研究・教育用ツールとしてのインターネット・マップ・サーバーの公開
Operating Internet map servers as a tool for research and education
小口 高(東京大学・空間情報科学研究センター)
Takashi OGUCHI (Univ. Tokyo)
キーワード:インターネット,ウェブ GIS,環境情報,日本,ポーランド Keywords:Internet, web-GIS, environmental information, Japan, Poland 1.はじめに 1990 年 代 に お け る イ ン タ ー ネ ッ ト の 急 速 な 普 及 は , 我 々 の 生 活 を 大 き く 変 化 さ せ た . 当 初 は 電 子 メ ー ル や Gopher を用 いたテキスト・ベースの情 報 交 換 が主 体 であ ったが,ウェブ・ブラウザと html 言 語 の開 発 により,画 像 情 報 を不 特 定 多 数 の人 が容 易 に閲 覧 できるようになった. この技 術 を地 図 画 像 の閲 覧 に利 用 することにより,印 刷 を行 わなくても地 図 を広 く公 開 することが可 能 となった. その後 ,Java 言 語 の開 発 などを通 じて動 的 なウェブ・ ページを作 成 できるようになると,特 定 の地 図 画 像 を閲 覧 するだけではなく,ウェブ・ブラウザ上 で縮 尺 や表 示 位 置 を自 由 に変 化 させながら地 図 を閲 覧 することが可 能 とな った(Plewe, 1997).このようなウェブ・ページを提 供 する システムは一 般 にインターネット・マップ・サーバー(IMS) と呼 ばれており(Harder, 1998),地 図 を用 いた地 点 の探 索 や,地 点 と周 辺 との位 置 関 係 の把 握 に有 用 である.ま た,地 点 の属 性 情 報 も同 時 に提 供 できるため,官 庁 や民 間 企 業 からの情 報 提 供 に広 く用 いられている(Peterson, 2003). 当 初 は,IMS の構 築 のためには,情 報 科 学 ・工 学 の素 養 を持 つ人 が自 前 でソフトウエアを整 備 す る必 要 があっ た.しかし,1990 年 代 後 半 になると,ESRI 社 などの主 要 な GIS ベンダーが,GIS の製 品 とリンクした IMS のエンジン を販 売 するようになった.その結 果 ,より多 数 の人 が IMS を公 開 できるようになった. 筆 者 は,1998 年 の東 京 大 学 空 間 情 報 科 学 研 究 センタ ーの発 足 後 間 もなく,ESRI 社 からセンターに寄 贈 された ArcView IMS を利 用 する機 会 を得 た.当 時 ,情 報 科 学 ・ 工 学 以 外 の分 野 の研 究 者 が IMS を公 開 した例 は非 常 に 少 なかった.筆 者 の意 図 は,IMS を用 いて地 理 学 や地 学 の研 究 と教 育 を活 性 化 させる可 能 性 を探 ることにあった. 筆 者 は 他 の 何 名 か の 研 究 者 と 協 力 し つ つ , 1998 年 ~ 2002 年 にかけて 3 種 類 の情 報 を公 開 する IMS を整 備 し た.本 稿 では,筆 者 らが行 った IMS の公 開 について,公 開 前 後 の経 緯 と将 来 展 望 を含 めて報 告 する. 2. サーバの整 備
ArcView IMS は ArcView 3.x 上 で稼 働 する拡 張 機 能 (extension)である.ArcView 3.x は Windows 上 で稼 働 す るソフトウエアであるが,ArcView IMS を公 開 するウェブ・ サーバーは Windows 系 と Unix 系 が共 に利 用 可 能 である. 筆 者 は 1998 年 当 時 ,Windows NT Server 4.0 を用 いて 研 究 室 のホームページを立 ち上 げていたので,このサー バーを IMS にも利 用 することにした.このように Windows 系 のウェブ・サーバーを用 いる場 合 には,ArcView 3.x を サーバー上 で起 動 させれば ArcView IMS を公 開 できる. しかし,当 時 所 有 していたウェブ・サーバーの処 理 能 力 に は限 界 があったため,ArcView 3.x を起 動 させるワークス テ ー ショ ン を 別 途 用 意 し , それ を ネ ッ トワ ー ク 経 由 で ウ ェ ブ・サーバーと接 続 し,負 荷 を分 散 させた.ワークステー ションの OS は Windows NT Workstation 4.0 であった. 3. 日 本 の地 形 ・地 質 情 報 IMS (http://ms1.csis.u-tokyo.ac.jp/all.html) 筆 者 らが最 初 に公 開 した IMS は,日 本 の地 形 ・地 質 情 報 を地 図 と共 に提 供 するものである(小 口 ,2000;小 口 ほ か,2000;Oguchi et al., 2000,2001).公 開 した情 報 は, 扇 状 地 の基 本 情 報 (斉 藤 ,1988),テフラ等 の第 四 紀 堆 積 物 の露 頭 情 報 (第 四 紀 露 頭 集 編 集 委 員 会 編 ,1996), 文 献 等 か ら 収 集 し た 河 川 堆 積 物 に関 す る 情 報 , お よ び 筆 者 を含 む何 人 かの研 究 者 が撮 影 した地 形 の景 観 写 真 である.また,基 本 的 な地 図 情 報 として標 高 ,道 路 網 ,鉄 道 網 ,主 要 都 市 を表 示 できるようにした.また,日 本 の地 形 ・地 質 に興 味 を持 つ外 国 人 への情 報 提 供 を可 能 とす るために,全 ての情 報 を英 語 で記 述 した. 当 初 は小 口 ほか(2000)および Oguchi et al. (2000)に 記 されているように,日 本 を 4 地 域 に区 分 して地 図 を公 開 したため,ワークステーション上 で ArcView 3.0 を 4 つ同 時 に起 動 させていた.その後 ,別 のテーマと地 域 に関 す る IMS を公 開 する際 に,起 動 させる ArcView が過 多 にな らないように,日 本 列 島 全 体 を一 括 して扱 うように変 更 し た.ウェブ・ページのレイアウトは,ArcView IMS のデフォ ルトをほぼそのまま用 いている(図 1~2).これは,筆 者 ら の重 点 がウェ ブのデザイ ンよりも提 供 する 内 容 ( コンテン ツ)にあったことを反 映 している.ただし,景 観 写 真 や内 容 に関 する解 説 を別 のウインドウに表 示 するといった目 的 の ために(図 3~4),多 少 のカスタマイズは必 要 であった.
図 1 日 本 の地 形 ・地 質 情 報 IMS の初 期 画 面 .
図 3 露 頭 情 報 のコードを解 説 したページの表 示 .
4. ポーランドの歴 史 的 景 観 IMS
(http://ms1.csis.u-tokyo.ac.jp/pol.html)
次 に,ポーランドの歴 史 的 景 観 に関 する IMS を公 開 した (小 口 ほか,1999;Oguchi et al., 2002a).これは,筆 者 が参 加 した文 部 省 科 学 研 究 費 によるポーランド調 査 プロ ジェクトの一 部 であり,ポーランドで入 手 した複 数 の主 題 図 から作 製 した歴 史 的 景 観 の分 布 に関 す るデータベー ス(Saito et al., 1998)と,筆 者 らが現 地 で作 成 した写 真 画 像 の公 開 を目 的 としていた.ウェブ・ページの構 成 は, 前 記 の日 本 に関 する IMS と類 似 しているが(図 5~8),文 字 情 報 が表 示 されるフレームの位 置 や,都 市 名 のラベル 表 示 機 能 などは異 なっている.この IMS も,海 外 からの利 用 を想 定 して全 て英 語 表 記 になっている. 5. 世 界 の古 環 境 情 報 IMS (http://ms1.csis.u-tokyo.ac.jp/world.html) 最 後 に公 開 した IMS は,世 界 の古 環 境 情 報 に関 するも のであった(Oguchi et al., 2002b, 2003).この IMS も基 本 的 な構 成 や使 用 言 語 は前 記 の 2 つと同 様 であり(図 9 ~10),写 真 を掲 載 していないこともあり構 成 は最 も単 純 である.しかし,コンテンツの収 集 には多 大 な労 力 を要 し た.コンテンツは古 環 境 の国 際 的 な学 術 雑 誌 に 1990 年 代 中 期 ~2002 年 に掲 載 された論 文 から主 に収 集 されて おり,既 にオンライン・ジャーナルが普 及 していたために効 率 化 が図 られたとはいえ,約 6 千 ヶ所 に関 する情 報 の収 集 は容 易 ではなかった.特 に,論 文 中 に掲 載 された地 点 の位 置 座 標 の決 定 に時 間 を要 することが多 かった. 6. 公 開 後 の経 緯 と今 後 の予 定 筆 者 らが上 記 の IMS を公 開 した理 由 は,対 象 地 域 の地 理 や地 学 に興 味 を持 つ人 への情 報 提 供 であり,特 に研 究 の初 期 段 階 における基 礎 的 な情 報 収 集 を支 援 するこ とと,各 地 域 に関 する地 誌 教 育 への貢 献 を重 視 していた. これらの目 的 の達 成 度 について,IMS へのアクセスの記 録 から評 価 してみよう. 3 つの IMS の中 では,日 本 の地 形 ・地 質 情 報 に関 するも のの利 用 頻 度 が群 を抜 いて高 く,トップページに対 して年 2000~3000 件 のアクセスがある.アクセスの多 くは日 本 国 内 から行 われており,ある時 期 に近 い IP からアクセスが集 中 する傾 向 がみられるので,学 校 の実 習 等 で使 われてい る可 能 性 がある.また,この IMS に掲 載 されている地 形 写 真 について, 高 校 の教 員 か ら転 載 利 用 の希 望 が寄 せ ら れた.したがって,教 育 への貢 献 という点 において,この IMS の公 開 は有 意 義 であったと思 われる. ポーランドの IMS には年 間 数 百 件 のアクセスがあり,そ の中 にはポーランドからのアクセスがしばしば含 まれてい る.これは,この IMS の紹 介 をポーランドの学 術 誌 に公 表 したこと(Oguchi et al., 2002a)の効 果 と考 えられる. 一 方 ,世 界 の古 環 境 に関 する IMS へのアクセス頻 度 は,
多 くなかった.この IMS は国 際 的 な出 版 社 である John Wiley & Sons からの書 籍 で紹 介 されたが(Oguchi et al., 2003),そのインパクトは限 られていたことになる.その一 つの理 由 として,古 環 境 研 究 の分 野 では,主 要 な情 報 源 がオンライン・ジャーナルになっているため,電 子 化 されて いない一 般 の書 籍 に記 された情 報 の普 及 度 が低 いことが 挙 げられる.また,2003 年 以 降 に発 表 された論 文 の情 報 が含 まれていないために,IMS の反 復 的 な利 用 が進 んで いない可 能 性 もある. 筆 者 らが整 備 した IMS は,2004 年 11 月 から数 ヶ月 間 , 運 用 を 停 止 し た . そ の 理 由 は , マ イ ク ロ ソ フ ト 社 が Windows NT Server のセキュリティ・パッチの供 給 を 2004 年 末 に終 了 したことによる.パッチの供 給 がない状 態 でサ ーバーを運 用 することは危 険 と判 断 し,2004 年 11 月 にウ ェブ・サーバーの OS を最 新 の Windows 2003 Server にア ップグレードしたところ,ArcView IMS が稼 働 しなくなった. その原 因 は特 定 できなかったが,セキュリティ面 での制 約 が 強 化 さ れ た こ と と 関 連 す る 可 能 性 が あ る . そ の 後 , Windows 2000 Server を使 用 して別 のウェブ・サーバーを 立 ち上 げ,その上 で ArcView 3.3 と ArcView IMS を稼 働 させたところ,以 前 とほぼ同 様 の運 用 が可 能 となった(筆 者 がこれまでに確 認 している唯 一 の変 化 は,地 図 の左 側 にある凡 例 に付 随 したチェックボックスの表 示 が,レイヤー の 表 示 状 況 を 必 ず し も 反 映 し な く な っ た こ と で あ る ) . Windows 2000 Server のパッチは 2010 年 まで供 給 される ので,それまでは現 状 の IMS を運 用 することができる. 現 在 ,ESRI 社 の GIS 製 品 については ArcView 3 系 列 から ArcGIS 系 列 への移 行 が急 速 に進 んでおり,IMS に ついても後 者 の系 列 の ArcIMS が主 に利 用 されている. ArcIMS を用 いれば,より多 彩 な機 能 を持 つ見 栄 えの良 い IMS を公 開 することができるが,前 記 のように筆 者 らの 意 図 はコンテンツの公 開 にあり,その意 味 では現 行 のシス テムのままでも特 に問 題 がない.また,ArcView IMS を用 いているサイトが消 滅 しつつある現 状 において,あえてデ フォルトに近 い様 式 を持 つページを運 用 し続 けることは, 一 種 の歴 史 的 意 義 を持 つと考 えることもできる.そこで, 上 記 のパッチ の提 供 終 了 期 限 ま では,現 状 での公 開 を 続 けたいと考 えている.なお,現 在 ,IMS のオープン・ソー ス化 が進 みつつあるので(Kropla, 2005;Mitchell, 2005), 将 来 のシステム移 行 の際 には,ArcGIS の他 にも多 様 な 選 択 肢 があると予 想 される. 一 方 ,コンテンツの充 実 は別 の意 味 で重 要 であり,一 度 収 集 したデータは,将 来 サーバー等 が変 化 しても継 続 し て利 用 可 能 である.ただし,データの収 集 には膨 大 な労 力 が必 要 であり,資 金 面 でのサポートも不 可 欠 である.現 状 ではコンテンツの新 たな拡 充 の目 処 は立 っていないが, 長 期 的 にはアクセスが多 い日 本 の IMS を中 心 にデータを 増 強 し,教 育 現 場 などでの利 用 に貢 献 したいと考 えてい る.
図 5 ポーランドの歴 史 的 景 観 IMS の初 期 画 面 .
図 7 詳 しい景 観 情 報 の表 示 .
図 9 世 界 の古 環 境 情 報 IMS の初 期 画 面 .
参 考 文 献 小 口 高 (2000):地 理 情 報 とインターネット GIS.歴 史 と 地 理 ,No.533,15-22. 小 口 高 ・斉 藤 享 治 ・原 美 登 里 (1999 ):インターネット GIS を活 用 したポーランドの歴 史 的 景 観 データベース. 地 理 学 研 究 報 告 ( 埼 玉 大 学 教 育 学 部 ) , No.19 , 75-84. 小 口 高 ・ 斉 藤 享 治 ・ 原 美 登 里 ・ 門 村 浩 ・ 林 舟 (2000):扇 状 地 データベース-インターネット・マップ・ サーバーによる地 理 情 報 の提 供 -.地 学 雑 誌 ,109, 120-125. 斉 藤 享 治 (1988):日 本 の扇 状 地 .古 今 書 院 . 第 四 紀 露 頭 集 編 集 委 員 会 (編 )(1996):第 四 紀 露 頭 集 -日 本 のテフラ.日 本 第 四 紀 学 会 .
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