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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 文 学 ) 山 畑 倫 志

学 位 論 文 題 名

アパブランシャ語説話文学を中心とした 中期インド語の言語学的研究

学位論文内容の要旨

本論 文の 観点 と方 法

  

本 論文 は中 期イ ンド 語の ーっ であ るア パ ブラ ンシ ャ語 につ いて 、ジャイナ教の説 話文学 を中 心に 、仏 教文 献や 戯曲 作品 等、 広範 な 文献 を検 討し 、ジ ャイ ナ教における説話 の伝承 形態 の特 色を 解明 する 。ま た、 仏教 文献 に おけ るア パブ ラン シヤ 語は、従来東部ア パブラ ンシ ャ語 とし て区 別さ れて いた が、 その 実 際は 他の アパ ブラ ンシ ヤ語と明確に区別 される もの では ない こと を明 らか にす る。 仏教 文 献に おけ るア パブ ラン シャ語の使用は、 タント リズ ム文 献な ど特 異な もの に限 られ てい た ので ある 。

  

ま た、 古期 イン ド語 から 近代 イン ド語 へ とい う大 きな 変化 の過 程の中で、いまだ 判然と しな いイ ンド 語史 の中 間部 分に つい て、 ア パブ ラン シャ 語の 特色 である孤立語的な 傾向と 能格 構造 の出 現に 着目 し、 屈折 型か ら孤 立 型へ 、そ して 主格 構造 から能格構造とい う大き な変 化の 途上 にあ るこ とを 論じ 、他 の典 型 的な 構造 を持 っイ ンド 語以外の諸言語と の比較 によ り、 言語 構造一般の理解 にとって得るところの多いものとなるという知見を提示 する。

本 論文 の内 容

1

章は じめ にア パブ ラン シャ 語概 観

  

アパ ブラ ン シャ 語は 中期 イン ド語 にお いて 新層 に分 類さ れ、 それ に よって書かれた主な 作 品 は 紀 元 後6世 紀か ら12世紀 に至 るが 、統 一さ れ た文 法の 規範 がな いま まイ ンド 各地 で 使 用さ れて い た。 アパ ブラ ンシ ャ語 文法 の諸 特徴 は全 て近 代イ ンド 諸 語と共通するが、動 詞 の活 用の 体 系が 存続 して いる など 、古 い屈 折的 な性 格も 持ち 、イ ン ド語史の観点から中 間 的特 徴を 有 する 言語 であ ると 概観 する 。

2

章ア パブ ラン シャ 語の 諸方 言と その 分 類に 関し て

  

イン ド中 世 の文 法家 たち 、近 代の

H.Jacobi

とL.Alsdorf、そしてアパブランシャ語歴史文 法 をま とめ た

G.V.Tagare

の 見解 を比 較し 、そ れぞ れの 分類 の妥 当性 を 検討する。中世の文 法 家の 分類 は 実例 に欠 け、

Jacobi

Alsdorf

は比較的厳密 な分類を立てたが、当時利用可能 で あっ たテ キ スト が僅 少で あっ たた め、 包括 的な もの には 至ら ず、

Tagare

の西、南、東の 三 分類 が各 地 のテ キス トに 目を 配っ た包 括的 な分 類で ある とい う点 で 最も妥当な見解であ る が、 アパ ブ ラン シャ 語は 文語 とし ての み用 いら れ、 共通 語的 要素 の 強かった言語である た め、 それ ぞ れの 差異 は少 なく 、特 にTagareの設 けた 、地 域的 に近 い 西と南の区分に疑義 を 呈す る。

14―

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第3章アパプランシヤ語仏教文献

  東インドの仏教徒もアパブランシャ語を用いており、その言語特徴は他のものとは異な るとされている。その実態を見るために東部アパブランシャ語で著されている文献をまと め、その言語について考察する。

第4章東部アパブランシヤ語の特徴

  東部アパブランシヤ語が独自に持っとされる特徴は書写上の問題に還元することが可能 であり、東部アパブランシャ語は地方語ではなく、むしろ北インド全般に広がる文章語で あ る とし た ほ うが 妥 当で あ り 、独 自性 を主張す ることは 難しいこ とを論じ ている。

第5章戯曲作品におけるアパプランシヤ語

  アパブランシャ語を用いるヒンドゥーの戯曲は本章で取り上げる二点のみであり、ヒン ドゥー戯曲はその数からみてアパブランシヤ語文献群の中では特殊である。それに対して 詩論、戯曲論を含む文学理論書には詩作のための言語としてアパブランシヤ語がしばしぱ 現 れ 、 一 定 程 度 の 文学 的 な地 位 を 得て い た こと が うか が わ れる こ とを 示 唆 する 。 第6章アパブランシャ語とタントリズム

  アパブランシャ語は古典期以降、文語のーっとしての地位を認められたが、その用途に は偏りが見られる。主な用途として、戯曲中の台詞、説話、タントリズム文献の三種類が 挙げられ、北部・西部インドでは口語を擬した言語としてアパブランシャ語を用い、文学 的効果を出しているのに対して、カシミール、ベンガル両地域においては密教経典や偈頌 などに用い、神秘的な性質をアパブランシャ語に付与している。この「言語の上では同一、

用法の上では異質」であるインド各地のアパブランシャ語の存在は、ある時期に西部イン ド文化が東部、北部へ波及したという文化現象の存在を物語るものであることを論ずる。

第7章 ジ ャ イ ナ 教 の 行 伝 説 話 に お け る 転 輪 聖 王 、  第8章Harisenacariu校 訂   ジャイナ教説話Hロ′is印粥ロrmの伝承過程を考察する。この作品はアパブランシヤ語によ るジャイナ教行伝説話であり、刊本は未だ存在せず写本のみが現存し、これを第8章で申 請者自身が蒐集した2写本に基づき校訂テキストを作成している。説話中の主人公である Haris卸aはインドを支配する転輪聖王として描かれ、他のジャイナ教説話においても度カ 言及されている。主にその記述内容を他説話のHar・ise恥についての記述と比較し、Harise胆 のより詳しい事蹟を扱った本作品は、同言語のA班脚cロ灯Mではなく、ジャイナ.マハーラ ーシュトラ語のP缸M脚cロrら砥の記述を増広したサンスクリット語のA耐rMPHr卿ロの系統に 属していることを明らかにする。

第9章アパブランシャ語自動詞文における能格性について

  アパブランシャ語はインド語史の中で近代諸語と古期諸語の中聞的な地位を占めている が、その理由はそれ以前には見られぬい統辞上の諸特徴を有しているためである。そのー っが能格構造である。能格構造とは動詞と名詞の統辞的な関係を現す概念である。しかし、

実際の文献から実例を細かく拾っていくと、単純に能格構造とは言い切れない例が多数見 られる。この類は必要とする名詞がーっかニっかといった統辞上の基準ではなく、動詞が その支配する名詞に対してどのような影響を及ぼすかという意味上の基準によっている。

この特異な類は活格構造と呼ぱれる。またこの現象は元々サンスクリット語などの古期イ ンド語にも内在していた特徴によっている可能性もある。他のプラークリット諸語も含め て 調 査 し 、 中 期 イ ン ド 語 に お け る 能 格 性 の 出 現 の あ り か た を 明 ら か に す る 。

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第10章アパプランシャ語文法

  アパブランシャ語は種々の作品に使われはじめてから、標準となる文法が編纂されるこ とはなかった。尸.aumacariuやMahapuranなど代表的とされる作品が概ね現れた後、12世 紀にグジャラート地方のジャイナ教徒Hemacandraがその文法をSfc嫐ロん鉚弧血あぬM血賊触 の中でまとめた。これはサンスクリット語やプラークリット諸語、アパブランシャ語をイ ンドの伝統的な文法記述手法で示したものである。本章ではその記述をもとにアパブラン シャ語の規範的な文法を示す。ただ、Hemac孤draの文法は語の形態を示すに留まってい るため、統辞面での特徴を補った。また同じくHemacandraによって著された韻律の要覧 であるa珊あ nHぬゞ伽ロをもとにアパブランシャ語作品に現れる主な韻律についても言及 する。

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(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

アパブランシャ語説話文学を中心とした 中期インド語の百語学的研究

本論文の研究成果は学界に様々な新知見を呈するものであり、以下の4点に要約される。

1.アパブランシャ語の分類に関する諸説の検討

  インド中世の文法家たち、近代のH.JacobiとL.Alsdorf、そしてアパブランシャ語歴史文 法をまとめたG.V.Tagareの見解を比較し、それぞれの分類の妥当性を検討する。中世の文 法家の分類は実例に欠き、Jacobi,やAlsdorfは比較的厳密な分類を立てたが、当時利用可 能であったテキストが僅少であったため、包括的なものには至っていなぃことを批判する。

これまでの研究で最も妥当な見解であるTagareの西、南、東の三分類について、地域的に 近い西と南の区分に疑義を呈し、アパブランシャ語の分類について、新たな分類の基準を 示した。

2.仏教タントリズムとアパブランシャ語

  アパブランシャ語文献は残存するほとんどのものがインド西部のジャイナ教徒によるも のであるが、東インドの仏教徒もアパブランシャ語を用いており、従来その言語特徴は他 のものとは異なるとされていた。その実態を調査した結果、東部アパプランシャ語が独自 に持っとされる特徴は書写上の問題に還元することが可能であり、独自性を主張すること は難しいことを解明した。東部アパブランシャ語は地方語ではなく、むしろ北インド全般 に広がる文章語であるとしたほうが妥当であるとする見解は、従来全く指摘されなかった 成果である。

3.アパブランシャ語の分裂能格性

  アパブランシャ語の分裂能格性について、非能格動詞も能格をとる現象を指摘した。能 格構文の出現条件はアスペクトという条件を除けば、外項か内項かという意味上の性質で 能格の出現が条件付けられている。そのためアパブランシャ語の完了アスペクトにおける 格表示は能格一色対格と活格一不活格が混合した体系になっている。このような特徴は近     ー17ー

明 公

典 教

田 井

細 藤

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

代 イ ン ド 諸 語 に も 見 ら れ る が 、 そ れ が 既 に 中 期 イ ン ド 語 の段 階 で生 じて いる こと を 論じ た。

そ の 現 象 に 対 し て 整 合 性 を 持 っ た 説 明 は 未 だ 存 在 し な ぃ 。 そ の た め 、 よ り 多 く の 用 例 を 収 集 し て 活 格 型 自 動 詞 の ふ る ま い の 条 件 を 明 ら か に す る こ と が 課 題 と な る 。

4. Harisenacariuの伝承過程

  ア パ ブ ラン シャ 語 ジャ イナ 教行 伝説 話Hロ′ む 師粥 ロ′mは 、刊 本は 未だ 存 在せ ず、 イン ドで 蒐 集 し た 写 本2点 か ら 校 訂 し 、 そ の 伝 承 過 程 を 明 ら か に し た 。 す な わ ち 、 同 種 の 諸 作 品 の うち大 部の尸缸H 鰡cロrゆロ(3世紀)、凡め岬H´励ロ(7世紀)、朋Hm甜ロHM(8世紀)に含まれる Hanse靼 王 の 伝 記 が 本 作 品 の 記 述 と 話 の 筋 が 酷 似 す る 。 そ の 中 で 、 ジ ャ イ ナ ・ マ ハ ー ラ ー シ ュト ラ 語の 尸缸Mwロrづ竹の記 述を増広したものがサンス クリット語の凡め 1印H′励 ロであ る と 考 え ら れ て い た が 、 ア パ ブ ラ ン シ ャ 語 のPMm舛 ロ ′mの 記 述 は 非 常 に 簡 潔 で あ り 、 P劃 れ 印Hr卿 ロ を 介 せ ず に 成 立 し た も の と 推 測 す る 。 そ の た めHarisenaの よ り 詳 し い事 蹟を 扱 った 本作品は同言語のPねH 贓cロガMではなく凡め 1叩M´ 卿ロの系統に属すると結論づ ける。

こ の 月 切 む 印 粥 ロrぬ の 伝 承 過 程 をま と め、 その 刊本 が 未だ 存在 せず 写本 の みが 現存 して いる 中 で 、 写 本 か ら 校 訂 し 、 文 法 か ら 韻 律 に 至 る ま で ま と め た 功 績 は 大 き い 。 し か し 、 難 解 で あ る と は い え 、 そ の 翻 訳 を 示 し 得 な か っ た こ と は 本 論 の 瑕 瑾 で あ り 、 そ の 本 論 中 お け る 構 成 上 の 位 置 づ け に お い て も 、 第10章 と と も に 資 料 編 と し て 章 立 て を 変 更 す る 方 が 、 よ り 説得的 である。

  以 上 の 通 り 、 本 論 に は い く っ か の 問 題 点 は 指 摘 さ れ る が 、 各 論 に お い て は 、 い ず れ も 新 知 見 に 富 み 、 ア パ ブ ラ ン シ ャ 語 研 究 の 最 先 端 を 行 く も の と し て 評 価 さ れ る 。 ま た 、 未 解 明 な 点 が 多 い ア パ ブ ラ ン シ ャ 語 に つ い て 、 こ れ 程 ま で の 研 究 を ま と め 上 げ た こ と は 、 特 記 さ れ る べ き で あ る と い え る 。

  本 論 文 は 広 範 な ア パ ブ ラ ン シ ャ 文 献 を 、 新 資 料 も 含 め て 精 査 し 、 研 究 史 を 批 判 的 に 検 討 し た 当 該 研 究 領 域 に お け る 着 実 な 研 究 成 果 で あ り 、 全 員一 致し て 、山 畑氏 に博 士 (文 学) の 学 位 を 授 与 す る こ と が 妥 当 で あ る と の 結 論 に 達 し た 。

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参照

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