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高度内反を伴う大腿骨遠位偽関節に対する膝関節固定術後の一症例

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 270 47 巻第 3 号 270 ∼ 279 頁(2020 年) 理学療法学 第 47 巻第 3 号. 症例報告. 高度内反を伴う大 骨遠位偽関節に対する 膝関節固定術後の一症例* 河 原 常 郎 1)2)# 深 江 航 也 1) 阿 部 祐 樹 1)3) 伯 川 聡 志 1)4) 藤 森 龍 平 1) 中 嶋 隆 行 5)6) 大 森 茂 樹 1)7). 要旨 【目的】膝関節固定術後という稀有な症例を経験し,理学療法を展開する中で縦断的な歩行解析の結果, その特徴と新しい運動パターンの習熟の過程を示すことができたので報告する。【症例紹介】多発骨折後, 2 度の手術を経て膝関節固定術に至った 50 代男性であった。 【治療プログラムと経過】回復期病院入院中 は非荷重から開始し,荷重量増加に合わせ身体機能向上を図った。退院時には身体機能や動作能力は一定 水準に向上したが,1 歩行周期ごとのバラつきが多いなどの特徴を認めた。なかでも術側立脚期を構成す る股関節前額面上の動きに注目し,外来クリニックにて運動パターン習得を目的に治療を継続した。結果, 改善は認めたが,術側股関節最大伸展角度出現遅延,術側足関節最大底屈角度減少,床反力 2nd ピーク 値減少といった特徴は残存した。【結語】膝関節固定術後症例は,同年代と遜色ない動作能力の獲得は可 能となったが,術側膝関節以外の角度変化や床反力に特徴を示した。 キーワード 膝関節固定術,歩行解析,縦断研究. 性変形性関節症,外傷後変形性関節症,慢性関節リウマ. はじめに. チ,結核,脊髄炎および梅毒を含む広範囲の適応疾患が.  膝関節固定術(knee arthrodesis)は,その目的を「安 1). 定し疼痛のない膝を得ること」とされる 。従来は進行. あるとされていたが. 2)3). ,人工関節置換術の開発と成功. により,その数は減少傾向と報告されている. 2)4). 。近年. では,膝伸展機構の衰弱や喪失,実質的な骨の喪失や欠損, *. A Case of Knee Arthrodesis for a Distal Femoral Pseudo-joint with Severe Varus 1)医療法人社団鎮誠会季美の森リハビリテーション病院 (〒 299‒3241 千葉県大網白里市季美の森南 1‒30‒1) Tsuneo Kawahara, PT, BS, Kazuya Fukae, PT, Yuuki Abe, PT, MS, Satoshi Hakukawa, PT, MS, Ryouhei Fujimori, PT, Shigeki Oomori, PhD, Masseur: Medical Corporation Jinseikai Kiminomori Rehabilitation Hospital 2)千葉大学大学院工学研究科 Tsuneo Kawahara, PT, BS: Graduate School of Engineering, Chiba University 3)筑波大学大学院人間総合科学研究科 Yuuki Abe, PT, MS: Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba 4)慶應義塾大学大学院医学研究科整形外科学 Satoshi Hakukawa, PT, MS: Department of Orthopaedic Surgery, Graduate School of Medicine, Keio University 5)千葉大学大学院医学研究院総合医科学講座 Takayuki Nakajima, MD, PhD: Department of General Medical Science, Graduate School of Medicine, Chiba University 6)東千葉メディカルセンター Takayuki Nakajima, MD, PhD: Department of Orthopaedic Surgery, Eastern Chiba Medical Center 7)千葉大学大学院医学研究院神経内科学 Shigeki Oomori, PhD, Masseur: Department of Neurology, Graduate School of Medicine, Chiba University # E-mail: tsunekawahara007@gmail.com (受付日 2019 年 9 月 6 日/受理日 2019 年 12 月 11 日) [J-STAGE での早期公開日 2020 年 4 月 2 日]. 骨肉腫,感染,人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty:以下,TKA)の失敗などが適応とされ. 3)5)6). ,両. 側の実施や同側の股関節置換術施行症例は禁忌とされ る. 1). 。また,機能的転帰および生活の質は一般的に低い. とされ. 7). ,この分野では生物医学的革新はほとんどない. 8) 「最終選択」や「望まれない手術」 との報告もあり ,. と表現されるように否定的な手段として理解される  今回,大. 1)8). 。. 骨遠位端骨折に対しプレートによる内固定. をされたが,偽関節を生じ,高度の内反と疼痛増悪, TKA 適用困難のため膝関節固定術施行に至った症例を 経験した。本症例は年齢が比較的若く,身体機能や動作 能力は高いが,膝関節を固定するという構造上の問題の ため,正常とは異なる歩容となることは否定できない。 これまで膝関節固定術後症例に対する詳細な歩行動作解 析を行った報告は渉猟しえた限りないことから,理学療 法の提供に苦慮した。本症例に対し,縦断的に歩行解析 を行うことで膝関節固定術後患者の歩行の特徴が確認で.

(2) 膝関節固定術後患者の歩行の特徴と運動パターンの習熟. 271. 図 1 膝関節固定術までの経過における膝関節画像 受傷時と膝関節固定術前の単純 X 線,CT 画像を示す.膝関節固定術前の単純 X 線画像からは大 脛 骨関節における大 骨側の著明な変形と大 膝蓋関節における OA 像を認める. (a):受傷時の膝関節単純 X 線画像(正面) ,(b):受傷時の膝関節単純 X 線画像(側面) ,(c):受傷時の 膝関節 CT 画像,(d):膝関節固定術前の単純 X 線画像(正面),(e):膝関節固定術前の単純 X 線画像 (側面),(f):膝関節固定術前の膝関節 CT 画像(後内側より観察). きた。本症例を通して得られた知見は,症例数は少ない ながらも手法としてはまだ残る膝関節固定術後症例に対. 病歴(回復期病院入院まで). する理学療法の提供を考えるうえで有用であると考えた.  X 年 6 月,地方での機械整備中に高所より墜落して受. ためここに報告する。. 傷し,近くの A 病院へ救急搬送された。右大.  なお本報告を行うにあたり,所属施設における倫理委. 骨折,右踵骨骨折の診断にて右大. 員会の許可を得た。また,対象者には本報告の主旨とヘ. にプレートによる観血的整復固定術が施行された。右踵. ルシンキ宣言に基づき,保護・権利の優先,参加・中止. 骨に対しては大本法にて整復後,スクリュー固定が行わ. の自由,身体への影響などを口頭および文書にて説明を. れた。自宅退院するも歩行はままならず,事務職への配. し,書面にて同意を得た。. 置転換での復職となった。同年 12 月に疼痛が増悪し,. 症例紹介. B 病院へ紹介され,大. 骨顆上. は創外固定後,翌週. 骨偽関節の診断となった。CT. 画像上,偽関節を認めたが,骨量はしっかりしているこ.   症 例 は 50 代 男 性 で, 身 長 162.0 cm, 体 重 59.9 kg,. とから再度プレートによる観血的整復固定術が施行され. BMI 22.8(回復期病院入院時)であった。受傷から当院. た。骨の変形は残存していたが,翌年には TKA 施行予. (回復期病院)転院までは経過が長く,1 年半の期間が. 定として X+1 年 4 月に退院となった。同年 10 月に疼痛. 空いての介入となった。既往歴はなし。仕事は建築用の. が再増悪し,偽関節が残存していることから TKA 施行. 機械の製造販売などの営業職であり,自動車の運転を含. が困難とのことより X+1 年 10 月,プレートによる膝関. む地方への営業回りが多かった。膝関節固定術施行直前. 節固定術が施行された。これまでの受傷時,固定術前の. は事務職に配置転換となり,時折出張にでる程度であっ. 膝関節画像を図 1,3 度の手術経過に伴う FTA の変化. た。疼痛や荷重制限があり,経過も長いことから理学療. を図 2 に示す。術前は膝関節装具を装着し,1 本杖を使. 法に対して不安な様子もあったが,受け答えは良好で. 用し自立レベルであった。. あった。右膝関節機能全廃にて障害者手帳は 4 級 2 種の 認定であった。. 初回評価(回復期病院入院時)と治療アプローチ  当回復期病院への転院は X+1 年 11 月であり,受傷か.

(3) 272. 理学療法学 第 47 巻第 3 号. 図 2 3 度の手術経過に伴う FTA の変化. ら 17 ヵ月,膝関節固定術後 1 ヵ月経過した時点で初回. 備えて,十分な荷重を可能にするためにも右足関節背屈. 評価を実施した(表 1 左)。荷重プロトコルは「固定術. 角度の確保を第一の目標とした。非荷重の時期は下. 後 6 週免荷,6 週経過後 1/2 部分荷重を開始し,8 週経. 頭筋のストレッチが積極的に実施できなかったため,超. 過で全荷重へ進める」であった。右踵骨骨折に関しては,. 音 波 療 法(1.0 ‒ 1.2 W,3 MHz,Duty 100%,10 分 × 2. 骨辺縁は不整であったが,骨癒合は得られ,ベーラー角. セット)を併用して下. は正常範囲内であった(図 3)。術創は膝関節前面に約. 射にてゴルジ腱器官への刺激に伴うⅠ b 抑制を目的と. 20 cm あり,炎症症状として熱感と腫脹が残存してい. し,柔軟性の改善をはかった。術後 6 週には右足関節の. た。下肢長は(右 / 左)棘果長にて 78.2/79.0 cm,転子. 背屈は 0 度まで達し,予定通り部分荷重を開始とした。. 果長にて 70.5/70.0 cm であった。下肢周径は大. 術後 8 週には背屈 5 度まで拡大でき,全荷重を開始した。. 位では左が大きく,膝関節に近い大. 部近. 部遠位では右が大. 三. 三頭筋の特に筋腱移行部への照. 全荷重を開始してからは,引き続き右足関節背屈の. き か っ た。 膝 蓋 骨 上 縁 よ り 20 cm で は 44.3/49.5 cm,. ROM 改善をはかった。それに加えて,退院後の生活を. 15 cm では 43.0/47.0 cm,10 cm では 40.1/42.5 cm,5 cm. 想定した自宅内における動作の確認を行った。. では 40.5/37.5 cm,下. 周径は最大で 34.7/35.3 cm,最. 小で 20.0/21.0 cm であった。疼痛に関して安静時痛は. 初期アセスメントと治療アプローチ. なく,動作に伴う術部周囲の鈍重感のみであった。関節.  身体機能として,右下肢の荷重量増加のプロトコルに. 可動域(Range of motion:以下,ROM)は日整会・リ. 備えて,十分な荷重を可能にするためにも右足関節背屈. 9). ハ医学会の方法(1995) に準じて計測し,右膝関節が 屈曲 0 度(固定)に加え,右足関節背屈が ‒20 度と制限 を認めた。それ以外の著明な制限は認めなかった。筋力 は Daniels らによる徒手筋力検査法第 9 版. 10). (Muscle. 角度の確保がもっとも重要であると考えた。 中間評価(回復期病院退院時)  身体機能に関して(表 1 中央) ,下肢周径は著変なく,. Manual Testing:以下,MMT)にて右膝関節屈曲伸展. 動作に伴う疼痛もなくなったが,ROM は右足関節背屈. は未計測,右足関節底背屈は 4(可動範囲内にて)であ. が 5 度 と 制 限 を 残 し た。 右 足 関 節 底 屈 背 屈 の 筋 力 は. り,それ以外は 5 であった。日常生活活動(Activity of. MMT にて 5 であった。動作能力として 10 m 歩行(最大). daily living:以下,ADL)に関して,移動には両松葉. は 5.33 秒,6 分間歩行は 515 m(修正 Borg スケール 8). 杖を使用しすべて自立していた。. であったが,膝関節伸展位固定の影響で膝関節以外にも.  身体機能として,右下肢の荷重量増加のプロトコルに. 歩容の異常を認めたため,三次元動作解析装置 VICON.

(4) 膝関節固定術後患者の歩行の特徴と運動パターンの習熟. 273. 表 1 介入時期と各種理学療法評価結果 時期 身体機能. 初期評価時. 中間評価時. 最終評価時. X+1 年 11 月. X+1 年 12 月. X+2 年 3 月. 術側荷重. 免荷. 全荷重. 全荷重. 炎症. 熱感,腫脹 (+). 腫脹のみ (+). (‒). 疼痛. 動作時の鈍重痛. (‒). (‒). 体重(BMI),kg(kg/m2). 59.9(22.8). 58.8(22.4). 66.1(25.2). 骨格筋量,kg. 25.7. 24.6. 26.4. 体脂肪率,% 大. 周径,cm. (右 / 左). 22.0. 23.4. 27.5. (膝蓋骨上縁より 20 cm). 44.3/49.5. 45.1/50.1. 49.6/54.6. (膝蓋骨上縁より 15 cm). 43.0/47.0. 42.5/47.3. 46.4/49.8. (膝蓋骨上縁より 10 cm). 40.1/42.5. 40.0/43.2. 44.0/46.0. (膝蓋骨上縁より 5 cm). 40.5/37.5. 40.5/38.4. 41.6/41.6. 最大. 34.7/35.3. 35.0/35.1. 37.6/37.4. (右 / 左). 最小. 20.0/21.0. 20.1/21.0. 21.2/22.4. ROM,度. 股関節屈曲(膝伸展位). 100/90. 105/90. 105/95. (右 / 左). 股関節伸展. 20/20. 20/20. 20/20. 股関節外転. 40/40. 45/40. 45/40. 膝関節屈曲. 0/135. 0/140. 0/140. 膝関節伸展. 0/0. 0/0. 0/0. 足関節背屈. ‒ 20/20. 5/20. 10/20. 下. 周径,cm. 足関節底屈. 40/40. 40/40. 45/45. 筋力(MMT にて). 股関節屈曲. 5/5. 5/5. 5/5. (右 / 左). 股関節伸展. 5/5. 5/5. 5/5. 股関節外転. 5/5. 5(4) ※1/5. 5(5)/5. 膝関節伸展※2. ‒ /5. ‒ /5. ‒ /5. ※2. ‒ /5. ‒ /5. ‒ /5. ※3. 5/5. 5/5. ‒ /5. 5/5. 5/5. 膝関節屈曲. 右足関節背屈 右足関節底屈※4 動作能力. 10 m 歩行,秒 6 分間歩行(修正 Borg scale) ,m. ※5. (参考値:5.28). 4. /5. 未測定. 5.33. 5.87. 未測定. 515(8). 495(5). ※ 1:カッコ内は内転位にて計測,※ 2:右膝関節は伸展位固定のため未計測,※ 3:可動範囲内での測定, ※ 4:右下肢免荷期間中のため未計測,※ 5:先行研究 11)より算出. 図 3 受傷からの経過における踵骨画像 左上:受傷時(X 年 6 月 12 日),右上:固定術後(X 年 6 月 17 日),左下:抜釘後(X 年 10 月 19 日).

(5) 274. 理学療法学 第 47 巻第 3 号. 図 4 GRAIL(Gait real-time analysis interactive lab)システム 三次元動作解析装置 VICON と床反力機能つきトレッドミルを併せもつ.加えて正面のスクリーン には歩行速度に合わせ景色が変化する VR(バーチャルリアリティ)機能を兼ね備えている.. 図 5 股関節屈曲 / 伸展角度(上段:中間評価時,下段:最終評価時) 10 試行分の 1 歩行周期における関節角度の推移を示す. a:中間評価時の非術側股関節屈曲 / 伸展角度,b:中間評価時の術側股関節屈曲 / 伸展角度, c:最終評価時の非術側股関節屈曲 / 伸展角度,d:最終評価時の術側股関節屈曲 / 伸展角度. (VICON) と 床 反 力 機 能 つ き ト レ ッ ド ミ ル を 併 せ た. 初期接地から開始し,同側の次の初期接地までを示し. GRAIL システム(Motekforce Link)を用いて歩行解析. た。歩行周期全体を通して下肢三関節ともに歩行周期ご. を実施した(図 4)。その結果を図 5 ∼ 10 に示す。各グ. とのバラつきが大きかった。股関節の屈曲角度に関して. ラフはトレッドミル上での 10 試行分の歩行時の波形を. は,非術側の立脚終期の伸展が小さかった(図 5a) 。そ. 示している。縦軸は各関節角度や関節モーメントおよび. れに対して術側は伸展角度こそ大きいが,そのピークの. 床反力の値を,横軸は一歩行周期を表し,測定側下肢の. 時期に遅延を認めた(図 5b)。また,股関節外転角度は.

(6) 膝関節固定術後患者の歩行の特徴と運動パターンの習熟. 275. 図 6 股関節内転 / 外転角度(上段:中間評価時,下段:最終評価時) 10 試行分の 1 歩行周期における関節角度の推移を示す. e:中間評価時の非術側股関節内転 / 外転角度,f:中間評価時の術側股関節内転 / 外転角度, g:最終評価時の非術側股関節内転 / 外転角度,h:最終評価時の術側股関節内転 / 外転角度. 図 7 股関節伸展 / 屈曲モーメント(上段:中間評価時,下段:最終評価時) 10 試行分の 1 歩行周期における関節モーメントの推移を示す. i:中間評価時の非術側股関節伸展 / 屈曲モーメント,j:中間評価時の術側股関節伸展 / 屈曲モー メント,k:最終評価時の非術側股関節伸展 / 屈曲モーメント,l:最終評価時の術側股関節伸展 / 屈曲モーメント. 術側非術側ともに運動範囲が過度に大きく,特に術側で. 立脚終期における底屈角度の減少を認めた(図 9r)。床. は立脚終期から遊脚初期に外転角度が大きくなる“ぶん. 反力は術側非術側とも 1st ピーク値は大きい値を示した. 回し歩行”を呈した(図 6e, f) 。股関節のモーメントは,. が,2nd ピーク値は特に術側で減少を認めた(図 10u, v) 。. 非術側において立脚初期の伸展モーメントが大きい値を.  理学療法評価により個々の身体機能や動作能力は同年. 示した(図 7i) 。膝関節は術側が伸展位固定であり,角. 代の平均と比較してほぼ同等の水準まで達したが. 度変化は認めなかった(図 8n) 。足関節は術側において. 術側下肢の“ぶん回し”をはじめ,術側立脚中期におけ. 11). ,.

(7) 276. 理学療法学 第 47 巻第 3 号. 図 8 膝関節屈曲 / 伸展角度(上段:中間評価時,下段:最終評価時) 10 試行分の 1 歩行周期における関節角度の推移を示す. m:中間評価時の非術側膝関節屈曲 / 伸展角度,n:中間評価時の術側膝関節屈曲 / 伸展角度, o:最終評価時の非術側膝関節屈曲 / 伸展角度,p:最終評価時の術側膝関節屈曲 / 伸展角度. 図 9 足関節背屈 / 底屈角度(上段:中間評価時,下段:最終評価時) 10 試行分の 1 歩行周期における関節角度の推移を示す. q:中間評価時の非術側足関節背屈 / 底屈角度,r:中間評価時の術側足関節背屈 / 底屈角度, s:最終評価時の非術側足関節背屈 / 底屈角度,t:最終評価時の術側足関節背屈 / 底屈角度. る骨盤傾斜(6.0 ± 1.5 度)など,特徴的な歩容が明ら. の特徴的な歩容を残された動作上の主問題と捉えた。ま. かとなった。図 11 左に立脚中期の前額面アライメント. た,特徴的な歩容は症例本人も改善を期待する部分で. を示した。ここでいう立脚中期は身体重心の床投影位置. あった。そこで,中臀筋を中心とした股関節外転筋群の. の前後成分と足圧中心の前後成分が重なった時点とし,. 筋長を長くした右股関節内転位における荷重練習や重心. 骨盤傾斜はその時点における左右の上後腸骨棘を結ぶ直. 移動の練習を実施した。その習得状況に合わせ,歩行周. 線と床面(水平面)のなす角度と定義づけた。我々はそ. 期を想定し,単純な立位での重心移動からステップ肢位.

(8) 膝関節固定術後患者の歩行の特徴と運動パターンの習熟. 277. 図 10 床反力(上段:中間評価時,下段:最終評価時) 10 試行分の 1 歩行周期における床反力の推移を示す. u:中間評価時の非術側床反力,v:中間評価時の術側床反力,w:最終評価時の非術側床反力, x:最終評価時の術側床反力. 図 11 右下肢立脚中期における骨盤傾斜と股関節内外転角度の比較 左図は中間評価時を,右図は最終評価時を示す.右股関節の過剰な外転位が改善したことを 示す.. での重心移動へと移行した。具体的には右下肢の立脚初. 確実な成立を目指した。以上のようなメニューで外来理. 期から中期を想定し,おもに中臀筋後部線維の収縮を触. 学療法を当院関連の整形外科クリニックにて週 2 ∼ 3 回. 知にて確認しながら,股関節屈曲から中間位までの股関. の頻度で 3 ヵ月間実施した。. 節外転位から内転位への複合的な動きと,立脚中期から 終期を想定した,股関節中間位から伸展位までの股関節. 最終評価. 内転位から外転位への複合的な動きを,実際の荷重下で.  回復期病院退院後 3 ヵ月時点での再評価における身体. 練習した。下. 後. 機能に関して(表 1 右) ,体重の増加は著明であった。. 面から足底面にかけての軟部組織の柔軟性のさらなる改. 疼痛はなく,ROM は右足関節背屈が 10 度と改善し,. 善に努め,併せて立脚終期を構成する Windlass 機構の. 下肢体幹筋力は MMT にて右の股関節内転位での外転. から足部に関しては,引き続き右下.

(9) 278. 理学療法学 第 47 巻第 3 号. も含めて 5 となった。動作能力に関して 10 m 歩行(最. 本症例ではそれが成立せず,骨盤の術側への傾斜を示. 大)は 5.87 秒,6 分間歩行は 495 m と若干の低下を認. し,その状態から落下様に非術側への荷重となるため,. めたが,その修正 Borg スケールは 5 と減少を示した。. その衝撃緩衝としての非術側の股関節伸展モーメントも. 歩行解析では中間評価時に認められた歩行周期ごとのバ. 大きい値となっているものと考えた。実際,MMT によ. ラつきはほぼすべての波形で減少を示した(図 5 ∼ 10. る右股関節外転の筋力は 5 であったが,変法として立脚. 下段)。股関節屈曲角度は非術側において認められた屈. 中期を想定した股関節内転位での外転の筋力は 4 であっ. 曲優位での関節運動が伸展方向に変位した(図 5c)。股. た。そのため,前記の運動療法を採用した。. 関節外転角度は術側における立脚中期から終期にかけて 過剰となっていたものが小さくなった(図 6h) 。股関節. 3.膝関節固定術後症例の歩容について. モーメントは非術側の立脚初期において認められた過剰.  本症例は受傷後,2 度の手術を経て膝関節固定術に. な股関節伸展モーメントの値は減少を示した(図 7k) 。. 至った症例である。膝関節固定術に関する研究は,感染. 膝関節角度は非術側において若干の伸展角度増大が認め. 症や歩行補助具の有無など術後成績に関する報告がほと. られ(図 8o),足関節角度は術側立脚終期において底屈. んどであり,運動学的な報告は渉猟し得た限りない。国. 領域は認めたが,その運動範囲は狭いままであった(図. 内の学会においてはいくつか報告があり,赤松らはぶん. 9t)。床反力は依然として 2nd ピーク値は小さいものの. 回しや外転歩行により全体的な歩行周期が延長するとと. その時期は若干の遅延を認めた(図 10x) 。結果として. もに固定側のつま先圧が有意に低下すると報告し. 多くのパラメータで変化を認め,特に立脚中期における. 江原らは固定側の駆動要因が著明に低下すると報告し. 骨盤傾斜(3.1 ± 0.4 度)をはじめとしたアライメント. た. の改善を認め(図 11 右) ,本人も安定感が増したとの実. 股関節最大伸展角度の出現遅延,術側足関節最大底屈角. 感が得られたが,術側に認められた立脚中期から終期に. 度の減少,床反力 2nd ピーク値の減少は,これらの先. おける,股関節最大伸展角度の出現の遅延,術側足関節. 行研究と表現は異なるが,本質は共通しており,膝関節. 最大底屈角度の減少,床反力 2nd ピーク値の減少は中. 固定術後患者の歩行の特徴と考えられた。理学療法アプ. 間評価時と変わらず残存した。. ローチについてはまず,これらの歩行動作における特徴. 12). ,. 13). 。本症例における最終評価の際に残存していた,. から向上しがたい部分や限界を知ることからスタートす. 考察と結論. るべきと考える。そしてそれを踏まえ,先んじて今回改. 1.初回評価におけるアセスメント. 善を認めた膝の隣接関節である股関節を中心とした残存.  本症例における右下肢は受傷に伴い荷重不十分な期間. 機能の可能な限りの強化や付随する二次障害への対応の. が一年半近くもあり,近位部の大. 最大周径. 必要性がうかがえた。具体的には,特に股関節外転筋群. の結果から筋の萎縮が考えられた。また,膝蓋骨上縁よ. の筋長を確保した状態での筋活動を促通することで,歩. り 5 cm の部分の結果からは手術に伴う腫脹の残存が考. 行中の体幹の側方動揺などの二次障害の軽減に寄与でき. えられた。疼痛に関しては,安静時痛はなかったので急. るということである。また,理学療法評価の範囲内での. 性の炎症期は過ぎており,鈍重痛に関しては筋力低下も. 高い身体機能や歩行パフォーマンスや歩容の改善を認め. あり,組織修復の過程における感覚と判断した。服薬と. ても,膝関節が固定されている以上,当然,膝の運動機. して中枢神経系に作用するトラムセットが処方されてお. 能不全は残存する。本症例は術後半年時点で症状固定と. り,コントロールは良好であり,順調に荷重練習が進め. なった。患者満足度こそスコアとして評価できていない. られたと考えた。. が,術後の経過はまだ短く,障害受容という点における. 周径や下. 心的負担は大きいと察し,そのフォローも重要であると 2.中間評価におけるアセスメント. 考えられた。.  膝関節が伸展位で固定された下肢への荷重という経験 は本症例にとってはじめてであり,歩行解析の結果とし. 4.本報告の限界. て一試行ごとのバラつきが大きかったのは膝関節伸展位.  本報告を行うにあたり,いくつかの限界を示す。1 つ. 固定における歩行の運動パターンが未成熟であり,我々. 目は術後の経過が長く,手術は他院で行われ,その状況. が通常行っている自動化された歩行のように,無意識化. を詳細に把握し考察しきれていないことである。2 つ目. で一定の再現性ある動作にはなり得ていないことが考え. は当院退院時(中間評価時)から最終評価時まで,関連. られた。特に股関節における前額面上の動きに関して,. クリニックへの申し送りにて考えの共有を行い,週 2 ∼. 術側股関節は立脚期を通して外転位で経過していた(図. 3 回の頻度で 3 ヵ月間外来リハビリを実施したが,その. 10 左)。本来荷重においては,中臀筋を中心とした外転. 期間内での細かな評価が不足しており,継時的な変化を. 筋群の遠心性収縮を伴いながら股関節内転位となるが,. 十分に示すことができていない。3 つ目は筋力に関する.

(10) 膝関節固定術後患者の歩行の特徴と運動パターンの習熟. 評価が MMT のみでの実施であり,定量的な評価がで きていないことである。最後に,患者の満足度のスコア まで評価できていなかった。これらは今後の課題として 捉えたい。 5.まとめ  今回,動作解析装置を用いて本人のもっとも気にして いる歩容について詳細に評価したが,理学療法を展開す る中で治療者と症例間における客観的かつ縦断的なデー タの提示と共有はともに目標を定めるうえでは不可欠で あり,それをもとによく話をすることが少しでもその心 的負担の改善に寄与できるのではないかと考えた。以上 より,本結果は膝関節固定術後症例に対する理学療法の 展開を考えるうえで有用性を示唆すると考える。 利益相反  本症例報告における開示すべき利益相反はない。 文  献 1)MacDonald JH, Agarwal S, et al.: Knee arthrodesis. J Am Acad Orthop Surg. 2006; 14(3): 154‒163. 2)Conway JD, Mont MA, et al.: Arthrodesis of the knee. J Bone Joint Surg Am. 2004; 86-A(4): 835‒848. 3)Van Rensch PJ, Van de Pol GJ, et al.: Arthrodesis of the knee following failed arthroplasty. Knee Surg Sports. 279. Traumatol Arthrosc. 2014; 22(8): 1940‒1948. 4)Brand RA: 50 yaers ago in CORR: Arthrodesis of the knee joint. F.H.Moore and I.S.Smillie. Clin Orthop Relat Res. 2010; 468(1): 294‒295. 5)Jones RE, Russell RD, et al.: Alternatives to revision total knee arthroplasty. J Bone Joint Surg Br. 2012; 94: 137‒140. 6)Rao MC, Richards O, et al.: Knee stabilisation following infected knee arthroplasty with bone loss and extensor mechanism impairment using a modular cemented nail. Knee. 2009; 16(6): 489‒493. 7)Carr JB 2nd, Werner BC, et al.: Trends and Outcomes in the Treatment of Failed Septic Total Knee Arthroplasty: Comparing Arthrodesis and Above-Knee Amputation. J Arthroplasty. 2016: 31(7): 1574‒1577. 8)Lucas EM, Marais NC, et al.: Knee arthrodesis: procedures and perspectives in the US from 1993 to 2011. Springerplus. 2016. 5(1): 1606. doi: 10.1186/s40064-016-3285-z. eCollection 2016. 9)日本リハビリテーション医学会評価基準委員会,日本整形 外科学会身体障碍委員会:関節可動域表示ならびに測定 法.リハビリテーション医学.1995: 32: 207‒217. 10)Hislop HJ, Avers D, et al.:新・徒手筋力検査法(原著第 9 版).津山直一,中村耕三(訳),協同医書出版社,2014. 11)Bohannon RW: Comfortable and maximum walking speed of adults aged 20-79 years: referencevalues and determinants. Age Ageing. 1997; 26(1): 15‒19. 12)赤松 満,渡部幸喜,他:自由歩行と片側膝固定歩行の足 底圧分析.理学療法学 Supplement.1990; 17(1): 144. 13)江原皓吉,谷 浩明,他:膝関節固定歩行における制動・ 駆 動 期 要 因 の 分 析 に つ い て. 理 学 療 法 学 Supplement. 1987; 14(1): 120..

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