香川大学農学部学術報告
四倍体Mission Olive砧木が成長に及ぼす影響に就て
野 呂 突 巳次郎
EfEett of tetraploid Mission olive seedling as stock on the growth of the Mission olive tree．
Kimijiro NoRO（LaboratoryofSubtropicalHorticulture） （Received March31，1958） Ⅰ．緒 香川，岡山，静岡各県のオリブの栽培状態を見るに同一畑にて成長に甚だしい差を見るものが現われており，最 も甚だしいのは香川大学農学部前の安倍照の玄関前にあった4年生のMissionで枯木は農学部産のMi＄Sionの実 生物，穂木は加州大学HARTMANNから寄贈されたMissionの1本の穂木から採ったもので僅か4米離れて植え られ，環境は殆んど同一と云ってよい，その2樹の内1樹は高さ約4米以上に達し（第1図A），他の一樹は僅か 1米余に過ぎない状態である（第1図B），次に静岡県商原郡蒲原町塩坂清の畑に植えられてある教本のオリブの 内 Missionの1樹は 安倍宅のものと全く同 様極めて埜性化し，両 者共新案に或種の欠乏 症が現われ且つ又余が 昭和29年来オリブの砂 新試験を2回行ってい るが，第1回の試験は 昭和29年6月に開始し 1ケ年余にて打切り， 第2回の試験は30年9 月より33年3月迄継続 し1ケ年半の成育状態 並に各種欠乏症の状態 を調査し，32年3月に 主幹にて切り返し新柄 を発生せしめた処，第 1，2回の試験も亦同様 同一培養液を使用して いるに不拘同一試験区 にて成長に甚だしい差 を認めた（第2図）． 本試験は各区2本を供 第1図 同一年次に接木した6年生 刷は普通，（B魔性化したもの．
Fig．1．6yearsold Mission tree which those scions are taken from the same shootgifted by Prof．H．T．HARTNANN，Calif．Univ．，U．S．A． A；Normaltree，B；Dwarfish tree 用しNevadilloBlancoに∴Mission を接木した2年生協木を用いたのであって各区の各々に成長に差を見る筈は ない．然るに斯る現象を見たのは後述の如く Missionの実生に四倍体が混じている様に NevadilloBlanco に四 倍体の実生があって夫れが穂木に影響を及ぼし法化せしめたのではなかろうか，疑問として後日の研究に待つの外 がない．後述の安倍宅地内にある壌化したMissionの枯木が四倍体である事を立証したのでNevadilloBlancoで 斯る理論が成立するものと考えられる．その他柑橘にては余（8）は杉山温州が三倍体の柚砧で隻化した事実を確め， 古里（？・3）は四倍体の析敷枯に温州蜜柑を接げば隻化の現象を現わすと称し，WEBBER（1叫ま枯木の系統に依り穂木の 成長が琴化するものと脚こ20数年前に発声している，斯くの如く各研究者が枯木の率統問題を重視している今日
第10巻第1号（1959） Mission並に01由sterの実生薗木の系統問題を重視する必要に迫られ， 菟に系統調査を行うと同時に染色体数を調べるに至った． Ⅱ．実生Missioll苗木の系統 Missionを播種すれば1年生実生には何等菓に異状を認めないが第2年 目に順調に成長した実生簡木は大部分が第3図㈲に示す如く小葉にて節間 短かく群生する傾向を示し，稀に大業にて殆ど栽培種と異ならない葉を生 ずるものがある（第3図A）‘余は前者を小葉系，後名を大葉系と呼ぷ事に した．勿論実生笛木であるから詳細之れを調査すれば数種に分類し得る事 はアテネのSuperiorCollegeofAgricultureのPANETSOSIO）が016aster の実生を幾多の系統に分離し余が許に寄贈されたのを見ても判る． 気孔の分布と孔辺細胞の大きさ 岩佐（5）は大菓析殻が必ずしも四倍体を示すものでなく二倍体と四倍体の 二種あると発表しているが気孔の孔辺細胞の大きさ及び分布状態忙依り大 小葉系統の染色体の倍化は推定出来，気孔の分布が粗で孔辺細胞の大なる ものほ四倍体であると称している． 供試材料並に調査方法． Mission及び01ぬsterを圃場で分離した大小二系統より挿木苗木を養 成し，その1年生笛木を：IIoAGLANDandARNONの標準液にて1ケ年培 第2図 砂耕試験の同一区内にて 成長の異なるもの． Fig．2．Dissimilar growthin Same nutrient solution by Sand culture 養したものから材料 を取った． 気孔並に孔辺細胞 の大小は Sump の 方法で検鏡し且つ新 村の伸長状態を調査 したが，根部は経続 試験の関係上調査を 省いた（7）． 実験結果．予想通 り第4図刷並に第1 表に示す如く Miss− ion の大英系は小葉 系に比し600倍の視 野内の気孔数は遠か に少なく，孔辺細胞 の縦，横経共に大 きく，それに反し 第3図甚大葉系 ㈲／j、葉系 016asterの大小菓両 Fig・3・］Mission seedling
A．Largeleaf strain B．Littleleaf strain 系統には殆ど差異が なく誤差の範囲内と 見て差支えない． 第4図（鮎 大業系Missionの気孔の分布状態 Missionの気孔の分布状態及び孔辺細胞の大小 i Fig．4．eaf。f の相違は岩佐（5）及び古里（2・3）の楷の大中菓系統 1 B：n の相違より薄かに六なるを認めた． Missionlittleleaf由■ain
香川大学農学部学術報告 10
第1表 Mission及び01ぬster実生の大小葉両系統に於ける気孔の分布並に孔辺細胞の大さ
Tablel．Distributionof stomataandsizeofguard cellsof twostrainsof Mission andO16asterSeeding・
／ OLEASTER
MISSION
r′
Lsne 1eaf strain 案 系 系 統 Strユin 名
L盃el慧fs盈in！Li塩。盈sAiJ
調 査 回 数 No．of reseach 気孔の分布 （×600） Distribution of stomata 孔辺細胞 の 縦経Length of guard cell
孔辺細胞 の 厚 さ
Thickness of guard cells
80 17．2 28．2Jム 6．9〝
Ⅱ．染色体数の調萱
供試材料．気孔を調査したものと同一個体の根端を供用し且つ第1図（瑚の旗性Mission の根端を調査し発根次 第に，その根端を用いた． 実験方法．根端を採りAceto・AIcoholにて約14時間固定し，常法にて55％AIcoholに移し随時次の方法で染色 し検鏡した．固定に用いたAIcoho】は95％AIcobolである． 固定した材料を1規定液の塩酸にしたし瞬時援ためて解離した後必ず充分に水洗しAceto−Carmineで染色し， ナスリッケ法に依り検鏡した． 実験緯果．数十枚のプレパラートの内最も中期に近いものを検鏡した．オリブは他の植物と異なり RAMON（1）の 挿図を見るに仁が明に示されてあり，又佐藤（12）与りの通信に依れば植物により後期迄残る事があって仁が見える から中期前と云う事は出来ない．借又残仁の2ケある事をRAMON andFRANCISCO（1】）は報じて局り余は，Mission の大栗系にて斯る現象を一度認めた．オリブで倍数体を発見したのは1953年に同氏等でTuRRILL（14）は】・951年にオ リブには未だ倍数体が発見せられてないと明記してから前記の報告（11）が最初であるまいか．本実験にて初めて Missionの大葉系でゑ殆＝92を数え，夫れと同時に専攻生伊谷は同一供試材料にて2乃＝46を桑田教授の指導の許 に発見した．即ちMixoploidの存在するを認めた（欝5図）．016よsteTの大業系にては明に2n＝46で倍数体は発 Mixoploid 第串図 Fig；5二 A．2n＝92 B．2nニ46室 首 け、智頭
毒 整 掛
ビ・ ■ 第6図 01由sterの大業系の染 色体 2n＝46 Fig，6．Largeleaf strain of O16aster 2n＝46 見せられなかった（第6図）． 本実験は最初に染色体を検鏡し，殆ど同時に伊谷が気孔の分布その他を調べ両方面よりして Mi＄Sion の大業系 は四倍体であり，Oliasterの大業系は二倍体であると確定した．併しMixoploid菓系のと気孔の分布状態との関 係は両者の中間らしいが再検を要する． 既に余（9）が発表した如く核分裂には異状なく，殊に根端にて検鏡した繹果は前回の花粉母細胞の分裂より一層順 調なる分裂を行い一の例外も見なかった． 旗化したMissionの染色体数．前述の如く安倍宅地内の襲化したMission？砧水の根稀を検鏡した．実験方法．前述の方法と全く同じ 実験結果．中期にてRAMON（11）等の．観察したと同じく1ケの残仁を 此の場合にも認めた．同一プレパラートにて幾多の中期が現われ完全に 2乃＝92を数え得た．環念乍ら砧木の為め葉の気孔等の調査は不可能で あらて後日の研究仁待つの外ない． 染色体数の調査には前回同様SAXの文献に随分御厄介になった． Ⅳ．結 オリブの旗化現象が四倍体の砧木に依る事実を認めたのであるがオリ ブは他植物と異なり TtJRRILLは同一花に20，22，24の染色体を数え， 又RAMONはSanAgustinoにて22，23，24の染色体を認め其の比率 が1：2：1なるを報じており全く予想だにする事が出来ない新説を発表 している．余も砂耕した Mission の大乗系にて時々少ない染色体数を 欝7図 変化したMission の根 端の染色体 2n＝92 Fig．7．Dwarfish Mission 2n＝92 認めたが中野以前のものであっ釆カら訝和訳査したかった．前述￠如く 余はMi＄Sionの大業系にてMixoploidの存在するを認めた． TuRRILL（ユ4）の説を佐藤教授（12）に細岡いした処詳細御教示に預ったがMixoploidには二倍体と四倍体の細胞が キメラになっている事があるが花粉母細胞と両方で確めねばならぬが乃＝24があるかも知れないと，DARLⅢGTON （1）はANDERSON研究を引用し01ealaulifoliaは2n＝43があるらしいと報じているからOleaeuropeaeにも遠 からず2乃＝48が発見せられるであろう． Ⅴ．謝 辞 染色体の検鏡に当り育種学研究宝の桑田教授，山本助教授に一方ならぬ御旨導に預り，気孔の調査は専攻生伊谷 博明の労を煩わし，西国のSANCHEZ−MoNGEより貴重な文献の寄贈に預り，大原生物学研究所図書館では貴重な 文献の閲覧を御許しに頃り，東大佐藤重平教授には遺伝学上殊に染色体に就て詳細御指導に預り玄に各位に対し厚 く御礼申す次第である． 摘 要 各地のオリブ園に発育極めて悪しく且つ各種養分欠乏病の現われているのを目撃し，その原因が枯木の系統によ るのではないかと推定し本実験に着手した． 昭和31年に Mission 及び 016aster の大業系並に小葉系を挿し，両者を硝子窒にて砂耕し33年2月に根端に 依り染色体数を調べMissionの大業系にて2n＝92を数え得，且つは同一個休忙で2n＝46を認めMix、Oploidで ある事を確認した．01ねsterの大業系では2搾＝46であった．それと同時に実の気孔を調べた処大業系は一視野 内に14，小葉系では25を数え得た．且つ孔辺細胞の大きさも随分異なり倍数体であると断言してよい．併しMix− oploidと気孔の分布状態匿関係は不明である．016asterの気孔の分布等は両系統間に差異を認めなかった． TtJRRILL（14）の称する様に一花内に20，22，24，の染色体を認めたとの説に就て佐藤教授（1幻は斯る事実はあり得 ない事だが只 Mixoploidの場合には二倍体と四倍休の細胞がキメラになっている事があると， 同一Missionの実生枯木に接木した2本の Mission 内隻化した樹の根端で染色体数を認めた処2n＝92を数 え四倍体である点より考察すれば樹の隻化現象は四倍体の砧木が最も影響している事を立証した．夫れと同時に蟹 化した樹は必ず或種の養分欠乏症を現すのが常であって養分欠乏症の研究には砧木の系統を充分研究せねばならぬ 事を痛感した． （追加），古里（16）は夏蜜柑にてMixoploid並にTuRRILL（14）の見たのと同じ現象を発表している．
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ACKNOWLEDGEMENT
Appreciationisexpressed toprof・KuwADA andAssistant Prof・YAMAMOTOOf the Laboratoryof PlantBreedingfortheirhelpingthisstudy，tO Mr．ITANIforhisassistingtoalarge extentincarrying outthe experiments and to Mr．SANCHEZ−MoNGE，Chf．Plant Breed．Dep．，Estaci6n Experimentalde
Aula Dei，Zarago2：a，Espana，forsendinghim manyvaluable publications．
Libraryof OharaInstituteofAgriculturalBiologypermitted him to readsomeliteratures．Thanks
isalsogiventoProf．SAT6，Tokyo University，forhisvaluablesuggestions．
RESt）ME
There are some dwarfish Mission olive trees（Fig．1）atolive orchardinJapan and those trees
L鱒10巻療1号（1959） 13
Strainofrootstocks hasaneffecton thegrowthofMi＄＄ionolivetrees，and thisstudies werecarriedout． He obtained some cuttingplantof（Fig．3）andO16aster seedlingsofleaf strains，1argeandlittle， and theywere cultivatedin the quartz sandinthe glass hous占．Mixoploid was found（Fig．5）inthe roottipofMissionSeedlingofalargeleafstrain，butin O16asterofalaI官eleaf strain he foundonly thatchromosomeis2n＝46（Fig．6）．
The numberof stomata of every strainin shownin the tableland the numberof stomata of
Mission of alargeleaf strainisless thanin one oflittleleaf strain butthetwo strainsin O】6aster see・
dling havealmost the same number．
Viewingfromtheabove，Writerfound2n＝92and2n＝46inthe same sampleof Mission ofalarge leaf strain，and2n＝46in016asterof alargeleaf strain as stated already．
He、foundalso2n＝92inthetip rootofa dwarfish Mission tree（Fig．3）anditsrDOt StOCkwasa Seedlingof the Mission andits scion，gifted by Prof．Hartmann，Calif．University was the same as the Mission tree＄howninFig．1．A．
