特集◆保健医療ビジネスのフロンティア
はじめに
本稿では、西NISの2つの国、ウクライナとベ ラルーシの医薬品市場について報告する。現地で 発表されたレポートをもとに、図表を中心に、両 国医薬品市場の概況をお届けする。ともにロシア と欧州の狭間に位置し、初期条件が似通ったウク ライナとベラルーシであるが、近年の経済の歩み は好対照となっており、医薬品分野についてもそ のことが当てはまる。ウクライナ市場概況
筆 者 が リ サ ー チ し た 範 囲 内 で は 、 現 地 の apteka.uaというウェブサイトが定期的に発表し ている資料が網羅的で優れていたので、以下では 同サイトに掲載された2014年および2015年上半 期のレポートを図表に抜粋し、ウクライナ市場の 概況を見ていくことにする。 2014年:http://www.apteka.ua/article/321246 2015年上半期:http://www.apteka.ua/article/339254 まず、ウクライナ医薬品市場の規模は図表1の ように推移している。なお、この統計には薬局で 販売されている医療用品、化粧品、サプリメント の売上も含まれている。このあたりの事情はロシ アと共通しているので、今号掲載のロシア市場の レポートを参照していただきたい。 図表1に見るとおり、金額ベースの市場規模は 大幅な拡大を続けている。だが、言うまでもなく 現地通貨グリブナは為替の下落とインフレに見 舞われており、数量ベースおよびドル換算の市場 規模は、経済難で縮小を余儀なくされている。な お、為替レートは、2012年平均が1ドル=7.99グ リブナ、2013年平均が7.99グリブナ、2014年平均 が11.87グリブナ、2015年平均が21.81グリブナと 図表2では、ウクライナ医薬品市場における外 国製品とウクライナ製品の比率を、数量と金額の 両面で示している。また、医薬品市場における製 薬会社別の売上高順位を図表3に、ディストリビ ューターの順位を図表4に示した。図表2および 3から判断すると、ウクライナ市場では意外に地 場企業も健闘しているようである。 以上はapteka.uaが情報源であったが、図表5~ 8ではウクライナ統計局発表の統計データにも とづいて、医薬品の貿易動向を示している(すで に2015年1~10月のデータも得られるので、それ も反映させた)。医薬品(関税コード3003および 3004)の輸出入の数量および金額を跡付けた図表 5および6を見ると、ウクライナが一貫して医薬 品の純輸入国である事実が確認できる。また、数 量と金額を対比すると、ウクライナが単価・付加 価値の低い医薬品を輸出し、逆に高いものを輸入 しているという構図が、容易に想像できる。 ウクライナは、最大の貿易パートナーであった ロシアと決別し、2014年にEUと連合協定を結ん で、EUに戦略的にシフトしようとしている。そこ で、ユーロマイダン革命の前と後で、医薬品の輸 出入相手地域がどう変化したかを調べたのが、図 表7および8である(図の「欧州」はほぼEUに等 しい)。品質や標準の問題に起因していると思わ れるが、元々ウクライナ産医薬品のEU向け輸出 実績は微々たるものであり、輸出は「その他CIS」 向けが大半だった。連合協定を経ても、その構図 に変わりはない。一方、輸入は欧州および「その 他世界」からが中心であり、この構図も変わって おらず、単に市場が縮小しただけである。そうし た中、輸出入とも、ロシアとの取引は激減してい る。こと医薬品産業に関して言えば、今のところウクライナとベラルーシの
医薬品産業・市場
MINI REPORT特 集
保健医療ビジネスのフロンティア
図表1 ウクライナの医薬品市場の規模
図表2 ウクライナ医薬品市場における外国産とウクライナ国産の比率(2015年上半期、%)
前年同 期比伸 び率、 % 前年同 期比伸 び率、 % 前年同 期比伸 び率、 % 前年同 期比伸 び率、 % 前年同 期比伸 び率、 % 2012 31,792.8 16.9 27,037.6 17.4 2,566.6 13.4 1,305.3 12.4 883.3 19.3 2013 35,846.1 12.7 30,432.0 12.6 2,848.0 11.0 1,461.2 11.9 1,104.9 25.1 2014 40,806.5 13.8 34,756.8 14.2 3,243.1 13.9 1,563.7 7.0 1,243.0 12.5 2015上半期 24,637.1 23.6 20,791.1 22.6 2,094.2 33.5 944.9 20.6 806.9 29.7 2012 1,960.0 4.5 1,267.4 5.5 594.9 1.8 56.1 3.5 41.7 19.3 2013 1,992.3 1.6 1,274.1 0.5 612.4 2.9 59.6 6.3 46.2 10.9 2014 1,764.6 ▲ 11.4 1,116.8 ▲ 12.3 552.3 ▲ 9.8 52.1 ▲ 12.5 43.4 ▲ 6.0 2015上半期 783.3 ▲ 16.7 506.1 ▲ 14.6 235.7 ▲ 20.6 22.6 ▲ 19.9 18.9 ▲ 17.3 数量ベース(100万箱) 金額ベース(100万グリブナ) 医薬品 市場 全体 狭義の 医薬品 医療 用品 化粧品 サプリ メント 年 32.3 23.4 51.8 38.0 23.8 61.0 60.0 73.1 65.6 49.9 67.7 76.6 48.2 62.0 76.2 39.0 40.0 26.9 34.4 50.1 0% 50% 100% 医薬品市場全体 狭義の医薬品 医療用品 化粧品 サプリメント 医薬品市場全体 狭義の医薬品 医療用品 化粧品 サプリメント外国産
ウクライナ国産
数量ベース 金額ベース図表3 ウクライナの医薬品市場における製薬会社別売上高順位
図表4 ウクライナの医薬品市場におけるディストリビューター別売上高順位
2013 2014 2015 ファルマク (ウクライナ) 1 1 1 Berlin-Chemie/Menarini Group (ドイツ) 2 2 2 ダルニツァ (ウクライナ) 4 3 3 アルテリウム・コルポラーツィヤ (ウクライナ) 7 5 4 ズダローヴィエ・グループ (ウクライナ) 9 9 5 Sanofi (フランス) 5 6 6 タケダ (日本) 3 4 7 Gedeon Richter (ハンガリー) 8 7 8 KRKA (スロベニア) 11 10 9 Sandoz (スイス) 12 11 10 キエフ・ビタミン工場 (ウクライナ) 17 17 11 Teva (イスラエル) 6 8 12 ユリヤ・ファルム (ウクライナ) 22 19 13 クスム・ファルム (ウクライナ) 28 20 14 GlaxoSmithKline (英国) 15 15 15 ボルシチャゴフスキー化学・医薬品工場 (ウクライナ) 16 18 16Bayer Consumer Care (スイス) 13 14 17
Servier (フランス) 10 12 18 Actavis Group (スペイン) 14 13 19 Abbott Products GmbH (ドイツ) 18 16 20 Stada (ドイツ) 20 22 21 インテルヒム (ウクライナ) 21 28 22 Sopharma (ブルガリア) 27 27 23 Alpen Pharma AG (スイス) 23 21 24 ファルマ・スタルト (ウクライナ) 40 33 25 Boehringer Ingelheim (ドイツ) 25 24 26 デルタ・メディカル (ウクライナ) 19 23 27
Novartis Consumer Health (スイス) 29 26 28
Heel (ドイツ) 24 51 29 Bayer Pharma (ドイツ) 36 34 30 2013 2014 2015 BaDM(ドニプロペトロウシク) БаДМ 1 1 1 オプチマ・ファルム(キエフ) Оптима-Фарм 2 2 2 ヴェンタ(ドニプロペトロウシク) Вента 4 3 3 FRAM CO(キエフ) ФРАМ КО - - 4 ファルムプラネータ(キエフ) Фармпланета 6 6 5 フィト・レク(ハルキウ) Фито-Лек 7 7 6 フラ-M(ドネツィク) Фра-М (Донецк) 5 4 7 MTK医療センター(キエフ) Центр медицинский Медцентр М.Т.К. 9 8 8 アメトリンFK(キエフ) Аметрин ФК 18 10 9 ファルマコ(キエフ)