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熊本市と阿蘇地域における年中行事の認知 経験と喫食状況について 書と調査票を回収した どちらも推進員代表者会議時に代表の人に質問紙の配付, 回収を依頼した 阿蘇地域の調査研究については熊本県立大学倫理審査委員会の承認を受けて実施した (3) 調査内容質問は, 平成 22 年に行われた日本調理科学会特

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Academic year: 2021

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熊本市と阿蘇地域における年中行事の認知・経験と喫食状況について

Knowledge, Experience, and Special Food Habits Pertaining to

Annual Events in Kumamoto City and Aso Community

北 野 直 子*

§

中 嶋 名 菜* 福 山   豊* 中 嶋 康 博** 松 添 直 隆*

Naoko Kitano Nana Nakashima Yutaka Fukuyama Yasuhiro Nakashima Naotaka Matsuzoe

We conducted a questionnaire survey in 2010 and 2012 in the urban area of Kumamoto City and the rural com-munity of Aso which continue to hold seasonal agricultural events. The survey focused on knowledge, experience, and special food habits pertaining to such events. In both areas, the subjects were volunteers engaged in activities pertaining to food and nutrition; 136 subjects in Kumamoto and 168 subjects in Aso were surveyed. The survey cov-ered a total of 15 annual events, including Shogatu, Sekku, and Tanabata.

In both areas, over 90% of subjects had knowledge and experience regarding these events. Compared with other events, low levels of knowledge and experience regarding the Spring Festival and the Autumn Festival were observed and there were no differences between Kumamoto and Aso in this regard. Events connected with rice farming have decreased because farmers have aged and decreased in number. Consequently, it has been difficult to hand down foods prepared at annual events. Subjects in Aso had more experience preparing event foods by them-selves compared with in Kumamoto. It was determined that there are a larger number of three-generation families in Aso compared with in Kumamoto. This result demonstrates that it is easy for children to inherit special food habits from their elders.

キーワード:年中行事 annual events;継承 inheritance;質問紙 questionnaire;地域 community

* 熊本県立大学

Prefectural University of Kumamoto ** 熊本県立技術短期大学校

Kumamoto Prefectural College of Technology

§ 連絡先 熊本県立大学環境共生学部 〒 862-8502 熊本市東区月出 3 丁目 1-1 TEL 096(321)6695 FAX 096(384)6765 1. 緒  言  “ハレ”の行事である年中行事や通過儀礼は,日常生活の 節目となり,時代とともに変化しながらもそれぞれの家庭 において代々受け継がれてきている。我が国の伝統的な年 中行事は,稲作儀礼を中心として行われてきたものが多い。 年中行事には神に供える供物が用意されるが,その供物は 行事食として家庭で習慣化され,伝承されてきた1)  高度成長期以降,産業経済の変化に伴い,社会環境や生 活環境が大きく変化してきた。さらに少子高齢化が進み, 農業従事者人口の減少,輸入食品の増加,食事の洋風化, 簡便化などを背景に農村地域においても稲作にかかわる行 事をとり行うことが少なくなってきている。そのため,行 事食を食べる,家庭で作る機会が減り,親から子へと伝承 されにくくなっているのが現状である2)  著者らは,阿蘇神社を中心に農耕祭事が現在でも継続さ れて行われている阿蘇 7 市町村3,4)の女性を対象に,行事食 や郷土料理の喫食状況等調査を行った5)。その結果,阿蘇 地域のおおかたの行事食の認知,経験度は,平成 22 年に日 本調理科学会特別研究で行われた全国調査の結果6)と比較 して全国平均より高かった。このことから,阿蘇地域は, 農耕祭事の年中行事が人々の生活と密接に関わっているこ とで行事食や郷土料理が伝承されていると推察された。  本研究では,日本調理科学会特別研究で行った熊本市の 食生活改善推進員と上記の阿蘇地域対象者のうち食生活改 善推進員の行事食に関する認知,経験や喫食状況について, 地域による違いを明らかにすることを目的とした。 2. 調査対象および方法 (1) 調査対象および調査時期  熊本市は平成 22 年 4~7 月に食生活改善推進員(以下, 推進員とする)136 名(回収率 61.5%)を対象とした。阿 蘇地域については平成 24 年 4 月の阿蘇 7 市町村の推進員代 表者会議に調査協力を依頼し,同意を得た。その後,推進 員および推進員が対象者として選定した 2 名に調査を依頼 し た。同 年 8 月 に 回 収 を 行 い,491 名 の 回 答(回 収 率 56.4%)を得た。そのうち推進員である 168 名を対象とし た。 (2) 倫理的配慮  熊本市の対象者には,調査の意義,調査内容および個人 情報の保護を記載した「日本調理科学会特別研究「調理文 化の地域性と調理科学:行事食」アンケート調査のお願い」 の文書を質問票と一緒に配付した。調査票の回収をもって 研究協力への同意を得たものとみなした。阿蘇地域の対象 者には,調査の意義,調査内容および個人情報の保護を記 載した調査協力同意書を配付し,同意が得られた者の同意

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書と調査票を回収した。どちらも推進員代表者会議時に代 表の人に質問紙の配付,回収を依頼した。阿蘇地域の調査 研究については熊本県立大学倫理審査委員会の承認を受け て実施した。 (3) 調査内容  質問は,平成 22 年に行われた日本調理科学会特別研究 「行事食・儀礼食」の質問票を用いた。質問票の内容につい ては以下の通りである。  質問票 1:調査対象者の属性(現住所,居住期間,性別, 年齢,家族構成,職業,調理担当者であるか,行事食の影 響を受ける相手)  質問票 2:年中行事の認知の有無(各年中行事を知って いるか),経験の有無(各年中行事を経験したことがある か),各行事食の喫食経験の有無(各行事で食べたことがあ るか),喫食状況,過去・現在の調理状況や食べ方,変化し た理由  年中行事は,正月,人日・七草,節分,上巳,春分・彼 岸の中日,端午の節句,盂蘭盆,七夕,土用の丑,お月見, 秋分・彼岸の中日,冬至,大晦日,春祭り,秋祭りの 15 項 目である。 (4) 解析方法  年中行事の認知の有無,経験の有無,喫食状況について 熊本市と阿蘇地域の比較を行った。統計解析は χ2検定, Fisher の正確確率検定を行い,有意水準は 5%未満とした。 解析には IBM SPSS 17.0 ver. for Windows(SPSS 社)を 使用した。 3. 結果および考察  対象者の属性を表 1 に示した。年齢を 40 歳代以下,50・ 60 歳代,70 歳以上に分けてみると,阿蘇地域が熊本市よ り 70 歳以上が有意に多かった(p=0.007)。同居家族を, 単身(一人暮らし)世帯,同世代(夫婦のみ,兄弟姉妹) 世帯,2 世代(親と子ども)世帯,3 世代以上(夫婦と親, 子ども)世帯に分けてみると,阿蘇地域が熊本市より有意 に同世代世帯が少なく,3 世代以上世帯が多かった(p< 0.001)。居住期間を 10 年未満,10 年以上 20 年未満,20 年 以上 30 年未満,30 年以上に分けてみると,阿蘇地域は熊 本市より 30 年以上の者が有意に多く,熊本市は阿蘇地域よ り 10 年以上 20 年未満と 20 年以上 30 年未満の者が有意に 多かった(p<0.001)。  阿蘇地域と熊本市の年中行事の認知度を表 2 に示した。 ほとんどの年中行事の認知度は,両地域とも 90~100%と 高かった。阿蘇地域が熊本市より認知度が高く,有意差が 認められたものは,人日,節分,上巳,端午の節句,お月 表 1.  対象者の年齢,世帯構成,居住期間 項 目 カテゴリー 阿蘇地域 熊本市 p 値 (n=168) (n=136) 年  齢 40 歳代以下 12( 7.1) 10( 7.4)  0.007 50・60 歳代 91(54.2) 96(70.6) 70 歳以上 65(38.7) 30(22.1) 世  帯 単身世帯 27(16.1) 12( 8.8) <0.001 同世代世帯 47(28.0) 65(47.8) 2 世代世帯 49(29.2) 47(34.6) 3 世代以上世帯 45(26.8) 12( 8.8) 居住期間 10 年未満 9( 5.4) 7( 5.1) <0.001 10 年以上 20 年未満 10( 6.0) 24(17.6) 20 年以上 30 年未満 14( 8.4) 30(22.1) 30 年以上 133(80.1) 75(55.1) 人数(%) 欠損値有り 単身世帯:一人暮らし   同世代世帯:夫婦のみ,兄弟姉妹 2 世代世帯:親と子ども   3 世代以上世帯:夫婦と親,こども χ2検定(有意水準 5%未満) 表 2.  阿蘇地域・熊本市の年中行事の認知の有無 阿蘇地域(n=168) 熊本市(n=136) p 値 有 無 有 無 正 月 165(100.0) 0     133(100.0) 0     人 日 164(100.0) 0     132( 97.1) 4( 2.9) 0.041 節 分 160( 99.4) 1( 0.6) 129( 95.6) 6( 4.4) 0.050 上 巳 164( 99.4) 1( 0.6) 130( 95.6) 6( 4.4) 0.049 春分の日 161( 98.2) 3( 1.8) 129( 95.6) 6( 4.4) 0.308 端午の節句 164(100.0) 0     131( 96.3) 5( 3.7) 0.018 盂蘭盆 157( 96.9) 5( 3.1) 126( 97.7) 3( 2.3) 1.000 七 夕 131( 92.9) 10( 7.1) 120( 91.6) 11( 8.4) 0.687 土用の丑 156( 98.7) 2( 1.3) 132( 97.1) 4( 2.9) 0.420 お月見 154( 99.4) 1( 0.6) 124( 92.5) 10( 7.5) 0.003 秋分の日 160( 99.4) 1( 0.6) 125( 93.3) 9( 6.7) 0.006 冬 至 164(100.0) 0     128( 94.8) 7( 5.2) 0.004 大晦日 164(100.0) 0     130( 95.6) 6( 4.4) 0.008 春祭り 101( 72.7) 38(27.3) 45( 78.9) 12(21.1) 0.359 秋祭り 108( 79.4) 28(20.6) 57( 79.2) 15(20.8) 0.967 人数(%) 欠損値有り χ2検定(有意水準 5%未満) Fisher の正確確率検定を行った

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見,秋分の日,冬至,大晦日であった(p<0.05)。春祭り, 秋祭りについては,両地域とも認知度は 70%台と他の年中 行事より低かった。春祭り,秋祭りは農耕祭事に関する行 事であり,第一次産業就業率がより高い7)阿蘇地域が認知 度は高いと予想されたが,差は認められなかった。  阿蘇地域と熊本市の行事の経験の有無を表 3 に示した。 阿蘇地域と熊本市で有意な差が認められたのは,七夕,大 晦日であった。七夕を経験している者は熊本市が阿蘇地域 より有意に多く(p=0.005),大晦日を経験している者は 阿蘇地域が熊本市より有意に多かった(p=0.007)。春祭 りと秋祭りは,認知度と同様他の年中行事に比し経験して いる者は 60~70%台と低く,地域差も認められなかった。  阿蘇神社は農業の神として人々の信仰も厚く,そこでの 神事は暮らしと農耕の節目となっていた。阿蘇神社では, 御田祭り(田植え祭り),春祭り(卯の祭り,田作祭り)と 田実祭り(収穫の祭り)を三大祭りとしている。さらに, 農耕祭事に氏子が参加するムラとしての「公的な祭り」に 踏歌節会,風祭り,柄漏流神事がある。柄漏流神事は阿蘇 神社の七夕祭の夜渡祭りとして柄漏流が位置づけられ,町 方の祭りとしてとり行われていたが,明治以降廃絶した8) これ以降,七夕は公的な祭りとして地域ではとり行われて いない。真部ら9)は,節分や七夕の行事は 35~44 歳の年齢 層で実施率が高かったことは,年中行事を学校・保育園な どが行事として取り上げていること,遊びの要素が大きい 行事として認知され実施されていると考察している。七夕 の行事が学校・保育園の行事として行われているのは最近 のことと考えられ9),阿蘇地域では公的な祭りとしては行 われなくなったという歴史的なことを考えると七夕の経験 が少なかったのかもしれない。ただし,鷲見ら10)は,おは ぎ,柏餅,七夕ソーメンや冬至かぼちゃなどの行事食は, 三世代世帯が二世代世帯より以前から現在も食べ続けてい る割合が高かったと報告している。大晦日については,統 計的には阿蘇地域の経験度が熊本市より有意に高かったが, 両地域とも 95%以上とほとんどの者が経験していた。  阿蘇地域では春に卯の祭り,田作り祭り,秋には田実祭 りが,熊本市では秋に藤崎宮秋季例大祭が以前から行われ ている。春祭りや秋祭りの行事の認知度,経験度は,70 歳 代以上の者が熊本市より多く,農業就業人口が多い阿蘇地 域において熊本市より高いと考えられたが,熊本市と同様 であったことから,春祭りや秋祭りは現在では伝承されて いないことがわかった。著者らの結果から,阿蘇地域にお いて特に 40 歳代以下の若い世代では,春祭り,秋祭りの認 知度は低く,祭りの経験(参加)も低かった5)ことから, これらの行事は地域の高齢者でとり行われており,若い世 代に引き継がれていないことが推察された。ただ,質問票 には“春祭り”“秋祭り”としか表記しておらず,田作り祭 りのような具体的な祭りの名称がなかったことで祭りの認 知や経験が少なかったとも考えられる。また,例えば秋の 収穫祭である田実祭りとして,阿蘇神社では流鏑馬が行わ れている。これは,観光客の見物があることから,農耕儀 礼の意味合いより現在は観光としての祭りの意味合いが強 くなっていると考えられる。  阿蘇地域と熊本市の行事食を「家庭で作る」割合を表 4 に示した。料理を「他人・親戚からもらう」,「買う」,「実 家・親戚などで食べる」,「外で食べる(飲食店など)」(回 答は複数回答可とした。)と回答した者を「作らない」とし た。正月料理については,「数の子」,「田作り」と「昆布巻 き」以外の料理を作る割合は阿蘇地域が熊本市より有意に 高かった。大晦日については,「年越しそば」,「年取りの祝 い膳」,「尾頭付きいわし」の 3 料理とも阿蘇地域が熊本市 表 3.  阿蘇地域・熊本市の年中行事の経験の有無 阿蘇地域(n=168) 熊本市(n=136) p 値 有 無 有 無 正 月 163(100.0) 0     133(100.0) 0     人 日 151( 98.1) 3( 1.9) 124( 96.1) 5( 3.9) 0.476 節 分 151( 96.2) 6( 3.8) 127( 94.1) 8( 5.9) 0.401 上 巳 158( 98.1) 3( 1.9) 126( 95.5) 6( 4.5) 0.308 春分の日 154( 96.3) 6( 3.8) 122( 94.6) 7( 5.4) 0.494 端午の節句 157( 98.1) 3( 1.9) 124( 94.7) 7( 5.3) 0.120 盂蘭盆 145( 93.5) 10( 6.5) 118( 94.4) 7( 5.6) 0.767 七 夕 104( 78.2) 29(21.8) 98( 91.6) 9( 8.4) 0.005 土用の丑 146( 94.2) 9( 5.8) 124( 96.1) 5( 3.9) 0.454 お月見 129( 86.0) 21(14.0) 108( 90.0) 12(10.0) 0.319 秋分の日 146( 94.2) 9( 5.8) 112( 93.3) 8( 6.7) 0.769 冬 至 158( 98.1) 3( 1.9) 120( 93.8) 8( 6.3) 0.066 大晦日 161(100.0) 0     129( 95.6) 6( 4.4) 0.007 春祭り 92( 68.7) 42(31.3) 41( 77.4) 12(22.6) 0.237 秋祭り 96( 75.0) 32(25.0) 50( 69.4) 22(30.6) 0.396 人数(%) 欠損値有り χ2検定(有意水準 5%未満) Fisher の正確確率検定を行った

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表 4.  阿蘇地域・熊本市の年中行事料理を家庭で作る割合 料 理 阿蘇地域(n=168) 熊本市(n=136) p 値 作る 作らない 作る 作らない 正 月 雑煮 126(96.9) 4( 3.1) 94(72.3) 36(27.7) <0.001 小豆飯・赤飯 63(96.9) 2( 3.1) 26(61.9) 16(38.1) <0.001 黒豆 106(81.5) 24(18.5) 63(51.2) 60(48.8) <0.001 数の子 66(50.0) 66(50.0) 61(46.9) 69(53.1)  0.618 田作り 76(66.7) 38(33.3) 71(56.3) 55(43.7)  0.101 昆布巻き 45(37.2) 76(62.8) 47(37.9) 77(62.1)  0.908 きんとん 80(63.5) 46(36.5) 59(47.2) 66(52.8)  0.009 煮しめ 122(92.4) 10( 7.6) 84(65.6) 44(34.4) <0.001 なます 119(91.5) 11( 8.5) 85(66.4) 43(33.6) <0.001 だて巻き卵 68(56.2) 53(43.8) 50(41.3) 71(58.7)  0.021 人 日 七草粥 117(87.3) 17(12.7) 80(84.2) 15(15.8)  0.505 節 分 いわし料理 11(19.3) 46(80.7) 14(10.9) 115(89.1)  0.120 いり豆 34(33.0) 69(67.0) 25(19.8) 101(80.2)  0.023 巻きずし 45(36.3) 79(63.7) 30(24.6) 92(75.4)  0.046 上 巳 もち・菓子 57(49.6) 58(50.4) 18(17.3) 86(82.7) <0.001 ご飯・すし 100(82.0) 22(18.0) 51(50.5) 50(49.5) <0.001 はまぐりの潮汁 44(48.9) 46(51.1) 44(36.4) 77(63.6)  0.068 春分の日 ご飯・団子 66(51.6) 62(48.4) 41(32.0) 87(68.0)  0.002 精進料理 21(30.9) 47(69.1) 8( 6.8) 109(93.2) <0.001 端午の節句 ちまき 46(40.0) 69(60.0) 12( 9.6) 113(90.4) <0.001 柏餅 13(15.9) 69(84.1) 7( 5.3) 126(94.7)  0.009 赤飯 44(53.0) 39(47.0) 23(20.2) 91(79.8) <0.001 よもぎ餅 30(29.4) 72(70.6) 9( 7.4) 112(92.6) <0.001 盂蘭盆 麺 86(72.9) 32(27.1) 28(29.8) 66(70.2) <0.001 団子・もち 70(68.0) 33(32.0) 27(25.7) 78(74.3) <0.001 精進料理 59(62.8) 35(37.2) 33(28.0) 85(72.0) <0.001 煮しめ 107(81.1) 25(18.9) 51(40.2) 76(59.8) <0.001 七 夕 赤飯 14(12.6) 97(87.4) 6( 9.4) 58(90.6)  0.517 煮しめ 27(23.9) 86(76.1) 17(18.7) 74(81.3)  0.368 そうめん 31(27.9) 80(72.1) 18(17.6) 84(82.4)  0.075 七夕まんじゅう 9( 9.1) 90(90.9) 4( 4.1) 93(95.9)  0.162 土用丑の日 うなぎの蒲焼き 45(31.9) 96(68.1) 43(36.4) 75(63.6)  0.444 お月見 月見だんご小芋 64(48.9) 35(36.8) 67(51.1)60(63.2) 31(26.3)20(17.2) 87(73.7) 96(82.8) <0.001<0.001 秋分の日 ご飯・団子 78(61.4) 49(38.6) 29(29.3) 70(70.7) <0.001 精進料理 30(39.0) 47(61.0) 4( 3.3) 119(96.7) <0.001 冬 至 かぼちゃの煮物 140(94.0) 9( 6.0) 77(65.8) 40(34.2) <0.001 大晦日 年越しそば 132(91.0) 13( 9.0) 77(62.1) 47(37.9) <0.001 年取りの祝い料理 93(82.3) 20(17.7) 33(32.4) 69(67.6) <0.001 尾頭付きいわし 43(51.8) 40(48.2) 15(16.1) 78(83.9) <0.001 人数(%) 欠損値有り 作る:料理を作る 作らない:「他人・親戚からもらう」「買う」「実家・親戚などで食べる」「外で食べる(飲食店など)」と回答した者 回答は複数回答可とした χ2検定(有意水準 5%未満) より有意に高かった。大正末から昭和の初めの食事の聞き 書きによると11,12),阿蘇地域ではいわしの頭付き(一塩も の)は年取り魚として食されていた。熊本近郊では,正月 の祝い膳として頭付きの塩いわしを生のまますえると記さ れており,両地域では正月か大晦日のどちらかで食されて いたことがわかる。  団子やもちは,各行事で作られ,食べることが多いが, 上巳,春分の日,端午の節句,盂蘭盆,お月見,秋分の日 において作る割合は,阿蘇地域が熊本市より有意に高かっ た。  このようにほとんどの料理において阿蘇地域が熊本市に 比べ,「家庭で作る」割合が高かった。塩谷は,正月料理の 実施状況において山漁村部では手作り品が多く,都市部で は市販品の利用が多いという結果13)を得ており,本研究で

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も地域差が認められた。特に,春分の日,端午の節句,盂 蘭盆,お月見,秋分の日,冬至,大晦日の全ての料理で有 意差が認められた。盆は先祖の霊を家に迎え,供物を供え て供養する行事である14)。彼岸には墓参りをして先祖の霊 を尊び,感謝するという行事は日本独得のものである15) このように春分の日,盂蘭盆,秋分の日という先祖の霊を 尊び,供物を供えて行う行事は阿蘇地域の家庭で行う行事 としてより多く伝承されていると推察された。  永野ら16)は,日常の料理が伝承された時期は 10 歳代後 半と 20 歳代前半に多く,家庭内で母親を伝承者とする手作 り志向が強いという結果を得ている。伝統的な「ハレの日 の食事」についても,習得方法は直接母親・姑からおこな われているという傾向17)にあり,日常食,行事食とも家族 の影響が強いと考えられる。表には示さなかったが,阿蘇 地域においては,3 世代以上世帯は他の世帯よりいくつか の料理で「家庭で作る」割合が高いという結果であった。3 世代以上世帯が多い阿蘇地域は,熊本市に比べ「家庭で作 る」という機会が多いと推察され,行事食が伝承されやす い状況にあると考えられた。  真部ら9)は,認知されている行事が実施されるには,農 耕社会的価値観の有無が関与していると述べている。農耕 生活を営み,これを基軸に社会を築いてきたこれまでの農 村社会の仕組みが阿蘇地域ではなくなってきていると考え る。稲作儀礼を中心とした「春祭り」,「秋祭り」のような 行事は,農業就業人口の減少,農業従事者の高齢化ととも に廃れていき,行事食の伝承も難しくなっていると考えら れた。一方,彼岸や盂蘭盆,大晦日や正月など季節の節目 となる行事では家庭で料理を作っていることから,地域の 食文化は維持されていると推察された。しかしながら,年 代別に行事の経験や家庭で作る割合をみると 40 歳代以下で は少なかったこと5)から若い世代への継承が難しくなって いると考えられた。  本研究の対象者は,食への意識が高い推進員である。地 域を代表とする集団ではないものの同質の対象を比較する ことにより,伝統行事が残っている農村部と都市部の年中 行事の認知・経験と行事食の喫食状況が明らかになった。 4. 要  約  平成 22 年と平成 24 年に,熊本市と阿蘇地域在住の推進 員(136 名,168 名)を対象に年中行事の認知・経験の有 無,行事食の喫食状況について質問紙調査を行ない,比較 検討した。  阿蘇地域,熊本市ともほとんどの年中行事の認知度,経 験度は 90%以上と高かった。「春祭り」,「秋祭り」は他の 年中行事より認知度,経験度は低く,地域差は認められな かった。稲作儀礼を中心とした行事は,農業就業人口の減 少,農業従事者の高齢化とともに廃れていき,行事食の伝 承も難しくなっていると考えられた。  行事食を「家庭で作る」割合は,ほとんどの料理におい て阿蘇地域が熊本市より高かった。3 世代以上世帯が多かっ た阿蘇地域では,行事食は家庭で作ることで直接母親・姑 から習得され,伝承されやすい状況にあると考えられた。  本調査研究を行うにあたり,質問紙調査にご協力いただ きました熊本市と阿蘇地域の食生活改善推進員の皆様に深 く感謝申し上げます。 文 献 1) 松本美鈴(2006),現代家庭における年中行事と食べ物, 青山学院女子短期大学総合文化研究所年報,14,3-20 2) 坂本薫(2011),食文化の伝承と行事食―年末年始の行事 食の現状―,兵庫県立大学環境人間学部 研究報告,13, 55-60 3) 小林研三,矢住ハツノ,市原洋子,西山展子,豊永京子, 西島久子,木下エビ子,西村トモ子,岩下亞子,丸山和代, 吉田美智代(1987),阿蘇の食,「日本の食生活全集聞き書 熊本の食事」,小林研三編著,社団法人農山漁村文化協会, 東京,p. 66 4) 村崎真智子(1993),阿蘇神社の祭り,「阿蘇神社祭祀の研 究」,法政大学出版局,東京,pp. 43-54 5) 中 嶋 名 菜,北 野 直 子,福 山 豊,中 嶋 康 博,松 添 直 隆 (2014),阿蘇地域における行事食・郷土料理の年齢別喫食状 況の把握,日本調理科学会誌,47,247-253 6) 渕上倫子,桒田寛子,石井香代子,木村安美(2011),特 別研究「調理文化の地域性と調理科学:行事食・儀礼食」 ―全国の報告―行事食・儀礼食の認知・経験・喫食状況,日 本調理科学会誌,44,436-441 7) 平成 22 年国勢調査 総務省統計局,http://www.e-stat. go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037709&cycode=0, (平成 25 年 2 月 20 日) 8) 村崎真智子(1993),祭りの個別的研究,「阿蘇神社祭祀の 研究」,法政大学出版局,東京,pp. 415-428 9) 真部真里子,橋本慶子(2002),年齢層による年中行事の 認知と実施状況の相違,日本家政学会誌,53,407-415 10) 鷲見孝子,石原加代子,本間恵美(2006),食文化伝承の 現状 第 2 報 行事食の認識度に与える要因,東海女子短期 大学紀要,32,27-32 11) 小林研三,矢住ハツノ,市原洋子,西山展子,豊永京子, 西島久子,木下エビ子,西村トモ子,岩下亞子,丸山和代, 吉田美智代(1987),阿蘇の食,「日本の食生活全集聞き書 熊本の食事」,小林研三編著,社団法人農山漁村文化協会, 東京,pp. 16-22 12) 小林研三,矢住ハツノ,市原洋子,西山展子,豊永京子, 西島久子,木下エビ子,西村トモ子,岩下亞子,丸山和代, 吉田美智代(1987),熊本近郊の食,「日本の食生活全集聞 き書熊本の食事」,小林研三編著,社団法人農山漁村文化協 会,東京,pp. 186-192 13) 塩谷幸子(2002),食文化の継承と世代間関係―正月料理 の変化を通して―,日本家政学会誌,53,157-168 14) 神崎宣武(2005), 正月と盆,「「まつり」の食文化」,株式 会社角川学芸出版,東京,pp. 66-71 15) 新谷尚紀(2007),一年の行事と食のしきたり,「日本の 「行事」と「食」のしきたり」,株式会社プライム涌光,株式 会社青春出版社,東京,pp. 47-52 16) 永野君子,熊野昭子,小森ノイ,菅淑江,竹内厚子,下志

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和文抄録  2010,2012 年に,熊本市と農耕祭事の行事が残っている阿蘇地域において質問紙調査を行った。質問は,年中行事の認 知・経験と喫食状況であった。対象は,熊本市が 136 名,阿蘇地域が 168 名の食生活改善推進員であった。年中行事は, 正月,節句,七夕など 15 行事であった。  両地域の 90%以上の者が,ほとんどの行事について認知,経験をしていた。「春祭り」,「秋祭り」の認知度,経験度は 他の年中行事より低く,地域差は認められなかった。稲作儀礼を中心とした行事は,農業従事者の高齢化,農業就業人口 の減少とともに廃れていき,行事食の伝承も難しくなっていると考えられた。行事食を家庭で作る割合は熊本市より阿蘇 地域が高かった。熊本市に比し阿蘇地域が 3 世代世帯は多かった。その結果,年長者から子どもへ継承されやすいと考え られた。 万千鶴子,大野知子,長谷川孝子,西岡葉子,松沢栄子,大 塚慎一郎,髙橋史人,山中正彦,山口和子(1987),料理の 作り方と伝承について,栄養学雑誌,45,133-141 17) 山田志麻,武藤慶子(1998),母親の食教育に関する調査, 九州女子大学紀要,35,31-39 (平成 25 年 10 月 22 日受付,平成 26 年 7 月 5 日受理)

表 4.  阿蘇地域・熊本市の年中行事料理を家庭で作る割合 料 理 阿蘇地域(n=168) 熊本市(n=136) 作る 作らない 作る 作らない p 値 正 月 雑煮 126(96.9)   4(  3.1) 94(72.3)   36(27.7) <0.001小豆飯・赤飯  63(96.9)  2(  3.1)26(61.9)  16(38.1)<0.001黒豆106(81.5)24(18.5)63(51.2)  60(48.8)<0.001数の子  66(50.0)66(50.0)61(46.9)  6

参照

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