• 検索結果がありません。

小学校社会科におけるコンピュータの利用(2)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "小学校社会科におけるコンピュータの利用(2)"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

小学校社会科におけるコンピュータの利用(2)

−マルチメディア資料集「長崎市の水産業資料集」の開発−

福田正弘*

秋吉邦治**

1 はじめに

現在、小学校社会科におけるコンピュータの利用研究が進展してきている。例えば、1995年の全国 社会科教育学会研究大会では、1つの分科会でコンピュータを中心とする教授メディアの研究発表が 集中的になされているし、また、文部省小学校課教科調査官である北俊夫氏編の「コンピュータを取

り入れた社会科の授業づくりと展開」(明治図書、1995)が出版されたりしている。

このような研究において、コンピュータは、子どもの調べ活動を支援する検索手段、子どもの発表 活動を支援する表現手段として利用されているのが、目につく。これらの利用方法は、福田(1994)

の類型化に従えば、事実探求型、事実提示型の利用法ということができる。従って、小学校社会科に おけるコンピュータの利用は、子どもに何らかの知識を教え込もうとする受容型の利用方法ではなく、

社会に関する情報と子どもの任意の関わりを許容する探求型・提示型の利用方法が主流になっている と言える。ここには、かつてコンピュータに教師の代わりをさせて、一定の事実的知識を伝達しよう としたCAIの発想から、子どもの問題意識に沿って必要な情報を取捨選択して問題解決的な学習を 展開していくという社会科学習の道具としてコンピュータを利用しようとする発想への転換と、また そのような利用を可能にする技術的進歩がある。

ところで、そのような利用が可能になるには、子どもにとって利用しやすいソフトウェアの存在が 前提となる。子どもにとって利用しやすいソフトとは、操作が簡単であること、情報の内容が把撞し やすいこと、興味・関心に答えうることなどの特性を持ったソフトであろう。このようなソフトは、

後述するようにマルチメディアの有効活用によって作ることが出来ると思われる。また、その内容も、

学習対象が子どもにとって身近であるという小学校社会科の性格上、地域の情報を集めたデータベー スでなければならない。しかし、地域情報を対象とした学習用のデータベースは未整備である。

そこで、我々は、マルチメディアを活用して、子どもにとって利用しやすい、地域に密着した内容 を取り上げる社会科学習資料集を作成しようと考え、その開発を行った。これまで、本学部社会科教 育学ゼミナールでは、社会科マルチメディア教材の開発に取り組んできた(福田、1955b)が、今回 の開発はそれらを継承し、さらに発展させたものである。以下、その概要を報告する。

*長崎大学教育学部社会科教育学教室

**長崎大学教育学部4年生

ー15−

(2)

2 マルチメディアの考えかた

マルチメディアは、基本的に、 2つの要素によって定義されるo 1つは、多メディア性ということ、

もう

1

つは、インタラクテイプ性ということである(福田、

1 9 9 5 c

、pp.

1 6 7 ‑ 1 6 8 )

。以下、この

2

つについて若干の考察を加え、作成する資料集の理論的基礎付けを得たい。

2.  1 多メディア性

今日、テキスト文のみならず、写真・絵画などイメージ情報を載せた国語辞典が出版され、イメー ジ豊かな理解が可能となっているD

社会科の学習内容には、実に多くの事実に関する情報があるoそれらは、ある特定の個人がいつ、

どこで、何をしたという事実であり、我々はその場面を既有知識から必要なものを総動員して、想像 (イメージ)しながら理解するのである口社会科の学習は、こうした事実的知識を基盤に、一般的知 識の形成に向かうのであるo

しかし、イメージ形成の基盤たる既有知識が貧困な場合、学習は成立しないし、ひどい誤解を招く 恐れがあるoマルチメディアは、上述の国語辞典のようにテキストと共に写真・絵画を載せるのみな

らず、動画・音声までも同時表示でき、視聴覚の2つについて極めて臨場感の高い情報提示ができる。

この特性を活かして、社会科学習の基盤である事実的知識をしっかりとしたものにする必要があるD

例えば、魚類で「あじ」も「さば」も知らない人間にとって、あじやさばのイラスト・写真はそれ だけで貴重である。社会科の学習であじやさばは、その漁獲量や水揚げ港だけが問題になるのかもし れないが、子どもがその姿すら知らない魚の漁獲量を学習するというのは、奇妙な話であるo あじや さばの姿の認知は、一見社会科の学習には関わりがないように見えるが、その漁獲量や水揚げ港の学 習以前にある我々の魚への関わりを象徴的に表すものであり、学習の前提条件となっているものであ るoそういった一見学習とは関係のない事実に関する情報をマルチメディアで提示する意味は大きく、

「感性からの総合的理解

J

(福田、

1 9 9 5 c

、pp.

1 6 8 ‑ 1 6 9 )

を支援することになる。

2.  2 インタラクテイブ性

社会科の教科書では、本文に出てきた項目の補足説明をする脚注が設けられているのが常であるo

これは、新出の単語や難解語句の説明のためであり、本文の理解を援助するための伝統的な手法であ るo

人間の認知は、予めある事柄の図的枠組み(スキーマ)を設定して、それに当てはまるように情報 を解釈・受容していくとされる(大島、

1 9 8 6 )

0 例えば、 「デパートでチョコレートを買った」とい う情報は、デパートという舞台でチョコレートという小道具を使った劇の場面として認知されるoそ して、同時に、舞台にはどんなものが置いてあるか、そのチョコレートはどんなものかなど、殆ど際 限のない疑問が生じてくるoその疑問は、情報の空欄(スロットル)として入力待ち状態にあり、自 ら情報を求めていく動因になるo このように、人間の認知は、認知の枠組みとそこから活性化された 既有知識群によって、極めて能動的探索的な活動ということができる。

してみると、伝統的な教科書の記述方法は、この能動的探索的な学習者の認知的活動に応えようと するものと言うことができるo しかし、新出単語や難解語句の説明だけでは、不十分であるo学習者 の持つ疑問は、怒意的であり、際限のないものであるo これに応えていくためには、従来の印刷テキ

‑16

(3)

ストでは無理であり、ページ順に捕らわれず、任意の項目を即座に表示できるハイパーテキストでな ければならない。ハイパーテキストは、ページとページ、あるいはページ内の項目と別のページをリ ンクによって結合して、相互参照を可能にしたテキストであるロテキスト作成の際、きめ細かにリン ク情報を設定しておけば、学習者の怒意的な疑問に応えうるテキストとなるであろうD そうすること によって、コンピュータから一方的に情報を与えられるのではなく、学習者が自身の疑問によって情 報を獲得していく「双方向的(インタラクテイブ)な」利用が可能になる口

く 福 田 正 弘 >

3 本ソフトの位置づけ

我々は、以上2つの考えを活かして、社会科マルチメディア資料集「長崎市の水産業資料集」を作 成した。次に、その概要を述べるO

『 平 成 元 年 版 小 学 校 指 導 書 社 会 編

J

(文部省、 1989)において、第5学年の目標として、 「我 が国の食糧生産、工業生産の特色及び運輸、通信などの産業の様子やこれらの産業と国民生活との関 連について理解できるようにし、我が国の産業の発展に関心をもつようにするo

(p. 

4 0 )

といっ た目標が示されており、中でも水産業については、 「我が国の水産業について、主な漁港や漁場、漁 獲高などを地図や資料などで調べて、我が国の水産業の特色や国民の食生活のうえで水産資源が大切 であることを理解するとともに、水産業の盛んな地域の具体的事例を調べて、水産業に従事している 人々の工夫や努力に気づくことo

(p. 44)としてある。東京書籍出版の『新編 新しい社会 5  上j (宇沢他、 1995)では、この目標にもとづき、水産業の盛んな長崎を具体的な事例として、水産 業で働く人々は、魚を捕るためにどのような努力をしているのかを気づかせる内容となっている (pp. 

34‑4

1) 

長崎は、海に固まれ、水産業従事者も多く、多種多様な漁法も行われている。また、栽培漁業にも 取り組んで、おり、水産業の学習に用いるには、絶好の事例であるといえるO このように、長崎の水産 業を理解することは、長崎に住む我々にとっても単に地域学習としてではなく、日本の水産業従事者 がどのような努力をしているのか、どのような問題を抱えているのかを理解することにもつながって いくと考えられるO

このように注目されている長崎の水産業の、教科書だけではカパ}できない部分を子どもに提示で きるよう資料集として作成したのが本ソフトである。

4.本ソフトの構成

本ソフトは、総カード枚数148枚、総情報量は約8メガバイトになった。作成には富士通の FM‑

TOWNSと同社製のソフトである School‑Card αを用いた。 School‑Card αは、キャビネット→ホ ルダー→カードといった階層構造になっており、カードの上には、さまざまな情報を記録することが できるO また、それぞれのカードは互いにリンクすることができるので相互参照が可能であるD 本ソ フトの全体構成は図lのようになっている。

I

(4)

キ ャ ビ ネ ッ ト : 水 産 業

ホルダー長崎市の i,{~,業]

カ ー ド 枚 数 7 5

: 一 … ホ ル ダ ー 魚 、 名 図jj1:iJ

/

カ ー ド 枚 数 24

/ / 悶

O. 8

… 

ホ ル ダ ー 表 紙 ] 1/ ホ ル ダ ー 漁 法 図 鍛 : 1 カード枚数 3 (一一一一一一一一→ カ ー ド 枚 数 8

0, 4メガバイト

¥ ¥   ホ ノ レ タ ー : ぱl.‑rf削 除 子l

¥ ¥ 父 カード枚1l~

t x  

ーホルダー [*i:宅 セ ン タ ー ] カ ー ド 枚 数 27 情 報 量 3.  9メカ'バイト

図1

r

長崎市の水産業資料集」全体構成 以下、各ホルダーの内容の概要を紹介するD

1 )表紙

全てのホルダーを結んでいるのがこのホルダーである(写真1)0 本ホルダーは、全体の目次の役 目を果たしており、それぞれの項目のホルダーの表紙カードにリンクができるように、ファンクショ ン内容を書き換えている。

2 )長崎市の漁業

本ホルダーでは、長崎市地区別の、魚種別漁獲量とその年推移、総漁獲量の年推移、漁師の経営体 数の年推移、漁業生産額の年推移、個人経営体の専業・兼業別経営体数、漁法別漁獲量等といった統 計的な情報を表やグラフを用いながら画面に表示することができるO このホルダーでは、まず表紙が 現れ、その次に、長崎市の白地図が現れるD この白地図上には、 9つの地区が記されており、自分の 好きなところを選んでその地区の情報を検索することができる。

また、地区毎の魚種別漁獲量の円グラフ(写真2)の魚名の部分をクリックすると、その魚の説明 (写真3)が現れるD このようにカードとカードをリンクすることにより、他情報を素早く見ること が可能となるため、学習者の意識が継続されやすいといえる。地区毎の漁法別漁獲量のカードでも同 様に漁法の説明カードを呼び出すことができるD

︒ ︒

E

(5)

写真1 全体の表紙 写真5 水産センターの業務内容

写 真2 茂木地区漁獲量グラフ 写真6 水産センター施設配置図

写真3 魚名カード(写真2よりリンク) 写真7 中間育成イカダ

写真4 魚市場の様子(表紙) 写真8 培養育成棟(あわび)

‑19 ‑

(6)

3 )魚名図鑑

本ホルダーでは長崎市で取れる魚介類を22種類提示することができるo最近では、魚もスーパーな どでは切り身など加工されて販売されていることが多く、魚について知らない子どもは非常に多い。

そこで、本ホルダーによって、その魚のイラスト、生息海域、主な調理法などの情報を検索すること ができるo

)漁法図鑑

本ホルダーは「魚名図鑑」と同じ構成になっており、 6種類(底曳網、まき網、定置網、刺網、延 縄、敷網)の漁法の図説を得ることができるo漁法についても、子どもにその知識はほぼ無いと考え

られるため本ホルダーは必要であるo 5 )魚市場の様子

本ホルダーは、 「長崎魚市場のしくみ・その他

J

と、 「セリの様子

J

の2つの項目から成り立って いる(写真4)

「長崎魚市場のしくみ・その他」ではセリ開始時刻や魚市場の水揚げ高といった統計的資料と、魚 市場全体の様子などの情報を提示することができるo

また、 「セリの様子」では、実際のセリの写真を画面に提示し、その画面上にセリにかけられる魚 や魚市場で働く人達の帽子の色、セリ開始時やセリの最中の音声などを情報として提示し、その場の 雰囲気が少しでも味わえるように工夫しであるo

6 )水産センター

長崎市の牧島にある長崎市水産センターの情報を取りいれであるのが本ホルダーである。長崎市 水産センターでは、主に栽培漁業を行っており、全国的にも、非常に注目されているoまた、先に挙 げた

f

新 編 新 し い 社 会 5上jでも取り上げられているo本ホルダーは「仕事の内容を知る」と

「センターの見学をする

J

の2つの項目から成り立っているo前者では、センターで栽培漁業に取り 組んでいる魚介類やその放流場所、業務の内容やセンターの人の実際の音声等の情報(写真5)を提 示することができるo後者では、センター全体の施設の配置図(写真6)が表示され、自分が見学し たい施設をクリックすることにより、その写真と説明(写真7、8)を得ることができるo ここでは 実際に施設を歩き回っているかのように感じることができるように、 }J頃序性をもたせず、多くの写真

を用いて、少しでも現実に近づけるように工夫した。

く秋吉邦治>

5 おわりに

以上述べてきたように、本ソフトは、多メディア性とインタラクテイブ性というマルチメディアの 2つの特性を生かし、イメ}ジ豊かで臨場感あふれる表現と多様な問題関心から情報検索が出来るリ ンクに配慮しているo本ソフトで、漁業の全ての学習が出来るとは到底思わないが、子どもがより強 い問題意識を持ち、 「では、実際にどうなっているのだろうか

J r

漁業のこの点については、自分た ちで調べよう」といった学習へと発展し、さらにそこで調べた内容を本ソフトに追加して、より完全 な資料集に作り変えていってくれることを期待する。今後、小学校社会科においてコンピュータの利

‑20一

(7)

用は益々加速していくであろうが、はじめに述べたように、実際に学習で利用できる教材ソフトは数 少ない。授業に役に立つ教材ソフトの開発を今後も一貫して進めていきたい。

最後に、本ソフト作成に際して、快く資料提供や取材に協力して頂いた、長崎市水産謀、同水産セ ンタ一、長崎魚市場の職員の方々、そして、コンピュータの時間外使用にご配慮頂いた本学部附属教 育実践研究指導センターの職員の方々に謝意を表したい。

<福田正弘>

文 献

福田正弘(1994). 小学校社会科におけるコンピュータの利用.長崎大学教育学部教育実践研究指導 センタ一年報、 6、pp. 39‑46. 

福田正弘(1995a). コンピュータを活用した単元構成のアイデア.溝上・片上・北編、社会科授業 を面白くするアイデア百科、 14、明治図書、 pp.98‑102. 

福田正弘(1995b). コンピュータを用いた社会科教材研究.長崎大学教育学部大学教育方法等改善 研究プロジ、ェクト報告書、 pp.11‑21. 

福田正弘 (1995c).マルチメディア時代と社会科教育.星村編、社会科教育の理論と展開、現代教 育社、 pp. 166‑171. 

北俊夫編 (1995). コンビュータを取り入れた社会科の授業づくりと展開.明治図書.

文部省(1989). 小学校指導書社会編.学校図書 大島尚編(1986). 認知科学.新曜社.

宇沢弘文他 (1995). 新編新しい社会5上.東京書箱.

‑ 21

参照

関連したドキュメント

Instagram 等 Flickr 以外にも多くの画像共有サイトがあるにも 関わらず, Flickr を利用する研究が多いことには, 大きく分けて 2

3 当社は、当社に登録された会員 ID 及びパスワードとの同一性を確認した場合、会員に

ヨーロッパにおいても、似たような生者と死者との関係ぱみられる。中世農村社会における祭り

「系統情報の公開」に関する留意事項

① 新株予約権行使時にお いて、当社または当社 子会社の取締役または 従業員その他これに準 ずる地位にあることを

弊社または関係会社は本製品および関連情報につき、明示または黙示を問わず、いかなる権利を許諾するものでもなく、またそれらの市場適応性

つまり、p 型の語が p 型の語を修飾するという関係になっている。しかし、p 型の語同士の Merge

食品 品循 循環 環資 資源 源の の再 再生 生利 利用 用等 等の の促 促進 進に に関 関す する る法 法律 律施 施行 行令 令( (抜 抜す