日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 27, No. 1, 100-110, 2013
*国立看護大学校(National College of Nursing, Japan)
2012年6月11日受付 2013年1月29日採用
資 料
生体インピーダンス法による体水分と
妊娠・分娩異常との関連:パイロット・スタディ
The relationship between maternal hydration status
and negative pregnancy outcomes using
bioelectrical impedance analysis: A pilot study
中 田 かおり(Kaori NAKADA)
* 抄 録 目 的 生体インピーダンス法による妊婦の体水分をあらわす測定指標と,妊娠・分娩異常との関連を探索す る。 対象と方法 妊娠28週から30週の健康な単胎妊婦を対象とした。データ収集は,①妊娠28∼30週,②32∼34週, ③36∼39週,の3回,妊婦健康診査時に実施した。インピーダンス(以下,Imp)の測定には,マルチ周 波数体組成計を使用した。妊婦の体水分と関連のある生理学的検査値と妊娠・分娩経過に関するデータ は,質問紙と診療録レビューにより収集した。 結 果 研究協力の承諾を得られた30名の内,研究参加中断の申し出のあった1名を除外した29名を分析対象 とした。 Impと生理学的検査値との関連を分析した結果,妊娠28∼30週の合成インピーダンス(Z)が低いほど, 体重が重かった(r=0.415,p<0.05)。妊娠32∼34週では,Zが高いほどヘマトクリット値(Hct)が高 く(r=0.388,p<0.05),脈圧が大きかった(r=0.464,p<0.05)。Impと妊娠・分娩経過との関連を分 析した結果,分娩時に「微弱陣痛」と診断された群(4名)は,そうでなかった群よりもZの平均値が有意 に高かった(p<0.05)。「予定日超過(妊娠41週以降)」であった群(4名)(p<0.05)と「分娩後2時間値血 圧130/85mmHg以上」であった群(5名)は,そうでなかった群よりもZの平均値が有意に低かった(p< 0.01)。また,これらの異常を発症しなかった群のZは,500Ω前後あるいは520Ω前後で推移していた。 このことから,妊娠・分娩異常を発症しにくいZの基準域が存在する可能性が示唆された。 結 論 Impと体水分に関連した生理学的検査値および,特定の妊娠・分娩異常との関連性が示唆された。ま たZには,異常を発症しにくい基準域が存在する可能性も示唆された。今後,研究方法と分析する変数 を精選し,対象数を増やしてこれらの関連性と健康な妊娠・分娩経過につながる指標を探索する,基礎研究が必要である。
キーワード:生体インピーダンス,妊婦,体水分,妊娠・分娩異常
Abstract Purpose
The purpose of this study is to explore the relationships between maternal hydration status and negative preg-nancy outcomes using bioelectrical impedance analysis.
Methods
The participants were healthy singleton pregnant women between the 28th to 30th weeks of gestation. Data col-lection was conducted during prenatal visits three times: 28-30 weeks, 32-34 weeks, and 36-39 weeks. Bioelectrical impedance measurements were performed using a tetrapolar multifrequency impedance analyzer. Data regarding the results of prenatal visits and pregnancy outcomes were collected by a self-reported questionnaire and medical chart review.
Results
Initially, 30 women volunteered to participate in the longitudinal study though, one of the participants withdrew for personal reasons. Thus, data from 29 participants were analyzed.
The results of prenatal visits which relate to the impedance (Z) were maternal weight, hematocrit values, and pulse pressure. During 28-30 weeks of gestation, lower Z correlated to higher maternal weight (r=-0.415, p<0.05). For 32-34 weeks of gestation, higher Z correlated to higher hematocrit values (r=0.388, p<0.05) and higher pulse pressure (r=0.464, p<0.05).
Examining the relationship between Z and pregnancy outcomes, higher average Z was measured in the group of women who experienced inadequate uterine contractions than women who did not (N=4, p<0.05). The lower average Z was detected in women who delivered after 41 weeks of gestation (N=4, p<0.05) and in those who had episodes of higher blood pressure (130mmHg< of systolic pressure and/or 85mmHg< of diastolic pressure) 2 hours after their deliveries (N=5, p<0.01). The average Z were measured around 500Ω or 520Ω in women who did not experience those negative outcomes. Thus, there is a possibility for a range of Z for pregnant women that indicates negative pregnancy outcomes.
Conclusions
Possible correlations of impedance values with the check-up results of prenatal visits and negative pregnancy outcomes were found in this study. Also suggested is a possibility for a range of Z during pregnancy that does not lead to negative pregnancy outcomes. Further studies with more elaborate study designs and larger sample sizes are needed to verify these findings.
Keywords: bioimpedance, pregnancy, body water, pregnancy outcomes
Ⅰ.緒 言
1.研究の背景 現在,妊婦への保健指導の一つとして,非妊時より も多めの水分摂取が推奨されている。しかし,研究成 果に基づいたガイドラインは示されていない。妊婦の 循環血液量は,血液と血漿量の増加によって非妊時よ りも約30%から40%増加する(Blackburn, 2007)。こ の増加のピークは,妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病, 貧血など,妊娠期特有の合併症が最も心配される時期 である。このことから,妊婦の循環血液量の変化を適 切に促進することができれば,妊娠・分娩期の健康に つながるのではないか,と考えた。 妊婦の水分補給・補液とその臨床的な効果・影響に ついて,中田(2010)は83の文献を検討した。その結果, 妊婦の積極的な水分摂取・補液と羊水量増加との関連 が示されたが,それ以外の臨床効果はみとめられなか った。妊婦の体水分バランスを目的とした水分摂取の 実態に関する研究成果もみつからなかった。また,母 体循環動態の測定・評価についても,臨床での適用が 可能な標準化された測定方法はみとめられなかった。 体水分の測定・評価に関する研究の内,非侵襲的な 方法に関する研究論文を検討したところ,体水分測 定方法の信頼性/妥当性を検討する研究が複数みと められた(Gleichauf & Roe, 1989; Lof & Forsum, 2004; Lukaski, Siders, Nilsen, et al., 1994; Lukaski, Hall, & Siders, 2007; Meguid, Lukaski, Tripp, et al., 1992; Shan-holtzer & Patterson, 2003)。しかし,体水分の評価・2002;Lukaski, Hall, Siders, et al., 2007;上田・丸尾・ 足高,2002;Valensise, Andreoli, Lello, et al., 2000)。 周産期以外の領域では,脱水や水分過剰など,体水 分量のアンバランスによる健康へのさまざまな影響 が報告されており,体水分を適正に保つことの重要 性が示されている(Sarvazyan, Tatarinov, & Sarvazyan, 2005)。しかし,体水分のバランス状態を表す浮腫や 脱水などの用語に統一した定義や指標は示されてお らず(Shanholtzer & Patterson, 2003),妊娠期の体水 分のバランス状態も定義されていない。また,体水 分量の変化による生理的・精神的影響に関する研究 は,体水分量測定にかかる多大な経済的・時間的負担 と技術的限界により,ごく限られているのが現状であ る(Armstrong, 2007)。そのため,妊娠期の水分管理 のあり方を検討するためには,妊婦の体水分の評価方 法を妊娠・分娩経過との関連から探索する必要がある と考えた。生体インピーダンス法は,さまざまな指標 を用いた測定可能性が検討されている段階であるため, この方法による妊婦の体水分の評価が可能か,検討す る必要がある。 2.研究の目的 生体インピーダンス法による妊婦の体水分をあらわ す測定指標と,妊娠・分娩異常との関連を探索する。
Ⅱ.研 究 方 法
1.データ収集期間 データ収集期間は,2010年10月から2011年2月の5 ヶ月間であった。 2.対象 調査の対象は,測定値への影響を考慮し,1回目の 測定時に,①妊娠28週から30週の単胎妊娠,②医学 的合併症がない,③長期服薬治療中でない(鉄剤,ビ タミン剤を除く),④年齢30∼40歳,さらに,体型(人 種)による影響を抑制するため,⑤日本語に習熟した 東アジア人女性,⑥非妊娠時のBody Mass Index(体 重(kg)/身長(m)2,以下BMI)正常(18.5以上25.0未満), の条件を満たす,研究協力施設で分娩予定の妊婦とし た。 対象の人数は,生体インピーダンス法での測定可能 性を検討する予備調査として,30名程度とした。デー タ収集は,妊婦健康診査から分娩までのケアを実施し アウトカム指標は,研究ごとで測定した値の信頼性や 妥当性を示しながら結果を述べており,体水分の状態 (hydration status)をあらわす統一した数値基準はみ とめられなかった。このことから,体水分の測定方法 は,未だ大きな研究課題であることが示唆された。 非侵襲的な体水分の測定・評価方法として,ヘモ グロビン値(以下,Hb),ヘマトクリット値(以下, Hct),を用いた血漿量の測定,尿比重,などのほかに, 生体インピーダンス法を用いた研究が検索された。生 体インピーダンス法は,生体に微弱な高周波電流を通 じ伝導部位の電気抵抗(インピーダンス(impedance), 以下Imp)を測定して,そのImpの変化から体構成成 分を測定する方法である。安全で簡便な体組成推定方 法の一つとして,国内外で広く注目されている。水 分・電解質をほとんど含まない脂肪組織はImpが高く, 7割以上は電解質を含む水分で構成される除脂肪組織 では,Impは低くなる(西澤・佐藤・池田,2007)。そ のため,脱水ではImpは高くなり,浮腫や筋肉質の状 態でImp値は低くなる。妊娠期のImpは,週数ととも に低下することが報告されている(上田・丸尾・足高, 2002)。 Impは,レジスタンス(以下,R),リアクタンス(以 下,Xc),の2成分からなり,RとXcの二乗の和の平 方根( R2+Xc2 )がImpあるいは合成インピーダンス(以 下,Z)である(阪本・佐藤・池田,2003)。Lukaski, Siders, Nilsen et al.(1994)は,妊娠期間中の体水分量 とその変化に適した推定指標として,R,Xc,インピー ダンス指数(身長(cm)の2乗をレジスタンス値で除し たもの(H2/R),以下Imp指数)を挙げ,中で最も適切 なのは,Imp指数,と述べている。しかしその測定値 は,年齢や人種,気温などさまざまな要因の影響を受 けやすく,数値の標準化はされていない。また,生体 インピーダンス法では直接体組成を測定できないため, Impを用いた体組成推定式が数多く提案されている が,いずれも標準化はされていない(Chumlea & Sun, 2005)。非侵襲的で簡便な測定方法として,臨床にお ける栄養・体組成・体水分量評価への利用可能性がさ まざまに模索されているところである。周産期も例外 ではなく,生体インピーダンス法を用いた妊婦,褥婦 の体組成の評価は興味深いテーマである。現在のと ころ,生体インピーダンス法の妊婦や胎児への影響は 報告されておらず,妊娠期の使用も安全とされている ことから,妊婦を対象とした研究も国内外で行われて いる(有澤・福庭・関他,1996;木部・浅井・斉藤他,ている産科施設で,研究協力に同意を得られた1施設 で実施した。 3.研究デザイン 妊娠中の体水分測定指標の変化とそのアウトカムを 検討する必要があるため,前向きコホート研究とした (図1)。測定時期は,妊婦の生理的変化から体水分量 の変化がもっとも著しいと思われる,妊娠28週から34 週に実施されること,先行研究より,浮腫が出現する 妊婦は30週以降に急激なImpの変化を示していること から(Morita, Takeuchi, Funakoshi, et al., 1999;上田・ 丸尾・足高,2002),妊娠30週前後での変化が測定で きることが必要と考えた。そのため,1回目の測定を 妊娠28∼30週,2回目の測定を32∼34週,3回目の測 定を36∼39週に実施した。 4.調査内容とデータ収集方法 Impは,日本人の体型(人種)に合わせて開発された マルチ周波数体組成計(タニタ体組成計MC-190EM)1 台を用い,測定電流300μA以下で,RとXcを測定した。 測定条件は,①測定時間を午前9時から12時の間 とする,②飲食から2時間以上経過してから測定する, ③測定前に排泄をすます,④体水分分布を一定にする ため,測定前にベッドあるいはソファに20分間セミ ファウラー位で休んでもらう,とした。 対象の基礎データは,作成した質問紙により情報を 収集した。データ項目は,年齢,妊娠週数,分娩予定日, 産歴,体型,妊娠合併症の有無,服薬・治療の有無, Impに影響すると考えられる排泄,飲食の時間,活動 などで,先行研究で検討されていた交絡因子を参考に した。妊娠中の体水分に関する生理学的検査値(体重, 血圧,Hb,Hct)は,診療録レビューにより情報を収 集した。妊娠中の異常・マイナートラブルは,主要な 産科学テキストに掲載されている妊娠中にしばしばみ とめられる代表的な合併症とマイナートラブルを選択 肢として列挙し,さらに自由記載欄を設けた。分娩ア ウトカム(分娩後の血圧,出生体重,分娩時妊娠週数, 分娩所要時間,分娩時出血量,分娩様式,陣痛誘発/ 促進剤の使用)に関する情報は,診療録レビューによ り収集した。 5.調査手順 産科外来の健康診査予約票からリクルート対象の妊 婦を抽出した。対象妊婦が定期健康診査に訪れた際に, 調査目的を口頭と文書にて説明し,同意を得られた妊 婦を対象に調査を行った。診察の待ち時間あるいは診
インピーダンス指標
妊娠中の生理学的検査値 (体重,Bp,Hb・Hct) 分娩アウトカム 対象の基礎データ①
②
③
妊娠中の異常・ マイナートラブル 測定 診療録レビュー 4週間 リクルート 妊娠28∼30週 妊娠32∼34週 分娩 妊娠36∼39週 分析枠組み 調査ス ケ ジ ュ ー ル 図1 本研究の分析枠組みと調査スケジュール察終了後に20分間,診察ベッド上にセミファーラー位 で休んでもらい,その間に質問紙への回答と腋窩体温 の測定を依頼した。質問紙回収の際に,記載内容の確 認を行った。セミファーラー位での休憩20分後に,体 組成計でImpの測定を行った。妊婦健康診査の検査デー タ(体重,血圧,Hb,Hct)は診療録と母子健康手帳か ら収集した。上記内容を,1回目は妊娠28∼30週,2回 目は妊娠32∼34週,3回目は妊娠36∼39週の間,の合 計3回実施した。分娩アウトカムに関する情報は,対 象者の出産後に診療録レビューにより収集した(図1)。 6.分析方法 各変数の基本統計量を算出した後,分析枠組み(図 1)に沿って各変数間の相関係数を算出した。分析し たインピーダンス指標(以下Imp指標)は,R,Xc,Z, Imp指数,である。ZとImp指数は,測定したRとXc から算出した。 また,妊娠期間中の異常・マイナートラブル,分娩 アウトカムごとにサブグループに分類し,反復測定の 分散分析を行った。統計分析には,統計ソフトSPSS ver.19.0を使用した。 7.倫理的配慮 研究参加への同意を得る際に,口頭と文書で研究目 的と方法について説明し,研究への参加が自由意思に 基づくものであること,また研究への不参加によって なんら不利益をもたらすことがないこと,研究への参 加に同意した後であっても,参加をとりやめることが でき,その際もなんら不利益を被ることがないことを 説明した。また,研究データの使用目的と管理,守秘 義務の遵守について説明した。研究参加への同意は同 意書への署名によって確認した。参加への強制が働く リスクを回避するため,研究に関する説明は,研究者 本人が実施した。本研究は,聖路加看護大学研究倫理 審査委員会(承認番号10-030)および独立行政法人国 立国際医療研究センター倫理委員会(承認番号891)の 承認を得て実施した。
Ⅲ.結 果
調査した変数の記述統計および,これらの変数と測 定したImpとの関連について述べる。 1.記述統計 1 ) 対象の基礎情報 リクルート期間は2010年10月1日から12月7日(分 娩予定日2010年12月7日∼2011年2月18日)で,リク ルート対象者44名中,30名から研究協力の承諾を得た。 内,研究参加中断の申し出のあった1名を除外し,29 名を分析対象とした。29名の内,すべての測定を完了 した対象は,26名であった。 対象妊婦の平均年齢は,34.1(SD=2.4)歳,初経産 の内訳は,初産婦15名,経産婦14名であった。非妊 時BMIの平均は20.9(SD=1.6),平均身長は158.9cm (SD=4.9)であった(表1)。 2 ) Imp指標 3回ともImpを測定できた対象は,26名であった。 欠損値のあった対象3名の欠損理由は,疲労感のため 2回目の測定ができなかった(1名),日程が合わず3回 目の測定ができなかった(1名),33週に前期破水で他 施設に母体搬送となったため3回目以降のデータ収集 ができなかった(1名),であった。ここでは,先行研 究でもっとも多く検討されている周波数50kHzで測定 したRとXc(両足間)によって算出したZとImp指数に ついて述べる。 3回の測定によって算出されたZの平均値は,500∼ 510Ω(オーム)前後,Imp指数は,50前後であった(表 2)。今回の調査で得られたZの平均値は,上田・丸尾 ・足髙(2002)が図示している妊婦(BMI 18以上24未 満)のImp平均値の標準偏差の範囲に含まれていた。 3 ) 妊娠中の生理学的検査値 妊娠中の体水分に関する生理学的検査値として,体 重,血圧,Hb,Hctを調査した(表3)。分娩後データ まで追跡した28名の総体重増加量の平均は,9.9(SD =2.8,最小値4.0,最大値14.4)kgであった。 血圧の平均値は,妊娠期間を通して収縮期・拡張期 とも初診時より上昇した。初診時の値を基点とした各 測定時点における平均血圧上昇値をみてみると,妊 娠期間中の収縮期血圧(systolic blood pressure,以下表1 対象の基礎データ(N=29) 平均値 SD 最小値〜最大値 年齢(歳) 34.1 2.4 30∼40 非妊時BMI* 20.9 1.6 19.1∼24.9 身長(cm) 158.9 4.9 145∼169 非妊時体重(kg) 52.8 5.0 46.0∼64.0
SBP)の平均上昇値は,2.3∼5.2mmHgであったのに対 し,拡張期血圧(diastolic blood pressure,以下DBP) の平均上昇値は,2.2∼3.7mmHgであった。脈圧(SBP-DBP)の平均値は,初診時約44mmHg,妊娠期間中は, 43∼46mmHgであった。 Hb,Hctは,妊娠期に3回検査されたが,Imp測定 日と異なっており,1回目は妊娠10∼12週,2回目は妊 娠26∼28週,3回目は34∼35週に実施された。妊娠初 期(10∼12週)のHbが12.0g/dl(非妊時女性の正常値 12.0∼16.0g/dl)に満たない対象は6名であったが,い ずれも11.0g/dl代であった。妊娠初期(10∼12週)の Hctが35%(非妊時女性の正常値35∼44%)に満たなか った対象は2名であったが,いずれも34%代であった。 4 ) 妊娠中の異常・マイナートラブル 今回の調査でみとめられた妊婦の異常は,貧血(Hb 11.0g/dl未満,および/またはHct 33%未満)(16名), 胎位異常(8名),切迫早産(5名),カンジダ感染(2名), 妊娠糖尿病(1名),早産期前期破水(1名,診断後母体 搬送),であった。 妊娠高血圧症候群を発症した対象はいなかった。し かし,妊娠期間中の3回の測定で,正常高値血圧の基 準値とされている,130/85mmHg(日本高血圧学会, 2008)を,収縮期あるいは拡張期いずれか1回でも超 えたことのある対象は,9名であった。 調査期間中に訴えのあった妊娠中のマイナートラブ ルは,便秘10名,頭痛1名であった。 5 ) 分娩アウトカム 分娩アウトカムのデータ収集が可能であった28名 中,経膣分娩は25名,帝王切開(胎位異常による予定 帝王切開)は3名であった。児の出生体重は,すべて 2500g以 上4000g未 満(平 均2977g,SD=341g, 最 大 値3668g,最小値2522g)であった。 表2 インピーダンス指標(Imp指標) 記述統計 測定1回目 (妊娠28〜30週) N=29 測定2回目 (妊娠32〜34週) N=28 測定3回目 (妊娠36〜39週) N=26 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD R(Ω) 512.2 49.8 500.1 54.5 501.4 57.2 Xc(Ω) 42.7 6.8 41.2 7.3 41.5 7.6 Z( R2+Xc2 ) 514.0 50.0 501.8 54.8 503.2 57.6 Imp指数(身長(cm)2/R) 49.8 6.4 51.3 7.0 51.0 8.0 R=レジスタンス,Xc=リアクタンス,Z=合成インピーダンス,Imp指数=インピーダンス指数 表3 妊娠中の生理学的検査値 記述統計 初診時b N=28 測定1回目 (妊娠28〜30週) N=29 測定2回目 (妊娠32〜34週) N=28 測定3回目 (妊娠36〜39週) N=26 分娩後 2時間値 N=28 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD 体重(kg) 52.8 5.0 59.8 5.2 61.1 5.0 62.6 5.5 NA* NA SBP(mmHg)a 110.8 11.6 113.6 13.2 116.4 11.3 116.6 11.3 120.1 14.3 SBP変化量(mmHg)a NA NA 2.3 12.3 5.0 12.4 5.2 9.8 9.3 16.3 DBP(mmHg)a 66.7 8.4 69.8 8.4 70.7 7.2 72.4 7.4 70.5 10.9 DBP変化量(mmHg)a NA NA 3.0 6.6 3.7 7.8 2.2 17.9 4.1 12.2 脈圧(mmHg)a 44.1 5.7 43.8 6.8 45.8 6.9 44.2 6.2 49.5 9.1 脈圧変化量(mmHg)a NA NA 0.7 8.5 1.3 7.7 1.93 11.2 5.2 11.1 Hb(g/dl)c 12.6 0.8 11.4 0.8 11.4 0.8 NA NA NA NA Hct(%)c 38.0 2.4 34.8 2.4 35.7 2.3 NA NA NA NA a SBP(systolic blood pressure)=収縮期血圧,DBP(diastolic blood pressure)=拡張期血圧,脈圧=収縮期血圧拡張期血圧。 変化量は,各測定時期の測定値と初診時の差
b 体重は,初診時ではなく非妊時(N=29)。 c Hb=ヘモグロビン値,Hct=ヘマトクリット値。
Hb・Hct測定時期は,1回目妊娠10∼12週,2回目は妊娠26∼28週,3回目妊娠34∼35週。 *NA=not available (該当データなし)
分娩経過に何らかの異常が記載された対象は20名 で,内訳は,分娩時出血多量(帝王切開の対象除外) 7名,前期破水5名,微弱陣痛5名,予定日超過(妊娠 41週以降)4名,胎位異常(予定帝王切開)3名,早産 1名,であった。経膣分娩の分娩時総出血量の平均は 402(SD=215)gで,最大値776g,最小値107gであっ た。分娩後2時間値の血圧で,収縮期・拡張期いずれ かの値が130/85mmHgを超えた対象は5名で,内,異 常値(140/90mmHg以上)であった対象は3名であっ た。妊娠期間中に血圧が130/85mmHgを超えた9名の うち,分娩後2時間値でも収縮期・拡張期いずれかの 値が130/85mmHgを超えた対象は1名であった。 2.Imp指標との関連 分析枠組み(図1)に沿って各変数間の相関係数を算 出した。また,妊娠・分娩異常の有無で対象をサブグ ループに分類し,グループ間の平均値を比較した。主 な結果として,①Imp指標と生理学的検査値,②Imp 指標と妊娠・分娩異常との関連,について述べる。 1 ) Imp指標と妊娠期の生理学的検査値との関連 各測定時点でのImp指標と生理学的検査値との相 関係数を算出した。1回目(妊娠28∼30週)に測定し たImpとの関連では,Zと体重,妊娠34週から35週の 間に測定されたHctとの間にそれぞれ相関があり,Z が低いほど,体重が重く(r=0.415,p<0.05),Hct が 低 か っ た(r=0.399,p<0.05)。 ま た,Imp指 数 と,体重との間に正の相関があり,Imp指数が高いほ ど,体重が重くなっていた(r=0.676,p<0.01,図 2-a)。作成した散布図(図2-a)から「はずれ値」と思わ れた2例(1回目のZ値420Ω未満)を除外して同様の分 析をしたところ,Zと体重との相関関係に統計的な有 意性はみとめられなかった(r=0.377,n.s.)が,Imp 指数と体重(r=0.073,p<0.01),Zと妊娠34週から 35週の間に測定されたHctとの相関関係には有意性が 確認された(r=0.404,p<0.05)。 2回目(妊娠32∼34週)に測定したImpとの関連では, Zと脈圧,妊娠34週から35週の間に測定されたHctと の間にそれぞれ相関がみとめられ,Zが高いほど脈圧 が大きく(r=0.464,p<0.05),Hctが高いことが示さ れた(r=0.388,p<0.05)。Imp指数と脈圧との間に も相関があり,Imp指数が高いほど,脈圧が小さくな っていた(r=0.456,p<0.05,図2-b)。また,作成 した散布図から「はずれ値」と思われた2例(2回目の Imp指数が40未満,前述の分析で除外した2例とは別 の症例)を除外して同様の分析をしたところ,Zと妊 娠34週から35週の間に測定されたHctとの相関関係に は有意性がみとめられた(r=0.437,p<0.05)が,脈 圧とZ(r=0.282,n.s.)およびImp指数との相関関係 には有意性はみとめられなかった(r=0.178,n.s.)。 2 ) Imp指標と妊娠・分娩異常との関連 今回の調査で特定された妊娠・分娩異常の有無で, 3回測定したImp指標の平均値の変化を検討するため, 脈圧 Hct Z Im p 指数 Z Im p 指数 体重 Hct a)測定1回目(妊娠28∼30週) b)測定2回目(妊娠32∼34週)
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*p<0.05 **p<0.01 *p<0.05 図2 インピーダンス指標(Imp指標)と妊娠期の生理学的検査値の多変量散布図 (有意な相関があった部分のみ抜粋)サブグループに分類し,反復測定の分散分析を行った。 反復測定では,3回の測定データが全てそろっている 対象のみを分析した。予定帝王切開の対象は,「微弱 陣痛」と「予定日超過(妊娠41週以降)」の分析から除 外した。 3回の測定平均値の差(欠損データを除外)を反復測 定で分析した結果,統計的な有意性があった妊娠・分 娩異常は,「微弱陣痛」,「予定日超過(妊娠41週以降)」, 「分娩後2時間値血圧130/85mmHg以上」であった。「微 弱陣痛」であった群(4名)は,「微弱陣痛」でなかった 群よりも,Zの平均値が有意に高かった(F(1,20)= 6.94,p<0.05,表4,図3)。しかし,「予定日超過(妊 娠41週以降)」と「分娩後2時間値血圧130/85mmHg以 上」では,Zの平均値は異常群で有意に低くなっていた。 「予定日超過(妊娠41週以降)」であった群(4名)は,「予 定日超過(妊娠41週以降)」でなかった群よりもZの平 均値が有意に低かった(F(1,20)=5.92,p<0.05,表 5,図4)。同じく,「分娩後2時間値血圧130/85mmHg 以上」で,血圧上昇がみとめられた群(5名)は,みと められなかった群よりもZの平均値が有意に低かった (F(1,23)=8.69,p<0.01,表6,図5)。 上記3つの異常を発症しなかった群のZの平均値 を比較したところ,「微弱陣痛」を発症しなかった群 表4 「微弱陣痛」の有無 反復測定の結果 a)「微弱陣痛」の有無 記述統計(N=22 予定帝王切開除外後) 微弱陣痛 N (妊娠28〜30週)測定1回目 (妊娠32〜34週)測定2回目 (妊娠36〜39週)測定3回目 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD なし 18 504.3 50.2 499.8 43.3 495.2 60.2 あり 4 569.3 32.1 565.2 19.1 556.3 35.4 b)「微弱陣痛」の有無 分散分析の結果 自由度 平均平方 F値 被験者間要因 微弱陣痛 1 39999.9 6.94* 誤差 20 5760.7 *p<0.05 1回目 2回目 3回目 測 定 微弱陣痛 あり 微弱陣痛 なし 580 560 540 520 500 480 460 440 420 400 Z 値︵ Ω ︶ *p<0.05 図3 「微弱陣痛」の有無 Zの変化 表5 「予定日超過(妊娠41週以降)」の有無 反復測定の結果 a)「予定日超過(妊娠41週以降)」の有無 記述統計(N=22 予定帝王切開除外後) 予定日超過 (妊娠41週以降) N 測定1回目 (妊娠28〜30週) (妊娠32〜34週)測定2回目 (妊娠36〜39週)測定3回目 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD なし 18 523.7 51.6 521.7 43.3 521.4 49.4 あり 4 482.1 54.0 466.4 41.3 438.2 66.9 b)「予定日超過(妊娠41週以降)」の有無 分散分析の結果 自由度 平均平方 F値 被験者間要因 予定日超過 1 35438.6 5.917* 誤差 20 5988.8 *p<0.05
は500Ω前後(図3),「予定日超過(妊娠41週以降)」と 「分娩後2時間値血圧130/85mmHg以上」を発症しな かった群では520Ω前後で推移していた(図4,5)。そ して異常を発症していた群のZはいずれもこの範囲 外で推移しており,「微弱陣痛」では550Ω以上,「予 定日超過(妊娠41週以降)」と「分娩後2時間値血圧 130/85mmHg以上」では,490Ω未満であった。
Ⅳ.考 察
統計的に有意性が示唆されたImp指標と生理学的検 査値および,妊娠・分娩異常との関連について,考察 する。 1.Imp指標と妊娠期の生理学的検査値との関連 Imp指標と,統計的に有意な相関関係がみとめられ た妊婦の体水分に関する生理学的検査値は,Hct,体 重,脈圧であった。1回目(妊娠28∼30週)と2回目(妊 娠32∼34週)に測定されたZと妊娠34∼35週に測定さ れたHctとの間には,中程度の正の相関がみとめられ た。しかし,Hbとの間には有意な相関はなかった。Z が高いほどHctが高いということは,体水分が少な いほどHctが高い,という可能性を示しており,Zが, 妊娠中の血液の希釈程度(血漿量の増加の割合)を反 映する可能性が考えられた。 体水分量を反映するとされているImp指数は,1回 目(妊娠28∼30週)に測定した体重との間に中程度の 相関がみとめられたが,2回目(妊娠32∼34週)の測定 以降はなかった。妊娠32∼34週以降の体重には,胎 児部分や母体脂肪量の増加など,体水分以外の影響が 関与していることが考えられる。 また,2回目(妊娠32∼34週)の測定では,Zが高い ほど,そしてImp指数が低いほど,脈圧が拡大した。 1回目 2回目 3回目 測 定 妊娠41週未満で出産 妊娠41週以降の予定日超過 580 560 540 520 500 480 460 440 420 400 Z 値︵ Ω ︶ *p<0.05 1回目 2回目 3回目 測 定 分娩2時間後血圧上昇なし 分娩2時間後血圧上昇あり 580 560 540 520 500 480 460 440 420 400 Z 値︵ Ω ︶ *p<0.01 図4 「予定日超過(妊娠41週以降)」の有無 Zの変化 図5 「分娩後2時間値血圧130/85mmHg以上」の有無 Zの変化 表6 「分娩後2時間値の血圧130/85mmHg以上」の有無 反復測定の結果(N=25) a)「分娩後2時間値の血圧130/85mmHg以上」の有無 記述統計 分娩2時間後 血圧上昇注) N 測定1回目 (妊娠28〜30週) (妊娠32〜34週)測定2回目 (妊娠36〜39週)測定3回目 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD なし 20 525.1 49.5 519.0 45.0 521.5 45.9 あり 5 483.7 46.9 460.1 44.8 435.3 55.7 注)「分娩2時間後血圧上昇」=分娩後2時間値の血圧130/85mmHg以上 b)「分娩後2時間値の血圧130/85mmHg以上」の有無 分散分析の結果 自由度 平均平方 F値 被験者間要因 分娩2時間後血圧上昇注) 1 46378.5 8.69** 誤差 23 5338.9 **p<0.01今回得られたデータでは,この時期の脈圧の拡大は主 にSBPの上昇に起因しているため,妊娠32∼34週の 体水分量が少ない,あるいは減少傾向の状態は,SBP の上昇に関連があることが推察される。妊娠高血圧症 候群を発症する妊婦は,循環血液量の増加が正常妊婦 よりも少ない,とされている(Blackburn, 2007)。今 回の調査では,妊娠高血圧症候群を発症した対象はな かったが,妊娠期の血圧の変動と循環血液量の増加不 良との関連を,ZあるいはImp指数で測定・評価でき る可能性が考えられた。 2.Imp指標と妊娠・分娩異常との関連 妊娠・分娩異常でImpと統計的に有意な相関関係が みとめられたのは,「微弱陣痛」,「予定日超過(妊娠41 週以降)」,「分娩後2時間値血圧130/85mmHg以上」で あった。とくに,3回測定したZの平均値を異常の有無 で比較した結果,「微弱陣痛」群のZの平均値は,「微弱 陣痛」がみとめられなかった群よりも有意に高かった。 このことから,妊娠期間中に生体インピーダンス法に よって推定される体水分量の減少と「微弱陣痛」発症 との関連性が推察された。生体インピーダンス法によ って推定される体水分量には,筋肉などの除脂肪組織 中の水分量も含まれる。「微弱陣痛」を発症する妊婦は, 体水分量の低下ではなく,筋肉量が少ない可能性もあ るため,今後,脂肪量・除脂肪量などの体組成との関 連も考慮した分析が必要である。 「予定日超過(妊娠41週以降)」,あるいは「分娩後 2時間値血圧130/85mmHg以上」であった対象はそう でなかった対象に比べ,Zの平均値が有意に低かった。 このことから,妊娠期間中に生体インピーダンス法に よって推定される体水分量の増加は,分娩開始あるい は分娩後の血圧上昇と関連している可能性が示唆され た。分娩開始の機序はいまだ不明な点が多く,体水分 の増加と分娩開始の機序との関連についての知見を確 認することはできなかった。また,分娩4期の母体循 環動態と血圧の変動についても先行研究で確認するこ とはできなかった。今後,基準値の範囲を推定するた めに必要な対象数を確保した上で,今回の結果を検討 する必要がある。 今回検討した3つの妊娠・分娩異常,「微弱陣痛」, 「予定日超過(妊娠41週以降)」,「分娩後2時間値血圧 130/85mmHg以上」で,発症しなかった群のZは500Ω 前後あるいは520Ω前後で推移しており,異常群のZ はこの範囲外で推移していた。このことから,異常を 発症しにくいZの基準域あるいは体水分量の範囲が存 在することも考えられる。そのため,本研究の結果は 今後,必要な対象数を確保し測定方法を精選した上で, 検討する必要がある。 3.本研究の限界と課題 本研究は,生体インピーダンス法での測定可能性を 検討する基礎的な探索研究として実施したため,分析 対象数が29名と少数であった。今後,必要な対象数 を確保し,測定方法を精選した上で,今回の結果を検 討する必要がある。
Ⅴ.結 論
今回の調査から,体水分と関連のある生理学的検 査値の中で,Impとの関連性が示唆された検査項目 は,体重,Hct(妊娠34∼35週),血圧であった。また, Impとの関連性が示唆される妊娠・分娩異常は,微弱 陣痛,予定日超過(妊娠41週以降),分娩後2時間の血 圧上昇,であった。とくにZには,異常を発症しにく い基準域が存在する可能性が示唆された。今後,研究 方法と分析する変数を精選し,対象数を増やしてこれ らの関連性と健康な妊娠・分娩経過につながる指標を 探索する,基礎研究が必要である。 謝 辞 本研究の趣旨にご理解・ご協力をいただきました, 妊婦の皆様に心より感謝申し上げます。本研究にご支 援・ご協力をいただきました病院長,事務局長,看護 師長はじめ医事課・外来・病棟スタッフの皆様,本稿 をまとめるにあたりご指導をいただきました,聖路加 看護大学大学院ウィメンズヘルス・助産学教授堀内成 子先生,高等統計学教授柳井晴夫先生に深く感謝申し 上げます。 なお,本研究は,平成23年度聖ルカ・ライフサイ エンス研究所研究助成金により実施しました。 引用文献 有澤正義,福庭一人,関隆,持丸文雄(1996).生体インピー ダンス法による妊産婦浮腫の評価. 日本産科婦人科学 会雑誌,48(1),25-31.Armstrong, L.E. (2007). Assessing hydration status: The elusive gold standard. Journal of the American College of Nutrition, 26(5), 575S-584S.
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