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政策分析とは何か-香川大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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司会者 今日は,先日ご案内させていただきましたように,韓国中央大学の公共人材 学部の許萬亨先生をお招きし,政策分析とは何かという演題で講演会を行いたいと思い ます。ちなみに講演者である許先生につきまして簡単に紹介をさせていただきますと, ご専門は政策分析・評価及び福祉政策であります。もちろん,これに関連して韓国の政 府関係の仕事もなさっており,後はこちらのチラシに書いてあるように韓国の政策学会 会長及び韓国の地域情報化学会会長なども務められました。現在,許先生は, 月から 法学部の訪問教授として日本に滞在されております。また,来週からはアメリカのフル ブライト研究プログラムを受けてアイオワ州立大学に行かれる予定であります。そこ で,アメリカに行かれる前に,今回の講演会を通して許先生の貴重なお話を伺える場を 設けました。また,今日の講演会は許先生から韓国語でお話をしていただき,私の方から 日本語で通訳を行うことにさせて頂きます。それでは許先生,よろしくお願いします。 許 こんにちは。お会いできて嬉しいです。韓国語でお話しさせていただくことに関し て,まずお詫び申し上げます。最初は英語で講演会をやろうかと考えましたが,英語で 長く行うことにより,お互い理解しにくいところもあると思うので,韓国語でお話しさ せていただきたいと思います。次回,もしこういう機会があれば,その時は必ず日本語 でお話しさせていただくようにします。先ほど紹介されたよう私は韓国の中央大学で行 政学,公共政策学を教えています。今日の講演内容は,私が教えている授業内容のうち, 一部を取り出してお話を行う予定であります。ちなみに私は今,韓国の大学で政策分析 と政策理論,この二つの科目を英語で授業を行っております。こちらのスライドに書い

政 策 分 析 と は 何 か

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てありますように,私のメールアドレスを書いてありますので,もし皆さんがプライベ ートで韓国に来ることがあったらぜひメールをください。 今日,お話しする主な内容は政策分析とは何かということです。政策分析を理解する にあたっては,まず政策学とは何かということから進めた方がいいと思います。政策学 についてお話しさせていただきますと,政策学は 年代,ハロルド・ラスウェルと いうアメリカの政治学者から始まったといわれています。ラスウェルは,レジュメに書 いてあるように 年,ポリシー・オリエンテーションという本を出しました。そこ で政策学とは何かについて具体的に論じています。その本の中で初めて policy science, いわゆる政策科学を使い始めたといわれています。彼は政策科学について誰が,何を, いつ,何をやるかという形で定義しています。言い換えれば,政府が国民に対して何を 提供できるかということを,研究する学問であります。 また,ラスウェルは政策科学における つの志向,オリエンテーションを提示してい ます。まず,第一が文脈的志向(contextuality)で,第二に問題解決的志向(problem-oriented) であります。最後に学際的志向(interdisciplinarity)です。最初,文脈的志向につきま して説明させていただきますと,例えば人口政策を想定してみてください。世界大戦以 降,どの国においても人口政策というのは出産の抑制でした。それに対して最近では少 子化ということで,出産の抑制から奨励へと政策的な志向が変わっております。このよ うに文脈的志向というのは,それぞれの状況,時代に応じて政策が目指している内容が 異なっていくことを意味します。つまり,環境が変われば,それに応じて政策も変化す るということになります。 次に政策学は問題解決志向でございます。社会には様々な問題が散在していますが, それに対してどのような解決策があるかについて探求することが目的となります。 最後は学際的志向でございます。例えば,この教室に政策決定者がいると想定してみ ましょう。一般的な失業問題を解決するにあたって,最初に浮かび上がるのは経済学だ と思います。しかし,現実において失業対策は経済学だけではそれを解決できません。 当然,それにかかる議会との関係,審議プロセス,政策の中身などが政策学の重要な テーマとなっています。それに加えて行政に関わるものも対象となります。また,職を 失った人々はかなり精神的にショックを受けます。したがって,それに応じて心理学的 なアプローチも失業対策には当然求められるわけです。このように失業者の問題,失業 対策という一つの社会問題に対しても,経済学,政治学,行政学,あと心理学といった 色々な学問が関わります。したがって政策学では学際的なアプローチが求められます。 政策学は つの分野から成り立っています。 つの分野というのは,政策分析,政策 形成,政策執行,政策評価となります。政策分析とは何かといいますと,社会問題の本

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質を把握するというものです。政策形成は,要するに何をこれからやるかを決めること です。政策執行は定められた目標を達成するということが取り上げられます。最後に, 政策評価では施行された政策がどのような効果を残しているかを評価するものでありま す。このように政策学は つの分野から構成されますが,そのうち,政策分析はその つの分野の中で最も重要な分野だと思います。 そこで,政策分析を取り上げてお話を進めたいと思います。その前に,少し理解しや すくするために,政策分析と政策アドボカシー,この二つの違いについて説明しながら 政策分析について詳しくみていきたいと思います。政策分析は,いわゆる事実を把握し ていく過程であります。それに対して政策アドボカシーというのは何かといいますと, 主張,提案といったものを強調するものであります。ちなみに,政策分析と政策アドボ カシーについて,皆さん自分を照らしてみてください。自分がどういう類型に当たるか, つまり事実を重視するかそれとも主張を重視するかを想像してみてください。例えば, ある問題を捉える際,その問題に関しまして何がそれをもたらしているかという事実関 係,因果関係を把握しようとしている人であれば,政策分析型の人間といえます。それ に対して事実把握の前に何が正しいのか,何が正しくないかということを求める人であ れば,要するに政策アドボカシー型の人間となります。 政策分析を行う際に, つのテクニックが求められております。まず,政策を分析す る技術です。政策分析の技術は,統計的,数学的な技術と密接な関係を持っております。 それに加えて,政策分析においては体系的な調査の進め方が求められております。また, 科学的な知識に基づいて,何がいいかということを判断する能力が求められています。

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それに対して政策アドボカシーでは言葉の使い方,表現能力が求められており,他人を いかに説得できるかという,説得の能力が必要です。最後にそれを実現するために必要 な行動力,勇気といったものが必要になります。このように,政策分析と政策アドボカ シーは現実的に何らかの問題を解決するという目的を持つことに共通しますが,それぞ れの構成要素,必要能力は異なります。 次に,政策分析について詳しく見ていきたいと思います。現実はかなり複雑です。だ から政策分析を行うためには,現実をできる限り簡素化,つまりシンプルにしないとい けません。複雑さをシンプルに,あるいは単純化する作業は,いわゆるモデル化の作業 といいます。その際,政策分析において最も強調されるモデルは,合理主義です。皆さ ん,授業の中で公共選択論あるいは合理的選択について説明をしましたが,それに当た ります。合理主義的な考え方に基づいたモデルは,できる限り現実を縮図する上で,社 会全体を捉えていきます。 例えば,教育と所得の間の関係について考えてみてください。所得,皆さん給料はた くさんもらいたいと思いますが,その所得水準に影響を及ぼしている要因は非常に多い です。そこで,教育と所得水準の間の関係をみるため,諸影響要因を外す上で,所得と 教育の間の関係だけをみていきます。このような過程を,政策分析ではリダクション, あるいはコントロールという言い方をしております。すなわち,政策分析では一部分を 取り出した上で,それを分析してそれを通して全体を読み取るということが行われま す。これが政策分析で強調される,テキストに表示するということであります。最後に 政策分析の作業手法としては,統計モデル,数学モデルといったものが多く用いられて おります。 次に,政策分析の意味についてお話しさせて頂きます。政策分析は社会問題について 深く理解する上で,数学的なモデルを用いて問題解決に向けて公共政策に反映する過程 です。また,政策分析は合理性を志向しており,そこでいう合理性とは社会全体の利益 を最大化するということを意味します。他の言葉で表してみますと,最大多数,最大幸 福であります。したがって,最大多数の最大幸福を実現するために行うのが政策分析で あります。 ここに一つの表があります。これは非常に簡単なコスト・ベネフィット分析を表して いるものであります。非常に複雑なコスト・ベネフィット分析をしても,この表で大体 説明はつきます。したがって,このテーブルを理解すれば,コスト・ベネフィット分析の 全てが把握できることになります。ある社会問題に対して,その解決手段となる選択肢 が つあると想定してみましょう。例えば,選択肢Aのベネフィットは でコストが としましょう。それに対して選択肢Bのベネフィットが ,コストが とします。

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最後の選択肢Cではベネフィットが ,コストが とします。そこで,ベネフィッ トとコストの差というのが純利益といいます。そこからすると選択肢Aの純利益は ということになります。選択肢Bは ,選択肢Cは ということになります。それに 対してコスト 単位を投じたとき,得られるベネフィットがベネフィット・レイショー となります。要するに,これはベネフィットをコストで割ったものとなるわけです。 そこで合理主義的な考え方に基づいてみていきますと,最もいい選択肢はコスト・ベ ネフィットからしてA となるわけです。しかし,政策決定者は,ここで示した政策分 析家の考え方と異なります。日本からすると,最高政策決定者であれば安倍総理大臣で あります。韓国であれば新しい大統領の文在寅さんです。お二人は,便益という側面か らして選択肢を選ぶ可能性はあります。ベネフィットという観点からすると,Cの方が 最も大きいですので,これを選択します。それに対してコストという側面からすると, 最も小さいAを選択するでしょう。それに対して純便益という側面からすると選択肢A となります。しかし,現実の政策決定者は選択肢Bを選ぶ可能性もあります。なぜなら ば,政策決定者本人の価値観あるいは考え方が極端なことを嫌がるということであれ ば,真ん中のBといったものを選択すると思われます。このように政策分析家と政策決 定者の間の選択肢の選び方は異なる可能性が常にあります。政策分析家は合理性を最も 重要視する人であります。それに対して政策決定者側からすると,彼らは現実を重視し ている人であります。 それに関連していくつかの事例を取り上げてみていきたいと思います。皆さん,オバ マケアというのを聞いたことがあると思います。このオバマケアというのは何かといい ますと, 年オバマ大統領が当選してから打ち出した医療保険制度改革であります。 アメリカの医療保険の状況を簡単に申し上げますと,日本と韓国の場合は医療保険とい うものは社会保険で社会保障の一つとして位置づけられています。したがってすべての 人は加入しなければなりません。それに対して民間医療保険となりますと,各自の選択 が重要になります。アメリカの場合は,民間医療保険が基本となります。したがって, 医療保険に対して個人は加入選択権を有しています。 オバマ大統領が当選された 年当時では,アメリカの全国民の 割以上が医療保 険を持っておりませんでした。当然医療保険に加入していない人は,病院に行ったら高 い治療費と医療費を払わなければなりません。もし,医療保険を有していない人が病院 で高い治療費を払えない場合は,アメリカ政府が代わりに払う場合もあります。そこ で, %以上の人が医療保険に加入していないわけですから,アメリカ政府による医療 保険関係支出が毎年増加しており,大きな財政負担となっています。 また,アメリカ国民の個人からすれば,医療保険に加入していない人が病院に行って

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治療を受けた後で,かなり高い治療費を払うことによって破産するというケースも多い ようです。なぜかといいますと,病院に行って治療を受けた後で,その人が払える能力, あるいは資産を有しているのであれば,強制的にそれを払わないといけない仕組みが取 られていますので,治療費を払ってからは生活上かなり苦しくなるということです。し たがってもともと経済的に中間層に位置した人だとしても,病院に行ってから貧困層に 陥るというケースもしばしばみられます。したがって,政策分析家の立場からすると, すべての国民が医療保険に加入することにより,政府の支出も抑制し,各個人の破産, 倒産というのも防ぐことができると考えます。 そこで,オバマケアはすべての国民が医療保険に加入することを目指しています。 もっとも合理的な考え方だと思います。当然,この政策を実現するにあたっては,様々 な抵抗が存在し,反対の声もかなり強かったようです。オバマケアに反対している人の 考え方は,それ自体が社会主義的なアプローチだと批判しています。したがって,反対 の声も強かったので,はたして議会で通れるかという心配もありました。そこで,当時 オバマ大統領はアメリカ全国を回ってオバマケアが何を目指しているかについて説明を 行うことに力を入れました。それで 年間の彼の努力は国会で通ることで実りました。 これは政策分析の観点からして,非常に重要な意味を持ちます。いくら合理的な政策だ としても,それを実現化するに当たっては様々な難関と壁があるわけです。これらを乗 り越えるため,オバマ大統領が選んだのは,政策アドボカシー型のやり方です。このオ バマケアのケースの場合は,要するに先ほど説明した政策分析と政策アドボカシーがう まく合流していい結果をもたらしたという事例になります。 しかし,トランプ大統領が当選されて最初に手を付けたのがこのオバマケアでした。 その際にトランプ大統領が言った,つまりオバマケアに対する批判というのは,この オバマケア自体がアメリカの経済全体に悪影響を及ぼしているというものです。各企業 が,その企業で働いている社員に対して医療保険費を支払うことになりますので,それ によって余計に,企業側からすれば費用が生じる。その結果,経済全体に悪影響を及ぼ しているということです。それに加えて医療保険への強制的な加入を通して各個人の自 由な選択に政府が関わるべきでないと批判がありました。このような批判のもとで,現 在オバマケアを廃止しようと試みようとしています。オバマケア,あとトランプ大統領 のオバマケアに対する行動について第三者の立場からみていきますと,トランプ大統領 も基本的に政策アドボカシー型のやり方をとっているわけであります。

次の事例は,「Cash for Clunkers」という制度です。これは低所得層の新車購入に対す る政府の支援であります。この支援制度もオバマ大統領が実施したものであります。こ の制度の主な内容は何かといますと,古い車を持っている低所得層が新車を購入する

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際,政府が約 , ドルの現金を支援する制度です。この制度は二つの目的を持ってお ります。まず,第一には,低所得層にとっては新しい車を購入できるようなチャンスを 与えるということであります。第二に,新車購入を促すことによる自動車産業の活性化 です。皆さんもご存知のように,アメリカ産業の最も重要なものはやはり自動車です。 したがって,産業活性化に向けてオバマ大統領はこの制度を積極的に活用しました。こ の支援制度を導入し始めてから 年後,デトロイトの自動車工場がかなり活性化された といわれています。各個人が車を買うことによって自動車工場が動かされると。自動車 工場が動かされることによって,当然社会においては雇用が創出される。雇用が創出さ れることによって国民の所得が増えて,新たな購買力が生じるわけです。 このようなサイクルをみると,福祉政策が経済の活性化にどのように結びつくかが理 解できます。要するに,福祉によるサイクル自体が経済政策の一つのやり方であります。 過去 年代の大恐慌を乗り越えるため,アメリカが実施した政策は経済政策で,象 徴的なものがニューデール政策です。それに比べてこの支援制度はそれほど大きくはな いですが,経済的な側面で成功した政策といえます。その成功の背景には,綿密な政策 分析が裏付けられたことがあります。綿密な分析を通して福祉政策と経済政策における 相互補完関係を見出したわけです。 次にはスライドに書いてあるように,政策は果たして誰のためのものかについてお話 しさせていただきます。一般的に政策決定者はこういうことを言います。国の政策は公 益を目指すと言っております。しかし,現実における公共政策は公益だけを求めている わけではありません。個人的にはオバマケアは当然公益を求めるものですが,それに対

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してトランプ大統領はそうではないと思います。そうすると,政策といったものは果た して誰のためのものかということを考えないといけないと思います。このスライドに一 つの図が示されていますが,このグループAは力があるグループであります。それに対 してグループBはAグループに比べて小さな影響力を持ちます。そこでグループAは, 経済を代弁しており,グループBは環境あるいは福祉といったものを代弁するとしま しょう。一般的に福祉政策を考える際に,まずどちらの意見を取り入れるかというと, やっぱりグループAのところに偏っていくのが現実であります。なぜならば,福祉政策 あるいは福祉サービスの質,量を上げるためには民間企業から税負担を多くしてもらわ ないといけないからです。したがって,真の利益,公益を求めるというのは民間企業そ れぞれの企業の利益を最優先,あるいは優先するということになります。 これらが一般的な政治家,政策決定者が持っている考え方であります。このことから すれば,おそらくトランプ大統領もこのような考え方を持っていると思います。公共政 策論において一つの重要な議論としていわれているのが,公共選択論です。ちなみに, 公共政策論における合理性は完全合理性というよりも,制限された合理性を指します。 そこからして,公共政策が誰のためのものかといいますと,公共政策論では政策決定者 のためのものと指摘しています。 いくつかの政策事例を取り上げて考えてみましょう。例えば,新聞などニュースで政 府政策が報じられますが,その政策がはたして公益,市民全体に向けたものか,それと も持っている人に限ったものなのか,それとも持たないものか,あるいは政策決定者の ものなのか分けて考えてみましょう。実際には持っている人,あと政策決定者のための 政策というのはかなり多いです。それに対して,一般的にいわれている公益,みんなの ための政策はかなり少ない方であります。これが要するに公共政策の現実であります。 最後にグレアム・アリソンのメタファーについて考えてみましょう。彼によれば,政 策分析家は合理性を優先しますが,それに対して政策決定者は現実を優先に考えるとい います。そうすると,どうすればみんなのため,あるいは公益のための政策がたくさん 作られるか。そこでやっぱり公益に向けた政策を作るためには市民の力が絶対的に必要 となります。当然,市民の声,公益に対する市民のバランスが取れた考え方といったも のが求められますし,それが活性化されるといい政策が作られると思います。私からの 話は以上です。ありがとうございました。お話はいかがでしたか。あと 分余ってお りますが,何か質問や,今日の話では触れていないですが,別の話でもいいです。ご自 由にどうぞ。

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質問者 ありがとうございます。政策分析について入門の話をされるということで,分 野外の私にとっては考え方の整理にすごく役立ちました。最後のまとめのところでお話 しされましたけども,政策決定者は現実を考えるというふうに日本語で訳して頂きまし たが,現実というのをもう少しわかりやすくお話しいただけないでしょうか。というの が,ベネフィットとコストの話をしていただいたのですが,民間の感覚ではもちろんコ ストの関係でいろいろなものが決定できると思いますが,それに対して政策とか公共と いうものが金勘定では乗りにくいという分野ではないでしょうか。 許 現実の社会では多様な利益が存在するわけであります。したがって,政策決定者は 多様な利害関係について考えないといけません。政策決定者といえば一般的に政治家で すね。公共選択論からすれば,彼らが目指すもの利益,もしくは動機づけは再選です。 これに対して経済界では経済的な効率性が目指されます。このように,政策決定の場で は,様々な考えが錯綜しており,多様なプレーヤーが関わっております。このような状 況からすれば,先ほど質問された現実というのは,政策決定過程に関わっている多様な 利害関係を意味します。 質問者 ご説明いただいた通り,国会議員とか様々な議会の議員さんは次の選挙で勝た なきゃいけない,その中で私たち,さっき説明していただいた市民の声というのは選挙 でしっかりと自分の意見を出すことなのかなと。ただそうなったときに,日本の人口年 齢分布でいくと,年寄りには絶対若い方々が負けるので,若い人の票をもっと大きくし てあげないと,いつまでたっても負け試合になりそうな年数がずっと続くのではないか なと思いました。 許 おっしゃった日本の人口構成や選挙での高齢者と若者の関係は韓国でも同様であ り,これに関して誰の声が果たして公益を反映しているかということになると思います が,難しい問題かと思います。ありがとうございます。 司会者 そうしましたら,私からいくつか質問するという形で進めていきたいと思いま す。私からの質問のまず一つ目は,この間,東京都議会議員選挙が終わって自民党がか なり負けたわけです。それによって国政にも影響するのではないかという話もあります が,それは今後の話で,お聞きしたいのは,安倍総理大臣は基本的に,先ほどの講演の 中でも話したように,日本の最高政策決定者であります。そこで,安倍さんは,個人的 には政策アドボカシー型の人かなと思ったりしますが,一方で経済政策の側面をみる

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と,必ずしもそうでもないかと思われます。それに関してご意見を伺いたいと思います。 二番目としては,韓国でも今新しい大統領が誕生しました。それに対して期待もかなり ありますが,今後の日韓関係につきまして,どう思っていらっしゃるかということをお 聞きしたい。この二点,お願い致します。 許 まず,一つ目の質問です。安倍総理大臣に対してはやっぱり国内の問題と国外の問 題を分けて考える必要があるかと思います。国内の問題,国内政策に対しては日本国内 でかなり人気があるようにみえます。私が経済を専門としているわけではないですが, アベノミクスに対しては,バブル崩壊後, 年, 年続けられてきた経済停滞の問題 をある程度乗り切ったのでないかと評価しております。景気対策を通して経済を活性化 していくという経済的なやり方はどの国でも行われていますが,その中で最も成功し た,あるいは少なくとも一定の成果を残しているのが日本のアベノミクスかなと思いま す。私は 月からここで暮らして来ていますが,一つ驚いたのは日本の物価が予想外に 韓国の物価より安いことです。一般に景気対策というのはお金を流して物価を上げると いわれますが,現状をみると,アベノミクスの実施にもかかわらず,物価がそれほど上 がっていない。したがって日銀は物価が上がらないことからアベノミクスがまだ成功し ていないと評価しています。しかし,韓国の現状をみると,必ずしもそういえないと思 います。韓国においても日本と同様なやり方を通して景気対策を行っています。しかし, 韓国では物価だけが上がり,経済全体は伸びていません。失敗に終わったといえるわけ です。これに対して日本の場合は物価もある程度安定しており,経済も成長していると いうことからすると,アベノミクス自体は成功していると個人的には把握しておりま す。 それに対して国外の政策につきましてお話をしますと,安倍総理大臣の対外政策は, 国際社会における 藤を調整あるいは緩和するというよりも,むしろ緊張関係を高めて いくような政策をとっているのでないかと思われます。とりわけ周辺国の韓国,中国と の関係をみていきますと,以前の政権と比べて緊張関係がかなり高まっているというこ とは事実であります。そこからすると,国内政策に関しましてはその効果が期待できる ものの,それに対して対外政策ではあまり効果は上がっていないということになります。 これに関してはおそらく皆さんと私の意見は食い違っているかもしれません。そこで, 安倍内閣あるいは総理大臣に対する評価となりましたが,最初の質問に戻りますと,国 内政策に関しては政策分析に近いといえます。それに対して対外政策の特性,合理性だ けを求めることが難しいことからすれば,政策アドボカシーに近いと思われます。 二番目の質問につきましては個人的な感想を述べさせていただきます。 月にここに

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来ていろいろ感じたこともありますが,実はその前までは日本という国についてはそれ ほど知りませんでした。ここにきて最初に感じたのは,隣の国という印象もあり親密な 感じですし,さらに周りの人をみてもとても優しいということです。半面,歴史問題も ありますので,やっぱり両国が歴史の関係で共有しないといけないものがたくさんある かと思います。その中,今までやってきたように一般の交流ということを大事にしなが ら,両国の共通項を広げていくことが求められます。さらに,日韓関係においていえる のは,日本と韓国の関係がよくなると,東アジアの全体に大きなプラスとなりますが, 両国の関係が悪化すると,かなり危うくなるというのは間違いありません。そういう意 味で私個人としても韓国に戻ってからも,日本で知り合った人を紹介させていただき, そういう声を広げていきたいと思います。最後に皆さん,ぜひ韓国に来てください。こ れからも日本に頻繁に来ると思いますので,よろしく御願い致します。 司会者 今日は以上であります。改めて許先生に拍手をお願い致します。ありがとうご ざいました。 (ヒョ・マンヒョン 韓国中央大学公共人材学部教授) 【編集注】 本稿は,平成 年 月 日に行われた香川大学法学会講演会の記録である。

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