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瀬戸内海産マサバに寄生したイワシノコバンと魚体表に形成された傷の観察

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Academic year: 2021

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83

日本甲殻類学会 Report

Carcinological Society of Japan

報告

Cancer 27: 83–85 (2018)

瀬戸内海産マサバに寄生したイワシノコバンと

魚体表に形成された傷の観察

Nerocila phaiopleura (Isopoda: Cymothoidae) parasitic on chub mackerel Scomber japonicus in

the Seto Inland Sea, western Japan, with an observation on a host’

s skin wound caused by the isopod

長澤和也

1

*・河合幸一郎

1

Kazuya Nagasawa and Koichiro Kawai

はじめに

イワシノコバンNerocila phaiopleura Bleeker, 1857

は,海水魚の体表に寄生するウオノエ科等脚類の1種

である (例えばMorton, 1974;三谷,1982; Bowman & Tareen, 1983; Bruce, 1987; Trilles et al., 2013; Nagasawa & Isozaki, 2017).本種の魚類に対する宿主特異性は

高くなく,これまでにインド・西太平洋域の9カ国

(日本,中国,タイ,インドネシア,オーストラリア, インド,パキスタン,クウェート,南アフリカ)の 4目14科に属する44魚種への寄生が報告されている (Nagasawa & Isozaki, 2017).本種の寄生によって魚 類の体表には大きな傷が形成され,筋肉が水中に露 出する (三谷,1982; 齋藤・早瀬,2000;Ravichandran & Rameshkumar, 2014;Nagasawa & Tenshya, 2016; Nagasawa & Shirakashi, 2017; Nagasawa & Isozaki, 2017). また,そうした傷からは数種の細菌が分離されてお り (例えばRavichandran et al., 2001; Raja et al., 2012), 本種が宿主に与える影響は少なくないと推測され

る.しかし,本種の病害性や魚体表に形成される傷 に関する知見は極めて限られている.

最近,筆者らは広島県沿岸の瀬戸内海でマサバ Scomber japonicus Houttuyn, 1782を採集した際,その 体表にイワシノコバンを認めるとともに,その寄生 に起因すると考えられる傷を認めた.ここでは,そ の観察結果を報告する. 材料と方法 2017年9月2日に広島県呉市倉橋町の海越(34°05′ 15″N, 132°12′33″E) でマサバ1尾 (標準体長135 mm), 同年10月19日に広島県安芸郡坂町の平成ケ浜(34° 20′41″N, 132°30′48″E) でマサバ1尾(216 mm)を釣 りによって採集した.採集したマサバを氷蔵して広 島大学に持ち帰って寄生虫検査に供したところ,体 表に等脚類の寄生を認めたので,ピンセットを用い て採取し70%エタノール液で固定・保存し,同定し た.また,等脚類を採取した際,寄生部位に形成され た傷を観察するとともに写真撮影を行った.等脚類 標本は茨城県つくば市にある国立科学博物館筑波研 究施設に収蔵されている (登録番号NSMT-Cr 26849, 26850). 結果と考察 今回見出された等脚類2個体は等脚目Isopodaウオ ノエ科Cymothoidaeのイワシノコバンに同定され, 1 広島大学大学院生物圏科学研究科 〒739–8528 東広島市鏡山1–4–4

Graduate School of Biosphere Science, Hiroshima Uni-versity, 1–4–4 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima, Hiroshi-ma 739–8528, Japan

E-mail: [email protected]

* 現所属(Present address):水族寄生虫研究室 〒424–0886 静岡市清水区草薙365–61

Aquaparasitology Laboratory, 365–61 Kusanagi, Shizuoka 424–0886, Japan

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Cancer 27 (2018) 長澤和也・河合幸一郎

いずれも雌成体であった.頭胸部前端から腹尾節後

端までの体長はそれぞれ24.0 mmと22.2 mm.それ

らの形態はBowman & Tareen (1983)やBruce (1987), Nagasawa & Shirakashi (2017)によって記載されたイ ワシノコバンの特徴と一致した.今回見出されたイ ワシノコバンのマサバへの寄生は,大分県豊予海峡 からの事例 (Nagasawa & Nakao, 2017) に続く第2例

と第3例である. イワシノコバンは,2個体ともマサバの第2背鰭 後端に続く小離鰭下方の体表面の側線より少し下側 に寄生していた.いずれも,頭部を前方に向け,宿 主の皮膚に胸脚で強く懸着していた(Fig. 1A, B). 寄生を受けたマサバの皮膚には,イワシノコバン の懸着による傷が形成されていた.今回,観察した 2個の傷のうち,9月2日の傷は軽微なもので,1列 に5個の小穴が前後に並ぶ2本の列があり,両列は 後方に向かって間隔を増した(Fig. 1C).小穴は, イワシノコバンが第1–5胸脚先端部を宿主に打ち込 んでいる時に形成されたものと考えられ,強い懸着 のために宿主から採取する際に力を要した.一方, その約1.5か月後の10月19日に観察した傷は,9月 2日に見られた傷の様相とは大いに異なり,イワシ ノコバンの体前部(頭部と胸部前部)が接していた 部位のマサバの表皮は消失して筋肉が露出した重度

Fig. 1. Two chub mackerel Scomber japonicus (A, 135 mm standard length [SL]; B, 216 mm SL) each infected with

Nerocila phaiopleura (A, 24.0 mm body length [BL], NSMT-Cr 26849; B, 22.2 mm BL, NSMT-Cr 26850) in the Seto Inland Sea off Hiroshima Prefecture, western Japan, on 2 September and 19 October 2017, respectively. C, ten scars formed by the first to fifth perepods of N. phaiopleura; D, a severe wound caused by N. phaiopleura. Note: An externally exposed portion of the host muscle was found under the cephalon and anterior pereons of the isopod (in D). Scale bars: 20 mm in A and B; 10 mm in C and D.

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Cancer 27 (2018) マサバに寄生したイワシノコバン な傷であった(Fig. 1D). 同様な傷は,イワシノコバンに寄生されたマイワ シでも観察されている.三谷(1982)は,神奈川県 近海産マイワシの臀鰭上方の体表にイワシノコバン によって形成された傷を観察し4型(A–D)に分け た.それらのうち,今回の傷はそれぞれA型とC型 に似ていた.A型はイワシノコバンの懸着跡がある ものの宿主の鱗が残る状態,C型はマイワシの筋肉 が露出し,露出部はイワシノコバンの頭胸部に相当 する状態である.なお,A型におけるマイワシ体表 上の小穴は9個で,左右の各4個の穴は第1–4胸脚 (原著では第1–4歩脚)の痕跡,前方の1個の穴は口 器の痕跡であったという.三谷(1982)と筆者らの 観察に基づけば,宿主の体後部側線付近に寄生した イワシノコバンは同じ位置に長く留まり,胸脚を宿 主に打ち込んで組織に損傷を与えると同時に,恐ら く宿主の皮膚組織を摂取することによって,宿主の 皮膚消失と筋肉露出を招く重度な病害を与えている と考えられる. 筆者らが観察した重度の傷を有したマサバは顕著 に痩せているように見えなかった(Fig. 1B).しか し,マイワシでは傷の進行とともに肥満度が減少す ることが知られ (三谷,1982),わが国ではマイワシ やマサバに加えて,サワラ,ヤマトカマス,マアジ, ウルメイワシといった野生魚ほか,養殖クロマグロ でもイワシノコバンが宿主の皮膚に重度な傷を惹起 することが報告されている (Nagasawa & Tenshya, 2016; Nagasawa & Shirakashi, 2017; Nagasawa & Isozaki, 2017). 今後は,対象魚の検査尾数を増やすとともに,傷の 病理組織学的な検討等も行って,イワシノコバンが 宿主に与える影響を明らかにする必要があるだろう.

文 献

Bowman, T. E., & Tareen, I. U., 1983. Cymothoidae from

fishes of Kuwait (Arabian Gulf) (Crustacea: Isopoda). Smithsonian Contribution to Zoology, 382: 1–30. Bruce, N. L., 1987. Australian species of Nerocila Leach,

1818, and Creniola n. gen. (Isopoda: Cymothoidae), crustacean parasites of marine fishes. Records of the Australian Museum, 39: 355–412.

三谷 勇,1982.寄生虫Nerocila phaeopleura Bleekerに よるマイワシ肥満度の変化について.日本水産学 会誌,48: 611–615.

Morton, B., 1974. Host specificity and position on the host in Nerocila phaeopleura Bleeker (Isopoda, Cymothoidae). Crustaceana, 26: 143–148, 1 pl.

Nagasawa, K., & Isozaki, S., 2017. Three new host records for the marine fish ectoparasite, Nerocila phaiopleura (Isopoda: Cymothoidae), with a list of its known hosts. Crustacean Research, 46: 153–159.

Nagasawa, K., & Nakao, H., 2017. Chub mackerel, Scomber japonicus (Perciformes: Scombridae), a new host record for Nerocila phaiopleura (Isopoda: Cymothoidae). Bio-sphere Science, 56: 7–11.

Nagasawa, K., & Shirakashi, S., 2017. Nerocila phaiopleura (Isopoda: Cymothoidae), a cymothoid isopod parasitic on Pacific bluefin tuna, Thunnus orientalis, cultured in Japan. Crustacean Research, 46: 95–101.

Nagasawa, K., & Tensha, K., 2016. Nerocila phaiopleura (Isopoda: Cymothoidae) parasitic on Japanese Spanish mackerel Scomberomorus niphonius in the Seto Inland Sea, Japan. Biogeography, 18: 71–75.

Raja, K., Vijayakumar, R., Karthikeyan, V., Saravanakumar, A., Sindhuja, K., & Gopalakrishnan, A., 2012. Occurrence of isopod Nerocila phaiopleura infestation on Whitefin wolf-herring (Chirocentrus nudus) from Southeast coast of India. Journal of Parasitic Diseases, 38: 205–207. Ravichandran, S., & Rameshkumar, G., 2014. Effect of

para-sitic isopods in commercial marine fishes. Journal of Aquatic Biology and Fisheries, 2: 574–579.

Ravichandran, S., Singh, A. J. A. R., & Veerappan, B., 2001. Parasite-induced vibriosis in Chirocentrus dorab off Parangipettai coastal waters. Current Science, 80: 622– 623.

齋藤暢宏・早瀬善正,2000.三保海岸に打ち上げられ

たイワシノコバンのエガトイド幼体.I. O. P. Diving News, 11(10): 2–6.

Trilles, J.-P., Rameshkumar, G., & Ravichandran, S., 2013. Nerocila species (Crustacea, Isopoda, Cymothoidae) from Indian marine fishes. Parasitology Research, 112: 1273–1286.

参照

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