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風波スペクトルの飽和度に関連する海面抵抗係数の変動

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(1)

2. 海面抵抗係数と海面粗度の関係

本論文では海面抵抗係数CDを摩擦速度u*と10m高度の 風速u10との関係式で定義する.

………(2)

また,大気安定度が中立の場合,風速の鉛直分布u(z)

は対数則に従うことが知られている.

………(3)

ここにκはカルマン定数κ=0.4である.式(2)と式(3)

から,

………(4)

が導かれ,海面抵抗係数CDと海面粗度z0は一対一の関係 にあることが示される.

図-1と同じデータを用いて,海面抵抗係数CDと波齢の 逆数の関係を図-2に示す.図示のように海面抵抗係数は 概ね0.001から0.005の間で変化するが,データのばらつ きが非常に大きい.図-1と同様に海洋の観測データは左

風波スペクトルの飽和度に関連する海面抵抗係数の変動

Sea Surface Drag Fluctuation in Relation to the Saturation Ratio of Wind Wave Spectrum

鈴木 靖

・鳥羽良明

・鈴木直弥

・小森 悟

Yasushi SUZUKI, Yoshiaki TOBA, Naoya SUZUKI and Satoru KOMORI

A new linear relation between sea surface drag coefficient and the saturation ratio of wind wave spectrum was obtained. The theory is based on the 3/2 power law of wave heights and periods, which was proposed by Toba (1972).

The saturation ratio of wind wave spectrum is calculated by using spectrum analysis in principle, however a new parameter derived by the 3/2 power law gives us a saturation ratio from significant wave height and period instead of spectrum analysis. It is found that the negative correlation between sea surface drag and saturation ratio of wind wave spectrum exists. The relation can be explained that the saturated wind wave conditions reduce the momentum exchange from wind to wave, so the sea surface drag reduce in proportion to the momentum exchange.

1. はじめに

海面抵抗係数は大気海洋間の運動量交換を支配する重 要なパラメータであり,大気・海洋・波浪結合モデルに よる予測実験を行う上で,その推定精度を高めることが 求められている.海面粗度z0と摩擦速度u*との間には Charnock(1955)の関係式z0=βu*2/gが成り立つものと して,定数βが用いられてきたが,Masuda・Kusaba

(1987)は無次元粗度を波齢に依存する関数として表現 した.

………(1)

ここにgは重力加速度,cpは風波の波速,kとβは定数で ある.式(1)でk=0がCharnockの式に相当する.図-1 には海洋観測と風洞水槽実験のデータから,無次元粗度 と波齢の逆数の関係を示す.測定データは無次元粗度一 定のCharnockの式からのばらつきが大きく,海洋の観測 データ(図-1左側)と風洞水槽実験のデータ(図-1右側)

は明らかに2つのグループに分離している.観測と実験 データの空間スケールの違いがデータの分離に影響して いるものと考えられ,式(1)の形で海面粗度と風波と の関係を整理しようとする試みは困難であり,新たな風 波パラメータを導入し,海面粗度との関係を整理する必 要がある.

本論文では,Toba(1972)による風波の3/2乗則から 得られる風波飽和度Bnを用いて海面粗度を整理すると,

非常にきれいな線形関係が得られることを新たに見出し たので以下に論ずる.

1 正会員 博(理) 京都大学特定教授防災研究所 2 理博 東北大学名誉教授

3 博(工) 近畿大学講師理工学部機械工学科 4 工博 京都大学教授大学院工学研究科 機械理

工学専攻

図-1 海面粗度z0と波齢の逆数u*/cpの関係(直線はCharnock の式β=0.0185;Toba・Ebuchi,1991)

(2)

に集まり,風洞水槽のデータは右に集まるため,波齢を 用いて海洋観測データと風洞水槽実験データを包括的に 整理しようという試みが困難であることが分かる.図-1 の傾向と異なるのは,風洞水槽実験データで波齢が小さ くなる(逆数は大きくなる)と海面抵抗係数が右上がり に大きくなる傾向が見られることである.無次元粗度と 波齢の関係図上では,風速の対数則を拘束条件とする観 測データの挙動は,上に凸の曲線上を移動することが鈴 木ら(1999)によって示されており,図-1の風洞水槽実 験データの領域では右下がりの曲線に支配されているこ とが図-2との違いをもたらしていると考えられる.

3. 風波レイノルズ数

Toba・Koga(1986)は大気海洋境界層が結合された

風波の局所平衡状態を代表する無次元パラメータを提案 した.

………(5)

ここに,vは空気の動粘性係数,σpは風波のピーク周波 数である.このパラメータは,Ls=u*Ts(=2πu*p)を 現象の代表的な長さとするレイノルズ数Re(=UL/ν)に 対応する風波レイノルズ数という新たな概念として導入 された(Tobaら,2006).Lsは風波の代表波の1周期Tsの 間に,表面の水粒子が個々波の風の接線応力で流される 距離を代表する長さとして解釈されている.

風波レイノルズ数RBを用いると,個々波の崩れ率,白 波の面積率や海塩粒子の個数濃度がきれいな直線状に関 係が整理されることが示されている (T o b a・K o g a,

1986).そこでTobaら(2006)は風波パラメータRBと海

面抵抗係数の関係を調べ,その有効性を評価した.図-3 に海面抵抗係数CDと風波パラメータRBの関係を示す.

図-3はTobaら(2006)の風洞水槽実験データを次の条件 で抽出したデータで再作成したものである.

・フェッチ5m以下の測定データを除く

・乱れが十分発達していない(u*z0/ν<1)データを除く

・重力と表面張力の比が10以下のデータ(表面張力波)

を除く

風波レイノルズ数RBを用いて海面抵抗係数CDを整理 すると,図-2の波齢軸上では左右に分離していた海洋観 測データと風洞水槽実験データとが図-3では重なり,同 じ範囲のパラメータで整理することができる.風洞水槽 実験データのみで整理すると図-4のようになり,海面抵 抗係数は風波レイノルズ数ときれいな正の相関関係があ ることがわかる.RB=2×102~103付近で海面抵抗係数の 増加がフラットになっており,それを超えると再び増加 しているのはRB=2×102~103を境に砕波が発生し,風波 の乱流境界層の遷移が起こるためであると解釈されてい る(Tobaら,2006).

海洋観測データを含む図-3では,図-4に比べてデータ のばらつきが大きくなっている.海洋では常に何らかの うねりが混在しているためと考えられるが,その影響は まだ十分明らかとはなっていない.

4. 風波スペクトルの飽和度

(1)風波飽和度の導入

Toba(1972)は局所平衡状態にある風波の波高Hsと周

図-2 海面抵抗係数CDと波齢の逆数u*/cpの関係

図-3 海面抵抗係数CDと風波レイノルズ数RB=u*2/νσpの関係

(海洋観測と風洞水槽実験データ;Tobaら,2006)

図-4 海面抵抗係数CDと風波レイノルズ数RB=u*2/νσpの関係

(風洞水槽実験データ;Tobaら,2006)

(3)

Tsの間には次式の3/2乗則の関係が成り立つことを示 した.

………(6)

ここにH*=gHs/u*2,T*gTs/u*は無次元波高および周期 であり,gは重力加速度,u*は摩擦速度,B=0.062は経 験定数である.式(6)の有次元形式は式(7)で表される.

………(7)

風波の1次元スペクトルφ(σ)は自己相似の形を維持す るとの仮定により,

………(8)

が成り立つ必要がある(Toba,1973).ここにσpはピー ク周波数,φpはスペクトルピーク値,Aは定数である.

一方,有義波高は風波スペクトルと次式の関係にある.

………(9)

式(7),式(8),式(9)より

………(10)

が得られる.式(10)は風波スペクトルのピークが周波 数の-4乗に比例して発達することを示している.Toba

(1973)はスペクトルの高周波側がσ-4に比例するスペク トルを提案した.

………(11)

ここにαsは経験定数でスペクトルの平衡状態を示すパラ メータであるが,ここではスペクトルの飽和度を表すパ ラメータとして解釈する.式(10)によれば

………(12)

と表される.すなわち,スペクトルの飽和度αsは3/2乗 則の比例定数B2と比例関係にあることが示される.ここ でBの経験定数を用いて規格化した風波飽和度Bn2を次式 によって新たに導入する.

………(13)

新たに導入した風波飽和度は,スペクトル観測をしてい ないデータからでも,有義波高と周期を用いて計算する ことが可能であり,スペクトルの飽和度という観点から 従来のデータを再評価することができるという利点を有 する.

(2)風波飽和度と海面抵抗係数の関係

Tobaら(1991)は白浜における風と風波スペクトルの 3分移動平均の観測データを解析し,海面粗度z0とスペ クトル飽和度αsとの間に逆位相の関係があることを示唆 した.白浜以外のデータでスペクトル飽和度が求められ ているものはほとんどないため,有義波高と周期から計 算される風波飽和度Bn2を用いて解析データを増やして,

風波飽和度と海面抵抗係数の関係を調べた.

白浜のデータ(Kawaiら,1977)と風洞水槽実験デー タ(国司・今里,1966;Toba,1961;Toba,1972)を 用いて,海面抵抗係数CDと風波飽和度Bn2の関係を調べ た結果を図-5に示す.海面抵抗係数と風波飽和度との間 には対数軸上で明らかな負の相関関係が存在しており,

相関係数は-0.90と非常に高い相関関係が見られる.回帰 式を求めると

………(14)

の関係式が得られる.回帰式を図-5に重ねて示す.

海面抵抗係数CDと風波飽和度Bn2の間に負の相関関係 があることは,次のように解釈される.すなわち,Bnが 小さくてスペクトルが未飽和の風波では,海面抵抗係数 が大きく運動量交換が活発であるのに対し,Bnが大きく なるとスペクトル飽和度が増し運動量交換が少なくな り,海面抵抗係数が小さくなるものと理解される.風と 風波との間の運動量交換の変動が,海面抵抗係数の変動 と関連しているものと考えられる.

海洋観測データを含む図-3に対応する全データを用い て,海面抵抗係数CDと風波飽和度Bn2の関係を調べたの が図-6である.

図-6 海面抵抗係数CDと風波飽和度Bn2の関係(海洋観測と風 洞水槽実験データ)

図-5 海面抵抗係数CDと風波飽和度Bn2の関係(白浜と風洞水 槽実験データ.直線は回帰式(14)を示す.)

(4)

海洋観測のデータはBnがほぼ1の前後にデータが集ま る.風洞水槽実験では風波の発達が未成熟な波が測定さ れるのに対して,海洋では十分に発達した波浪が観測さ れるためである.発達段階の風波であればスペクトル飽

和度が1を超えることはないと期待されるが,実際には

Bn>1を示すデータも存在する.特に,Johnsonら(1998)

のデータが顕著である.Johnsonら(1998)はデンマーク 沖合の水深5-20m,フェッチ15-20kmの内湾で洋上風力 発電のサイトを利用して観測し,風速4m/sから15m/s程 度の観測データが得られている.内湾での観測であるた め,うねりの影響は少ないと考えられる.むしろ,浅海 の影響により波高と周期の3/2乗則の関係が多少ずれて いると考えるべきであろう.他のデータは観測データの 処理の際に風波としての代表性をチェックして解析され ているものが多く,Bn>1となるデータは少ない.

海洋観測データを含めると図-5に比べてデータのばら つきが大きくなる.純粋な風波成分だけではなくうねり 成分が含まれると,波浪スペクトルが単峰型ではなくな り,スペクトル飽和度の概念そのものの適用性を改めて 考え直す必要があるものと考えられる.

図-6ではKunishi(1963)のデータのばらつきも顕著で

あり,Bn<1の領域でもCDが左上がりに増加しないデー

タが目立っている.Kunishi(1963)の実験は国司・今里

(1966)よりも一回り小さな風洞水槽(長さ21.6m×高さ 0.5m×幅0.75m)を用いているため,風洞水槽内の側面 や天井などからの境界層の発達の影響なども考えられ る.一方,国司・今里(1966)の高速風洞水槽の実験は,

より大型の風洞水槽(長さ40m×高さ2.3m×幅0.8m)を 用いているものの,測定風速が速く,境界層の発達など の影響が排除できない.測定データは改めて十分吟味す る必要がある.

(3)うねりの影響

うねりの存在が海面抵抗係数と風波飽和度との間の関 係に及ぼす影響を調べた.図-7にはSuzukiら(2002)が 平塚沖の観測データを解析し,風波に逆向きのうねりが 存在するデータと,多方向からのうねりが混在するデー タを整理した結果を図-5に重ねて示す.いずれの場合で も,うねりの存在によって波高が大きめに評価されるこ とから,風波飽和度が1を超えている.逆向きのうねり が存在する場合には,風波だけから推定された回帰式よ りも大きな海面抵抗係数を示している.大きい場合には CDが2ないし3倍にも達していることがわかる.それに 対して,多方向からのうねりが混在する場合には,風波 だけの場合と概ね同程度か,小さめの海面抵抗係数とな っている.うねりが存在する場合には海面抵抗係数が何 らかの影響を受けていることは確かであり,特に風に逆 向きのうねりが存在する場合の海面抵抗係数は倍以上と

なる可能性がある.風に逆行するうねりが存在する場合 には,うねりの存在により風波の発達が増強されるとい う風洞水槽実験結果(光易・吉田,1989)もあることか ら,海面抵抗係数の変化は風波の発達率と密接に関連し ているものと考えることができる.

(4)風波の発達と海面抵抗係数の変動に関する考察 風波飽和度の概念は,風波の局所平衡状態からのずれ が海面粗度の変動と関連しているとのTobaら(1991)の 考察をさらに発展させたものである.風波に平衡状態が 存在することは,ウィルソンの公式,風波の3/2乗則,

風波の-4乗スペクトルなどの経験則の積み重ねから裏付 けられており,それらの経験則は風波の相似則を違った 側面から見ていることに他ならない.海面抵抗係数は風 速の鉛直シアー,すなわち風の運動量の鉛直輸送と関連 している.海面に運ばれた風の運動量は海面応力として,

吹送流や風波の発達に使われる.風波飽和度と海面抵抗 係数が負の相関関係にあることは,海面応力の一部が風 波の発達に寄与していることを別の側面から見ているも のと解釈できる.ここに新たに導入した風波飽和度の概 念は,風波の局所平衡状態からのずれ,風波の発達,及 び海面抵抗係数の変動を結び付ける概念として位置づけ られ,今後さらに発展させていく必要がある.

5. おわりに

海 面 抵 抗 係 数 と 風 波 飽 和 度 と の 間 の 関 係 を ,T o b a

(1972)による風波の波高と周期の3/2乗則の係数を用い て整理することにより,きれいな線形関係が得られるこ とを新たに見出した.

スペクトルの飽和度は式(11)で表されるように,本 来は風波データのスペクトル解析を行わなければ得るこ とができないパラメータであるが,式(13)で定義され る風波飽和度を新たに導入することにより,スペクトル 解析データが存在していなくても,有義波高と周期から

図-7 うねりの影響を含む海面抵抗係数CDと風波飽和度Bn2の 関係(▼は逆向きうねり,★は多方向うねりが混在す るデータを図-5に追加)

(5)

スペクトル飽和度を求めることができる.その結果,従 来から蓄積されてきた海洋観測データや風洞水槽実験デ ータを,風波飽和度という新しい観点から再解析するこ とが可能となった.

海面抵抗係数と風波飽和度との間には明らかな負の相 関関係が存在していることがわかった.その解釈として,

Bnが小さくてスペクトルが未飽和の風波では,海面抵抗 係数が大きく運動量交換が活発であるのに対し,Bnが大 きくなるとスペクトル飽和度が増し運動量交換が少なく なり,海面抵抗係数が小さくなるものと理解される.そ の関係は,風から波への運動量輸送がスペクトルピーク よりも高周波側の平衡領域で行われることから,風波の 発達と運動量交換のプロセスから解釈できることを示し ている.

今後の課題として,測定データ,特に風洞水槽実験デ ータの再評価を行う必要がある.風洞水槽内の境界層の 発達の影響などをCFDなどによって調査し,有効なデー タのみを用いて解析することと,新たに注意深く測定し た高速域のデータを解析する必要がある.さらに,海面 抵抗係数の変動を風波飽和度と風波の発達に結びつけた 定量的な検討を行うことが求められる.これらの研究を 進め,海面抵抗係数と風波との関係が解明されることに より,大気・海洋・波浪結合モデルの予測精度向上に寄 与することが期待できる.

参 考 文 献

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参照

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