Ⅰ.はじめに
社会的課題を解決するには,ボランティア活動だけ では長続きせず,ソーシャルビジネスの形を考える必 要がある。しかし,日本では「無報酬」を美徳として, 「利益」を良くはとらえない。従って日本ではソー シャルビジネスが育たず社会的課題を長期的に解決す る仕組みが出来上がらない。こうした風土がある限り, 学生たちがソーシャルビジネスを重視しそれを目指そ うとするモチベーションが高まらない。 本稿は,学生たちへのソーシャルビジネス教育を 行っていくとともに,同時に社会のそうした見方を変 えていくことを目的に執筆したものである。そのため に「利益」を「リスクヘッジ」と呼ぶことを提唱し, ソーシャルビジネスを形作るための教育を開発する。 具体的には,千代田区の中での買い物代行プロジェ クトとしてソーシャルビジネスの実験を行った。千代 田区の支援事業である平成 23 年度千代田学の「都会 型ソーシャルネット活用事業を通してのワークライフ バランス問題の解決」の一環として行った。この研究 を,商学部 3 年配当科目の専門演習の授業で実施した。 これを担当したゼミ生は 7 名である。 具体的には,買物難民となっている千代田区の高齢 者から買物の依頼を受け,学生たちが食料品・日用品 を高齢者宅まで届けた。 高齢者が福祉の対象ではなく,現役世代と同じ経済 活動の中の一員として存在する千代田区であってほし い。しかし,高齢者にとっての区内の買い物状況は, 「家から店が遠い」「高齢者にとっては 1 パックが大量 すぎる」という決して好ましい状況にはない。その際, 高齢者を対象とした買い物代行のソーシャルビジネス で難しい点は,お年寄りの方が,少量のものを注文す るのが申し訳ないと思って躊躇してしまうことである。 このように遠慮して頼みにくいことが,結果として利 用者の減少につながる。学生たちは高齢者のそういう 遠慮に配慮しつつ,高齢者デリバリーサービスを活発 化させなければならない。「千代田区の高齢者の市場」 を想定し,高齢者の求める商品やサービスの市場を作 り上げ,その市場が経済理論に基づいて機能するには, 何をどのように整備すればよいかを課題に学生たちが 実証実験を行った。 2011 年夏休み,千代田区高齢者センターの協力を 得て,高齢者への買い物代行を行うこととした。お年 寄りに品物を届けて手数料を上乗せして代金を受け取 る,それは学生の心を痛めることである。1)しかし, 今回の学生たちの実験がボランティア活動として終わ るとそれを継ぐものはいなくなってしまう。学生たち に,上乗せ分は手数料ではなく,思わぬ損失が発生し た時に対応するためのリスクヘッジであることを認識 させ,そのリスクヘッジを確保する方法を研究させる。 リスクヘッジが多く残りビジネスの形で示せてこそ, このソーシャルビジネスが長続きし,千代田区の高齢 者の不便は解消される。このことを学生たちに勉強さ せたい。 本稿では,このプロジェクトをソーシャルビジネス として成り立たせる試みを学生たちがどのように行っ たか,そのために何を悩みどのように解決したか,そ してどのような結論を得たか,それらを明らかにする。 ここで対象とした 3 年生の大学生たちの企画はこう である。千代田区の高齢者がどのように暮らし,どの ような点で社会と関わりを持っているのか,彼らはそ こから調べることとした。様々な視点がある中,特に 「買物難民と化している高齢者」の視点から調査を行 うこととし,以下のような計画を立てた。 活動案(流れ) ・ 千代田区高齢者センター等で配達に関するア ンケートの実施 ↓ソーシャルビジネス教育の試行
Economic EducationThe Journal of No.31, September, 2012Trial of Education of Social Business
Mizuno, Katsushi
・アンケート結果を集計,統計を取る(需要の 規模を測る) ↓ ・①需要の規模 ②デジタルからアナログへの翻訳の必要性 ③高齢者と高齢者,高齢者と大学生のネット ワークの形成 ④配達事業の宣伝(マスコミを通じて) ↓ ・配達業務を実際に開始 高齢者の買い物をサポートし,またそれをビジネス として成立させる。これを最終的な目標とし,彼らは 研究を始めた。
Ⅱ.高齢者センターでのアンケート調査
1.アンケート調査実施に至るまで 学生たちは,実際に高齢者に直接会い,インタ ビューからから始めることとした。そのためには千代 田区のどこに,どれほどの高齢者の人がいるのかわか らない。それを調べ,実際に高齢者のニーズの調査を 行う必要があった。高齢者にインタビュー調査を行う 場所は千代田区高齢者センターとした。高齢者から話 を伺う定性的な分析だけでなく,数字として分かりや すい定量的結果も導こうとした。 アンケートの内容は,高齢者センターを利用する高 齢者を対象に「買い物」の現状についてたずねたもの 私たちは,「買い物配達」をテーマに活動しています。 そこでお手数ですが,下記のアンケートにご協力をお願いいたします。 該当するものを○(まる)で囲ってください。 ・あなたについて教えてください。 ①年齢を教えて下さい。 ( 60 代 70 代 80 代 90 代以上 ) ②現在一人暮らしですか? ( はい・いいえ ) ・普段の買い物について教えてください。 ③週に何日くらい買い物に行きますか? ( 行かない・1 〜 2 日・3 〜 4 日・5 日以上 ) ④普段 1 回の買い物でいくら使いますか? ( 1000 円以下・2000 円以下・3000 円以下・4000 円以下・4000 円以上 ) ⑤買い物に行くことが大変だと思ったことがありますか? ( はい・いいえ ) ⑥普段の買い物を家に居ながらできる「買い物配達」があったら便利だと思いますか? ( はい・いいえ ) ⑦この「買い物配達」を実際に使ったことはありますか? ( はい・いいえ ) ⑧もし使っていなかったらこの「買い物配達」を実際に使ってみたいと思いますか? ( はい・いいえ ) ・お仕事について教えてください。 ⑨現在仕事はしていますか。 ( はい・いいえ ) ・⑨で「いいえ」と答えた方のみ答えてください。 ⑩またをしたいと思いますか。 ( はい・いいえ ) ご協力ありがとうございました。 表 1 学生の行ったアンケート内容である。人の生活には衣食住の三つの要素があり,そ れは年齢を重ねても変わらない。最近マスメディアで はスーパーでの高齢者を対象にした買い物配達につい て報道があり,注目が高まってきている。そこで,学 生たちは,高齢者の方々に食事(主に買い物)につい て詳しく聞こうとした。 学生たちが高齢者センターに事前に伺ったときに, 高齢者が答えやすく,プライバシーを傷つけないよう, 事前に職員の方々と協力してアンケートを作成して いった。何度も職員の方々と意見をぶつけ,試行錯誤 したのちようやくアンケートが完成し,2011年6月21 日と24日の2日に分けてそのアンケート調査を実施し た。アンケートを行うにあたり,高齢者に対して,ど のように話しかけたり,どのようなことに注意するの かを職員の方々にも伺いながらゼミ生全員で確認した。 2.アンケート分析結果 1)アンケート集計結果 アンケート結果の詳細については省くが,集計から 特に学生は次のことを導き出した。 ・どの年代,性別でも半数以上が買い物配達を使って みたいと答えた。 ・一方,買い物配達を実際に使ったことがある人は 70 代女性を除いていずれも半数を下回り,これま では利用されてこなかった。 ・買い物配達を使ってみたいと答えた人はどの項目に おいても半分以上「はい」と答えていた。 ・男性は買い物配達を便利と考えている人が多い(ど の年代も半数以上)が,女性は男性よりやや少な かった(90 代を除いて約 4 割程度)。 ・買い物に行くのは大変と答えた人が意外と少なかっ た(平均 3 〜 4 割)。 このように,当初考えていたほど,高齢者の方々が 買い物代行を緊急に必要としていたわけではないこと が分かった。その結果から,学生たちは次のような考 察を行った。 ・70 代は買い物を運動するよい機会と考えている人 も多く,まだ自分で買いに行きたいと考えているが, 80,90 代では外に出るのも大変になってくるので, 活動の生産性は高いと思われる。 ・実際に買い物代行を利用したことのある人が少ない ので,分かりやすく,使いやすいシステムを作り, それを知らせることが必要である。 このような観点にたって買い物代行を行うことと なった。
Ⅲ.買い物配達実験
1.買い物配達実施まで(事前準備) 1)高齢者センターとのブース交渉 学生たちは,アンケートの結果を基に買い物配達の 準備を始めた。初めに,買い物配達を行う上で必要な 受付ブースの設置場所を探すことが必要だが,アン ケート調査でお世話になった高齢者センターにお願い することとした。だが,実際に学生たちがお願いをし てみるとあっさり承諾とはいかず,当初は「それは難 しい」と断られた。学生たちにとって社会での試練で ある。理由としては,現金のやり取りを学生が高齢者 相手に行うとトラブルが発生するのではないか,お金 を制限されている高齢者の方が大量に商品を注文して しまうのではないかという心配があったようだ。しか し,ブースの確保が出来なければ活動自体が難しく なってしまうので,学生たちは必死に高齢者センター に協力を求めた。その熱意・頑張りもあり,高齢者セ ンターの方が一人ブースに付いて下さるという条件で 高齢者センターでの活動が可能になり,買い物代行受 付ブースを確保することが出来た。 2)商品パンフレット作成 次に,買い物代行を行う商品選びに入った。高齢者 向けの商品が載っているパンフレットを作成すること になった。アンケートの結果,買い物をする際に,重 いものを持って帰るのが非常に厳しいという回答が多 かったため,重い商品を中心にパンフレットに載せる こととした。学生は自分たちで一から仕入れるわけに はいかないので,お米,水,家具などを(インター ネット・通信販売の)ベルメゾンネットの方で,お茶, ビールなどを西友ネットスーパーから注文することに し,また,東日本大震災の被災地支援のためでもある 商品,および福島県郡山産の「あさか舞」も直接仕入 れて販売することとした。 学生たちが活動を進めるにあたって,途中で問題点 が出始めた。西友ネットスーパーでは,高齢者の家に 業者から直接配達することが困難であることがわかっ た。そこで,一度どこか拠点となるところに商品を配達してもらい,それを学生たちの手で高齢者のもとへ 届ける,という方法を取らざるをえなくなった。学生 たちが話し合った結果,同じ明治大学商学部の熊沢ゼ ミナールが経営している空き店舗事業「なごみま鮮 果」にその拠点の役割をお願いすることにした。交渉 する日時を決め,拠点とさせていただけないかとお願 いしたところ,なごみま鮮果の商品をパンフレットに 載せ販売するという条件で協力してもらうことが出来 た。よって,西友ネットスーパーで注文された商品, あさか舞は,ゼミ生たちの手で高齢者のご自宅まで, 届けることになった。 3)買い物配達実験 準備を整えたうえで,実際に買い物配達模擬ビジネ スを行うこととした。高齢者センターとの交渉の結果, 注文聞きは 2011 年 8 月 16 日,19 日,23 日,30 日,9 月 2 日,6 日,9 日,13 日,16 日の 9 日間で行うこと になった。注文聞きの有効な時間を学生たちが調べ, 高齢者センター内の人の流れが一番多い 11 時〜 13 時, 15 時〜 17 時に決定した。まずは,初日の 8 月 16 日は, 学生たちの買い物配達の活動を知ってもらうためにパ ンフレットだけを配った。8 月 19 日から 9 月 16 日ま では,その買い物配達の注文を受け付けるとともに, 学生たちの時間の都合もあり同時に配達を行うことと した。高齢者の方から注文受け付ける際には不備がな いよう,しっかり領収書などを作り対応をした。また, 配達をする際には領収書に書かれた住所を頼りに,学 生たちの手と足を使って高齢者のご自宅まで配達した。 買い物配達の活動中には,高齢者の方の耳が遠くてな かなか話が進まない,大学生ということで信用しても らえないなど苦労も多々あったが,高齢者の方のご自 宅に配達をした際に,お菓子を用意して学生に渡して くれたなど,嬉しい出来事も数多くあったようだ。 2.買い物配達実験の結果と分析 1)販売結果(品物,個数,売り上げ) 結局のところ,合計 10 件の注文しか受けられな かった。その合計額である。 あさか舞コシヒカリ 1kg × 7=7,700 円 あさか舞ひとめぼれ 1kg × 5=5000 円 富士山天然水 2L × 2=3150 円 まぐろ角煮× 7=3500 円 魚沼産コシヒカリ× 1=3150 円 合計 =22500 円 2)結果分析と考察 実際に買い物配達の実験をし,学生たちは普段あま り接することのない高齢者の方々と会話することで, 多くの意見を聞くことができた。その中で学生たちが 気づいたことは,大きく分けて 3 つある。 1 つ目は,高齢者の方々は,コミュニケーションの 場,相談相手を必要としていることだ。買い物配達を 行った際,高齢者の方々は話好きで,学生たちにいろ いろなことを話してくれた。最近では,買い物をして いる最中は店員さんに話しかけられたくないという意 見を多く耳にするようになったが,高齢者の方々もそ うだろうか。過去には多くの商店街があり,会話を弾 ませながら商品を選び,購入するという買い物の仕方 が多く見られた。しかし現在は,「シャッター商店街」 と言われているように,多くが大型のショッピングセ ンターに客足を取られている。そのため,店員さんと お客さんが会話をしながら商品を選ぶということは少 なくなっている。このように,高齢者が求めている 「コミュニケーションの場」というものは,時代の流 れとともに減ってきている。この活動を通して,会話 をするために買い物に行く,会話をしながら選ぶとい うことを多くの高齢者は求めていることがわかった。 2 つ目が,高齢者の方々は価格をそれほど気にして いないということである。これは富裕層の多い都市部 の高齢者に限ったことかもしれないが,買い物の際, 安い大型ショッピングセンターと,少々高いが誰かと 会話できる商店街のお店の 2 つの選択肢があるとすれ ば,多くの高齢者は後者を選ぶ。その理由としては, 前記のように,高齢者は値段よりコミュニケーション の場を重視しているということが挙げられる。このよ うに高齢者の方々にとって買い物は,ただ単に「買 う」という行為ではなく,買い物をすることによる 「人と人との繋がりを作るもの」であるということが 分かった。このことは「低価格」という言葉を多く耳 にし,安いことを売りにしたお店が増えているという 現状とはある意味で反対の結論だった。 3 つ目が,高齢者の方は誰でも簡単に注文でき,届 けてもらえる宅配サービスを求めていることである。 高齢者の方々の中には,お水や,お米などの重たい荷 物は運ぶことができない,今後体が不自由になってか らが心配という意見を聞くことができた。このような 意見の中には,足腰を丈夫にするためにも買いに行く ことが大事だが,お米などの重いものは一人では買い には行けない,今後不自由になっても自分の子供には
迷惑をかけたくないという思いがあることがわかった。 そのような中,現在のスーパー業界ではネットスー パーが普及している。しかし,多くの高齢者はイン ターネットを使うことができないのが現状だ。そのた め,インターネットを使うのではなく,普段使い慣れ ていない高齢者にも簡単に注文,購入することができ, 家まで届けてくれる,今回のような仲介的宅配サービ スが求められていることがわかった。 このような結果から学生たちは以下のような仮設を 設定した。千代田区の高齢者が求めているお店とは, 1 つ目に,価格はあまり気にせず,そこに行けば誰か がいてコミュニケーションができる場,相談しながら, 会話をしながら買い物ができる場である。2 つ目は, 誰でも簡単に注文,購入することができ,高齢者にも 分かりやすい宅配サービスを兼ね備えているという販 売先である。高齢者の方は,以上の 2 点を求めている ということが想定される。2)また,この実験から高齢 者の方々は,「しなければいけないから買い物をして いる」のではなく,「日常の 1 つの楽しみのために買 い物をしている」ということを学生たちは実感した。 そのため,このような条件を備えた販売先を考える必 要があるということが分かった。
Ⅳ.コミュニティを追求したソーシャルビ
ジネスモデルの作成
これらの結果を受け,学生たちはコミュニケーショ ンを主軸においた高齢者を顧客としたビジネスモデル を作成した。だが,高齢者センターなど,すでにコ ミュニティの場に現れている高齢者にとって,コミュ ニケーションを売りにするビジネスはそれほど需要が ないだろう。学生たちは,そのようなコミュニティの 場に出ていない高齢者,相手の見えないジャングルの 中に迷い込んで,出てくることが出来ない高齢者,い わば「千代田ジャングル」の中にいる高齢者を対象に ビジネスモデルを考えていくのが妥当ではないかとい う考えに至った。 1.ビジネスモデル対象 これは,2011 年 9 月の経済教育学会第 27 回全国大 会の報告の際指摘されたことだが, 「千代田区の全高齢者数」-「高齢者センターの利用 人数」=高齢者センター非利用人数 を計算すると,利用していない高齢者はどうしている か。買い物配達実験で前述の結論を得た後,今回は対 象としてこなかった高齢者の消費について学生たちに 研究するよう指示した。 千代田区の高齢者数 6952 人。高齢者センターの登 録者数 1352 人。上記の式に当てはめて計算すると, 高齢者センター非利用者人数は約 5500 人。約 5500 人 は,千代田区のデイサービス(475 人),千代田区の 福祉施設(193 人)や,千代田区高齢者コミュニティ (いきいきプラザ一番町・岩本町ほほえみプラザ・西 神田高齢住宅サービスセンター・かんだ連雀・ジロー ル麹町・ジロール神田佐久間町・高齢者住宅(73 世 帯))を利用していることがわかった。しかし,それ でも,このようなコミュニティの場にも来ていない高 齢者が約 4000 人いる。学生たちはこの 4000 人の中で, 来たくてもなかなかコミュニティの場に来ることがで きない高齢者を対象としたビジネスモデルを考案する こととした。 2.ビジネスモデル案 やはり千代田ジャングルの中でここに生活している 人たちには連絡が取れない。買い物代行の依頼を,授 業等がある学生が受けるには,最低限 IT を活用せざ るを得ない。バーチャル空間のビジネスモデル化とし て,「高齢者同士のやりとりのネットワーク」を軸と する。紙,テレビ,ラジオをイメージしながら,学生 たちは意見を出し合い,いくつかの提案行った。 案①高齢者用手書きツイッター「ことばの輪っか」 →専用タブレット,テレビ,連結コードを用意。タ ブレットにタッチペンで書いた ものがそのままテレビにうつる。他の人がかいた ものもたくさん見れて,返信などのアクションが 可能。返事が遅くなるという紙の弱点を回避した。 案②高齢者限定の SNS「かんたん So」 → mixi やツイッターの機能を最大限に簡略化,ま た,媒体はらくらくフォンのような携帯とテレビ とし,携帯でしゃべるとそれが文章となって表示 されるシステム。簡単なものであれば少しの指導 で使いこなせるようになるだろうという予測の案 である。 案③回覧板ブログ「お返事日記」 →こちらは紙媒体。書いた日記を回覧板のように区 内でランダムに回し,コメントをもらって書いた本人へ返す。ブログの機能を紙で再現したもので ある。 案④高齢者雑誌「Older’s non・no」 →高齢者のなると皆が読み始める雑誌。雑誌といえ ども一方的な情報ではなく,読者からのコメント など,相互のコミュニケーションを大事にする。 切ったページを郵送すればそこにある商品が買え る,ファッションのページを作り高齢者モデルと いう新たな職業を開拓する,など様々な可能性を 秘めているが,どのようにして皆に読んでもらえ るようにするかが大きな課題。 案⑤高齢者用スカイプ「スカイプシニア」 →補聴器のようなものを耳に装着し,不特定多数, または望んだ人と,好きなときに会話できるとい うもの。画面を見るのは疲れる,手で文字が上手 くかけない,といった高齢者にもおすすめできる ネットワークである。 このような 5 つの案の中から,学生たちは話し合い を重ねた結果,SNSを媒体とする案①の高齢者用手書 きツイッター「ことばの輪っか」と案②の高齢者限定 の SNS「かんたん So」,案⑤の高齢者用スカイプ「ス カイプシニア」の機能を組み合わせた事業の実現性が 高いことに結論が至った。 3.ソーシャルビジネスモデル「かんたん So」 事業 事業名:「かんたん So」 由来:高齢者が一目見て「かんたんそう!」と思える ことと,ソーシャルネットワークの頭の So と融合さ せた名前。 目的:交流を求めているがなかなか外に出て来られな い高齢者に,自宅にいながらも簡単にコミュニケー ションをとれる場を提供する。現在流行している mixi 機能のようなものは高齢者にとって,操作の複 雑さから利用することが困難であり,そうしたサービ スを簡易化し,高齢者でも簡単に使用できるようにす る。高齢者センターを訪れない高齢者の方々にも買い 物代行が可能となる。買い物代行を発端として生活の 手助けのビジネスを展開する。 事業内容: ・最大限簡易化したソーシャルネットワークサービス。 ・大きくて見やすいノート型二面タッチパネル。(DS の大きめバージョン)(次図参照) ・インターネットで買い物代行への依頼ができる。 ・ブログや短文(いわゆる tweet)を投稿し,閲覧で きる通信サービス。 ・不特定多数,友人と会話が可能なテレビ電話機能。 ・個人情報等を事前に登録し「かんたん So」が提供 した品物はボタン 1 つで購入可能な買い物配達機能 を装備。 ・基本操作は「書く」,「音声」で行うことができる。 ・高齢者が困ったときのための 24 時間サポートセン ター機能。 上部 画面+タッチパネル 下部 文字が書ける 4.「かんたん So」事業の最終目標 「かんたん So」は機械とシステムの両方を開発する 必要があるため,開発コストが課題となってくる。今 回そのコストまでは算出できないため,数字で収支計 算ができない。今後高齢者に,この「かんたん So] 事業を説明し,実際に使いたいかアンケート調査を行 い,「かんたん So]の需要を探る。このような活動を 行い,需要があると判明した場合,企業に事業開発の 提案を行うことを目標とする。このような手段ができ て引き込もっている高齢者を含めての買い物代行の ソーシャルビジネスが可能になると学生たちは結論づ けた。
Ⅴ.結びにかえて
学生たちの感想として,彼らの予想通りであった部 分もあれば予想外であった部分もある。特に「高齢者 が値段よりも人とのコミュニケーションを大事に買い 物する」というのは完全に予想外の調査結果であった。学生たちの調査の中で出てきたいくつかのキーワード 「高齢者はコミュニケーションを大事にしている」「都 会在住富裕層の高齢者向きビジネス」「千代田ジャン グル」などは,今回の研究だけでなく,今後学生たち が研究を継続していくうえでヒントになってくる可能 性が高い。 ボランティア活動だけではこうした問題を一時的に 解決できるに過ぎない。継続的に解決するにはソー シャルビジネスの形が必要となってくる。 ここで最も重要なのは,大学生が社会問題を継続的 に解決するにはビジネスの形を模索しなければならな いことを認識したことである。学生の段階では,ボラ ンティア活動と社会問題の解決を混同しがちである。 今回の調査とそこからの解決策の導きから,資本主義 社会では,社会問題を解決し続ける一つの方策は,ビ ジネス化にあることを学んだ。今回のような都会の中 で隠された福祉問題を解決するためには,社会問題を 解決するソーシャルビジネスこそ重要な要素となる。 ソーシャルビジネスの必要性を説き続けることは,経 済教育の大きな使命の一つであろう。 註 1) 塚本らの研究が明らかにしたように,ソーシャルビジネ スが広がらない一つの原因は社会的課題の解決に対して NPO 的要素が強すぎることにある。塚本一郎他(2008) 『ソーシャル・エンタープライズ-社会貢献をビジネスに する』丸善出版。 2) コ ミ ュ ニ テ ィ 再 構 築 の 必 要 性 に つ い て は, 太 田 恵 子 (2005)「地域コニュニティの再構築とソーシャルキャピ タル」21 世紀社会デザイン研究 pp135-143 でも指摘され ている。