資源と経済(1)
—資源の利用と経済発展—
JOGMEC 特別顧問東京大学生産技術研究所 サスティナブル材料 国際センター客員教授
澤田 賢治
資源を取り巻く環境は最近大きく変化を遂げており、その変化の要因を探るための情報が必要になっている。本シ リーズは、最近の資源に関する変化を経済指標と資源情報を有機的に結びつけるマクロ経済やミクロ経済の観点から 分析をめざすものである。 本号では、国連に加盟している世界193か国から43か国を選び、資源の利用と経済発展について、先進7か国・新 興国(BRICs)・新興国(VISTA)・鉱産国・産油国に分類し、2010年における国内総生産(GDP)・購買力平価GDP・イ ンフレ率・実質経済成長率といったマクロ経済指標の他、使用強度の概念に基づき、銅やエネルギーの使用強度との 関連性を議論した。経済発展と資源の利用の関係を探り、今後の展望を明らかにすることが本号の目的である。1. 世界の主要国におけるマクロ経済
現在の経済発展は、長い時間の経過とともに達成さ れた。それぞれの発展段階において特有の道具や資源 が利用されている。例えば、旧石器時代(250万年前∼ 1万年前)、新石器時代(1万年前∼紀元前3500年)、 青銅器時代(紀元前3500年∼紀元前1500年前)、鉄器時 代(紀元前1500年より)、石炭時代(紀元後1600年より)、 石油時代(紀元後1875年より)、原子力時代(紀元後 1945年より)、情報化時代(紀元後1960年より)、等に 示されるように時代とともに発展を遂げている。現在 の社会に深く関係する発展として、1760年代から1830 年代にかけて英国で始まった産業革命がある。英国で は、当時、国内資源だけでなく原料供給地や市場とし ての植民地、社会・経済的な環境整備、蓄積された資 本や資金調達の可能性、農業革命による労働力が備わ っており、産業革命が達成されたと言えよう。この産 業革命は、石炭等の資源に富むドイツ・米国と続き、 ベルギー・フランス・日本へとさらに波及していった。 経済を総合的に表す指標として、国内総生産(GDP: Gross Domestic Product)があり、市場で取引された財 やサービスの生産の合計から求められる。最近、新興 国による急速な経済成長によって、従来のような先進 国・ 振 興 工 業 経 済 地 域(NIEs:Newly Industrializing Economies)・発展途上国といった分類は必ずしも現実 にあてはまらなくなった。さらに、国内総生産を時代 の変化とともに分析することは重要であるが、最近の グローバリゼーションや情報技術(IT)の進展により、 フラット化が進行している。その結果、国の経済発展 は先進国が過去経験した発展パターンを踏襲するとは 必ずしも限らず、時間の垂直的変化よりも水平的変化 をとらえる必要がある。 財やサービスの取引が自由に行える市場では、2国 間の為替相場は2国間の同じ商品を同じ価格にするよ うな外国為替レートとなり、均衡する。つまり、貿易 障壁がない場合、国が異なっても同じ製品の価格は1 つであるという「1物1価の法則」が成立し、この法則 が成り立つ時の2国間の均衡した為替相場をさして購 買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)と呼ばれ、以 下のように表示される。 購買力平価= 海外通貨による価格/基軸通貨(US$) による価格 例えば、2010年における名目GDP/購買力平価GDP で、米国よりも高い生活費がかかる国として、スイス (161%)、豪州(140%)、日本(126%)等が挙げられる。 反対に物価が安い国として、タンザニア(39%)、イン ド(40%)、ボリビア(42%)、モザンビーク(45%)、イ ラン(46%)等が指摘されよう。躍進がめざましい新興 国は、ブラジル(96%)、ロシア(66%)、中国(58%)と なっている。購買力平価による国別比較は、当該国に おける人件費や物価水準を示しており、鉱山開発投資 や海外投資案件の評価の一部となろう。 表1(その1、その2)には、代表的な国37か国にお ける2010年の名目GDP・購買力平価GDP・1人当たり のGDP・インフレ率・実質経済成長・GDP比(名目/購 買力平価)・銅やエネルギーの使用強度を示している。 2010年の名目GDPにおいて、米国(世界第1位)・日本 (第3位)・ドイツ(第4位)・フランス(第5位)・英国 (第6位)・イタリア(第8位)・カナダ(第10位)といっ た先進国の間に、中国(第2位)・ブラジル(第7位)・ インド(第9位)・ロシア(第11位)の新興国が位置して いる。購買力平価GDPでは、世界第1位の米国(14.5 兆US$)に次いで第2位に中国(10.1兆US$)、日本 (4.3兆US$)に次いで第4位にインド(4.1兆US$)、ド イツ(2.9兆US$)に次いで第6位にロシア(2.2兆US $)、英国(2.18兆US$)に次いで第8位にブラジル (2.179兆US$)が連なっている。1人当たりのGDPや 購買力GDPでは、先進国と新興国には大きな差がある ものの、国の経済規模としては近い将来新興国が先進 国を抜くことは大いに予想されることである。連載
資源と経済 ( 1)─資源の利用と経済発展─表1. 2010年主要国の経済指標(その1)
(出典:IMF, World Economic Outlook 2011, Septemberに基づき作成)
国 名 名目GDP (10億US$) 名目GDP/人 (US$) 購買力平価GDP (10億US$) 購買力平価GDP/人 (US$) 米国 14,527 46,860 14,527 46,860 中国 5,878 4,382 10,120 7,544 日本 5,459 42,783 4,323 33,885 ドイツ 3,286 40,274 2,944 36,081 フランス 2,563 40,704 2,135 33,910 英国 2,250 36,164 2,181 35,059 ブラジル 2,090 10,816 2,179 11,273 イタリア 2,055 34,059 1,779 29,480 インド 1,632 1,371 4,058 3,408 カナダ 1,577 46,303 1,334 39,171 ロシア 1,480 10,356 2,231 15,612 豪州 1,237 55,672 884 39,764 メキシコ 1,034 9,522 1,565 14,406 韓国 1,014 20,756 1,466 29,997 トルコ 735 10,309 969 13,577 インドネシア 707 2,974 1,033 4,347 スイス 528 67,779 327 41,950 ポーランド 469 12,323 723 18,981 サウジアラビア 448 16,267 623 22,607 イラン 407 5,449 888 11,883 アルゼンチン 370 9,131 644 15,901 南アフリカ共和国 364 7,274 526 10,518 アラブ首長国連邦 302 57,884 248 47,439 チリ 203 11,827 259 15,040 ペルー 154 5,205 277 9,358 カザフスタン 148 9,009 197 12,015 カタール 127 74,901 150 88,222 イラク 81 2,531 114 3,548 タンザニア 23 545 59 1,417 ボリビア 20 1,900 48 4,604 ザンビア 16 1,221 20 1,516 ボツワナ 15 8,117 28 15,180 コンゴ(DRC) 13 186 23 329 ナミビア 12 5,518 15 6,935 パプアニューギニア 10 1,465 15 2,307 モザンビーク 10 440 22 1,012 モンゴル 6 2,267 11 4,020
連載
資源と経済 ( 1)─資源の利用と経済発展─表1. 2010年主要国の経済指標(その2)
(出典:IMF, World Economic Outlook 2011, Sep, World Bureau of Metal Statistics 2012,January, International Energy Agency 2010に基づき作成)
国名 インフレ (%) 実質経済 成長(%) GDP比(名目/ 購買力平価(%) 銅消費 (千t) 銅使用強度 (千t/10億US$) エネルギー使用 強度(koe/$05p) 米国 1.69 3.03 100 1,751 0.12 0.17 中国 4.70 10.33 58 7,419 0.73 0.28 日本 −0.40 3.96 126 1,060 0.25 0.12 ドイツ 1.85 3.56 112 1,312 0.45 0.12 フランス 1.74 1.38 120 194 0.09 0.13 英国 3.39 1.35 103 43 0.02 0.10 ブラジル 5.91 7.49 96 470 0.22 0.13 イタリア 2.09 1.30 116 619 0.35 0.10 インド 9.47 10.09 40 514 0.13 0.20 カナダ 2.23 3.22 118 149 0.11 0.21 ロシア 8.80 4.00 66 421 0.19 0.32 豪州 2.66 2.68 140 141 0.16 0.18 メキシコ 4.40 5.42 66 319 0.20 0.14 韓国 3.52 6.16 69 856 0.58 0.19 トルコ 6.40 8.95 76 369 0.38 0.11 インドネシア 6.96 6.11 68 211 0.20 0.24 スイス 0.69 2.71 161 3 0.01 n/a ポーランド 3.10 3.80 65 260 0.36 0.15 サウジアラビア 5.43 4.15 72 160 0.26 0.32 イラン 19.90 3.24 46 144 0.16 0.24 アルゼンチン 10.92 9.16 57 26 0.04 0.14 南アフリカ共和国 3.49 2.84 69 67 0.13 0.31 アラブ首長国連邦 1.70 3.23 122 nil n/a 0.25 チリ 2.97 5.19 78 100 0.39 0.14 ペルー 2.08 8.79 56 55 0.20 n/a カザフスタン 7.97 7.25 75 53 0.27 0.45
カタール 0.40 16.64 85 nil n/a n/a
イラク 3.31 0.84 71 nil n/a n/a
タンザニア 7.23 6.44 39 nil n/a n/a
ボリビア 7.17 4.13 42 nil n/a n/a
ザンビア 7.90 7.60 80 23 1.15 n/a
ボツワナ 7.41 7.20 54 nil n/a n/a
コンゴ(DRC) 9.84 7.25 57 nil n/a n/a
ナミビア 3.09 4.78 80 nil n/a n/a
パプアニューギニア 7.80 7.03 67 nil n/a n/a
モザンビーク 16.62 6.81 45 nil n/a n/a
モンゴル 14.29 6.37 55 nil n/a n/a
連載
資源と経済
(
2. 世界のグループ別主要国における経済の
特徴
現在、国連に加盟している国数だけで193か国に及 ぶ。その中で、類似する主要国を、先進7か国(G7)、 新興国(BRICs、VISTA)、主要鉱産国、主要産油国の ようにグループ別に分類し、議論を進めていきたい。 グループ別主要国の経済指標は表2を参照されたい。 先進7か国の低いインフレ率や実質GDP成長に比べて 新興国や資源保有国は高い数字を示している。特に、 新興国(BRICs)の成長率は7.98%と高く、インフレ率 (7.28%)を上回っている。資源保有国の実質GDP成長 率も5%前後と高いがインフレ率はそれ以上に高い数 字を示す。 ①先進7か国(G7) 1976年以前は、米国・英国・ドイツ・日本・フラン スの5か国がG5と呼ばれていた。1976年にイタリア とカナダが加わりG7となった。1750年頃から英国に おいて始まった産業革命は、当時国内に賦存するエネ ルギー資源や鉱物資源の利用により可能となった。そ の後、石炭・石油・天然ガスを利用した重工業の発展 があり、鉄鋼や金属材料を利用した製造業の発展へと 続いた。カナダを除く6か国は産業革命による製造業 を中心とした経済発展を続けていたが、英国や米国で は金融やIT事業にも力点が置かれるようになった。 2010年、G7は 名 目GDPで31.7兆US$、 購 買 力 平 価 GDPで29.2兆US$を占めており、低いインフレ率 (1.8%)と安定した実質GDP成長率(2.54%)で特徴づけ られる。 ②新興国(BRICs) 飛躍的な経済発展を遂げている4か国(ブラジル・ ロシア・インド・中国)の総称。BRICsは世界の国土 面積の29%、人口の42%を占めるとともに、資源大国 でもある。経済の発展に伴い、中国は資源消費国に転 じており、世界消費の20∼50%を占めるようになった。 BRICsは、 高 い 経 済 成 長(2010年 実 質GDP成 長 率 7.98%)で特徴付けられている。2010年の名目GDPが 11.1兆US$とG7の35%程度であるが、購買力平価 GDPは18.6兆US$とG7の64%に達しており、近い将 来にはG7を追い越すことが予想される。 ③新興国(VISTA) BRICsに続くグループとして提唱されているのが VISTAであり、ベトナム・インドネシア・南アフリカ 共 和 国・ ト ル コ・ ア ル ゼ ン チ ン の 5 か 国 の 総 称。 BRICsに比較して、名目GDPや購買力平価GDPにおい て約5分の1程度の規模である。2010年の購買力平価 ベースのGDPでは、ベトナム(世界第41位)・インドネ シア(第15位)・南アフリカ共和国(第25位)・トルコ(第 16位)・アルゼンチン(第22位)であるが、実質経済成 長率は南アフリカ共和国(2.84%)を除き、アルゼンチ ン(9.16%)・トルコ(8.95%)・ベトナム(6.78%)・イ ンドネシア(6.11%)と高い数字を示している。VISTA も資源保有国であるが、ベトナムではGDP比(名目/購 買力平価)が37%と中国の58%よりも低く、先進国企 業の生産拠点になる可能性が高い。アジアと欧州の中 間にあるトルコも石油産業や欧州向けの工業生産の拠 点として発展が期待される。 ④資源保有国 鉱産国や産油国のように天然資源に依存する資源保 有国の定義として、Davis(1995)はGDPに対する資源 産業の寄与率が8%以上、総輸出に占める資源輸出の 表2. 世界の主要国における経済の特徴(2010年)(出典:IMF, World Economic Outlook 2011, Sepに基づき作成)
グループ及び国名 名目GDP合計 (10億US$) 購買力平価GDP (10億US$) インフレ率 (%) 実質GDP成長率 (%) 先進7か国(G7) (米国・日本・ドイツ・フランス 英国・イタリア・カナダ) 31,717 29,224 1.80 (3.39〜−0.40) 2.54 (3.96〜1.30) BRICs (ブラジル・ロシア・インド・中国) 11,080 18,587 7.22 (9.47〜4.70) 7.98 (10.33〜4.00) VISTA (ベトナム・インドネシア・南アフリカ 共和国・トルコ・アルゼンチン) 2,279 3,449 (11.75〜3.49)7.90 (9.16〜2.84)6.77 主要鉱産国(12か国) (豪州・メキシコ・ポーランド・チリ・ ペルー・ボリビア・ザンビア・ボツワナ・ コンゴ(DRC)・ナミビア・パプアニュ ーギニア・モンゴル) 3,189 3,867 (14.29〜2.08)6.06 (8.79〜2.68)5.85 主要産油国(15か国) (サウジアラビア・イラン・アラブ首長 国連邦・ベネズエラ・ナイジェリア・ア ルジェリア・カザフスタン・クウェート・ カタール・アンゴラ・イラク・リビア・ オマーン・ウズべキスタン・ブルネイ) 2,563 3,725 (27.18〜0.40)7.91 (16.64〜−1.49)4.80
連載
資源と経済 ( 1)─資源の利用と経済発展─比率が40%以上とした。Eggert(2003)は輸出総額に占 める資源輸出額が10%以上を資源依存国と定義してい る。 2010年のデータによると、資源産業のGDPに対する 寄与率が大変高い一部の資源保有国もある。例えば、 アンゴラでは石油(85%)とダイヤモンド(7%)で資源 産業がGDPの92%、ボツワナでは採掘から加工を含め たダイヤモンド産業がGDPの75%、コンゴ(DRC)で は24%をそれぞれ占めている。しかしながら、資源産 業だけでなく第二次や第三次産業の発展を遂げている 資源保有国においては、資源産業のGDP寄与率はそれ ほど高くはない。例えば、資源保有国のうち、GDPに 対する寄与率は、チリ(6%)・豪州(5.9%)・南アフ リカ共和国(5.3%)・カナダ(2.8%)・インド(1.2%)等 と10%以下である。その一方、輸出に占める資源輸出 は、ナミビア・コンゴ(DRC)・ザンビア・モンゴル・ 豪州等の鉱産国では50%以上に達する。さらに、主要 産油国である、イラク・アンゴラ・アルジェリア・ク ウェート等では90%以上と高い輸出依存を示してい る。 主要鉱産国として第2表に示す12か国をリストアッ プした。購買力平価GDPは3.9兆US$と先進7か国の 13%程度であるが、実質GDP成長率が5.85%、インフ レ率が6.06%とそれぞれ高い数字を示している。 主要産油国として第2表に示す15か国を挙げた。購 買力平価GDP(3.7兆US$)・実質GDP成長率(4.8%)・ インフレ率(7.91%)と主要鉱産国グループに類似して いる。 資源保有国にとって、資源輸出による経済成長が重 要課題であるが、資源輸出によって通貨の為替レート が上昇して、工業製品の輸出が競争に不利となり、国 内製造業の不振につながるオランダ病の危険も潜在す る。オランダ病は1976年に経済学者によって作り出さ れたもので、北海油田の石油や天然ガスの利益がオラ ンダの工業製品生産にマイナスの影響を及ぼすことを 示すものである。オランダ病は現在でも資源に富む国 が経済的に乏しいパーフォーマンスを示す場合に使わ れている。Scott Pegg(2010)は、40年以上にわたり9% 以上の経済成長を続けているボツワナが世界で最も成 長している国として指摘し、ダイヤモンド産業による オランダ病の兆候を論じた。しかしながら、ボツワナ では健全なマクロ経済政策による運営や慎重な財政政 策による貯蓄推進が行われ、ダイヤモンドによる税収 はインフラの整備・教育への投資に利用され、公務員 数の増大や破格な公務員給与に通じたことを明らかに した。ただ、ボツワナにおけるダイヤモンド産業から 農業や製造業への多様化に成功していないことも指摘 している。最近の資源価格の高騰により、資源保有国 は、資源開発における国家管理の強化、ロイヤルティ や価格高騰時のウィンドフォール税等による税制強化 の他、インドネシアに見られるように、原料輸出を禁 止して、製錬や加工を経て高い付加価値の製品輸出を 目指す傾向もある。また、湾岸諸国では安い石油・天 然ガスによる火力発電を活用して、多量の電力を必要 とするアルミ製錬の拡大も見られる。例えば、2010年 のアルミニウム地金の生産量は、中東地域において、 アラブ首長国連邦(1,002千t)・バーレン(858千t)・ オマン(367千t)・イラン(281千t)・カタール(146千 t)と5か国で2,654千tに達し、世界生産量の6.5%を 占めるようになった。アラブ首長国連邦の首都ドバイ には、ドバイアルミニウム(DUBAL)とエミレーツア ルミニウム(EMAL)が世界最大規模のアルミ製錬工場 を保有しており、品質や競争力において世界水準にあ ると言われている。世界最大の産油国であるサウジア ラビアは、鉱物資源の分野でも中東で最大のポテンシ ャルを誇っており、貴金属・ベースメタル・レアメタ ルの賦存が知られている。その割には資源開発が行わ れておらず、政府は2004年に鉱業投資法を制定して外 資導入を進めている。今後、サウジアラビアでは、石 油や石油化学とともに、鉱業が第3の柱となる。 資源保有国にとって将来における経済発展は資源産 業の付加価値化の他、資源による利益をいかにして製 造業等の多角化に還元するかが重要となろう。
3. 使用強度の概念と経済学的意義
金属消費量と経済活動の関係について、古くは、ロ ーマクラブの報告(1972)に見られるように、金属消費 量は経済活動と比例して拡大すると仮定し、その結果、 指数関数的に増大する金属消費量を予想したこともあ った。金属消費量は従来から、金属価格・代替金属価 格・経済活動の水準・技術革新などの変数を含む需要 関数で表現される。Tilton(1986)は、基本的な需要モ デルを変換して、金属の使用強度を説明する方法を確 立した。この方法は、使用強度手法(IOUT:Intensity of Use Technique)と呼ばれている。その概念は、金属 消費量が、経済活動の水準・最終製品単位当たりに消 費される金属量(原単位)・その金属が含まれる最終製 品の生産量に依存していると仮定している。使用強度 手法において、金属の使用強度は経済活動のために消 費される金属量と経済活動の水準(実質GDP)の比と定 義される。 IU=C/GDP=(Q/GDP)×(C/Q)=PCI×MCP IU :使用強度 C :金属消費量 GDP :実質国内総生産 Q :対象とする金属を含む製品の生産額も しくは生産量PCI(Product Composition of Income)は国内総生産(当 該国において1年間に生産された財貨及びサービスの 総額から海外からの純所得を控除したもの)の中に占 める対象とする金属を含む製品量もしくは製品生産額 と定義される。別の言い方をすると、PCIは国民所得 の当該金属を含む最終製品に対する消費動向を示して いる。PCIの時系列変化は、GDP内の農業部門から製
連載
資源と経済 ( 1)─資源の利用と経済発展─72 造業部門、あるいは製造業部門からサービス業部門へ の移行といったGDPの部門間の変化だけでなく、製造 業内の自動車・家電製品などの伝統的製品からコンピ ューターや科学機器への先端技術の製品への消費性向 の変化といった部門内の変化もあり、以下のように表 現される。 PCI=f(INTER, INTRA) INTER:GDP部門間の変化 INTRA:製造業内の変化
MCP(Materials Composition of Product)は対象とする 金属が含まれる製品の生産額もしくは生産量に対する 当該金属の消費量の比率と定義される。つまり、MCP は当該金属の原単位であり、その時系列変化は、金属 価格や資源節約をもたらす技術開発に影響され、以下 にて示される。 MCP=f(P, Tec) P :金属価格 TEC :技術開発
4. 銅使用強度
世界でデータが利用可能な米国における銅使用強度 の推移を概観したい。Hutchison&Tilton(1987)による と、米国における銅使用強度は第一次世界大戦末期の 1911年にピークに達し、その後の25年間は高水準にあ り、第二次世界大戦の終わりから1950年代にかけて急 激に減少している。21世紀の初頭は米国において電化 が急速に普及した時期に相当しており、その後、通信 や自動車といった銅消費を伴う産業が続いたため、銅 使用強度も高水準にあった。銅使用強度の急激な伸び は発展途上国でみられる特徴であり、先進国になるに つれてサービス業など銅消費を伴わない第三次産業が 発達するため、銅使用強度も減少傾向になると指摘さ れている。 世界における最近の経済発展はスピードが速く、途 上国は必ずしも先進国が辿った経路を経ることなく、 ショートパスの状態で経済発展を遂げることも多い。 例えば、携帯電話の普及などは、電線の敷設を待たず、 全世界的に利用されている。さらに、過去、一世紀に 及ぶGDPや銅消費量のデータが汎世界的に入手できる わけでもない。そのため、過去における時系列の銅使 用強度ではなく、ある時間的断面における使用強度に 着目したい。そのため、現在入手可能な最新の2010年 のデータに基づいて、主要国の銅使用強度を議論する ために、以下のように再定義した。 IU=C/購買力平価GDP IU :銅使用強度 C :2010年銅地金消費量 GDP: 2010年の購買力平価によるUS$表示の GDP 世界の先進国・新興国・資源保有国のうち代表的な 国における銅使用強度を図1に、GDPや銅消費量がず ば抜けて大きい米国と中国を除いた主要国を図2にそ れぞれ示す。銅使用強度の高い国としては、中国(0.73 千t/10億US$)・韓国(0.58)・ドイツ(0.45)が指摘さ れる。これらの国は世界有数の貿易国であり、大幅な 輸出超過を記録している。そのために、ネット輸出に よる銅間接消費が高いといえよう。 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 0 5,000 10,000 15,000 20,000 Cu C on su m pt io n (k t) GDP at PPP (Billion US$) China Germany USA Japan India 図1. 銅使用強度(米国と中国を含む) (注:縦軸は銅地金消費量(千t)を、横軸は2010年の購買力平価GDP(10億US$)を示す) (72) 2012.5 金属資源レポート連載
資源と経済 ( 1)─資源の利用と経済発展─5. グローバル化における銅使用強度
銅使用強度の議論は、銅が利用されている最終製品 について議論されるべきである。しかも、その最終製 品も国内だけの消費といった閉鎖系で考えるよりも、 国際化にあっては最終製品の輸出入も加味して取り扱 うことが必要であろう。GDPはある年の一か国におい て生産された最終製品やサービスの総量であり、別の 見方をすると最終製品やサービスに使われる総所得と もいえる。最終製品が容易に輸入可能な開放系にあっ ては、消費者は所得に応じて国産の製品や輸入品を購 入することができる。 最終製品の貿易が自由に行われる場合、最終製品の 輸出が活発な国では国内の銅消費量の増加をもたら し、反対に最終製品の輸入が多い国では国内の銅消費 量の減少の要因となる。自由貿易の体制下における銅 使用強度は、Robert(1990)によって明らかにされたよ うに、以下の式で表わされる。 IU=PCI×MCP+MCP×(Qexp−Qimp)/GDP IU :銅使用強度 C :2010年銅地金消費量 GDP :2010年の購買力平価によるUS$表 示のGDP Qexp :輸出向け銅を含む最終製品 Qimp :輸入向け銅を含む最終製品 上式から明らかなように、最終製品の輸出入が伴う 場合、銅地金消費量は原単位と銅を含む最終製品のネ ット輸出量(あるいはネット輸入量)の積の影響を受け ることになる。日米に代表される主要貿易国において、 1970年代後半以降の貿易拡大にあっては、輸出入され る最終製品中に含まれる間接銅消費は無視できなくな った。Huchison&Tilton(1987)は、間接銅消費を考慮 しない通常の計算では過小評価された銅使用強度が求 まることを明らかにした。 輸出入される最終製品のうち、銅が含まれるのは主 として、輸送機器・電機機械・一般機械である。米国 では、1965∼1982年までは機械のネット輸出国であり、 特に1974∼1982年の間は、117∼261億US$ものネッ ト輸出額を誇っていた。しかし、1983年以降はネット 輸入国に転じており、1986∼1988年は600億US$台の ネット輸入額を記録している。また、Al-Rawahi& Rieber(1991)は米国における間接銅消費は1975年以降 増加しており、1985年には米国の銅見掛け消費の25% に相当する524千tにも達すると推定した。 日本における間接銅消費量は、銅が主に含まれる輸 送機械・電機機械・一般機械の輸出額と輸入額の差を とったネット輸出額に原単位(日本には最終需要部門 別銅消費量のデータがないため米国の原単位を利用) を乗じて求めた。その結果、日本における間接銅消費 量は、1965年の103千tから1981年には561千tに達し た後、1982−1985年には400千t台で推移した。1985 年のプラザ合意以降、円高が急激に進んだため、この ような計算方法は適用できない。2011年9月に上海で 開催された第7回アジア銅会議において中国における 間接銅消費は見掛け消費量の25−30%に達する発言も あった。2010年における銅地金消費は7,419千tであ るので1,850∼2,200千tが輸出向け銅消費となる。 2010年における間接銅消費を議論するために、世界 貿易機関(WTO:World Trade Organization)の貿易統計を 利用した。銅使用強度において他の国とは逸脱した米 国・中国・ドイツ・日本・韓国・トルコの6か国を抽 出して、工業製品の輸出額・輸入額・貿易収支額を示 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 Cu C on su m pt io n (k t) GDP at PPP (Billiom US$) Germany Japan Korea Italy Brazil India Russia Turkey Mexico Poland France Indonesia UK 図2. 銅使用強度(米国と中国を除く) (注:縦軸は銅地金消費量(千t)を、横軸は2010年の購買力平価GDP(10億US$)を示す)連載
資源と経済 ( 1)─資源の利用と経済発展─した(図3参照)。工業製品の輸出超過が顕著な国は、 中国(0.58兆US$)・日本(0.33兆US$)・ドイツ(0.32 兆US$)・韓国(0.17兆US$)が指摘される。一方、輸 入超過国としては、米国(0.43兆US$)やトルコ(0.03 兆US$)が挙げられる。輸出超過の工業製品中におけ る銅含有量は定量的に算出不可能であるが、中国・ド イツ・韓国において銅使用強度が高いのは、この輸出 超過に起因するのであろう。逆に、米国の銅使用強度 が低いのは、GDPにおける個人消費(GDPの70%を占 める)の拡大もあろうが、工業製品の輸入超過による 銅間接消費の影響もあろう。 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5 㖙 ⏕ ᙁ ᗐ 䜬䝑䝯䜲䞀⏕ᙁᗐ China Korea Germany Turkey Italy Chile Poland Australia India Canada Japan Brazil Mexico France UK USA Saudi Arabia Russia South Africa Indonesia Iran Kazakhstan Argentina 図4. 主要国における銅使用強度とエネルギー使用強度 (注:縦軸は、銅地金消費量/購買力平価GDP(2010年)を示しており、単位は千t/10億US$。横軸は、 石油換算消費量/購買力平価GDP(2009年)を示しており、単位はkoe(kilogram of oil equivalent)/ $05p(2005年US$表示の2009年購買力平価GDP) (1,000,000) (500,000) 0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000
China Germany USA Japan Korea Turkey
Tr ad e o f M an u fa ct u re s (U S$ m ill io n )
Export Import Balance
図3. 主要貿易国における工業製品の輸出入実績(2010年) (注:縦軸は工業製品の輸出額・輸入額・貿易収支額を示す)
連載
資源と経済 ( 1)─資源の利用と経済発展─6. 銅使用強度とエネルギー使用強度
銅使用強度と同様な考え方にエネルギー使用強度が ある。エネルギー使用強度は、一次エネルギー消費量 とインフレやデフレの影響のない特定の年にリンクさ れているUS$で表示された購買力平価GDPの比率で 示される。世界のエネルギー使用強度に関するデータ は、 国 際 エ ネ ル ギ ー 機 関(IEA:International Energy Agency)から入手可能である。エネルギー使用強度は 以下の式にて示される。 エネルギー使用強度= エネルギー消費量(koe)/購買 力平価GDP($05p) koe : 2009年の石油換算消費量(kilogram of oil equivalent) $05p: 2005年US$表示の2009年における購 買力平価GDP 図4は、縦軸に銅使用強度を、横軸にエネルギー使 用強度を示しており、その傾きは以下の式にて示される。 傾き(slope)=銅使用強度÷エネルギー使用強度 = 銅地金消費量/GDP÷エネルギー消費量 /GDP =銅地金消費量/エネルギー消費量 傾きは大きく以下の2グループに分類される。 低い傾きのグループ:カザフスタン・サウジアラビア・ ロシア・南アフリカ共和国・イ ンドネシア・イラン等で代表。 国内のエネルギーが豊富な新興 国や米国・英国の先進国が主体。 高い傾きのグループ:中国・韓国・ドイツ・トルコ・ 日本等、貿易輸出国やチリ・ポ ーランドのような銅生産国。 エネルギーの生産国ではエネルギー費用が安く、そ のため消費量が多いと思われる。また、米国や英国の ような先進国は特に、金融サービスやIT・通信に代表 される第三次産業の発達によるGDPの拡大が顕著のた め、エネルギーや銅の使用強度が小さくなっている。 その一方、中国・韓国・ドイツ・トルコ・日本のよう な貿易輸出国では輸出製品に含まれる銅の間接消費量 により高い銅使用強度を示すと思われる。銅生産国の チリやポーランドは垂直型の銅産業で特徴づけられて おり、銅鉱山生産から銅地金生産まで行っているため、 見掛け銅地金消費が高く、銅使用強度にも反映されて いると思われる。 中国におけるエネルギー消費量は、2002年に米国に 次ぐ世界第2位となったが、中国エネルギー研究会に よると2010年に世界第1位のエネルギー消費大国にな ったという。しかしながら、中国では製造業や貿易輸 出がGDPに大きく貢献しており、高い銅使用強度を示 している。7. まとめ
2010年のマクロ経済指標や銅地金消費量のデータに 基づき、使用強度の概念による世界主要国を分析した。 その結果、得られた結論は以下のとおり。 ① 世 界 の 主 要 国 を 先 進 7 か 国・ 新 興 国(BRICs、 VISTA)・資源保有国(鉱産国12か国、産油国15か国) の合計43か国を対象にグループ別のGDP(名目・購 買力平価)・インフレ・実質GDP成長率の特徴を明 らかにした。 ②銅使用強度の概念から銅地金消費量と経済活動につ いて分析した。最近のグローバルゼーションや情報 技術の進展から、各国の発展のフラット化が進んで おり、2010年の時間断面による銅使用強度を購買力 平価に基づき算出した。さらに、グローバル化によ るネット輸出の銅間接消費を考慮に入れた使用強度 も論じた。 ④銅使用強度は、中国・ドイツ・韓国で高い数字を示 しており、銅を含む最終製品の大幅なネット輸出に よる間接消費を示している。 ⑤銅使用強度とエネルギー使用強度の関係を分析し、 エネルギー生産国は銅消費に比べてエネルギー消費 が高いことを明らかにした。 ⑥米国や英国では第三次産業の拡大によりGDPが高く なっており、その結果、銅やエネルギー強度が小さ くなっている。日本は、中国・ドイツ・韓国のグル ープと米国・英国グループの間に位置する。 (2012.3.13)8. 主要参考文献
Al-Rawahi K. & Rieber M.(1991), Embodied copper : trade, intensity of use and consumption forecasting. Resources Policy, Vol.17, No.1, p.2-12.
Davis, G.A.(1995), Learning to love the Datch Disease: Evidence from the mineral economics, World Development, Vol.23, No.10, p.1765-1779.
E g g e r t , R . G .(2003), The mineral economics: Performance, potential problems and policy challenge, UNCTAD, 31p.
Hutchison R.S. & Tilton J.E.(1987), Is the intensity of copper use still declining in the USA ? Natural Resources Forum, Vol.11, No.4, p.325-334.
Roberts M.C.(1990), Predicting metal consumption. Resources Policy,Vol.17, No.1, p.56-73.
澤田賢治(1991)、日米における銅需要動向 −使用強 度手法によるアプローチ−日本メタル経済研究 所、57p.
Scott Pegg(2010), Is there a Dutch disease in Botswana. Resources Policy,Vol.35, p.14-19.
World Energy Intensity Data
http://yearbook.enerdata.net/#/energy-intensity-GDP-region.html