災もまた「やはり」
北海道では千島海溝沿いの超巨大地震津波 堆積物がみつかっていた。インド洋の海溝沿い に生じたスマトラ沖巨大地震津波をアジアの 隣国の一員として見聞した経験もあった。古文 書の研究に加え,貞観津波の堆積物の発見をき っかけに,日本海溝沿いでも 1000 年に 1 回程 度発生してきた巨大津波の存在が明らかにな っていた。2011 年 4 月に中央防災会議が日本 海溝沿いの超巨大地震津波を公式に認め,施策 に直結せんとする 1 か月前に,マグニチュード 9 の東北地方太平洋沖超巨大地震が発生した。
日本海溝で超巨大地震津波が 1000 年生じて
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いないのならば,いつ超巨大津波が生じても不 思議ではないという準備状況にあったのだか ら,東日本大震災もまた,阪神・淡路大震災同 様に「まさか」ではなく,「やはり」生じてしまっ た大震災だといえる*。
阪神・淡路大震災,東日本大震災・原発震災 は,知識が生産されても,それだけでは深刻な 震災を未然に防げない現実を私たちに突きつ けている。市民社会における「科学リテラシー」
は,第一に自らが有権者として構成する政府の あやまりを正し,批判的・建設的に人権や生活 を守っていくレベルに達することで,はじめて 内実をともなうものなのだ。
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*原発震災についても,石橋克彦による「原発震災
̶破滅を避けるために」をはじめとするいくたの 警 鐘 も あ っ た ; 『 科 学 』 1997 年 10 月 号 http://www.iwanami.co.jp/kagaku/K̲Ishibashi
̲Kagaku199710.pdf。
3 中学理科「地震」学習を改善しよう!
震源過程がわかればマグニチュードも地震も 揺れが続くのも,活断層も全部わかる 中学理科の地震学習の柱は以下のとおりと なっている。
(1)P 波,S 波,初期微動継続時間,震源,震 央決定(大森房吉による明治の「世界的」大発見 ゆえもあり,伝統的教材となった)
(2)震度(その場の揺れの大きさ),マグニ チュード(地震の規模,エネルギー)
(3)プレート沈み込みにともなう地震発生の しくみ( α地震波深発面→和達・ベニオフゾ ーンという敗戦後の大発見?)
(4)大地のつくり(上述のとおり,活断層の 知識を「科学リテラシー」として生かせれば阪 神・淡路大震災は軽減できた)
高校受験や文部科学省学習指導要領,教科書 検定,現場での蓄積によって,これらが定着し ているが,ここにも歴史的背景,惰性をみてお くべきだろう。1970 年代以降明らかになった,
地震の本体である断層に沿った破壊現象が示 されないままであるため,震源は点でしかな く,エネルギーの実態が理解困難のままだ。
断層面に沿って秒速 3km というもうれつな 速度で破壊が進行していき,その間に強い地震 波が発生する。阪神・淡路大震災で,震源過程 の解析が複数の研究機関で同時並行に実施さ れ,人々の目に触れるようになった(右図)。
マグニチュード 7 級:断層長さにして 30km く らい(兵庫県南部地震:震源近傍の強い揺れは 10 秒程度→次ページ図参照)
マグニチュード 8 級:同 100km くらい(大正関 東地震:同じく 40 秒から 1 分程度→次ページ図 参照)
マグニチュード 9 級:同 450km くらい(東北地 方太平洋沖地震:同じく 2,3 分)
ただし,遠方では遅れてきた波が重なりあ い,揺れがさらに長時間になる場合もある。
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このような内容を図示しつつ,定性 的・半定量的に学べば,力学的エネルギ ーやエネルギー保存則の理解とも結びつ きマグニチュードの意味が腑に落ちるだ ろう。震源過程の学習が入り出した高校 地学基礎の履修が限られている現状で は,地震の本質の理解は広がっていきが たい(理科カリに集う理科教員でも,林 の話を聞いて,半信半疑だというのが現 実だろう)。
地図上に投影した断層面(あるいはそ の立体図,アスペリティなど不均質な破 壊も),地震波形,破壊進行のアニメー ションやスナップショットなど,教材の 素材は豊富にあるので,それをいかせば 50 分の授業でも実感できる。地震研究者 と教育実践者との協働作業・研究の好機 ともなる最優先テーマだ。
震度 6 以上の震源近傍の強い揺れが 2,
3 分続けばマグニチュード 9 級だから,巨 大津波がやってくる,と論理的かつ直観的に避 難行動につなげられる(ただし,震度が低いが 津波が大きい,津波地震もあるので楽観は禁 物)。明治の学制発布以来,学校管理下で最悪 の事態となった石巻市立大川小学校津波被災 現場でも,児童や教員,迎えにきた保護者たち のなかにまさに直観していた人たちが多数い た事実は判明しているが,残念なことに,それ が全体の避難行動をもたらさなかったのだ。
原発周辺であるいは地域防災計画において 活断層の長さが問題となることや,ときに活断 層カッターとよばれる御用学者批判がうまれ る理由も,これで理解できるので,総合的学習 の時間にメディアリテラシーにつなげて学ぶ ことも可能だ。
「科学者の科学離れ」ゆえだろうか,中高理科 教員,最近の地震学に触れる機会のない理系人 のなかでも,秒速 3km の高速破壊という地震学 の最重要級の発見について,知らない人が圧倒 的多数だと思われる。
反対に,震源過程の理解なくしてマグニチュ ードを理解するのは不可能だともいえる。『巨 大地震の科学と防災』朝日選書(2013)のなか で,モーメントマグニチュードの提唱者である 地震学者の金森博雄氏が,若いころ最大震幅の 対数をとる気象庁マグニチュードの原理を知 るにつけ疑問をもったと述懐されている。