Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
生
物
の
形
態
と 人
工
物
の
か た ち
Biomimetics and
Organic
Style
山 中 俊 治
リ
ー
ディング・
エ ッジ・
デ ザイ ンYAMANAKA
Shunji
Leading[≡dge Design1
,
機 能 模 倣 と形 態 引用ロボテ ィクスが
、
基 本 的に 生命 から学んだ、
ある いは生 物に触発 さ れ た技術
で あ る こと は問 違いな い。
し か し、
これ を社 会 化す る に あ たっ て、
私た ち は 基礎 技 術と して の 生命 模 倣と文 化 的な価 値 創 造 (デ ザイ ン)のため の形態の引用 を慎 重に区別 する 必 要が あるよ うに思うnデ ザインに お け る 生物のか た ちの 引用は
一
般 的な もので あ る。
特 定の生 物 を意 図して いな くても、
デ ザイナー
一
の基 礎 的な造形感 覚と し て、
自 然の 形 態 は 模倣 さ れ る。
例えば 「臼然 な曲 面の つな が り1
と い う よ うな記 述における 「自然」は、
お おむね、
生 物の形態に共通する有機 的 連 続 性を意図す る もの で ある。
しか し言う までも な く、
こ のよ う な造形 上の 引 用 は、
いわ ゆ る 生物 模 倣工学に あ る よ う な機 能 的 な模 倣では ない。
乗 川 申:の フェ ンダー
が 力強く見え た と しても と して も、
そ れ を支え る サ ス ペ ン ショ ン の構 造と は関 係が ない。
比 較 的 美 的 直 観の 有 効なエ アロダイナ ミ ク ス におい てさ え、
有 機 的フ ォ ル ム と 低 ドラッ グ は必ず し も 致 しない.
逆に、
生 物か ら学んだ技 術も、
必ずし も生 物 的な イ メー
ジ を 生 み 出 す訳で は ない。
例え ば、
言 葉を扱 うソ フ トウェ ア技 術の少 な くないものは 入工知 能 研 究の成果で あ り、
人の思考を模倣 し た技 術で あ る。
機 能 的には、
人の持つ 認 知 や 学 習の構 造 が 反 映さ れ て い る。
し か し、
応用さ れ た成果物は、
フ ィク ショ ン に登場 するような 人 と 対話する巨 大な電子 頭 脳で は な かっ た。製
品 化 さ れ た検 索エ ン ジ ン や か な漢字
変 換プロセ ッサ は優 秀な道 具であっ て、
な ん ら 人間 臭さ を感じ る もの で は ない。
生 命模 倣 技 術とデザ イン の関係を 語る ときに、
生 物の 機 能を学 びな が ら技 術を 発 展 さ せ るこ と と、
美 的 観 点か ら 形 態 を 引用す ることの 差 は慎 重に意 識さ れな ければ な らない と考 える。
特に 「機 能 美 1 とい うこと につ いて考え る と き、
生物に あっ て は合理的 な か た ち が、
人 工物に とっ て は しばしば 非 合理であ るこ と に留 意 すべ き で あ る。
2 .
フ ィク ショ ン にお け るア ナロジー
ロ ボッ トは、
既に50
年 以 上フ ィク ションの 世 界の もの と してデ ザ インさ れ て き た、
、
この ことが 今日の ロボッ トの デ ザインに深く影 響を与えて い る。
未 来 ロボッ ト技 術 研 究セ ンター
の古出 は 「ロ ボッ トと は セ ン サー
と動 力とコ ンピュー
タ が組 合わ さっ たマ シ ンの こと」 と定 義す る が、
こう した幅 広い視 野の定 義と、
人々 の夢見る 「ロボッ ト」 との乖 離は大きい。
フ でク シ ョシの 中で、
あ まりに も.
多くの 「生物型マ シン 1 が 消費さ れてき た か らで あ る。
図1 ヒュー
マ ノ イ ド・
インス タレー
ショ ン’
℃yclops”
2〔l SPEC]ALISSUEOFJSSDVel.
12N 【).
4200S テ ザ イ ン 学 研 究 特 集 号 N工 工一
Eleotronio LibraryJapanese Society for the Science of Design
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未 知の機 械の姿を生物の アナロジ
ー
で想 像をめぐ らすこ と は、
ロボッ ト以前に も多
く見られ た。
例え ば、
ラ イ ト兄 弟が実 際の飛 行 機を 飛 ば す 以前には、
空 を飛ぶ機 械の ほ と ん ど は 「烏」 の姿が そのま ま引 用さ れたe しか し、
実 際に作っ てみる と、
素 材、
構 造、
動JJ
の 違い は、
航 空 機の デザ イン と鳥の デザ インに 様 々な 相 違 を 生み出 し た。
指の 骨 格か ら進化した鳥 の翼と、
モ ノコ ック構 造で作られる翼の形状の違い、
羽 ばたき翼 と固定 翼、
筋 肉というボリュー
ムの代わ り に存 在す る巨 大な回 転 推 進 機。
垂直 尾 翼な ど。
翼と胴 体からなる基 本形態を抽 象的に見 れ ば、
鳥 も 航 空 機 も 大 き な 差 は ない と も言え る が、
航 空機 技 術の 発展は、
ま さ に鳥の ディ テ ィー
ルの 排 除で あっ た と言える.
回転 機 構を主 構 造 体とするヘ リコ プター
は、
か た ちの上では、
さら に生 物か ら離れ た ものである。
そ も そ も プロ ペ ラや車 輪の よ うな回転 機 構 は 生 物 界に は ほ と んど存 在し ない。
生化学を某 礎と し て、
成長 という か た ち で 形 成 さ れ る 生物の 体に は、
物 質の伝 送や 交換
ができる連 続 性は 必須である。
それ故に、
物 理 的に途 切れ て しまう連 続 回 転 機 構 は、
一
部の微 生 物をのぞい て は存 在で き な かっ た。
人 工物 特 有の 技 術で あ る 回転
機 構を 主機
能と し たヘ リコ プター
に は模 範と な る 生物はいない。
ス テル ス機の よ う に、
生 物の感 知 しない領 域の電 磁波
を 対象
にす れ ば鳥
と航空機の 共通 基 盤であった流 体 力 学 的 常 識を さ え 打ち破る形 態が生 ま れる。 ロ ボッ トのデ ザイン におい ても同様の こ と が言え る。
フ でク ションの 中 に 登 場 す るロボッ トのデ ザイ ンに は、
お お む ね 人の 美し さ が反 映さ れ ている。
ア ニ メー
ショ ンに 登場する ロボ ッ トの デザインを よ く 見る と、
機 械の様 式で覆わ れて い る もの の、
ボ リュー
ムや プロ ポー
シ ョンの 取り方は肉体 美の 引用であ る。
分 厚い胸、
小さな 頭、
た く ま しい肩と大腿.
引 き締
まった ウエ ス トな ど、鍛
えL
げられ た 人間の姿
が テ フ ォ ル メさ れて い る。 しか し、
実 際にロボッ トを製 作 する ときには、
こ のようにデ ザインされるべ き で はない。
モー
ター
や エ ン ジ ン な ど既存ア クチュ エー
タ を基 礎と す る な ら ば.
つ まり生 物 と 同 じ よ う な筋 肉 組 織を基礎 技 術と し て使うの でな け れば 引用さ れ る筋 肉美に工学 的 な合
理性
は ない。
よ う や く 人の歩行を動 的にま ね ら れるよ うになっ たロ ボッ トが 人の機 能 か ら学 ぶ 段階 を 超えて、 「人の かた ち」か ら離れ は じ め るの はこ れ か らであ る。
3 .
ヒュー
マ ノ イ ド のデザ イン 鳥を模 倣 した 飛行機と、
類 似 する生物の いないヘ リ コ プター
の両方
を、
ダ・
ヴィ ンチ はスケッチ と し てi
年 き残した。
ど ち らか が正 しい訳ではない。
私たちも、
生 物に似た ものを作り、
生物に学 びな が ら、一
方で 生 物の形態か らの脱 却を試み る ことになるだろ う。 研 究 用ヒュー
マ ノイ ドは人の骨 格 構 造を模 倣して い る。
こ れ は 「学び」 と し て必 要 な こ と で ある。
私 た ち は 人の歩 行を 再 現 するこ とによっ て、
動 的に姿 勢を制御
する方
法を学んだ。ZMP
((ゼ ロ・
モー
メ ン ト・
ポイ ン ト)という よ う な動 的 制御
のた めの某 本 概念 もこう し た模 倣か ら得ら れ た もの である。
同 様に多モー
ター
の協 調 制 御、
高 トル クの リ アル タ イ ム制 御、
画像 処埋 と認知、
人とマ シ ン のインタ ラク ションな ど、
ヒュー
マ ノ イ ドか ら得られ た 研究 成 果 は枚挙 にいと ま が ない。
美 的 観点か ら も ヒュー
マ ノイドは 弔 要である。
生命 の動 作 をマ シ ン で再 現する ことによっ て、
私たちが美 しい と感
じる も の のエ レ メ ン トを新
し い アプロー
チで 探る こと ができる。 芸術 家達はこれまで も彫刻や絵画 のよ うな 静 的な 世界
の中
で人のか た ちの美し さ を研 究 し、
近代に 入って か ら は、
映像
の中
でダ イナミズム を 追 求して き た。
そ して今や物 理 的な実 体と して生 命の 反応 や 動作を再現し、
美しい仕 苧:や リア ク ションを抽 出する ことが可能になっ たの である。 し か し研究や芸 術に お い て ヒュー
マ ノ イ ドが 有 用 である と し て も、
生 活空間におい て ロボッ トに仕 事 や家事
をf
一
伝
わ せ よ う とす る な ら、
人のかたち は適 切で は な い。
合 目的 的に考え れば、
モー
ター
と金属 や プラ ス チッ ク に ふ さ わ しい関 節構
造は、筋
肉と活 性 組 織のた め に自然が採用 し た もの と は まっ た く異 な る もの に な る。
さ ら に情 報 技 術の視 点で見れ ば ネ ッ トワー
クに接 続 されたロ ボッ トは、
生物
のよ う に 個 体と し て制御可 能 領 域 を 限 定 す る 必要も ない。
デ ザ イ ン 学 研 究 特 集 号 SPECiALI ∬UEC )卜亅SSDVし}LI2N 〔〕420〔,5 21
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j59
ロ ボティ ク ス を 応 用した 美しい空 間 を作るため に は、
既 存の生 物の概
念か ら離れ ること も重要
であ る。
今の所、
ヒュー
マ ノイ ドが 人のか たちのま ま 製 品 化され る機 能 的な可 能 性が ある とすれば、
人の話し相
手と して で あ る。
実用的
な自
然言
語対 話 を可 能に する 人Il
知能技
術が完 成し てい ない現 状で は、
鳥を 見て 飛 行 機 械を想 像 する以上の議 論はむ ず かしい が、
少な く と も、
現 状のコ ンピュー
タ 周 りのイ ン タ フェー
スに おいて は、
対 話型 な どの擬人化され た操 作 系は決 して高効 率 とは言 えない。 そのため、
イン ス トー
ルガイ ドな ど、
ごく 部の用途に限定さ れ て い る。
4
.
3
つ のロボッ ト・
プロジェク ト以 下に私 自身が携わっ てい るロ ボッ トに関するプ ロ ジェ ク トを紹 介 する
。
いず れ も生 物 模 倣であると 同 時に、
生物の形態
か ら脱却
する試
み で もある。
Cyclops
一
睥 睨 する 巨 人 (図1
およ び図2
)東 京 大 学の
情
報シ ス テ ム研究
室に よ る 「背 骨を持 つ ロボ ッ トの研 究」をベー
スに作られ た展 覧 会用の作 品。 元の研 究が純粋に機 能と して の背 骨の研 究で あ る の に対 し、
こ こ で は、
脊椎 と視 線と言う知 的 生 物の エ レ メン トが 人 に も た らす心 理効果に注目し て い る。
球 体 関 節を 重 ね た背 骨の周り に は
、
空気
圧 で駆 動 図2 来 場 者 と視 線を交わ すCyclops2002年 か ら オ
ー
ス トリ ア のArs Electronica Centerに常 設 展 示さ れ、
2005年 愛 知 万博に も出品 さ れ ている22 SPEC【ALISSUE OFJSSD VoLt2No
,
42005.
デザ イン学 研 究 特 集 号さ れ るエ ア
・
マ ッスルが 約30
本 配 置さ れて い る。
頭 部に搭 載 され たCCD
カメ ラの画 像を解 析 して、
人の サ イズの動く物を抽出 し、
ゆっ た り と 滑 ら か な 動 き で来 場 者 を 目で追う。
画像 処理技 術と して は追 尾 型の 監 視カメ ラ程 度の 認識が行 われて い る に過ぎ ないが、
来 場 者はそ こ に、
知 性のイ リュー
ジョ ン を見て、
身 振 り手振 りで語り かける。
将 来のロボ ッ ト と 人の交流 を考え る時、
微 妙 な 姿 勢の変 化や視 線 が 知 性のインディケー
ショ ン と な る 可能 性を 示 し ている。
形態は き わ めて生 物 的 では あ るが、
か た ち を見せ かけよ う と して い るの で はな く、
エ レ メ ン トの抽出によっ て人 ら し さ を際 立 たせ て い る。
ヒュー
マ ノイド・
デ ザ インに お け る 「抽 図3 小 型ヒュー
マ ノイ ドロボッ トmorph3 人工知 能研 究のプ ラットフ ォー
ム と し て 開 発 さ れ た身長約 38センチ、
2.
4kgの 小 型 ヒュー
マ ノイ ド。
高い 運 動 性と可 動 範囲の広い関 節を特 徴と する。 象」 の実 践で あ る。
小 型ヒュー
マノイドmorph3(
図3
)
N工 工一
Eleotronio LibraryJapanese Society for the Science of Design
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科 学 技 術 振 興 機 構の北 野
、
未 来ロボッ ト技 術研究 センター
の 古田 ら との 共同研 究、 人工知 能 研 究の プラ ッ トフ ォー
ム と し て開発 さ れ た身 長 約38
セ ン チ、2.
4kg
の小型ヒュー
マ ノ イ ドで あ る.
主構 造体
に は ジュ ラ ル ミ ンを使用 し、30
個の モー
ター
と138
個の セ ンサを内 蔵、
従来
に ない 高い 機 動 性と広 範 な 口働 範囲 を実 現して い る。
プロ ジェ ク トはロ ボッ トの重 要 な 構 成 要 素で ある モー
ター
を、
機 能と美 的 観 点か らモジュー
ル と し て 設 計す る ところ か ら ス ター
トして い る。 セ ンサー
と ギ ヤ を組み込ん だモー
ター
モ ジュー
ル を、
構 造 体と して 繰 り返 し使用するこ と により、
ロボテ ィクス上 の構 造 美を模 索してい る。
プラス チッ クの シ ェル は 某 本 的に サ テ ライ トCPU
の保 護カバー
で あ る と 同時 に触 覚センサー
にもなっ て い る。
[学 的な研 究目 的 と し て は 人体の運 動 制 御 機 能の 模 倣で あるが
、
デ ザ イン の視 点か ら は筋 肉 美の 引 用 か らの 脱却
が 目標であっ た。
Hallucigenia
Ol (
図4
お よび図5 )
ハ ル キゲニ ア・
プロ ジェ ク トは臼動 中:技 術とロ ボ テ でクス の融 合を目指すプロ ジェ ク トである。
小径 のホ イー
ルにセンサとモー
ター
とコ ンピュー
タ を組 み込ん で脚モジュー
ル とする。
脚モ ジュー
ル は、
そ れ臼体が4
つ の モー
ター
を持つ 自 由度の高い小 さ な ロボ ッ トで あ る。
そ れ ら を ネッ ト ワー
クでつ ない で 協調動 作させ る こと に よ り、
多 数の ロボッ トに 支 え ら れ た一
つ の 乗 用車がで き あ がる。
8
輪の1
/5
ス ケー
ル の実 験 試 作ill:を製
作し、
その 場で回転する、
真 横や斜め に滑るよ うに動く、
歩 く、
車 体を傾けず に段差 や 坂 をE
る などの動き を実 現 して い る。実用 的 な 囗標と しては
、
既 存の4
輪
乗 用 中:が う ま く 機能で き な くなっ て し まっ た都 市 内を自由に動 き 回れ る 中:を想定している が、
プロジェ クトの ベー
シックな 動機は技 術コン セ プ トの提 示であ り、
組み込 まれ た 小 さ なロボッ ト群の 協調 と冗R
・
b
’k
が もたらす トラ ン スポー
テー
ショ ン の可能1
生を模索す る こ とで あ る。
乗 用車のデ ザイ ン は20
世 紀に最も発達し、
既に成 熟し た文化で あ る が、一方
で 近年は や や閉塞 感があ る。
ロボテ ィ ク スが トラ ン スポー
テー
シ ョ ンに まっ 【参 考文 献 】 1) 山中俊治:11フユー
チ ャー・
スタ イル”
ア ス キー
出 版、
1998 2) 古田貴 之:”
morph3 :全 身 運 動が生成 可 能な小型ロボッ トシス テム”
日本 機械 学 会ロボテ ィクス・
メカ トロニ クス講 演 会 論 文 集、
2003 3) 山中俊 治 :IIロボッ トのい る風 景”
季 干lldtSIGN、
No.
7、
p85、
太 田出 版、
2004 4) 山中俊治:“
人の か たちの人工物”
日本ロボ ン ト学会 誌228巻8 号、
2004 写真 撮 影 :清 水 行 雄 (図2を除 く) 図4お よび図5 実 験試作車 Hallucigenia Ol そ れ ぞ れに セ ンサー
と制御コ ンピュー
タ を持つ 脚モ ジュー
ルが協 調 動 作を す る 事によって、
多 彩 で 柔 軟 な 移 動 を 可 能 に す る。
デ ザ イン学 研 究 特集号 SPECIAL 【SSUE OF JSSD Vol