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目次 はじめに 3 第一章 損害保険の起こりと 護送船団方式による発展の歴史 1.2 損害保険の自由化と 規模の経営 1.3 自由化以降の海外展開その必要性 第二章 海外展開の歴史 メガ HD の海外展開 2.3 海外展開において有力な進出先 2.4 海外展開の

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2017 年度 卒業論文

国内損害保険会社の海外展開

-その必要性と今後の展望-

嶋津

明治大学 経営学部

(2)

2

目 次

■はじめに ・・・3

■第一章 ・・・4

・1.1 損害保険の起こりと、護送船団方式による発展の歴史 ・1.2 損害保険の自由化と、規模の経営 ・1.3 自由化以降の海外展開 その必要性

■第二章 ・・・12

・2.1 海外展開の歴史 ・2.2 3メガHDの海外展開 ・2.3 海外展開において有力な進出先 ・2.4 海外展開の課題と対応

■第三章 ・・・17

・3.1 企業のグローバル化 ・3.2 課題に対する提言

■おわりに ・・・20

■参考文献一覧 ・・・21

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はじめに

日本の損害保険会社は、1990 年代までは政府による参入規制や価格規制等の護送船団方 式によって守られ、成長してきた。各社は殆ど同一商品同一価格であり、どこで保険を加入 しても大差がないという状況であった。しかし、1996 年に始まった金融ビッグバンの一環 として行われた保険業法の改正、同年に決着した日米保険協議の結果、各社は自由競争の市 場に向けて努力と変革を余儀なくされた。それに加え、国内の人口や産業構造の変化も損保 業界を厳しい状況へと追いやっている。国立社会保障・人口問題研究所の推計 1によると、 2015 年に 1 億 2709 万人であった日本の人口は、2065 年には最低で 8200 万人ほどとなり、 65 歳以上の割合は 41.2%にものぼる。人口の減少や少子高齢化により、2007 年以降では国 内の自動車保有台数2や新規住宅着工件数 3がほぼ横ばい、もしくは減少する年すらある。 自動車保険や火災保険など、損害保険は「形のないもの」を売るいわゆるサービス業である ため、そういった変化を受けやすい。また、2045 年にはシンギュラリティを迎えるとも言 われているが、既に自動運転等の発展により、損害保険が対象とする「リスク」自体が少な くなる傾向にある。 国内の損害保険市場が縮小・閉塞していくなかで、各社は様々な打開策を模索してきた。 規模の拡大と財務基盤の構築、業務の効率化といった構造の面では、2009 年から 2010 年 にかけての合併・経営統合による「東京海上ホールディングス」、「MS&AD インシュアラン ス グループ ホールディングス」、「NKSJ ホールディングス(現:SOMPO ホールディング ス)」という 3 メガ損保体制の誕生により一応の終息を見せた。事業の多角化という面では、 この 3 メガ損保各社は生命保険事業への参入や通販(ダイレクト損保)事業の強化、M&A を 中心とした海外への展開といった分散をすることで、全社的リスク管理(ERM : Enterprise Risk Management)経営を実現しようとしている。特に近年は海外展開に積極的であり、事 業比率は年々増加している4。各社は M&A を繰り返しているが、その進出先は欧米、アジ ア、南米と様々である。では、日本の損害保険会社が海外進出をする際、どういった地域に 進出するのがベターであるのか、もしくは海外投資できる資源を用いて国内を強化すべき であるのだろうか。 本論文では、第一章において日本の損害保険業界の発展と、自由化から現在のように海外 展開が必要になるに至るまで変遷を確認する。第二章では、金融ビッグバン以前と以後の海 外展開の比較と、3 メガ損保の戦略の特徴、そして課題を分析する。第三章では第二章の分 析を基に、これからの海外展開ではどのような戦略を採るのが適しているのかを考察する。 1 国立社会保障・人口問題研究所(2017) 2 一般財団法人 自動車検査登録情報協会(2017) 3 国土交通省のデータによる 4 各社 IR 資料による

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第一章

1.1 損害保険の起こりと、護送船団方式による発展の歴史5 国内損害保険会社の海外展開を考察する前提として、まずは我が国の損害保険がどのよ うな起こりと成長を遂げてきたのかについて述べる。 日本もしくは世界各国において、相互扶助の精神の下、有事の際に助け合うための備えを する文化は存在していた。それが損害保険という制度として生まれたのは 15 世紀から 17 世紀にかけての大航海時代のヨーロッパで、その形態は船が万が一沈んだ際、積み荷を補償 するという海上保険であった。日本でも起こりは同じ海上保険であり、16 世紀から 17 世紀 に活躍した朱印船による貿易について「抛金(なげかね)」という制度が用いられていた。火 災保険の始まりは 1666 年のロンドン大火が契機とされており、これ以降近代的な損害保険 制度や損害保険会社が発展していくこととなる。これが幕末から明治初期にかけて日本に も流入し、1879 年に初めて日本人による損害保険会社、「東京海上保険(現東京海上日動)」 が岩崎弥太郎などによって設立された。 日本初の損害保険会社が設立された後、産業の発展による保険ニーズの高まりもあり、 1887 年に「東京火災(現損保ジャパン)」、1892 年に「日本火災(現日本興亜損保)」、1893 年には「大阪保険(現三井住友海上)」と多くの会社が起こった。しかし火災保険料率の競 争の激化や劣悪な経営管理により、経営危機に陥る損害保険会社が現れると、政府はそれら を保護するため、保険業取締規制(1898 年)、 保険業法(1900 年)といった監督体制を築き 上げた。また明治末期には火災保険協会を設立し、火災保険料率協定を結ぶことで過度な競 争を防ぐようになった。 1900 年代になると、損害保険が「同じ保険料率」であり「政府に保護される」こととな る 2 つの大きな転機があった。1914 年に始まった第一次世界大戦と、1923 年に発生した関 東大震災である。 まず、第一次世界大戦では、結果として火災保険料率の協定が成立する。大戦で船価が高 騰することにより保険料収入が増大する一方、それだけのリスクを抱えうる資本を当時の 損害保険会社は持ち合わせていなかった。そこで政府は「戦時海上保険補償法」を制定し、 再保険によって戦時リスクを受け持つことで海上保険の販売を実質的に手助けした。この 大戦下の海上保険については、リスクがあった一方で主戦場はヨーロッパであったため損 害は低く、各社は大きな利益を得ることができた。このとき特に利益を得た東京海上は、当 時料率協定の制定で混乱していた火災保険業界に参入すると、各務鎌吉のリーダーシップ により料率協定を成立させ、過度な競争が抑制されることとなった。 1923 年に発生した関東大震災においては、甚大な被害に対し間接的な政府の保護がなさ 5 玉村勝彦(2011)、日本損害保険協会公式サイト(2017.12.16 アクセス)を参照。

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5 れた。火災保険の約款では地震と地震を起因とする火災については保険金の支払い対象と ならなかったが、飛び火による焼失なども多く、約款をどの程度適用するかが大きな問題で あった。しかし実状としては被害額が膨大であり、個社では払いきれないという側面もあっ た。この問題に対し、政府は超長期低金利の貸付を実施し、火災保険会社は原則保険価額の 一割を支払うこととなった。 1940 年には、保険業法の全面的な改正があった。その内容は政府による損害保険各社の 監督と業績不良の際の収集方法の規定、および料率を遵守させるための統制協定である。こ れにより、当時 48 社あったものが 16 社まで減る大再編がなされた。 保険業法が改正されてすぐ、1942 年には(旧)日本損害保険協会が損害保険統制会へと組 織を発展的解消し、政府機関の一部となった。これにより、損保各社と業界団体、そして監 督省庁の間に強い繋がりが発生し、以降「護送船団方式」によって日本の損害保険会社は発 展していくこととなる。この護送船団方式の強固さは、第二次世界大戦後の GHQ 麾下にお いても発揮された。GHQ はアメリカ式に自由競争を望んでおり、先に述べた保険料率の統 制協定においても廃止を検討していた。しかしこれに大蔵省などは反対し、交渉の末、統制 協定は廃止されるものの第三者機関が料率を算定することとなった。この料率を算定すべ く 1948 年に設立されたのが「損害保険料率算定会」であり、以降 1996 年に自由化される までこの算定会料率制度が機能し続けていた。我が国の損害保険制度は、その成立から 1990 年代に至るまで、長きにわたって政府に守られてきたのである。 1.2 損害保険の自由化と、規模の経営 (1)損害保険の自由化6 護送船団方式によって守られてきた損害保険会社が大きく転換を強いられるのは、1996 年の保険業法改正である。保険業法の改正は 1940 年以来 56 年ぶりのもので、その背景に は、「保険会社の金融機関的性格が強まる中、銀行と証券会社の業務自由化を図る金融制度 改革が先行していた」7のに対し「保険業界がこの制度改革に乗り遅れるおそれがあったこ と」8や、「厳格な生損保兼営禁止が業界発展の阻害要因となり得ると認識されたこと」9 どが挙げられる。改正のはじまりは、1992 年 6 月に政府機関である保険審議会が「新しい 保険事業の在り方」という答申をしたことである。その内容は主に、「これまで規制されて きた保険商品や保険料率を届出制にすることによる自由化」、「保険仲立人(ブローカー)制度 の導入」、「ソルベンシー・マージン比率の基準を導入することによる行政上の監督制度」な 6 玉村(2011)、保険毎日新聞(2017)を参照。 7 保険毎日新聞(2017) 12 面 8 同上。 9 同上。

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6 どである。その後 1994 年 6 月に「保険業法等の改正について」という提言を打ち出し、再 度規制緩和の必要性を説いた。 また、これら保険審議会の動きと同時期に日米保険協議が始まった。これは 1993 年に行 われた日米包括経済協議において、保険分野の規制緩和が必要であるとされたためである。 日米保険協議における米国の要求は「料率算定会制度の見直しを中心とした保険制度改革」、 「通販型自動車保険の認可」、「第三分野保険の自由化の延期」であった。1994 年 10 月には ほぼこの要求通りの形で「日本国政府及びアメリカ合衆国政府による保険に関する措置」に 調印がなされたが、これが完全な決着ではなかった。1995 年 12 月には第三分野の自由化に ついて、合意違反の可能性があるとして協議が再開される。これは日本国内で第三分野保険 を得意としていた米国の保険会社に配慮したものであり、1996 年 12 月に「日本国政府及び アメリカ合衆国政府による保険に関する補足的措置」として改めて合意に至った。 1996 年の合意において自由化の範囲が大きく拡大された一方、第三分野という生損保の 業務の拡大については米国の保険会社保護のため自由化が先送りにされていた。しかし、同 年に橋本首相(当時)が提唱した金融ビッグバン構想など、金融業界発展のため自由化は望ま れていた。1998 年に行われた日米間の履行状況を点検するフォローアップ会合においても、 米国側からは主要分野の規制緩和が未達であるため第三分野に関する激変緩和措置の解除 は先送りにすべきと主張されたが、結果的には当初の予定通り 2001 年 1 月に生損保による 第三分野の相互乗り入れが認められた。 保険審議会の提言や日米保険協議、金融ビッグバンを受け、保険業法は 1940 年以来 56 年ぶりに大きく改正された。その内容は大きく「1,規制緩和・自由化」、「2,健全性の維持」、 「3,公正な事業運営の確保」である。 1,規制緩和・自由化 ・生損保の相互参入 子会社方式における生損保の相互乗り入れが認められたほか、第三分野保険におけて生 損保の保険会社本体による引き受けが認められた。ただし、第一もしくは第二固有の分 野においては生保各保険会社本体の兼営は禁止されている。 ・保険商品と保険料率の届出制の導入 商品開発を促進すべく、手続きを迅速かつ一部簡略化した。 ・保険仲立人(ブローカー)制度の導入 保険の契約者と保険会社の間を仲立ちして契約締結の手助けをするブローカー制度が導 入された。 2,健全性の維持 ・ソルベンシー・マージン(支払余力)の基準を導入 健全性を早期にチェックすることで保険会社の経営破綻を防ぐことができる。 ・経営危機対応制度の規定

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7 保険契約者保護基金など、経営の自由度が上がった保険会社各社が破綻した際の備えが されるようになった。 3,公正な事業運営の確保 ・ディスクロージャー制度 保険会社の事業年度ごとの業務・財産の状況説明資料を公衆に開示する制度を規定。 ・クーリング・オフ(契約撤回請求権)の規定 契約者保護のため、クーリング・オフの規定をつくった。 (2)規模の経営 損害保険の自由化により、それまでの護送船団方式で守られてきた各社は競争を余儀な くされることとなった。1996 年の自由化以降、特に 2001 年から 2010 年までの損害保険各 社の大きな特徴として、事業経営の効率化などを図った統合や合併が挙げられる。各社がそ うした合併策を選んだ背景には、国内の損害保険市場が成熟化し、成長と保険料の増収の見 込めないという実状がある10 各社は競争をするにあたり、保険料率を下げるという価格競争よりも保険商品に様々な 付加価値をつける高付加価値戦略を採った 11。損保は個人や企業と保険契約を結ぶにあた って多くのデータを処理し、また代理店向けに契約用の入力システムを整える必要がある。 後述する 3 メガ HD もそれぞれ子会社として専門のシステム会社を抱えているが、「人とパ ソコン(古くは「紙」)しかない」と言われるように、形のある商品をもたない損害保険会社 にとって、システムは非常に重要な役割を持つ。そのため各社は高付加価値戦略を採る際、 商品開発やシステムに対し多額の資金を投じなければならなくなった。その投資に個社で 耐えることは難しいため、各社は合併や統合によって規模を広げることで乗り切るという 道を選んだ。 2000 年代に合併・統合を繰り返した結果、「3 メガホールディングス」と呼ばれる、大手 損害保険会社を中核とした持ち株会社が生まれた。MS&AD インシュアランスグループ HD、東京海上 HD、SOMPO HD の 3 社である。業界団体である一般社団法人日本損害保 険協会においても、会員会社となっている 26 社のうち、この 3 メガ HD に属した東京海上 日動、三井住友海上火災、損保ジャパン日本興亜、あいおいニッセイ同和の主要 4 社が持ち 回りで協会長会社を務めている。ここでそれぞれの成り立ちを説明する12 ・東京海上 HD 日本初の損害保険会社である東京海上を前身とする三菱系の東京海上火災、大東京と同 10 1.3 で説明。 11 平木、奥沢(2014) 132 頁 12 各社公式サイトによる。

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8 じ動産系の日動火災が合併して生まれた「東京海上日動火災」と、帝国帆船海上保険を前 身とする「日新火災」から成る HD である。 ・MS&AD HD 2001 年に財閥系の三井海上と住友海上が合併した「三井住友海上火災」と、2010 年にあ いおい損保とニッセイ同和損保が合併した「あいおいニッセイ同和損害保険」によって成 る HD である。あいおい損保は野村の動産系であった大東京火災と、トヨタと関係の深 い千代田火災が合併した会社であり、ニッセイ同和損保は元財閥系の同和火災と日本生 命が乗り入れたニッセイ損保が合併した会社である。 ・SOMPO HD 2016 年 10 月に名称を変更する前は NKSJ HD(日本興亜と損保ジャパンの頭文字)であっ たように、主要損害保険会社は「損保ジャパン日本興亜」である。財閥系の安田火災と日 産コンツェルンの日産火災、それに 9.11 の損害で債務不履行となった古川財閥系の大成 火災が合併した損保ジャパンと、元大手 5 社の日本火災、通運に強い興亜火災、大倉財閥 と関係のある太陽火災の 3 社が合併した日本興亜損保の 2 社が合併して生まれた。 1.3 自由化以降の海外展開 その必要性 損害保険が自由化されて以降、特に近年は各社の海外展開が活発化している。その理由と して(1)国内市場が寡占市場である (2)国内市場が縮小傾向である (3)損保 ERM 経営が浸 透してきた (4)事業の分散化が必要とされている といった 4 要素が存在している13 (1)国内市場が寡占市場である 一般的な企業における利益と同じように、損保において業績や売上を示す指標として「正 味収入保険料」という科目がある。保険契約者から受け取った保険料から、契約者に払い戻 した解約返戻金と、積立型保険の保険料のうち貯蓄部分を控除し、そこから再保険料を加減 して計算したものである。日本損害保険協会が毎年公表する統計 14によると、2015 年度 (2015 年 4 月~2016 年 3 月末)における国内損保市場の市場規模は約 8 兆 3597 億円であ る。前述の主要 4 社の数値を見ると、東京海上日動が 2 兆 1283 億 1200 万円、三井住友海 上海上火災が 1 兆 5071 億 5700 万円、あいおいニッセイ同和損保が 1 兆 1920 億 8900 万 円、損保ジャパン日本興亜が 2 兆 2184 億 2500 万円である 15。4 社合計で約 7 兆 459 億 8300 万円となり、国内市場は約 84.2%を主要 4 社で占めている寡占市場であると言える。 13 鈴木衆(2016)、鈴木智(2015)、野村(2012) による。 14 http://www.sonpo.or.jp/news/statistics/syumoku/ (2017.12.18 アクセス) 15 各社 IR 資料による。

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9 (2)国内市場が縮小傾向である 先ほどの統計から正味収入保険料のデータを見ると以下のグラフ 1 のようになる。 (グラフ 1 収入保険料の推移 日本損害保険協会のデータより筆者作成) このグラフだけを見ると、全体としては数値が上昇しており、一見して縮小市場であると は見えない。しかしながら、国立社会保障・人口問題研究所の推計であるグラフ 2 による 0 2,000,000 4,000,000 6,000,000 8,000,000 10,000,000 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 年

正味収入保険料の推移

百万円 (グラフ 2 総人口の推移 -出生中位・高位・低位(死亡中位)推計- 国立社会保障・人口問題研究所 「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)報告書」8 頁より)

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10 と、2015 年に 1 億 2709 万人であった日本の人口は、2065 年には最低で 8200 万人ほどと なり、65 歳以上の割合は 41.2%にものぼる。損害保険は経済状況と人口に大きく左右され る産業であり、人口の減少は保険料収入の減少に直結する。また、高齢者人口が増えること によりロス16(損害率)が増加することが予測される。 国内の損害保険料収入でトップを占めているのが強制加入の自動車賠償責任保険(自賠責 保険)と、任意加入の車両保険など自動車保険である17。しかし、「若者の自動車離れ」とも 言われるように、自動車保有台数の伸びは低下し、近年では減少する年さえある。(グラフ 3 を参照) なお、自動車保険に関しては自動運転、もしくは運転支援技術の発達により現在の形での 損害保険が成立しなくなる可能性があるが、本論文では現行制度のまま存続すると仮定し て比較した。 (3) 損保 ERM 経営が浸透してきた

ERM とは Enterprise Risk Management の略で、全社的リスク管理と訳される。この ERM という概念は経済産業省が 2001 年に制定した規格であり、「ERM の目的は企業グループの 戦略達成、財務目標達成の不確実性を可視化し、リスクは低減し、リスク許容限度の中で、 事業機会は最大限活かすための統合的な管理手法」18である。また、「企業グループで統一 的なリスクの抽出・評価の基準により企業グループが保有するリスクを一元管理すること 16 保険料収入に対する保険金支払いの比率。損害率。 17 日本損害保険協会(2016) 18 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2008) 0 10,000,000 20,000,000 30,000,000 40,000,000 50,000,000 60,000,000 70,000,000 80,000,000 90,000,000 66 68 70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 年

自動車保有台数の推移

台 (グラフ 3 自動車保有台数の推移 自動車検査登録情報協会のデータより筆者作成)

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11 により、正確なコミュニケーションと意思決定が可能となる」19手法とされている。 3 メガ HD の web サイトでは経営計画のなかで各社 ERM 経営についての説明を記載し ている。この ERM 経営が浸透してきたことにより、「グループの企業価値の最大化を目的 として、資本・リスク・リターンのバランスを適切にコントロールし、財務健全性の確保、 資本効率の向上、リスク対比の収益性向上を実現」20するための方策として海外展開の選択 肢を採りやすくなった。 (4)事業の分散化21 リスクマネジメントの手法には「転嫁」、「保有」などといったものがあるが、そのなかの 1 つに「リスクの分散」という手法がある。 損害保険会社におけるリスクの分散、つまり事業の分散化には様々な方法がある。例えば 3 メガ HD は全て、生損保相互乗り入れの自由化以降に各社が設立した 1 ないし 2 社の生 命保険子会社を有している。日本生命、第一生命などの生命保険会社は俗に言う「生保レデ ィ」による直接営業を基本としているが、損保系の生命保険会社は元々親会社が有している 代理店ネットワークを活用した間接営業方式を採った。独自のチャネルで、かつ損害保険と 併せて生命保険を売ることにより利益を上げている。もう一つの例として、同じく 3 メガ HD は全て子会社として有しているダイレクト(通販)型の販売チャネルがある。代理店を介 さないため、土地代や人件費といった費用を抑えられることがメリットだ。主な商品は自動 車保険であるが、その手軽さ・簡単さを生かして少額短期保険や海外旅行保険も取り扱って いる。自動車保険のシェアではダイレクト型専売のソニー損保に大きく水を開けられてい る22が、日本における自動車保険全体に対するダイレクト型自動車保険の割合は 2015 年度 で 7.5%ほどであり、イギリスの 52.1%、アメリカの 19.1%23に比べると発展の余地がある ため、事業の分散化の一環として注目されている。 国内における事業の分散化は以上の通りだが、各社は海外に展開することにより、ポート フォリオ・保険引受リスクを分散化し、健全かつ安全な経営を目指している。事業の分散化 における海外展開のメリットとして、第一に、海外で元受保険事業を拡大することで、再保 険引受に比べて保険引受リスクを能動的にコントロールし、引受リスクを地域的に分散化 することができる。第二に、海外事業を日系企業中心からローカル企業・個人にすることで、 顧客層の分散化をすることができる。第三に、海外損保事業に加え、海外生保事業にも進出 することで、事業ポートフォリオを分散化することができる。 19 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2008) 20 SOMPO HD 公式サイトによる。 21 野村(2012) 12 頁より。 22 ソニー損害保険株式会社 2018 年度新卒採用 会社説明会資料による。 23 三井ダイレクト損害保険株式会社 2018 年度新卒採用 会社説明会資料による。

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第二章

2.1 海外展開の歴史 日本で設立された損害保険会社の海外展開として初めてのものは、1879 年のことであっ た。同年 8 月に創業した東京海上保険会社は、12 月にかけて釜山浦、上海、香港での営業 を開始し、翌年9月には英、仏、米国での営業も開始している。当時の顧客は海外に進出 した日系企業であり、この形態は自由化により海外展開が改めて活発化するまで続いた。 信州大学経営大学院の鈴木智弘教授は「日系企業相手であっても、海外での保険引受は、 進出国の認可や免許が必要になるが、現地保険会社などに代理店を委託し、それを再保険 で引き受けるなど、日本での引受と実質変わらないことも多かった」24と述べている。 しかし第一章で述べたように、金融ビックバンを経て、2000 年代以降は本格的に現地ロ ーカル市場で顧客を獲得することが重要となってきた。このローカル市場の開拓と同時 に、欧米大手企業との本格的な国際競争が始まることとなる。 2.2 3メガ HD の海外展開 ローカル市場への進出が活発化している近年、3 メガ HD 各社は M&A を中心に活発な 海外展開を行っている。3 社の海外展開方針は状況を紹介する25 (1) 東京海上 HD 古くから英米にも拠点を持ち、戦後 1956 年には米国と欧州で元受事業を開始してい る。3 社のなかでも特に海外展開に積極的で、最も注目されるアジア以外にも、ブラジル やトルコといった新興国に加え、先進国でも 2008 年の米フィラデルフィアなど大規模な M&A を実施し、着実に利益基盤を形成している。近年の主な海外展開は以下の通り。 表 1 東京海上ホールディングスの海外展開状況 東京海上ホールディングス 2015 年 HCC インシュアランス・ホールディングス社を約 9,400 億円で買収 アメリカ 2015 年 ヨハネスブルグに駐在員事務所開設 南アフリカ 2015 年 ホラード社と業務提携 南アフリカ 2012 年 PT MAA Life Assurance を買収 インドネシア

24 鈴木智(2015) 113 頁 注 14)

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13 2012 年 デルファイ・ファイナンシャル・グループ社を約 2,050 億円で買収 アメリカ 2008 年 フィラデルフィア・コンソリデイティッド社を約 4,715 億円で買収 アメリカ 2008 年 ロイズのキルン社を約 930 億円で買収 イギリス 2007 年 アジアジェネラルホールディングス社を約 446 億 円で買収 シンガポール マレーシア 2005 年 レアルセグロス社を 237 億円で買収 ブラジル (同社ニュースリリース、IR、ディスクロージャー資料等から筆者作成) (2) MS&AD IG HD MS&AD IG HD はアジアに強い基盤をもつ。1934 年にタイに進出したのち、香港 (1956)、シンガポール(1958)、インドネシア(1962)、フィリピン(1977)にも進出してお り、早い段階でアジアでの基盤を築いていた。特に ASEAN は全 10 ヶ国に拠点を持って おり、地域におけるシェアはトップである。2004 年に買収した英 AVIVA 社アジア事業部 門を中核とし、2006 年にはシンガポールに ASEAN 事業を統括する中間持ち株会社を設立 し、現地で,迅速な意思決定と事業執行が可能となるようにしている26。近年の主な海外 展開は以下の通り。 表 2 MS&AD インシュアランス グループ ホールディングスの海外展開状況 MS&AD インシュアランス グループ ホールディングス 2017 年 ファーストキャピタル社を約 1755 億円で買収 シンガポール 2016 年 アムリン社を約 6420 億円で買収 イギリス 2015 年 セリンコ・インシュアランス社に約 18 億円出資 スリランカ 2015 年 ヨハネスブルグに事務所開設 南アフリカ 2012 年 マックス・ニューヨーク生命社に約 391 億円出資 インド 2011 年 シナールマス生命社に約 672 億円出資 インドネシア 2010 年 ホンレオングループと包括提携 マレーシア 2010 年 信泰人寿社に約 24 億円出資 中国 2005 年 明台社を約 288 億円で買収 台湾 2004 年 アヴィヴァ社アジア損保事業を約 500 億円で買収 イギリス (同社ニュースリリース、IR、ディスクロージャー資料等から筆者作成) 26 鈴木智(2015) 121 頁

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14 (3) SOMPO HD SOMPO HD は他 2 社に比べると海外展開という点では出遅れている。2016 年の英エ ンデュランス社買収によりグループ全体に占める海外保険の利益割合が倍増したものの、 他 2 社には一歩及んでいない。2015 年に仏再保険スコール社の買収に失敗している27 か、2014 年に買収したばかりの米キャノピアス社を 2017 年に売却するなど、一貫性の無 さにも不安がある。近年の主な海外展開は以下の通り。 表 3 SOMPO ホールディングスの海外展開状況 SOMPO HD (NKSJ HD) 2017 年 サンラム社と業務提携 南アフリカ 2017 年 エンデュランス社を約 6394 億円で買収 イギリス 2014 年 キャノピアス社を約 952 億円で買収 イギリス 2011 年 ベルジャヤ・ソンポ社の株式を約 133 億円で追加 購入し、子会社化 マレーシア

2011 年 PT Asuransi Permata Nipponkoa Indonesia 社の株 式を追加購入し、子会社化 インドネシア 2010 年 テネット社を約 64 億円で買収 シンガポール 2010 年 フィバ社を約 274 億円で買収 トルコ 2009 年 マリチマ社の株式を約 155 億円で取得し子会社化 ブラジル (同社ニュースリリース、IR、ディスクロージャー資料等から筆者作成) 2.3 海外展開において有力な進出先 前項で確認した 3 社の動向を総括すると、有力な進出先とみられる地域が(1)欧米市場の ニッチ分野(スペシャリティ分野) (2)アジアなど新興国 (3)南アフリカ大陸 の 3 つ挙げら れる。 (1)欧米市場のニッチ分野(スペシャリティ分野) スペシャリティ分野とは、サイバーリスクにかかる保険や会社役員賠償責任保険といっ た自動車や火災保険に属さないものであるが、東京海上日動の永野毅社長(当時)が東洋経 済のインタビューに対し「スペシャリティに活路がある」28と答えている。同社が買収し た米 HCC 社や、SOMPO HD が買収した英エンデュランス社はこのスペシャリティ分野 の元受保険に強い。 27 大西(2015) 28 水落(2016)

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15 (2)アジアなど新興国 ASEAN や BRICs などこれから成長が見込まれる地域については、経済の成長とともに 損害保険の必要性が増していくため、進出先として注目されている。3 メガ HD の中でも MS&AD IG HD はアジア地域に力を入れており、特に ASEAN については全 10 ヶ国に拠 点を設立していて、同地域内における収入保険料は世界 1 位である。海外事業の地域別正 味収入保険料(2014 年度)についてもアジアが過半数を占めている29。2017 年にもシンガ ポール最大手のファーストキャピタル社を買収しており、今後も注力していくと考えられ る30 (3)南アフリカ大陸 スイス・リー社のチーフ・エコノミストであるクルト・カール氏は 2012 年に「この 20 年間、世界経済と保険市場では新興アジア諸国の重要性が増大してきましたが、このトレ ンドは少なくともあと 10 年は続くでしょう。しかし、人口パターンが示唆するところで は、2062 年までに (中略) アフリカの人口比率は現在の 15%から約 27%に上昇すると予 想されています。これによってアフリカは人口学的見地から優位な立場となり、その後 50 年間、世界の保険市場において重要な役割を担うでしょう」と述べている31 実際に国連経済社会局の「世界人口予測 2017 年改訂版」32を見ると、南アフリカ大陸の 人口は 2050 年までに現在の倍である 25 億人以上になると推計されている。 スイス・リー社の「2016 年の世界の保険」33によるとアフリカにおける 2016 年の損害 保険料が世界の市場シェアに占める割合はわずか 1.0%である。人口に対する普及率は極 端に低く、クルト・カール氏の述べるように進出先として重要であると言える。 3 メガ HD の動きとしては、SOMPO HD が 2014 年 4 月に国内損保として初めて南ア フリカ共和国のヨハネスブルグに駐在員事務所を設置したのち、東京海上 HD が 2015 年 4 月に、MS&AD IG HD が 2015 年 9 月に同都市に事務所を設置して拠点とした。また 2017 年 10 月には SOMPO HD がアフリカ大手 Sanlam グループ傘下の損害保険会社と包 括業務提携契約を締結した34 29 http://www.ms-ad-hd.com/ir/individual/pdf/meeting_20160323.pdf (2017.12.27 アク セス) 30 日経電子版(2017.8.24 21:33) 31 Swiss Re (2013) 32 https://esa.un.org/unpd/wpp/Download/Standard/Population/ (2018.1.13 アクセス) 33 http://www.swissre.com/library/publication-sigma/sigma3_2017_jp.html (2018.1.13 ア クセス) 34 各社ニュースリリースによる。

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16 2.4 海外展開の課題と対応 各社の海外展開にあたり、地域に関わらず発生する課題が(1)進出先での競争力と人材の 確保 (2)進出先における規制や監督 (3)人材の活用 (4)リスク管理やガバナンス体制の強 化 の4つ挙げられる35。無論、各社はこれらの課題に対応を行っているため、対応と同時 に紹介する。 (1)進出先での競争力と人材の確保 海外に新規参入する上で課題となるのがブランド力(ネームバリュー)の欠如による競争 能力の弱さだ。各社は M&A によりブランドを構築する「時間を買う」ことでこれに対応 している。また、東京海上 HD は『東京海上百二十五年史』のなかで「東京海上はじめ日 系損保は成功を収めていない。その原因の一つは、進出の際、現地市場に参入してゆく理 念、目標が明確でないまま戦力を逐次投入する傾向が強く、このため現地市場での競争に は力不足」と述べている36。同社や MS&AD IG HD は大規模な M&A を行うことで競争 力を高めている。 人材の確保に関しては M&A によって現地人材ごと確保しているように見えるが、M&A 直後の人材流出の防止や継続的な人材確保のための人事制度に課題が残る。 (2)進出先における規制や監督 各国の保険当局や保険業界に技術支援を実施37することで,業界の健全な発展に貢献し ていることが認められ,各国損保市場発展の初期段階において,ライセンスを得て市場参 入することができている38 (3)人材の活用 日本人の社員をグローバル人材に育成することは勿論重要であるが、現地スタッフとの 間で経営理念やビジョンを共有し、現地スタッフの力を引き出す仕組みを構築することが 必要である。海外事業においては「ローカルビジネスが中心になってくると、やはり現地 のことを一番よく知っている現地スタッフに重要な役割を任せた方が、様々な面でうまく いくものと思われる。そのためにも、現地スタッフの能力を最大限発揮できるような報酬 35 野村(2012)、東京海上ホールディングス(2011) による。 36 東京海上日動火災株式会社(2005) 366 頁 37 http://www.ms-ad-hd.com/ir/individual/pdf/meeting_20160323.pdf (2018.1.4 アクセ ス) 38 野村(2012)

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17 制度、組織体系を構築し、権限委譲を行うと同時に責任と義務の明確化を図っていく必要 がある」とされる39 (4)リスク管理やガバナンス体制の強化 日本と海外では法制度をはじめ文化や慣習が異なる。そのなかでリスク管理やガバナン ス体制をどのように強化していくのかも大きな課題である。また、「特に過半数を出資し ていない場合は、出資先のみならず、パートナー株主との目的意識や管理手法の共有も重 要」40とされる。そのためには「現地のマネジメントを統括できる本社の体制の確立とそ れを担える人材の育成と確保が急務」41である。

第三章

3.1 企業のグローバル化 国内損害保険会社の海外展開はもはや不可避のものであり、進出先では欧米など保険先 進国との国際競争に打ち勝たなくてはならない。そこで、国際的なワン・ストップ・サー ビスの実現や日本品質のブランド力を維持する上で、現地スタッフと日本にある企業本社 との間には、企業のビジョンや理念を共有できるほどの深い連携が不可欠であると考えら れる。しかし対日系企業から対現地企業・個人へと保険事業のターゲットが変わるなか で、独自の文化圏である日本に端を発した企業は、人事制度に加え、特に人材の面でいま だグローバル化できていないと考えた。 日本と海外の差を乗り越え、日本の強みを生かして海外で打ち勝つには、「現地スタッ フに日本企業の考え方やノウハウを理解してもらうこと」と「日本本社の従業員が国際的 な考え方を理解し、現地スタッフの強みを生かした戦略を構築できること」の 2 つが大き な課題であり、全社的にグローバル化された経営が必要である。 3.2 課題に対する提言 前項で私は 2 つの課題を提示したが、3 メガ HD 各社はそれぞれグローバル化を目指し た対応を既に行っている。以下、4 つの例を挙げる。 39 野村(2012) 21 頁 40 東京海上日動火災株式会社(2005) 366 頁 41 東京海上日動火災株式会社(2005) 366 頁

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(1) 海外拠点 CEO に非日本人を起用(東京海上 HD の ASEAN 事業)42

シンガポールの地域統括本部である東京海上アジア社(Tokio Marine Asia)やその傘下に ある各国の現地拠点では多くの非日本人が CEO に就いている。東京海上アジア社 CEO のアーサー・リー氏は、東京海上 HD の執行役員も兼務している。事業やヒトの現地化と いう観点で、東京海上 HD は金融・保険業を商う日本企業のなかでフロントランナーとし て位置づけられている43 東京海上 HD においては現地 CEO の多くが非日本人となっている一方で、グループの 持株会社等グループ会社が、ほとんどのアジア地域における現地法人の全額ないしメジャ ーな株主となり、取締役を派遣し、重要事項の決定はコントロールできる体制となってい ることも経営上の重要点である。 (2) 幹部候補に海外赴任を経験させる(東京海上日動火災) 保険会社の総合職のほとんどは転勤の可能性があるという前提で採用をしていると考え られる44が、その中でも出世コースというものが存在するとされる。無論 100%というわ けではないが、出世スピードが早い、もしくは役員レベルまで出世する社員は本社勤務と 海外赴任というルートをとっていると聞いたことがある。事実、私の就職活動中に話を伺 った部長レベルの方(5 人)は全員が海外赴任を経験していた。また、同社公式の広報によ る人事情報などを見るに、役員は多くが海外赴任を経験していると確認できる。同社の方 針として、幹部候補に海外赴任を経験させることで、グローバルな視点を持たせる意図が あると推察される。 (3) グローバルトレーニー制度(三井住友海上火災) 同社では、日本人社員に対し「グローバル人材入門講座」や「海外研修生制度」等の 様々な育成取組を行っている45。また、本社の社員が海外拠点の業務を体験したり、海外 拠点の現地雇用社員が本社の業務を体験したりする「グローバルトレーニー制度」を実施 している46。同社によると、2016 年度は、国内社員 38 名、海外拠点の現地雇用社員 52 名(2010 年度以降累計:国内社員 142 名、海外拠点雇用社員 250 名)がグローバルトレ ーニー制度を利用している47 42 平賀(2017)による。 43 講談社(2013) 44 主要 4 社については各社リクルーティングサイトによる。 45 鈴木衆(2016) 2 頁 46 http://www.ms-ad-hd.com/csr/employee/bring.html (2018.1.4 アクセス) 47 http://www.ms-ad-hd.com/csr/employee/bring.html (2018.1.4 アクセス)

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19 (4) セコンドメント・プログラム(三井住友海上) 同社では、本社の国際業務部および東アジア・インド本部を中心とした各部署で海外拠 点の現地雇用社員を出向という形態で受け入れている。この制度を利用し、2016 年度まで に 69 名の海外拠点社員が日本での業務を行っている。出向者本人にとっては、本社の機 能や考え方、MS&AD インシュアランス グループの経営理念・経営ビジョン・行動指針 を、実務を通して理解する貴重な機会となっており、また普段海外と接点の少ないほかの 部署ともセミナーの開催等を通じて積極的に交流を行っており、相互理解に貢献している とされる48 この 4 つの事例を見ると、現地の舵取りを現地 CEO に任せるという「人事制度のグロ ーバル化」と、日本と現地の「幹部候補のグローバル化」については各社力を入れている ことが分かる。しかし、私はこのグローバル化では本質的なグローバル企業を構築するこ とは出来ないと考える。この方法では、まず日本本社においてグローバル化を享受できる のは「幹部候補」と国際事業を司る部門などの「一部社員」である。現地スタッフにおい ては数千人いるなかの数十人の幹部のみである。現地スタッフに関してはトップダウンで 「日本のやり方」を伝授することができる可能性があるが、日本本社は何十か所もの海外 拠点を取りまとめる立場として、会社一丸となってグローバル化する必要がある。 部門ではなく会社をグローバル化する手段として既に日本で実行されている制度とし て、楽天やユニクロが実施している「社内公用語の英語化」がある。しかし、損害保険会 社が社内公用語を英語化することで安易にグローバル化できるのかと言えば、否である。 幹部は「成功である」としている49が、外国人採用が増えた50ことによる技術向上や、社 員採用する際の基準が厳しくなったことを成功と述べている。一方で「困っている」51 いう現場の声も見受けられ、少なくとも私の述べた「日本本社のグローバル化」という点 においては適していない。 真に私が提示した基準で日本の企業がグローバル化するためには、本社に勤める日本人 一人ひとりに対する「グローバル化の機会」が必要である。これは現状の幹部候補や国際 部の社員だけに特化したプログラムではなく、全社均等に享受できるものでなくてはなら ない。一方で本社の社員側についても、グローバル化が必要不可欠なものであり、自ら積 極的にグローバル化を甘受する意識改革が必要である。現地企業の CEO に非日本人を置 48 http://www.ms-ad-hd.com/csr/employee/bring.html (2018.1.4 アクセス) 49 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/113000186/113000002/ (2018.1.5 アクセ ス) 50 http://toyokeizai.net/articles/-/33821 (2018.1.5 アクセス) 51 http://president.jp/articles/-/21640/ (2018.1.5 アクセス)

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20 くのも良いが、私はこうした日本企業に対する「教育係」に非日本人を就けるべきではな いかと考える。根底からの意識改革をするには同じ日本人では不十分であるからだ。 業界再編が終わり内部の改革がひと段落しかけている現在、国際社会の競争に乗り遅れ ないためにも、早急な「全社的グローバル化経営」に向けて舵を取らねばならない。

おわりに

本論文では、まずはわが国の損害保険業界が辿ってきた保護と自由化の歴史を紐解いて 背景とし、海外展開がこれからの損保業界にとって不可欠なものであるとした。その上 で、海外展開におけるグループホールディングス全体での「グローバル化」が必要であ り、今こそ改革の必要があると警鐘を鳴らすものである。筆者は数多くの損害保険会社(と 生命保険会社)が未来ある就活生に「グローバルな活躍を」と述べるのを見てきた。私もそ の言葉に夢を見た一人であり、今も日本の損保が世界的に活躍してほしいという希望に変 わりはない。奇しくも 4 月から損保業界に身を置くことになった私は、より広く深く「グ ローバル化」していく各社を間近で見ることができる。40 年の社歴の中で、本論文で論じ た課題だけではなく、業界の様々な困難を解決する一員となるべく尽力することを今後の 課題としたい。 また末尾ではありますが、本論文を作成するにあたり、ご指導を頂いた卒業論文指導教 員の加藤志津子教授に心より感謝致します。

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参考文献一覧

書籍 ・小藤康夫(2016)「日本の保険市場」八千代出版 ・鈴木衆吾(2016)「損害保険業のグローバル化への対応と課題」 日本保険学会『保険学会雑誌』第 632 号 ・鈴木智弘(2015)「わが国損害保険会社の国際化」 日本保険学会『保険学会雑誌』第 629 号 ・諏澤吉彦(2015)「保険業規制の国際協調のあり方に関する考察」 日本保険学会『保険学会雑誌』第 629 号 ・玉村勝彦(2011)「損害保険の知識<第 3 版>」日経文庫 ・東京海上日動火災株式会社(2005)「東京海上百二十五年史」日本経営史研究所編 ・日本損害保険協会(2016)「ファクトブック 2016」 ・野村秀明(2012)「損害保険会社の海外事業展開」 日本保険学会『保険学会雑誌』第 616 号 ・平賀富一(2016)「損保国際化への期待と課題」 東洋経済新報社『週刊東洋経済臨時増刊 損保・生保特集 2016 年版』 ・平賀富一(2017)「現地化が進む本邦大手損保グループのアジア展開」 関西学院大学『産研論集』44 号 ・平木恭一、奥沢敦司(2014)「 図解入門業界研究最新金融業界の動向とカラクリがよ~く わかる本[第 4 版]」秀和システム ・保険毎日新聞(2017)「損害保険に関係する主な法律の動向①-保険業法-」 保険毎日新聞社『保険毎日新聞』2017 年 6 月 13 日 ・東洋経済(2015)「メガ損保『グローバル経営』」 東洋経済新報社『週刊東洋経済臨時増刊 損保・生保特集 2015 年版』 Web ページ ・Swiss Re(2013)「スイス・リーのシグマ調査「2012 年の世界の保険」:困難な経済環境に もかかわらず, 保険料の伸びは回復し、2.4%を達成」Swiss Re 社 http://www.swissre.com/reinsurance/insurers/sigma3_2013_world_ins_2012_jp.html ・一般財団法人 自動車検査登録情報協会(2017)「最新の自動車保有台数」 https://www.airia.or.jp/publish/statistics/number.html ・大西富士夫(2015)「損保ジャパン日本興亜、海外 M&A で大失態 世界 5 位再保険会社の 持分会社化を断念」東洋経済 ONLINE 2015 年 12 月 18 日

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22 http://toyokeizai.net/articles/-/97289

・講談社(2013)「安倍政権は本当に日本を救えるのか Part2 グローバル化に及び腰の日本 の金融機関」現代ビジネス Wharton Japan Report 2013 年 5 月 24 日

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35909 ・国立社会保障・人口問題研究所(2017)「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」 http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp_zenkoku2017.asp ・東京海上ホールディングス(2011)「東京海上グループの海外展開とその課題について」 http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/w_group/siryou/20110629/04.pdf ・日経電子版(2017.8.24 21:33)「三井住友海上、アジアに軸 シンガポール損保を 1750 億 円で買収」日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXLASDC24H2H_U7A820C1EE9000/ ・水落隆博(2016)「「保険は成長産業だ、日本市場もまだ伸びる」 東京海上日動の北沢社長が 語った」東洋経済 ONLINE2016 年 6 月 15 日 http://toyokeizai.net/articles/-/122407 ・三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング・国際事業本部 ERMコン サルティングメンバー(2008)「企業価値を高めるERM 全社的リスクマネジメント 内部統制からERMへ発展させるQ&A」三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング http://www.murc.jp/uploads/2012/09/1-1.pdf 公式サイト等 ・東京海上ホールディングス 公式サイト http://www.tokiomarinehd.com/ ・MS&AD インシュアランスホールディングス 公式サイト http://www.ms-ad-hd.com/ ・SOMPO ホールディングス 公式サイト http://www.sompo-hd.com/

参照

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