終末期の在宅療養における住まいと住まいかたに関する探索的研究
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(2) 研究の背景と目的 高齢化社会・多死社会を迎え在宅医療の重要性が増しているなかで、「すまい」は地域包括ケ アシステムの理念において「医療」・「介護」・「保健」・「生活支援」の 4 つの構成要素の基盤として の位置づけがなされ、その重要性は終末期の在宅療養においても同様であるといえる。しかしな がら、在宅で療養する終末期患者の住環境に関する既往研究の蓄積は、医学・看護学領域だけ でなく建築学領域においても極めて乏しく、終末期の在宅医療においてどのような住環境が必要 とされているのか、また、実際の終末期の在宅療養で問題となる住環境上の問題点は何か、との 問いにこたえる学術的なデータはほとんど存在しない。住み慣れた地域で最期まで過ごすという ニーズに応えうる「すまい」の目指すべき方向を見定め、地域包括ケアシステムにおける「すまい」 について施策を実のあるものにするためには、まずは終末期の在宅療養における「すまい」の現 状を明らかにしていくことが課題であろう。 そのような背景のもと我々は、医師として実際に在宅医療を実践し、終末期の在宅療養環境に 日々接する中で、在宅療養における住環境に着目し、その調査研究を行ってきた。とくに「患者が 自宅で療養する際に寝室として用いる部屋」(以下、療養室という)の重要性に着目し、その現状 を明らかにする試みを行ってきた。具体的には、終末期において療養室が移動し、それに伴い主 介護者の寝室も移動すること 1)、療養室設定のされ方にはいくつかのパターンが存在し、それら の傾向はがん患者と非がん患者において異なる傾向をもつこと2)、がん患者においては、療養室 設定のされ方と患者の ADL の間に有意な関連性が存在すること 3)などを明らかにしている。今後 は、より探索的に終末期の在宅療養において必要とされる住環境の特性や改善すべき問題点を 明らかにしていくとともに、療養室設定に関する仮説を、実際のすまい手である患者・家族の視点 に基づいて検証していく必要があると考えている。 今回の研究の目的は、終末期患者を自宅で介護した経験をもつ遺族へのインタビュー調査を 行い、そこから得られたデータを質的に分析し、終末期の在宅療養において、住まい手に求めら れる療養環境の特性を抽出し、療養室の設定プロセスを探索的に明らかにしていくことである。.
(3) 研究の方法 平成 27 年 1 月 1 日以降に、東埼玉病院内科・総合診療科での訪問診療を受け、亡くなったがん および非がんの終末期患者の遺族のうち、研究者間での協議により対象者を決定した。理論的 サンプリングの手法により順次対象者を選定し、終末期の在宅療養環境の設定プロセスについて、 インタビュー調査を行なった。10名に対してインタビュー調査を終了した時点で、理論的飽和が得 られた。調査に先立ち、1名の研究者が、対象者に研究の主旨を説明し、承諾が得られた場合の み調査の参加者とした。インタビューを行う前に、研究の主旨や倫理配慮を含めて説明文書に基 づいて詳しい研究内容の説明を再度行い、文書で同意が得られた場合に、調査の参加者とした。 対象者全員から同意が得られ、調査参加者は計10名であった。 具体的なデータ収集を行うために、対象者の了承を得た上で、実際の終末期療養の場である 自宅でインタビューを行った。インタビューの内容はICレコーダーに録音し音声データとして記録し た。共同研究者が同席し、観察ノートをつけ、分析の参考とした。インタビューは、あらかじめ作成 された面接ガイドに基づく半構造化面接で行った。インタビュー終了後、逐語録を作成してテキス トデータとした。すべての逐語録を、質的研究の分析方法の1つである SCAT(Steps for Coding and Theorization) の手法を参考に分析を行った。分析は、複数の研究者(T.T, T.I)で協議しながら 行った。共同研究者(T.I)は実際に訪問診療に関与している医師であり、インタビュー対象者の選 定や SCAT 分析の協議への参加、およびインタビューに同席し観察ノート作成の役割を担った。. 利益相反、倫理的配慮について 本研究に関与する研究者の全員について,本研究に関して報告すべき利益相反はない。 本研究のデータ収集方法は面接調査であり、対象者への不利益や危険は少ないと考えられた が、対象者に肉体的、心理的負担がかからない様に、調査を行う時間を 1 時間以内とする配慮を おこなった。本研究は独立行政法人国立病院機構東埼玉病院倫理委員会の承認を受けている。.
(4) 結果 まず、患者が自宅で療養する際に就寝場所として用いる部屋、ないしスペースを「療養室」、「療 養スペース」と定義する。住居内のリビング・ダイニング・キッチン、一般的に LDK と呼ばれるスペ ースや、それに準ずる機能を持ったスペースを「LDK」と総称する。隣接する2つの部屋が開閉可 能な建具で仕切られ、それを開放すれば一体感のある空間となり、閉鎖すればそれぞれ独立した 空間となるような構造を「続き間」構造と呼ぶ。. 今回、調査対象となった10のケースにおける療養室のパターンを、LDK との空間的な関係性に 着目して以下の3つに分類した。. 1) 「LDK 一体型療養室」 : LDK の一部にベッドを設置し、療養スペースとするパターン. 2) 「LDK 連続型療養室」 :LDK に続き間が隣接し、その続き間を療養室として使用するパターン. 3) 「独立型療養室」 : LDK から空間的に独立している部屋を療養室として使用するパターン.
(5) 続いて以下に、ケースごとに、ストーリーラインおよび療養環境設定のプロセスにおいて重視さ れた因子を記述する。. ケース 1 <ストーリーライン:ケース 1> LDK 一体型療養室 老衰で寝たきりの高齢者を、同居する嫁が主介護者として介護し在宅で看取ったケースである。 リビングとダイニングキッチンとの間をスライドドアで仕切ることができる構造になっており、リビン グのスペースを療養スペースとしていた。LDK 連続型療養室に近い構成だが、普段はスライドドア を閉じることはなく、ほぼ完全に一体化した LDK として使用されていたため、ここでは LDK 一体型 療養室に分類した。元々は一階にある別の部屋を寝室としていたが、老衰が進行し寝たきりにな った時点から一階のリビングの一部を療養スペースとして設定した。本人の意思決定能力は低下 しており療養環境の設定は主介護者が行った。 LDK 一体型の療養室を選択した最大の理由としては、家族による見守りのしやすさがあげられ た。居間を療養スペースとすることで、療養スペースと家族の共有スペースの重なり合いが生じ、 見守りやすい環境が形成されていた。本ケースでは在宅酸素療法が行われており、その安定的 な実施のための見守りが重要と介護者は考えていた。主介護者は寝室を移動せず二階の寝室で 就寝しており、介護者の日常生活様式の維持も重要視されていた。その結果、夜間には見守り体 制が希薄になるという、時間による見守りの濃度差が生じていたが、主介護者の介護に対して無 理はしないという姿勢や、看取りの瞬間に立ち会うことに執着しないというスタンスも、別室就寝を 選択した背景としてある。その他、患者と家族が「アットホーム感」を共有したり、患者が寂しさを感 じないようにする、という意図や、たまたまそこにスペースがありその他の生活領域に影響が及ば ないという理由がリビング一体型療養室が選択肢された背景としてあった。住居内にはリビング 以外に客間があったため、来客時に対応に苦慮することはなかったが、LDK に来客があるときに はスライドドアを閉じて療養空間を LDK から分離してプライバシーの確保を行っていた。療養室に おけるベッド配置において重視した点としては、⑴介護のしやすさ、⑵北枕の回避、⑶照明、⑷テ レビの見易さ、が挙げられた。本ケースにおいては、寝たきりでおむつ排泄だったことにより、療養 室とトイレの近接は重要視されなかった。.
(6) <療養環境設定のプロセスにおいて重視された因子:ケース 1> カテゴリー. サブカテゴリー. 見守りやすさ. 日中主介護者が時間を過ごすことが多い LDK の一部を療養 スペースとする. 在宅医療機器の確実な使用. 在宅酸素が外れないようになるべく近くにいて見守る. 介護のしやすさ. 近くにいてもらうことで介護の効率をあげる. アットホーム感の共有. 家族皆の談笑が聞こえるようにする 患者が家族と一緒にいられるようにする. 無理をしない介護. 見取りの瞬間に立ち会うことにはこだわらない 介護者は夜自分の寝室で就寝する. 住まい方を変えないこと. 空きスペースに介護ベッドを置き、他の生活領域に影響が及 ばないようにする. プライバシーの保護. LDK に客がきたときにアコーディオンドアで療養空間を分離す る. 療養室内のベッド配置. 介護のしやすさ テレビの見やすさ 北枕の回避 照明位置. ケース 2 <ストーリーライン:ケース 2> 独立型療養室 娘夫婦が親世代との同居を前提として建てた家に、膵がんの終末期の母親とその夫が転居し、 最終的に自宅で看取ったケースである。元々は高齢夫婦の二人暮らしであったが、主介護者の 娘が自宅に両親を呼び寄せて終末期の介護を行なった(この形式を「呼び寄せ介護」と呼ぶこと にする)。 当初より呼び寄せ介護を想定して建築された住居であったため、床面のバリアフリーのほか、療 養室とトイレとの近接性や療養室から外部への直接アクセスが意図されていた。療養室は独立し た部屋で他室との直接的連続性はないものの、中庭を介して LDK から療養室内の様子がよく見 える造りとなっており、主介護者の娘は LDK にいながら療養室の様子を伺うことができた。主介護.
(7) 者の娘は専業主婦であり、日中は LDK にいることが多かったが、選択や調理など大部分の家事 が LDK で完結する造りとなっていた。したがって家事をしながらほぼ常時、視覚的に見守りを行う ことができ、日常生活と介護の両立が可能となっていた。介護者としてはリビング機能を温存する 以降があり、LDK を療養スペースとして使うことは想定していなかった。患者本人のプライバシー 尊重の面からも、LDK と療養スペースが一体化することは好ましくないと考えていた。一方で本ケ ースでは空間的構造的には LDK と療養室は分離しているものの、両者の間に視覚的なつながり が強く存在したことにより、LDK の機能を温存しながらも見守りが容易となっていた。主介護者の 娘は、当初は 2 階の寝室で就寝していたが、看取り前の数週間は療養室に就寝場所を移動した。 苦痛の増強がみられ、娘による症状緩和の対応の必要性が日中夜間を通して高まったこと、また、 娘が看取りの瞬間に立ち会いたいという希望を強く持っていたことが就寝場所を移動した要因で あった。者は ADL が低下し看取りが近くなってからもトイレでの排泄を希望した。療養室にトイレが 隣接しており、療養室からトイレへのアクセスは短く済むように計画されていた。終末期において もトイレ利用のニーズは高く、患者本人のセルフエフィカシーにおいて重要な意義を持っていると 考えられた。浴室は療養室から離れた場所に位置していたが、トイレほど療養室との近接性は重 視されておらず、排泄行為と比較して入浴行為の重要性が低いことが示唆された。介護ベッドの 設置場所の決定も含めて、療養環境の設定は娘が行っていた。療養室内のベッド配置について は、直射日光を避けること、テレビが見やすいこと、北枕でないことが重視されていた。. <療養環境設定のプロセスにおいて重視された因子:ケース 2> カテゴリー. サブカテゴリー. トイレの近接性. 療養室に隣接してトイレを設置 歩行ができなくなる限界までトイレ歩行する. バリアフリー. 床段差をなくす. 外部空間へのアクセス. 外部に直接出入りできる掃き出し窓 外部空間を生活動線に組み入れることで限られた室内スペー スを有効活用. 見守りのしやすさ. LDK から療養室内部が見渡せる造り 療養室内部が見渡せる領域内で完結する家事スペース 苦痛症状を把握する必要性の増加と介護者同室就寝. リビング機能の維持. リビングには介護ベッドを置かない. 患者本人のプライバシー確. LDK と療養スペースは一体化させずに緩やかに連続させる. 保.
(8) 療養室内のベッド配置. 直射日光が当たらない テレビの見やすさ 北枕の回避. ケース 3 <ストーリーライン:ケース 3> 独立型療養室 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の妻を夫が介護し自宅で看取ったケースである。元々は夫婦共二 階の寝室で就寝していたが、症状進行に伴い階段昇降が困難になったのを理由に一階に療養ス ペースを移した。パーソナルでプライベートな療養環境を重視しており、患者が仕事場として使用 していた部屋を療養室として使用していた。夫の母親が同居し療養していた部屋であり、高齢者 の療養を想定してつくられた部屋であったことも背景としてあった。 夫はリビングに布団を敷いて就寝していた。同室就寝としなかった理由は、療養室に夫の就寝 スペースを確保するのが困難だったという物理的要因と、夫の精神的負担感を軽減したいという 精神的要因が存在した。リビングの接客空間としての機能を温存させたいという希望があり、その ためリビングを療養スペースとする選択はせず、また夫も布団を上げ下げすることでリビングの機 能を失わないような住まい方をとっていた。「接客」の対象には訪問診療の医師や訪問看護師も 含まれており、医療スタッフと、本人に聞かれたくない内容も話すことができるような面談の場所を 確保しておきたいとの意図もあった。夫に看取りの瞬間に立ち会うことへのこだわりはなく、看取り が近いことが分かっていても、同室就寝とすることはなかった。呼び寄せ介護を想定して建築され た住居であり、介護を想定してトイレは広めで療養室に隣接して設けられていた。トイレまでの移 動は車椅子であり、療養室とトイレの近接性は重要視されていた。LDK や浴室との近接性は重視 されていなかった。療養室内のベッドの配置においては、①北枕の回避、②介護のしやすさ、③テ レビの見やすさ、が重視されていた。. <療養環境設定のプロセスにおいて重視された因子:ケース 3> カテゴリー. サブカテゴリー. パーソナルな空間の尊重. 本人が仕事場として使っていた部屋を療養室とする. 階段昇降の回避. 2 階から 1 階に療養室を移動する. 住まい方の踏襲. 親世代が療養していた部屋を療養室とする.
(9) リビング接客機能の維持. リビングを療養室から分離して訪問スタッフと話をするための スペースとして確保 介護者は布団を上げ下げして寝室としての固定化を回避. 介護ストレスの軽減. 別室に就寝することで介護者の安眠確保とストレス軽減を図る 介護者にも介護から離れた時間や空間が必要. トイレ排泄介助のしやすさ. 広いトイレのスペース. トイレの近接性. 療養室の隣にトイレを設計. 見守りやすさ. 無線集音器での遠隔見守りで代用. 療養室内のベッド配置. 北枕の回避 介護のしやすさ テレビの見やすさ. ケース 4 <ストーリーライン:ケース 4> LDK 連続型療養室 大脳皮質基底核変性症(CBD)で寝たきりとなった夫を妻が介護し自宅で看取ったケースである。 元々は夫婦ともに二階の寝室で就寝していたが、転倒し頭部外傷を受傷し入院治療を行い、寝た きりの状態で自宅退院した時点で療養室を一階の LDK と連続する部屋に移した。 主介護者の妻は同室就寝せず、続き間となっているリビングに布団を敷いて就寝していた。リビ ングと療養室を隔てる引き戸は常時開放され、夜間就寝中でも妻に本人の様子がわかるようにし ていた。また、LDK からはテレビを見ながらや家事をしながらでも本人の様子が伺えるような配置 となっており、日常生活の中で無理なく見守りを行うことが意図されていた。一階には LDK とその 続き間しか部屋はなく、療養室の選択肢は少なかった。家具などがほとんど置いていない続き間 にベッドを置き、既存の家具配置などに大きな影響が及ばない選択を行っていた。元々親世代が 療養していた部屋であり仏間的な用途で使われていた部屋であった。転倒して寝たきりとなる前 には、本人は一階での療養よりも二階の元々の寝室での療養を望んでいた。ベッドの配置におい ては、窓から外が見えることとテレビが見やすいことが重視されていた。本ケースでは介護者は別 室就寝であったものの、車椅子などの物品の設置スペースが必要であり、このケースにおける療 養室の広さである8畳以上は必要と考えていた。患者の ADL が低下してくると療養室に生活行為 が集中するようになるが、あえて食事の時には気分転換のためにダイニングに移動するという、.
(10) 寝食分離の維持のニーズがあり、LDK と療養室が分離していることの重要性も示唆された。排泄 は全てオムツ排泄であり理、療養室とトイレの近接性は重要視されていなかった。. <療養環境設定のプロセスにおいて重視された因子:ケース 4> カテゴリー. サブカテゴリー. 見守りやすさ. 就寝中も状態変化に対応できる位置に主介護者が就寝 家事スペースとの近接 LDK と連続する療養スペース. 家族の日常生活維持. 日常生活を行いつつ、無理なく見守りが行える 家事スペースとの近接. 住まい方の踏襲. 空いている部屋を療養室とする 親世代が療養していた部屋を療養室とする 元々の寝室での療養願望. 療養室内のベッド配置. 窓から外が見える テレビが見やすい. 快適な療養室内環境. 日当たりが良い. 療養室の適度な広さ. 8畳以上は必要. 寝食分離の維持. LDK と一体化していない療養室. 外への出入りのしやすさ. 玄関に近い. ケース 5 <ストーリーライン:ケース 5> LDK 連続型療養室 胃がん終末期の夫を妻が介護し、自宅で看取ったケースである。このケースにおいては、療養 スペースも主介護者の就寝場所も移動することはなく、寝具が布団から介護ベッドに変わった以 外には、療養環境の変更が全く見られなかった。 二階建ての住居だが、二階は娘家族が使用しているため生活空間は一階のみに限られており、 療養スペースを移動するにしても選択肢がほとんど無いという状況ではあったが、終末期におい ても、それまでと同じような生活を継続したいという思いがあった。一階の居室は LDK とその続き 間となっている夫婦の寝室のみで、本人、妻ともに日中は LDK で過ごし、夜間は療養室で就寝し.
(11) ていた。続き間構造により LDK と療養室がほぼ一体化していたことで、コンパクトで便利な環境、 さみしくない環境が実現できたと考えていた。看取りの直前まで本人はトイレ歩行をしていたため、 療養スペースとトイレの近接性は重要であると捉えられていた。. <療養環境設定のプロセスにおいて重視された因子:ケース 5> カテゴリー. サブカテゴリー. 住まい方の踏襲. 純粋な寝室としての療養室 療養スペースを移動しない 主介護者の就寝場所を変えない 日中はリビングで過ごす. 療養空間のコンパクト化. LDK と連続する療養スペース. 療養空間と生活空間の一. LDK と連続する療養スペース. 体化 さみしくないこと. LDK と連続する療養スペース. 療養スペースの選択肢が. 部屋数が少ないため療養室を選ぶことはできない. ない トイレの近接性. 療養室とトイレが近い. ケース 6 <ストーリーライン:ケース 6> 独立型療養室 肺がん終末期の夫を二人暮らしの妻が介護し、自宅で看取ったケースである。終末期の在宅療 養においても、2階にある夫婦の寝室を療養室として使用し、療養スペース、主介護者の就寝場 所ともに移動することはなかった。 元々寝室として使用していた部屋は8畳弱で狭いという実感を持っていたが、その狭さに温かみ を感じたり、風通しが良いといった点に愛着を感じてはいた。療養室内では元々キングサイズの ベッドが置いてあったが、終末期の療養においては変わって本人用の介護ベッドと妻用のシング ルベッドが置かれた。ベッドの配置においては、手を繋げるような位置で二つのベッドが置かれ、 終末期においても夫婦の添い寝感が維持できるように意図されていた。かつ、歩行器を使用して のトイレ歩行が容易となる位置となっていた。妻は家事をしながらの見守りやすさや浴室に近いこ.
(12) となどを理由に一階の LDK を療養室とすることを提案したが、その部屋を好み、それまでの住環 境維持を望んだ本人の意思を尊重し、療養室を移動しなかった。本人が LDK を療養室として使用 することを拒んだ理由としては、リビングの接客機能が損なわれてしまい、来客に支障をきたすこ とを避けたかったことと、療養環境が来客の目に触れることで、病気の存在を含めたプライバシー が侵害されることを危惧していたからであった。一階で家事をしている時の見守り手段として、無 線集音器を使用し 2 階の療養室の音声を階下でも聞くことができる工夫を行なっていた。妻として は家事などの日常生活を営みながら見守りができる療養環境を理想と考えていた。. <療養環境設定のプロセスにおいて重視された因子:ケース 6> カテゴリー. サブカテゴリー. 快適な療養室内環境. 良好な風通し. 療養室の適度な広さ. 狭い部屋の温かみ. 療養室内のベッド配置. 配偶者との添い寝感 歩行器でトイレに行きやすい. 自らの意思による療養環. 療養環境(部屋、しつらえ含め)は全て本人が決定. 境づくり. 「とにかくこの部屋が好き」. リビング接客機能の維持. リビングにベッドを置くと来客に迷惑がかかると嫌がった. 見守りやすさ. 無線集音器を使用した遠隔的見守り 妻は一階の LDK を療養室とすることを希望 リビングの続き間が療養室になっているのが理想. 来 訪 者 に対 するプライバ. 来客の視線が届く場所には療養環境を設定しない. シーの確保 住まい方の踏襲. 普段の生活を維持したまま療養したかった. ケース 7 <ストーリーライン:ケース 7> 独立型療養室 肺がんの夫を妻が在宅で看取ったケースである。本人と妻は、娘家族の家に呼び寄せられる形 で 3 世代同居し、一階の四畳半の部屋が夫婦の生活スペースのほぼ全てであった。四畳半の療 養室に介護ベッドを設置し妻の就寝場所も確保せねばならず、療養環境はかなり手狭であった。.
(13) 住居内での娘家族との交流はそれほど多くなく、適度な距離を保った関係性であったこともあり、 リビングなど他の部屋に療養スペースを設ける選択肢は存在しなかった。療養室内のベッド配置 などは本人が決めたが、妻によると、トイレへの行きやすさ、仏壇に足を向けないこと、介護のし やすさ、北枕にならないことを重視して決めていたようでった。狭小な療養環境であったことから妻 は介護のストレスを感じることもあり、その経験を振り返ることを通じて療養環境・介護環境の潜 在的なニーズを拾い上げてみると、患者と介護者の適度な距離感の必要があぶり出された。具体 的には療養室と続き間となっている介護者のためのスペースのニーズが存在した。. <療養環境設定のプロセスにおいて重視された因子:ケース 7> カテゴリー. サブカテゴリー. 療養室内のベッド配置. トイレに行きやすい 仏壇に足を向けない 介護のしやすさ テレビの見やすさ 北枕の回避. 療養環境の設定にお. ベッドの配置は本人が決めた. ける本人意思の尊重 療養スペースの選択肢. 娘家族と同居の事情もあり、リビングなどの生活スペースを療養室と. がない. する選択肢はなかった. 介護者が息抜きできる. 療養室と続き間になっている介護者用スペース. 空間(潜在的なニーズ として). ケース 8 <ストーリーライン:ケース 8> LDK 連続型療養室 3人の子供(小学生、中学生、高校生)を持つシングルマザーが脳腫瘍を患い、看取りまで在宅 で約2年間療養したケースである。患者の実母が介護と子供達の世話のため同居するという家族 構成をとっていた。元々は 2 階の寝室に子供達と就寝していたが、病院から退院して自宅に戻っ た時点で 1 階の LDK と連続する続き間に療養室を設定した。.
(14) 主介護者が家事をしながらでも見守りができる空間構成とすることに加え、子供達が患者と一緒 の時間を多く持てるようにすることも意図されていた。看取りまで在宅療養を行なった背景には、 限られた時間を本人と子供達がなるべく一緒にいられるようにしたいという主介護者の希望があ り、LDK 連続型療養室の空間構造がその実現に大きな役割を果たしていた。主介護者は子供達 が子供部屋にいるよりも LDK で過ごしてもらうことを重視していた。療養室内のベッド配置は、テレ ビの見やすさと、本人の安楽を意図して設定されていた。主介護者は患者のベッドサイドでは精 神的な負担感が強く安眠できなかったため、少し離れているが本人の様子が把握できるリビング に布団を敷いて就寝していた。子供達が友達を家に呼んで遊ぶことも多かったが、子供の友達に 母親の深刻な病状を悟られないようにするために、遊び部屋を 2 階に設けて療養スペースとの分 離をはかっていた。看取り後にも来訪する親しかった知人たちの為にも療養室だった部屋はその まま残している。また、子供達が故人に「ただいま」を言ったり、線香をあげたりする場所として療 養室は現在も機能し続けており、看取り後も本人の為の部屋として維持していこうとする意思があ った。. <療養環境設定のプロセスにおいて重視された因子:ケース 8> カテゴリー. サブカテゴリー. 見守りやすさ. 家事をしながらでも見守りが可能な療養室 LDK との空間的連続(家事空間と療養空間の重合). 限られた時間を子供達と過ごす. 子供達の生活空間と、本人の療養空間の重なりから生 じる、子供と母親が時間を共有するためのスペース(生 活空間と療養空間の重合) 狭くても親密感のあるベッド周りの空間 個々人の空間よりも、家族皆で過ごすための空間を重 視. 療養室の適度な広さ. 狭くても親密感のあるベッド周りの空間. 療養室内のベッド配置. テレビの見やすさ 疼痛を生じない、安楽な体勢をとれる. リビング環境の維持. リビングにベッドを置くとソファが置けなくなる. 介護者のストレス軽減. 本人と適度な距離がある場所で眠る(就寝場所の適度 な距離感). 来訪者に対するプライバシーの確. 子供の友達と顔を合わせなくて済むように 2 階に遊び部. 保. 屋を設定(療養空間の囲い込み).
(15) 看取り後も本人の部屋として維持. 逝去後にも来訪する友人のために、本人の場所を残し. する. ておく 子供達が故人と挨拶したり線香をあげたりする. ケース 9 <ストーリーライン:ケース 9> 独立型療養室 脳血管障害により片麻痺と嚥下機能障害が生じた夫を二人暮らしの妻が介護したケースである。 看取りの場は病院(当院入院中に逝去)であったが、看取りが近い時期まで自宅での療養を継続 した。療養室は元々の自室であった 2 階の部屋で、療養スペースが移動することはなかった。主 介護者の妻は見守りやすさやダイニングや浴室、浴室とも近いことから 1 階の LDK に療養スペー スを移すことを提案したが、本人は受け入れなかった。その理由としては、本人が自分の「城」とし てのプライベートな空間にこだわったことが挙げられた。趣味人であった本人は趣味の物が置い てある自室の空間を好み、妻の同室就寝も受け入れなかった。療養室内の環境設定や家具の配 置についても本人が全て決定したが、原則それまでの生活における住空間を維持することが重要 であり、住まい方を変更することを嫌っていた。2階に独立した療養室がある一方で 1 階は LDK を 主とした間取りとなっている。本人は LDK を「公の場」として位置付けており、来客にも常時対応で きるスペースとして維持していくことを望み、住居内におけるプライベートとパブリックの双方の空 間を明確に分離することを重視していた。したがって、LDK を療養スペースとすることはもちろん、 介護用品や物品を LDK に置いたり、廊下や階段も含めて介護仕様の環境調整を行うことをよしと しなかった。主介護者の妻の立場からは、見守りしやすさが重要視されていたが、同室就寝を本 人が受け入れなかったため、夜間は療養室前の廊下に布団を敷いて就寝していた。妻は、就寝 中も音や気配が伝わってくることが重要と考えており、実現はしなかったが療養室と、妻の寝室を 続き間構造にリフォームすることも検討していた。療養室の環境としては、風通しや日当たりが良 好であることや床段差がないことが優れた点として評価されていた。トイレと療養スペースの近接 は重視されていたが、2 階には元々トイレがなかったため、療養室に隣接してトイレを増設するリフ ォームを行って対応していた。排泄行為の自立は本人のセルフエフィカシーにとって重要な意味を 持っており、トイレへのアクセスは重要であった。食事は 1 階の LDK でとっており、ADL 低下に伴 って生じやすい生活環境のコンパクト化に流れることなく、寝食分離を維持しようとする意思があ った。それによりダイニングと療養室の近接性は重要視されていなかった。あまり外出を好まなか.
(16) ったこともあり、療養室と玄関や外部空間との近接性は重要視されていなかった。. <療養環境設定のプロセスにおいて重視された因子:ケース 9> カテゴリー. サブカテゴリー. 療養空間のコンパクト化. ダイニングとの近接. (潜在的ニーズとして). 浴室との近接. プライベートな空間・時間. 自分のためだけの閉鎖的な空間 妻の同室就寝を嫌がった. 自分の「城」としての療養. 本、登山、日曜大工などの趣味のものがたくさん置いてある空間. 室 住まい方を変えないこと. 療養スペースはベッド等の配置含めて変更はなかった. パブリックスペースとして. 来客にいつでも対応できるスペースとしてそのままにしておく. のリビングの維持. パブリック・プライベートの明確な分離 自分の趣味のものや介護用品などは LDK には置かない. トイレとの近接. 2 階の療養室に隣接してトイレを増設した セルフエフィカシーと関連する排泄行為の自立. 寝食分離の維持. 食事をとる時には 2 階の療養室から 1 階の LDK に降りる 階段昇降のバリアの存在. 住居を介護仕様にすること. 手すりは使わず、登山用ロープを使って階段昇降した. への抵抗感 手すり電動階段昇降椅子の設置を嫌がった 見守りのしやすさ. 夜間の見守りのために妻は療養室前の廊下に布団を敷いて就 寝 音や気配が伝わることの重要性 療養室と介護者寝室が続き間になっていること(潜在的ニーズと して). 自らの意思による療養環. テレビ台や室内環境調整スイッチの作成を自分で作った. 境づくり. 1 階の LDK を療養スペースにしよういう妻の提案は却下された. 快適な室内環境. 良好な風通し 床段差がない 日当たりが良い.
(17) ケース 10 <ストーリーライン:ケース 10> LDK 一体型療養室 肺がん終末期の妻を夫と娘が介護し、集合住宅の一室である自宅で看取ったケースである。 自宅退院してくる時点で、LDK の一角に介護ベッドを搬入し療養スペースとしていた。LDK 一体型 の療養室とした理由は、家族と一緒に過ごす時間を多くしたいとの本人および家族の意向の他、 本人が趣味の時間を過ごしていたお気に入りの場所を療養スペースとすること、家族による見守 りが行いやすくすること(日中は家事などをしながら常時夫が LDK に滞在し、夜間は娘がベッドサ イドに布団を敷いて就寝した)、ひいては見取りの瞬間に家族が立ち会えるようにすること、訪問 診療や訪問看護の医療ケアに必要なスペースや在宅医療機器の設置に必要なスペースを確保 することが挙げられた。主介護者である夫は LDK との続き間である寝室に就寝し、LDK と一体化 した続き間の空間使用は行っていなかった。この背景には主介護者寝室のプライバシーや夜間 の安眠確保への意図があった。看取り直前までトイレ歩行をしており、トイレとの近接性は非常に 重視されていた。その他、ダイニングや浴室、玄関など他の住居内要素との近接性は重視されて はいなかった。療養室内のベッド配置の決定要因としては、テレビの見やすさ、酸素濃縮機との 位置関係、ベッドから LDK 全体が見渡せること、ケアに必要なベッドサイドのスペースが確保でき ること、が重視されていた。. <療養環境設定のプロセスにおいて重視された因子:ケース 10> カテゴリー. サブカテゴリー. 家族と過ごす時間を. 家族が集まる LDK に療養スペースを設定. 多く持てる. 本人が家族の顔が見える環境を希望し、安心感を得ていた. 本人の好きな場所を. 趣味の編み物や音楽鑑賞をしていたリビングのお気に入りの一角に. 療養スペースとする. ベッドをおいた. 見守りやすさ. LDK に療養スペースを設定 娘はリビングに布団を敷いて就寝 日中の介護者である夫は家事や介護のため常時 LDK にいた. 看取りの瞬間に立ち. 最後の瞬間まで家族が一緒に過ごせるようなスペースで療養すること. 会うこと. が重要. 在宅医療のための必. 訪問スタッフ(医師・看護師)による医療・ケア行為に必要なスペース確. 要スペースの確保. 保.
(18) 医療機器(酸素濃縮機や輸液関連機器)を設置するためのスペース 確保 介護者寝室のプライ. LDK との続き間となっている主介護者寝室を一体化した空間として使. バシー確保. うことはなかった 夜間は介護・見守りは娘に任せ、休むようにしていた. トイレの近接性. 構造上トイレまでの動線に手すりをつけることができなかったが近かっ たので不要であった トイレは近ければ近いほどよい. 商 用 室 内 の ベ ッ ド配. テレビの見やすさ. 置. 酸素濃縮機との位置関係 LDK 全体が見渡せること ケアに必要なベッドサイドのスペース確保. まとめ :. 終末期の在宅療養環境設定において. 重視される因子 遺族インタビューから得られた質的データをもとに、看取りを含めた終末期の在宅療養環境を設 定・構築するプロセスにおいて、どのような因子が重視されているのかを、計 10 のケースについて、 SCAT の手法を用いて分析した。それぞれのケースにより、当然のことではあるが、療養環境の 設定において重視している因子にはばらつきが見られる。概ね全てのケースに共通すると考えら れる普遍的な因子もあれば、その患者や家族の考え方やライフスタイルといった個別性の高い背 景に大きく影響を受けると考えられる因子も存在する。ここでは、個別の分析からさらに一歩進ん で、より一般化した分析を行うために、10 のケースにおいて抽出された全ての因子を対象に、研 究者間の協議を通じて検討および分類整理を加え、最終的に18の因子を抽出した。その結果を 表1に示す。.
(19) 表1 終末期の療養環境設定において重視される18因子. 見守りやすさ. 家族が本人の状態を把握しやすい環境. 介護しやすさ. 効率的な介護が可能となる環境. 家族と過ごす. 本人が家族とともに過ごす時間を多く持てる環境. コンパクトな療養空間. 食事やトイレなどの日常生活行為が狭い領域内で完結する環境. 看取りの瞬間に立ち会う. 息をひきとるその瞬間にも家族がそばにいることができる環境. 添い寝感. 家族がすぐ隣に寝ていて安心感がもてる環境. 介護者ストレスの軽減. 介護者のストレスが蓄積しにくい環境. リビング機能の維持. 共用スペース・接客スペースとしてのリビングの機能が保たれる環 境. 住まい方を変えない. 病前の生活様式をそのまま保つことができる環境. 自分の城としての療養室. 患者専用の空間を療養スペースにできる環境. プライバシーの保護. 来訪者に対して本人や家族のプライバシーを保てる環境. 適切な療養室面積. 狭すぎず、広すぎない療養スペースが設定できる環境. トイレへのアクセス. 療養スペースからトイレへ行きやすい環境. 外部空間へのアクセス. 療養スペースから外への出入りがしやすい環境. バリアフリー. 床段差や階段がなく移動の安全性が確保されている環境. テレビの見やすさ. ベッドに臥床しながらテレビが見やすい環境. 北枕回避. 北枕にならないベッド配置が行える環境. 風通し・日照. 風通しや日照が良好で快適な環境. さらに、これらの因子のうちいくつかは、療養室の形態(LDK 一体型か独立型か)および主介護 者就寝場所(患者と同室就寝か別室就寝か)の選択のされ方と関連していると考えられた。それ ぞれの因子と、療養環境設定され方の関係を模式的に示したものが図1である。.
(20) 図1 重視される因子と療養環境の設定のされ方との関係. 「見守りやすさ」、「介護しやすさ」、「家族と過ごす」、「コンパクトな療養空間」の各因子は、LDK (もしくはそれに準ずる空間)の一部に療養室を設ける「LDK 一体型療養室」との親和性が高いと 考えられた。これらの因子と対照的な関係にあると考えられた因子としては、「リビング機能の維 持」、「住まい方を変えない」、「自分の城としての療養室」、「プライバシーの保護」があり、これら の因子は LDK とは空間的に分離されている「独立型療養室」との親和性が高いと考えられた。介 護者の就寝場所による分類に着目すると、「介護者同室就寝」と親和性が高い因子として「見守り やすさ」、「介護しやすさ」、「家族と過ごす」、「看取りの瞬間に立ち会う」、「添い寝感」が挙げられ た。反対に、「介護者別室就寝」と親和性が高い因子としては「介護者ストレスの軽減」、「自分の 城としての療養室」、「プライバシーの保護」が挙げられた。残る「適切な療養室面積」、「トイレへ のアクセス」、「外部空間へのアクセス」、「バリアフリー」、「テレビの見やすさ」、「北枕回避」、「風 通し・日照」の各因子は、療養室の設定パターンや介護者就寝場所とは直接的な関連性は乏しい と考えられ、どのような療養環境においても比較的普遍的に存在しうる因子と考えられた。.
(21) 考察 LDK(もしくはそれに準ずる空間)との一体化を求めるか否か、また、介護者の同室就寝を求める か否かは、非常に個別性が高く4)、また同一個人や同一家庭内でも経時的な変化が生じうるニー ズであり(歩行 ADL 低下が LDK 一体型療養室選択と関連していることを我々も明らかにしてきた 3). )、これらのニーズを断片的に切り取り、固定的なハードウェアとしての建築・住居に反映させる. ことはリスクと困難が伴う。したがって、終のすみかとして終末期の在宅療養に対応できる住宅が あるとすれば、それが備えるべき特性は、これらの一見背反するニーズに応えることのできる多 面性・可変性であると考えられる。 この多面性・可変性を実現するための解決方法として有効と考えられる空間構造の一つに、「続 き間」が挙げられる。LDK(もしくはそれに準ずる空間)に隣接して続き間を設置し、両者を開閉可 能な建具で仕切り、その続き間を療養室として設定することにより(LDK 連続型療養室)、療養室 空間を LDK と空間的に連続させたり、独立させたりすることが容易となる。このように、続き間構 造により多様なニーズに対応しうる療養空間を構築している例は、今回の調査の中でも複数見受 けられた。要介護高齢者の住まいにおいて続き間が有効な役割を果たしているとの指摘もあるが 5). 、これは高齢者に限らず、在宅で終末期を過ごす患者においても、LDK との続き間を療養室と. する空間構成が、終のすみかとしての住宅において重要な役割を果たしうる可能性が示唆され た。 今回、終末期在宅療養環境の設定プロセスにおいて重視されるものとして 18 の因子を抽出した。 それらのうち特に注目すべきものとしては、住まい方を変えないこと、プライベートな空間としての 自室の維持、パブリックな空間としてのリビング機能の維持といった、病前からの住環境を保持し たいというニーズが複数のケースで見られ、しかもこれらが患者本人の意思であったという点が挙 げられる。今回は遺族を対象とした調査であるため、患者本人のニーズを直接反映していない点 が本研究の限界ではある。しかしながら間接的にではあるものの、患者から住まい方保持へのニ ーズが抽出されたということからは、病前の住環境を維持したまま療養し、そのまま最期を迎えた いという、「住まい方を変えない」ことへのニーズが広く一般的に存在している可能性を考えるべき だろう。我々の過去の調査においては、終末期の在宅療養においては多くの患者がそれまでの 寝室とは異なる場所を療養スペースとしていることが明らかとなっているが 1)、実はそういった療 養環境の改変は患者本人からすると不本意なことであるのかもしれない。住環境を大きく変える ことなく、終末期において生じてくる様々なニーズを吸収することができる「終のすみか」を検討し ていく必要があると考えられる。.
(22) 参考文献 1)外山哲也、木村琢磨、今永光彦. 在宅に戻った悪性腫瘍終末期患者はどのような部屋で療養 しているのか?. 第4回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 2013 年 2)外山哲也、今永光彦、近藤秀一、新森加奈子、木村琢磨. 在宅療養環境の類型化の試み~ 患者と介護者の居場所をめぐって~. 第 16 回日本在宅医学会大会 2014 年 3)外山哲也、今永光彦、近藤秀一.在宅がん終末期患者の療養室設定に関連する因子について の検討. 第 17 回日本在宅医学会大会 2015 年 4)井上由起子ら、在宅サービスを活用する高齢者のすまいに関する考察、日本建築学会計画系 論文集 第 556 号、137-143、2002 年 6 月 5)山本和恵ら、要介護高齢者の住まい方にみる続き間の有効性に関する事例的考察、日本建 築学会計画系論文集 第 586 号、17-23、2004 年 12 月.
(23) 感想 終末期の在宅療養や在宅看取りの現場に日常的に接する機会をいただくのは、我々在宅医療 に携わる医療者の特権とも言えるかもしれません。建築や住環境に関する研究を、医師が行うこ とはいささか場違いな印象を持たれてしまうかもしれませんが、終末期の在宅療養の器となる住 まいの研究に関していえば、そのフィールドに日々身を置く我々医療者にしかできないものもある と考えています。日常の診療業務を行いながらの研究活動は苦労の多いものでしたが、これまで 漠然と少しずつ考えてきた終末期の在宅療養環境について、研究報告としてひとつの形にできた ことは私個人にとっては非常な喜びであり、この研究に対してご理解とご助成をいただいた勇美 記念財団には厚く御礼申し上げます。また、インタビューにご協力いただきましたご遺族の方々に もこの場を借りて改めて厚く御礼申し上げます。貴重なお話をいただき本当にありがとうございま した。今後は、本研究の成果を生かし、さらに「終のすみか」についての考察を深め、得られた知 見を発信していけるように精進して参る所存です。.
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