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東日本大震災における企業の地震被害調査

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Academic year: 2021

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5.東日本大震災における企業の地震被害調査

建部謙治・田村和夫・高橋郁夫・内藤克己・小橋 勉

1. はじめに  企業の地震防災力の強化の研究の一環として、大地震発生時の企業被害の予測実現のために、近年に国内で発 生した大地震時の企業被害に関する調査・分析により被害等に関する基礎データの整備を行ってきた。本報は、 2011 年に発生した東北地方太平洋沖地震における中小企業の被害調査・分析によりその実態を把握し、地域間 の差異や他の地震被害状況との比較を行う。 2. 研究方法  東北地方太平洋沖地震における中小企業の被害調査を、岩手県奥州市と一関市を対象に実施した。表1に調査 の概要を示す。調査項目は、従来の調査と同様に、企業の概要、地震被害と回復状況、現在の売上高・生産高の 回復状況、防災管理体制等についてである。調査方法は郵送法により企業に送付し、返答されたアンケートを基 にデータ整理をし、被害の現状を明らかにする。 奥州商工会議所会員企業と一関商工会議所会員企業を合わせて、2010 社に送付したところ、336 社から回答 があった。回収率は 16.7%である(表 1)。 表1 アンケート調査の概要       図1 回答企業の属性「資本金」         図2 回答企業の属性「従業員数」 3.アンケート調査の結果 3.1 回答企業の概要   回答企業の属性をみると、資本金「5 千万円未満」の企業が全体の約 8 割を占めている(図1)。また、従業

1

調査対象 奥州商工会議所会員企業 一関商工会議所会員企業 調査方法 調査期間 平成24年6月下旬~8月31日 平成24年9月下旬~11月31日 調査対象企業数 アンケート回収数 アンケート回収率 調査項目 1.企業の概要について   資本金、従業員数、業種 2.地震被害と回復状況について 4.防災管理体制について   地震後、新たに取り入れた防災管理体制について、現在の防災   建物の構造、建物規模、直接的な被害と間接的な被害の有無、 5.要望、意見記入欄   回復時期、被害金額、売上減少額、営業状況 3.現在の売上高・生産高の回復状況について   業績回復の要因、業績未回復の要因   対策予算の確保について、防災対策予算の推移について 郵送法 2010社 336社 16.7%   2010年度年間売上高、推定震度、地盤状況、建物の竣工時期、

1

55 24 5 1 1 1 13

資本金(%)

1千万円未満 1千万円~5千万円未満 5千万円~1億円未満 1億円~3億円未満 3億円~10億円未満 10億円以上 回答なし 24 2 19 28 20 6 1

業種(%)

製造業 卸売業 小売業 サービス業 建設業 その他 回答なし

(2)

30 員数が「19 人未満」の企業が約 7 割を占めていることから、零細・小企業が多いことが分かる。業種としては、 「サービス業」が最も多いが、ほぼ万遍なく含まれている(図2)。なお、奥州市と一関市の企業属性はほぼ同じ であることから、2地域を合わせて研究を進めていく。 3.2 直接的被害の状況  図 3 は直接的被害を受けた企業の被害項目の割合を示したものである。被害は、「建物などの損壊」が 4 割以 上で最も多い。表 2 は業種別の被害状況を示したものである。建設業は「建物の損壊」が 3 割弱、「建物設備の 損壊」が 1 割強で、他の業種と比べると低めに止まっている。 図 4 は被害からの回復時期を示したものである。「商品・仕掛品・原材料の損壊」、「生産設備の損壊」につい ては 9 割近くの企業が回復していると答えている。一方、「建物などの損壊」は約 4 強の企業が「まだ回復して いない」と答えており、被災企業では工場等の建物修復・再建を後回しにして、ともかく営業、生産再開を優先 的に取り組んだ様子が見られる。    図3 直接的被害の有無      図4 直接的被害の回復時期 表2 業種別直接的被害の状況 図5 間接的被害の有無      図6 間接被害の回復時期  表3 業種別間接的被害の状況 1 13 20 29 42 70 65 58 49 17 15 13 9 生産設備の損壊 商品・仕掛品・原材料の損壊 建物設備の損壊 建物などの損壊

直接的被害の有無(%)

回答なし 無 有 61 58 36 15 13 13 23 14 5 6 9 14 3 8 6 6 3 2 6 6 15 13 20 45 0% 20% 40% 60% 80% 100% 生産設備の損壊 商品・仕掛品・原材料の損壊 建物設備の損壊 建物などの損壊 直接的被害の回復時期 (企業全体) H23.4~6月期 H23.7~9月期 H23.10~12月期 H24.1~3月期 H24.4~6月期 まだ回復していない

1

全体(%) 製造業(%) 卸売業(%) 小売業(%) サービス業(%) 建設業(%) A建物などの損壊 42 44 63 36 50 27 B建物設備の損壊 29 38 13 23 36 15 C商品・仕掛品・原材料の損壊 20 31 50 25 24 4 D生産設備の損壊 13 33 0 2 12 4 1 11 10 33 29 43 10 75 74 53 56 46 74 14 16 14 15 11 16 従業員の被害 事業資金の調達 取引先の損害 納期の遅れ 売上の減少 風評による被害 間接的被害の有無(%) 回答なし 無 有 38 24 23 55 20 24 12 29 21 19 16 4 12 5 20 13 14 4 4 0 2 0 8 4 26 42 23 6 37 64 0% 20% 40% 60% 80% 100% 従業員の被害 事業資金の調達 取引先の損害 納期の遅れ 売上の減少 風評による被害 間接的被害の回復時期(企業全体) H23.4~6月期 H23.7~9月期 H23.10~12月期 H24.1~3月期 H24.4~6月期 まだ回復していない

1

全体(%) 製造業(%) 卸売業(%) 小売業(%) サービス業(%) 建設業(%) E風評による被害 10 14 13 7 10 4 F売上の減少 43 51 50 44 50 27 G納期の遅れ 29 35 13 38 24 28 H取引先の損壊 33 41 50 33 32 28 I事業資金の調達 10 18 13 5 13 6 J従業員の被害 11 1 0 0 3 3

(3)

31 3.3 間接的被害の状況 図 5 は間接的被害を受けた企業の被害項目の割合を示したものである。被害は、「売上の減少」が約 4 割で最 も多い。表 3 は間接的被害の状況を業種別にみたものである。「売上の減少」がどの業種も半数近くある。これ に対し建設業は 3 割弱と低く、「風評による被害」も他の業種より低い。 図6は間接的被害の回復時期を見たものである。「納期の遅れ」の回復が一番早い。「風評による被害」は回 復に至らない企業が多く、現時点でも未回復との回答が 6 割以上を占めている。また、「売上の減少」、「事業資 金の調達」もそれ�れ約 3 割が未回復である。 3.4 回復状況と要因 図 7 は売上高・生産高の回復要因を業種別にみたものである。どの業種も割合はあまりかわらなかった。図 8 は業績の回復要因を示したものである。「受注の回復」が 2 割強で一番多く、次いで「経営努力」、「県内消費 の回復」の順である。地震により低迷した全国の景気回復、県内の消費や景気の回復を挙げる企業も多い。 一方回復途上にある企業の回答をみると、震災による「全国景気の低迷」を挙げる企業が 2 割強と最も多く、 次いで、「県内景気の低迷」が 2 割弱となっており、総じて景気や消費の低迷が業績不振の要因だとしている。 図7 業種別売上高・生産高の回復要因       図8 業績の回復要因 図9 新たに取り入れた防災管理体制 3.5 防災管理体制 図9は新たに取り入れた防災管理体制を示したものである。「緊急時災害マニュアルの見直し」や「防災関連 商品の購入」が 2 割弱で見られたが、「新たな地震施設の導入」がわずか 1%となっており、多額の支出を伴う 対策は必ずしも進んでいない。また、国や県が進めている「BCP の作成」については 2%と認知度の低さや取り 組みにくさもあってかほとんど普及していない。まだ震災からの復旧を果たせていない企業も見られることから、 今後の対応まで手が回らない企業も多いのではないかと推測される。  3.6 被害金額 表4は事業規模別の直接・間接被害金額の内訳を示したものである。直接的な被害を受けている企業は、「100 万円未満」に収まっている企業が多い。しかし、「生産設備の損壊」で「1 ~ 3 億円未満」の企業も見られた。また、 1 22  18  19  17  17  19  46  40  38  50  35  40  22  31  40  33  37  32  8  10  2  11  7  2  2  2  2  0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 建設業(50社) サービス業(62社) 小売業(48社) 卸売業(6社) 製造業(63社) 全体(250社) 売上高・生産高の回復状況 100%以上 ほぼ100% 70~90% 50~60% 50%以下 4 14 4 2 4 8 7 2 9 25 12 9 0 5 10 15 20 25 30 12)その他 11)経営努力 10)資金繰りの好転 9)仕入価格の低下 8)販売単価の上昇 7)全国景気の回復 6)その他 5)生産設備の回復 4)販路の回復 3)受注の回復 2)県内消費の回復 1)県内景気の回復 B. 地震以外 に よ る 影響 A. 地震に よ る 影響 業績回復要因(%) (複数回答可)

1

19 3 2 6 1 10 18 17 5 19 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 回答なし 9)その他 8)事業継続計画(BCP)の作成(注) 7)非常時の経営体制の整備 6)新たな地震施設の導入 5)既存建物の震災改修工事の実施 4)防災関連商品の購入 3)地震保険への加入等、損失補填策の検討・実施 2)定期的な防災訓練の実施 1)緊急時災害マニュアルや関連網の作成・見直し 新たに取り入れた防災管理体制(%)(複数回答可)

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32 間接的被害については、直接的な被害より被害金額が多い傾向にある。特に「取引先の損壊」は額が多い。 表4 業種別金額被害の内訳 表5 岩手・茨城県のアンケート調査の概要       図10 直接的被害の比較      図11 間接的被害の比較 4.茨城県との比較 表 5 は岩手県と茨城県の調査概要を示したものである。両県とも最大震度は 6 弱であった。図 10、図 11 は 直接的被害・間接的被害の割合を示したものである。両県で比較すると、どの項目も茨城県の方が約 1 割程度 高くなっている。特に「風評による被害」では茨城県の方が約 2 割も高い。この理由を明らかにするためには、 各企業の所在地の震度等を詳細に調べる必要がある。 5.結論 本報では、東北地方太平洋沖地震における岩手県奥州市と一関市を対象に被害状況をアンケート調査した。 主な結果は以下の通りである。 ・東北地方太平洋沖地震ではほぼ半数の企業が被害を受け、未だに回復していない企業も多い。特に間接的被害 の回復状況が悪い。 ・間接的な被害額は直接的な被害額より大きい傾向にある。 ・新たに取り入れた防災管理体制では、「緊急時災害マニュアルの見直し」が約 20%と最も多く、国や県が進め ている「BCP の作成」についてはわずか 2%と低い。 ・岩手県と茨城県の直接的被害と間接的被害を比較すると岩手県よりも茨城県の方が被害を多く受けている。

1

100万~ 500万~ 1000万~ 3000万~ 5000万~ 1億~ 3億~ 500万未満 1000万未満 3000万未満 5000万未満 1億未満 3億未満 10億未満 建物などの損壊 117社        57 26 5 6 3 3 0 0 0 建物設備の損壊 81社 64 25 10 1 0 0 0 0 0 商品・仕掛品・原材料の損壊 63社 62 14 10 14 0 0 0 0 0 生産設備の損壊 103社 50 42 3 3 1 0 1 0 0 風評による被害 19社 42 26 16 11 5 0 0 0 0 売上の減少 85社 24 40 11 12 6 2 4 1 0 納期の遅れ 40社 53 20 17 7 3 0 0 0 0 取引先の損壊 42社 31 24 10 12 2 7 2 0 12 事業資金の調達 11社 37 27 9 9 9 0 9 0 0 従業員の被害 15社 40 40 0 7 13 0 0 0 0 100万未満 10億以上 直 接 的 被 害 間 接 的 被 害

1

岩手県 茨城県 対象企業 奥州・一関商工会議所会員企業 石岡商工会議所会員企業 調査方法 郵送法 郵送法 調査期間 平成24年6月~11月31日 平成23年11月25日~12月12日 調査対象企業 2010社 1000社 アンケート回収数 336社 121社 アンケート回収率 16.7% 12.1%

1

13 20 29 42 14 33 39 54 生産設備の損壊 商品・仕掛品・原材料の損壊 建物設備の損壊 建物などの損壊

直接的被害(%)

茨城県 岩手県 11 10 33 29 43 13 18 18 34 35 55 26 従業員の被害 事業資金の調達 取引先の損害 納期の遅れ 売上の減少 風評による被害

間接的被害(%)

茨城県 岩手県

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