CRPS(complex regional pain syndrome)に対するビスホスホネートの効果(140815)
症例 1:後頭部の頭部裂創の後に痛みが残っている。触れるだけでビリビリするような異常知覚あ り。(研修医からの症例報告) 症例 2:足趾をぶつけた後、数か月しても腫脹が軽減しない。時期を変えた複数回のレントゲン撮 影でも骨折は認めず。むしろ症状の訴えが強くなっている。患側の足の発汗が多い。 両症例とも、複合性局所疼痛症候群:CRPS が鑑別に挙がったため、基本的事項を勉強。また、 ビスホスホネート製剤の効果を検討した RCT を読んでみた。 RCT の前に CRPS についての基本的な部分を復習する。 骨折、組織傷害や神経損傷などによって引き起こされる免疫系、神経系(感覚神経、運動神 経、自律神経)および情動系の病的変化によって発症する慢性痛症候群である。2) 外傷に引き続いて発症する症候群で、通常よりも強い痛みやアロディニア、痛覚過敏などの 感覚の異常、皮膚温の変化や発汗の異常など自律神経系の障害、筋力低下や骨の萎縮な ど運動機能障害を有する。3) 複合性局所疼痛症候群とは、外傷などを契機として四肢に痛みと機能障害が遷延し、浮腫、 皮膚温、発汗などの自律神経が関与していると考えられる症状や神経学的に説明のつかな い筋力低下や機能障害がみられる場合に分類される症候群である。6) 1946 年 Evans は、これらの病態を反射性の交感神経の異常を伴ったものと考え、反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy;以下 RSD)と名づけた。3)
CRPS への用語変更の理由:患肢において必ずしも交感神経の機能が亢進していないこと や、交感神経ブロックの効果のない症例がむしろ多いことが報告され、この病態と交感神経 の関与は必ずしも強くないことがわかり、病名の変更が提案され、代わりに提唱された名前 が CRPS である。3) 末梢性因子と中枢性因子が複雑に絡み合って悪循環を形成し、疼痛過敏、アロディニア、浮 腫、発汗異常、運動障害および萎縮性変化などの症候が出現すると考えられている。2) 加えて、振戦やジストニアなどの四肢の運動異常、手指の巧緻性の低下や関節可動閾制限 などが認められる。 「患肢の位置がわからなくなる」とか「自分の手が自分のものでないような気がする」などの認 知異常がみられることもある。さらに、病期が遷延すると不安やうつなどの情動異常や、痛み を極端に悲観的に捉える破局的思考をきたしてくることもある。4) その発症には脊髄の役割がよく知られているが、脳も広範囲にわたって関与しておりその役 割は非常に大きいことが明らかになっている。4)
原因については、遺伝的素因や脳の機能異常、末梢組織におけるサイトカインの関与など を示唆する知見もあるが、単一の病態ではなく、痛みとそれに引き続いて起こる心因反応、 不動化、および環境の影響などが複雑に相互作用し、さらに痛みが遷延し行動に影響を及 ぼす病態の総称と理解するのが妥当であろう。6) 末梢性因子として局所における慢性炎症や自己免疫機序の関与についても注目されている。 2) CRPS は症候群であり、単一の病態でなく複数の病態の疾患が含まれている可能性がある。 2) 複合性局所疾痛症候群の場合には、第三者行為である場合がほとんどで、不満や怒り、疾 病利得といった心因反応のなかでも医療者が対応に苦慮する感情や動機を伴っていること が多いのが特徴である。6)
IASP は、1994 年に反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy;RSD) とカウザルギーとよばれてきた疾痛症候群をそれぞれ CRPS タイプⅠとタイプⅡに整理し、合 わせてその診断基準を発表した。診断基準は ①四肢に外傷の既往があるか、もしくはギブス固定などの動かさない原因がある(タイプ 1)こ と、または四肢の比較的大きな神経の損傷がある(タイプ II)こと ②原因となる刺激から判断して不釣り合いの持続的疼痛、アロディニア、痛覚過敏があるこ と ③それに付随して浮腫とか皮膚血流量の変化、皮膚温の左右差、発汗異常が病期のいず れかの時期に存在すること ④他の疾患を除外できること の 4 項目からなっている。しかし、この診断基準には運動障害と萎縮性変化が含まれないこ とや除外診断が不明瞭であることなどの理由によって、感受性は高いが特異性が低いという 欠点があった。4) 1994 年に作成された CRPS 基準は臨床データに基づいたものではなく、専門家の合議で決 められたものであり、その信頼性については実際の症例で検証する必要性があった。事実、 糖尿病性神経障害との鑑別が必ずしも容易でないという報告があり、不適切な治療につな がりかねないことが指摘された。また、診断基準に含まれる症状が、自覚的な徴候であるの か他覚的な症状であるのか明確にされていない点も問題であった。さらに、筋力の低下、筋 萎縮、骨萎縮など、CRPS において高頻度に見られる所見は診断基準に含まれていなかった。 3)
(参考文献 3 より引用) 1994 年の診断基準には上記の問題があるため、それを改善するために実際の症例で見ら れる症状を自覚的徴候と他覚的症状にわけ、主成分分析を用いて解析し、まず内因的信頼 度の高い診断基準の項目が作成された。3) 治療の目的で使用されることを想定した治療用診断基準(clinical criteria)と、臨床研究の 目的で使用されることを想定した研究用診断基準(research criteria)の二つの診断基準が 作られた。3) アメリカのデータによると臨床用診断基準の感度は 0.85、特異度は 0.6、研究用診断基準の 感度は 0.70、特異度は 0.96 であった。3) (参考文献 3 より引用) 最近、わが国で多施設臨床試験が行われ、四つの特徴的な症候である痛み・感覚異常、血 管運動異常、浮腫・発汗異常、運動障害・萎縮性変化についてそれぞれ自・他覚的所見に基 づいた評価・分析結果が得られた。そして、わが国ではこれらの研究成果に基づいて新しい 判定指標(表 2)が作成された。4)
(参考文献 4 より引用) (住谷)典型的な CRPS と考えられる症例でも、腫れている、赤くなっている、あるいは紫色に なっているなど症状の特徴には個人によって幅があって顕著でない場合も多く、このような症 状だけでなく患者さんの痛みとのつき合い方などを加えて総合的に判断し、CRPS という疾患 名を使うようにしています。5) (柴田)一応基準はあるものの、実際の診療現場では CRPS という疾患名がいろいろな意味 で使われている。(中略) CRPS という疾患名の意味するところには「狭義」と「広義」がある のではないでしょうか。典型的な条件を満たす「狭義」の CRPS と、治療抵抗性であるという 「広義」の CRPS が存在しているようです。5) 一般的に CRPS の治療では、できるだけ早期に集学的治療を開始することが重要である。2) 痛みの消失が治療の最終目標ではなく、身体機能の改善が第一の治療目標になる。さらに、 情動・精神的な異常の改善も重要で、最終的に患者の自立と社会復帰を目指す。4) 治療の限界を前もって提示し限界を設定しておかないと、治療がかえって症状遷延に寄与し
てしまうことがある。対応のコツとしては、状況を把握することと接する医療者全員の対応方 針を統一しておくことが重要。6) 複合性局所疼痛症候群という病態が多彩で複雑疾患概念や基準があいまいな病名につい て、普遍的に効果の期待できる薬剤や治療法は存在しない。個々の患者において問題点を 整理し、解決の糸口に近づき得る実践可能な方法を選択するということになる。6) CRPS の治療についての無作為化比較臨床試験(RCTs)でエビデンスが確立された治療法 はきわめて少なく、現時点ではエビデンスに基づいた治療指針の作成はできていない。2) CRPS の国際専門委員会では、①リハビリテーション療法、②心理学的療法、③痛みに対す る治療を患者の状態に応じて同時に組み合わせて行うように推奨している。2) CRPS の治療は、神経ブロック療法、薬物療法、リハビリテーション療法および心理学的療法 が中心になる。初期であれば神経ブロック療法が有効とされ、積極的に神経ブロック療法を 行うことが勧められる。2) CRPS に対する薬物療法についての RCTs でエビデンスが確認された薬剤はきわめて少なく、 アレンドロン酸などのビスホスホネート製剤の有効性が報告されている程度である。2) しかし、CRPS の発症メカニズムに神経炎症の関与が疑われることから、わが国ではステロイ ドの全身または局所静脈内投与が広く行われ、一部の症例に効果が認められている。また、 一般に神経障害性疼痛の治療に準じて CRPS の薬物療法が推奨されている。第一選択薬と しては、抗うつ薬や Ca2+チャネルα2δサブユニット拮抗薬のガバペンチン、プレガバリンが用 いられる。さらに、第二選択薬としては医療用麻薬であるオピオイドが、第三選択薬としては 抗てんかん薬、抗不整脈薬 N-methyl-D—aspartate(NMDA)受容体拮抗薬などが用いられ る。4) CRPS では患肢の運動機能改善が第一の治療目標になる。CRPS では発症早期から関節可 動閾制限、骨萎縮や患肢ネグレクト現象がみられることがあり、できるだけ早期よりリハビリ テーションを開始すべきである。2) (住谷) 急性期の患者さんやギプスを外した直後という症例を除き、基本的に抗炎症薬は使 わず、神経障害性疼痛の薬物療法に準じて選択しています、第一選択薬はプレガバリンか 三環系抗うつ薬です。あとは、患者さんの痛みに付随する不眠や気分の落ち込みといった症 状にあわせて、総合的に判断し薬物療法を選択しています。国際疼痛学会(IASP)の CRPS 専門委員会でも、薬物療法を土台として患者さん自身が行うリハビリおよび ADL を改善する ための訓練が、治療の主軸として推奨されています。5) (住谷)リハビリが最も重要だと考えています。特に当院ではリハビリと並行して認知行動療 法のような患者教育を重視しています。痛くても患肢を使うことが痛みの治療につながるとい う認識について患者さんの理解を得られるようご説明し、痛みとのつき合い方を学んでいた だきつつリハビリを進めています。5) (牛田)抗炎症薬の使用については、ケース・バイ・ケースだと考えています。もちろん、リハ ビリを主軸に、サポートとして薬物療法を行うのは住谷先生と同意見ですが、リハビリで過度
に動かした結果、炎症が起こり、痛みが増悪してリ八ビリが滞るという悪循環に陥る場合もあ ります。5) 現在のところ、CRPS の治療において心理学的アプローチの有効性を明確に証明した臨床研 究はないが、心理学的療法の重要性は高いと考えられている。2) 現在のところ、CRPS に対する理学療法および作業療法の RCT では効果があるというエビデ ンスは得られていない。4) CRPS の病態に局所神経炎症が関与していることから、免疫グロブリン療法の RCT が試みら れている。4) 欧米の一部の施設で、大量のケタミンを約 1 週間にわたって持続投与するケタミンコーマ療 法(n=20)が試みられ、重症の CRPS で驚くような治療効果が得られたことが報告されている。 4) 今後期待される治療法として、①局所神経炎症に対する免疫療法、②大量ケタミン投与療法、 ③脳リハビリテーション(motor imagery/鏡療法、視野偏位プリズム順応療法)などが挙げら れる。2) ほかの治療法で効果がみられない難治性の CRPS に衝撃波照射療法を試みた報告がある。 30 名の下肢 CRPS 患者に 4,000 回の衝撃波照射を 72 時間間隔で 3 回施行した結果、痛み 軽減などの満足すべき効果が 2 ヵ月後に 76.7%の患者に、6 ヵ月後に 80%の患者にみられ た。今後のさらなる検討が待たれる。2) (住谷)CRPS の治療は長期化することが多いため、患者さんが自動運動によって治療に臨 む姿勢が大切になります。それには、自分自身で自分の身体を治す意欲をもつことが大切で あると理解していただく必要があります。医療者側から「効果がないから次はこれ」と次々と 治療を与えるのではなく、ある程度まで進めたらあえて医療者が与える治療をセーブして、 患者さんの自立を促すよう心がけています。5) 外傷や医療行為をきっかけとして遷延する痛みが診療の対象となる場合、身体的側面と心 理社会的側面が関与するのに加えて、治療に携わった医療者の対応によって、より好ましく ない方向に導かれていることが少なくないので注意が必要である。6) 痛みを訴える患者の声に耳を傾けることが非常に重要であることは前提であるが、痛みの軽 減を目的に、効果の乏しい治療を提供する方法だけでは、この第三者行為をきっけとする痛 みの慢性化を予防することはできない。逆に、治療行為そのものが痛み行動の強化因子に なることがあるという事実を十分に知っておかなければならない。6) 治療が一時的な効果しか見られない場合にはその治療を中止する方針を立てておく。さらに その方針を患者が十分に理解し、同意することを事前に確認したうえで治療を開始する。6) ●PECO
P:Eighty-two patients with CRPS-I at either hand or foot
E:i.v. infusion of 100 mg neridronate given four times over 10 days C:placebo
O:The primary efficacy measure was the comparative changes in the VAS 40 days after the first infusion of neridronate in the double-blind phase of the study.
手または足の複合性局所疼痛症候群の患者に対して、100 ㎎の neridronate を 3 日おきに計 4 回静注すると、プラセボを投与する場合と比較して、40 日後の痛みに関する VAS が改善するかど うかを検討した試験であることが分かる。
●妥当か
抄録中に、randomly assigned とあり、本文の Statistical analysis には The statistical analysis was carried out according to the intention-to-treat principle の記載がある。
●結果
痛みの VAS は neridronate 群で 46.5mm 改善し、プラセボ群で 22.6mm 改善した。
Within the first 20 days, visual analogue scale (VAS) score decreased significantly more in the neridronate group. In the following 20 days, VAS remained unchanged in the placebo group and further decreased in the active group by 46.5 mm (95% CI -52.5, -40.5) vs 22.6 mm (95% CI -28.8, -16.3) for placebo group (P < 0.0001). Significant improvements vs placebo were observed also for a number of other indices of pain and quality of life. During the open-extension phase in the formerly placebo group the results of treatment were superimposable on those seen during the blind phase in the active group. A year later none of the patients was referring symptoms linked to CRPS-I.
(参考文献 1 より引用)
50%以上疼痛が改善した場合を responder とすると、NNT は 2.6≒3 人と計算できる。
≧50% VAS score decrease was obtained in 30 neridronate-treated patients (73.2%) vs 13 controls (32.5%), with a 40.7% (95% CI 20.8%, 60.5%; P = 0.0003) treatment difference.
ちなみに、Neridronate は日本では未発売なので、外的妥当性には問題あり。 症例 2 は、後日、一般的な痛みの治療と温浴冷浴を指導したが、あまり効果なかったように思 う・・・。痛いながらもできることを指示していたところ、自然に痛みは軽減(それでも数か月はかか ている)。何が良かったのかは不明だが、状態が良くないと判断されれば、早期に集学的に治療 を行うのが無難だと思う。 参考文献
1. Varenna M, Adami S, Rossini M, Gatti D, Idolazzi L, Zucchi F, Malavolta N, Sinigaglia L. Treatment of complex regional pain syndrome type I with neridronate: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Rheumatology (Oxford). 2013 Mar;52(3):534-42. doi: 10.1093/rheumatology/kes312. Epub 2012 Nov 30. PubMed PMID: 23204550.
2. 眞下節.CRPS/RSD・カウザルギーの治療.BRAIN MEDICAL 24(1): 73-79, 2012.
3. 柴田政彦, 阪上学, 住谷昌彦, 真下節.CRPS の診断基準について.慢性疼痛 26(1): 119-122, 2007.
1699-1705, 2013.
5. 牛 田 享 宏 , 住 谷 昌 彦 , 柴 田 政 彦 .CRPS 複 合 性 局 所 疼 痛 症 候 群 .Practice of Pain Management 4(2): 80-91, 2013.