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日本におけるフィッシャー仮説の検証 : 複数回の 構造変化を考慮して

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日本におけるフィッシャー仮説の検証 : 複数回の 構造変化を考慮して

著者 佐竹 光彦

雑誌名 經濟學論叢

巻 64

号 3

ページ 781‑810

発行年 2013‑03‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013753

(2)

【論 説】

日本におけるフィッシャー仮説の検証

―複数回の構造変化を考慮して―

  佐 竹 光 彦  

は じ め に

 本稿の目的は複数回の構造変化を考慮に入れて日本におけるフィッシャー 仮説の検証を行うことである.佐竹(2005)で,1回の構造変化を考慮した単 位根検定の結果,名目利子率とインフレ率ともにトレンド定常である可能性 があることが示唆した.そしてフィッシャー仮説が成立するかどうかを,ト レンドを除去した系列を用いて,2変数のVAR分析に基づいたMalliaropulos

(2000)による方法によって検証した.その結果,フィッシャー効果はゼロと1

との間にあるという結果を得た.

 Nelson and Plosser (1982)がアメリカにおいて,14の長期のマクロ年次デー タのうち,13系列が単位根を持つことを発見して以来,経済時系列は持続性 を持つものであるとされてきた.それに対して,Perron (1989)は構造変化を 考慮すれば,ほとんどの系列はトレンド定常となることを示した.Perron (1989) は構造変化点を外生的に与えたが,その後Zivot and Andrews (1992)やPerron

(1997)などによって,構造変化を内生的に決定する単位根検定の方法が展開さ

れた.しかしながら,ここまでの検定方法は構造変化が1回であることを前 提としていた.長期の経済時系列を分析するとき,複数回の構造変化が起こっ ている可能性がある.複数回の構造変化を考慮した方法は,Lumsdaine and

(3)

Papell (1997),Bai and Perron (1998, 2003)などによって提案されている.

 Malliaropulos (2000)ではトレンド除去データを利用するので,トレンドが 正しく推定されていなければならない.1970年代から2000年代にかけての 長期データを検討するとき,構造変化は1度とは限らない.そこで,Bai and

Perronの方法を使って複数回の構造変化日付を求めて,トレンド定常である

かどうかを検討する.そして,複数回の構造変化があった場合に,それを考 慮したトレンド除去データに対してMalliaropulosの方法を適用し,フィッ シャー仮説が支持されるかどうかを検討することが本稿の目的である.

 本稿の構成は以下のとおりである.まず第1節で,フィッシャー仮説とそ の検証方法を簡単に説明し,本研究の位置づけを明確にする.そして,分析 方法を第2節で説明して,第3節では利用するデータについて説明し,構造 変化を考慮しない単位根検定の結果を示す.そして第4節で複数回の構造変 化を考慮した分析結果を示し検討する.最後に,得られたファクト・ファイ ンディングを整理する.

1 フィッシャー仮説とその検証方法

 フィッシャー仮説は利子率と期待インフレ率との間の1対1の関係をいう.

すなわち,1%の期待インフレ率の上昇は名目利子率1%の上昇を生む.期待 インフレ率が上昇したとき,流動性効果により名目利子率は低下し,所得効 果により上昇するが,最終的には実質利子率を一定にするように期待インフ レ率の上昇分だけ名目利子率が上昇する.これをフィッシャー効果という.

もしフィッシャー仮説が成立すると,それは金融政策にとって重要な実践的 インプリケーションを持っている.すなわち,貨幣の超中立性,金融政策目 標としての利子率の有用性,そして,名目利子率を用いたインフレ率の予測 可能性についてである.理論的には合理的期待のもとでは広く認められてい るものの,実証研究からフィッシャー仮説について頑健な結果を見出すこと は難しく,名目利子率とインフレ率の間の1対1の関係を発見したFisher (1930)

(4)

の先駆的な業績以来,期間や国の違いだけでなく,さまざまな手法を用いた 研究の膨大な蓄積がなされている.

 Fisher (1930)以来の,フィッシャー仮説の検証は大きく3つの範疇に分ける ことができる.第一は,名目利子率が分布ラグ・モデルによって推定される 期待インフレ率によって説明されるかどうかを吟味する伝統的な方法である.

第二は,アメリカにおいて短期TB市場の効率性を検証したFama (1975)によっ て展開された方法である.Famaは,市場は効率的であれば,名目利子率とイ ンフレ率の1対1の関係が存在することを主張した.すなわち,合理的期待 の下で,名目利子率が将来のインフレーションの情報を含んでいるという意 味において,もし将来のインフレ率が名目利子率を用いて予測可能であれば,

フィッシャー仮説は支持されるというのである.第三の範疇は,単位根検定,

共和分検定そしてVARモデルを名目利子率・実質利子率とインフレ率の関係 に適用することである.すなわち,これらの手法を用いて,名目利子率とイ ンフレ率の1対1の関係を検証するのである.第三の範疇には,さらに構造 変化を認めたフィッシャー関係を検証した文献が含まれる.

 構造変化を考慮に入れる分析方法は,非線形モデルによる分析と,構造変 化を考慮した単位根検定・共和分検定を行う方法との2通りに,大きく分 けることができ,本稿で用いる方法は後者に属するものの1つである.単 位根検定を行い,名目利子率とインフレ率がトレンド定常であるならば,そ れらのトレンド除去系列を利用してVAR分析を行う.アメリカにおいて Malliaropulos (2000)が 行 い,ま たAtkincs and Chan (2004)が2回 の 構 造 変 化 を考慮した単位根検定を用いて,アメリカとカナダについて分析している.

Malliaropulosでは,長期においてフィッシャー仮説が成立し,Atkincs and

Chan (2004)ではフィッシャー効果が0.6程度であることを発見している.

 ところで,日本については,構造変化を考慮した分析はほとんどなく,

Maki (2005)と佐竹(2006)が前者の範疇に入る2局面に分けるTARモデルを 用いた分析を行い,また佐竹(2005)が後者の範疇に入るMalliaropulos方法

(5)

を用いて,構造変化が1回のみを考慮した分析を行っているぐらいである.

これらの研究からフィッシャー効果が部分的で,その大きさはゼロから1の 間であるという結果を得ている.

2 分 析 方 法

 本節では,本稿で用いる分析方法を解説する.2. 1で1回の構造変化を考 慮する単位根検定の方法を説明し,2. 2でトレンド除去の方法を検討する.こ うしてトレンドを除去したデータに基づいてVAR分析によってフィッシャー 仮説の検証を行うので,トレンド除去の方法は非常に重要な要素であるので,

詳細に検討する.2. 3では複数回の構造変化を検出する方法を簡単に述べる.

最後に2. 4で,フィッシャー仮説を検証するVAR分析の方法を簡単に示す.

2.1 1回の構造変化を考慮した単位根検定の方法

 Perron (1997)とZivot and Andrews (1992)の方法に従って,1回の構造変化を 考慮する単位根検定の方法を以下で簡単に説明しよう1)

 Perron (1997)は,1つのAOモデルと2つのIOモデルを用いた1回の構造 変化を考慮する単位根検定を用意した.構造変化は瞬時におこるものか,徐々 に起こるものかによってモデルは異なる.構造変化が瞬時におこると仮定す るモデルはAOモデル(Additive Outlier Models)と名付けられている.しかしな がら,実際には構造変化が瞬時に起こるというのは現実的でないかもしれな い.IOモデル(Innovational Outlier Models)は構造変化が徐々に起こると仮定す る第二のタイプのモデルである.

 AOモデルに関する検定の方法は以下のように要約できる.まず,つぎのモ デルを推定する.

    yt=μ+βt+γDT*tyt,  t=1, ,T (1)  

1) これらの検定をRATS (Regression Analysis of Time Series)プログラム・パッケージを用いて 行う.具体的には,ESTIMA社が提供するソース・プログラムPERRON97.SRC, ZIVOT.SRC 用いて計算を行った.ESTIMA社のホームページhttp;//www.estima.com/を参照のこと.

(6)

ここで,ytは被説明変数で,単位根検定を行う対象の変数である.tはトレン ド変数であり,t>TbのときDT*t=t−Tb,その他のときはゼロである.Tbは 構造変化点であり,yt は残差項である.そしてつぎの残差系列ytに関する(2)

式を用いて,ADF (Augmented Dickey–Fuller)テストが行われ,帰無仮説α=1が 検定される.

    yt=αyt−1

i=1

k ai∆yt−i+et (2)  

 他方,Perron (1997)はつぎの2つのIOモデルを用いて1回の構造変化を考 慮する単位根検定を行う.

    IO1: yt=μ+βt+θDUt+δD(Tb)t+αyt−1

i=1

k ai∆yt−i+et , (3)  

    IO2: yt=μ+βt+θDUt+γDT*t+δD(Tb)t+αyt−1

i=1

k ai∆yt−i+et , (4)  

ただし,tTbのとき,DUt=1,DT*ttTbであり,他のときはゼロである.

また,t=Tb+1のときD(Tb)t=1であり,他はゼロである.そして,帰無仮説 α=1を検定する.

 もしα=1ならば,トレンド除去系列は単位根を持っていると考えられる.

しかしながら,α<1ならば,定常過程であると考えられ,ytはトレンド定常 とみなされる.構造変化点Tbはこの検定を行うために識別されなければなら ない.そのため,構造変化点Tbを逐次移動して検定は実行され,(2)(3)(4)

式それぞれに対するADFテストの帰無仮説α=1の検定統計量であるt値の 絶対値が最も大きい点を構造変化点に選ぶ.もし帰無仮説が,選ばれたTbで 棄却されれば,ytは定常であると判断される.他方,棄却されなければ,構造 変化はなく,ytはI(1)過程に従うと判断される.このように,Perron (1997)は 系列が非定常であることを帰無仮説にし,系列が1回の構造変化を認めた定 常過程であることを対立仮説とする.系列が定常であることが支持されれば,

その系列はトレンドが構造変化点Tbをもつトレンド定常であると判断される.

 Zivot and Andrews (1992)はつぎの3つのIOモデルを用いて1回の構造変

(7)

化を考慮する単位根検定を提案した.かれらの方法はダミー変数D(Tb)tを取 り除いたところがPerron (1997)のものと異なっている.すなわち,Zivot and Andrews (1992)は,ダミー変数D(Tb)tは必要ないと考えている.

    (ZAA): yt=μ+βt+θDUt+αyt−1

i=1

k ai∆yt−i+et (5.1)  

    (ZAB): yt=μ+βt+γDT*t+αyt−1

i=1

k ai∆yt−i+et (5.2)  

    (ZAC): yt=μ+βt+θDUt+γDT*t+αyt−1

i=1

k ai∆yt−i+et (5.3)  

説明変数に入るダミー変数,トレンド変数はPerronの式を同じであり,(5.1)

式は定数項ショックのみがある場合であり,トレンドはジャンプするが,そ の傾きは一定である.(5.2)は傾きショックのみがある場合でトレンドの傾き は変わるが,連続している.(5.3)は定数項ショックと傾きショックの両方が 含まれ,トレンドは傾きが変わり,ジャンプもしている.

2. 2 トレンド除去の方法

 トレンドの除去方法は極めて重要であるので,前項で解説したPeron (1997) とZivot and Andrews (1992)のモデルを例示してその方法を検討する.トレン ドを除去するために,PerronのAOモデルの場合,まずモデル(1)式を推定 してトレンドを求め,その残差をトレンド除去系列として取り上げる.

 Malliaropulos (2000)はZivot and Andrewの方法を用いて,(5.3)式の定数項と 傾きの両方を含んだ(ZAC)モデルを用いて残差を推定した.そのとき,IOモ デルの持続的調整項であるytの1回階差のラグ項∆yt−iを含めないで推定を 行った.ZACモデルを選んだ理由としてMalliaropulos (2000)は,定数項と傾 きの両方を含んだ一般的なモデルであることを指摘している.ここでもこの 方法を採用する.

 他方,Perron (1997)によって提案されたIOモデルは,説明変数に一時的 ショックD(Tb)tを含んでいる.この回帰式は1回階差∆yt−iのラグ項を含ん

(8)

でいるので,ショックは一時的であるが調整は徐々になされることを示して いる.Perron (1997)のIOモデルに関して,(3)(4)式から1回階差のラグ項

∆yt−iを取り除いて,どのようにトレンドをもとめればいいのだろうか.

 Perron (1997)によって設定されたモデルから得られるトレンドは,第 1 図 に例示されている.第1期から第Tb期までは上方トレンドが設定されており,

第(Tb+1)期に持続的な下方への定数項ショックまたは,下方への傾きショッ クを仮定している.さらにIOモデルでは,第(Tb+1)期に一時的な定数項 ショックが仮定されており,これが不規則な上方へのジャンプを生じさせて いる.そのため,IO1,IO2の2つのモデルからトレンドを除去することは不 適切だと考えられる2)

 第 2 図はZivot and Andrew (1992)によって設定されたモデルから得られるト レンドを例示している.第(Tb+1)期に生じる一時的な定数項ショックが含ま れないことを除いて,Zivot and Andrew (1992)のトレンドはPerron (1997)のそ

2) Perron (1994)IOモデルを用いてトレンドを推定するとき,一時的な定数項シフトを取り

除いた回帰を用いることを示唆している.

IO1

AO IO2

Tb T

1

第 1 図 Perron (1997)の設定モデル:AO,IO1,IO2

(9)

れと同じである.

 上述した点を考慮して,PerronのAOモデルとZivot and AndrewのZACモ デルからえられたトレンド除去データを用いて,Malliaropulosの分析を行う.

 注意点として,IOモデルとAOモデルでは,構造変化点が大きく異なって いることが挙げられる.それは,テストを行うモデルが異なるからである.

そのため,AOモデル,IOモデルそれぞれの結果を比較するという意味で,

PerronのAOモデルと,IOモデルに基づくZivot and AndrewのZACモデルの 構造変化日付とトレンドを検討する.また,Zivot and AndrewのZABモデル

とPerron (1997)のAOモデルでは,トレンドにジャンプがないという意味で

同じトレンドを持つ.

2. 3 複数回の構造変化日付の決定

 複数回の構造変化を考慮した方法は,Lumsdaine and Papell (1997),Bai and Perron (1998, 2003)などによって提案されている.Lumsdaine and Papellは,2 回の構造変化を認める単位根検定を行っている.そして,Bai and Perronは線

第 2 図 Zivot and Andrew (1992)の設定モデル:ZAA,ZAB,ZAC ZAA

ZAC ZAB

Tb T

1

(10)

形回帰モデルで,複数回の構造変化があるかどうかを,構造変化点を逐次変 更しながら探していき,残差平方和や,AICやSBICなどの情報量基準によっ て,構造変化の回数を探索する方法を提案している.本稿では,線形回帰モ デルにトレンドを設定することによって,Bai and Perronの方法を用いて,ト レンドの構造変化日付を決定する3).実際に,構造変化の最大回数kk=1, 2,

3, 4, 5に設定して構造変化点の数を求めると,すべての場合で,最大回数が

有意になった.構造変化の回数が多くなればなるほど当てはまりがよくなる が,実際の構造変化はそれほど多くないと考えられる.そこで,k=1, 2, 3に ついて得られた構造変化日付に基づいてトレンドを除去することにする.

2. 4 Malliaropulos (2000)のVAR分析

 本稿では,Malliaropulos (2000)の方法を用いて,フィッシャー仮説の長期 的な効果を吟味する.彼は1回の構造変化を考慮に入れると名目利子率とイ ンフレ率はトレンド定常であることを確認し,つぎにトレンドを除去した系 列を用いてVARモデルを推定し,インパルス応答関数(IRF,Impulse Response

Function)を用いて,名目利子率に対するインフレ率ショックの効果を示す「動

学的相関」(Dynamic Correlation)という指標を計算し,それを用いてフィッシャー 仮説を検証している.

 まず,つぎのVARモデルを考えよう.

    B(L)yt=ut (6)  

    ytC(L)et (7)  

ただし,yt=(πt, Rt)' ,すなわちインフレ率 πtと名目利子率Rtの2変数ベクト ル,B(L)C(L)はAR項とMA項を操作するラグ・オペレータ・ベクトル,

そして,et=(e1t, e2t)' はπtRtのイノベーション・ベクトルである.(7)式は

(6)式のVARモデルのVMA表現である.(7)式の右辺はコレスキー(Cholesky)

3) 実際には,ESTMA社が提供しているRATSプログラム・パッケージのBAIPERRON.SRC ログラムを利用して計算を行った.

(11)

分解され,et=(e1t, e2t)'は互いに直交している.通常のVAR体系において,1 番目の変数が2番目の変数の原因になるように設定される.フィッシャー効 果は期待インフレ率が名目利子率に与える効果を検討するので,インフレ率 を1番目の変数に設定する.

 つぎに(6)式のVARモデルを推定し,インフレ率 πtのイノベーションe1tRt+kとπt+kに対する効果を吟味するために,以下の動学的相関ρkを計算 する.フィッシャー仮説の検証はこの指標に基づいて行われる.

     ρk

d

i=0

k Rt+1

/

de1,t

d

i=0 k

πt+1

/

de1,t,  k=1, 2, ,∞ (8)  

 「動学的相関」ρkは,第1方程式のインフレ率のイノベーションe1tからの,

t期からtk期までの効果を合計した形での,πの累積IRFに対するRの累 積IRFの比率である.インフレ率のイノベーションe1tはインフレ率 π自体 と名目利子率Rの両変数に影響を与える.「動学的相関」ρkは,インフレ率の イノベーションe1tのπに対する効果と比較した,名目利子率Rに対する効 果の大きさを示す指標である.もしρkが1であれば,インフレ率の1%の上 昇が名目利子率の1%の上昇を生じることを意味し,名目利子率とインフレ率 の1対1の関係を指摘することになる,すなわち,フィッシャー効果が1で あり,フィッシャー仮説が支持されることになる.また以下では,ゼロから1 の間の値を取るとき,部分的にフィッシャー効果があるということにする.

3 データと構造変化を考慮しない単位根検定

 ここでは四半期データが用いられ,標本期間は1971年から2011年である.

インフレ率を計算する物価指数はCPI総平均を用いている.そして,名目利 子率は3か月物のCDレートである4).原系列は月次データであるので,四半

4) 1979年第2四半期以前については,現先レートを用いる.

(12)

期平均を取っている.インフレ率は今期と4期前の間の対数階差として計算 されている.Satake (2005)に示したように,今期と1期前の対数階差として計 算されたインフレ率は変動が激しく,4期先と今期の対数階差で計算された インフレ率は名目利子率に先行している.人々は将来のインフレーションを 予測するために1年前からのインフレ率を考慮すると考えられるので,今期 と4期前との対数階差を採用する.

 第 3 図は名目利子率とインフレ率の推移を示したものである.インフレ率 は第1次石油ショックの1973年後半から激しいインフレーションに見舞われ て大きく上昇し,そして第2次石油ショックで再び上昇するも,その後は低 下している.名目利子率は第1次石油ショックの大きな上昇とともに,バブ ル期まで2回の循環を描き,その後1990年代半ばから大きく低下し,2000 年以降はほぼゼロ金利となっている.

 第 1 表は構造変化を考慮しない単位根検定の結果を示している.1971年 第1四半期から2011年第4四半期までについて3つの単位根検定を行った.

す な わ ち,加 重 対 称(WS)テ ス ト,Dickey and Fuller (DF)テ ス ト,そ し て 第 3 図 名目利子率とインフレ率の推移

名目利子率 インフレ率 20

15

10

5

0

−5

(%)

2011(年)

1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006

(13)

Phillips and Perron (PP)テストであり,TSP (Time Series Processor)プログラム・

パッケージを利用した.それぞれの検定式に,1)定数項を含む,2)定数項 と1次の傾きを含む2つの場合について行われている.階差のラグの長さは AIC (Akaike Information Criterion)基準によって決定されている.

 原系列についての単位根検定の結果は第1表(1)に,1回階差の結果は第1 表(2)に示されている.表の値はそれぞれの統計量のP値を示している.検

定は5%の有意水準で行われる.すなわち,P値が0.05より小さければ,系

列が定常であると判断する.

 説明変数として定数項と傾きを含むモデルに関する原系列の検定では,DF テストは名目利子率は定常であるという結果を得ているが,その他の結果は 単位根があるという帰無仮説が棄却されていない.1回階差を取った場合,

すべてのケースで,定常であるという結果を得た.名目利子率が定常である という可能性も考えられるが,以下では,名目利子率(R)とインフレ率(DP)

はI (1)過程に従っていると考えて分析を行う.

(1)レベル変数

A.定数項のみの場合 B.定数項と傾きを含む場合

名目利子率 インフレ率 名目利子率 インフレ率

WS 0.576 0.288 WS 0.014 0.415

DF 0.666 0.266 DF 0.004 0.099

PP 0.329 0.530 PP 0.040 0.259

(2)1回階差

A.定数項のみの場合 B.定数項と傾きを含む場合

名目利子率 インフレ率 名目利子率 インフレ率

WS 0.000 0.000 WS 0.000 0.003

DF 0.000 0.000 DF 0.000 0.001

PP 0.000 0.000 PP 0.000 0.000

第 1 表 単位根検定の結果(構造変化を考慮しない場合)(1971.I〜2011.IV)

(14)

4 分析とその吟味

4. 1 1回の構造変化を認める単位根検定の結果

 Perron (1997)とZivot and Andrews (1992)の構造変化テストの結果が第 2 表 に示されている.2. 1で示したモデルで,Perronテストの場合のAOモデル はPAO,IO1モデルはPIO1,IO2モデルはPIO2で示している.また,Zivot and Andrewの場合,ZAA,ZAB,ZACはそれぞれ,(5.1),(5.2),(5.3)式に基 づいた検定であることを示している(以下では,これらの記号でモデルに言及す る).なおPAO以外のモデルはすべて,IOモデルを前提にした,単位根検定 が行われている.

 1回の構造変化を認めた場合,5%水準をとればすべての場合で有意となっ ており,名目利子率Rとインフレ率DPはトレンド定常であると考えられる.

しかしながら,構造変化の日付はモデルによって異なっている.特に名目利 子率RはAOモデルのPAOモデルでは,構造変化が1974年第4四半期に起こっ たとしているのに対して,他の5つのIOモデルの結果からは1990年代から 2000年代になっている.また,インフレ率については,AOモデル,IOモデ ルにかかわらず,1970年代後半から80年代前半の石油ショック期に構造変 化点を決めている.

第 2 表 1回の構造変化を考慮した単位根検定と構造変化日付

方法 モデル R DP

構造変化日付 t値 構造変化日付 t

Perron97

PAO 1974:4 −4.895* 1983:3 −4.871*

PIO1 1994:4 −5.769** 1976:1 −7.111**

PIO2 1994:4 −6.605** 1981:3 −7.523**

Zivot=

Andrews 92

ZAA 1992:1 −5.536** 1977:4 −6.426**

ZAB 2002:4 −5.175** 1983:4 −6.083**

ZAC 1995:1 −5.656** 1977:4 −6.277**

注)t値の右肩の印*5%,**1%で有意なことを示す.

(15)

 第3図の両系列の推移をみてみると,名目利子率とインフレ率の2つの系 列は,石油ショックの時期とその後,そして,低金利・低インフレ(またはデ フレ)の時期の3つの期間に分けることができそうである.そして,インフレ 率DPは,第1次石油ショックに,狂乱物価と言われる物価の大きな上昇が あり,その後第2次石油ショックにも小さな変動が起こっており,構造変化 を1回と仮定するならば,この時期のショックをとらえることになり,デー タ開始の1971年から構造変化が起こるまでの時期に右上がりのトレンドが描 かれ,その後右下がりのトレンドを2011年まで取ることになる.他方,名目 利子率Rの場合,IOモデルでは,1970年代から1990年半ばまで,右下がり のトレンドが取られ,その後により緩い傾きまたは横軸に平行なトレンドに なると考えられる.AOモデルでは,第1次石油ショックの時期とその後,そ れぞれの右下がりのトレンドが検出できそうである.

 このように,グラフを見るかぎり,標本期間には少なくとも2回の構造変 化が起こっていそうである。また,名目利子率Rとインフレ率DPの関係を 検証するため,トレンド除去系列を用いた分析を行う場合,変数の構造変化 点が大きく異なることは問題である.以下の分析ではこの点に十分注意すべ きであり,複数の構造変化を考慮することが重要であると考えられる.

4. 2 Bai and Perronの方法による構造変化日付

 第 3 表はBai and Perron (2003)の方法によって決めた構造変化日付を示して いる.モデルBP1,BP2,BP3は,それぞれ構造変化を1回,2回,3回を前 提としたモデルを示している.Constはトレンドに定数項のみを,Bothは定 数項と傾きを仮定している.数値は構造変化の日付である.

 まず,BP1では,Constの場合,名目利子率では後半の1992年第4四半期,

インフレ率では石油ショック期後半に構造変化をとらえている.また,Both の場合,名目利子率,インフレ率とも,第1次石油ショックの大きな上昇と その後の低下の時期に構造変化を捉えている.定数項のみのトレンドの場合,

(16)

横軸と平行な直線がシフトするわけで,名目利子率,インフレ率とも第1次 石油ショック期の18%の高い水準から2000年代の0%までの間を1回のシフ トでは捉えることができないと考えられる.

 つぎに,BP2では,Constの場合,石油ショックの大きな変動のあった時 期と,バブル崩壊後の低金利とデフレの時期の2つの構造変化を捉えている.

それに対して,Bothの場合,名目利子率では,Constと同じく第1次石油ショッ クの時期と低インフレ期の2つの構造変化を検出しているのに対し,インフ レ率については,2度の石油ショックの時期にそれぞれ構造変化を認めている.

 最後に,BP3のように,3回の構造変化を前提にすると,ConstとBothの 間に基本的な差はなく,石油ショック期の大きな変動時期に,名目利子率は 2つの,インフレ率は3つの構造変化を検出している.また,名目利子率の 残りの1つは1990年代前半である.

 1971年から2011年までの間には,激しい変動をする石油ショック期と超 低金利・デフレ期を含んでおり,上昇や低下のトレンドを含んでいると考え

モデル トレンド R DP

BP1 Const 1992:4 1981:2

Both 1975:1 1975:1

BP2

Const 1975:4 1977:4

1992:4 1993:1

Both 1975:1 1973:3

1993:2 1978:4

BP3

Const

1973:3 1973:2

1975:1 1975:2

1992:4 1981:4

Both

1973:3 1973:1

1979:4 1974:4

1993:3 1983:3

第 3 表 Bai=Perronの方法による構造変化日付

(17)

られる.また,定数項と傾きの両方のシフトのあるほうが,そのような変化 をより正確に取り込むことができると考えられるので,Bothで得られた結果 を用いてトレンドを除去し,以下の分析を行うことにする.

4. 3 トレンド除去系列の単位根検定

 Bai and Perronの方法は単位根検定を行っているわけではない.そこで,ト レンド除去系列が定常時系列であることを確認するために,単位根検定を行 う.トレンドを除去した系列なので,傾き項なしの検定を行った.第 4 表は

1)PAO 2)ZAC

R DP R DP

WS 0.003 0.000 WS 0.000 0.001

DF 0.015 0.000 DF 0.000 0.000

PP 0.003 0.015 PP 0.001 0.005

3)BP1P 4)BP1Z

R DP R DP

WS 0.003 0.005 WS 0.005 0.003

DF 0.013 0.021 DF 0.011 0.014

PP 0.004 0.073 PP 0.001 0.000

5)BP2P 6)BP2Z

R DP R DP

WS 0.002 0.023 WS 0.000 0.001

DF 0.009 0.020 DF 0.000 0.003

PP 0.003 0.002 PP 0.000 0.000

7)BP3P 8)BP3Z

R DP R DP

WS 0.002 0.001 WS 0.000 0.000

DF 0.010 0.018 DF 0.000 0.000

PP 0.001 0.020 PP 0.000 0.000

第 4 表 単位根検定の結果(トレンドを除去した系列)(1971.I〜2011.IV)

(18)

単位根検定の結果である.第3節の構造変化を考慮しない単位根検定と同様 に,TSPパッケージを利用して,WS,DF,PPの検定を行った.表の数値は P値を示している.

 PerronのAOモデル(PAO),Zivot=AndrewsのZACモデル(ZAC)と,Bai=

Perron (2003)によって構造変化日付を決めてトレンド除去をした場合について

結果を示している.Bai=Perronによって構造変化点を決定した場合, Perron のAOモデルによってトレンド除去する場合と,Zivot=AndrewsのZACモデ ルによる場合との2つのケースについて検定を行った,BP1Pは,1回の構造 変化を仮定した場合のPerronのAOモデルによるトレンド除去系列,BP1Z はそのZivot=AndrewsのZACモデルによる系列である.BP2P,BP2Zは,2 回の構造変化を,BP3P,BP3Zは3回の構造変化を仮定して得られたトレン ド除去系列である.

 すべての結果で,5%で有意に,単位根があるという帰無仮説を棄却してい る.したがって,トレンド除去系列はすべて,定常時系列であると判断できる.

4. 4 トレンドとトレンド除去系列

 4. 1でPAOモデルとZACモデルから得られるトレンドについて,第3図 を参照しながら,若干の検討を加えた.1回の構造変化を仮定してBai and

Perron (2003)の方法で決定した構造変化日付からえられるトレンドとトレン

ド除去系列を検討することによって,PAOモデルとZACモデルによって,い かにトレンドが除去されるかを検討しよう.名目利子率,インフレ率ともに,

1975年第1四半期に構造変化が生じている.

 第 4 図(a)には名目利子率の,第4図(b)にはインフレ率の現実値とトレ ンドが示されている.PAOモデルからえられるトレンドは構造変化点で連続 しているが,ZACモデルのそれは構造変化点でジャンプしている.その結果,

構造変化の前後でのトレンドは2つのモデルで違ってくる.名目利子率では,

PAO,ZAC両モデルからのトレンドはともに,変化前には右上がりであったが,

(19)

変化後には右下がりとなっている.しかし,その傾きは異なっている.特に 構造変化前の傾きは大きく異なっている.他方,インフレ率の場合,構造変 化前のトレンドが,PAOモデルでは右下がり,ZACモデルでは右上がりになっ ており,変化前のトレンドが大きく異なっている.

 第4図(c)(d)には,PAOモデル,ZACモデルからえられたトレンド除去 系列の推移が示されている.1975年第1四半期の構造変化点以降の推移は,

名目利子率,インフレ率とも,両モデルの間に差がないので,除去系列もよ く似た推移を示している.他方,変化前の動きは大きく異なっている.特に 構造変化の前後の時期では,トレンドにジャンプのあるZACモデルの場合に,

大きな不規則な変動が生じる.特に,ジャンプの大きいインフレ率において 顕著である.

 以上の点から,トレンドの取り方には十分な注意が必要であることがわか る.ここで示したケースでは,トレンドにジャンプのない場合のほうが構造 変化の前後で不規則な変動がないので,良好なトレンド除去系列が抽出でき たように思われる.しかしながら,トレンドを連続させるための制約があり,

それぞれの期間の正しいトレンドが取り出されたかどうかはわからない.ま た,この例では,構造変化点が両変数で同じ時点であったが,そうでない場 合が一般的である.構造変化点が大きく異なる場合,両変数のトレンド除去 系列の間に,元の変数あるいは1回階差系列にある,2変数間の関係が維持 されているかどうか疑問である.

 以下で,「動学的相関」を計算するが,Bai and Perron (2003)の方法によって 得られた構造変化点に基づいたトレンド除去系列については,ZACモデルに 基づいた取り出しを行う.というのは,日付を決める前提のモデルがZACモ デルだからである.

(20)

名目利子率 トレンド(PAO)

トレンド(ZAC)

20

15

10

5

0

−5

(%)

2011(年)

1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006

インフレ率 トレンド(PAO)

トレンド(ZAC)

20

15

10

5

0

−5

(%)

2011(年)

1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006

第 4 図(a) 名目利子率の推移とBP1日付によるトレンド

第 4 図(b) インフレ率とBP1日付によるトレンド

(21)

名目利子率(PAO)

インフレ率(PAO)

12 10 8 6 4 2 0

−4

−2

(%)

2011(年)

1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006

名目利子率(ZAC)

インフレ率(ZAC)

8 6 4 2 0

−2

−6

−4

(%)

2011(年)

1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006

第 4 図(c) BP1日付によるトレンド除去系列の推移:PAOモデルによる

第 4 図(d) BP1日付によるトレンド除去系列の推移:ZACモデルによる

(22)

4. 5 フィッシャー仮説の検証

 最後に,Malliaropulos (2000)の方法を用いて,フィッシャー仮説の検証を行 う.まず,トレンド除去データを用いてVARモデルを推定する.そして,イ ンパルス応答関数(IRF)を用いて,名目利子率に対するインフレ率の効果を 示す指標である「動学的相関」を計算する.そして,その指標が1であるか どうかによってフィッシャー仮説が支持されるかどうか,またその大きさが いくらであるかによりフィッシャー効果の大きさを検討する.

 まず,Perron (1997)のAOモデル,そしてZivot and Andrews (1992)のZAC モデルからえられるトレンド除去系列から計算される「動学的相関」を検討 する.そして,Satake (2011)で行った1971年から2002年までのデータを用 いて得られた結果5)と比較する.2002年以降の期間は超低金利かつデフレの 時期であるため,DCの値は小さくなり,フィッシャー効果は小さくなる可能 性があるので,その違いを検討する.最後に,それらの結果を考慮して,Bai

and Perron (2003)によって決められた構造変化日付を基にしたトレンド除去系

列を用いて「動学的相関」を計算し,フィッシャー効果に関するインプリケー ションを検討する.

 第 5 図(a)はPerronのAOモデル(PAO)から得られる,ショックから1期 目から30期目までの「動学的相関」(DC)ρkを示している,上下の点線はブー トストラップ法により,2500回の試行から得られる10%から90%までの信 頼区間である.ρkは1期後に約0.7を超えていたが,その後大きく低下し,長 期的には0.1ぐらいで安定している.

 第5図(b)は,Satake (2011)で行った,2002年までのデータを用いた値である.

初期の数値はほぼ同じであるが,その後低下の幅は小さく,0.4あたりを推移 している.2002年以降はゼロ金利・デフレの期間である.それらの期間を除 くと,「動学的相関」の値は大きくなり,フィッシャー効果は1より小さく部

5) 2002年までの分析はまず,PAOモデルについてのみ,佐竹(2005)において行った.そして,

Satake (2011)の第4章として,分析方法の詳細な説明とともに,サンプル期間はそのままで,

ZACモデルの結果も付け加えた.

(23)

90%限界 1.2

0.6 0.8 1.0

0.4 0.2 0

−0.2

−0.6

−0.4

(期)

DC

10%限界

90%限界 1.2

1.4

0.6 0.8 1.0

0.4 0.2 0

−0.2 (期)

DC

10%限界 第 5 図(a) PAOモデルによる動学的相関(DC)

第 5 図(b) PAOモデルによる動学的相関(DC):1971-2002年

(24)

分的ではあるが,2011年までのデータを用いるよりも大きな値を示している.

 第 6 図(a)はZaivot and AbdrewsのZACモデルから得られた「動学的相関」

の推移を示している.1期目は0.4あまりであるが,最終的には0.65ぐらい の大きさになっている.信頼区間の大きさに差があるものの,第6図(b)の 2002年までのデータからえられた「動学的相関」もほぼ同じような推移を示 している.

 つぎに,Bai and Perron (2003)による構造変化日付に基づいて得られたト レンド除去系列を用いて計算された「動学的相関」を検討しよう.Bai and

Perronの方法は,ZACモデルと同様に,定数項と傾きをもつトレンドに構造

変化があると仮定しているので,ZACモデルを利用した.

 第 7 図は,構造変化が1回の場合の「動学的相関」の推移である.1期目 には0.5程度であったが,低下して,17期目にはゼロになり,その後ゼロ付 近のマイナスの値で推移している.第 8 図は構造変化が2回あった場合であ る.1期目にはゼロ付近であったが,2期目以降増加し0.4付近を推移してい る.最後に,3回の構造変化を仮定して,計算した「動学的相関」の推移が 第 9 図に示されている.6期目までは0.2から0.3の間を推移しているが,そ の後低下して,11期以降ゼロで推移している.

 以上の結果では,構造変化が2回のとき,数値は低いが,ZACモデルと同 じような経路をとり,長期的には0.4程度の水準にあるが,変化が1回と3 回のときには「動学的相関」が長期的にはゼロとなっている.両者の結果を 整合的にまとめることは至難の業である.この点をから,トレンドの取り方 には様々な問題が含まれていると考えられる.しかしながら,つぎの2点を 指摘しておく.第一にPAOモデルにおいて,2002年までの期間と比較すると

「動学的相関」は小さくなった.第二に,BP1モデルとBP3モデルでは,長 期的に「動学的相関」はゼロ,すなわち,フィッシャー効果はゼロであると いう結果を得た.

 佐竹(2006)の高インフレ期と低インフレ期の2つの局面に分けた分析で

(25)

90%限界 1.2

0.6 0.8 1.0

0.4

0.2

0 (期)

DC

10%限界

90%限界 1.6

0.6 0.8 1.2 1.4

1.0

0.4 0.2

0 (期)

DC

10%限界 第 6 図(a) ZACモデルによる動学的相関(DC)

第 6 図(b) ZACモデルによる動学的相関(DC):1971-2002年

(26)

90%限界 0.6

0.8 1.0

0.4 0.2 0

−0.2

−0.6

−0.8

−0.4

(期)

DC

10%限界

90%限界 0.6

0.8 1.0

0.4 0.2 0

−0.2

−0.6

−0.4

(期)

DC

10%限界 第 7 図 BP1日付ZACモデルによる動学的相関(DC)

第 8 図 BP2日付ZACモデルによる動学的相関(DC)

(27)

は,高インフレ期に部分的なフィッシャー効果が検出され,低インフレ期に は逆フィッシャー仮説6),すなわち,貨幣と他の金融資産との代替性が大き く,貨幣と実物資産との代替性が小さいとき,すなわち,インフレ率が低位 に推移しており,安定的である時期に,名目利子率は一定で,実質利子率と インフレ率が負の1対1の関係があるという仮説が成立するという結果を得 た.2011年まで標本期間を延ばし,低インフレの期間を多く含むことによって,

フィッシャー効果は弱まり,逆フィッシャー効果が表れた可能性を指摘でき る.

お わ り に

 本稿は,佐竹(2005)の分析を,構造変化が複数回ある場合に拡張して,

フィッシャー仮説の検証を試みた.この分析では,名目利子率とインフレ率

6) Carmichael. and Stebbing (1983)は逆フィッシャー仮説を主張し,1978年までのデータを用い て,アメリカとオーストラリアで,この仮説が支持されることを発見した.また,Choi (2002) 2局面の非線形モデルを用いて,アメリカにおいて,低インフレ期に逆フィッシャー仮説が 成立することを発見した.

90%限界 0.6

0.8

0.4 0.2 0

−0.2

−0.6

−0.8

−0.4

DC

10%限界

第 9 図 BP3日付ZACモデルによる動学的相関(DC)

(28)

のそれぞれがトレンド定常であることが前提とされ,トレンドを除去した系 列を利用してVAR分析を行い,インパルス応答関数(IRF)に基づいて計算さ れる「動学的相関」が1であるかどうかを検証した.

 その際,トレンド除去の方法が決定的に重要である.Perron (1997)とZivot and Andrews (1992)による1回の構造変化を考慮した単位根検定で示されたト レンドの設定について詳細に検討し,トレンド除去系列を作成した.また,

構造変化を複数回取るために,Bai and Perron (2003)を方法を利用して日付を 決定し,トレンド除去系列を抽出して計算した「動学的相関」を検討した.

 本稿で得られた結果は,つぎのとおりである.

 第一に,トレンドをとるとき,構造変化点で連続であるモデルとジャンプ するモデルでは,トレンド除去系列の動きは異なる.特に,名目利子率とイ ンフレ率で,構造変化の日付が異なるとき,その違いは顕著である.

 第二に,構造変化の数,モデルにかかわらず,名目利子率とインフレ率が ともに,トレンド定常であるという結果を得た.

 第三に,本稿は1971年から2011年までのデータを用いて分析したが,低 金利・デフレが顕著な時期を除いた2002年までの期間で分析した場合に比べ て,「動学的相関」が小さくなった.すなわち,フィッシャー効果が小さくなっ た.

 最後に,3回の構造変化を考慮した場合,「動学的相関」が長期的にゼロと なった.この点について,実質利子率とインフレ率が負の1対1の関係にな る逆フィッシャー仮説が示唆される.

 構造変化点の検出方法やトレンドの取り方,構造変化の回数の設定によっ て,検証の結果は非常に不安定で,法則性の読み取れないものとなった.そ の理由として,トレンド除去の方法と,構造変化点の決定方法が極めて重要 であり,これらの方法の詳細な検討は今後の大きな課題である.Perron (1989) において,構造変化の日付は,経済構造の変化を考えて,外生的に与えていた.

それを統計的な手法を用いて内生化することに,多くの研究が蓄積されてき

(29)

たが,トレンド除去データの利用という点からは,それだけに頼るのではなく,

マクロ経済の状況を踏まえた判断が必要であると考えられる.

【参考文献】

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Perron, P. (1994) “Trend, Unit Root and Structural Change in Macroeconomic Time Series,”

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(30)

Perron, P. (1997) “Further Evidence on Breaking Trend Functions in Macroeconomic Variables,” Journal of Econometrics, Vol. 80, No. 2, pp. 335-385.

Satake, M. (2005) “An Empirical Study on Testing the Fisher Hypothesis in Japan,” Journal of International Economic Studies (Hosei Univesity), Vol. 19, pp. 63-75.

佐竹光彦(2005)「日本におけるフィッシャー仮説の検証―構造変化を考慮した一考 察―」『龍谷大学経済学論集』第45巻第2号,231-240ページ.

佐竹光彦(2006)「日本におけるフィッシャー仮説の検証―TARモデルを用いた一考 察―」『経済学論叢』(同志社大学)第57巻第3号,409-428ページ.

Satake, M. (2011) The Fisher Hypothesis: An Empirical Study with Application to the Japanese Economy, PhD Thesis, Curtin University, Australia.

Zivot, E. and D. W. Andrew (1992) “Further Evidence on the Great Crash, the Oil-Price Shock, and the Unit-Root Hypothesis,” Journal of Business & Statistics, Vol. 10, No. 3, pp. 251-270.

(さたけ みつひこ・同志社大学経済学部)

(31)

The Doshisha University Economic Review Vol.64 No.3 Abstract

Mitsuhiko SATAKE, An Empirical Study on Testing the Fisher Hypothesis, Considering Multiple Structural Breaks in Japan

  To test the Fisher hypothesis̶which postulates a one-for-one relationship between nominal interest rates and inflation rates̶we conducted a VAR analysis while considering multiple structural breaks. We obtain three main findings, as follows: 1) two variables are robustly trend stationary, 2) extending the data until the long ‘zero rate of interest and deflation’ era in the 2000s lessens the effect of the Fisher effect, and 3) in cases where three structural breaks are allowed, the inverted Fisher hypothesis is suggested.

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