理学療法学 第 41 巻第 4 号 226 はじめに 理学療法士(以下,PT)が誕生して半世紀を迎え,有資格 者も 11 万人に達した。最近の 15 年は医療制度の改革や介護保 険の創設など様々な制度改革が実行され,リハビリテーション 医療が重要になり,並行して PT の雇用が拡大した。拡大に伴 い養成校は急増し,学生の増加,最終的に有資格者の急激な増 加につながった。 日本は 2025 年に総人口の 65 歳以上の年齢が 30%を超し, 以後若者 2 人で 1 人の高齢者を支える時代を迎える。さらに, 核家族化に伴う高齢夫婦世帯,高齢独居世帯が増加することが 予測される。高齢者の増加は介護の必要な要介護者も増大させ るため,高齢者の安全で安心な社会の構築が求められている。 これらに対して,医療領域では医療提供体制の見直しとして急 性期に医療資源を集中投入し,亜急性期(回復期)・慢性期の 機能強化を行い,入院医療の機能分化と連携を図り,医療機関 の入院日数の削減を進めている。またどこに住んでいても,そ の人にとって適切な医療・介護サービスが受けられる社会をめ ざして地域包括ケアシステムの構築が提言されている。人口 1 万人の地域を想定し医療・介護サービス,生活支援,介護予防 がマネジメントされ,効率的で効果的な運用をめざした体制が 検討されている(図 1)。 今回のテーマである「地域で活動する理学療法士に求められ るもの」における地域はイコール訪問リハビリ,通所リハビリ などの在宅サービスの印象が先行する。しかし,地域では病院 も施設も様々な機関が関わっており,それぞれの立場で地域を 考える必要がある。特に地域包括ケアシステムのめざしている 人口 1 万人の地域を想定して病院や施設や在宅サービスのいず れに勤務しても,利用者への生活支援を考えることが重要と なってくる。この点を含んで「地域で活動するということ」の 考え方とさらにどの職場に勤務しても求められる PT の質とし て「専門職種である PT に求められるもの」の 2 点に論点を分 け述べていきたい。 PT の現状 公益社団法人日本理学療法士協会(以下,協会)の医療,介 護保険に関係する施設に勤務している会員(2011 年度就労者 数約 65,000 人)の就労先について 1997 ∼ 2011 年の 15 年間で その変化を見てみる。 2011 年での就労状況では大学病院,一般病院などの病院群 では 6,059 施設で会員 47,080 人が勤務している。診療所は 2,255 施設で 5,877 人が勤務している。介護老人保健施設は 2,400 施 設で 5,012 人,訪問看護ステーション,通所介護,通所リハビ リなどの在宅サービス群では 1,085 事業所(内訪問看護ステー ション約 700 ヵ所)2,100 人(訪問看護ステーション 1,267 人) となっている。これで就労会員(自宅会員除く)の 92%を占 めている(図 2)。 病院群,診療所などの 15 年間の所属施設数と 1 施設平均 PT の就労者を見ると病院群では,1 施設あたりの職員数は 1997 年の 3.2 人から 2011 年には 2 倍強の 7.7 人に増加している。診 療所では 1.4 人から 2.6 人,老人保健施設では 1.2 人から 2.0 人,在宅サービス群では 1.2 人から 1.9 人と複数雇用になって きている。PT に対する価値を認めているから増員をしている と推測している。特に,介護老人保健施設では施設基準上入所 者 100 人に対して PT・OT どちらか 1 名の配置義務に対して, PT 2.0 人雇用しているのは職種に対する価値を表わしていると 考える。各分野とも右肩上がりに施設数,就労数も増加してい る(図 3)。 協会会員の都道府県別会員数を各県の人口で除して上記の地 域包括ケアシステムの構築の基盤となっている人口 1 万人あた りの PT 数を算出すると,高知県の 16.7 人が最高で,少ないの が栃木県の 4.3 人,全国平均が 7.5 人となり西高東低の傾向が みられる(図 4)。 単純に高知県の人口 1 万人あたりの PT 数 16.7 人を各都道府 県に置き換えて必要人員を算出すると全国で PT が 23 万人は 必要になる。 地域包括ケアシステムのイメージの中に在宅医療(1 日あた り 17 ⇒ 29 人分),訪問看護(1 日あたり 29 ⇒ 49 人分),介護 人材(207 人⇒ 356 ∼ 375 人),24 時間対応の定期巡回・随時 対応サービス(15 人分),グループホーム(16 ⇒ 37 人分),小 規模多機能(0.25 ヵ所⇒ 2 ヵ所)それぞれの必要目標数が記載 されている(図 1)。PT はどうだろうか,人口 1 万人あたりの 医療機関,施設,在宅サービス(例:訪問リハビリ,通所リハ 理学療法学 第 41 巻第 4 号 226 ∼ 232 頁(2014 年)
地域で活動する理学療法士に求められるもの
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森 本 榮
**スタンダードセミナー
*Expected Condition of Physical Therapists at Community based Setting
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医療法人社団輝生会 本部(初台リハビリテーション病院) (〒 151‒0071 東京都渋谷区本町 3‒52‒6)
Sakae Morimoto, PT: Hatsudai Rehabilitation Hospital キーワード:標準理学療法士,地域理学療法,マネジメント能力
地域で活動する理学療法士に求められるもの 227 ビリ)などの領域に区分けし必要数の算出が望まれる。 PT の就労数の地域間格差はあるが,全国どの地域でも理学 療法を提供できる体制になってきたと考える。今こそ PT の質 を考えないと,長年組織活動で構築してきた PT への信頼を一 気に失ってしまう可能性もある。そのためには専門職種である PT に求められるものを共通課題とし整理する必要がある。 専門職種である PT に求められるもの(標準 PT) 2013 年で PT 養成校 251 校,年間 13,265 人が輩出されている。 4 年生大学から 3 年生養成機関,国立,公立,私立とその養成 課程は様々である。論理過程を構築する教育を実践し,その流 れに国家試験があると考える学校から,国家試験のための教育 に終始し,詰めこみ式の養成になっている学校もあると聞く。 筆者の関連する医療機関に就職した新入職員の成長を経過観察 すると,論理的な展開の獲得にはどちらのタイプの学校を卒業 してきたかによって時間差があり,卒後教育遂行過程における 卒前教育の教育姿勢の差を実感している。 大量に輩出される卒業生は急性期,回復期,生活期のいずれ かの領域に就職する。数年後,領域を変え転職をする PT もあ れば,そのまま留まる PT もある。卒後教育の重要性が急速に 高まる中で,考え方や資源が異なる個々の施設での卒後研修に 任されている現状からみて,どの領域,どの施設であろうがス タートラインからめざす PT 像の基盤が共通となる標準 PT 像 づくりが重要と考える。この像のうえに個々の領域,施設で学 図 1 地域ケアシステムのイメージ(厚生労働省資料一部改変) 図 2 職域別理学療法士会員の増加傾向
理学療法学 第 41 巻第 4 号 228 ぶ専門性や提供技術の違いから発生する個別の経験値が上積み されることが望ましい。就労先で指導もなく,「見よう見まね」 で経験を積み重ねるようでは,論理的に問題を解決する専門職 種には到達できないだろう。 1.新人 PT に求めるもの まず新卒 PT に職場はなにを求めるのか。①組織人としての 行動(法令遵守,職場マナー,接遇など),②診療報酬上の単 位の取得,③先輩 PT の指導下での理学療法から自ら担当でき る PT へ,④職場が望む疾患知識の獲得,⑤職場が望む理学療 法技術・知識の習得などが考えられる。これらの教育支援は利 用者を担当し,評価から問題点を抽出し,プログラムを立案し, プログラムを実施し,見直しを行う PDCA(Plan Do Check Action)サイクルの獲得にあると考える。標準 PT の基本はこ の PDCA が身についた状態と考えている。 筆者の勤務する法人の職員教育を参考に新人育成システムを 紹介する。新人 PT は入職日から 10 日間程度,他職種合同で チームアプローチ主体の新人研修を受ける。診療報酬請求が可 能になった段階で,リスク対応,理学療法代行,ADL 誘導な どの技術経験を繰り返し,量的な経験を積み重ねる。同時に評 価技術練習を繰り返す中で分析経験を積み重ねる。また対象疾 患の理解と EBPT による理論づけなどの質的経験を加え統合 分析能力の向上を図る。具体的には初期集合研修,クリニカル クラークシップ,OSCE などで聞く,まとめる,実施する,説 図 3 理学療法士の就労先施設数と就労者総数の職域別変化 図 4 各都道府県別人口1万人に対する理学療法士数
地域で活動する理学療法士に求められるもの 229 明するなど繰り返し論理的思考を促し,基本動作・移動支援技 術・ADL 支援技術・評価能力の向上を図る。能力に応じて 3 年を目標に症例報告や法人が年 6 回開催する法人内の研究大会 への発表を行ってもらう。 並行してチームアプローチを強化する全職員共通研修を初年 度,2 年度,3 年度と継続実施し,他職種と共通した医療安全, 接遇・コミュニケーション,カンファレンスなどの共同作業の 経験を行い,日々の中でもチームアプローチを経験する。 さらに先輩からのアドバイス,協会の卒後プログラム,他団 体の学会など多面的な経験や勤務している職場の地域の資源の 情報など,外部からの情報の収集能力が個人の資質を重層的に 高めていくと考えている。教育体制とは別に勤務する職域が回 復期リハビリテーション病棟,外来リハビリテーション,訪問 リハビリテーションの 3 領域があり,「生活期の理解」を目的 に複数年職域を意図的に異動させる。 これらの量的と質的経験の蓄積で PDCA サイクルが確立さ れる(図 5)。 2.熟練 PT に求めるもの 熟練 PT とはなにか? は筆者の考える熟練 PT とは①技術, 知識ともに高い能力をもつ(継続して研鑽している),②部下, 他職種に適切な指導が行える,③組織人として行動する,④変 化に柔軟な人材,⑤マネジメントができる,⑥納得させる説明 能力,⑦リスク管理,リスク対応能力が高い人材が挙げられる。 具体的には,EBPT(Evidence-based Physical Therapy)に 基づくエビデンスや経験に基づくエビデンス,高い評価能力に 基づいた正確な評価結果を基に PDCA サイクルが実行できる。 専門性のうえに組織人としての能力(法令遵守,倫理),リー ダーシップ能力,他職種をも含めたマネジメント能力をもつ人 材が望まれる。患者,家族,他職種,行政機関などから信頼さ れる人材をめざす。 PT は業務のプロセスからか個別の対応には優れているが, 集団管理に関しては苦手な職種である。チームアプローチがい つになっても叫ばれるのはできていないから叫ばれると考え る。他職種との触れ合いが「出会い」ではなく「摩擦」と感じ る PT もいる。他職種との協業の推進と学生教育から集団をま とめる,リーダーシップ教育が重要である。職場では利用者へ の夏祭りや餅つき大会などの実行委員長,委員また職員の忘年 会,歓迎会などの幹事などリーダーシップを発揮する,発揮さ せる場面を活用し人材育成する考えも重要である。また PT に 関するマネジメント教育はほとんどなされていない。近年,多 人数の職場も急増し職場運営に関するマネジメントが注目を集 めている。一般社団法人回復期リハビリテーション病棟協会で は,合計で 18 日間実施するセラピストマネジャー研修を 3 年 前から開催している。広報と同時に 130 名の定員が完売状態に なる。それほど管理に悩んでいるセラピストが多いのが現状で ある。PT 協会も個人学習から系統だった指導が行える体制づ くりが必要である。 筆者は 2025 年には,地域包括ケアシステムの中で利用者の 自立支援に向け医療・福祉サービスを PT がマネジメントして いる姿を想像している。 地域で活動する 以下に地域で活動する際に必要と感じている代表的な項目を 述べる。 1.地域を利用者目線で見る 「地域で活動する」を考える際に筆者は利用者目線で見た地 域を基盤にしている。たとえばある利用者の生活圏域では病院 がなく急性期は近隣の A 市で,回復期は B 市を経て,自宅に 退院し生活圏域の居宅サービスを活用して生活を営む例もあれ ば,そのすべてが生活圏域に揃っている場合もある。基本とし て地域で活動するには地名,人口,風習,医療・介護インフラ などの生活圏域の地域特性を把握する必要がある。企業であれ ばマーケットリサーチを実施することと類似しており,マーケ ティングの考え方などを参考に取り入れることを推薦する。 図 5 新人理学療法士の育成プロセス
理学療法学 第 41 巻第 4 号 230 2.マネジメント能力を発揮する マネジメント能力は前述したが,たとえば介護保険サービス の場合,各サービスがケアプランに基づいて生活支援を行う が,自立支援をめざしたプランであっても介護職員の中にはお 世話的支援を実行する場合がある。この際に,自立支援プログ ラムを説明し,自立支援へと誘導するマネジメント能力が望ま れる。まずは人間関係の構築を行いながら,わかりやすく専門 的な理学療法情報を提供する。他の職種からの情報も入手し, 地域の特性も理解したうえで多面的な調整能力が望まれる。初 対面で上から目線で説明する態度であれば拒絶される可能性は 高い。 さらに目的を達成するためにはリーダーシップが必要であ る。利用者に対して訪問介護,通所リハ,訪問看護,訪問リハ など様々なサービスが関わっている際に移乗動作が上肢介助, 監視,体幹介助などサービスによって異なる方法がとられてい る例では,運動学習を考えた場合に非効率的である。こういっ た現状を正確に把握し,全サービスをまとめていくリーダー シップが要求される。介護施設でも同様である(図 6)。 3.多面的視点での分析能力(ワンパターンにならない) 新人から熟練へ発展する過程で分析能力は向上するが,ワン パターンに陥る場面が見受けられる。生活を見るためには,多 面的な視点で考えていく思考過程の構築が望まれる(図 7)。 視点 1:ICF の論理形成を活用する。ICF は生命レベル,生 活レベル,人生レベルの生活構築に健康状態,環境因子,個人 因子のどの方向からでも関係性を確認できる。 たとえば就労している高齢者が定年退職すると通勤,職場で の触れ合いなど自宅以外の活動範囲の狭小化につながる。当 然,運動量は低下して活動は減少する。意欲も低下することで 病気にかかりやすくなり,健康状態が低下する。対応するため に個人因子の外出するライフスタイルの検討を行う。外出目的 は趣味や買物等でボランティアや家族の導入で活動範囲を拡げ 健康状態の改善を図る。続いて交通機関などの環境因子も配慮 して参加機会の拡大を促す。どの方向からでも論理形成は可能 であり,最初に気づいた因子からこれはどうなるのか,この因 子は関係していないのかなどの相互関係を整理する。 視点 2:高齢者の特性の視点から論理形成する。PT が高齢 障がい者に接する場合疾患別から関わる。その疾患を中心にプ ログラムを考えてしまうが,疾患の下地には高齢者は病気にか かりやすく,疾患は慢性的に経過する,さらに複数の疾患を もっていることが多い,ホメオスタシスを維持しにくい,定型 的な症状を示さない,意識障害や精神障害を起こしやすい,原 疾患と関係のない合併症が起こりやすいなどの特徴がある。高 齢者全般に予備能力の低下,防衛反応の低下,回復力の低下, 適応力の減退がある。さらに,家族関係,居住地の特性などの 因子と結びつけて論理形成する(図 7)。 視点 3:身体使用活動からの視点(廃用・過用・誤用)で論 理形成を行う。PT が身体の評価を行い,プログラム作成の段 階で低下した機能に対して廃用の因子から検討する。廃用の場 合には筋力強化,活動の向上などをめざした理学療法の導入, 生活パターンの変更,家族,介護者の介入方法の検討を行う。 図 6 在宅サービスでのマネジメント 例:移乗動作⇒排泄⇒移乗動作 図 7 高齢者の理学療法の展開基盤
地域で活動する理学療法士に求められるもの 231 生活動作時に,できる能力が椅子の高さ,クッションの柔ら かさ,肘掛の形状などで不安定な要素により動作能力が活用で きない場面では誤用の因子を検討する。その他,福祉用具の使 用方法でも誤用の視点で検討を加える。 できているが偏った使用,逆に悪化させる傾向がある動作の 場合に過用の因子を検討する。痛みがあるがひとり暮らしで無 理をしなければ生活が継続できない例などでは,補助具の使 用,生活パターンの変更,ヘルパーの介入などにより負担を軽 減させる必要性がある。全体的に評価するより,切り口を決め て評価すると論理の視点が絞られる。 視点 4:リスク管理から見た論理形成をする。転倒を考える 場合には身体面だけでなく,高次脳機能障害,認知障害の検討, 床の材質,カーペットの素材,家具の配置,段差,トイレの構 造,浴室の構造などの環境面での検討を加え危険因子を除去す る。この流れを論理過程に応用し安全で安心した生活の構築を 支援する(図 8)。 視点 5:正しい論理形成のために他者からの意見を収集でき る場面づくりを行う。カンファレンス,ミーティング,症例報 告など他の職種,同一職種と討論できる場面をつくることで論 理形成の偏りを防ぐことができる。 日常の理学療法評価に上述した視点からの論点を加えること で,多面的に把握できる仕組みをつくるとワンパターンは防止 できると考える。 4.コミュニケーション能力 筆者がもっとも重要と考えているのがコミュニケーション能 力である。コミュニケーションは会話するだけでなく様々な手 法を用いて伝える能力と考えている。よく現場で問題になるの が相互に解釈違いや,聞き取るポイントがずれて肝心なところ が聞かれていない場合に「言った」,「言わない」の問題が発生 する。筆者も伝え終わったと誤解してトラブルになった事例は あり注意が必要である。 重要事項の伝達にあたって,口頭伝達,書面伝達,その他に 図や写真での伝達があるが口頭であれば聞く,理解する。書面 であれば書く読む能力が要求される。次の人へさらに次の人へ と伝達された場合の実行,理解力の差や,伝達内容の変化など パフォーマンスの相違の把握が必要である。部下への伝達でも 違いがでてくる。当然他のサービス事業所ではコミュニケー ションの相違が発生する率は高く特に専門用語の使用に問題が ある(図 9)。 地域活動では伝達する言葉が専門用語では理解できないのが あたり前である。「介護職員から,あえて理解させないために 専門用語で話されるのですか」と皮肉をいわれた記憶がある。 言葉だけでなく絵で示す,模型で示す,写真,動画で示すなど できるだけ整理して解りやすく説明する責任があることをあえ て述べたい。懇切丁寧にコミュニケーションに努力されてい る PT は,どんなに高度な理学療法技術を有している人よりも リーダーとし一目置かれる。 5.質を意識する PT の質が高い低いは同一の利用者に並行してサービスを提 供しない限り判断できない。ひとりの PT に継続して理学療法 を提供されている利用者には比較することもできず判断できな い。理学療法の効果を練習前後でしっかりと提示する習慣が必 要である。実施前に評価し,実施後評価した効果を示すのか, 実施しながら利用者の変化を示すのか,質を表現するという意 識がなければ利用者には理解されないまま練習は終了する。質 を意識することが PT の増大に伴ってさらに重要になる。 新たな領域の開拓 現状から推定すると 2025 年には PT は 23 万人に達する。こ れらの受け皿の確保のためにも 2025 年までの 12 年間で現状の 職域にとどまらず,新たな職域の開拓が必要である。最終的 な PT の必要性は利用者,国民が決定する。その際,結果をだ せているかが職域を発展させる鍵と考えている。逆に結果や効 果をだせない場合には他の職種に取って代わられるかもしれな い。PT にとっての正念場と筆者は考えている。 日々病院,施設などで利用者に提供する理学療法は利用者も ○○病院,○○施設の理学療法部門の○○ PT と認知し,実施 される練習は個人の技能だけなく所属先の提供するサービスの 一環として解釈する例が多い。病院が高い評価であれば PT の 技術も高く評価される。 地域,特に在宅サービスではケアマネジャー,訪問介護など 図 8 理学療法論理過程 (多面的な見方ができる論理過程の構築) 図 9 重要事項の伝達(情報ループ)
理学療法学 第 41 巻第 4 号 232 の職種の中には PT はなにができるのか理解していないスタッ フも多くいる。 訪問リハビリテーションに関しても,訪問マッサージと混同 している場合もある。つまり,在宅サービスを含む介護保険領 域での活動は「新領域を開拓する」という意識が必要である。 介護保険では単独で行動する機会が多く,所属先というより 個人の○○ PT として認知される。個人の活動を説明できる, 実行できる,さらに各職種を誘導できるマネジメント能力が要 求される。これに関しては一朝一夕に能力を獲得することは できないが,これから 2025 年を目指して研鑽することを求め たい。 また,PT 協会では訪問リハビリステーション開設をめざし て活動しているが,地域包括ケアシステムと連動して訪問リハ ビリテーションを中核に通所介護を併設し介護保険対象者への 自立支援,介護予防,特殊支援学校,養護学校などの障害児へ のリハビリテーション供給などの複合サービス拠点として,地 域のかかりつけ医からの「医師の指示のもと」活動できる地域 自立支援拠点の構想を掲げている。多様なサービスに対応でき るリハビリテーション拠点は地域包括ケアシステムの一翼を担 うと考える(図 10)。 この構想が現実になるには理学療法士の「新領域を開拓す る」意欲にかかっている。 おわりに 2025 年以降の高齢者問題に対応するために医療保険,介護 保険分野で制度の改革が進められ,効率的な運用で膨らむ医療 費,介護保険料の上昇を食い止める策が検討されている。我々 PT もこのコストに対する意識が重要である。個々の地域を見 つめなおし病院の中だけでなく,地域の情報を収集しコスト意 識をもった活動が必要になる。たとえば訪問リハビリ 1 回の報 酬と練習内容が費用に対して成果があるのか,統一した評価 バッテリーがあれば成果を示すことができるが現状では統一さ れていない。これでは効果を示すことはできない。様々な問題 があるが,まずは卒後教育で PT の質を維持向上させることが 急務と考える。 新人理学療法士はまずは標準理学療法士になり自立するこ と,次に地域のどの領域で勤務しても,利用者の生活の場を想 定分析し,本人,家族,他の職種を支援できる技術に加えそれ を活用しチームの中心となって推進できるマネジメント能力を 身につけた熟練理学療法士をめざす。さらに,新しい職域の拡 大をめざして地域包括ケアシステムを推進するサービスモデル の構築や提案が可能な人材へと発展することが望まれる。筆者 としては,これらが「地域で活動する理学療法士に求められる もの」と考える。 文 献 1) 厚生労働省 社会保障改革で目指す将来像(案).http://www. mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001v71u.html(2013 年 10 月 1 日 引用) 2) 森本 榮:理学療法 MOOK10 高齢者の理学療法(第 2 版).三 輪書店,東京,2011,pp. 4‒9. 3) 訪問リハビリテーションセンター清雅苑:図説 訪問リハビリ テーション 生活再建と QOL 向上.三輪書店,東京,2013,pp. 12‒13. 4) 公益社団法人日本理学療法士協会:グランドデザイン作成委員会 資料. 図 10 地域自立支援拠点