Kyushu University Institutional Repository
数値解析による全熱交換エレメントの性能予測手法 の開発と設計手法の確立
外川, 一
https://doi.org/10.15017/4060209
出版情報:九州大学, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
博士学位論文
数値解析による全熱交換エレメントの性能予測手法の開発と 設計手法の確立
2020 年 3 月
九州大学大学院 総合理工学府 環境エネルギー工学専攻
外川 一
目次
第 1 章 序論
1.1 研究の背景と目的 1
1.2 既往研究 3
参考文献 4
第 2 章 全熱交換形換気システムの基礎
2.1 序 7
2.2 全熱交換形換気システムの概要 7
2.2.1 全熱交換器について 7
2.2.2 換気システムの方式 7
ⅰ) 集中換気方式 8
ⅱ) 個別分散換気方式 8
2.2.3 全熱交換器の熱交換エレメントの方式 9
ⅰ) 回転型エレメント 9
ⅱ) 静止型エレメント 11
2.2.4 熱交換エレメントの種類 11
ⅰ) 顕熱交換タイプ 11
ⅱ) 全熱交換タイプ 11
2.2.5 静止型全熱交換エレメントの構成と原理 12
2.3 全熱交換エレメントに関する基礎方程式 14
2.3.1 熱通過モデル 14
2.3.2 拡大伝熱面,フィンモデル 15
2.3.3 全熱交換器(全熱交換エレメント)の基本流 17
2.3.4 並行流および対向流形熱交換エレメント 18
ⅰ) 温度分布と対数平均温度差 18
2.3.5 直交流形熱交換エレメント 22
ⅰ) 対数平均温度差と修正係数 23
ⅱ) ラプラス変換による温度分布解析 23
ⅲ) Ntu法による直交流形熱交換エレメントの交換効率予測 27
2.3.6 物質移動(湿度交換)の式 28
ⅰ) 熱と物質移動のアナロジーによる物質伝達 29
ⅱ) 直交流エレメントの湿度交換効率予測 29
2.4 結語 30
参考文献 31
第 3 章 全熱交換エレメントの性能評価と簡易型数値計算モデルによる性能予測
3.1 序 33
3.2 基礎実験用の小型全熱交換エレメントモデル 33
3.3 熱交換効率評価のための基礎実験用の概要 34
3.4 質点系簡易型モデルによる全熱交換性能予測 35
3.4.1 熱水分移動を考慮した質点系モデル 35
3.4.2 数値解析の概要 37
3.5 基礎実験結果と簡易モデルによる性能予測結果の比較 38
3.6 考察 42
3.7 結語 43
参考文献 45
第 4 章 簡易数値計算モデルによる全熱交換エレメントを対象とした感度解析
4.1 序 47
4.2 数値解析手法と境界条件 48
4.3 感度解析結果 50
4.3.1 JIS冷房条件下における感度解析結果 53
4.3.2 JIS暖房条件下における感度解析結果 58
4.3.3 ASHRAE冷房条件下における感度解析結果 60
4.4 考察 62
4.5 結語 65
参考文献 65
第 5 章 CFDを用いた全熱交換現象の詳細モデル化と性能向上検討
-CFD と熱水分移動モデルの連成解析を適用した全熱交換エレメントの解析と流路設計への展開-
5.1 序 67
5.2 熱水分移動とCFDの連成解析手法 67
5.2.1 熱水分同時移動方程式 67
5.2.2 CFDとの連成解析手法 71
5.3 数値解析用の全熱交換エレメントモデル 72
5.4 数値解析の概要 76
5.5 数値解析結果 78
5.6 考察 82
5.7 結語 82
参考文献 84
第 6 章 湿度交換に伴う水溶性ガスの移行現象
-全熱交換エレメントを対象とした臭気物質の交換効率測定と臭気物質移動モデルの提案-
6.1 序 85
6.2 臭気物質移動モデル 85
6.3 モデル定数同定のための基礎実験 87
6.3.1 基礎実験のレイアウト 87
6.3.2 基礎実験の結果 91
6.4 全熱交換エレメントを対象とした臭気物質移行率測定 91
6.5 数値解析の概要 92
6.6 数値計算結果と実験結果の比較 93
6.7 考察 95
6.8 結語 97
参考文献 97
第 7 章 総括
第 1 章 序論
1.1 研究の背景と目的
地球環境問題を端緒とした我が国政府の誘導政策などを背景として,ZEH (Zero Energy House)やZEB (Zero Energy Building)と云った省エネルギー性能と創エネルギー性能を高いレベルで両立させた建築に対する需要 が飛躍的に増大している。これらZEHやZEBの達成のためには,極限まで省エネルギー性能とパッシブ制 御性能を追求した上で,PV (太陽光発電システム)などによる創エネルギー機器を効率的に用いることでエネ ルギー収支をバランスさせる設計方針が王道のように思われる。省エネルギー性能の向上のためには所謂,
断熱・気密性能と云った建物外皮性能の向上が本質的に重要となるが,居住者の健康維持増進の視点で一定 量の計画的な外気導入は必須である。外気中の二酸化炭素濃度(CO2)の上昇を鑑みれば,室内の濃度閾値を担 保するためには以前にも増して外気導入量の増加が必要となるため,換気負荷は今後も増加傾向にあると云 えよう。
この外気導入に伴う空調負荷 (所謂,換気負荷)は室内熱負荷のなかでも主要な負荷の一つであり,空気質 とエネルギーの両側面での最適化に関する研究は非常に長い歴史を有するが,外気導入に伴う熱負荷削減の 一方策としては全熱交換形換気システムの導入がある1-1) ~ 1-8)。全熱交換形換気システムとは,給気と排気で 顕熱・潜熱(エンタルピ)交換を行う手法であり,大別すれば熱交換エレメントを一定速度で回転させる回転 型全熱交換器と,給排気を直交もしくは向流させた独立流路を積層させた静止型全熱交換器の2種類の方法 が主流である。我が国では住宅用の全熱交換器として静止型の採用が多い。
全熱交換形換気システムの性能向上にはまず第一に熱交換エレメント部分の顕熱・潜熱(エンタルピ)交換 効率の向上に取り組む必要があり,その上で,ダクト系を含めた現場施工精度の向上や最適運転制御,その 適用範囲の拡大などの課題に取り組む必要がある。
これまで,オフィス空間に設置された全熱交換形換気システムを対象とした実測を行うことで,JIS 等の 標準環境条件とは異なる実環境条件下での温度交換効率・エンタルピ交換効率の実態を明らかにすると共に,
居住者由来の二酸化炭素(CO2)濃度をセンシングした上で,全熱交換器を経由する外気導入量を調整する,い わゆる換気量のデマンド制御を組み込んだ全熱交換形換気システムの開発が行われてきた1-1) ~ 1-8)。
建築物の更なる省エネルギー性能向上のためには,全熱交換形換気システムの性能向上と,適用範囲の拡 大を目指すことが重要であり,本研究では,全熱交換形換気システムの静止型熱交換エレメントの定量的な 性能評価と系統的な検討を可能とする数値解析モデルの構築を目的とする。特にエレメント幾何形状を形成 する基材内部の熱水分移動現象,エレメント流路内空気流動に伴う熱物質輸送現象を精緻にモデル化した高 精度予測が可能な非定常解析モデルの他,エレメント設計用に特化した高速計算,簡易予測が可能な定常解 析モデルの確立を目指す。
第2章では,全熱交換形換気システム,全熱交換現象を担う全熱交換エレメントの構成を示した上で,全 熱交換形換気システムの効果と全熱交換現象に関する支配方程式を整理する。
第 3 章では,一般的な住宅用の静止型全熱交換エレメントと比較して小型のエレメントモデルを作成し,
JIS B 8628「全熱交換器」にて規定された条件の下で基礎実験を実施し,温度交換効率・エンタルピ交換効率 の計測を行った結果を整理する。加えて,エレメント内での熱水分輸送を独立事象として質点系でモデル化 した簡易予測モデルを提案し,実験結果と比較することで予想精度の検証を行った結果を整理する。簡易予 測モデルは定常解析を前提とし,実空間の温湿度環境などの非定常性を犠牲にすることで,簡易・高速計算 が可能な計算モデルの開発に主眼がある。本研究での成果は全熱交換エレメントの幾何形状や材料選択の検 討を行うための設計用基礎資料ならびに基礎技術として期待されるものである。
第4章では,第3章で構築した簡易予測モデルを用いて,全熱交換エレメントの性能に対する感度解析を 実施する。全熱交換エレメントを構成する材料,その風路構造に関する形状パラメータにおいて,交換効率,
圧力損失を最適化するためにパラメータスタディを行い,全熱交換エレメントの総合的な性能改善のための 律速因子を明らかにし,その設計指針を明確化することを目的とする。
第5章では,CFD解析と熱水分同時移動解析を統合した高精度予測モデルの提案と,最適流路設計への展 開について整理する。これは簡易予測モデルでは推定が困難である,対流による熱・物質伝達率を定量的に 把握し,その改善幅を高精度に予測することを目的としており,全熱交換エレメントの熱交換性能改善にお ける有力な手法の一つとして期待されるものである。また,高精度予測モデルにより,実使用条件下におけ る熱・湿度負荷や環境条件の変動に対応した非定常解析が可能となり,全熱交換形換気システムの能力変動 に関する設計用技術としての展望もある。それにより室内環境の計画をより精緻に行うための応用技術とし ても期待されるものである。
第6章では,全熱交換エレメントの臭気移行に対する問題を扱う。通常の全熱交換器では,湿度を回収す るその性質から,水溶性の汚染ガスは湿分に溶けて室内への給気(SA)に移行することが指摘されている。本 論文で確立した湿度移動現象のモデルを適用し,水溶性の汚染ガスと湿分とのカップリングを想定すること で,臭気移行のクレームが発生する条件の想定と,その対策を行うことが目的となる。
第7章は,総括である。
1.2 既往研究
近年,Zero Energy Buildings(ZEB)とZero Energy Housing(ZEH)は,建築環境の研究分野では「流行語」とな っている。また,持続可能な開発の観点から,環境性能を最適化するための建築設計はその重要性が急速に 高まっている。暖房,換気,および空調(HVAC)システムのエネルギー消費は,建物で使用される総エネルギ ーの大部分を占めることが指摘されており1-9), 1-10),したがって,換気時の給排気流体間の顕熱および潜熱を 回収できる全熱交換器の適用は,換気負荷を軽減するための有力な手段として認識されている1-11) ~ 1-18)。
全熱交換器は過去数十年にわたって広く研究されてきたが,いまだ新しい研究アプローチと発見が報告さ れている。例えば,Qiuら(2019)は多変量多項式回帰モデルに基づいて全熱交換効率を予測するための新しい アプローチを提案した1-19)。Qiuらは,透湿樹脂膜製の伝熱板で構成された全熱交換エレメントの全熱交換効 率を予測するモデルを提示した。Al-Waked ら(2018)は数値計算流体力学(CFD)を適用することにより,乱流 下での透湿樹脂膜製伝熱板で構成された全熱交換形器の性能について報告した 1-20)。全熱交換器ユニット内 の様々な流れ場を解析し,略六角形の直交流-対向流ハイブリッド型の熱交換エレメントの方が,L型フロ ーの対向流エレメントより性能面で優位であることを結論付けた。Aaら(2018)はエクセルギー解析と非平衡 熱力学を活用して全熱交換器のエネルギー効率を分析し,また,エクセルギー効率の観点から全熱交換メカ ニズムについても議論した 1-21)。Choi ら(2018)は長期のフィールド測定に基づき,実際の屋外および屋内条 件下での住宅建物における全熱交換形換気システムの有効性を推定した1-22)。Kimら(2011)は高層住宅のフィ ールド測定に基づいて,室内空気質(Indoor Air Quality : IAQ)と省エネルギー効果に対する全熱交換器の影響 を調査した1-23)。Wuら(2016)はBuilding Energy Simulation(BES)ソフトウェアTRNSYS.16を使用して,オフ ィスビルの冷暖房シーズン中の全熱交換性能を定量的に評価した1-24)。
全熱交換エレメントの詳細な熱および物質移動に関する流体側の伝達率については,Zhang らによりエレ メント内部の熱および物質移動が詳細にモデル化され,無次元のフィンパラメータを使用して材料と流体間 の相互作用が表現された。そこでは,エレメントの流路形状を再現し,圧力損失に関する詳細な数値計算が 実行された1-25) ~ 1-28)。その計算結果は非常に高い精度で実験を再現している。Huangらは透湿膜製伝熱板で 構成された並行平板流路を仮定した全熱交換エレメントに関する数値解析を実行し,Nusselt 数および
Sherwood 数を調査した 1-29),1-30)。数値解析結果と実験結果を比較することにより,風路を構成する隔壁が存
在しなければ,透湿樹脂膜表面の温度分布および湿度の濃度分布はマクロなエレメントの交換効率の性能を 決定する上で無視することが可能であり,温度・湿度を平均処理した場合にも十分な精度があることを示し た。田中らは全熱交換エレメントの構造モデルに対して,簡易数値解析モデルとして,Ntu法(2 章で解説す る)を用いて,全熱交換エレメント内の温度・湿度分布は粗視化して,平均化処理した条件下での数値解析を 実施し,実測と数値計算が単一空気条件下では良い精度で一致することを示した1-31)。
全熱交換エレメントに使用される材料開発のアプローチに関しては,Zhang らが透湿樹脂膜の水分輸送メ カニズムを明らかにするための数値的手法を提案した1-32)。Yangらは湿度交換に関する基本的な原理,透湿 膜の材料と構造,操作条件,理論モデルなど,様々な工学分野における水分輸送膜の最近の発見をまとめた レビュー論文を発表した1-33)。
以上のように,既往研究としてはごく最近まで,全熱交換器,換気システム,全熱交換エレメントに関す
る新たな研究アプローチがある。しかしながら,個別には詳細な計算モデルの開発や,新たな解析アプロー チ,新材料や新規構造の提案があるものの,最適な全熱交換器,全熱交換エレメントを探索するための構造・
材料開発に適した設計手法として,統合的に整理された研究はいまだなされていない。例えば,Zhangら1-25)
~ 1-28)や田中ら 1-31)の手法の場合,簡易計算としては十分なモデルであるものの,湿度依存性が強い透湿素材
を用いた熱交換エレメントの解析ではその精度が確認されていないこと,更には,局所的に流体側の対流伝 達率を変化させるような構造を選択して,熱交換効率を向上させる場合には計算モデルとして対応ができて いない,という課題があった。また,CFD 等を用いた詳細解析による研究では,その計算負荷の高さから,
多数のパラメータを振った最適解の探索には不向きであり,優れた構造・材料提案に対しても,全熱交換エ レメントのアッセンブリに対する最適値であるか否かの判断材料までには至っていない。
本研究では,上記の課題を鑑みて,高速計算が可能な簡易型計算モデルの開発と,新たな構造・材料提案 に対する詳細なパラメータを算出できる詳細型計算モデルとを開発し,全熱交換器の特性改善に活用するこ とに主眼がある。詳細型モデルでは,CFDと熱水分同時移動式を連成させた詳細な水分移動に関する非定常 解を得ること,また,簡易型解析の応用では,水分移動モデルを活用した,トイレや喫煙室などからの汚染 物質(水溶性)濃度の低減と換気負荷低減の相反する課題の対策案の 1 つとして,全熱交換器の適用範囲の明 確化を行うことで,建築物に対する精緻な環境計画を実現することも目的とする。
[参 考 文 献]
1-1) 大西茂樹,田島昌樹,伊藤一秀 (2010) 中規模オフィスビルを対象とした全熱交換器の空調消費電力
削減効果に関する実測研究 (第1報) 冬期暖房時を対象とした実測と削減効果,空気調和・衛生工 学会論文集,No.162,17-24
1-2) 大西茂樹,田島昌樹,伊藤一秀 (2011) 中規模オフィスビルを対象とした全熱交換器の空調消費電
力削減効果に関する実測研究 (第2報) 夏期冷房時を対象とした実測と削減効果,空気調和・衛 生工学会論文集,No.172,9-16
1-3) 范 芸青,大西茂樹,伊藤一秀 (2012) 中規模オフィスビルを対象とした全熱交換器の空調消費電力
削減効果に関する実測研究 (第3報) 全熱交換器モデルを介したCFDとBESの連成解析,空気調 和・衛生工学会論文集,No.180,13-22
1-4) 亀石圭司,戸田悠太,小林光,伊藤一秀 (2015) CO2デマンド制御を組み込んだ全熱交換器の性能検
証 (第1報) 大学研究室を対象とした夏期冷房時の換気負荷削減効果,空気調和・衛生工学会論 文集,No.216,1-10
1-5) 亀石圭司,戸田悠太,小林光,伊藤一秀 (2015) CO2デマンド制御を組み込んだ全熱交換器の性能検
証 (第2報) 大学研究室を対象とした冬期暖房時の換気負荷削減効果,空気調和・衛生工学会論 文集,No.220,1-10
1-6) Yunqing Fan and Kazuhide Ito. Energy Consumption Analysis Intended for Real Office Space with Energy Recovery Ventilator by Integrating BES and CFD Approach, Building and Environment, 52 (3), pp57-67, June 2012
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第2章 全熱交換形換気システムの基礎
2.1 序
本章では全熱交換形換気システムの構成と,熱交換を担うエレメントの種類,その熱交換・湿度交換の原 理について概説する。熱交換エレメントを大別すると全熱交換エレメントが駆動系により回転することで風 路を切り替える回転型と,全熱交換エレメントが全熱交換器筐体内に静置され,給気・排気各流路がそれぞ れ独立に設けられた静止型に分類される。またエレメントの種類として顕熱型,全熱型のそれぞれの特徴に ついても解説する。本論文では日本国内で主に採用されている静止型全熱交換器を対象としており,その構 成や効果について解説する。
2.2 全熱交換形換気システムの概要
全熱交換形換気システムは全熱交換器(または全熱交換形換気扇)を搭載した換気システムを意味し,大別 すれば熱交換エレメントを一定速度で回転させる回転型全熱交換器と,給排気を直交もしくは向流させた独 立流路を積層させた静止型全熱交換器の2種類の方式が主流である。回転型全熱交換器は集中換気方式であ るエアハンドリングユニット(AHU)での採用が多く,主に大型の非居住ビル等で使われる。我が国では中小 規模ビルや,住宅用の全熱交換器として静止型が採用され,いずれも比較的普及した技術といえる。
2.2.1 全熱交換器について
全熱交換器とは,建物外から室内に新鮮外気を導入する給気と,室内に居住する人間等により汚染され た空気を建物外に排出する排気を同時に行いながら,給気流と排気流の気流間の顕熱・潜熱を交換するこ とが可能な熱交換形の換気扇である。給気流・排気流にはそれぞれ独立した風路が要請されるため,全熱 交換器の筐体内に各気流間での気流漏れを十分に低減した給気風路・排気風路を構成し,各気流の発生の ために給気用送風機・排気用送風機が設けられる。全熱交換器筐体内には全熱交換エレメントが配置され,
そこでは給気流と排気流との間で顕熱(温度)・潜熱(湿度)の回収(交換)が行われる。
気流の漏れは全熱交換器においては重要なパラメータであり,例えば気流漏れが大きい場合は排気流の 汚染物質がそのまま給気流に移行して室内に戻る状況等が考えられ,換気効率に影響する。この場合,熱 交換効率は見かけの数値上は向上することが確認されるが,換気が室内の空気質確保の観点で行われてい ることを鑑みれば,全熱交換器による換気効率は一定値以上を確保しつつ,熱交換効率を向上させる必要 がある。熱交換・湿度交換を行うことで,室内の空調負荷を低減することが可能であり,建物の省エネル ギーに貢献すると共に,室内の温度・湿度環境の保持にも貢献する2-1)。
2.2.2 換気システムの方式
換気方式は集中換気方式,個別分散換気方式に大別される2-1)。図 2.1に集中換気方式,図 2.2に個別分 散換気方式を示す。それぞれ中央空調方式,個別分散型空調方式に併設される換気形態である。なお,本 研究の対象となる全熱交換エレメントは主に個別分散換気方式で採用されているものである。
図 2.1 集中換気方式 図 2.2 個別分散方式
ⅰ) 集中換気方式
集中換気方式は図 2.1に示すように,主として大型ビルに多く,外気取入口を機械室の1か所に設け,
排気空気より,外気取入空気への熱回収,塵埃の除去等の1次処理をした外気を全館に送る方式で,セ ントラルダクト方式もこの換気方式の1つといえる。回転型全熱交換エレメントが採用されることが多 く,室内への取入れ空気であるSA の内,室内からの排出空気である RAの割合はおよそ 6~7 割であ り,新鮮空気であるOAの割合は3~4割にとどめる使用法であることが多い。集中換気方式では空気の 搬送動力が大きく,全熱交換エレメントの圧力損失の影響が大きくなりやすいことから,空調機の冷暖 房能力・効率が高いものが採用できる場合,かつ比較的室内外の温度差が小さい条件で使用される場合 には全熱交換エレメント自体を採用せずに,空調機のみでの外気調整を行うことも少なくない。
ⅱ) 個別分散換気方式
個別分散換気方式は図 2.2に示すように,主として中小規模のビルや住宅に多く採用され,個別換気 またはパッケージ等の外気取入口を利用して換気を行っているもので,個別制御が自由にできることよ り近年はこの方式の採用率が高くなっている。集中換気方式に比べて空気搬送用ダクトが短く設定でき ることも特徴であり,全熱交換エレメントの圧力損失による搬送動力の増大も全熱交換による省エネル ギー効果で相殺しやすく,比較的全熱交換換気システムが採用されやすい条件と見做せる。
2.2.3 全熱交換器の熱交換エレメントの方式
前項で示した通り,集中換気と個別分散換気の方式ごとに,使用する熱交換エレメントの方式が異なる。
これは主に処理する風量帯によって生じる圧力損失の影響と,製品サイズとの兼ね合いから設計的に選択 される内容と思われる。集中換気方式では主に10,000m3/h以上の風量を一度に処理するため,製品搬送や 設置場所の制約から限られた製品サイズ内で極力低い圧力損失を持つ熱交換エレメントの選択が必要で あり,この場合に回転型エレメントが採用されると考えられる。一方,個別分散換気方式では,製品が天 井裏に収められることが多く,製品サイズをよりコンパクト化することが重要に思われる。このため,圧 力損失が低いとはいえ,その製品サイズ(ロータ径)が大きくなりがちな回転型エレメントは敬遠される可 能性が高く,コンパクト化がしやすい静止型エレメントが採用されやすいように思われる。以下では,各 種エレメントの方式2-1)について解説する。
ⅰ) 回転型エレメント
図 2.3に回転型エレメントの模式図を示す。回転型の熱交換エレメントは金属,樹脂,クラフト紙等 の材料を積層ハニカム構造にしたロータと,その駆動モータならびにケーシングから構成される。全熱 交換(湿度交換)が行われる場合には,ロータには吸湿剤(潮解性のある無機塩や有機系吸湿物質)が多量に 塗布または担持されており,材料表面を水分が吸着・脱着を繰り返すことで湿度交換が実現する。ロー タは駆動モータによって毎分数回の速さで回転し,外気(OA)から取り入れた新鮮空気と室内からの還気 (RA)との間で,熱・湿度の交換が行われる。例えば,冷房の場合には高温・多湿の外気がロータを通過 する際に,その熱と湿度がロータに吸収され,ロータは回転しているのでそのまま排気風路内へ入る.
そこで冷房された排気が低温・低湿であるため,熱と湿度を放出する。更にロータが回転して外気風路 へ入ると再び熱と湿度を吸収し,この現象が反復されて熱と湿度の交換が実現する。
図 2.3,図 2.4に示すパージセクタは,ロータの前後に2つの空気の流れを分ける分離板であり,そ の一部が少しずらしてあるために外気の一部が絶えず排気に流れ込むようになっている。これによって 排気と外気との混合を防いている。しかし,これを実現するには圧力差のバランスを取ることが必要で ある。図 2.5 に回転型熱交換エレメント(ロータ)の動作についての上面図を示す。回転方向と給気・排 気の熱交換後のロータ内温湿度分布も示すが,ロータの回転速度,通過風速(処理風量),ロータのサイ ズからパージセクタの仕様を決定する必要がある。
回転型熱交換エレメントは蓄熱・蓄湿式の熱交換器であり,比較的熱交換効率が高いことが特徴であ る。
図 2.3 回転型熱交換エレメントの模式図
図 2.4 回転型熱交換エレメントの側面・正面図
図 2.5 回転型熱交換エレメントの動作の模式図
ⅱ) 静止型エレメント
図 2.6に静止型熱交換エレメントの概略図を示す。静止型エレメントは2種類の異なる気流に対して,
風路を分離することで混合を抑制し,換気効率を高めることに主眼がある。また,回転型エレメントと 比較するとエレメント自体に駆動部が無く,寿命・メンテナンス性の点も考慮された方式となる。図 2.6 は直交流形の熱交換エレメントを示すが,その他,並行流形,対向流形等の2種の流体の流れ方を変更 した方式がある。詳細については2.4 節にて解説する。
図 2.6 静止型熱交換エレメントの概略図
2.2.4 熱交換エレメントの種類
ⅰ) 顕熱交換タイプ
前述したものは全て湿度を交換するタイプの全熱交換タイプであるが,回転型,静止型いずれの熱交 換エレメントにおいても,湿度を交換せず,温度のみ交換することが可能な顕熱交換タイプの熱交換シ ステムも存在する。この場合,熱交換器として通常採用されるアルミ等の金属材料や,樹脂を用いて製 造されたタイプの熱交換エレメントが相当する。湿度を交換する必要がないため,金属で成形した熱交 換器や,更に製造性に特化してプラスチックシート材料を用いた熱交換器などがある。
ⅱ) 全熱交換タイプ
本論文で対象とする,回転型,静止型共に温度と湿度の両方を伴う全熱交換を行うことが可能な熱交 換エレメントがあり,これを全熱交換エレメントと呼ぶ。回転型の全熱交換エレメントの場合には,顕 熱交換タイプで使用される金属やプラスチックシート材料の表面に水蒸気吸着材等を添着した,特殊な 材料を用いることが多い。対して静止型の全熱交換タイプのエレメントでは,温度と湿度を透過させる ために紙や透湿性樹脂を用いた特殊なシートを採用することが多い。これは湿度透過性能と二酸化炭素
(CO2)等の汚染物質に対するガスバリア性能を併せ持つ,選択透過が可能な特殊材料であり,無孔に近い 非常に薄膜化された特殊加工紙,フィルム化された親水性樹脂シート材料,微多孔樹脂基材に極薄膜の 親水性樹脂を塗膜した複合樹脂膜等が採用される。
回転型と静止型では一口に全熱交換といっても,温度・湿度を交換するための現象が異なる。回転型 のエレメントでは材料表面における蓄熱・吸湿,放熱・放湿を繰り返すことで室内への給気に温度・湿 度を回収することが可能である。このため,材料表面における吸脱着現象が主であり,回転型全熱交換 エレメントの材料表面を透過する空気に対して十分な速度を持って熱・湿度の回収(すなわち全熱交換) が可能となる。回転型エレメントでは,材料表面の蓄放熱・吸脱着現象を用いるため,非常に短時間で 多くの熱・湿度交換が可能といえる。このため,高い温度交換効率,湿度交換効率を実現できることが 特徴である。
これに対して,静止型のエレメントでは,材料内部を温度・湿度が透過することによって2流体間で 全熱交換がなされるため,空気の通過速度に対して十分な温度・湿度交換がなされず,また,材料内の 透過速度では温度の方が早く,湿度の透過速度は温度よりも遅い。このため,通常,静止型全熱交換エ レメントでは,温度交換効率の方が湿度交換効率よりも高く,回転型エレメントと比較すると低い全熱 交換効率となることが多い。
回転型エレメントは交換効率が高くなりやすい一方で,システムが大型化する,摺動部が存在するた め給排気間で空気漏れが発生しやすいなどの点がデメリットとして挙げられる。静止型は回転型のデメ リットをカバーすることが可能であるが,交換効率の点で回転型を上回ることが出来ていない。このよ うな観点から,静止型全熱交換エレメントの性能改善のために新規構造開発,材料開発の余地があると 考えられる。
2.2.5 静止型全熱交換エレメントの構成と原理
静止型全熱交換エレメントの素材として和紙が選択透過膜としての機能を有することが見いだされ,そ の歴史をスタートしたが,現状,熱・湿度交換を担う材料(図 2.6の仕切板)には,特殊加工紙の他,親水性 の高分子樹脂膜など様々な材料が採用される。性能とコストのバランスの観点からみると,未だ特殊加工 紙の採用が多いように思われる。
また,風路を構成する部材(図 2.6の間隔板)には所謂コピー用紙に近い通常紙が採用されることが多い。
これは間隔板には湿度交換等の特殊な機能は基本的に必要なく,風路を構成し,コルゲートフィン構造を 作製する際の加工適性を持つ材料であれば十分と見做されるためである。
熱交換性能においては,室内外の温度差と湿度差を駆動力とした温度交換効率,湿度交換効率を高める ことが要求される。熱の伝達経路について図 2.7に示す通り,高温側の流体から仕切板高温表面までの対 流熱伝達,仕切板高温表面から低温表面への熱伝導,仕切板低温表面から低温流体への対流熱伝達,の経 路を経て高温側の流体から低温側の流体に熱が伝えられる。この時,対流熱伝達と熱伝導各々の熱抵抗を 比で表すと対流熱伝達による熱抵抗(対流熱抵抗)の方が材料内の熱伝導による熱抵抗(伝導熱抵抗)よりも 10~20 倍程度大きい値となる。熱交換器は金属材料で構成された物の方が,その高い熱伝導率のために,
一見すると高い温度交換性能を示すと想像されがちである。しかし,表 2.1を見ると,空気流においては 流体から物質への熱伝達現象における熱抵抗が支配的であり,仕切板を構成する材料の熱伝導率(熱抵抗 値)の影響は小さいことがわかる 2-1)。湿度においても,熱・物質伝達のアナロジーを用いることで同様に 湿度伝達経路を考えることが可能であるが,湿度透過(物質移動)の場合には,空気流から仕切板への対流 物質伝達と仕切板内部の物質伝導の比は熱のそれよりもかなり近い値である。このため,仕切板材料の透 湿性能を向上させることで温度交換効率を向上させる余地がある。
図 2.7 固体壁の熱通過と等価熱回路
表 2.1 各種材料の熱抵抗の値比較 Th
Tc Tw2
Tw1 h1
h2 λ
l
Th Tw1 Tw2 Tc
1
1
h A 2
1 h A l
A対 流 熱 抵抗 対
流 熱 抵 抗
伝 導 熱 抵 抗
紙 銅(Cu) アルミ(Al) 対流熱抵抗(1) 10 10 10
伝導熱抵抗 0.5~1 0.00036 0.0006 対流熱抵抗(2) 10 10 10
合計 20.5~21 20.00036 20.0006
2.3 全熱交換エレメントに関する基礎方程式
前項で述べたように,全熱交換エレメントの温度交換効率,湿度交換効率は高温(高湿)流体から仕切板 を経て低温(低湿)流体への熱通過,物質通過を伴う複合的な輸送現象である。本項では全熱交換エレメン トに関する基礎事項,基礎方程式について述べる。従来,熱交換器理論で扱われているのは,本論文で対象 とする温度と湿度を交換する全熱交換エレメントではなく,湿度は透過しない顕熱タイプの熱交換器である。
ここでは,顕熱交換エレメントの基礎理論 2-2)~2-8)を概説し,湿度透過現象を伴う全熱交換エレメントに適用 する際の課題について述べる。
2.3.1 熱通過モデル
図 2.7のように固体壁を介して高温側流体(温度Th)から低温側流体(温度Tc)へ伝熱が生じる。流体側は
Newtonの冷却則,固体中はFourierの熱伝導の法則によって表され,高温側の流体から低温側の流体への
伝熱を熱通過と呼ぶ2-2)~2-6)。この場合の総熱抵抗(Rth)overallは図 2.7の等価回路に示す直列熱抵抗の総和と して式(2-1)で表すことができる。
1 2
1 1
th overall
R l
h A A h A
……(2-1)ここで h1とh2はそれぞれ高温側,低温側の流体と固体壁表面間の熱伝達率,λは固体壁の熱伝導率で ある。伝熱面積Aの壁面を通して伝達される熱量は以下の式(2-2)で表される。
1 2
1 1
h c
h c
th overall
T T A
Q T T
R l
h A A h A
……(2-2)いま熱伝達率の定義と同様に熱通過率(overall heat transfer coefficient) K [W/(m2・K)]を以下で定義すると,
h c
Q KA T T ……(2-3)
熱通過率Kは式(2-2)と式(2-3)を比較して,次式で与えられる。
1 2
1 1 1
th overall
A R l
K h h
……(2-4)通常,熱伝達率は風路形状や対象とする空気条件・風速によって変化するため,熱通過率Kは定数とし て扱えることは少なく,対象の伝熱の系毎に詳細に計算する必要がある。
2.3.2 拡大伝熱面,フィンモデル
伝熱理論では,低熱伝達側で熱通過が律速されるため,その伝熱面積を拡大して対流熱抵抗を改善する ための工夫がなされる。しかしながら,静止型熱交換エレメントにみられるコンパクトな熱交換器におい ては,伝熱面積の拡大そのものが性能向上に直結するため,その工夫の1つとしてフィンを用いた伝熱面 積拡大手法が用いられる2-2), 2-3)。本項では,矩形フィンを取り上げ,その伝熱面積拡大効果について概説 する。
いま図 2.8に示すように根元(仕切板)の温度がT0,熱伝導率λのフィンが,温度T∞のフィン周囲の流 体に対して,熱伝達率hで放熱または吸熱している系を仮定する。フィンの高さLと比較してフィン厚さ lpが十分に薄いものとし,フィンの温度分布は主としてx軸方向のみに生じるとする。フィンの断面積を Ac,その周長をPとすれば,位置xにおける微小要素(温度Tとする)のエネルギーバランスは次式のよ うになる。
c
dT dT d dT
A Ac dx hPdx T T
dx dx dx dx
……(2-5)式(2-5)の左辺第1項は断面xからの流入熱量,第2項はx+dxからの流出熱量,右辺はフィン表面から の対流伝熱量を表す。
図 2.8 矩形フィンにおける熱流
ここで,Θ=T-T∞とおいて整理すれば,式(2-5)は式(2-6)に変形できる。
2
2
0
c
d hP
dx A
……(2-6)これがフィンの温度分布を支配する微分方程式である。その一般解は
1 2
mx mx
C e C e
, hPm
Ac ……(2-7) 扱いを簡単にするために,境界条件として次式を適用する。
0 0
0
0 0
x T T
dT d
x l dx dx
で
で
……(2-8)dx
l
a
b
x
Qx Qx dx 根元
T0
T∞
上記の第2条件は,フィンの先端が断熱されているか,図 2.9のような対象フィンの場合に対応している。
図 2.9 対象フィンの例
境界条件によって,Θの積分定数C1,C2を決定すれば,一次元フィンの温度分布が次のように求まる。
2 2
0 0
cosh
1 1 cosh
mx mx
ml ml
m l x
T T e e
T T e e ml
……(2-9)
この温度分布を用いれば,放熱量Q.
はフィンの根元を通過する熱流量として,次式で与えられる。
0
0
c c tanh
x
Q A dT hP A T T ml
dx
……(2-10)
あるいはフィン表面からの対流放熱量の総和として,積分形で
0
Q
lhP T T dx ……(2-11)と表すこともできる。いずれも同じ結果を与えるが,積分形の方が使いやすい。
またフィン先端の温度Tlは,式(2-9)でx=lとおいて
0 0
1 cosh
l
T T
lT T ml
……(2-12)従って,非常に長いフィンではl→∞でΘl=0となり,先端温度Tlは周囲流体の温度T∞と等しくなる。式 (2-10)でフィンの放熱量に上限Q hP A T
c
0T
があるのはこのためである。そこで,フィンによる 伝熱面の拡大が,放熱量の増大に実際どの程度寄与するかを示す尺度として,下に定義されたフィン効率 ηfが広く用いられる。
f フィンの全伝熱面からの実際の放熱量フィンの全伝熱面が根元温度に等しいと仮想した場合の放熱量
これは式(2-13)に等しい。
T0 T0
T∞
2l b Tl
0 0
tanh tanh
l
c f
hP T T dx hP A ml ml
hPl T T hPl ml
……(2-13)以上の議論では,フィンの長さ(図 2.8の奥行a)はその高さlに比べて十分大きく,熱流は完全に一次元 と仮定してきたから,P/Ac=2/bとできる。従って,
m 2h b
……(2-14)
となる。仮にフィンの厚さbがxの関数ならば,積分方程式(2-13)式の解は前述したように簡単にはなら ない。図 2.10は一次元熱流,先端断熱(または対象境界)条件を仮定して求めた各種断面形状のフィン効率 を示したものであり,パラメータmlの増大に対するηfの劣化の様子がわかる(実際はフィンの断面形状に よってηfの劣化の様子が異なる)。またフィン効率ηfが求まれば,全放熱量Q.
は次式によって算出できる。
f
0
Q フィンの全伝熱面積
h T T図 2.10 フィン効率ηf-パラメータml曲線
2.3.3 全熱交換器(全熱交換エレメント)の基本流
隔壁(仕切板)によって熱・湿度の交換を行う静止型熱交換器の性能は図 2.11に示すように,高温側・低 温側流体の流れ方向によって,並行流(parallel flow),対向流(counterflow),直交流(cross flow)形の3種のタ イプに大別される。全熱交換エレメントの特徴として,熱だけでなく湿度についても交換することが挙げ られるが,まずは十分な研究蓄積のある顕熱交換の理論について概説し,各種の熱交換特性・温度分布に ついて概説した上で,湿度交換に対する既往研究の紹介と共に,課題について解説する。
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
0 1 2 3 4 5
ηf
ml
(a) 並行流形 (b) 対向流形
(c) 直交流形
図 2.11 熱交換器の3種の基本流
2.3.4 並行流および対向流形熱交換エレメント
図 2.11にの(a),(b)に示した並行流,および対向流形の熱交換エレメントにおいては,ある限られた条 件下でそれぞれの熱交換性能に関する解析解が得られる 2-2), 2-3), 2-5)~2-8)。並行流,対向流形の解析手法を解 説し,それぞれの特性を概説した上で,直交流形のエレメントへの展開を示す。
ⅰ) 温度分布と対数平均温度差
図 2.12,図 2.13において,並行流,対向流それぞれの高温側流体の熱交換エレメントに対する入口 と出口における混合平均温度をそれぞれTh1,Th2 とし,低温側流体の入口と出口における混合平均温度 をそれぞれTc1,Tc2と表す。仕切板の任意の位置における微小伝熱面積dAxを介して,熱通過率Kで高 温側流体から低温側流体へ単位時間当りdQの熱量が伝えられるとすれば,前述の式(2-3)から以下で表 せる。
h c
xdQ K T T dA
……(2-15) ただし,熱交換エレメント外壁からの熱損失は無視できるものと仮定する。このdQ.
を失って高温側流 体は温度がdThだけ低下し,低温流体はdQ.
を得て温度がdTcだけ上昇する。従って,高温側流体の質 量流量と比熱をそれぞれm.
hとch,また低温側流体の質量流量と比熱をそれぞれm.
cとcc,と表せばdAx
の微小面積区間における熱のつり合いから以下の式が成立する。
図 2.12 並行流熱交換エレメントの温度分布
図 2.13 対向流熱交換エレメントの温度分布
h h h c c c
dQ m c dT m c dT
……(2-16)ここで,右辺の+符号は並行流の場合を,-符号は対向流の場合を示す。式(2-16)変形すると,
h
h h
dT dQ
m c
, c c cdT dQ
m c
……(2-17)両式の差を取れば,以下のように変形できる。
1 1h c h c
h h c c
dT dT d T T dQ
m c m c
……(2-18)
式(2-15)を式(2-18)のdQ.
に代入し,Th-Tc=ΔTと表せば,以下のように温度差についての微分方程式 を得る。
( ) 1 1
x
h h c c
d T K dA
T m c m c
……(2-19)
さらに,(ⅰ)熱通過率Kが熱交換エレメントの流路全域で一定,(ⅱ)流体の比熱cは温度依存性が無く,
(ⅲ)高温・低温側両流体とも相変化を生じないと仮定し,式(2-19)を Ax=0でΔT=ΔTa,Ax=A でΔT
=ΔTbとして積分すれば,式(2-20)が得られる。
1 1
ln b
a h h c c
T KA
T m c m c
……(2-20)
式(2-20)に現れたm.
cは熱容量流量(heat-capacity flow rate)または,水当量(工学単位では水の比熱は概略 1kcal/(kg・℃)であり,熱容量流量が m.
c の流体は,水に換算すると質量流量が(m.
c)の場合に相当するた め)と呼ばれ,以下,ひとまとめに(m.
c)と表す。
また,式(2-17)をAx=0~Aの区間にわたって積分すれば,
h h1 h2
Q mc T T
,Q mc
cT
c2 T
c1
……(2-21)式(2-20)の(m.
c) hと(m.
c)cに式(2-21)を代入して整理すれば,総熱交換量Q.
が以下のように求められる。
Q KA T
lm ……(2-22)ln
a b
lm
a b
T T
T T
T
……(2-23)
ここで,ΔTa,ΔTbは以下で表される。
1 1
1 2
( )
(
h c
a
h c
T T
T T T
並行流形
対向流形) ……(2-24)
2 2
2 1
( )
(
h c
b
h c
T T
T T T
並行流形
対向流形) ……(2-25)
式(2-23)で定義されるΔTlmは,対数平均温度差(logarithmic Mean Temperature Difference, LMTD)と呼ばれ
るパラメータである。ΔTa/ΔTb ≃ 1の時は,ΔTlm ≃ (ΔTa+ΔTb)/2と近似でき,本論文で扱うような換 気用の空気対空気の熱交換エレメントでは,対数平均温度差と算術平均値はおおよそ等しい値を取る。
熱交換理論の見通しを良くするために,以下の無次元数を導入する。
KA
minNtu mc
……(2-26)
maxminR mc
mc
……(2-27)(m.
c)minと(m.
c)maxは高温・低温側両流体の熱容量流量のうち,それぞれ値が小さい方と大きい方を示す。
式(2-26)で定義されたNtuは熱交換エレメントの熱通過の規模を表す無次元パラメータであり,Kaysと
LondonによってNumber of Heat Transfer Units(伝熱単位数または熱通過数と訳される)と命名された。ま
た式(2-27)のRは熱容量流量比(または水当量比)と呼ばれる。
特に(m.
c)min=(m.
c)cの時,添え字cを付してNtuc,Rcと表せば,熱交換エレメント出口(すなわちAx= Aの位置)における高温側・低温側各流体の混合平均温度Th2,Tc2は並行流形,対向流形それぞれについ て次式で与えられる。
並行流形:
1 2
1 1
1 exp 1
1
c c c
h h
h
h c c
R Ntu R
T T
T T R
……(2-28)
2 1
1 1
1 exp 1
1
c c
c c
c
h c c
Ntu R
T T
T T R
……(2-29)
対向流形:
1 2
1 1
1 exp 1
1 exp 1
c c c
h h
h
h c c c c
R Ntu R
T T
T T R Ntu R
……(2-30)
2 1
1 1
1 exp 1
1 exp 1
c c
c c
c
h c c c c
Ntu R T T
T T R Ntu R
……(2-31)ここでφh,φcは高温側,低温側それぞれの温度交換効率の定義式である。これらの式から,理想的 な 熱交換エレメントを考え,熱通過率Kまたは伝熱面積Aを増大させたと仮定する(すなわちNtuを増大 させることに等しい)と,熱容量流量比Rが等しく,Ntu→∞とした場合に式(2-28),式(2-29)は1/2(す なわち,温度交換効率50%)に,式(2-30),式(2-31)は1 (温度交換効率100%)へと収束する。つまり,
並行流形の熱交換エレメントを採用すると,熱容量流量比が等しい(換気で言うと、給気・排気風量が等
しい)場合には,原理的に熱交換エレメントの入口温度差Th1-Tc1の半分の温度までしか熱回収ができな いことを意味しており,対向流形の熱交換エレメントでは,原理的に入口温度差に対して 100%の熱回 収が可能であることを意味する。熱容量流量比R=1の場合に横軸をNtu,縦軸を温度交換効率でプロッ トしたものを図 2.14で示す。図で示すように,直交流形の熱交換エレメントは,対向流形と並行流形の 丁度間の温度交換効率を示すことがわかる。このため,熱交換方式による温度交換効率,熱交換の原理 として,並行流形,対向流形の熱交換エレメントの理論を押さえることは重要である。直交流エレメン トの原理については次項にて解説する。
図 2.14 各種熱交換形式の温度交換効率-Ntuの関係
2.3.5 直交流形熱交換エレメント
熱交換エレメントの流路形式については温度交換性能を見る限り,対向流形を選択することが望ましい。
しかしながら,熱交換形換気扇の風路構造や,ターゲットとなる熱交換性能・圧力損失,またはコストな どの観点から,性能・生産性のバランスが良い直交流形の熱交換エレメントが採用されることが多い。こ の場合の温度分布は,並行流形,対向流形のように簡単には求まらず,対数平均温度差の定式化に修正係 数を用いた解析方法,また,数値計算かラプラス変換などによって求めなければならない。数値計算によ る直接の解析手法は第3章以降で解説するが,ここでは修正係数による方法,ラプラス変換による温度分 布の解析手法2-5), 2-6)について概説する。
ⅰ) 対数平均温度差と修正係数
直交流形熱交換エレメントでは,式(2-22)の関係が成立せず,以下のような修正係数Ψによる補正が 必要である。
0.000 0.100 0.200 0.300 0.400 0.500 0.600 0.700 0.800 0.900 1.000
0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00
温度交換効率φ [-]
Ntu[-]
対向流 直交流 並行流
lm
Q KA T
……(2-32)ここで,ΔTlmには対向流形熱交換エレメントの対数平均温度差を用いる。Bowmanらは各種の流路形式 について修正係数Ψを求めており,図 2.15に直交流形の熱交換エレメントの場合を示す。
図 2.15 両流体とも混合しない直交流形熱交換エレメントの修正係数
ⅱ) ラプラス変換による温度分布解析
直交流形熱交換エレメントの理論的解法は古くは Nusselt が行っているが,ここではラプラス変換 を用いた解法を示す。
図 2.16はx0,y0平面板の表裏を高温側流体Th,低温側流体Tcが流れている場合で,それぞれの熱 容量流量(水当量)を(m.
c)h,(m.
c)cとすれば,Kを熱通過率として熱エネルギー式は次のようになる。
0 0
h h c c
h c
mc T mc T
K T T
x y y x
……(2-33) 今,T,x,yをすべて無次元化するため,以下のようにパラメータを設定する。
0 0 h 1
h
a mc
Kx y Ntu
,
0 0 c 1
c
b mc
Kx y Ntu
……(2-34) 式(2-33)を整理すると,
h c
h c
T T
T T a b
y x
,
0 T T x y
h, , ,
c 1
……(2-35) となり,境界条件0.50 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
修正係数Ψ[-]
φc=(Tc2-Tc1)/(Th1-Tc1) [-] 2.0
1.0 0.4