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日本の民事執行制度の歴史及び近時の民事執行法改正について-香川大学学術情報リポジトリ

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は じ め に

本稿は, 年=平成 年 月 日,第 回ベトナム法整備支援研修において報 告したもので,民事執行制度のうち,金銭債権を保護するための金銭執行を中心にまと めたものである。 まずは簡単に御定書百箇条より前の状況を紹介すると,以下のようである。 律令時代(大化の改新から平安中期)においては,養老令の第三十雑令 条「公私以財 物条」によれば,債権の取立ての場合には,官司が,債権者が実力をもって債務者の身 体財産を差し押さえることを公許(こうきょ〔=官司による裁判のこと〕)し,債権者が自ら 強制執行を行うことができたのであり,これを強牽(きょうけん)といい,強牽によって 財産がなくなれば,自己の労役によって債務を弁済しなければならなかった。これを役 身折酬(えきしんせっしゅう=みをえきしてへぎむくう)といっていた(瀧川 頁)。これらを 除けば,私的な執行が行われていた(瀧川 頁,石井・概説 頁,牧・概論完成 頁)。 武家封建時代が始まって,室町時代にようやく官憲的差押えが行われるようになっ た。すなわち, 年=永享 年 月 日の「諸人借物事」(史料集第 巻 頁)では, 必要な時に借金するのであり,それを貸すのは芳志の精神によるのであるから,債権者 が催告をしても返済しないのは恩を忘れて理由もなく,正義に反する,ということから, 催促を 度( 日間)に及んでもなお弁済しない場合には,債権者は,政所に訴え出て, それでも弁済しないと,元本と利息相当分以外に,過怠分(げたいぶん)として, 分の を加えた額を政所で取り立てて債権者に交付することになっていた。もっとも,この

日本の民事執行制度の歴史及び

近時の民事執行法改正について

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過怠分の裁判を得ようとして少しの弁償を受け取らない場合は,適用されなかった(石 井・概説 頁以下)。ただし,私的執行が禁止されていたのではなかった。 【引用文献】 石井・概説 石井良助・日本法制史概説( 年,弘文堂) 石井・続 石井良助・続江戸時代漫筆( 年,井上書房) 史料集第 巻 牧健二監修・中世法制史料集第 巻( 年,岩波書店) 鈴木 鈴木正裕・近代民事訴訟法史・日本( 年,有斐閣) 園尾 園尾隆司・民事訴訟・執行・破産の近現代史( 年,弘文堂) 高柳 高柳眞三・日本法制史(一)( 年,有斐閣) 瀧川 瀧川政次郎・日本法制史( 年,角川書店) 田中・増補 田中康久・新民事執行法の解説[増補改訂版]( 年,金融財政事情研究会) 牧・概論完成 牧健二・日本法制史概論完成版( 年,弘文堂書房) なお,明治年間法令全書は,http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/ / 以降で閲覧できる。

江戸時代の御定書百箇条

年=寛保 年に従来の裁判例をまとめた御定書百箇条(公事方御定書の下巻に 掲載されている)によれば,以下のようである。 東京大学法学部法制史資料室所蔵

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一般的な借金の債務不履行の場合の強制執行は,身代限り(しんだいかぎり。身体限りと もいう)によるものであり,御定書百箇条によって,そのことが明確になり,私的執行 も禁止されることになった。 なお,身代限りは,包括的財産を意味して使用されることもあり,債権の強制執行と しての手続を意味して用いられることもある(小早川欣吾「近世に於ける身代限り及分散につい て」法叢 巻 号 頁)。 身代限りの手続前の手続 − − 訴訟の提起前の手続 町人・百姓が民事訴訟を提起するには,その所属する村役人・町役人(これらについて は,http://www.city.shizuoka.jp/koiketei.html「名主の館「小池邸」」および http://www.city.miyakonojo.miyazaki. jp/shimazu/column/ _edomati.htm「 .江戸時代の町役人の役割」参照)を通じて相手方の村役人・ 町役人に申し入れて,両方の村役人・町役人が関与して協議がまず行われた。同じ村役 人・町役人支配下の住民同士では,村役人・町役人のほかに家主などの村役人・町役人 に準じる者も関与し,ここで協議ができなければ,訴訟を提起することになる。訴状に は,原告の所属する村役人・町役人または村役人・町役人に準じる者の奥書が必要で あった。また,期日には,双方の担当村役人・町役人の出頭が要求されていた。 − − 判決 身代限りを言い渡す前の手続として, つの段階でよい場合(本公事に関する債権)と つの段階を踏むべき場合(金公事に関する債権)とがあった(石井・概説 頁以下)。 ⑴ 第 段階 質地滞米金(小作滞りもこれに準じる)の済方に関する債権及び家質金滞(髪結床廻り場所 あるいは舟床書入証文による債務の滞りもこれに準じる)に関する債権については,本公事の債 権といい,金額の多寡によって弁済期限は異なるが,裁判所は,当該期限内に全額を弁 済するべき旨を命じる。これを日限済方(ひぎりすみかた)命令といい,一種の支払猶予 である。この間に弁済がなければ,質地・家質の家屋敷などは債権者に引き渡された (家質につき,石井・続 頁以下)。 ⑵ 第 段階 利子つきの金銭債権や売買代金債権などのいわゆる金公事の債権については, 日 の日限済方を命じ,一部でも弁済があれば,分割弁済(これを切金済方(きりがねすみかた) という)を命じ,債務者より裁判所に 日と 日の月 回提出させ,裁判所から債権者 に交付された。もっとも,その期限内に弁済しないときは,債務者に一定期間,手鎖(て

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じょう)をかけ,病気などのときには,手鎖ではなく,自宅に幽閉した(これを押込め(お しこめ)という)。これらは間接強制の一種であり,それでも弁済しない場合に,ようや く身代限りを命じたのである。 なお, 年=天保 年に,切金済方は債務者が武士階級の場合だけの特殊な手続 となり,債務者が町人・百姓の場合には,切金済方の手続を省略して直ちに身代限りに することができるようにした。その理由は,提訴の数が多くなったことから,幕府が訴 訟としては取り上げない命令である相対済令(あいたいすましれい)や,武士に対するもの は債権そのものを消滅させる命令である棄捐令(きえんれい)を一度ならず発して債務者 保護を図ったため,債権者が高利でなければ金を貸さなくなり,かえって融通がきかな くなったからである。 身代限り 以上の手続を経たうえで,なお未済があれば,裁判所は,身代限りを申し渡すのであ る。 すなわち,普段着以外はすべての財産を取り上げて,債務の額に応じて債権者に引き 渡した。それでも完済に至らない場合には,免責されることはなく,債務者の財産状態 が回復すれば,債権者はその残額を請求できた(石井・概説 頁)。 この場合の執行機関は,債務者の属する町役人や村役人であった(高柳 頁)。両当 事者およびその他の役人も立ち会った。前述の訴訟を提起前と訴訟中の状況からすれ ば,執行機関が村役人・町役人であったのは,自然の成り行きといえる。もっとも,債 権者は,債務者の財産を調査し,債務者と連印した書面である諸色附立帳(しょしきつき たてちょう)を作成し,裁判所に提出するが,この際に役人が立ち会ったので,執行機関 といえるか疑問であるとの説もある(小早川・法叢 巻 号 頁以下)。立会人にすぎず, 自力救済権の存在を認めるべきである,というのである。合法的であったことを担保す るため,同書面の最後に連署させたのではないか,というのである。 そして, 年=天保 年以後は,財産を債権者に引き渡すのではなく,売却して, その代金を債権者に交付することに変更された。

明治初期の執行手続

華士族平民身代限規則 まず最初に制定されたのが, 年=明治 年 月 日施行の華士族平民身代限規 則(明治 年 月 日太政官布告第 号)である。当時のフランス破産法を模倣したものと

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いわれている。 この規則は,身代限りにおける差押禁止財産を新たな身分である華士族と平民とで区 別し,さらに身代限りの簡単な手続を規定するものである。 年=明治 年,江戸 時代の士農工商の身分制度に代えて,華族( 月 日達行政官),士族( 月 日達行政官。 もと武士階級に属した者のうち,一門から平士まで)および平民の 身分制度が定められた。 支払猶予命令である日限済方の制度は, 「凡動産不動産取引之詞訟ヲ審判スルニ原告被告双方之内一方之者負公事ニ決スル 時ハ日切済方申付候上仍ホ不相済ニ於テハ身代限リ申付候方法ニ有之候処自今日切 済方ノ旧法ヲ廃シ一方ノ者負公事ニ相決直ニ済方不相成候時ハ身代限之方法ヲ執行 可致候事」 という 年=明治 年 月 日司法省第 号により禁止され,手鎖および押込めも 年=明治 年 月 日に禁止された(園尾 頁に明治 年とあるのは間違いである)。 − − 差押禁止財産 ⑴ 平民の場合 当該季節に着る服を意味する時服(じふく)と着替え,夜具,本人の職業に必要な物 品,家族の か月分の食用米,鍋・釜および炊事道具である。 なお,本人の職業に必要な物品に関し,職業に必要なものは, 両までのもので, 本人が選択でき,その値段は,貸主と借主の双方からそれぞれ鑑定人を出させ,入札人 とともに入札させて,一番高い値段を町村役人が決定した。 ⑵ 華士族の場合 給料を意味する家禄(かろく),刀,冠と服,時服と着替え,寝具,本人の職業に必要 な物品,鍋・釜および炊事道具類である。 華士族平民身代限規則の施行後すぐの 年=明治 年 月 日(太政官布告第 号),家禄を担保にした金銭貸借の訴訟は,いっさい受理しないことにし, 年=明 治 年 月 日(太政官布告第 号)には,家禄を身代限りによる処分の対象としない ことにした。家禄の生活保障の要素を重視したためである。もっとも, 年=明治 年 月 日(太政官布告第 号)には,翌年から家禄に見合った公債証書を付与すること を決定した。これは,事業資金のため自由に使えるものとして構想されたもので, 年=明治 年 月 日(太政官布告第 号)には,その質入れ,抵当,売買とも制限を 解除した。

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− − 身代限りの公示 裁判所の門前にある掲示場すなわち高札場(こうさつば)と本人宅など か所に 日 間掲示し,新聞を刊行している地では,新聞にも掲載した。 年=明治 年 月 日(太政官布告第 号)には,債権者との話し合いのみで可能な身代限りの取消しを求め やすくするために,公示期間は, 日に延長された。 そして,その期間内であれば,ほかの債権者も配当加入を願い出ることができた。 − − 取戻権 差押禁止財産のうちで,代金未払いの鍋・釜および炊事道具類については,売主は, 一定期限内に提訴すれば,現在着用している衣服・寝具以外は取り戻すことができた。 − − 売却の手続 ⑴ 売却方法 差し押さえた物件は,入札と競り売りのいずれかの方法で売却される。規則上は,入 札払いであるが, 年=明治 年 月 日の太政官達第 号によれば,従来から 入札と競り売りが行われていたことを知ることができる。 ⑵ 貴金属類の売却価額 実価以下での売却を禁止した。 ⑶ 超過売却禁止 負債額と手続費用を満足させる場合は,それ以上の差押物を売却してはならない。 ⑷ 売却品などの公示 入札の 日前から,対象物品,場所,時刻を裁判所門前ならびに本人宅および各地の 集会所に掲示し,新聞を刊行している地域では新聞にも掲載する。 ⑸ 入札手続 貸主および借主から出させた古道具屋なども,他人とともに入札させ,村町役人にお いて,すべての入札を比較し,一番高い札をその値段とし,その金額を現金で取り立て て,裁判所に提出することになっている。なお,質権は一定の要件が備われば優先権を 認められたが,書入(かきいれ)(=抵当権)は優先権がなかった(書入の優先権については争い があり,小早川「近世に於ける身代限り及分散について」法叢 巻 号 頁は優先権を否定,園尾 頁は優先権を肯定)。 ここでいう村町役人が執行機関であることは明確であるが, 年=明治 年 月 日(園尾 頁に 日とあるのは間違い。太政官布告第 号)からは,江戸時代の荘屋,名主, 年寄りなどの村役人・町役人をすべて廃止して,それらを改称して戸長(こちょう)・副

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戸長を設け,原則として戸長が執行機関となった。改称しただけであり,戸長も行政官 であることに変わりはない (http://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/files/bunkashinko/bunkashinko/history-board/hb- .html「 旧永山戸長役場」参照)。 さらに, 年=明治 年 月 日施行の「市制及び町村制」(園尾 頁)により, 戸長が市町村長になり,民事裁判の執行事務は,市町村長とその指定を受けた市町村吏 員が扱うことになって, 年=明治 年 月 日に執達吏規則が施行されるまで, この状態が続いた。 ⑹ 債権証書が発見された場合 年=明治 年 月 日(司法省第 号)から,身代限りの手続中に,債権証書 が発見された場合には,裁判所において,債権者に支払うよう証書に裏書をすることに なった。そして,債権者が複数の場合には,その債権証書をその複数の債権者に競売ま たは入札させて代金を配当し,抵当権設定されているときは,これを優先させ,残りを 配当にまわした(園尾 頁)。債権証書を動産とみていたのである(園尾 頁)。 年=明治 年 月 日(司法省第 号)には,債権者がその証書を欲しない場合 または入札を好まない場合には,債務者に所持させておき,債権者が現金の割賦弁済を 希望することもできるようになった。これ以前であれば,代物弁済の扱いと同じになる ため,証書の債務者の資力によっては,債権者が満足を得られないこともあり,債権者 に酷であったからである。

明治

年代以降の執行手続

欧米諸国からの強制執行手続整備の強力な要請をきっかけに(園尾 頁),司法省( 年=明治 年 月 日設置)は, 年=明治 年 月 日,債務額を上回る財産がある のに弁済に応じない場合に,一部の財産の差押えを認め,職権ではなく,当事者の申立 てによって執行開始をする方向に動き始めた。申立てによるようになった理由は, 年=明治 年 月 日(太政官布告第 号「控訴上告手続」)に,民事訴訟において控訴を 認めることになったので,債務者が不満で控訴をしたのに職権で身代限りを命じるの は,控訴制度の承認と矛盾することになるからである(園尾 頁)。 そしてまた,上訴しないで債務を認める債務者の場合には,直ちに職権で身代限りを 命じることも認めた。つまり, 年=明治 年 月 日に司法省は,訴訟中に裁 判所において請求を認諾した債務者に対しては直ちに身代限りを命じることができるこ とを認めた。もし弁済を命じる判決を言い渡すことにすると,控訴期間が か月であっ たため,現在の仮執行宣言や仮差押え・仮処分の制度がなく,身代限りの申立ては判決

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対象財産 執行機関 動産 有 体 動 産 執 達 吏 債権及び他の財産権 執 行 裁 判 所 不 動 産 執 行 裁 判 所 船 舶 執 行 裁 判 所 確定後にされることとなって,その間に財産隠しをされるおそれがあったことが,請求 の認諾の場合の手続を決めた理由である(鈴木 頁,園尾 頁)。 年=明治 年 月 日施行の「家資分散法」により,身代限りは廃止された(園 尾 頁以下)。

明治民事訴訟法

年=明治 年 月 日施行の民事訴訟法(以下,明治民事訴訟法という)は,強制 執行の手続をも含むものであり, 年=明治 年に招聘されて来日したドイツ人の テヒョー(Eduard Herrmann Robert Techow)の影響が大きく,基本的にドイツ民事訴訟法を模 倣したものとなった。しかし,ドイツ法の制度を採用しなかったところがある。本稿の 関係では,金銭の支払いを命じる判決に一般債権よりも優先権を与えることをしなかっ たことと,強制執行が成功しなかった場合の財産開示の制度を認めなかったことであ る。 金銭執行の対象物 動産と不動産に分け,動産のなかに有体動産と債権及び他の財産権とに分けて規定さ れた。すなわち,個別の特定した財産に対する執行(個別執行)が原則となり,債務者の 財産全体に対する執行ではなくなった。ただし,有体動産については,とくに個別の動 産を特定する必要はなく,執達吏(しったつり)が現場に臨んで差押可能な動産を選別す ることになる。 執行機関 ⑴ 執達吏 条文上の形式からは,原則的な執行機関は執達吏である(明治民事訴訟法 条)。この 執達吏の制度は,やはり当時のドイツの制度にならったものである。執達吏制度は, もっとも当を得たものといわれた制度である(岡八・執達吏規則(明治 年,法政大学) 頁)。

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執達吏という名称は,執達吏の主たる職務である執行と送達のそれぞれから 文字ず つ取ったものである。もっとも,この前,裁判所の構成及びその職員に関する定めであ る「裁判所官制」( 年=明治 年 月 日の勅令 号)では,執行吏という官職を置く ことになっていたが,この執行吏が現実に任命されたかなどは,不明である(法曹時報 巻 号 頁。園尾 頁によれば,「執行吏制度は運用が開始されないまま廃止された。」)。 執達吏は,金銭執行における有体動産に対する執行(明治民事訴訟法 条以下から日本民 事執行法 条以下へ)以外に,債権及び他の財産権に対する執行のうちの手形債権などの 差押え(明治民事訴訟法 条から日本民事執行法 条へ)と債権証書の取上げ(明治民事訴訟 法 条から日本民事執行法 条へ),不動産に対する強制競売における競り売り及び入札 の手続(明治民事訴訟法 条 項から日本民事執行法 条 項へ)も担当した。 ⑵ 執行裁判所 執行裁判所は,債権及び他の財産権,不動産,船舶に対する執行を担当する。 このように,基本的には,観念的執行処分を担当するのが執行裁判所であり,事実的 行為または実力行使を伴う執行処分を担当するのが執達吏である。 ⑶ 受訴裁判所 非金銭執行のところでは,受訴裁判所が,代替執行と間接強制を担当する。執行機関 は, 本立てであった。 受訴裁判所としたのは,これらの執行は,本案に関する続行的判断の側面があるので, 債務名義の記録の存在する受訴裁判所を執行機関とした(田中・増補 頁)。現在の日本 民事執行法では,原則的には同様であるが,受訴裁判所といわずに執行裁判所といって おり,現在の日本民事執行法 条及び 条によれば,執行官(後述のように執達吏から執行 吏,さらに執行官と名称が変更された)と執行裁判所が執行機関である。 不採用のドイツ民事訴訟法上の制度 − − 金銭支払いを命じる判決の優先性否定 江戸時代以来,貸金訴訟が多く,判決で認められた債権に優先権を認めると,さらに 多くの訴訟が提起されることになり,これまでの秩序が乱れることを恐れたのではない か,と考えられている(園尾 頁)。現に,明治民事訴訟法立案当時には,明治維新に よる体制変革の影響で経済が混乱し, 年=明治 年の経済恐慌・大飢饉に加えて 金融制度の未発達から高利の金融業者が急増し,裁判が高利の金融業者による債権取立 ての手段として利用されていた(園尾 頁)。 年=明治 年には,埼玉県において高利金融会社などを打ち壊して放火し,警 官隊を襲撃して憲兵隊(軍事警察を担当していた)と銃撃戦を行う農民による騒乱事件も発

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生していた(園尾 頁)。秩父事件である。 年から 年ごろにかけてのヨーロッ パ大不況の最中に発生した 年のフランスのリヨン生糸取引所(当時,欧州最大の生糸 取引所のひとつ)における生糸価格の大暴落の影響により, 年から 年にかけて 生糸の日本国内価格の大暴落が発生し,養蚕が盛んであった埼玉県秩父地方も影響を受 けたのである。大蔵卿(現在でいう財務大臣)の松方正義による急激なデフレ政策もあいまっ て,身代限りも, 年の , 人が, 年には , 人と 倍以上に激増した (http://www.keihin.ktr.mlit.go.jp/tama/ siraberu/tama_tosyo/tamagawashi/parts/text/ .htm より)。ただし, 園尾 頁の表とは著しく異なる。新受について, 年は , 件で, 年は , 件である。 なお,日本民事執行法 条及び 条では,虚偽債権による配当要求の執行妨害を 排除するため,配当加入できる債権者を原則として確定判決などの債務名義を有するも のに限定した(田中・増補 頁)。 − − 財産開示制度の不採用 債権取立ての手段として裁判が利用されていたことを反映し,判決の執行力を弱める ために,財産開示制度を採用しなかったのではないかといわれている(園尾 頁)。 なお,日本民事執行法の平成 年改正法により,財産開示の手続が追加された(日本 民事執行法 条以下)。

日本民事執行法

明治民事訴訟法における強制執行の規定と担保権の実行に関する競売法とを統一した 法律である日本の民事執行法が, 年=昭和 年 月 日から施行された。 年=明治 年施行の明治民事訴訟法による強制執行の手続は,約 年間にわたり続い たのであり,しかも補足的な改正はあったが,実質的な内容の改正はなかった。 日本民事執行法の立法趣旨 つの観点から新法制定を目指した。 − − 執行の迅速化 不服申立ての濫用と執行の停止による手続の遅延を防止するため,執行抗告の制度を 採用し,執行停止期間につき合理的制限を加えた。

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⑴ 執行抗告の新設(日本民事執行法 条) 従来の即時抗告においては,執行停止の効果があり,抗告の理由の記載も抗告のとき には必要でなく,抗告状は高等裁判所に提出してもよかったため,記録が執行裁判所か ら送付されて,記録もないため執行手続を事実上も進行させることができなかった。そ こで,抗告の理由を具体的に記載した執行抗告状の提出先を執行裁判所にし,不適法な 抗告を執行裁判所が却下できることにした。 ⑵ 執行の停止期間の制限(日本民事執行法 条 項 号,同条 項及び 項) 弁済を受領した文書または弁済の猶予を受けた旨の文書の提出による執行の停止期間 に一定の制限を設けた。 弁済を受領した文書の提出による停止期間は,請求異議の訴えを提起する期間を保障 すればよいことから, 週間に制限した。 弁済の猶予を受けた旨の文書の提出による執行の停止期間は,執行手続の迅速性の要 請と債権者・債務者間の利害の調整から, 回に限り,かつ, か月を超えないものと した。 − − 債権者の権利行使の実効性確保と売却手続の改善 ⑴ 配当要求の制限 債務者が一部の債権者などと通謀して虚偽債権による配当要求をすることを排除する ために,配当要求債権者を,原則として執行正本を有するものに制限した(日本民事執行 法 条及び 条)。虚偽債権であることを第三者が立証することは困難であった。 配当要求のできる期間,すなわち,配当要求の終期を定めることにして,それ以後の 配当加入を禁止した(日本民事執行法 条 項及び 条 項 号。債権執行につき,日本民事執行 法 条)。 ⑵ 適正価額による売却 不動産を適正な価額で売却できるように,最低売却価額を決定するまでの手続を整備 した。 適正価額ということで,最低売却価額が従来より高くなった( %∼ %)ことから, 制度が裏目に出て,当初は,落札事件が %(従来は %)にすぎない地区もあった(四 国新聞 年=昭和 年 月 日「「不動産競売」動きに鈍る」)。 最低売却価額は, 年=平成 年改正法により,売却基準価額に変わった(日本 民事執行法 条)。 一般の市民の参加を可能にするように,入札制度を導入し,実務上は期間入札を原則 として実施し,郵便での入札も可能にした(日本民事執行法 条 項,日本民事執行規則 条

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対象財産 執行機関 不 動 産 執 行 裁 判 所 船 舶 執 行 裁 判 所 動 産 執 行 官 債権及びその他の財産権 執 行 裁 判 所 以下)。買受人が代金を納付しないために再競売が行われることを防止するため,買受 申出人に相当な保証を提供させることにし(日本民事執行法 条,日本民事執行規則 条), 次順位買受けの申出を認めることとして,最高価の買受申出人が代金を納付しない場合 でも,再競売をせずにその次順位買受申出人に対し売却許可の決定ができる途を開くこ とにした(日本民事執行法 条)。 競売場で売却の適正な実施を妨げる行為をした者を排除するため,競売場の秩序維持 の権限を執行官に付与し,妨害者であることが判明すれば,妨害者に対しては売却不許 可決定をすることにした(日本民事執行法 条及び 条 号イ・ハ)。 − − 買受人の地位の安定・強化 ⑴ 買受人の地位の安定 不動産の所有権取得時期を執行裁判所への代金納付の時にした(日本民事執行法 条)。 ⑵ 代金を納付した買受人の地位の強化 代金を納付して所有権を取得した買受人を保護するため,不動産の占有の確保(日本 民事執行法 条),所有権移転登記の実施を迅速にできるようにした(日本民事執行法 条)。 − − 債務者の保護規定の整備 差押禁止動産の範囲を合理化し(日本民事執行法 条),差押禁止債権の範囲も明確に し(日本民事執行法 条),それぞれについて,債務者の生活の保護も考慮して,範囲の 拡大・減縮ができるようにした(日本民事執行法 条及び 条)。 金銭執行の対象物及び執行機関 ⑴ 金銭執行の対象物 金銭執行の対象物は,明治民事訴訟法と同じく,個々の財産であり,個別執行である。 知的財産権は,その他の財産権として,債権執行の例による(日本民事執行法 条)。 「工業所有権,著作権の権利に対する執行手続においては,第三債務者又はこれに準 ずるものがないのが特徴である。…工業所有権,著作権ともに第三債務者のない権利で

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あるから,債務者に対する差押命令の送達により差押えの効力が生ずる(民執 条 項) が,処分制限の効力を第三者に対抗するためには登録原簿に差押えの登録が必要であ り,したがって,差押えの登録が差押命令の送達後にされた場合においても,差押えの 効力は差押えの登録がされた時に生ずるとされている(民執 条 項)」(深沢利一=園部厚 補訂・民事執行の実務〔補訂版〕(中)( 年,新日本法規出版株式会社) 頁)のであり,「工業 所有権,著作権ともに不動産のような流通性がないので,換価については多様な柔軟な 方法が認められなければならない。そうだとしても債権執行の場合と異なり,取立てや 転付という方法は採れないので,債権者は民事執行法 条 項・ 条 項により特 別の換価方法(適正価格(鑑定価格に基づいて)をもって競り売りするか(売却命令)又は債権者に譲 渡するか(譲渡命令)),あるいは管理人を選任して管理を命ずる命令を求める申立てがで きる。ただし,工業所有権について,それが共有関係にある場合には,その共有持分の 譲渡には他の共有者の同意を必要とする(特許 条,新案 条,意匠 条,商標 条)。こ の規定は共有者が変ることによって,その経済的価値に変動をきたす場合があること や,工業所有権については共有者間の信頼関係が特に必要とされている関係上,持分の 自由譲渡を禁じたのであるから,換価の場合には共有者の同意書の提出が必要であ る。」(同書 頁以下) 無記名債権(日本民法 条 項)及び裏書の禁止されていない有価証券は,動産執行の 対象となり,裏書の禁止されている有価証券(裏書禁止の手形・小切手については手形法 条 項及び小切手 条 項)は,債権執行の対象となることが明記された(日本民事執行法 条 項)。 ⑵ 執行機関 非金銭執行のところで,従来は受訴裁判所が執行機関であったが,執行裁判所に改正 された。したがって,執行機関は,裁判所(執行裁判所)と執行官の 本立てとなった(日 本民事執行法 条及び 条)。執行機関の一元化は見送られた。 その後の改正 平成 年= 年 月 日まで 回の改正があるが,ここでは,執行妨害の排除 などの重要な改正について紹介しておきたい。 − − 年=平成 年法律第 号による改正 年=平成 年のいわゆるバブル経済の崩壊により,不動産価格が下落しはじめ, 占有屋などの執行妨害者に金銭を支払って立ち退かせることが買受け価額と釣り合いが とれなくなり,民事執行法上の保全処分の利用が増加した。

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そして,執行妨害を排除するため,引渡命令の対象者の範囲を債務者だけでなく,不 動産の占有者にまで範囲を広げた(日本民事執行法 条の改正)。また,不動産の交換価値 を減少させるような債務者または占有者の行為を禁止するなどの保全処分に違反した場 合に,執行官保管などを命じることができたが,最初から債務者の占有を取り上げて, 執行官が保管する保全処分ができるようにした(日本民事執行法 条の改正)。 なお,担保権の実行の場面では,開始決定前の売却のための保全処分も可能にした (日本民事執行法 条の 。 年=平成 年の改正法の改正により,条文は日本民事執行法 条 になった)。 − − 年=平成 年法律第 号による改正 買受けの申出をした差押債権者のためにも,価格減少行為の禁止などを認める保全処 分の制度が設けられた(日本民事執行法 条の の追加)。 年=平成 年 月には,競売を妨害したとして,大物の占有屋グループの逮 捕が,大きく報道されたりもしている(同年 月 日朝日新聞(夕刊))。 とくに不動産の競売の効率化を目指して, 年=平成 年 月 日には,東京地 方裁判所が民事執行センターを開設し,東京地方裁判所の執行部である民事第 部と 関連部署が民事執行センターに移転した(ホームページは,http://www .ocn.ne.jp/~tdc /)。 これらの 回の改正により,トラブルが減少し,広くて安い住宅として,競売物件を 専門に扱う不動産業者も出てきた( 年=平成 年 月 日朝日新聞(夕刊))。 また, 年=平成 年 月 日から,大阪地方裁判所を皮切りに 年ほどで, 競売物件をインターネットを通じて見ることができるようにされた(ホームページは,http: //bit.sikkou.jp/)。 − − 年=平成 年法律第 号による改正 民法の担保物権の規定と合わせて,日本民事執行法も改正された。さらに権利実現の 実効性を確保するための改正も行った。 年=平成 年 月 日施行された。ここ では,つぎに述べる以外にも,執行妨害に利用されていると批判されてきた民法の短期 賃貸借制度も廃止した(日本民法 条の改正)。 ⑴ 不動産に対する執行妨害の排除 つは,占有屋などを排除するために,保全処分の発令要件を緩和した。すなわち, 従来は,債務者または不動産の占有者の「不動産の価格を著しく減少する行為」を差押 債権者が立証することが必要であったが,価格減少の程度が軽微なことを行為者のほう で立証しなければ,保全処分を発することができるようにし(日本民事執行法 条の改

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正),保全処分の内容を執行官に公示させることができるようにした(日本民事執行法 条 及び 条の改正)。 つめは,占有移転禁止の保全処分を認めて当事者を恒定する効力を付与して(日本 民事執行法 条 項 号ロ及び 条 項 号ロの追加),これらの保全処分が執行されたのち に,その執行がされたことを知って当該不動産を占有した者及びその執行がされたこと を知らないで占有を承継した者に対しても,不動産引渡しの強制執行をすることができ るようにした(日本民事執行法 条の の追加)。 占有者を相手に保全処分ができるとしても,占有者を特定しなければ保全処分の申立 てができなかったため,占有者を次々に入れ替える方法による執行妨害に対処できな かった。そのため, つめとして,執行前に相手方を特定することを困難にする事情が あるときは,占有者を特定できなくても,明渡しを命じることができるようにした(日 本民事執行法 条の の追加及び日本民事執行法 条の改正)。 ⑵ 強制執行の実効性の確保 以下の つは,いずれも,明治民事訴訟法制定の際には採用されなかったものである。 扶養料などの定期金債権による強制執行においては,本人に履行させる必要がある不 代替的金銭債務の不履行が一部でもあれば,弁済期の到来していない将来分の債権につ いても,一括して,債務者の将来の収入に対する差押えをすることができる制度を導入 し(日本民事執行法 条の の追加),さらに 年=平成 年 月 日から,支払能力 があるにもかかわらずその履行をしないときには,少額であっても間接強制を利用でき るようにした(日本民事執行法 条の の追加)。 金銭債権の完全な弁済を得ることができないときには,強制執行の対象となる債務者 の財産を把握するため,裁判所が財産の開示を命じる手続を創設した(日本民事執行法 条以下の追加)。しかし,財産の開示命令が無視されたり,虚偽の陳述をしたりしても, 行政罰である 万円以下の過料という制裁にすぎないことから,その実効性に疑問を 呈する説もある(園尾 頁)。

執行官制度 ―― 執行機関の一元化

執達吏 執達吏は, 年=明治 年 月 日から施行された裁判所構成法 条により創 設され,同日に執達吏規則も施行されて,執達吏制度が開始された。執達吏は,裁判所 に所属するものとして始まった。その職務の中心は,裁判の執行と裁判所の書類の送達 とであった。

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前述のように,ドイツの制度にならったものであるが,裁判所構成法は,ドイツ人の ルドルフ(Otto Rudorf)が中心になって原案を起草したものであって,その関係で,執 達吏の制度もドイツの制度を模範としていたのである。 − − 執達吏制度の特徴 当時の区裁判所に置かれたという意味では官吏といえるが,官吏待遇者といわれるも のであった。すなわち,給与は国から俸給を支給されるのではなく,当事者から受ける 手数料をもってその収入とする手数料制,執務の本拠は所属の裁判所ではなく,別に自 ら役場を設けなければならない役場制,原則として当事者の自由選択による委任によっ て事務を処理する自由選択制が採用されたのである。 ⑴ 手数料制 手数料制をとるか俸給制をとるかは,激しい議論があったが,手数料制の支持者が多 数を占め,手数料制を採用することになった。手数料が一定の額に達しないときは,国 庫から補助した。 手数料制の支持者は,俸給制を採用すれば,執達吏の活動意欲がそがれ,執行の迅速 周到を期しがたいことになる,と主張し,俸給制の支持者は,働きに応じて俸給制を採 用すれば,執達吏が利益に走って苛酷な執行をするおそれがある,と主張した(法曹時 報 巻 号 頁 頁)。執達吏(しったつり)をもじって「ひったくり」と称せられた りする地区もあったようである(法曹時報 巻 号 頁五一)。 この議論はその後も続けられたが,現在でも手数料制は維持されている。 ⑵ 役場制 役場が裁判所の構内に設けられていない場合には,裁判所による監督が不十分であ り,役場の人員・設備が十分に整えることをしないこともある。零細企業といわれ,合 同の役場を設けることができるようになったのも,執行吏に名称変更したのちの 年=昭和 年 月 日からである(法曹時報 巻 号 頁)。 役場制は,後述の執行官制度において廃止された(法曹時報 巻 号 頁以下)。 ⑶ 自由選択制 執達吏は債権者の委任により職務を行うことから,債権者との間に種々の情実が生じ やすいとの指摘がある。また,執行の委任を受けただけでまだ執行に着手しない場合に は,時効中断の効力がない,との最上級審の判例が 年=大正 年に出されていた (大判大正 ・ ・ 民集 巻 号 頁)。 この判例を変更して,執行官への申立ての時に時効中断の効力が生じることが明確に されたのは, 年=昭和 年になってからのことである(最判昭和 ・ ・ 民集 巻

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号 頁)。後述の執行官制度においては,当事者からの委任ではなく,申立てに表現 が変更され,事務分配は,地方裁判所が行うことになった(法曹時報 巻 号 頁)。 − − 執達吏の任用 執達吏として任命されるためには, か月間の修習後の試験に合格することが必要と されたが,官立府県立中学校などの卒業者,裁判所書記採用試験の合格者,判任官(は んにんかん)(=下級の官吏)でさえ試験を免除され, 年=明治 年には,区裁判所書 記(裁判所書記は, 年=昭和 年に裁判所書記官と改称された)は,修習も必要なく任命さ れうるのであった(法曹時報 巻 号 頁)。 なお,執達吏の数は, 明治 年 人 明治 年 人超 明治 年∼ 年 人台 明治 年∼ 年 人台 明治 年∼昭和 年 人台 昭和 年∼ 年 人超 昭和 年 人(最高) 昭和 年 人 昭和 年 人 であった(法曹時報 巻 号 頁)。 執行吏 − − 名称の変更 第二次世界大戦後の新しい日本国憲法のもとでの司法関係の基本法である裁判所法の 施行( 年=昭和 年 月 日)に際しては,執達吏制度をいかにするべきかの議論は ほとんどなかったようであり,執行吏という名称に変更し,裁判所の名称が変わり,従 来の区裁判所から地方裁判所に執行吏を置くことにしたのみであった。 執達吏という名称を廃止したのは,語幹からくる悪印象を取り去るためであり,執行 官という名称を用いなかったのは,俸給制の官吏ではないからである(法曹時報 巻 号 頁)。なお,広辞苑では,「ひったくり」の項目において,「②執達吏をののしっ ていう語。」とある。

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− − 執行吏の任命 執行吏として任命されるためには, か月以上の修習後の試験に合格することが必要 とされたが,学校教育法による高等学校などの卒業者や 級官以上の職にあった者につ いては,試験が免除され,裁判所書記(裁判所書記は,昭和 年に裁判所書記官に改称された) として か月以上執行裁判所の事務に従事した者は,修習も必要なく任命されうるので あった(法曹時報 巻 号 頁)。 年=昭和 年 月 日から施行された国家公務員法における執行吏の地位は, 国家公務員であり,裁判所の職員として,当初は一般職の職員であったが, 年= 昭和 年 月 日からは,特別職の職員として扱われることになった(法曹時報 巻 号 頁)。 なお,執行吏の数は, 昭和 年 人 昭和 年 人 昭和 年 人(最低) 昭和 年∼ 年 人台 昭和 年∼ 年 人台 である。 執行官 年=昭和 年 月 日から施行された執行官法でも,手数料制は維持された が,役場制及び自由選択制は廃止された。 − − 執行吏から執行官へ 俸給制は認められなかったが,執行吏自身による公務員としての自覚の強化,執行吏 に対する世人の認識の変革に資するという意味で,執行官という名称にすることは有益 であると考えられて,執行吏から執行官に改称することになった(法曹時報 巻 号 頁 )。 特別職の国家公務員であることは,執行吏の場合と同じである。 − − 役場から地方裁判所へ 執行官と名称を変えたことから,執行官をできるかぎり一般の裁判所職員と同様に取 り扱うことが望ましい。この観点から,執行官の執務の本拠として従来の独立主体とし て役場を経営するという形をやめ,裁判所にすることにした(法曹時報 巻 号 頁 )。

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− − 自由選択制から裁判所による事務分配へ 特定の執達吏・執行吏を選択指名しての委任から,執行官と名称を変更した関係で, 当事者は国家機関としての執行官に申立てをし,事務分配は,所属の地方裁判所が定め ることにした(法曹時報 巻 号 頁 )。 − − 手数料制を維持した理由 執行官の取り扱う事務,ことに動産に対する強制執行及び競売の事務が,他の一般の 司法事務または行政事務とは著しく異なる特殊性・困難性を有するものである。 俸給制のもとでは,従来以上に多数の職員を採用しなければならないが,必要数の維 持・補給の見込みは少ない。 監督系列をどうするかなどの人事管理を適切に行うことが困難と思われ,また,人事 の停滞と無気力を防止し,勤労意欲と事務能率の向上・持続を確保することが,きわめ て困難である。 主として以上のようなことから,手数料制を廃止して,一挙に俸給制に,あるいは, 一般の公務員なみの俸給と相当額の手数料収入とを両立させることにすることは,困難 であり,結局,手数料制を維持せざるをえない,との判断に至ったようである(法曹時 報 巻 号 頁以下)。 − − 執行官の任命 多年法律に関する実務を経験したものとして一定の俸給表 級以上の職にあったもの などで筆記及び面接試験に合格した者から任命されるが,裁判所書記官であった者また は裁判に関する事務を行うために必要とされる国家試験に合格した者については,筆記 試験の全部または一部が免除される。 なお,執行官の数は, 年=昭和 年 人 年=平成 年 月 日 人 である。 執行機関の一元化 年=昭和 年に司法省が各裁判所,弁護士会,執達吏,商業会議所などに改正 意見を照会し,まとめた改正意見集では,裁判所内または裁判所外に執行局を設けるこ と,執行機関を裁判所とすること,逆に,執達吏に任せるなどの一元化意見もすでに紹 介されていた(法曹時報 巻 号 頁六 頁八・九・一〇・一二・一三・一四)。現在の表

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現に直して,紹介しておきたい。 )裁判所とは別の執行局を設けて,執行官が強制執行を実施する )地方裁判所に執行部を設ける )裁判所書記官が強制執行を実施する )裁判所に一元化し,官吏である執行官に担当させる )地方裁判所判事を執行官として,裁判所書記官がその事務を取り扱う )執行官に一元化する (みたに・ただゆき 連合法務研究科教授)

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