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いじめられ登校拒否傾向に陥った女子中学生への感情表出トレーニング適用事例の検討

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Academic year: 2021

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(1)

い じめ られ登校拒否傾 向に陥 った女子 中学生

へ の感情表 出 トレーニ ング適用事例 の検討

稲 垣 応 顕 Abstruct 部活動集団内でい じめの対象 とな り,登校拒否傾向を示 した女子中学生に対 して, 筆者が開発を進 めている感情表出 トレーニ ングを継続 して適用 した。適用 に際 して は,従来 の トレーニ ングに "介入"の概念を新たに導入 し, また, ``今週 の3大 目 標 "の設定 とそれに対す る自己評価を手続 きに加 えた。12回 に渡 る トレーニ ング継 続の結果,本事例 に歪 め られた感情 の表出および自己省察 の深化を経て,感情のポ ジテ ィブ化 と外向化が示唆 された。 ただ し,今後 の課題 として, い じめを行 う生徒 に も他者受容 を促す支援策を検討す る必要があることや トレーニ ングの集団適用へ 向 けた検討 を行 う必要 のあることなどが指摘 された。 キーワー ド :感情表出 トレーニ ング, い じめ,介入 Ⅰ は じめに

1

.- 問題 と目的-中学生時代 は,一般 に青年前期 に位置 し,

Er

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ks

on,E.H.

(

1

9

5

9

)

が述べ る 「本格 的 な 自我同一性 の獲得

p.

1

5

3

に向け,「親か らの精神的離脱」が発達課題 とされている (高見

1

9

9

6

)

。 そ こで は,正木 (

1

9

8

7

)

が述べ るよ うに,同性同輩者 との関係 が とりわ け重要 と な る。 なぜな ら,小林 ・竹之内 (

1

9

9

4

)

が指摘す るよ うに,彼 らは仲間 とい うヨコ関係 の 中で 「個性 を自己表現 し」,互 いの共通感覚

(

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e

)

を基盤 と しなが ら, 自己 の妥当性 を確認 し自己実現の可能性を模索 していると考え られ るか らである。筆者 は, こ のよ うな同年同輩者集団の重要 な

1

つに部活動 (-クラブと同義)集団を とらえている。 それは,部活動集団が,部員

1

1

人の自由意思 によ り形成 されていること,仲間同志 で 共通 の 目的を有 し活動 を共 に していること,一定の規律遵守 が求 め られていること, など か らも確認で きるであろう。都築

(

1

9

8

4

)

は, 中学生 にとって部活動での様 々な体験が精 神衛生 に大 きな影響 を及 ぼす こと, また中学時代の部活動体験 が青年後期の自尊感情

(

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e

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m)

と関連 のあること,を示唆 している。

(2)

ところで, これまで述べてきたことを逆説的にとらえれば,部活動集団内における対人 関係での挫折体験 もまた,中学生の精神衛生や自我意識 に大 きな影響を与えることが予測 される。 大塚 ・稲垣 (

1

9

9

4

a) は,基盤 となる仲間集団において円滑な対人関係が継続 し て持てない生徒が, 自己への引きこもりに陥 り, 自我葛藤の中で自己および他者 に対す る 強度なネガティブ感情である 「歪め られた感情

(

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を強 め る傾 向に あることを指摘 している。 そ して,それが重篤な場合,彼 らは,根 こぎ感

(

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, 自己成立の自明性を構成す る共通感覚の欠如

(

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, 自我 同一 性の拡散

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on)

の悪循環をきた し,非社会 的 また反社会的な問題行動 を 生 じさせる, とも示唆 している (稲垣 ・犬塚

1

9

9

5

a)。一方,福井 ・伊藤

(

1

9

8

7)

は 「思 考,知覚する時に感情の情報が伴わないと 『自分がある』 とい う確信が持てない」 と述べ ている。 また,佐治 (

1

9

9

6

)

は 「人間の理性が正 しく働いているな ら,そ して彼の認知能 力が充分ありそれが誤 りな く機能 しているな ら人間は健康な生活が送れる, という考え方 は人間の感情の世界の持っ比重の大 きさを忘れている

p.

9

9

と指摘 している。本稿で は, それ らの先行知見を支持 し, また,それ らの考えを基礎 に検討を進めてい く。 そこで本研究では,所属す る部活動集団注1)内でい じめの対象 とな り, その結果, 非社 会的問題行動 としての登校拒否傾向を示 した女子中学生 に対 し,筆者が開発を進めている 感情表出 トレーニ ング

(

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on:

以下

TEE

と略記) を継 続 して適用 し,彼女の感情変容を促す ことを第

1

の目的 とす る。 また,その感情変容の過 程を明 らかに し,

TEE

の有効性 について検討す ることを第

2

の目的 とす る。

2.

感情表出 トレーニングの特性 と本研究での改良点

TEE

とは,

Ge

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,

E.T.

(

1

9

6

1)の体験過程

(

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と焦点づけ (

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を背景理論 として,感情表出分類表の作成を促す という行動主義的手法,受容 ・共 感 ・積極傾聴を重視する

Roge

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,C.R.

(

1

9

5

7

,

1

9

5

8

)

の来談者中心主義的手法, 自己省 秦 (-自己- の直面化) により自己の本来性注2)-の立 ち返 りを促す内観主義 的手法,エ ゴグラムを分析の尺度 として用いるという精神分析的手法,を取 り入れた折衷主義の手法 である (稲垣 ・犬塚

1

9

9

4b)

。そ して,前述の歪 め られた感情 によ り自己の限 られた準拠 枠 に引きこもっている生徒に対 し,その感情を表出 (解放) させ,整理 とポジティブ化お よび外向化を促 し, さらに精神的自立 と自我同一性獲得への気づ さを支援す ることを目的 としている。筆者 は,基本的にそれ らの知見を踏襲 しなが ら, 本研究での

TEE

実施 に際 してさらに改良を加えた。すなわち,

TEE

の効率化をね らい,①介入

(

i

nt

e

r

v

e

nt

i

on)

の 概念を導入 したオープン トーキ ングを行 い,②毎回の

TEE

3

大 目標 を設定す るよ う生 徒 に促す と共 に,前回設定 した

3

大 目標についての達成度を自己採点 させ る, という改良 を試みた。 - 2

(3)

6-(丑 介入 についての理念検討

Er

i

ks

on,E.H.

(

1

9

6

8

)

が述べ る 「青年期特有の課題 に直面 している自我 には,絶封欠 くことので きない支持

(

s

uppor

t

)

が必要である」 という知見 は,全面的に支持 で きる も のである。稲垣 ・犬塚 (

1

9

9

5b)

は,

TEE

の基本姿勢 として 「寄 りそい

(

t

owar

dne

s

s

)

を掲 げている。 ただ し,同時にその言葉を漢字で書 く場合 「寄 り添 い

と 「寄 り沿 い」 の 両者が当てはまることも指摘 している。前者の 「寄 り添い」 とは,

Roge

r

s

,C.氏.(

1

9

5

8

)

以来一般 に知 られている,無条件での全面受容 と共感 を意味す る。換言すれば, この概念 は,かけがえのない人間 ・生命 としての生徒 自身をまるごと受 け入れるとい うことであろ う。 一方,後者の 「寄 り沿 い」 について筆者 は,増田 ・森田 (

1

9

9

5

)

の面接場面でのカウ ンセ ラーの姿勢 に関す る知見を踏 まえ,生徒 自身 というよりもその生徒が抱える問題 また 問題行動 を対象 として,冷静かっ客観的に適応への推進を支援す る意味合いを有 している と考えている。

TEE

では 「寄 り添い」 と同時に,「寄 り沿 い

の姿勢 も重視 している。 そ こで筆者 は,本研究 に際 し介入の概念 に注 目した。渡辺 (

1

9

9

6

)

は,近年の米国 カウンセ リング心理学の動向 として 「カウンセラーの専門的行動 について援助

(

he

l

pi

ng)

よ りも 介入

が多 く用い られている現状を報告 している。 そ して小沼 ・勝村 ・吉田 (

1

9

9

4

)

は, その概念 について①生徒が人間 として生 きることに気づ くよう働 きかける,②相手 を尊重 しつつ も指示を辞 さず,受容 しつつ も指示をす る,③共感的理解の域を出て,問題解決的 思考の指示 にも及ぶ,④実存的 自己の受容への援助を行 う, という特徴を掲 げている。 ま た, それ と関連 して, いのちの電話連盟

(

1

9

8

6

)

は,危機介入 について 「迅速で効果的対 応を行 って危機を回避 させ ると共 に,適応を推進 させ る治療手法

p.

5

3-5

4

であると述 べ ている。以上で掲 げた知見 は,介入 とい う手法が生徒たちの感情や行動 にフィー ドバ ック

(

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e

e

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k)

効果を与え,同時にフィー ドフォワー ド

(

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e

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or

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d)

の働 きを促す こと を示唆 している。筆者 は, これ らの知見 と共 に自身の臨床経験 を振 り返 り,生徒たちの精 神的 自立 に対 して,時 は待 って くれないと痛感す る機会の多いことを思 い出す。 これは, 今, 目の前 にいるこの子供をどうす るのか, といった行動主義 の理念 と共通す るもので も ある。一方,稲垣 (

1

9

9

5

)

は,歪 め られた感情を表出 し始 めた生徒たちが, 自己中心的な 発言 を長期 に渡 り繰 り返す傾向のあることを指摘 している。 この現象 は,問題を抱える生 徒 たちが,寄 り添いを前提 とした受容や共感 に包 まれることで,一般 に転移性治癒

(

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e

)

といわれるカウンセラーに対す る依存 を示す ためだ と思 われ る。 筆者 は,支援の過程 にある生徒の依存 と自立 は対立概念ではな く,依存- 自立 という連続概念 であるととらえている。 しか しなが ら,

Jame

s

,

M.(

1

9

7

3)

は 「過剰 な依存性 は,分析 時間の延長,治療回数 の増大,治療期間の延長, さらに治療関係の持続など患者の期待 と 要求をますます増大 にす ることになる

p.

3

と指摘 し,長期間の支援 が カウ ンセ ラー と生 徒 の関係および支援の目的を暖味に して しまう危険の強 いことを示唆 している。

(4)

そこで本研究では,TEE後半で行われるオープ ン トーキ ングにおいて, 従来 か らの ト レ-ナーの自己開示やオープンクエッションに加え,①生徒の自己中心的な発言 に対 し, 将来的にそれをどうしたいと思 っているのかを複数の選択肢を例 として掲げ,感情のフィー ドバ ックとフィー ドフォワー ドを促す,②行動その ものではな く広い意味での指示を出す ことで,内観的要素 としての感情のフィー ドバ ックと同時にその整理を促す, という働 き かけを意図的に試みる。 ただ し,稲垣

(

1

9

9

6

a)が述べるように 「指導 (支援) には,そ の順序性が重要」であり,「青年期生徒の特性や不安定な感情を無視 した指導 が何 ら効果 的な結果を もた らさない」 ことが考え られる (稲垣

1

9

9

6b)

。 さらに,生徒 の感情 は日々 不安定に揺れ動 いていることが推察 される。 したが って, カウンセラーと生徒の信頼関係 の度合やTEEによる歪め られた感情の表出度や自己省察の深化 の度合 い, "今, ここで" の生徒の状態を読み取 り,前述の 「寄 り添 い

と 「寄 り沿い」をうま く組み合わせ ること が必要であると考えている。 ② 今週の

3

大 目標設定についての理念検討 筆者 は,前述の通 りTEEの最終的な目的を, 自我同一性獲得への気づ さを促す ことに おいている。 そ して,その過程での重要な要素の

1

つ として時間的偏 りの緩和をとらえて いる (稲垣 ・大塚

1

9

9

4

b)。 しか も,それが促進 されれば①で述べたよ うに生徒 たちの感 情や行動 にフィー ドフォワー ド的な働 きを円滑に促す ことも可能であると考えている。 こ の ことに関連 して,

Jame

s

,

M.

(

1

9

7

3

)

は 「我 々人間 は, 時間か ら逃 れ ることによ り破 滅を回避 しようと努力 している

p.

8

と述べ,犬塚

(

1

9

8

9

)

も何 らかの問題 を有す る生徒 が過去,現在,未来のいずれかの時間に気持 ちを執着 させ,現実 との時間的断絶をきた し ていると指摘 している。 すなわち, これ らの知見 は,歪 め られた感情を強めた生徒 たちが ナルシズム的な世界に入 り込み,現実の時間を拒絶す ることで現実社会 との関係を絶 ち, 自己の孤独感や不安を軽減 させていることを示唆 している。 しか し,そのような引 きこも りは 「自分 にとっての唯一の世界を自分 自身 に限局 しく中略>主客の別を失わせ,対人関 係 における共通感覚を欠如 させて しまう」 ことも示唆 されている (稲垣 ・犬塚

1

9

9

4

b)0 我 々が人間 として活 き活 きと生 きるためには,現実の時間 と自己とを切 り離す ことはで き ない。 この問題 に対 しては,従来のTEEで も感情表出分類表の感情表出領域を (+)・(-) の感情領域 と同時に過去 ・未来の感情領域を設 け,時間的偏 りの緩和 に向けた条件設定を 行 ってきた. しか し,週1回のTEEにおいて,生徒 は感情表出カ- ド (以下,特別 な場合 を除 きカー ドと略記)の記入の後,分類表作成のために毎回新たな用紙を渡 される。 した が って,前回のTEEと当日のTEEとの現実的な時間のつ なが りが希薄であ ることは, 筆 者 も感 じていた。そこで,

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(

1

9

8

5

)

の 「混乱 している場面 で も,一度特 定の目標が立て られれば,それ らの状態 は短期間のうちにみるみる自発的に解決へ向か う

p.

1

0

という指摘や,藤井 ・上地

(

1

9

9

2

)

の時間制限心理療法,松原

(

1

9

8

7

)

の生活分析 - 2

(5)

8-的カウンセ リング, また犬塚

(

1

9

8

7

)

の行動 目録法 に依拠 しなが ら,

TEE

の初 めに前回 自分で設定 した

3

大 目標 について自己評価をさせ, また最後に今週の

3

大 目標を設定する よう促す ことを試みる。なお, この目標 は "自分なりに"を前提 とし①生徒に現実時間の 連鎖を実感 させること,②問題 となっている感情の焦点化を図 ること,③ 自己省察 (-自 己への直面化)を促進す ること,を目的 とする。

事例検討 1.対象生徒 (K子)の概略 対象生徒であるK子の概略を,(表1)で示 した。 表1 対象生徒 (K子)の概略 学年 ・年齢 ・性別 :公立中学校2年生。14歳。女子。 主 訴 :い じめによる登校拒否傾向。 家 庭 環 境 :祖父,父,母,K子,弟。姉弟仲はよい。 生 育 歴 :① 乳幼児期--体調 を崩 しやす く, よ く風邪を引 き幼稚園を休む。家族 か らは溺愛 され る。 ② 小学校--・6年生の 2学期 に女子 7人か ら無視,仲間外れなどのい じ めを継続的に受 ける。 ③ 中学校1年・--・2学期 より部活動内で同学年 の女子か らい じめを受 け る。10月以降,月の欠席 日数が10日前後 となる。 ④ 中学校2年--一時, い じめの対象が他の子 に移 り,欠席日数が減 る。 しか し, その子が登校拒否 になると再 びい じめの対象 となる。2学期は, 全体の3分の 1, 3学期 は全体の 3分の 2の日数を欠席す る。 性 格 ・ 特 徴 :① 礼儀正 しく,生真面 目である。 ② 何 ごとに も真剣 に取 り組む反面,融通の利かない面が見 られ る。 ③ 自分の感情 を押 さえ込む ことが多 い。 ④ 学業成績 は, クラスで中の上 に位置 している。 *以上 は,初回面談時の状況および母親か らの聴取 による。

2.

研究方法

1

4

5

-5

0

分の

TEE

を原則 として週

1

回継続 して実施 した。期間は,

1

9

9

5

4

2

6

日∼ 同年

7

1

8

日,

TEE

による支援の回数 は計

1

2

回であった。

-2

9

(6)

-3.

分析方法 (1) 客観的内容の尺度

;K

子の感情変容を客観的にとらえる目的で, エゴグラムテス トと バ ウムテス トを初回面談時 と最終面談時 に実施 した。 なお, エゴグラムテス トは,構成 的な心理 テス トであ り生徒 の感情の表層面 を探 ることを, またバ ウムテス トは非構成的 な投影法 としての心理 テス トであ り生徒 の感情 の深層面 を探 る目的で実施 した。 (2)主観的内容の尺度 ;K子の感情変容 を主観的にとらえる目的で,感情表出分類表 (以 下特別な場合を除 き分類表 と略記) の内容変化 と共 に, オープ ン トーキ ングでの会話 を すべて録音 し,逐語録分析を行 った。

4.TEE

の手続 き (1) 指導室内で, トレーナーと生徒 は,対面法の位置関係を取 り座 った。

(

2

)

前回の

3

大 目標への自己評価 :

TEE2

以降,前 回 の

TEE

で設定 した

3

つ の 目標 につ いて,100点満点で 自己評価す るよう促 した。

(

3

)

カー ド記入 (過去) :前回の

TEE

か ら今 日までの出来事 や考 えて いた ことな どと, それに対す る喜怒哀楽の感情を,思 いっ くままカー ドに記入 させた。

(

4

)

カー ド記入 (未来) :

(

3

)

と同様 に,今 日の

TEE

終了時か ら次 回

TEE

までの行動予定 や,未来 に向けての思 い ・気 にな っていることなどと,それに対する希望 ・期待 ・不安 ・ 恐れなどの感情 を思 いっ くままカー ドに記入 させた。

*(

3

)

(

4

)

は,制限時間をそれぞれ

5

分 とし, その間の質問や発言には原則 として答えなかっ た. また, カー ドには単語 カー ド程度の大 きさの付等紙 を用 いた。 (5) グルー ピング :書 き出されたカー ドを (+) と (-)の感情別 に分類 させた。

(

6

)

領域 ごとに, 自分 にとって感情 レベルの深 い順 に重みづけをさせた。 (7) 感情表出分類表の作成 :大 きめの画用紙 を用 い,領域別 ・テーマ別 にカー ドを糊付 け させた。 ただ し,生徒が どの領域 にカー ドを分類 してよいか迷 った場合 は,言葉がけに よる支援 を行 った。 また,感情の分類が不可能 なカー ドについては,別枠 として分類不 可能の領域を設 けた。

*

(5)∼(7)に10-15分 を設定 した。 (8)完成 した分類表を基 に,稲垣 ・大塚 (1993)がオープ ン トーキ ングと名づ けた対話 を 行 った。 *(8)の時間は約15-20分 を設定 し,その間の会話 は録音 した。 (9)

TEE

全体 の振 り返 りを促 しなが ら,今週 の

3

大 目標を設定 させた。

(

1

0

)

TEE

継続 の強化 として激励を与 え,次回のアポイ ン トメ ン トをとり

TEE

を終了 した。 -3

(7)

0-5.

結果 と考察 本稿 において は,

TEE

3

期 に分 けた上 で, カー ド内容 と発言 内容 , バ ウムテ ス ト, エ ゴグラム,

3

大 目標 の変容, につ いて結果 を掲 げ考察 を加 えてい く。 なお,考察 の視点 は

K

子 の感情変容 の経過 においている。 そ して,

3

大 目標 の変容 につ いて は, その 自己評 価 と共 に全文 を巻末 で資料 と して掲 げた。 また,以下 の文 中の

『 』

は分類表 に書 き出 さ れたカー ドおよび

3

大 目標 を,

K

子 の発言 中の< > は トレーナーの発言 を示 している。 初 回面談 母親 と共 に来室 した

K

子 は,全体 と して うつむ きかげんで, トレーナーの問 いか けには 「はい

「いいえ」 や一文節 の短 い言葉 で応答 していた。 そ して, その度 に,母親 が

K

子 に 「そ うだよね」 と念 を押 しなが ら補足説 明を行 っていた。

K

子 と母親 の訴 えを要約す ると, 図 1 初回面談時 のバ ウムテス ト ①K子 の居住す る地域で は,小学校 の同級 生全員がそのまま同一の中学校へ入学する, ② その学校で は, ここ数年 い じめが流行 し ている,③ い じめる側 は,小学校高学年 か らのボス的存在 のグループ

7

人 で, その他 の生徒が順 々 とい じめの対象 とされている, ④ い じめの内容 は,無視 ・仲間 はず し ・陰 口 ・強引 に物 を借 り返 さないなどである, ⑤他 の クラスメー トは,次 に自分が対象 と な ることを恐 れその

7

人 の言 いな りにな っ ている,⑥K子 は自分で もこの先 どうなる のかが不安 であ り, また どう してよいのか が分か らない,⑦学校 はそれに対 し何 ら対 応 して くれない, とい うことであ った。 ト レーナーは,始 まりのあることには必ず終 わ りがあること, い じめに対 して は自分 を しっか り持 ち精神的 に強 くな る必要 がある こと, を伝 えた。 その上 で,前述 のTEE の 目的を説 明 し,面談継続の約束 した後 に, エゴグラムテス トとバ ウムテス トを実施 した。 エゴグラムパ ター ンで は, 図

3

で示 したよ うに,低得点群

CP

AC

と,高得点群

NP・A・FC

とい う得点 の

2

極化 が特 徴 と して示 さ れた。 この ことか ら,①K子 が本来感情 のエネルギーを充分 に持 ち,他者 に対す る優 しさ も持 ち合わせていること,②周囲 に対す る適応意欲 およびに自己主張意欲 が希薄化 してい

(8)

る傾向が読 み取 れた。 また,バ ウムテス ト (図

1

)で は①樹木全体が右 に傾 いていること か ら自己成長欲求 を有 していること,②周囲 にウサギやチ ョウが描 かれていることか ら穏 やかな交友関係 を志 向 していること,③ 中が空 白の大 きな雲 の形 の樹冠か ら強 い外圧を感 じていることと, それに対 して どうしてよいのか分か らないでいる様子, などが うかがわ れた。 第 Ⅰ期 ラポー ト形成の時期

(

TEE1-4)

K

子 は,

TEE

lか ら合計で

9

枚 のカー ドを書 き出 し, 感 情 エネルギーを充分 に有 して いることを伺わせた。 ただ し, この時期の分類表の特徴 として,表

2

で示 したように過去 ・ 未来領域共 にカー ドが (+)領域 に多 く書 き出された。 その内容 は,過去領域では 『電話 して きて くれる/ うれ しか った

(

TEEl)

『笑 って・くれ た/ うれ しか った

(

TEE2)

『帰 るときはな しを した/ うれ しか った

(

TEE3)

な どで あ り, 感情語 が いずれ も 『う れ しか った』 と書 き出 された。 また,未来領域 で は

7

人 の中 に入 って行 く/ がん ば る

(

TEE2)

『自分か ら話す/がんば る

(

TEE2)

『朝 と帰 りに挨拶 をす る/ がん ば る

(

T

EE3)

『だれ とで も話せ るよ うにす る/がんばる

(

TEE3)

などであ り,感情語が感情 とい うよ りも決意 を示す 『がんばる

で占め られた。 しか し, オープ ン トーキ ングは,常 に トレーナー主導 のクローズ ドクエ ッシ ョンによる対話 が中心 に行 われた. そ して,学校 で は 「ひとり」でいることが多 いこと,家で は 「テ レビ」 を見 た り 「音楽」 を聞 いている 時間が多 いこと,友達が 「欲 しい」 こと, などが話 された。 それ らの発言か ら,過去領域 のカー ドが寂 しさの裏返 しであること,未来領域 のカー ドが何 をどうしてよいのか分か ら ないために, とにか く頑張 る しかない と自分 を追 い詰 めているあ らわれであることが明か とな った。 さらに

K

子 は,

TEE3

において 「い じめ・・・-< うん> い じめの事 --< うん >親 に言 うと--,< うん> また--< うん>かわいそ うだ し・--」 と述べてお り,両親 に対 して も気を使 い自分 をっ くろっている様子 を うか がわせ た。 しか し,

TEE4

で は ト レーナーが未来 (+)領域 のカー ドを媒介 に 「そんなに頑張 ってばか りいた ら,疲れない ? 大丈夫

?」

と反応 を したのに対 し,「疲れ る

と小 さな声 で泣 き出 した。 また, 泣 きな が ら 「学校< うん>行 き--・た く--ない< そ うかあ> みんな--< うん> きらい」 と, とぎれ とぎれに述べた。一方,今週 の

3

大 目標 は,

TEE1- 3

で は 『自分 か らみん なの 中に入 ってい くように頑張 る

(

TEE

l

,2)

『だれ とで も話 せ るよ うにす る

(

TEE3)

な どが書 き出された。 しか し,

TEE4

のオープ ン トーキ ングにおける トレーナーの 「もっ とゆ った りしよ うよ

「そんなに無理 に頑張 らないで, もっと自分 に優 しくなれ るといい なあ

「まず 自分 の こと大事 に してみよ うよ

なとの介入 の後で は,『頑張 らないで頑張 る』 (-無理 を しないで頑張 る) や 『自分 を大事 にす る』 『あ る程度割 り切 れ るよ うにす る』 (以上

TEE4)

などと変化が見 られた。 以上で掲 げた ことは, この時期 の

K

子が①強度の他者不信感情 や警戒感 といった歪 め ら - 3

(9)

2-れた感情を有 していた こと,② 自我葛藤の中で周囲に対 し常 に偽 りの仮面 をかぶ り,本当 の自分の感情を押 し殺す とい う偽 (仮性)適応を していたこと,③ トレーナーに対 して も, あるがままの自分 をさ らけ出せないでいた こと, を示唆 している。それに対 し, トレーナー が岸田 (

1

9

7

6

)

の提唱す る受容 ・共感を前提 とした 「体験的応答」注3)を経て,そこか ら

1

歩踏み込んだ介入を行 ったことで,TEE継続の効果 として期待 している円滑 な支援 を行 うための信頼関係の促進,歪 め られた感情の表出と自己の本来性への気づ き,が生 じたと 思われる。 なお,TEE2の終了後,母親 との面談 において, い じめに対 す るこれ までの学校 の対 応が不明確であることへの不満や不信感, また今年度か ら校長先生が変わったことへの不 安が話 された. それに対 して トレーナーは,効果的な教育 には学校 と保護者の信頼関係が 不可欠な こと, したが ってなるべ く早 く学校 とアポイ ン トメン トを取 り,校長先生 と面談 して もらう時間を作 ること, これまでのK子の実態を話 した上でい じめに対す る具体的な 指導方法を提示 して もらうことを提案 した。 これ に対 し,TEE3終了後 の面談 で は, 校 長先生 と

2

時間の面談を して もらったこと,校長の責任において早急 に具体的ない じめ対 策 を講 じると約束 して もらった こと,などが報告 された。 第Ⅱ期 ナル シズムと自我葛藤の時期 (TEE5-10) この時期 になると,分類表の過去領域では, (-)領域 にカー ドが多 く書 き出 され るよ うになった。 その内容 は,過去領域では①無視や遠 くで ヒソヒソ話をす ることがな くな ら ない,など, い じめ られたと感 じた事柄の告 白,② い じめグループの リーダ-的存在で幼 稚園時代か ら近所 に住んでいるW子 について 『強引に借 りて返 さない/嫌 だ (TEE5)』 『私 を奴隷だ という/嫌だ (TEE6)

『誰かが私 に話 しかけるとその人 を呼ぶ/ かな しい (TEE8)

『親子 して ウソをつ く/ゆるせない』等,い じめる側への批判,③

W子 をか わいがる/ いやだ (TEE5)

『私 にだけさび しい/ いやだ』(TEE8)『顧 問がえ こひい きをす る/信頼で きない (TEEIO)』など,担任 また部活顧問への批判,が主な内容であっ た。ややナルシズム的な被害意識の過剰 さも感 じられるが,同時に 『頭 にきてお母 さんに 当たった/ さび しい (TEE6)

『みんなの中に入 って行 けなか った/何 とな く嫌 だ った (TEE8)』 なども書 き出されてお り, 自分の言動への振 り返 り (反省) もうかがわれた。 一方,未来領域では, (+)領域 にカー ドが多 く書 き出された。 その内容 は,『話せ る人 と もっと話す/楽 しむ (TEE7)

『新入部員の面倒を見 る/仲 よ くす る (TEE7)』 『遊 び 仲間を増やす/無理 は しない (TEEIO)』などであった。 ただ し, (-) 領域 に 『みんな もっと仲間に入 って来ればいいというけど,

7

人が信 じられないか ら入 っていけないか も しれない/感情語な し(TEE9)』なども書 き出され, 自己省察の深化 と共 に揺 れ動 く感 情 と自我葛藤の渦中にいることも推察 された. また, オープンと-キ ングでは, 自発的な 話題提供 は見 られなか ったが, トレ-ナ-の問いかけや介入 に対 して複数文節での応答が 叫ヽ

-3

3

(10)

-表

2 K

子 の感情表 出分類表 の例

(

TEEl)

過 去 未 来 プフ ス t話してさてくれる1 鵬 絹 蛸 したい l H

叫蓋

州も4

軒 も耶 くすも 5 うれしホつた がん舶

P

がんばる -批T&して(批 2 もつと中に^82 うれしーつた 机 は8 ド榊 蛸つ崇 ,…l 桝 だれ:封 表

3 K

子 の感情表 出分類表 の例

(

TEE1

2

)

過 去 未 来 プフス 1年川よく的た1 に

だ 3 一でも学齢行くl

T

S

i

u

A

け帥 4 上ふ1た 恥も仙 古と立った lI18い 脚 する 手技へ*恥ははった2 蓋せる^州o^と義 郎は如一対5

ナス

わ(てい 柏 さん川んJttした4 掛 れ神州 る

-3

(11)

4-多 く見 られ るようにな った。 その応答 には,やや被害意識の過剰 さが感 じられたが,歪 め られた感情 の表出 と同時 に,今後の自分の態度や行動 に対す る自己省察が うかがわれた。 すなわち,部活顧問の教師に対 しては 「顧問は人を見 る目がない<ん ? どういうこと?> い じめをす る人が,先生の前で言 うことをきくと,機嫌 よ くな って< うん>何 も分か って ない

(

TEE6)

と述べ,

W

子 に対 して も 「小 さい時か ら意地悪だ った---< うん>調子 がよか った

(

TEE5)

「昨 日も,私がおはようって言 って も無視 した

(

TEE8)

な ど と 発言 した。 しか し, トレーナーの

W

子の事,気 に しないで,私 は私 って思 えるといいと 思 うんだけどなあ」 という介入 に対 しては 「うん,--で も,-- うん,や ってみ る (T

EE9)

とい う発言がなされた。一万,

3

大 目標では, 自己省察の深化 につれて 『気持 ち を楽 にす る

(

TEE8)

』『思 ったことを我慢 しないで言 ってみ る

(

TEE9)

』『今 の友達 を 大事 に して,ふやす

(

TEEI

O

)

』などが書 き出された。 以上 の ことか ら, この時期

K

子 に,

TEE

継続 の効果 と して第

2

番 目に期待 して い る歪 め られた感情の表出 (解放) と自己省察の深化, またポジティブな意味での気持 ちの外向 化が認 め られた。 ただ しK子 には,依然 として他者の言動 に対 しやや敏感 にな り過 ぎてい る面が見受 けられた。すなわち, い じめの対象 とな っていることで過剰 とも思われるナル シズム的な被害意識や他者否定感情が根強 くうかがわれた。 しか し筆者 は,それ らの感情 について,K子がい じめの対象 となったことで持っ ようになった当然の感情であるととら えている。 ただ し,前述 の

TEE9

での例 に代表 され るよ うな トレーナーの介入 や毎 回 の

3

大 目標の設定 と自己評価 は,それ らの感情を必要以上 に増幅 させないことや現実時間 と の遊離 (時間的偏 り) による自己への引 きこもりの防止,

TEE

の効率化 に重要 な役割 を 果た していることが示唆 される。なお, この時期母親か らは,

K

子の遅刻 ・早退 は多か っ た ものの,欠席 日数が減 ったとの報告がなされた。 第 Ⅲ期

TEE

終結 に向けた自立の時期

(

TEEl

l

-1

2

)

この時期 になると,分類表の特徴 として,表

3

の例で示 したようにカー ドが過去領域で は (-)領域 に,未来領域では (+)領域 に多 く書 き出された。その内容 は,過去領域の カー ドでは 『無視 されるのが こわ くて,一人でいることがあった/わるか った

(

TEEl

l

)』 『学校へ行 くのが こわ くて行 きた くない日が多か った/ わ るか った

(

TEE1

2

)

』 な ど, 自 分の行動や感情-の振 り返 りが主 な内容であった。 しか し,その一方で未来領域で は

W

子がに らんだ らに らみ返す/できるだけやる

(

TEEl

l

)

『無視 されて も気 に しない/少 しがんばってみる

(

TEEl

l

)』『嫌で も学校へ行 く/ まけない

(

TEE1

2

)

』 『話 せ る人 が外 の人 注4)と話 していた ら一緒 に話す/楽 しむ

(

TEE1

2

)

』 な ど, 感情語 とい うよ りも今後 の決意を示すような内容が書 き出された。 そ して, オープン トーキ ングにおいて も小 さな 声 なが ら 「自分の こと,一番大事だ って思 うことに した<そ っかあ,強 くな ったね>分か んないけど・--少 し楽 になった

(

TEE1

2

)

と発言 している。 また,

TEE1

2

での トレーナー

(12)

の 「ここに来ていてどうだ った

?」

とい う 問いかけには,やはり小 さな声であ ったが 「話がで きたか ら--< うん ?> うん--自分の気持ちを書 くのは大変だったけど・ --< うん> うん, 自分で も, うん・・・- うん, 頑張 った」 と答えている。 さらに,

3

大 目 標では 『言 いたいことを言 う

(

TEEl

l

)

』 『堂 々 と強気 で い る

(

TEE1

2)

』 な ど, 感 情 レベルでの目標を掲 げた。 以上 のことか ら,

K

子 の感情 の変容 とし て,歪 め られた感情 の緩和 とポジテ ィブな 感情の外向化が示唆 された。特 に, カー ド の感情語 また

3

大 目標が, 自己省察や 自己 受容 を踏 まえた感情の外向化を うかがわせ る内容 にな っていることは, 自我意識 の大 きな変容であるととらえ られよ う。 なお,最終面談時に実施 したエゴグラム テス ト (図 3)では,全体に得点が上昇 し, 図2 最 終面談時でのバ ウムテ ス ト 感情 エネルギーの外向化の裏づ けとな って いる。特 に,

AC

の上昇 は顕著であ り, 自己否定感の緩和 と共 に周囲- の適応意欲 の向上 が示唆 される。一方のバ ウムテス ト (図2)では樹木 自体が大 きくな ってお り,歪 め られ た感情 の緩みが感 じられる。 また, 自我を表す とされる幹が太 くなってお り,樹冠 には リ ンゴの実が複数見 られ る。 これ らの ことか ら, 自己表現への意欲が読み取れ る。 さ らに, 樹木の右側 に細 いなが ら枝が一本伸 びてお り, ウサギが ブランコで遊んでいる光景が描か れている。 これ らの ことか ら,周囲への適応意欲 と共 に交友関係の強い意志が うかがわれ る。 ただ し,樹木左側 に落下途中の リンゴの実が描かれている。 これは,肯定的にとらえ れば過去の自分を振 り切 ろうとしている象徴 とも見受 け られ るが,別 なとらえをすれば自 己への自信の欠如 とも解釈で きる。 これについては,今後の

K

子を追跡す る中で改めて考 察 しなければな らない。 ただ し,

K

子の行動変容 に着 目してみると,母親か ら欠席 日数が 著 しく減少 したとの報告を受 けている。 これを踏 まえれば,

K

子の感情がポジティブな意 味で外向化 して きていることも推察 され る。

-3

6

(13)

-Ⅲ 全体的考察 と今後 の課題 本研究で は,前述 の とお り時間制限心理療法の考 え方 に依拠 し,

TEE

実施 当初 か ら, 終結 までの回数 を暫定的 に

1

2

回 と設定 していた。 また,それは初回面談 および

TEE1

1

,1

2

の冒頭で

K

子 に も伝 えていた。 さらに,それを遂行 す る手 法 と して, 従来 の

TEE

に介入 を意識 したオープ ン トーキ ングと,今週の

3

大 目標設定およびその 自己評価の導入 を試 み た。 そ して,

1

2

回にわたる

TEE

継続の結果,当初K子 が継続 す るい じめの中で強度 の歪 め られた感情 を抱 き,現実 を拒絶 しつつ周囲に偽適応 していた ことが明か とな った。 しか し

K

子 は,

TEE4

で泣 くとい うダイ レク トな感情表 出を行 い, 若干 のナ ル シズム的 な被 害意識 を抱 きつつ も歪 め られた感情を表出 し, 自己受容 と自己省察 の深化を示 した。また, そのよ うな過程 を経て,欠席 日数 の減少 という行動変容 に示 され るよ うな感情 の外向化が 示唆 された。 トレーナーは,各

TEE

の最後 に今週の

3

大 目標を設定 させた後 で, 「自分 の 気持 ち,感情 を ごまか さないことに しよう。 もっと, 自分 の感情 を表 に出 していいと思 う よ。 いっぱい笑 って,泣 きたい時 に泣 いて,怒 りを感 じた ら怒 っち ゃお うよ」 などとい う 介入を意図的に行 った。K子 は,

TEE1

2

において,

TEE

- の感想 を求 めた トレーナーに 対 して, 自分 の気持 ちを書 くのは大変であ ったが頑張 ってそれをや り通 した とい う趣 旨の 発言 を している。 この言葉 につ いて筆者 は,頑張 った とい う言葉 が,

TEE

の前期 にカー ドで書 き出された 『がんば る』 とは質を異 に しているととらえている。 す なわ ち,

TEE1

2

での 「頑張 った」 を自己受容 を踏 まえた自己向上心 による言葉であ る とと らえて い る. 上述 の ことか ら,① い じめ られている生徒 には,受容 と共感 を前提 と した感情 の吐 け口を 提供す ることが何 よ りも大切 な こと,②受容や共感 を踏 まえた上で若干の改良 を加 えた

T

EE

の有効性が示唆 された。 (点数) CP NP A FC IC 初回面 談時 の エ ゴ グラムパ タ ー ン 最終 面 談 時 の エ ゴグラムパ タ ー ン 図3 K子 の エ ゴグラムパ ター ンの変容

(14)

一方,教師 にはい じめ る側 の生徒 に対 して もその人格 を尊重 し,健全 な方 向 に教育 して いかなければな らない とい う義務 があ る。 そのために, い じめをす る側 とされ る側 にはさ まれ ることが予想 され る。 その結果,

TEE

継続 の中で本事 例 が, 部 活 顧 問 の教 師 を 『し ん じられない』 とカー ドに書 き出す, とい う例 に も見 られ るよ うな問題 も生 じやす い。 こ の よ うな事態 をで きる限 り避 けるために も,教 師 と生徒 の 日常生活 におけるコ ミュニケー シ ョンが重要 であ ること, も改 めて示唆 された。 ただ し,今後 の課題 と して,気持 ちの外 向化 を行動で示 し始 めたK子 が,再 びい じめの対象 とな らないよ う, また歪 め られた感情 を再燃 させないよ う,学校 との連携 を重視 した フォローア ップにつ いての検討 が必要 であ る。 また,研究 自体 につ いて,今後 い じめ られてい る生徒 の不安 につ いての精微 な検討, い じめる側 の生徒 に対 して他者受容 を促す支援 の方法 につ いての検討, を していかなけれ ばな らない ことも感 じている。 さ らに,筆者 は これ まで

TEE

を個 人 へ の支援 の手 立 て と して用 いて きた。 しか し今後 は,

TEE

をい じめ- の対 応策 の

1

つ と して, 感情 の分 か ち 合 い手 を続 きに盛 り込 んだ集団適応 の可能性 注5)につ いて も検討 していきたい。

<追記>

筆者 は, い じめ問題 につ いて,従来か ら一般論 と して 「い じめは昔 もあ った」 と してそ れを容認す る考 えや 「い じめ られ る子 に も問題 があ る」 とす る指摘, 「い じめ を一 方 的 に 悪 と決 めっ け,児童 ・生徒 の仲間関係 の中 に介入 してい くな ら,仲 間関係 その ものの否定 とな る可能性 もあ る」 とい う知見があ ることは承知 している。 しか し, い じめには, その 背景 に人格及 び生命 の軽視 や排 除の論理 が働 いている。 したが って筆者 は, どのよ うな理 由があるにせ よ人が人 をい じめて もよい とい う理屈 は成 り立 たない と考 えて いる。仮 に前 述 のよ うに 「い じめは昔 もあ った」 とい う理屈 でそれを容認す ることが成 り立っな らば, 泥棒 も殺人 も昔 か らあ ったのだか ら, それ らの犯罪 も容認 され るとい う理屈 が成 り立 って しま う。 また, い じめ られ る子 の有す る問題 とい じめは,別個 の事柄 である。 さ らに,覗 実 の大人社会 を見 た ときに, い じめに似 た トラブルはよ くあると してい じめを人格形成論 と結 びつ けるような前述 の知見 は,人 間の持っ感情 の重 さや教育 の理念 ・意味 を無視 した 理屈であることか ら反対 の意見 を有 して いる。 初 めか ら他者 の人格や生命 の尊 さを無視 したい じめは, 目的達成 を 目指 した構成員 によ る健全 な衝突 や議論, また互 いに互 いを主張 し合 うあ る程度 の喧嘩 な どとは異 な る性質 の ものであ る。 したが ってい じめは,す る側 に もされ る側 に も, またそれを取 り巻 く周辺 の 子供達全員 に も, その人格形成 にマイナスの影響 しか もた らさない。筆者 は, い じめは強 く否定 され るべ きものであ ると考 えてい る。 - 3

(15)

8-注 釈 1) 本事例の在席す る中学校 は,1学年が2学級あ り,同 じ卓球部のメンバーが相当数同級生 となっ ている。 2)稲垣 (1996b)は, この用語 について 「健全な方向へ向かお うとす る純粋性や意欲」を表す と 説明 し, さらに大乗仏教 (如来蔵思想)や実在哲学 (存在論) に依拠 しつつ 「人 には人を人た ら しめる善 なる性質が,時間や空間に制約 されずに,本来的に内在 している」 と解説を加えている。 3)岸 田 (1976)は, この用語 について 「思考を中心 として出て くる言葉ではな く, カウンセラー があるがままの状態で,感 じられた意味に応答す ること」であると説明 している。 4) K子が在籍す る中学校では, クラスの中でい くつかのグループが形成 されてお り, 自分が属 し ていないグループのメンバーを 「外の人」 と呼んでいることが,TEE継続の中で明 らかにされた. 5) 山田 ・犬塚 ・稲垣 (1996)は,看護学生を対象 として行 ったワークショップにおいて, 自己受 容 ・他者受容の促進をね らいTEEの集団適用を試みている。 文 献

1) Erikson,E.H.(1959)IdentityandtheLifeCycle.internationalUniversitiesPress,New York.:小此木啓吾訳編 (1981) 自我同一性 アイデ ンテ ィテ ィとライフサイクル.誠心書房. 2)Erikson,E.H.(1968)YouthandCrisis.W.W.Norton,NewYork.

3)福井康之 ・伊藤 徹 (1987)情動の表出と認知の障害か らみた感情の果たす役割 について.愛 媛大学教育学部糸己要 教育科学,33,81195.

4)藤井 弘 ・上地安昭 (1992)中年期危機 の母親 に対す る時間制限心理療法.カウンセ リング研 究,25(2),68-76.

5) Gendlin,E.T,(1961)Focusingabilityinpsychotherapy,personalityandcreativity.InJ. M.Shlien.(Ed).Researchinpsychotherapy,Vol.Ⅲ,Washington,D,C.AmericanPsych0 -10glCalAssociation,239.

6)Gendlin,E.T.(1974)Experientialpsychotherapy.In,氏,Corsini(Ed).Currentpsycho -therapleS.PeacockPress,323-327. 7)稲垣応顕 (1995)登校拒否生徒の孤独感 に関す る一考察- 感情表出 トレーニ ング適用事例 の 検討 を通 して- .上越教育大学障害児教育実践セ ンター紀要,1,1-9. 8)稲垣応顕 (1996a)非行少年 に対する感情表出 トレーニ ング適用事例の研究. 日本特殊教育学 会第34回大会発表論文集.578-579. 9)稲垣応顕 (1996b)非行少年への感情表出 トレーニ ング適用 に関す る事例研究.上越教育大学 障害児教育実践セ ンター紀要,2,37-46. 10)稲垣応顕 ・犬塚文雄 (1993)登校拒否生徒の感情表出に関す る研究. 日本 カウンセ リング学会 第26回大会発表論文集,222-223. ll)稲垣応顕 ・大塚文雄 (1994a)不登校生徒の感情表出に関す る研究 (その2)- 自己への気 づ さを示 した事例の検討- . 日本 カウンセ リング学会第27回大会発表論文集.77-78. 12)稲垣応顕 ・犬塚文雄 (1994b)登校拒否生徒への感情表出 トレーニ ング適用に関す る研究. カ ウンセ リング研究,27(1),ll-20. 13)稲垣応顕 ・犬塚文雄 (1995a)登校拒否生徒への感情表出 トレーニ ング適用に関す る研究 (2)

(16)

- 共通感覚の欠如 に着 目した事例検討- . カウンセ リング研究,28(1),78-86. 14)稲垣応顕 ・犬塚文雄 (1995b)登校拒否生徒の感情表出に関す る研究 (その3).日本 カウ ン セ リング学会第28回大会発表論文集,110-111. 15)いのちの電話連盟 (1986)『電話 による援助活動 いのちの電話の理論 と実際

.

学事出版. 16)大塚文雄 (1987) "行動 目録法"の実際.サイ ンズ オブ ザ タイムズ,ll,18-19. 17)大塚文雄 (1989)時間 と心の健康.関東学院大学人文科学研究所紀要,12,41-50. 18)大塚文雄 ・稲垣応顕 (1994)登校拒否生徒の心理特性 に関す る一研究- 感情表出 トレーニ ン グを通 して- .上越教育大学研究紀要,14(1),67-80.

19)James,Mann(1973)Time-LimitedPsychotherapy.PresidentandFellowsofHarvard College.:上地安昭訳 (1980)時間制限心理療法.誠心書鼠 20)岸 田 博 (1976)体験的応答に関す る基本的一考察.相談学研究,9(12),19-29. 21)小林-仁 ・竹之内八穂子 (1994)自己表現力の育成 に関す る構想.茨木大学教育学部紀要 (敬 育科学),43,19-28. 22)小沼尚巳 ・勝村 操 ・吉 田昭久 (1994)「学校不適応」児童 ・生徒 に対す る教育 臨床心理学 的 対応Ⅳ 危機介入理論 に基づ く 「適応指導教室」の 「介入」法略課過. 茨木大学教育学部紀要 (教育科学),44,211-230. 23)正木健雄 (1987)子供 のスポーツ ・部活を考える.教育,3,21-35. 24)増 田 賓 ・森田邦江 (1995)クライエ ン トの内面過程 (心の流れ)の分析- カウンセ リング 面接 における 「かかわ り」 に関す る基礎的研究Ⅳ- .日本 カウンセ リング学会第28回大会発表 論文集,192-193. 25)松原達哉 (1987)生活分析的カウンセ リング (LAC)の方法 の開発 と改善. 学生相談研究, 8,1-10.

26)Rogers,C.R.(1957)Thenecessaryandsufficientconditionsoftherapeuticpersonarity change.JournalofCons山tPsychol,121,95-105.

27)Rogers,C.氏.(1958)Aprocessconceptionofpsychotherapy.Amer,JournalofPsychol 0-gist,13,142-149.

28)左治守夫 (1996)カウンセラーの< こころ>.みすず書房.

29)StevdeShazer(1985)KeystoSolutioninBriefTherapy.UNIAgency,Inc:小野 直広訳 (1994)短期療法解決の鍵.誠心書房∴ 30)高見和至 (1996)男子中学生の自己開示か ら見た学校部活動 の検討 .

村学園女子大学研究紀 要,7/(2),51-60. 31)都筑 等 (1984)いわゆる部活動の中学生 の精神衛生 に与える影響 .群馬大学 医療技術短期大 学部紀要,5,49-55. 32)山田洋子 ・犬塚文雄 ・稲垣応顕 (1996)自己および他者受容を向上 させ る体験学習- コ ミュ ニケーションワークショップの体験効果 に関す る一研究- .看護教育,37,6,439-444. 33)渡辺三枝子 (1996)アメ リカにおける 「学校 カウンセ リング」 の現状 と展望.明治学院論叢 . 577,第6号,25-31. - 40

(17)

-K子 の 「今週 の 3大 目標」 と自己評価の変容 数 回 E E T 目 標 自己評価得点 1 E E T Wリサ E E T 3 E E T 4 E E T 5 E E T 6 E E T 7 E E T 8 E E T 9 E E T TEEIO TEEll TEE12 ① 自分か らみんなの中に入 ってい くように頑張 る。 ② みんな と1年 の時みたいに仲 よ くで きるよ うにす る。 ③ 何で も話せ る友達 にな りたい。 ① 自分か らみんなの中に入 ってい くよ うに頑張 る。 ② 明 るくニコニコす る。 ③ 話 して くれ る友達を大切 にす る。 (∋ だれ とで も話せ るようにす る。 ② もっと中へ入 る。 ③ 5人を大切 にす る。 (》 頑張 らないで頑張 る。 ② 自分 を大事 にす る。 ③ ある程度割 り切れ るようにす る。 (9 1年 に対 してや さ しくす る。 ② あま り頑張 らずにマイペースでや る。 ③ 少 しずっ話せ る人をふやす。 (D お こらない。 (診 今 までみたいに, もごもごと言 わない。 ③ マイペースでや る。 ① 部活を一生懸命や って,怒 られないよ うにす る。 ② 言葉使 いを丁寧 にす る。 ③ マイペースで 自分を大事 にす る。 ① 気持 ちを らくにす る。 ② 何で も話せ る友達 を作 る。 ③ 1年 と仲 よ くす る。 ① 思 った ことを我慢 しないで言 ってみ る。 ② けんか して もいいか ら, 自分を出す。 ③ 今,話せ る友達 を大事 にす る。 ① 今の友達を大事 に して,ふやす。 ② 自分 を出す。 ③ 自分 の気持 ちを大事 にす る。 ① 言 いたいことを言 う。 ② 無視す る人 の事 を気 に しない。 ③ 頑張 らないでで きるだけ自分を出す。 (丑 堂 々と強気でいる。 ② 無視 して も無視す る。 ③ 言 いたい ことを言 うよ うにす る。 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 点 0 0 5 5 0 0 0 5 0 5 0 0 5 0 0 0 0 0 0 5 0 0 0 0 5 0 0 0 0 0 0 0 5 0 0 0 3 1 2 2 3 7 4 3 8 9 9 7 9 9 9 7 4 4 4 6 6 3 2 4 4 3 9 5 6 8 6 9 6 5 9 6 - 4

表 2 K 子 の感情表 出分類表 の例 ( TEEl) 過 去 未 来 プフス t 話し て さ て く れ る1 鵬 絹 蛸 し たい l H 叫蓋 し 州も4 軒 も 耶 くすも 5うれしホつたがん舶Pんはるがんばる‑批T&amp;して(批 2もつと中に^82うれしーつた机 は8ド榊 蛸つ崇 ,…l桝だれ:封 表 3 K 子 の感情表 出分類表 の例 ( TEE1 2 ) 過 去 未 来 プ フス 1 年 川よく 的 た1 に ら んだ 3 一でも 学齢行くl T に S i u A け帥 4上ふ1た

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