平成
26
年度
学士学位論文
構内
FMC
のための着信呼の
Wi-Fi
接続変換に関する研究
A study of seamless Wi-Fi connection translation of
incoming call for FMC in premises
1150385
渡部 弘章
指導教員
島村 和典
要 旨
構内
FMC
のための着信呼の
Wi-Fi
接続変換に関する研究
渡部 弘章
近年,固定網と移動体網の融合であるFMC(Fixed Mobile Convergence)の普及が進め られている.FMCは,携帯電話を固定電話の子機として利用できる.携帯電話で固定電話 と同等の品質を提供するために,安定した高速通信を実現できるWi-Fi(Wireless Fidelity)
が必要である.しかし,Wi-Fiはシームレスなハンドオーバが規定されていないため,Wi-Fi BS(Base Station)を切り替える時に音声が途切れる問題がある.
本稿では,音声の途切れを感じない構内 FMCを実現するための,L2 ハンドオーバと
L3 ハンドオーバを検討した.L2 ハンドオーバのデュアルコネクション方式は,1 つの WNIC(Wireless Network Interface Controller)を用いて同時に2 つのWi-Fi BS と通 信する.本方式は,同時に通信することでハンドオーバ時間を短くして,知覚できる音 声の瞬断時間を無くす.また,新たな Wi-Fi BSを検索する時間を短縮するために PMS
(Premises Management Server)を用いる.PMSは,構内にある全てのWi-Fi BSを管理 しており,MN(Mobile Node)はPMSからWi-Fi BSの情報を取得する.L3ハンドオー バのFHF(Fast Hand-overs for FMC in premises)はMNとCN(Correspondent Node) のIPアドレスを管理する.ハンドオーバが発生した場合は,IPアドレスを管理するHIPS
(Hand-over IP Management System)にMNが新たなIPアドレスを通知する.評価にお いて,デュアルコネクション方式の実現可能性について検証し,シームレスなハンドオーバ が可能であることを示した.最後に,シームレスハンドオーバによる音声の途切れがない構
内FMCの有用性を示した.
Abstract
A study of seamless Wi-Fi connection translation of
incoming call for FMC in premises
Hiroaki WATANABE
The FMC (Fixed Mobile Convergence) which is the fusion of a fixed network and a mobile network is widely used in recent years. The FMC can allow a cellular phone as the operation of a cordless handset of the fixed telephone. The Wi-Fi which provides stable high-speed communication is needed to offer the quality equal to the fixed telephone with a cellular phone. But on changing the connecting Wi-Fi BS (Base Station), there is a problem that the message sound is cut off because seamless hand-over isn’t prescribed by the current Wi-Fi.
L2 hand-over and L3 hand-over schemes to achieve the FMC in premises which doesn’t feel cutting of sound to the communications were described. A dual connection system of L2 hand-over communicates with two Wi-Fi BSs at the same time under one WNIC (Wireless Network Interface Controller). This system makes the hand-over time short due to dual path communicating at the same time and intermittent discontinuity time of the message sound which can be perceived is nothing during the hand-over. PMS (Premises Management Server) is used to reduce the time to search for new Wi-Fi BS. PMS is managing all Wi-Fi BSs in the premises. And the MN (Mobile Node) acquires information on Wi-Fi BS from PMS. FHF (Fast Hand-overs for FMC in premises) in L3 hand-over manages IP addresses of MN and CNs (Correspondent Nodes). When
hand-over occurred, MN notifies it to HIPS (Hand-over IP Management System) which manages IP addresses of a new IP address. For the evaluation of proposed hand-over scheme, the achieved possibility of the dual connection system was verified. And, the result shows that this proposing system realizes seamless hand-over. The utility of the FMC in premises without cutting of sound indicates that the seamless hand-over feature is realized within a hand-over alternation less than 50 msec.
目次
第1章 研究背景と研究目的 1 1.1 研究背景 . . . 1 1.2 NGNの概要 . . . 3 1.3 FMCの概要 . . . 3 1.3.1 One Billingの概要 . . . 4 1.3.2 One Phoneの概要 . . . 4 1.3.3 One Numberの概要 . . . 41.4 Wi-Fi(Wireless Fidelity)の現状 . . . 4
1.5 ハンドオーバの概要 . . . 5
1.6 研究目的 . . . 7
1.7 本論文の構成 . . . 7
第2章 既存技術 8 2.1 L2ハンドオーバの既存技術 . . . 8
2.1.1 MISP(Mobile Internet Service Protocol). . . 8
2.1.2 PDMA(Packet Division Multiple Access) . . . 9
2.1.3 デュアルインタフェース方式 . . . 10
2.2 L3ハンドオーバの既存技術 . . . 10
2.2.1 Mobile IP . . . 10
2.2.2 HMIPv6(Hierarchical Mobile IPv6) . . . 11
2.2.3 FMIPv6(Fast Hand-overs for Mobile IPv6) . . . 11
2.2.4 Mobile PPC(Peer to Peer Communication) . . . 12
2.3 FMCの既存技術 . . . 13
目次
2.3.2 フェムトセル . . . 14
第3章 FHFDC(Fast Hand-overs for FMC in premises with Dual Con-nection) 15 3.1 緒言. . . 15
3.2 デュアルコネクション方式 . . . 15
3.2.1 提案方式の概要 . . . 16
3.2.2 ハンドオーバ開始判定 . . . 18
3.2.3 PMS(Premises Management Server)の概要 . . . 18
3.2.4 バックグラウンドアクティブスキャン . . . 19
3.2.5 暗号認証 . . . 19
3.2.6 IPアドレスの取得. . . 20
3.2.7 デュアルコネクション方式の考察 . . . 22
3.3 FHF(Fast Hand-overs for FMC in premises) . . . 22
3.3.1 HIPS(Hand-over IP Management System)の概要 . . . 22
3.3.2 FHFの考察 . . . 24 3.4 FHFDCの構内FMC制御. . . 24 3.4.1 シグナリングプロトコル . . . 24 3.4.2 FHFDCのシステム構成 . . . 25 3.4.3 FHFDCの考察 . . . 26 3.5 結言. . . 27 第4章 デュアルコネクション方式の評価 28 4.1 諸言. . . 28 4.2 Wi-Fi BS接続時間測定 . . . 28
目次 4.2.3 WPAによる測定結果 . . . 31 4.2.4 WPA2による測定結果 . . . 32 4.3 結言. . . 33 第5章 まとめ 34 謝辞 36 参考文献 38
図目次
1.1 固定電話と携帯電話の契約件数の推移 . . . 2 1.2 IP電話番号数の推移 . . . 2 1.3 L2ハンドオーバ . . . 6 1.4 L3ハンドオーバ . . . 6 2.1 MISPのセッション確立シーケンス . . . 9 2.2 Mobile IPのアーキテクチャ . . . 11 2.3 Mobile PPCにおける移動情報の通知 . . . 13 3.1 デュアルコネクション方式におけるハンドオーバシーケンス. . . 17 3.2 提案方式におけるDHCPシーケンス . . . 21 3.3 FHFにおけるハンドオーバシーケンス . . . 23 3.4 FHFDCのシステム構成 . . . 26 4.1 測定環境 . . . 29 4.2 WEPにおける総接続時間の測定結果. . . 30 4.3 WPAにおける総接続時間の測定結果. . . 31 4.4 WPA2における総接続時間の測定結果 . . . 32表目次
3.1 シグナリングプロトコルの比較 . . . 25
4.1 WEPにおける各シーケンスの手続き時間の測定結果 . . . 30
4.2 WPAにおける各シーケンスの手続き時間の測定結果 . . . 31
第
1
章
研究背景と研究目的
1.1
研究背景
近年,固定電話の契約数は低下しており,総務省が発表した固定電話と携帯電話の契約数 の推移(図1.1) によると,2004年から2013年まで減少傾向である.その原因として,携帯 電話の普及やIP電話への移行が考えられる.携帯電話の契約数は2004年から増加傾向で あり,携帯電話が固定電話に取って代わってきている.新規の電話利用者は,その多くが携 帯電話を最初に契約するため,その後に固定電話を必要としなくなっていることも固定電話 の契約数が増加しない原因と考えられる.また,既に固定電話を契約していた利用者はより 格安で利用できるIP電話へ移行している.IP電話番号数の推移(図1.2)によるとIP電話 の電話番号数は,2009年から毎年増加しており,今後も更なる増加が見込まれる.しかし, 携帯電話やIP電話では固定電話ほどのセキュリティや通信品質が保証されておらず,サー ビス面で完全に固定電話に取って代わることができない.また,既存の固定電話機器がIP ネットワークと問題なく相互接続できるようにするためには手間とコストがかかる.そこ で,検討されているのが次世代ネットワークのNGN(Next Generation Network)である.1.1 研究背景
図1.1 固定電話と携帯電話の契約件数の推移
1.2 NGNの概要
1.2
NGN
の概要
NGNとは,インターネットと既存の電話網のお互いの特長を融合し,ユーザに幅広いマル チメディアサービスを自由な環境で提供することを目的に検討が行われている次世代ネット ワークアーキテクチャ[1]である.既存の電話網では,専用のハードウェアとソフトウェア を使用しているため,汎用のハードウェアとソフトウェアを使用するインターネットに比べ てコストが高くなる.そのため,電話網とインターネットの長所を取り入れた新たなネット ワークが必要となってきた.電気通信の国際的な標準化組織である ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication sector)の目指すNGNは,IP技術を基本 にして,高速かつ大容量で信頼性,安全性,高品質,そして移動性を兼ね備えた通信サービ スの提供と多彩なアプリケーションの提供を両立させたものである.NGNによって「放送」 「IP電話」「ブロードバンド」の3つのサービスを合わせたサービスであるトリプルプレイや固定通信と移動通信のサービス融合であるFMC(Fixed Mobile Convergence)を提供す ることができる.
1.3
FMC
の概要
FMCとは,固定通信と移動体通信のサービス融合であり,ブランド統合など単にサービ スを一括りにする段階から,利用者識別のシームレスな提供までいくつかの段階 [2]があ る.具体的なサービス例としては,2005年にイギリスの大手電気通信事業者社であるBT
が発表した FMC型サービス「BT Fusion」がある.BT Fusionは専用端末と BS(Base Station)となる「BT Home Hub」によって屋内から発信する時には自動的にBTの固定 網が選択され,外出時には通常の携帯電話として利用できるサービス[3]である.FMCで は,“One Billing” 請求書を統合して1つに,“One Phone” 端末を融合して1つに,“One Number” 発信・着信番号を1つに,の3つの要素がある.
1.4 Wi-Fi(Wireless Fidelity)の現状
1.3.1
One Billing
の概要
One Billingとは,固定・移動体の各サービス料金を1つにまとめて請求し,支払いの手 間を減らすことで利用者の利便性を高める[4]ことである.固定回線と携帯回線の契約して いる事業者が同一である場合は,料金の一括請求サービスがある.しかし,事業者が異なる 場合は,事業者間で料金請求を相互連携させるシステムを構築する必要がある.1.3.2
One Phone
の概要
One Phoneとは,1つの端末で固定網と移動体網の両方にアクセス可能にする.カスタマ イズした端末をいつでも利用できることで,利用者の利便性を高める[4]ことである.FMC の代表的な機能であり,宅内では固定回線経由の通信端末として,その他の場所では通常の 移動端末として,固定回線と携帯電話回線の両方を利用できる.1.3.3
One Number
の概要
One Numberとは,1つの番号で固定網と移動体網の両方からアクセス可能にし,どこで も着信可能にすることで利用者の利便性を高める[4]ことである.同じ番号であっても安価 で通信速度の安定した固定網が利用できる場合は携帯電話で固定網を利用できる.1.4
Wi-Fi
(
Wireless Fidelity
)の現状
FMCを実現するための重要な技術の 1つに無線LAN 規格のWi-Fiがある.Wi-Fiと は,国際標準規格であるIEEE 802.11規格を使用した端末間の相互接続性の問題を解決す るため[5],業界団体であるWi-Fi Allianceによって相互接続性を認証されたことを示す名 称である.近年では,無線 LAN機器の多くがこの認証を受けており,利用場所も企業や 家庭内だけでなく,カフェや航空機内など様々な場所で利用されている.FMCの高品質な サービス提供するためには音声とデータのローミングやハンドオーバがシームレスでなけれ ばならない.しかし,IEEE802.11ではシームレスなハンドオーバの取り決めはされておら
1.5 ハンドオーバの概要 ず,ハンドオーバ時に音声が途切れる問題がある.
1.5
ハンドオーバの概要
ハンドオーバとは,MN(Mobile Node)がセクタ間をまたがる場合,および異なるBS をまたがる場合に通信を継続するための処理[6]のことである.ハンドオーバには,L2ハ ンドオーバとL3ハンドオーバがあり,L2ハンドオーバを図1.3に,L3ハンドオーバを図 1.4に示す.図1.3のL2ハンドオーバでは,Wi-Fi BS Aに接続しているMNのIPアドレ スが 192.168.0.12であるが,移動に伴うハンドオーバによって接続先がWi-Fi BS Bに変 わるが,IPアドレスは変わらない.これは,2つのWi-Fi BSが根ざすIPサブネットが同 じであるためだ.IPサブネットは,大きなネットワークを複数の小さなネットワークに分 割して管理する際の管理単位であり,図1.3においてIPアドレスが192.168.0.1/24である Routerの配下でIPサブネットが構成される. 図 1.4 の L3 ハンドオーバでは,Wi-Fi BS A に接続しているMN のIP アドレスが 192.168.0.12であるが,移動に伴うハンドオーバによって接続先がWi-Fi BS Bに変わり, IPアドレスが172.21.0.34に変わった.これは,2つのWi-Fi BSが根ざすIPサブネット が異なるためだ.図1.4においてIPアドレスが192.168.0.1/24であるRouterの配下とIP アドレスが172.21.0.1/26であるRouterの配下でそれぞれIPサブネットが構成される.1.5 ハンドオーバの概要
図1.3 L2ハンドオーバ
1.6 研究目的
1.6
研究目的
本論では,シームレスなWi-Fiハンドオーバができる構内FMCを提案する.構内FMC とは,固定電話への着信をWi-Fiを用いてMNに転送することである.ここで,構内とは, Wi-Fi BSと通信可能な電波強度の範囲内であり,かつ,インターネットに接続可能である こととする.ただし,構内では移動体通信事業者のBSと通信網は利用しないこととする. また,MNで通話しながら別のWi-Fi BSへ移動した場合でも自動で最適なW-Fi BSに切 り替えることで構内におけるシームレスな通話を実現するため,新たなWi-Fiハンドオー バの方式を提案する.シームレスな通話とは,Wi-Fiハンドオーバを行った際に通話が途切 れないことである.すなわち,一般的に人間が音声の途切れを知覚する時間である50ms[7] 以上の瞬断がないWi-Fiハンドオーバの方式を提案する.1.7
本論文の構成
本論文は,本章を含めた全5章で構成する.本章では,本研究の背景と目的,Wi-Fiにお けるハンドオーバの問題点について述べた.以降第2章では,既存のL2ハンドオーバとL3 ハンドオーバ,FMCについて述べた上で,それらの問題点について述べる.第 3章では, 提案する 2方式であるデュアルコネクション方式とFHF(Fast Hand-overs for FMC in premises),及び,その提案方式を併用することでシームレスなハンドオーバを実現する構 内FMCであるFHFDC(Fast Hand-overs for FMC in premises with Dual Connection) について述べる.第4章では,提案方式の実現可能性について評価,検証した結果について 述べる.第5章では,本研究のまとめについて述べる.第
2
章
既存技術
2.1
L2
ハンドオーバの既存技術
現行のL2ハンドオーバでは,接続中のWi-Fi BSを切断してから新たなWi-Fi BSに接 続するbreak before make方式が採用されている.そのため,切断から再接続までの間にパ ケットロスが発生する.そこで考えられているL2ハンドオーバの方式には,切断から再接 続までの時間を短くすることでパケットロスを少なくする方式と切断を行う前に新たな接続 先と接続手続きを完了させておくmake before break方式に分けられる.以下では,それぞ れのL2ハンドオーバにおける既存技術について述べる.
2.1.1
MISP
(
Mobile Internet Service Protocol
)
MISPは,MBA(Mobile Broadband Association)によって標準化されており,ドライ バを改造することでmake before break方式のハンドオーバを実現するプロトコルである.
MISPでは,端末がメディアへ接続されると自動的に基地局ルータを認識し,基地局ルータ と間の通信路を確立する[8]ことができる.MISPのセッション確立シーケンスを図2.1に 示す.しかし,この方式はMNとWi-Fi BSのそれぞれに機能が実装されている必要があ る.また,隣接するWi-Fi BSのチャンネルが異なる場合は,各チャンネルを100msずつ 受信し,ビーコンを送信しているBR(Base Router)の中から必要なサービスを提供して いるBRの一覧表を信号強度の順に作成[8]するため,パケットロスが多くなる.
2.1 L2ハンドオーバの既存技術
F
図2.1 MISPのセッション確立シーケンス
2.1.2
PDMA
(
Packet Division Multiple Access
)
PDMAは,全通信帯域をすべてのセルで共有し CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)をセル内のみならずセル間での送信制御にも利用する通信パ ラダイム[9]である.そのため,複数のチャンネルによる使い分けの必要がなくなり,チャ
ンネルスキャンの時間が短縮される.PDMAではチャンネルの切り替えが不要であるため, 複数のWi-Fi BSと同時に通信することが可能になり,make before break 方式のハンド オーバができる.しかし,既存のWi-Fi BSとの競合は避けられず,レガシーな無線システ ムと共存させることができない.
2.2 L3ハンドオーバの既存技術
2.1.3
デュアルインタフェース方式
デュアルインタフェース方式は,2つの無線LANインタフェースを交互に通信に使用す ることにより,通信を途切れさせることなくハンドオーバを行う[10]方式である.一方のイ ンタフェースがWi-Fi BSと通信を行っている間に,もう一方のインタフェースでチャンネ ルスキャンを行い,次に接続するWi-Fi BSを探す.接続可能な新たなWi-Fi BSが見つか れば,接続手続き,認証を行ってから接続先のWi-Fi BSを切り替える.この方式では,原 理的にパケットロスをなくすことが可能であるが,MNへの物理的な変更が必要であり消費 電力が増加する.2.2
L3
ハンドオーバの既存技術
以下では,接続するWi-Fi BSの変更に伴ってIPアドレスが変化するハンドオーバであ るL3ハンドオーバの既存技術について述べる.2.2.1
Mobile IP
Mobile IPは,ノードがネットワークを移動しても継続して通信するための技術[11]で ある.Mobile IPのアーキテクチャを2.2に示す.Mobile IPは,移動ノードのホームIP アドレスが所属するサブネットワークを管轄するルータ(HA : Home Agent)と移動ノー ドが移動した先のサブネットワークを管轄するルータ(FA : Foreign Agent),または,移 動した移動ノードそのものとの間に IPトンネルを構成し,IPパケットを移動ノードに転 送[12]することで実現される.しかし,Mobile IPではハンドオーバ処理において接続先 Wi-Fi BSの移動検出処理とホームアドレスと気付けアドレスの情報を更新するBinding処 理の間にパケットロスが発生する.2.2 L3ハンドオーバの既存技術
図2.2 Mobile IPのアーキテクチャ
2.2.2
HMIPv6
(
Hierarchical Mobile IPv6)
HMIPv6は,Binding更新処理時間を短縮するため,MN近傍に位置し,MNの局所的な 移動をHAから隠蔽するMAP(Mobility Anchor Point)を新たに定義[13]したものであ る.MNは同一のMAPに対応付けられたWi-Fi BS間をハンドオーバする場合に,HAよ りも近いMAPとのみ Binding更新処理を行う.また,MAPの配置をMNの移動範囲内
に配置することで新規の設置にかかるコストを削減できる.しかし,Mobile IP同様に移動 検出処理時間にパケットロスが発生する.
2.2.3
FMIPv6
(
Fast Hand-overs for Mobile IPv6)
2.2 L3ハンドオーバの既存技術
を行うすべてのWi-Fi BSに機能追加する必要があり,導入コストと導入規模が大きい.
2.2.4
Mobile PPC
(
Peer to Peer Communication)
Mobile PPCは,通信を行っているエンド端末のIP層に移動通知,アドレス変換処理を 挿入することで,継続IPアドレスを解決する [14]方式である.Mobile PPC対応ノード は,移動前後のコネクション識別子の対応関係を記したテーブルであるCIT(Connection ID Table)を保持する.CITには,両エンド端末のIPアドレスとポート番号の組,プロト コル番号の情報があり,移動ノードが他端末との通信中に別のネットワークへ移動した場合 にコネクション識別子をBinding Updateパケットを用いて通知する.Mobile PPCにおけ る移動情報の通知を図 2.3に示す[15].図2.3は,MN1とMN2が通信中にMN1のハン ドオーバによってIPアドレスがX0からX1 に変化した場合の移動情報の通知を示したも のである.IPアドレスが変化したMN1はCU(CIT Update)によってMN2の保有する
CIT を更新し,その応答であるCU Responseを返すことでMN1が保有するCITを更新 する.この方式は,ピア間での通信であるため,認証機能を二者間で行う共通鍵方式が適応 される.しかし,共通鍵方式は第三者による乗っ取りや中間者攻撃の危険性がある.また, エンド端末が同時に移動した場合には,お互いのBinding Updateパケットがそれぞれ到達 しないため,通信自体が断絶する.
2.3 FMCの既存技術
図2.3 Mobile PPCにおける移動情報の通知
2.3
FMC
の既存技術
2.3.1
CTP
(
Cordless Telephony Profile)
CTPは,携帯電話にBluetoothやWi-Fiなどのライセンス不要な無線機能をつけ,固定 網に接続した専用のBSと通信させる[4]技術である.固定通信事業者は月間の電気通信事
業収入利用者であるARPU(Average Revenue Per User)の拡大が期待され,移動通信業 者としては,ユーザの囲い込みや圏外エリアの解消が期待される.
しかし,固定網と移動体網間のハンドオーバが不可能であるため,Wi-Fi BS圏外に出た 場合,または,移動体網から Wi-Fi BS圏内に入った場合に通話を継続することができな
2.3 FMCの既存技術
2.3.2
フェムトセル
フェムトセルは,超小型で非常に出力が小さな携帯電話基地局によりカバーされる,半径 数十メートル程度の通話エリア[4]のことである.フェムトセルを設置することで,MNが フェムトセル圏内にいる場合は固定回線を使用してネットワークに接続する. しかし,屋外のBSの電波が強いとフェムトセルが影響を受けるため,フェムトセルの通 信可能範囲が狭くなる.また,利用者は自身の利用範囲内にフェムトセルを設置する必要が あるため,手間とコストがかかる.第
3
章
FHFDC(Fast Hand-overs for
FMC in premises with Dual
Connection)
3.1
緒言
本章では,提案する2方式であるデュアルコネクション方式とFHF(Fast Hand-overs for FMC in premises),及び,その提案方式を併用することでシームレスなハンドオーバ を実現する構内FMCであるFHFDC(Fast Hand-overs for FMC in premises with Dual Connection)について述べる.
3.2
デュアルコネクション方式
提案するデュアルコネクション方式は,1つのWNIC(Wireless Network Interface Con-troller)で同時に2つのWi-Fi BSと通信を行うことでシームレスなL2ハンドオーバを実現 する.Wi-Fi BSとの接続手続きメッセージには,Probe Request/Response,Association Request/Response,Authentication,Key Messageなどがある.Probe Request/Response
は周辺に存在する通信可能な Wi-Fi BS を検索するチャンネルスキャンであり,MNから
3.2 デュアルコネクション方式
メッセージに対して接続許可,または,接続拒否を返す.Authenticationは,Shared認証
でパスワード確認を行うための機構であるが,現在ではセキュリティホールとなるため実質 的な機能はない.Key Messageは認証手続きである4-way handshakeで秘密鍵の交換を行 うためのメッセージである.デュアルコネクション方式では,これらのメッセージの送受信 の合間にVoIP通信を行うことで,L2ハンドオーバよって発生する瞬断を人間の聴覚では
知覚できない時間である50ms以内に抑える.
3.2.1
提案方式の概要
1つのWNICを同時に使うために仮想WNIC(以下,VWNIC)を2つ構築する.VoIP
通信を行うVWNICをData VWNIC(以下,D-VWNIC),ハンドオーバを行うVWNIC
をHand-over VWNIC(H-VWNIC)とする.実際のWNIC は1つしかないため,交互 に VWNIC を使い分ける必要がある.D-VWNIC の通信を最優先とし,H-VWNIC は ハンドオーバ手続きにのみ使用する.ハンドオーバ手続きにおける 1 メッセージの往 復(以下,ORT : One Round Trip)の間はVWNICを切り替えず,次のORT 前に
D-VWNIC に切り替える.デュアルコネクション方式におけるハンドオーバシーケンスを
図 3.1に示す.図 3.1 は,MN が接続先Wi-Fi BS をWi-Fi BS A から Wi-Fi BS B に ハンドオーバする場合のデュアルコネクション方式におけるシーケンスである.MN は
2 つのVWNICを構築し,一方のVWNICはWi-Fi BS A とデータ通信し,もう一方の
VWNIC は Wi-Fi BS B と接続手続きを行う.MN がハンドオーバを開始するために,
PMS(Premises Management Server) から Wi-Fi BS の情報である BSL(Base Station List)を取得するBSL Solicitation/Advertisementメッセージを交換する.BSLの情報を 元にProbe Request/Responseを行い,Authentication,Association Request/Response,
Key Messageのそれぞれのメッセージ交換の合間にWi-Fi BS Aとデータ通信する.接続 手続き完了後,Switching VWNICでデータ通信に使用するVWNICを切り替えることで シームレスなハンドオーバを行う.
3.2 デュアルコネクション方式
3.2.2
ハンドオーバ開始判定
VoIP通信のデータ送受信時間をTd[ms]とし,Td 毎にH-VWNICに切り替える.Td は
通信環境により前後するため初期のハンドオーバでは十分な時間を確保しておき,VoIP通 信やハンドオーバの処理から ORTを算出することでVoIP通信のデータ送受信時間Td を
収束させる.VWNICの切り替えるは接続中のWi-Fi BSにおけるRSSI(Received Signal Strength Indication)が閾値α[dBm]を下回っている場合のみとする.ここで,D-VWNIC
におけるRSSI閾値αは,H-VWNICにおけるハンドオーバ開始判定回数をn + 1回,イン ターバル係数k とした時に以下の式を用いて算出する.式3.1における−60[dBm]は一般 に安定して通信ができるRSSIとされており,式3.3における−94[dBm]では,データレー トが 1Mbps以下となり Beaconの受信限界となるため以下の数値を規定した.RSSI閾値 を動的とすることでRSSI低下によるハンドオーバの無限ループを防止し,WNICの負荷 を軽減する. α = −kn − 60 [dBm] (3.1) k ≥ 0 (3.2) α >−94 (3.3)
3.2.3
PMS
(
Premises Management Server
)の概要
L2ハンドオーバにおいて,高速にハンドオーバを行うため構内ネットワークにハンドオー バを行うためのシステムを構築する.その一つであるPMSは構内におけるすべてのWi-Fi BSを管理するサーバである.PMSは,Wi-Fi BSの情報の集合体であるBase Station List
(以下,BSL)を保持しており,MNからのBSL取得要求に対し,BSLを送信する.BSLに 含まれる情報は,IPアドレス,SSID,ESSID,チャンネル周波数,サポート転送速度一覧, セキュリティ情報,位置情報であり,MNはこの情報を元に接続手続きを開始する.PMS
は定期的に構内のWi-Fi BSに対して情報取得要求を送信することで,Wi-Fi BSの新規追 加や変更された場合にBSLを更新する.また,情報取得要求に一定回数応答がない場合は
3.2 デュアルコネクション方式 切断されたとみなしBSLから削除する.
3.2.4
バックグラウンドアクティブスキャン
VoIP通信の品質を落とさないためにはH-VWNICの稼働時間を極力短くする必要があ る.そこで,チャンネルスキャンにおける方式として,バックグラウンドアクティブスキャ ンを提案する.チャンネルスキャンにはWi-Fi BSから定期的にブロードキャストで送出さ れるBeacon信号を受信することで接続可能な Wi-Fi BSを検索するパッシブスキャンとMNがProbe要求をWi-Fi BSに送信し,応答を確認することで接続可能なWi-Fi BSを 検索するアクティブスキャンとがある.前者では,Wi-Fi BSがBeaconを送出する間隔が 100msであるため,1.6で述べた本方式の目的である50ms以内のハンドオーバを実現でき ない.後者では,任意のWi-Fi BSに対してのProbe応答は50ms以内であるが,すべての チャンネルのスキャンするためには最低100msの時間を要する. バックグラウンドアクティブスキャンは,VoIP通信中にバックグラウンドでアクティブ スキャンを行い,ハンドオーバ可能なWi-Fi BSのリストを作成する.ここで,すべての チャンネルをスキャンすると,VoIP通信の合間に行われるためスキャン時間がさらに延び, ハンドオーバが間に合わない可能性がある.そのため,構内におけるすべてのWi-Fi BSを 管理するPMSからBSLを取得,参照することで周辺に存在するWi-Fi BSのチャンネル に対してのみチャンネルスキャンを行う.これにより,構内における不必要なチャンネルス キャンを省略でき,ハンドオーバ時間が短縮される.
3.2.5
暗号認証
BSLの取得完了後,その中からRSSIが最も高いWi-Fi BSに認証,アソシエーションを 行う.認証方式がオープンシステム,または,WEP(Wired Equivalent Privacy)であれ ばこの時点で L2ハンドオーバは完了である.しかし,WEPでは鍵の管理,デバイスでの3.2 デュアルコネクション方式
全性があるとは言えない.
WPA(Wi-Fi Protected Access) や WPA2 で 認 証 方 式 を 使 用 す る 場 合 は , 4-way-handshake の手続きが必要となる.これは,4回にわたる Key Messageの交換によって 秘密鍵交換を行う.この手続きにおいても同様に D-VWNICでVoIP通信を行いながら,
H-VWNICによって行う.
EAP認証では,Wi-Fi BSからEAPoL手続きが行われるが,EAPoLの中身は設定され ているEAPタイプ(LEAP, TLS, PEAPなど)によって異なり、単純なEAP-MD5であ れば Challenge Request/Response の1回で終わるが,EAP-TLSやPEAPではTLSプ ロトコルの手続き(Server Hello, Client Hello, Cipher Spec)をコマ切れに分割して通信す
るため,通常は20∼30回のパケット交換が必要[17]となり,ハンドオーバに時間がかかる. そこで,初期接続時に認証を完了した MNを認証サーバで管理しておき,ハンドオーバに よって接続するWi-Fi BSが変更された場合には,認証手続きを簡素化することでパケット 交換回数を削減する.
3.2.6
IP
アドレスの取得
IPアドレスを取得するためには,動的にIPアドレスを割り当てるプロトコルを用いるか 方法か静的に利用者がIPアドレスを指定する方法がある.ハンドオーオーバでは自動的に Wi-Fi BSを切り替えることで継続して通信がきるようにする必要がある.動的に IPアド レスを割り当てるプロトコルには,BOOTP(Bootstrap Protocol)とDHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)がある.BOOTPは,クライアントごとに単一の固定IPア ドレスを割り当て,そのアドレスをBOOTPサーバーデータベースで永続的に予約[18]す ることができる.しかし,IPアドレスはMACアドレスに関連付けられているため,別の クライアントにIPアドレスを割り当てることができない.そこで,BTOOPの問題点を解 決している上位互換プロトコルであるDHCPを用いることとする. DHCPは,IPアドレスの設定を自動化したり,配布するIPアドレスの一括管理を行っ たりする[19]プロトコルである.本方式におけるDHCPのシーケンスを図3.2に示す.ハ3.2 デュアルコネクション方式
ンドオーバ前のWi-Fi BS AとVoIP通信しながらDHCP ServerからIPアドレスを取得
するためにD-VWNICでWi-Fi BS Aと通信を行い,H-VWNICでDHCPの手続きを行 う.DHCP DiscoverをDHCP Serverに送信してからDHCP Offerが返ってくるまでの時 間とDHCP Requestを送信してDHCP Ackが帰ってくるまではVoIP通信を行うことが できないが,ORTの間にVoIP通信を行うことでパケットロスを低減する.
3.3 FHF(Fast Hand-overs for FMC in premises)
3.2.7
デュアルコネクション方式の考察
デュアルコネクション方式は,MNとWi-Fi BSのハードウェアに改変の必要がなく,既 存のWi-Fi BSをそのまま利用することができるため,レガシーな規格のWi-Fi BSとの併 用も可能である.また,MNで使用する規格が IEEE802.11gの場合,構内におけるWi-Fi BSで利用されているチャンネル数をnとすると,バックグラウンドアクティブスキャンを 用いることでスキャンするチャンネルを13− nチャンネルに削減する事ができる.以上の 理由からデュアルコネクション方式は既存方式よりも有用である.3.3
FHF
(
Fast Hand-overs for FMC in premises
)
L3ハンドオーバにおける提案方式のFHF(Fast Hand-overs for FMC in premises)は,
MNとCN(Correspondent Node)がお互いにハンドオーバした場合にも継続して通信す るために,ハンドオーバ前後のIPアドレスを管理するHand-over IP Management System
(以下,HIPS)を用いる方式である.L2ハンドオーバが完了したMNはIPアドレスが変
化する場合,L3ハンドオーバを行う必要がある.通信中に IPアドレスが変化した場合,
CNとの通信が途絶するため再接続が行われるが,その間にパケットロスが発生する.そこ で,パケットロスを減少するため,MNとCNのハンドオーバ前後のIPアドレスを管理す るサーバであるHand-over IP Management System(以下,HIPS)を構築する.
3.3.1
HIPS
(
Hand-over IP Management System
)の概要
HIPSは,VoIP通信を行っているMNとCNのIPアドレスとMACアドレスを管理す るHand-Over Table(以下,HOT)を保持しており,通信中に一方のアドレスが変化する とHOTU(HOT Update)でHOTを書き換えることで通信を継続して行うことができる. また,HOTUを行う場合にIPアドレスの同時変更による競合を回避するため,HOTU中 には HOTをロックすることで別のHOTU Requestを待機させる.FHFにおけるハンド オーバシーケンスを図3.3に示す.CNと通信中のMNのIPアドレスが変化するとMNは
3.3 FHF(Fast Hand-overs for FMC in premises)
変更後のIPアドレスを通知するHOTU Request をHIPS に送信し,HIPSはMNのIP
アドレスが変化したことをCN 知らせるHOTU NotifyをCNに送信することで,CNは
MNの移動を認識し,データの送信先を変更する.MNはHIPSのHOTU完了通知である
HOTU Responseを受け取ってからVWNICを切り替える.これにより,シームレスなL3
ハンドオーバを実現する.
3.4 FHFDCの構内FMC制御
3.3.2
FHF
の考察
L3ハンドオーバのFHFでは,IPv4,IPv6のそれぞれに対応しており,トンネリングに よるオーバーヘッドが発生しないため,スループットの向上が見込まれる.デュアルコネク ション方式と組み合わせることでIPアドレスの取得と移動検出をVoIP通信と平行して行 えるため,L3ハンドオーバ時間を短縮できる.また,MNとCNの同時ハンドオーバに対 応している.以上の理由からFHFは既存技術よりも有用である.3.4
FHFDC
の構内
FMC
制御
デュアルコネクション方式とFHFの併用方式であるFHFDC(FHF with Dual Connec-tion)では,構内FMCにおいて固定電話からの着信呼を構内のMNに転送することで,MN
を固定電話の子機として利用する.また,構内を移動しても通話が途切れないシームレスな
Wi-Fiハンドオーバが可能となる.以下に提案するFHFDCの構成要素について述べる.
3.4.1
シグナリングプロトコル
VoIP 通信におけるシグナリングプロトコルには,H.323,MGCP(Media Gateway Control Protocol),SIP(Session Initiation Protocol)がある.シグナリングプロトコルの
比較を表3.1に示す. H.323は,PSTNとの接続性を維持しつつ,IPベースのネットワーク上で,音声,ビデ オ,データ,ファクシミリのコミュニケーションを伝達する手段として,ITU-Tによって 開発された [20]最も早期に標準化されたシグナリングプロトコルであるため,対応してい る機器は多いが,複雑なプロトコル仕様であり,拡張性に乏しい.MGCPはMG(Media Gateway) を制御できるプロトコルであるが,VoIPキャリア用に開発されたプロトコルで ある.SIPはマルチメディアセッションの確立や維持,終了を行うために使われるアプリ ケーションレイヤレベルのシグナリング制御プロトコル[21]であり,テキストベースである ため,親和性や拡張性が高い.また,IETF(Internet Engineering Task Force)で標準化
3.4 FHFDCの構内FMC制御
が進められており,今後さらに多くの機器に実装されることが期待される.
表3.1 シグナリングプロトコルの比較
H.323 MGCP SIP
標準化団体 ITU-T IETF IETF
標準化時期 1996年 1999年 1999年
目的 マルチメディア通信 キャリアのVoIPサービス 通信セッション確立
データ形式 バイナリ テキスト テキスト
通信方式 Peer to Peer Master-Slave Peer to Peer
メリット 実装製品が多い 相互接続性が高い 実装が容易 デメリット 呼制御手順が複雑 拡張性が低い 標準化の遅れ FHFDCでは,シームレスなWi-Fi BS ハンドオーバを実現するために拡張性や他方式 との親和性が重要であることから,シグナリングプロトコルに SIPを用いることとする. また,固定網と接続するため SIPに対応したゲートウェイを設置する.音声符号化方式に は,VoIPキャリアとの相互接続性を保つたためにG.711を採用する.G.711は,64kbps
のPCM(Pulse Code Modulation)音声符号化テクニック[21]であり,VoIPキャリアに 採用されている方式である.
3.4.2
FHFDC
のシステム構成
FHFDC のシステム構成を図 3.4 に示す.ハンドオーバ前のネットワークを Home Network として,IP サブネットが Home Network と異なるネットワークを Neighbor Network とした.固定網の CN から Home Network の固定電話(Fixed Phone)への着 信呼は,VoIPゲートウェイによって IP パケット化され,IP-PBX(IP-Private Branch eXchange)により構内の登録された固定電話及び,MNに着信呼が転送される.これによ
3.4 FHFDCの構内FMC制御
Server とDHCP Server,PMS,HIPS によって構成される. IP アドレスが変化しない Home Network内でのハンドオーバは,PMSから構内のWi-Fi BS情報であるBSLを取得 し,ハンドオーバを行う.IPアドレスが変化するNeighbor Networkへのハンドオーバは,
HIPSのHOTによってCNとの通信を継続するためにMNがHOTU要求を送信する.
図3.4 FHFDCのシステム構成
3.4.3
FHFDC
の考察
FHFDCは,Wi-Fi BSにハードウェアの改変が必要なく,MNのソフトウェアの改変で 実現可能である.また,ハンドオーバシステム群を構内に導入することでシームレスなハン ドオーバを行う構内FMCを構築でき,導入規模やコストが既存技術に比べて小さい.以上 の理由から,提案するFHFDCは既存技術よりも有用である.3.5 結言
3.5
結言
本章では,デュアルコネクション方式とFHF,及び,FHFDCを提案した.デュアルコ ネクション方式では,VoIP通信を行いながら新規のWi-Fi BS にハンドオーバするため, MNにVWNICを構築することで実現する.FHFでは,HIPSを中間サーバとして構築す ることでMNとCNの同時ハンドオーバに対応した.これらの2方式を併用するFHFDC で,シームレスなWi-Fiハンドオーバを実現するための構内FMCを提案した.第
4
章
デュアルコネクション方式の評価
4.1
諸言
本章では,デュアルコネクション方式の実現可能性について評価するため,各認証方式別 にWi-Fi BSの接続時間を測定,検証結果について述べる.4.2
Wi-Fi BS
接続時間測定
デュアルコネクション方式の実現可能性について検証するため,接続手続きシーケンスに おけるそれぞれのORTにかかる時間を測定し,シームレスなハンドオーバが可能か検証し た.また,認証方式によってシーケンスが異なるため,WEP,WPA,WPA2のそれぞれの 接続手続き時間を測定した.4.2.1
測定方法
測定方法は,Wi-Fi BSにMNを接続させる試行を認証方式別に各20回行い,接続手続 き中に流れるパケットをキャプチャすることで,各シーケンスにかかる時間を測定する.測 定環境を図4.1に示す.Wi-Fi BS接続時間の測定機器として,MNにApple製iPhone 6,
Wi-Fi BSにBuffalo製WHR-HP-G,パケットキャプチャ用の端末にApple製MacBook Air,パケットキャプチャ用ソフトウェアにWiresharkを用いた.
4.2 Wi-Fi BS接続時間測定
4.2 Wi-Fi BS接続時間測定
4.2.2
WEP
による測定結果
WEPでは,Probe,Authentication,Associationの3種類のメッセージがあり, Au-thenticationが2ORTの全4ORTにより接続が完了する.WEPにおける総接続時間の測 定結果を図4.2に示す.すべての試行において50ms以内であり,L2ハンドオーバにおい てはシームレスなハンドオーバが可能である.WEPにおける各シーケンスの手続き時間の 測定結果を表 4.1に示す.WEPでは暗号認証の4-way-handshake が存在しないため接続 手続き時間が短いが,暗号化アルゴリズムに関して脆弱性があり,安全性に問題がある. 図4.2 WEPにおける総接続時間の測定結果 表4.1 WEPにおける各シーケンスの手続き時間の測定結果
Probe Auth 1 Auth 2 Assoc
平均 2.21360 22.49800 0.96265 1.49525
4.2 Wi-Fi BS接続時間測定
4.2.3
WPA
による測定結果
WPAでは,Probe,Authentication,Association,Key Message,Key Group Message
の5種類のメッセージがあり,Key Messageが2ORTの全6ORTにより接続が完了する.
WPAにおける総接続時間の測定結果を図4.3に示す.WPAにおける総接続時間の平均は 約67msであり,既存方式でシームレスなハンドオーバはできない.WPAにおける各シー ケンスの手続き時間の測定結果を表4.2に示す.各メッセージのORT時間はすべて50ms 以内である.また,最もORTの時間が長いAuthenticationの2σは約23msであり,十分 に本方式を適応可能である. 図4.3 WPAにおける総接続時間の測定結果 表4.2 WPAにおける各シーケンスの手続き時間の測定結果
Probe Auth Assoc KM 1 KM 2 KMG
平均 2.47305 21.47895 1.45950 2.31070 1.89445 2.26960
4.2 Wi-Fi BS接続時間測定
4.2.4
WPA2
による測定結果
WPA2では,Probe,Authentication,Association,Key Messageの4種類のメッセー ジがあり,Key Messageが2ORTの全5ORTにより接続が完了する.WPA2における総 接続時間の測定結果を図4.4に示す.WPA2における接続時間は平均59msであり,既存方 式でシームレスなハンドオーバはできない.WPA2における各シーケンスの手続き時間の 測定結果を表4.3に示す.各メッセージのORT時間はすべて50ms以内である.また,最 もORTの時間が長いAuthenticationの2σは約24msであり,十分に本方式を適応可能で ある. 図4.4 WPA2における総接続時間の測定結果 表4.3 WPA2における各シーケンスの手続き時間の測定結果
Probe Auth Assoc KM 1 KM 2
平均 2.48465 22.14330 1.22605 2.46900 2.17445
4.3 結言
4.3
結言
本章では,各認証方式のWi-Fi BSの接続時間を測定した.すべての認証方式において測 定結果は各シーケンスが50ms以内であったことからデュアルコネクション方式が適応可能 であることがわかった.また,セキュリティの安全性を考慮し,最も安全性の高いWPA2 を採用する.第
5
章
まとめ
本研究では,通話中に音声の途切れがないシームレスなハンドオーバを実現する構内 FMC のためのFHFDC方式を提案した.FHFDCを構成する提案方式としてデュアルコ ネクション方式とFHFがある. デュアルコネクション方式は,1つのWNICで2つのVWNIC構成することで同時に2 つのWi-Fi BSと通信する.これにより,Wi-Fi BSの切り替え時に発生する瞬断時間を短 縮し,シームレスなハンドオーバを実現する.また,構内のWi-Fi BSを管理するPMSか らWi-Fi BS情報の集合である BSLを取得する.BSLには,構内における周辺の Wi-Fi BSのSSIDやセキュリティ情報などが含まれており,MNはBSLからスキャンするチャン ネルを決定する.決定したチャンネルの中でバックグラウンドアクティブスキャンを行うこ とによりチャンネルスキャン時間を短縮した. FHFは,HIPSを用いることでMNとCNのIPアドレスを管理する.HIPSはMNと CNの対応表であるHOTを保持しており,どちらか一方でハンドオーバが発生し,IPアド レスが変化した場合HOTUによって通信を継続させる.HOTUの間は別のHOTUを受け 付けないようにロックすることで,同時ハンドオーバによる競合を回避する. FHFDCの構成要素には,ハンドオーバシステム群のPMSとHIPSがあり,それぞれが L2ハンドオーバ,L3ハンドオーバのための機能を持つ.構内にはIP-PBX,及び,固定網 と接続するためのゲートウェイを設置する.シグナリングプロトコルにはSIPを,音声符号 化方式にはG.711 を用いる. 評価では,デュアルコネクション方式の実現可能性に関して検証するため,各認証方式 におけるWi-Fi BS接続時間の測定を行った.すべての認証方式において各シーケンスが50ms 以内であり,人間が知覚できない時間でのみ瞬断が起きる.よって,音声の瞬断が 50ms以内という要求条件を満たせた. 以上のことから,固定電話への発着信呼をMNへ転送し,MNの移動に伴う音声の瞬断 を起こさないシームレスなハンドオーバが可能となるFHFDCの有用性を示した. 本研究では,構内FMCにおけるシームレスなハンドオーバを提案したが,データ系通信 メディアにおけるハンドオーバについても適応可能である.提案方式であるデュアルコネク ション方式がL2で動作し,FHFがL3で動作することで上位レイヤに対してハンドオーバ を隠蔽できる. 動画配信ストリーミングやIPTVなどのデータ通信容量が大きい通信に対しては品質の 保証が出来ないため,今後は大容量通信においても安定した通信品質を確保できる方式の 追加検討が必要である.近年では都心部において,公衆Wi-Fi が数多く設置されており, Wi-Fiハンドオーバの必要性が高く求められている.そのなかで,通信されるデータも多様 化しており,大容量通信におけるシームレスハンドオーバの期待が高まっている.
謝辞
本研究を進めるにあたり,様々なご指導,ご鞭撻を頂きました高知工科大学情報学群島村 和典教授に深く御礼申し上げます.教授には,学部4年次に島村研究室生として迎えていた だき,勉学についてはもちろんのこと,就職活動のご指導や日々の生活で大変ためになるこ とを教えていただけて,喜びを感じるとともに感謝してもしきれない程の想いであります. 卒業研究論文の副査として,的確なご指導を頂きました清水明宏教授,浜村昌則教授の良 心に心から感謝いたします.清水明宏教授には,学部3年次に勉学や研究室活動において 日々お世話になりました.浜村昌則教授には,講義でわからない点を質問した際に,いつも 親身になって理解するまでご指導していただきました.お二方からのご指導は,私にとって 財産となっております. さらに,島村研究室修士1年の赤澤将太氏には,研究の相談や添削,研究室における行事 など数多くご指導していただきましたこと大変感謝しております.修士2年小笠原一聡氏に は,IoNグループの先輩として研究の相談や梗概の添削をしていただきましたこと,心より 感謝いたします.そして,学部4年からにも関わらず島村研究室生として迎えていただき, 親身になって相談していただいたり,アドバイスをいただいた修士2年京極海氏,島田裕幸 氏,辻際宗和氏,修士1年竹本万里雄氏に深く感謝いたします. ソフトウェア工学から研究室移動,卒業まで共に高め合った同期の上田安柚香氏,國和武 司氏,仙波紗和氏,中島春菜氏,三角隆太氏,吉本圭佑氏に感謝いたします.途中から島村 研究室生となり,右も左も分からない私に数多くのアドバイスをいただき,よく学び,よく 遊ばせていただき,幸せな研究室生活を送ることができました. 学部3年今田七海氏氏,高野雅裕氏,中村真也氏,宮野拓洋氏,山崎秋音氏,吉崎友拓氏 には研究室をいつも明るくしてくれました.久保商店のオーナーである吉本圭佑氏と山崎秋 音氏には,研究室生活においてお世話になりました.特に,卒業研究で糖分が足りない時期 に,大好きな午後の紅茶を大量入荷していただきありがとうございました.謝辞
そして,これまで自由に進路を選択させていただき,経済的,精神的に支えてくださった 両親に心より感謝申し上げます.
最後に,私を支えてくださった皆様に心からの感謝を申し上げたく,謝辞と代えさせてい ただきます.
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