費用補償請求事件及び事業配当金請求事件 判決概要
(オスカードリーム)
<判決概要(平成23年12月9日)>
・ 費用補償請求事件に係るみずほ信託銀行株式会社の請求を認容する。
・ 事業配当金請求事件に係る大阪市の請求を棄却する。
・ この判決は、大阪市に送達された日から14日が経過したときは、仮に執行するこ
とができる。ただし、大阪市が250億円の担保を供するときは、その仮執行を免れ
ることができる。
上記を命じる判決があった。
1 訴訟の概要
住之江用地土地信託事業(オスカードリーム)については、平成7年3月の開業以来、
経常収支が一度も黒字化することなく、かつ、交通局に対して、事業配当金が一切交付
されていない中、平成18年7月に受託銀行であるみずほ信託銀行株式会社(以下、「み
ずほ信託」という。)は当事業の借入金を一方的に自己の固有財産による立替金として処
理した上、同年12月に同立替金の費用補償請求を内容とする調停を裁判所へ申立てた。
これに対し本市からは、みずほ信託との間での合意に従った既に支払いを受けるべき
事業配当金の請求を内容とする調停を平成19年3月に申立てた。
これら2つの調停は平成20年5月に不成立となったが、みずほ信託は、本市に対し
て平成20年5月21日に約276億円にのぼる「費用補償請求訴訟」を提起してきた。
一方、本市としては、そもそも当事業について、平成元年12月に実施した住之江車
庫用地有効利用提案競技の結果、交通局に借入金債務の負担が及ばず、かつ、経済的利
益が与えられるとするみずほ信託の提案した事業計画に基づき、受託者であるみずほ信
託自らが管理運営してきたものであることから、交通局としては、本事業の原点に立ち
返り、平成20年5月23日にみずほ信託に対し、合意に従った既に支払いを受けるべ
き約36億円の「事業配当金請求訴訟」を提起したものである。
これら2つの訴訟については、本市及びみずほ信託双方が提訴して以降、同年 7 月1
4日に第1回目の口頭弁論が開かれ、同年7月31日には双方2つの訴訟が併合された
後、審理が進められてきたが、本年7月1日の第3回口頭弁論期日において結審した。
判決は本年12月9日、大阪地方裁判所において言渡された。
2 裁判の状況
⑴ 費用補償請求事件
ア 事件番号等
大阪地方裁判所 平成20年(ワ)第6274号
[原告:みずほ信託、被告:大阪市]
イ 請求の趣旨
・ 大阪市は、みずほ信託に対し、費用補償として金276億4,750万3,5
48円、うち223億2,001万5,937円に対する平成18年8月1日か
ら同年9月29日まで年0.6%の割合による金員及び翌30日から支払済みま
で年6%の割合による金員、うち2億円に対する平成18年9月23日から同年
10月31日まで年0.6%の割合による金員及び翌11月1日から支払済みま
で年6%の割合による金員、うち50億円に対する平成18年11月14日から
同年11月30日まで年0.6%の割合による金員及び翌12月1日から支払済
みまで年6%の割合による金員、うち4,298万2,396円に対する平成1
9年3月1日から、うち3,175万3,591円に対する平成19年5月2日
から、うち2,100万円に対する平成19年9月1日から、うち3,175万
1,624円に対する平成20年3月1日から、各支払済みまで年6%の割合に
よる金員
を支払え。
⑵ 事業配当金請求事件
ア 事件番号等
大阪地方裁判所 平成20年(ワ)第6363号
[原告:大阪市、被告:みずほ信託]
イ 請求の趣旨
・ みずほ信託は、大阪市に対し、事業配当金として金36億1,939万2,0
00円及び平成19年3月20日から支払済みまで、年6%の割合による金員を
支払え。
⑶ 裁判の経過
平成20年 5月21日 みずほ信託訴訟提起
5月23日 大阪市訴訟提起
7月14日 第1回口頭弁論期日
7月31日 訴訟併合
平成20年 9月11日~
平成22年12月27日 弁論準備手続期日(第1~12回)
平成23年 3月14日 第2回口頭弁論期日(証人尋問)
7月 1日 第3回口頭弁論期日(結審)
12月 9日 判 決
12月26日 控訴期限
以 上
オスカードリームを巡る訴訟における第1審判決の概要
争 点 判 決 問 題 点
争点1
(旧信託法36条2項本
文に基づく補償請求権は
信託財産の価額に限定さ
れるか)
限定されない。
(理由)
1.条文上、何ら限定されていない。
2.同条項は、受益権放棄を規定した同条 3 項と併せて規定されているほか、任意規定であり、また、信託行為で定めることにより、受益者が信
託財産の価額を超える費用等を負担することを制限・抑制することもできるのであるから、受益者が予想外の負担を強いられる結果となる可能
性があったとしても、費用補償請求権が信託財産の価額に限定されると解するべきとは言えない。
争点2
(本件弁済費用は旧信託
法36条2項本文にいう
「費用」に当たるか)
当たる。
(理由)
1.同条項は、「費用」に関して、それが生じた原因等につき、何ら限定を加えていない。
2.38条は、受託者の管理失当によって信託財産に損失を与えた場合であっても、補填義務を履行すれば36条が規定する補償請求権等を行使
しうることを定めていることに他ならないし、36条2項が費用に何らの限定を加えていないことに照らすと、36条1項及び2項本文の「費
用」とは、受託者が信託事務を処理するに当たり、信託財産に関して負担した債務等のために要した費用であれば足りる。
争点3
(基本契約の成否につい
て)
・法的拘束力の存否につ
いて
本件決定時点で、両者間に一定の法的拘束力のある法律関係が生じる。
(理由)
1.本件提案競技の目的及び予定された手続の流れに鑑みると、最優秀提案が選定されたときは、独占的な協議・交渉を進める意向を予め各応募
提案者に表明していたものと認められる。
2.上記表明について、応募提案者も予め同意していた。
・法的拘束力の内容につ
いて
本件提案計画に基づき、相手方と誠実に協議・交渉すべき義務を相互に負担させるにとどまる。
(理由)
1.本件提案競技後の協議によって当該事業計画の一部を修正・変更する機会が、当然に予定されていた。
2.本件審査の対象となる事業計画はまさにその時点における計画にすぎない。
3.経済情勢や市場動向に関するあらゆる変動要因をすべて想定し、長期間に渡る大規模な管理運営型土地信託事業の推移を完全に予測すること
が不可能である。
4.原告が提出した本件提案内容やヒアリング回答書の記載内容を精査しても、本件提案計画に内在する事業リスクはすべて自社で負担すること
の意向を表明したととらえることは出来ない。
5.本件基本協定、本件信託契約のいずれの内容を精査しても、被告主張の本件基本契約の内容が当事者間で改めて確認されており、あるいはそ
の内容を前提としているとは認められない。
・大阪市が,信託財産を失うだけならまだしも,さらに債務
を負担することなどあり得ないということについては,コン
ペ当初から終始一貫しており,みずほとの間での共通認識に
なっていた。
少なくともこの点については,法的拘束力が生じているは
ずである。
※判決p73
「以上の経緯において,本件信託事業の結果として信託財産
で賄うことができない負債が生じた場合を想定したやり取
りがなされることはなかった。」
争点4
(本件排除合意の成否
について)
・本件契約書の条項につ
いて
・当事者間の協議・交渉
経過について
・その余の事情について
認められない。
(理由)
1.本件排除合意が当事者間で成立したかどうかを判断するに当たっては、契約解釈の一般的準則に従い、本件契約書の条項のほか、本件信託契
約の趣旨・目的、契約締結に至る当事者間の協議・交渉・経過、当事者の属性及び合理的意見その他本件信託契約に関して認められる個別具体
的な諸事情を総合的に勘案して判断すべきである。
2.本件排除合意の成否を判断するに当たり本件契約書の定めは最も重視されるべき判断資料というべきである。そして本件契約書の定めは、旧
信託法36条2項本文に基づく補償請求権に関しては、当事者間で何ら合意が成立していないか、あるいは旧信託法が定めるデフォルト・ルー
ルに従う旨の合意があったとの解釈とより強い親和性があり、本件排除合意の存在を積極的に認定するのはやや無理があるものの、かかる解釈
をおよそ排除するほど明確なものとまではいえない。
3.旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権については、被告又は原告のいずれからも、同権利について何らかの言及がされることが1度も
ないまま、本件契約書の条項確定作業が終了している。仮に、被告において信託事務処理費用等を被告の一般財源において別途負担・支弁しな
いとの方針を有していたとしても、原告が同費用等について信託財産による負担・支弁とは別に被告の固有財産(一般財源)による負担・支弁
を求めないとの意向・態度を表明し、あるいは、被告の上記方針を受容したものとは認められない。
4.旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を制限・排除する本件排除合意(あるいは、本件信託事業に係る信託事務処理費用等につき、原
告が被告に信託財産以外による負担・支弁をおよそ求めない旨の合意)は、必ずしも不合理なものではない。しかし、それ以上に本件排除合意
をすることが当事者双方にとって当然であるかあるいは通常であるとまでは認められない以上、本件排除合意の内容が合理的であるかどうかは、
本件排除合意の成否の判断を決定づけるものではない。
・「本件排除合意」の内容を区別して論じていない。
すなわち,補償請求権の行使を一切排除するまでの合意は
認められないとしても,信託財産の範囲をも超える補償請求
権の行使は認められないという合意があった,という点につ
いて判示されていない。
※ 判決p90
「受益者たる被告(交通局)が信託財産の価額を超える費用
をも負担することにつながりかねない旧信託法36条2項
本文に基づく補償請求権を制限・排除する本件排除合意(あ
るいは,本件信託事業に係る信託事務処理費用等につき,原
告が被告に信託財産以外による負担・支弁をおよそ求めない
旨の合意)」
争点5
(相殺の抗弁について)
安全性・安定性に配慮した事業計画を提案する義務の違反は認められない。
(理由)
1.義務の内容・程度について
① 本件提案競技の目的・方式等に照らして、当時の一般の信託銀行等である応募提案者に求めることが現実的かつ 相当であると認められる
限度にとどまると解するのが相当である。
② 応募提案者は、収益性の追求や公共性・公益性といった他の要素との調和を図りながら、実現可能性にも十分配慮することが求められるに
オスカードリームを巡る訴訟における第1審判決の概要
とどまるものと解するのが相当である。
2.義務違反の存否について
① 本件信託事業に重大な影響を与えたものと認められる複数の阻害要因は、いずれも、その性質上、原告が本件提案計画を提案した平成2年
3月時点において予測することが不可能ないし著しく困難であったことが明らかである。
② 本件提案計画に係る収支計画の前提条件の設定・算出の根拠とされた資料や将来予測は、本件提案競技の目的・方式等に照らし、当時の一
般の信託銀行等に求められる水準に達したものであったことがうかがわれるというべきである。
事業計画の内容を正確に説明する義務の違反は認められない。
(理由)
1.義務の内容・程度について
応募提案者が負担する義務は、中立的な第三者の立場から、自ら提案した事業計画に内在する事業リスクや短所をあえて積極的に告知・説明
したり、事業計画の策定に当たって収集・検討したあらゆる資料を積極的に全て開示して説明・情報提供することまで含むものではないと解す
るのが相当である。
2.義務違反の存否について
原告の強気な展望が随所に述べられているものの、原告がその中で摘示した事実や提示した根拠資料に虚偽のものが含まれていたとは認めら
れず、他に、原告が説明・情報提供義務に違反したと認めるに足りる証拠はない。
事業を遂行するための準備行為を速やかに行う義務の違反は認められない。
(理由)
1.義務の内容・程度について
① 本件信託事業の進行段階やテナントの種類に応じて、テナント候補者へのヒアリング調査や出店の打診・要請、条件交渉や根回し等の事実
上の行為、覚書の取り交わしや予約契約といった段階を踏みながら適時に履行されるべきものというべきである。
② 受託予定者たる原告は、信託契約(本契約)締結後は本格的なリーシングに円滑に移行できるようにするため、予めテナント候補者を開拓・
選定し、テナント候補者へのヒアリング調査や出店の打診・要請、条件交渉や根回し等の事実上の行為を可能な範囲内で進める義務があるも
のと解するのが相当である。
2.義務違反の存否について
原告が取り組んでいたリーシングが、内容において不十分・不適切なものであったとか、時期において遅きに失したものであったなどの事情
を認めるに足りる証拠はない。
事業の遂行状況を正確かつ具体的に報告・説明する義務及び事業計画の修正・変更あるいは中止を提案する義務の違反は認められない。
(理由)
1.義務の内容・程度について
① 受託者である原告は、まず、委託者兼受益者である被告に対し、本件信託事業の遂行状況全般につき、所定の時期における各報告・説明義
務の他、被告の求めに応じた資料提出及び報告・説明義務を負う。
② 原告は、着工日である平成4年5月18日までに、本件信託事業の現状と今後の見通しについて、報告・説明した上で、本件事業計画の修
正、変更を提案すべき義務を負う。
2.義務違反の存否について
① 平成4年1月に原告が被告に対して行った報告は、正確なものであった。同月17日、22日の説明、提示されたシミュレーションも、正
確なものであった。
② 原告は、本件信託施設着工時までに本件事業計画の修正・変更を被告に提案している。
事業計画どおりの収入を確保するとともに経費を節減するために努力する義務の違反は認められない。
(理由)
1.義務の内容・程度について
① 結果債務ではないから、本件事業計画どおりの状態が実現されていないことをもって、直ちに義務に違反したことにはならない。
② 本件信託事業全体の収支改善個別の収入項目と支出項目等の均衡等は必ずしも重要とは言えない。
2.義務違反の存否について
① 原告は可能な限りの条件交渉を行った。
② 原告は約定金利の引き下げ、繰り上げ弁済、その時点の金利水準による折返融資等を各借入先金融機関に申し入れて継続的に交渉していた。
③ 原告が、被告からの借入金の金利負担軽減の求めに応じなかったことをもって、直ちに義務違反とは言えない。
④ 原告が支出した管理費や販売促進費に節減の余地があるとか不相当に過大であるとの判断をすることはできない。
⑤ 原告が管理費の節減や販売促進費の節減により本件事業全体の収支改善・向上を図る義務を怠ったとは認められない。
・事業計画の杜撰さ(他の事業計画との差,突出した金額)
について,一切判示されていない。
・判決p81
「とりわけ,本件提案競技において想定されていたような
(中略)事業では,事業計画どおりの収益を上げられない場
合や信託財産の価額内にとどまる損失が生じるだけでなく,
信託財産の価額を上回る損失が生じる場合もあり,そのリス
クは大きい。このようなリスクがあること自体は自明」
→自明であれば説明義務はないのか。
かえって,コンペでのみずほの説明は,リスクがない(あ
るいは極めて少ない)事業だと大阪市を積極的に誤信させる
ものではなかったか。
・信託財産を上回る負債が残る可能性があることについて,
みずほは認識していたはずであり,その説明義務があったの
に履行されていない。