聴 能
一
聴 覚 障 害 者
の
聴 覚 活
用
シ
ス
テ
ム
Auditory Learning
System
of the Hearing・
lmpaired大沼 直紀
筑 波技術大学
OHNUMA
Naoki
Tsukuba University of Technology
は じめ に
一
般に耳が聞こえ な く な ること よ り も目が見え な くなる ことの方 を恐 れる人 が 多い。
「みる」 と訓 読 み で き る漢字
は217
あって、
そのうち 「目」 や 「見」 で 構 成さ れ ている漢 字は187
も あ る。
そ れ に対して、
「耳」 が含 まれる漢 字で 「き く」 と読 まれるものは お よそ13漢
字ほ どだという (続有恒
他編
「心 理学
研究法
」・
第10
巻 「観 察」、
東京 大 学 出版会
)。
「き く」漢字
が 「み る 」漢 字に比べ て圧 倒 的にその数 が 少 ない。
「きく」 こ と が 「み る」 こと に 比べ て そ う 深刻に受け止め ら れていないと したら、
それ は 「き く」 障 害へ の一
般 の関心 も高 くはない ことを意 味 するの で あろう。 「き こえ る」 こと が 日常
ごく 当 た り前の こ と で あ るだけ に、
そ れ が 障 害され た 場 合の影 響 は 想 像 を 超 え たも の とな る。
聞こえの障害
の啓 発活動が必要
である。
近
年、聴覚障害者
のコ ミュニ ケー
ショ ン手段
であ る手 話へ の理 解と普 及に よ り、
聴 覚 を 通し て は情 報 が 入 り にくい人 であっ て も、
自信を持っ て社 会 参 加 で き る世の中に なっ て き たこと は喜
ばし い。
し か し一
方で、
「聴 覚 障 害 者= 手 話」 という誤 解に偏る傾向
も見られ、聴覚障害者
に残存保有
して いる聴覚
を 活 用 することの意義
が 理解
さ れ に く く軽視
さ れ る傾 向も顕 れて い る。
新 生児聴
覚
ス ク リー
ニ ングの体 制が確 立 しつ つ あ り、
先 天 性の聴 覚 障 害 乳幼
児の多
く が産
科で超 早期
に発 見 さ れる時 代 と なっ た。 残 存 保 有 する 聴 覚 を 脳の可塑性
の高
い う ち に効
果的
に 活用 する こ と が 可 能と なっ てきてい る。デ
ジタル補 聴 器 や 人工内 耳 に よ る聴 覚 活用の効 果も確かになっ た。 聴 覚 障 害 児 の発 達を支援
する方 法につ いて は、
昨 今、
コ ミュニ ケー
ショ ン手 段の選 択につ い て (手 話か 口話か、
日 本 語 対 応の手 話 か 聾 者の手 話 か)さまざま な 見 解 が あ る に し て も、残存保有
する聴
力を 可能
な限り活 用 することを否 定 する確 かな論 拠は ない。 補 聴 器に よ る聴 覚 補 償の研 究か ら始まっ たオーデ
ィオロ ジー
(audiology ) 研究
の領 域は、
今や人工内 耳を も取り 込ん で その 成果 を あげてい る。
1
.
障 害補 償 と情 報 保 障’
聴
覚
の 「障害補償
」 と は、
例えば補聴
器を 活 用す ること、人工内耳で一
定のきこえ を 回 復さ せ るこ と、
よ り明 瞭に話
すた めの発
音 指 導を受ける こ と、
手 話 の力を身
につ け ること など、
主 と し て障害
者 本人 が 持っ ている障 害を軽 減したり改 善し た りすること を 指 す。
聴 覚の 「情 報 保 障」とは、
例 え ば手 話 通 訳 者 や ノー
トテイカー
を配 置す る こ と、
話さ れ た音
声を字
幕に代 えて ス ク リー
ンに映し出 すこと、 音 声 が 明 瞭に耳に届く よ う な補聴
シ ス テ ム を 用意 することな ど、 主と し て情 報 が 伝わ りや すくするための環 境の 整備を指 す。 聞こえないと診 断 された耳を よ りよ く聞こえるよ う に したい と願い新し い治 療 法 や 補 聴 器に向
かっ て 奔走 する最 初の段 階 は誰にも あるが、 聴 覚 障 害 者 が障害
を克服
し、
さ ら に社
会 参 加・
貢献
する ようにな る過 程で は、 その障 害 を「補 償」すること にだ けと ら わ れない で、
伝 わ りに くい情 報を周 囲か ら 「保 障」 する た めの環 境 改 善に向かう必 要がある。
そ して結 局、
最 後に は聴 覚 障 害 者に直 接 対 応す る周 囲の 人々 の理 解がな け れ ば 何 も進 ま ない ということ になる。次
の5
つ事
項が考
え ら れ な け れば ならない。
よ り よく音や音 声が聞こえる ようになるた め の 障 害 補 償 (補 聴 器フ ィ ッティング
、聴能
訓 練な ど) よ りよ く話 してコ ミュニ ケー
シ ョ ン で きる よう に な る た め の
障害補償
(国 語学
習、
発 音 指 導な ど) た とえ 聞こえ な く と も話せな く と も、
伝 わる代わ りの 言 語 手 段に よ る
情報保障
(文字、
手 話な ど) デザ イン学研究特 集号 SPEC1ALISSUEOFJSSDVot.
13No.
32006 45一
た と え聞こ え な く と も話せ な く と も
、
伝わ る 代わ りの機 器による情 報 保 障 (リ ア ル タ イム 字 幕 提 示 装 置、
音 声ノ文 字 変 換 装 置 な ど)聞こえ ない
・
話せ な い障 害 (者 )を 理解で き る社 会へ の啓 発 (情 報 提 供、
ボラ ン ティ ア養 成など) 聴 覚 障 害 者が 「聴 覚 補 償」 の恩 恵を受け やすく な るこ とは、
次の こと か ら見通 せ る。
補 聴 器 や 人工 内 耳のデ ジ タル信 号 処 理 機 能の進 歩と オ
ー
デ
ィオロ ジー
(聴覚
科 学 )の研 究 成 果 が 十 分 期 待できるか ら。 メガ ネや サ ングラ スのよ う に高齢者
の誰
も が 補 聴 器を使い始め、
世の 中の補 装 具に対 する 抵 抗が な く なるか ら。
そ れ と同 時に
、
「情 報 保 障」 の環 境も改 善さ れ話 が 伝 わ りや す くなるに違いない。 それは、
次の こと か ら見通 せ る。
音 声 認 識 技 術の実用 が一
般化
し、
聞こえ に くい音の情
報
を見え やすい文字
や 画像情報
に変
換して くれ る機器の開発 が ト分期 待できるか ら。
外 国 人 と英 語や筆 記で言 葉を交
わすこと が珍
し く な く なった よ う に、
世の 中の誰もが 手 話 や 身 振 りや 筆 談 を交 えてコ ミュ ニ ケー
ションすること に
抵抗
が な く な る か ら。
2 .
オー
ディオロジー
研 究の成
果 言 語を獲 得 する前の乳 幼 児 期 から聴 覚に重い障 害 が あ りなが ら、
も し子 供の障 害に対し て何に も せず放
っ て おいた と し た ら、
以 下の5
つ の影 響が順 次あ らわれる ことは 想 像に難 くない。聴覚
を通し て物事
の意味
を学ぶ力の不 足が言 語の獲 得 を遅ら せ る。
就 学 前に必要
な 発 話能
力と言
語の 理解
力・表
現 力の発
達
が遅れ る。
46 SpECIAL ISSUE OF JSSD V(}1
.
13No.
32006 デザイン学研 究特集 号言 語 力 が 十 分でない の で学 習上の問 題 が 起 き
、
特
に言 葉を使う教
科の成績
が向
上 し に く くな る。
コ ミュ ニ ケ
ー
ショ ンが円滑に行
え ない こと か ら孤立感 をいだ き、
自信 を 失い、
情 報 や知 識 が蓄 積 されにく くなる。
進 路 や
職業
の選 択が限られ て し まい生涯に わ たっ て社 会 生活上の影 響が及ぶ。心
配
さ れ るこ のよ う な傾向
は、
聴覚
障害
児が学 校 で受 けられる障 害 補償 (例 え ば補 聴 )と情 報 保 障 (例 えば 手 話)の量と質と時期、
そ し て親の関
わ り具 合 次 第で その影 響に差が出る。 できるだ け 早い時 期 か ら補 聴 器を活 用 すること も含め た言 語 環 境や教 育 的援助
が ない と、
重度
な聴覚障害
児の学業
成 績は小 学 校3
年 から4
年 止 ま りに、 中等 度の聴 覚 障害 児でも 正常な聴 力の同級
生た ち よ り も1 年
か ら4
年低
いレ ベ ル に留まっ て し ま うこと が あ る。
オー
ディオロ ジー
は 聴 覚 科 学、
聴 能 学、
聴 覚 障 害 学 な どと呼 ばれ、
医学、
心理学、
工学、教育学、福
祉 社会
学な ど を統 合し て聴 覚 障 害に関 する諸 問 題 を 解 決 するた めの学 際 的で実 際 的 な 科 学である。
教 育 オー
デ
ィオロ ジー
の実
践 研 究か ら次の よ う なこ と が 明らか に なった。
聴覚
に障害
を もつ 子 供の中
で、
いわ ゆ る完
全 に聾と呼 ば れる者 は 非 常に僅 かしか な く、
ほと んどの聴
覚
障 害児 は何ら かの活 用可能
な残 存 聴 覚を有して い る。
相 当に重 度 な 聴 覚 障 害をもつ 子 供であっ ても
、適
切 な補聴
器や 人 工内
耳を使
用 するこ とに よっ て
、
聴覚
を通し た情 報の受 容 能 力も発 達さ せる ことができる。
聴
力の正常な子 供の発達
と同じ よ う に、
早期
からの母 子コ ミュニ ケー
シ ョン関 係の中で聴覚 活用の経 験を重ね ること が
、後
々 の言語
の発 達に重 要な影 響を及 ぼす
。
聴 覚を活 用 する能 力は聴 覚の補 償 だ けで発 達するもの ではな く
、
視 覚 な どの多
くの 感 覚を併
用し た トー
タ ル なコミュ ニ ケー
ショ ン行 動 に支 え られて伸 長 する。
一
3
.
アナログ補 聴 器からデジ
タル補 聴 器へ 聴 覚 障 害 教 育に も多 大の貢 献のあった ア レ キ サ ン ダー ・
グラハム・
ベルが電 話 機 を 発 明した1887
年 以降、
電気式補聴
器は そ れぞれの時代の最 先 端の技 術 開 発に呼 応して発 展 を 遂げ
て き た。
特に、デ
ジ タ ル補
聴器 の開 発研究は1980
年 代 後 半よ り 目覚 ま し く、
補 聴 器の フ ィッティ ング方法の研 究と相まって、
個々 の難 聴の特 徴に合わせ て電 気 音 響 学 的 特性
を処 方 し選 択 増 幅 することが 出 来るよ うになっ た。
日本 に お け る補 聴 器の販 売台
数は年 間50
万台
に 昇 る勢い で増 加して い る。 アナログ 型とデジタル型の 比率は2002
年
以 降に逆 転し、最
近で はデジ タ ル型が約70
% に達し てい る。
デ
ジタル補 聴 器とアナログ補聴器の違い を簡単
に 説 明 するとす れ ば アナロ グ補 聴 器には小 さな ネジ 回し を使っ て調 整で き る回転
つ ま み (ト リマー
)が 付い て い る のに対して、
デジ タ ル補 聴 器で はネジ回 し は 不要
で、
その代わ り にコ ンピュー
タ が 調整の仲 立 ち をする。一
人一
人の聴 力に合わ せ て微 妙に音量 や音 質を 調整 することが求 め られる時 代 を 迎 える と、
補 聴 器は レデ
ィー
メイドよ り も カスタ ム メ イ ド であるべ きだと考え られるよ う に なっ た。
その結
果、
アナロ グ補 聴 器 が 高 性 能になるにつれて、一
つ の補聴
器の中に た く さ んの調整つ ま み が取り付 けられる こと に なっ た。 音 量、
高音・
低 音の調 節、
う る さ い 音を押 さえ る 調節 な ど、
それ ぞ れを変 化 させ ること に よ り、一
つ の補聴
器か ら無数
の特性
組 み合わ せパ ター
ンが 生み出さ れる。
そ して、
も は や補聴
器の使
用 者 自 身には 手 が 出せ ず、
補 聴 器 専 門 家で あっ ても フ ィッティングに は大変
な 手間
が か か る高 性 能アナ ログ補 聴 器 が市 場に出 回る よ う に なった。
そ こに出 現 したのがプロ グラマブル補 聴 器であ る。
今ま で ネ ジ回し で調 整し ていた各 種の ト リマー
の役 目を 全て専 用のパ ソコ ンやコ ントロー
ラに任せ るの で、
思 いどお りの補 聴 器の電 気 音 響 特 性を瞬 時 に処方
するこ と が で き る よ う に なっ た。
さ ら に、
あ らかじ め複 数の異なっ た 音 質・
音 量な どの特 性を1
台の補 聴 器に設 定 してお けるよ うになっ た。1
台の プログラマ ブル補
聴 器が何種類
も の ア ナロ グ補
聴器 を 同時に簡 単に使い分 け する の と同じ役 割を果 たし てくれるわ けである。
そのおかげ
で、
試 聴し な が ら最
も自
分に合っ た処
方を比 較 選 択 した り、
聴 力の変 化に合わ せ て補 聴 器の特 性を変 更し た り、
ま た、使
用する場 所や周 囲の音 環 境の変 化に合 わせて別の補 聴 器 特 性に 切 り替
え た り、 TPO
の利く補
聴 器が生 まれ た。 しかし、 こ の ように便 利なプ
ロ グ ラマ ブル補聴
器であっ て も、
実 際の使用場 面で は本 人の使い 分け や使
い こな しの能
力が要
求さ れ、
多 機 能が ト分 に発揮さ れ ない難 点 が生 じた。
次に登 場し たのが、
使 用 者が自分で プログラムメ ニ ュー
の切り替
え やボリュー
ム操作
を し な く て も よ い完 全 自動 式のデ ジ タル 補 聴 器である。 従 来の補 聴 器の 最大
の欠点
は、
ア ナロ グ補
聴器
もプロ グラマブ
ル補聴
器も、
周 り が う る さいとこ ろ で は聞き たい話 し 声が 良く聞こえ な く なっ て し ま う、
つ ま り騒 音 (ノ イズ)に弱い とい うことで あっ た。
補 聴 器そのもの にこ のよ う なコン ピュー
タ制御機能
が組み 込 ま れ た 最 新 式のデジタル 補 聴 器には、
不 要なノイズ が入っ て く る と瞬
時に そ れだけ を選
び 分け て減 衰 させ る処 理 機 能 や、
使 用 者の聴 力で は小さ すぎて聞こ え ない 音が 入っ てき た場 合に は よ り強い音に、
ある いは大 きす ぎて う る さい音に対 しては よ り弱 く といっ た 自 動 調 節機 能が付 けられ た。
デ ジ タル補 聴 器といえど も 万能でない こと は従 来 のア ナロ グ補聴
器と同じ である。
し か し一
人一
人の 難 聴の特 徴に合 わせて細 かな調 整を 正確に処 方す る 手 順は格 段に簡 単になっ た。 問 題はコ ンピュー
タ に い か に確
か な聞こ えの デー
タ を 入力 してお くかであ る。 オー
ジオ グラ ム が あ い ま い な ま ま で は せっ か く のデ ジ タル補 聴 器の1
生能 が 発 揮され ない。
その意 味 で は今
ま で以上 にフィ ッテ ィ ングのた めの綿 密 な 聴 力 検 査 が 必 要と な る。 また、
補 聴 器を活 用 する目 的が何である か につ い てもはっ き りさ せて おく必 要 が あ る。今
ま で ア ナロ グ補聴
器を十分
に使い こなし てきた 聴 覚 障 害 者が急
にデ
ジ タ ル補聴
器に代
え た と き、
音 量が物 足りない、
音の世 界 が 何 だ か 静 か す ぎ る といっ た違
和 感を訴え ること が少 な くない。
いわ ゆる アナログ型の聴 覚をデ
ジ タ ル 型の聴覚
に変
え て いく適 応 過 程 (聴 能 )が必 要 となる。 新しい耳 を得 た つ も りで音の世 界を広げ
る聴覚学習
が必 要となる。
デ ザ イン学 研 究 特 集 号 SPECIAL ISSUE OF JSSD Vol
.
13No、
32006 474
.
人工内耳
の適 応手 術に よ り体 内にうめこむ 補 聴 手 段には
、
「人工中耳 (middle ear
implant
)」 と 「人工内
耳 (cochlear implant)」 がある。
これ ら は 互い に異なっ たシ ス テ ム なのに も か か わ らず
混 同さ れ てその適 応 や 効 果 が 誤 解されることがあるので注 意を要 する。超
小型の 耳小骨 振 動 子を中
耳の伝 音 機 構の代り に埋め込んだ 補 聴 器 が 人工中 耳で ある。一
方、
音 声 を電 気 信 号に 変 換して、
内 耳に挿
入 した電極
を 通 して刺激
を聴神
経に与え るのが 人工内
耳で あ る。
人工内 耳の開 発 研 究は世 界 中の多 くの研 究 機 関で1990
年 代か ら非 常 な 勢いで進め られ た。
人 工内
耳の効
果と安
全性
を確 認す るための検査 を経て、1984
年には 成 人に対し、1990
年には小児 に 対 し米国食 品医薬局 (FDA
)が 正式
に 人 工内
耳 手術
を承 認し た。
複 数の電 極 を入れたマルチ チャ ンネ ル 方 式 人工 内 耳の手 術が 日本で最 初に行 われ たの は1985 年
の ことで ある。1994 年4
月1
日 に健康保険
が適
用さ れ る と成人の症 例 数が急 速に増 加 した。 更に1990
年 代 後 半 か らは聴 覚 障 害 幼 児へ の人 工内 耳 手 術の適 応 症 例が増 加し た。成
人聴覚
障 害者
へ の人 工内 耳 手術 の適 応 は 完 全に実 用 化の時 代に入っ て いる といえ る。
世 界 中には7
万名を越え る 人 工内
耳の装
用者
が いる中で、
比較 的人工内
耳 手術
に慎
重な姿勢
を示し て きた 日本に おいて も、
装 用 者 は4000
名 を 越 え た。
人工内 耳 手 術 適 応の条 件は世界
的に年齢
の早期
化傾
向
と難聴
程度
の軽
度 化 傾 向が み られ る。 従 来 は 十 分には補 聴 器の恩 恵にあ ずか り にくかっ た平 均 聴 力レベル110dB
以上の聴覚障害
児で も、
人 工内 耳 適 用 時の聞こえの レベ ル が、 補 聴 器による40dB
(HL
) 前 後の補 聴 効 果に匹敵 する効
果を も た らす。
現 在で は耳 鼻 外 科学
的な施術
の方
法と しては 他の一
般 的な手 術と比 較して も特に難しいもの では ない。 しか し、
人工内 耳は補 聴 器が使 え ない感 音 性 の最
重度聴覚障害
に対す る最 終 手 段と し て選ぶ もの である。 補 聴 器 から人工 内耳に移る ことはできても、
人工内 耳か ら補
聴 器へ の乗換
はで き ない一
方
通行
の 関係がある。
人 工内
耳手術
の適
応を決 定するまで の プロセス、
手 術 後の リハ ビリテー
シ ョ ン の在 り方 や 聴 覚 障 害 教 育 機 関の指 導 体 制と指 導 プロ グラ ム な4S SPECIAL ISSUE OF JSSD〜Vel
.
13 No、
3 2006 デザイン学 研 究 特 集 号ど
、
小 児の人工内耳の成 功には 医 療と教 育とが 協 力 して解 決 しな け れ ば ならない課題が多
い。
人 工内 耳 適 応の判 断 基 準に は、
聴 力障 害 程 度の重 さ以 外に、
年 齢、
失 聴の時 期、
失 聴の期 間な ど が重 要 な条 件 となる。
失 聴 した時か ら手術を受け る ま で の期
間が短
いほど効
果が 上 が る よ う で あ る。
最も人 工 内耳の効 果 が 期 待し にくいタ イ プは、
先 天 性 ある いは乳 幼 児 期 な ど、
音 声言
語獲得
する前
に失聴
し、
その後も長い間 補 聴 器を装 用せず
音 を 聞い た 経 験の ない成 人 聾 者である。
年を とっ てか ら初め て外国語 の会 話に挑 む 困難に似て いる。
比 較 的 効 果が 上 が る の は、後
天性、中途
失 聴、
3
〜
4
歳 以 降の言 葉を獲 得した後に失 聴し、
しか も失 聴 期 間が短い うちに人 工内耳を装用 し た場 合で あ る。音
声 言語能
力が保持
さ れ ている成 人 中途 失 聴 者 は、 聴 能・
言 語 リハ ビリ テー
シ ョン を適 切に行うこと でコ ミュ ニ ケー
ション能
力が回復
する 可能 性が高
い。
人工内耳 手術 後の 聞 こえ (装
用 時の聴 力 閾 値レベ ル)は一
般に劇 的に改 善される。
し か し、
音や音 声を聞いて意 味を理 解 す る聴覚的
理解能
(聴
能 )は更に その新
し い聴 覚を通 して コ ミュ ニケー
ション環 境の中で学 習され な け れ ば ならないものである。
5 ,
脳で聞く (
聴
能)
現 在で は
、
最 新の 強 力で高 性 能 な補聴
器を適切 に処
方しフ ィッ テ ィ ングするこ と で、
聴 力レベル100dB
を越 える非 常に重い聴 覚 障 害に対 して も、
補聴器
を装
用 し た時
の聞こ え の レベル が40
−
50dB
(失 っ た 聴 力の半 分ほ どの聴 覚 補 償 )になる程の改 善 が 可 能で ある。 また従 来は補 聴 器の効 果に限 界のあっ た120dB
以上の 最も重い聴 覚 障 害に も、
人工内耳 装 着 時の聞こえの レ ベ ルが40dB
前 後になる程の効 果 を もた らす よ うになっ た。
しかし、
音の 有 無に答え る聴
力検
査の結
果が良
く なった こ と と、
音 や 音 声を 聞い て意 味 を理 解 する 「聴 能」 とは 同 じではない こ と に留 意し な け ればな ら ない。
同じ よ う な オー
ジ オ グラ ム を もつ 二 人に同じ補 聴 器 を装 用さ せ、 補 聴 効 果の値を そろえて フ ィ ッティ ングし たと し て も言 葉 の聞 き取 り能 力は同 じに はならない。
見か け 上の 「聴
力」 は相
当 に良
く な る が、
「聴 能」 は さ ら に開 発さ一
れ な け れば 「聞い て分か る」 よ う に は な ら ない とい うことで ある
。
言葉
は 「耳で聞く」 の では な く 「脳 で聴 く」 のだといわ れる。
補 聴 機 器の働 き は、
脳に 向け て聴能
の 発 達を支援
する学
習 機器 と と ら え る必 要が あ る。
「聴 覚]「聴 力」「聴 能」は似た言 葉で あ る が、
「聴 能」 と は能 動 的に聴 く 力の こ とである。5
.
1
「きこえ」の4
つの レ ベ ル「聞く」 は
、
1 何 と な く き く”
こと を意 味 する。
英 語 では‘
hear
”
に あ た る。
「聴
く」 は、
悶注
意し て き ぐ’
ことを意 味する。 英 語では“
listen
to”
に あ る 。 ”きこ える1「
と一
口 に言っ て もさまざまな 様 相がある。 1「 き ぐ と か Tl きこえ る「T と か い う表 現 だ けで は、
どのよ うに 「聴 覚」 を は た らかせて聞いたのか 判 然と しな い。聴覚
の知 覚の レベル は大き く4
つ に分
け られる。
検
知(
auditorydetection
)
音の 存 在に気 付き (awareness )、
音の有 無 (on!off)に 反応 する。
弁別 (
auditorydiscrimination
)
あ る音が他 の音 と 同じで あるか違 うかを 知 り、 音の異 同を カ テゴリ
ー
化 する。
識 別(
auditoryidentification
)
ある音に対 し既に持っ て い るカテ ゴ リー
に照らして認 識(recognition )し
、
何の音か 同定 する。
理解 (
auditory comprehension)
聴 覚 的 情 報のもつ 意 味 内容を了解 (undeastanding )する。
「きこえ」 のレベ ルは、 必
ず
し も検 知 がで きてか ら弁別へ、
そ し て次に識別へ と段階
をふ まなければ 理解の レベ ル に到 達で き ないとい う もの で はない。
音の有 無に気が付いただ
けで、
そ れ を手が か り に周 囲の状 況 判 断や類 推、
予測をきか せ、
持っ て いる知識 ・情報
を総
動 員さ せ 理解
レベル の聴能
を働
か せ る こと もできる。5
,
2
こ とばの リ ズ ム
(
韻律
的特徴)
を聴 く
例えば
、
次の駅が 11 上野” か 悶 上野 広 小 路1「 か、
地 下 鉄の騒 音の 中から車 内アナ ウンスを 聞 き 取ろうと する場合、 【
ウエ ノ】
と【
ウエ ノ ヒロ コー
ジ】
との 問の、 音 声の流れ全 体の もつ リズム、
長さ、
高 低、
強 弱などの違いが聞き分
けの頼りになる。一
方、
T 佐藤
さ んPlと 吻口藤
さ ん1 「 との 間での 聞き分
け に は、最
初の音 節 が 【カ】なのか 【サ】なのかの違いに着 目 しな けれ ば な らない。
前 者の聴 き 方を 「超 分 節 的」 と い い、
後 者の聴き方を 「分 節 的」 と い う。
50
音
図 で表されるよ うな 音 節一
つ一
つ の特 徴 (音 韻 的 特 徴 ) の違いが明 瞭に聞き 取 れ な け れば 話が 理解で き ない よ う に思いがちだ が、
そうでは ない。 日常 会 話の 中 で私
たちは む しろ、
ア クセ ン ト、
イン トネー
シ ョン (抑 揚 )、
リズム (拍 )といっ た音 声の 特 徴 (韻 律 的 特 徴)を大い に了解の手が か り に使って い る。
例 え ば 【イ 】 と 【タ】の問の時 間 間 隔 を長 く空 けた り短
く し た りするだけ で、
’ 居たlt と哘
っ た”の 意 味の違いが 知 覚さ れ る。 私 たちの聴 覚は、
分 節 的 な聞き方をする前に、
音 声の リズム の違いを大ま か に と ら え超分
節 的な韻
律 情 報の聴 取 能 力を働か せ意 味を了解し ていること が分か る (図1
)。
マ マ が い た マ マ がい た區
(に聞こえる) マ マ が い た マ マ が い た凾
〔に聞こえる) マ マ が い たL
一
マ マ が 、、た 図 1
門
居 た”
と”
行っ た’
E を聴き 分 け る5 .3 雑音
下で聴 く
大 勢の 人がガ ヤ ガ ヤ と騒い で いる雑 音 (マ ル チ トー
カー
ノイ ズ )が流さ れ る中
で、
言葉
の聞き取り検
査 を実 施した。
聴 力 正 常の成 人10
名 が 間 違いな く聞 き取れ た と きの、
音 声のレベル と雑 音のレベルの差 (SN
比 )は平 均 する とマ イナス5dB
と い う成績
だ った。
聴 力正常 な 人は聞こ う とする音 声 が 周 囲の雑 音に 比べ て5dB
小 さいに も か か わ らず100
% の聞 き 取り能 力を発揮
し たので あ る。
同じ検
査を補聴
器を 着 け た 難 聴 者4
名に実 施してみた。
する と健 聴 者と 同 じマ イ ナ ス5dB
条 件で は全 く聞き取 れ ず、
雑 音レ ベル を下げ
てい く と、
プラス10
〜
15dB
のSN
比 (雑デザ イン学 研究特 集号 SPECIAL ISSUE OF JSSD VoE
.
13No、
32006 49音
よ り も聞き た い音
声の方
が10
〜
15dB
際
立っ て い る) 条 件に なって よ うや く本 来の聴 取 能 力が 発 揮さ れた。
つ ま り、
聴覚
障害
者に は健聴者
に 比べ約15〜
20dB
程 静か な環 境を用 意 する必 要が あ る こ と が分 かっ た (図2
)。
聴 覚 障 害 者に は近づ い て 話 す、
周 囲の騒 音を減 らす といっ た配 慮が必 要 なこ と が再 確 認さ れ た。
も ち ろ ん周 囲の人 が そのよ う な配 慮を し てくれる の を待つだ けでな く、 自 ら も話 者 や 音 源に 近づ く、
雑 音の多
い場 所を背
にする などし て聴覚
が 活 用しや すい環 境をつ く る努 力を し なければな ら ない。 I嬰
警
の震
m 率o
_
F5645
覇o
−
−is
+
盞
o+
25
音 声 と雑 音の 音圧 レベル の差 雑 音 が 大 き い 〔テシベル } 図2 雑 音 のレベ ル (SN 比)と音 声の聞き 取 り成績の関 係5
.
4
遠
く
の音
を聴 く
SN
比を良くする た め補聴
器のlm 範
囲内
に近寄
っ てだれ も が話 し かけて く れ る よ う に な れ ば よい が、
それ は 現 実 的で はない。
補 聴 器 本 体の マイ ク と は別に用意
し たFM
マ イク か ら、離
れ た音声
が入 力 する よ う に作られ たのがFM
補 聴 器である。 話 者の 口元 近くのFM
マ イ ク が音
声を直接拾
い補聴
器にF
M
電 波で伝 送で き るので、
周 囲の雑 音の妨 害 を受 けず
に質の 良い音を耳 元に届ける こ とがで きる。
「騒 音のある ところ で聞こえない」 「離れ た 人の 声が聞 こえ な い」 「多 くの 人が話 す ところ で聞こえ な い 」 という従 来の補 聴 器の弱 点がFM
補 聴 器に よ り解 決 さ れ る。
し か し、
FM
補聴
器の役割
は耳 元ま で確実
に音 を届 ける とい う物 理 的 条 件 を補 償 する ことで あ っ て、
その刺 激を意 味の ある情報
と して受
け取
る か ど うか は脳で聴 く本人の聴能
に依存
する。
1997 年
50 SPECIAL tSSUE OF JSSD Vol
.
13No.
32006 デ ザ イン学 研 究 特 集 号6
月9
日に郵 政 省が電気
通 信 技 術審
議会
の答 申を受 けて 「補 聴 援 助 専 用 電 波 (FM
補 聴シ ス テ ム用 電 波 )」 を初
め て制定
し た。
70
メガヘ ルツ の周波数帯
がFM
補 聴 器を必 要とする人の専 用 電 波と して割り当て ら れた (現 在、
更に周 波 数 帯の改 定を検 討 中)。
テ レフォ ンの 「テ レ」 と は「遠 隔」を意 味 する
。
電 話が発 明さ れ て以 来、
人と向かい合っ たコ ミュ ニ ケー
シ ョ ン関 係 よ り も、
対 面せずに交 信 する関 係が 急激
に増え た。
そ の結 果、
聴覚障害者
が健 聴者
に比 べ いっそう大 き な 情 報の格 差 を強いられる社 会とな っ て しまっ た。
「目の前に出され た情報
しか受
け取 れ ない 」障害
は、
手話、読話、
文字
など、障害補償
の あ らゆる手 を尽く し て も、
それが視 野 から外 れて し まって は聴 覚 障 害 者にとって何の用 もな さ な くな る。
最 近に なっ て 「テ レフ ォ ン (音 声 電 話 )コ ミュ ニ ケー
ショ ン」だ けでな く、
文 字・
画 像 交 信の時 代 を迎
え、聴覚障害者
で あって も 「テ レ (遠 隔)コ ミ ュニ ケー
シ ョン社 会」から取り残さ れ る心 配 が な く なって き た。
人の耳 (耳介 )が 頭の 両 側に
前方
に向け て2
つ付
いて い ることの効 果 (両 耳 効 果 )は大きいものがあ る。
音の方 向に向かい合っ た と き に その音 源が最も よ く聞こえ る よ う に で き ている。
騒が し い場で は相 手に向 かい合 うこ と によ り、
後 方の雑 音 が 抑 え られ 声が聞き取 りやす く な る (カ ク テ ルパー
ティー
効
果)
。
ま た、
人 は手の ひ ら を耳に かざす と よ り よ く 聞こえ ることを知って い る。
手の ひらは 約12dB、
声 の聴き取り に重要
な1000H2
か ら2000H2
の周波
数 帯 を増 幅し て く れ る。
こ の補 聴 効 果と同じ程 度の音の 増 幅 は、
話 し手 と聞 き手の距 離を4
分の1
に短 くす る こ と に よっ て得ら れ る。
例えば10m
先 にいる話者
が2m
半に近づい て来れば、 計 算上12dB
強い音にな る。
更に両手 を両耳 にか ざしたと した ら両耳効果の3dB
分
の増幅
が 加 わ り結
局15dB
も聞き やすく な る。
5
.
5
名 前 を聴 く 「お母さ ん」 「お父さ ん」 「お姉さ ん」 「お兄さ ん」 「お ば あ さ ん」 「お じい さん」 「お ば さん」 「お じ さ ん 」 「パ パ」 「マ マ」の合
計10
の単
語を使
っ て聴能
の 手が か り を分析
でき る。
これ らの単
語はアク セン ト一
韻 音 律 韻 情 情 報 報 中高 型 5拍 〜 平 板 型 4拍 尸 頭 高 型 2拍
\
口形 情 報 オー
ジイ サン オ ジ謡.
サ.
ン.
.
.
一
〆i/ イ オ冖
ニ イ サン 蹄 /a / ア オカ ア サ ンー
鰍 か オ}
バ アサン オバサン 鋤 /e / エ オ ネ
ー
エ サン 呵 /0/オ オ ト オ サ ンー
嚇 /m (マ) ママ /P (パ) パ パ eθ 図3 親 族 呼称 単語 の構 成と聴 覚的 手 がか り やイン ト ネー
ショ ンの似た3
つ のグルー
プに分類
で きる。 「オ トオ サン 」 「オ カアサン 」 「オ ネエサン 」 「オ ニ イ サ ン 」 「オ バ ア サ ン」 「オ ジ イ サ ン」 の6
つ の単 語は、
中高 型アクセ ン ト (下上下 下 下 )を もつ5
拍 のグルー プ
である。韻 律 的 特 徴が同じだ
とい る。
し かし、2 − 3
拍目の音 韻 だ けは互いに異 なっ て いる。
「オ バ サ ン」「オ ジ サ ン」の2
つ の単
語は、
同じ韻律的
特 徴 を もつ 平 板 型アクセン ト (下上 上 上)4
拍のグ ルー
プで あ る。
し か し、 2
拍目の音
韻 だけ は異 な っ て いる。 「パ パ」 「マ マ 」 の2
つ の単 語は、
同じ韻 律 的 特 徴を もつ 頭 高 型の ア ク セ ント (ヒ下 )2
拍のグルー
プで、
音 韻 だ けが異なっ ている。
これ らの親族呼
称 単 語を使っ て簡 便な聞えの検
査 ができる (図3
)。
「佐 藤さん」 と 「加 藤さん」、
「須 藤さん」 と 「工藤
さ ん」など、聴覚障害者
が聞き間違
う姓や名が多
い。 音 声 は短く区切っ てしまう ほ ど理 解し に く く な る。
短 くて聞き違 えやすい のが2
音 節の愛 称で ある。 例えば、
「たっ ちゃん」と 「さっ ちゃん」、
「き く ちゃん」 と 「い く ちゃん」、
「じ ん く ん」と 「じゅん く ん」な どの愛 称 は、
音 声のリズムや 音 韻の情 報 が似 通っ て いる の で聞き誤
り が起き る。
「○田」 と呼ば れ る名字は100
語 以上 もある。 【井 田さん】 【宇田さん】 【江田さん】 【志田さん】 【須田 さ ん】
に は、
母 音 や 子 音の特 徴が含
ま れ ているので、
簡 便 な 聞こえの検 査に応 用できる。6
.
聴 力の衰 えの擬 似 体 験新生児の音に対 する感 度は まだ 普通の
10
分の1
ほ ど しかないが、
その後、
たっ た数ヶ 月の間に脳の重 量 が急速
に増 加す るのに あ わ せ聴覚
も急激
な伸
びを 示す。 青 年 期の聴 覚は最も感
度が良い の で、
人間の 平 均 的 な 聴 力レベル (オー
ジオ グラ ムの0
デシ ベル ) は、
18
歳
か ら24
歳
ま での 耳に病気
の ない人 の聴
力 を測 定し基 準 を定めてある。40
歳を過 ぎる頃か ら人 は誰で も聴 力が衰 え始め る。
加 齢に よ る老 人 性 難 聴 は、
低い周 波 数に対 する感 度よ り も2000
ヘ ルツ以 上の高い周 波 数の音に対 する感 度から悪 くなっ て い く。
少しずつ聴
力が低
下して い くの で本
人 は気
がつ か ない こと が多い。70歳代
に な る と高
い周波数
の聴
力 は中等度の感音 難 聴になっ てしま うのが普 通である。 % 1◎e 60 圀気
60筈
轟
如 数ao
e.
45 55、
667
§:「
・
・、
f働ミ1
:』
歳 年 齢 日常会話の小さめの声がどれくらい聞ぎ取れるかについて、
聞こえやすさの指数を年齢と男女に 分けて推定して ある。
横線は補聴器を麟要とするか しないかのボー
ダー
ライ ン。
図4 年 齢による聞こえや す さの変化 と補聴 器 を必 要とするレ ベ ル高
い 周波数
か ら難聴
は始
ま り、
次 第に低い周波 数 の聴 力も衰うえて い く理 由は、
蝸 牛の有 毛 細 胞の並 び 方に関 係がある。
高い周 波 数を受 け 持つ 有 毛 細 胞 は蝸 牛の一
番 初め に位 置し て い る。奥
の方
に並ん で いる低い周 波 数 を受 け 持つ有 毛細 胞に比べ、
入口で は全て の音
の周波数
成分
が そ こを 通 り過 ぎるため振 動刺激
の被害
を受け ること が多
い か らで は ないか と 考 えら れて いる。
最
近は高 齢 者や身体 障 害 者のか らだの不 自 由 さを 理 解し て も ら う た めの様々 な道 具 や装
置が用 意さ れ、
比 較 的 容 易に運 動 機 能の障 害 を擬 似 体 験 する機 会が も て る よ う に なっ た。
し か し一
方、
感 覚 障 害 と呼ば れ る聴 覚 や 視 覚の障害を擬 似 体 験 する た めの 方 法や装 置の開 発は余り進ん で いない。
特に聴 覚の 障 害は他の 人 か ら は直 接 見 え ない の で気づ かれに く く、
聞こえの障 害を適
切 に解
説 する手段
が少ない の で、
他の障 害に比べ 理 解 が 遅 れて いる。“
音の損 失”
といわ れ る 「伝音
難聴
」 は、
耳栓をするな どの方 法デ ザ イ ン 学 研 究 特 集 号 SPECIAL
ISSUE
OF
JSSD
Vol
.
13No.
32006 51灣 鱇 と 難
i
聽の鱒慊TAKESH
た け し 曇TASAN
た さ ん も と の声孱
TAKESH 婁了ASAN た け し た さ ん 音 が小 さ くな る灘
霽
。糟i
轉 黛 蕾 縫 聴,
TAKESH 善下ASAN
あ え い あ あ ん K、
S、
T音な ど が聞 き取 れなし 、 歯商塗一
靆
艱毯 髦
s、
毫
参
‘騒音があると音がぼ や けてしま う
会
Ll
2
縄
反 響のある所では音 が歪 んでしま う 「あれ はいか ん」ワ? 聞 こえ た音 のイ メー
ジか ら類雑 して 判断 する 図 5 伝 音 難 聴 と感 音 難 聴 で比 較 的簡 単に体 験で き る。 しかし、
“
聴 覚の損 失”
といわ れる 「感 音 難 聴」 の聞こえ方を、
聴 力が 正常 な者
が体験
するのは困難
で あ る (図5
)。
両 耳 を 自分の指 を 栓に して塞 ぐ と音が 小 さく な る。
これ が 中等度
(聴
力レベ ル40dB
程度)
の 伝 音 難聴
の 聞こえであ る。市
販の耳栓
を外 耳 道に しっ か り装 着 する と、
音 声の主 な 周 波 数 帯 (500 〜4000
ヘ ル ツ)でおよ そ聴 力レベル40
デシベル程度
の伝音難
聴を擬 似 体 験す ること が で き る。
伝 音 難 聴を体 験 す る こ の状 態で、
周 囲か らの音を大きく して聞か せ る と 正常
な聴
力の 聞こえ と変
わ ら ないこ と が確 認で き る。
外 耳 や 中 耳に障 害のある伝 音 難 聴の耳に は、
大 き な 声で話 す か 補 聴 器で音 声 を 増 幅 することで聴 力 が 比較 的 簡単
に回復
する こ と が分か る。
耳 栓をつけ たま まの状 態で声 を 出 すと、
自声 がこ もっ て大 き く聞こえる。
伝 音 難 聴の場 合に は自分の喉
か ら出し た音の振 動が 自分の頭の骨を伝わっ て直 接、 正 常 な 働 き をする内 耳に入っ て聞こえる。 これ を 「骨導聴
力 」 とい う。感音難
聴の場合
に は骨を伝 わっ て き た音
が直接
内 耳に届い て も、
肝 心の内 耳に 障 害 が ある の で 「骨 導 聴 力」 が 活か され ない。
感 音 性の難 聴 者が 比較 的 大き な声で 話す傾向
が あった と すれば、
自声がフ ィー
ドバ ッ クし ないからである。一
方、
伝 音 性の難 聴の 人は骨 導を通し て 自分の 声 は む し ろ よ く聞こえ るの で 小 さい声で話 す 傾 向が あ る。
正常
な聴 力の人 は周 囲が騒が しい と騒 音に負 け 図 6 難 聴 の聞こえの模 式 図 まい と自分の声 を 大 き くして しま う。
一・
方、
伝 音 性 の難 聴の人 に は外か ら入 る騒音
が少ない ので、自
声 を小さ く し て し ま う。
難 聴の耳が聞い て いる音はどんな ものなのか、
実 は健康
な耳の 持ち 主 に は耳 栓で体 験で き る伝 音性の 難 聴の聞こえ しか知り得ない。
感 音 性の難聴の人が 説 明して くれる表現で は、
例 え ば プー
ルの底か ら水際
に立っ た 人の話し声を聞く感
じだと か、
破れ たス ピー
カー
の歪 ん だ音 を 聞 く感じだとかい うことが 多 い。
こうし た比 喩か ら想 像 する と、
感 音難聴
の聞こ え は単に音が小さ く な るだ けで は な く、
想像で き な い ほどに元の音は歪ん で し まい、
音と しては聞こえ て いるの に何を言っ て いるのか弁別しにくい とい う 特 徴が あ る よ うだ。
感 音 難 聴の聞こえ を聴 覚の正常 な 者 が 実 際に体 験 すること は容 易で は ない ので、模
擬 的に音
や 画像
を 加工した 難 聴の シ ミュ レー
ショ ンビデ オ がい くつか 作 成 されている。
高 齢 者の聞こえの特 徴を、
単に音 が 小 さ く聞こえ るだけ で な く、
母 音 (アイ ウエ オ) よ り も高い周 波 数 成 分の多い子 音 (特に 力行、
サ 行、
タ行 )が聞 きにく く な り、
特に周 囲の ノ イズや響き の良すぎる (残響
のあ る) 場 所で は話の内容が分か り にく く なるといっ た 特 徴 を、 「た けしたさん」 の 音 声を素 材に模
式 的に 示 し た (図6
)。
難 聴 者の 聞こえの 特 徴は、
難 聴の程 度、
聴 力型、
感 音 難 聴と伝 音 難 聴な どの条 件によっ て実 際はさ ま52 SPEC■AL ISSUE OF 亅SSD Vol
.
13No.
32006 デ ザイ ン学研 究特集号ざ まである
。
しか も難 聴に よ るハ ンディキャッ プの様
子は、
人の能
力や生き方
などに よっ て異 なっ て く る。
一
般の人 が 障 害を もつ 人に直 接かかわ らな い ま ま、
擬 似 体 験をしただ けでその障 害を理 解 した と思 い込ん で は な ら な い。
おわり に 障 害さ れた聴 覚 器 その ものを直そ う とする研 究も 確 実に進んで い る。
鳥の有 毛細 胞は聴 覚 障害を起こ すと別の 細 胞が そ れ に代 わっ て生 え 替 わり、
有 毛 細 胞を再生 さ せ る メ カニ ズム を持っ て い ること を ヒ ン トに、
多 くの人の難 聴 を引 き起こして い る有 毛 細 胞 の欠損
に対し て再 生の 可能性
が追求
さ れ始
まっ た。
感 音 難 聴は治ら ない、
治ら ない か ら聾 者で し か あ り え ない。
だか ら聾 者と して の アイデ
ィ ンティテー、
聾 者の世 界、
聾 文 化をつ く るべ き との考 えに対 して、
一
一
部 見 直し が 必要な時 代が予見さ れ る。
空 気 中に生 まれ た 生 物と して の ヒ トは、
音 刺 激に触
れ そ の 恩恵に浴 する権
利が あ る。
重 度な聴覚障
害 者 が 補 聴 する ことの意 義に は、
たと え残 存 保 有 する 聴 力が 「音 声 (話し言 葉 )」 の 聞き分 けに は役 立 た な く と も、
「音 (環 境 音な ど)」が聞こえ るこ と に よ り生活の空 間や感 性が広が り を見せ るという側 面が ある。
音 声こ とばを 必ずし も聞き取る 必要の ない
情報保
障 環 境に恵 まれ、 手 話 をコ ミュ ニケー
ショ ン手 段と している最 近の多
くの聾 青 年が、
それで も補 聴 器を 外さず
「音の 世 界」 に も接し ている。
「音を感
じ る 世 界と言 葉を見る世 界」 と に自分を う ま く融 通さ せ た 新 しい タイ プの聾 者・
難 聴 者 が 生 まれ 育っ てきて い る。
彼らの多
く は、自
分の好
き な音
楽を常に身近 に おい て聴 くことを好 む。
「人工内 耳 を 装 着し て手 話を使 う聾 者」 の出 現が更に促 されて いる。21
世 紀の聴覚
障害者
の音 環 境は、社会
の変
化と科 学 技 術の進 歩に合 わせ て着 実 な 進 展 を 見せ て いる。補聴
器と 人工 内耳 は、
人の一
生の早 く か ら遅くまで 長期
に わ たっ て装
用 さ れ る よ う に な る。
宇 宙 旅 行に 出て い く聴 覚 障 害 者も予 想を超え て早く出 現 する と 思わ れる。
現 在の耳かけ形、
耳 穴形の補 聴 器は、
地 球の 引 力の影 響を含
め て耳介
に う ま く載
っ ている。
無重力 状 態の生活で使 用に不 都 合は ないか な ど、宇
宙 時 代に合っ た補 聴 機 器の様 式につ い て も今 か ら検 討し て お く 必要が あ ろ う。
【参 考文献】 1) 聴 覚 サ ポー
トガ イ ドー
あ な た の 耳 は 大 丈 夫?:大 沼直紀、
PH P研究所、
1998年 2)補 聴 器 と 人 − 内 耳、
CLIENT 21−
21世 紀 耳 鼻 咽 喉 科領域 の 臨 床 (野 村 恭也・
小 松崎篤・
本庄巌 編 )、
第13章「補 聴器 と 人工内耳」;大沼直 紀、
中 山 書店、
2001年 3)新 臨 床 耳 鼻 咽 喉 科 学、
第2巻一
耳 (加我君 孝 編 )、
第11章 「補 聴 器・
人工内耳・
リハ ビリテー
ション」:大 沼 直 紀、
中 外 医学 社、
2002年 4)教師と親の た め の補 聴器活用ガイ ド:大 沼 直紀、
コレー
ル社、
2002年、
5)聴覚障害教育に お け る人 工内耳適用 の 現状と課 題:大沼 直 紀、
特 殊 教 育 学 研 究 第35 巻3号、
1997年 6)聴覚 障害 者の聴 能 :大沼直 紀、
知 能と情 報、
Vol.
16,
No.
6、
日本 知 能 情 報ファジィ学 会、
2004年 7)聴覚補 償と情 報 保 障一
人 工内耳 を着け手 話を使う人の出現一
: 大沼直 紀、
聴 覚 障 害 教 育工学 (日本聴 覚 障 害・
教 育工学 研 究 会誌 )、
Vol.
28,
No.
1、
2004年デ ザ イ ン 学 研 究 特 集 号 SPECIAL