学校経営における校長への期待と役割
河原 恵
On the Roles the
Principal
is expected to play in School Management
Satoshi KAWAHARA
キーワード:校長の権限と責任、課題認識、教育価値の発信、教育文化の伝達 1 はじめに 戦後70年がすぎ、成長社会から成熟社会へ移行しつつある日本においては、人間のもつ価値観や社会の 在り方を問い直し、未来を見据え、方向を示すことが重要である。特に、文化を創造し豊かな暮らしの基盤 となる教育の果たす役割は大きい。日本の戦後社会は高度経済成長によって発展し、国民一人ひとりが成長 を実感し、豊かな生活を手に入れた。一方、過激な競争の中で人間関係が希薄になり、自分自身の価値を他 の人との比較でしか測ることのできない子どもが増えてきた。他人の目を極端に気にし、自分の考えや意見 を率直に述べることのできない子どもも多い。大人もまた、競争社会の中で上司や同僚の顔色をうかがい、 自分がどのように評価されているかに意識を集中するようになった。自分を表現する時も他者から批判され ることを避けるため、本音を語るのではなく表面的に説明するだけである。他者と議論をし、対立を乗り越 えて新しいものを生み出そうとする人は少なくなっている。それぞれの人間が自らの役割や責任を自覚し、 他者と議論し、共同して課題を解決することを通して、新しい価値観や新しい社会の姿を求め共有するとい う本来の営みが失われているように思う。これが現代の課題である。 こうした課題を踏まえ、現状から脱却するためには政治の力や経済の力も必要であるが、「教育」の力が重 要な鍵を握ると考える。その理由は、新しい社会の在り方を真摯に問い、確かな未来を構築していくために は人類のあるべき方向を示し、未来社会を担うことになる人を育てていかなくてはならないからである。経 済優先主義、合理主義の中で、物質的、効率的な価値を第一とすることで、競争に勝つことが目的となり、 本来あるべき人間関係が希薄化し、格差が拡大してきた。また、人間的価値や社会的な豊かさを育むべき家 庭や学校の在り方や価値観が不明確となり、教育の在るべき方向性を見失い、深刻な状況に陥っているよう にも感じる。そのことが、学校や家庭に深刻な影響をもたらしている。子どもの豊かさを育み、社会の形成 者として共に生きていくため学校と家庭が協働して教育に取り組むことが必要である。政治や経済など社会 からの提案や要請を受け、様々な教育改革が行われているが、どのような子どもを育て、将来どのような社 会を構築していくのかを基本において、教育に携わる者が主体的に教育施策を進めていかなくてはならない と考える。 そのためには、教員の資質を向上し、使命感や識見を高め教育の方向を明確にし、信頼される教育に取り 組まなければならない。また、管理職の学校マネジメント能力を向上し、リーダーシップを発揮し組織改革 や学校改革に責任をもって取り組むことが必要である。教育行政職員についても、知見や指導力を高めて教 育改革や教育施策に取り組むことが重要である。 教育が未来社会の枠組みと方向性を示すことで、教育と政治と経済が一体となって新しい社会を創ること になる。そのことが地域文化となり、豊かな生活や社会を創造することにつながると考える。 教育が目指すものは教育基本法にあるように、「人格の完成」と「平和で民主的な国家社会の形成者」とし ての資質を醸成することにある。特に学校教育においては、子どもの個としての資質と能力を高めることや 子どもの精神性を育てること、仲間と協働し課題を解決できる力や子供の社会性を育てることである。その恵
*ことを通して学校の雰囲気やクラスの雰囲気、職員室の雰囲気を高め、学校文化を構築することにある。 そのため、校長、教頭など管理職はもちろん、教員や職員も学校文化をつくるという意識をもって教育に 携わらなければならない。その中で子どもを育て成長させることが重要であり、子どもたちは学力だけでな く行動力や精神性、さらには社会性を身につけることになる。その営みを通して、子どもたちや教員、管理 職が、学級集団や職員集団、学校集団を成長させ、そこに学校文化を生み出すことになる。これまでは、地 域が人々をつなげ、集団のルールや考えを持っていた。祭りなどの行事や共同作業があり、人々が地域の住 民として生活し生きる場があった。独特の雰囲気や風土が地域に根付いていた。地域文化が学校を支え、学 校に影響を与え、学校文化を作り上げていた。学校が地域文化に支えられて成り立っていたといえる。しか し、現代社会においては価値観が多様化し、人間関係が希薄になる中で、統一した雰囲気や風土はなくなり、 地域文化が失われつつある。地域文化が失われれば、地域社会が変容し崩壊することは必然である。 教育は、子どもたちの主体性を成長させるとともに、社会性を育て、地域文化の担い手を育てることが重 要である。そのため、学校教育では子どもたちが生きる未来社会の姿をイメージし、子どもたちが身につけ るべき資質や能力、精神性などを培わなければならない。また、学校は教育の価値を明確にし、家庭や地域 に発信しなければならない。学校文化を生み出し、それを家庭や地域に伝え、保護者や地域住民と一緒にな って新しい文化をつくり、よりよいものに育てることが重要であると考える。 その際、注目しなければならないことが二つあると考える。その一つは、子どもたちの多様性に対応した 教育についてである。二つ目は、人口減少への対応で、学級、学年のあり方も含め教育のシステムを見直さ なければならないということである。いずれの場合も、一斉、画一的な授業や、学級担任制による教育だけ ではなく、多様な子供たちがいることを基本において、教育を進めなければならない。子どもたちに知識や 技能を身につけさせるだけでなく、「将来どのように社会や世界と関わり、より良い人生を送るか」という、 人としての心や希望をどう育てるかを考えなければならない。また、子どもの持つ主体性や多様性、協調性 や創造性を培うことも重要であり、課題解決に取り組み、探究活動を行う教育を進めることも必要である。 また、滋賀の子どもをどう育て、滋賀の文化をどう創り、伝えていくのかについても考えなければならな い。滋賀県には、琵琶湖とそれを取り巻く美しい山々がある。この近江の地に流れ受け継がれてきた素晴ら しい歴史と文化がある。さらに、豊かな人とのつながりや地域コミュニティーが今も強く残っている。これ らを大切にしながら、地域と共に生きる子供、地域社会に貢献できる子どもを育てることも、教育の使命で ある。 教育に携わる者は、教育の課題を常に認識し、その解決のために研究と修養を自らに課し、教員としての 使命を果たすことが求められている。子どもたち以上に多様な集団である大人の社会では、価値観の異なる 多様な考えを持つ者が、互いに議論し、認め合い、対立を超えて協働していく。このことが、これからの新 しい文化や社会を創造し、教育を創造する原動力になるのではないかと考える。教育は未来を創るという人 類の根幹となる役割を担っていると考える。 こうした関心から、私が滋賀県教育委員会教育長として就任した平成24年度から平成27年度までの4 年間の経験をもとに、小学校経営や人材育成のあり方について考察していきたい。 2 校長の役割について (1)校長の権限と責任 現在の滋賀県教育の状況は、平成24 年から 25 年にかけてのいじめの問題や今年度の全国学力・学習状況 調査の結果など大変厳しい状況にある。さらには、不登校の率も全国ワースト2であり、運動能力・体力に ついても全国と比較して非常に低い状況にある。 どうして、滋賀の教育がこのような状況になったのかについて、その理由を考えたとき、残念ながら滋賀 の教育がこの何年間か、停滞していたことによるのではないかと感じている。課題認識が希薄で、教育改革 や授業改善などに明確な方針や意志を持って取り組めていなかったのではないかと思う。 教育の目的は、子どもたちに真の学力と人間力をつけることである。教育基本法には、人格の完成と国家 社会の形成者という表現がある。真の学力と人間力をつけ、共同社会の中に生き抜くことができる子どもた ちを育てることが我々に与えられた使命である。そのために、校長はそれぞれの学校で教育目標を掲げ、学 校経営方針を明確にし、それを実現するために組織を構築し、教育という仕事に教職員が使命感をもち責任 を果たすように、校長としてのリーダーシップを発揮する。その学校を任された校長として、与えられた権 限を行使して、校長の職務と責任を果たすことにある。 校長には教育の方針、方向性を見定め、教育課題の解決のため、教育改善のため、教職員を指導し、組織 運営を行うことが求められている。 学校経営の根幹は、子どもたちにとって一番重要な年代において、自らの成長を実感できるようにするこ とと、友とのつながりを大切にできるようにすることにある。そのためには、教育基本法の教育の目標を理 解し、教育改革を推進する学校経営を行うことと、社会情勢の変化の中で学校教育の課題解決に向けて、教 職員の人事配置と組織の改善を図ることである。校長は学校のトップとして、組織マネジメントを行い、組 織を構築し、動かすことができるかということである。また、自分の学校の内側をみて、内側を変えるかと いうことである。学校の組織を刷新するためには、人を動かすことも重要である。能力が高い教員を学校の 中に抱え込むか、それとも外に出すか、校長の資質として大きな違いがある。能力のある教員を外に出すこ とによって、別の教員が力を発揮する。能力のある教員がいることで次の世代の教員が育たないという問題 もある。いかに機能する組織を構築するか、適切な人材を配置するか、そして人材を入れ替えるか、これが 組織の充実と刷新につながる。 次に、学校経営についてである。管理職はどのような学校経営をするのか。経営理念を実現するために教 職員をどのように育て、機能させるのか。それが校長の能力である。学校経営の理念と実践を校長として地 域や保護者、教員に発信する。そのことで学校を変える。 また、組織というのは権限と責任の束である。組織には権限の大なるものから権限の小なるもので構成さ れている。校長という最も権限の大きい者から教頭、教務主任、教員、そして新任の教員と順に権限の大な るものから小なる者へと並んでいる。責任も大なるものから小なる者へと並んでいる。そういう形で組織は 構築されており、これが束となる。権限の大なるものは責任も大であり、権限の小なるものは責任も小であ る。責任を多く持っている人間には権限がある。新任の先生方にももちろん権限があり、責任がある。しか し、それは校長に比べてはるかに小さい権限であり、責任も小さい。失敗してもみんなが守ってくれる。こ れが権限と責任の束であり、組織というものである。そういう意味では、校長には大きな権限があるわけだ から、これを発揮することが責任を果たしていくということになるわけである。 (2)校長のもつ三つの権限 校長が持つ権限には大きく三つある。教育課程編成権、財政権と人事権である。そのうち、最大の権限は 教育課程編成権である。小学校や中学校はほとんど単位数が固定されているかもしれないが、学校全体でど ういう教育をするのかを決めて、やるかどうか。この教育課程編成権が最大の権限である。先日、小学校に 行き生徒たちが「群読」1)をしているのを見学した。子どもたちが学年を超えて集団になり、それぞれが朗 読したり、全員で声を合わせて朗読したりする。子どもたちが心から、体全体を使って、声を出している。 みんなでタイミングを合わせて一緒に声を出す。そういう中で人の意見や話を聞く態度が身につき、自分が 意見を堂々と言うようになる。さらに、登下校の時に、上級生と下級生が互いに信頼し、助け合って一緒に なって行動する。子どもたちが自分に自信を持つ中で、校長から群読をする中で徐々に形ができてきた。次 は学ぶ力の向上だとの話を聞くことができた。自分の学校をいかに経営し、教育方針や教育目標を教育課程 に具体的な形で編成し、表現できるのが校長の最大の権限である。 2つ目の権限は財政権である。予算編成権と言ってもよい。一体どれだけお金が校長に与えられているの か。高等学校には確かな自己実現支援事業というのがあり、予算総額は1500万円である。対象学校は1
ことを通して学校の雰囲気やクラスの雰囲気、職員室の雰囲気を高め、学校文化を構築することにある。 そのため、校長、教頭など管理職はもちろん、教員や職員も学校文化をつくるという意識をもって教育に 携わらなければならない。その中で子どもを育て成長させることが重要であり、子どもたちは学力だけでな く行動力や精神性、さらには社会性を身につけることになる。その営みを通して、子どもたちや教員、管理 職が、学級集団や職員集団、学校集団を成長させ、そこに学校文化を生み出すことになる。これまでは、地 域が人々をつなげ、集団のルールや考えを持っていた。祭りなどの行事や共同作業があり、人々が地域の住 民として生活し生きる場があった。独特の雰囲気や風土が地域に根付いていた。地域文化が学校を支え、学 校に影響を与え、学校文化を作り上げていた。学校が地域文化に支えられて成り立っていたといえる。しか し、現代社会においては価値観が多様化し、人間関係が希薄になる中で、統一した雰囲気や風土はなくなり、 地域文化が失われつつある。地域文化が失われれば、地域社会が変容し崩壊することは必然である。 教育は、子どもたちの主体性を成長させるとともに、社会性を育て、地域文化の担い手を育てることが重 要である。そのため、学校教育では子どもたちが生きる未来社会の姿をイメージし、子どもたちが身につけ るべき資質や能力、精神性などを培わなければならない。また、学校は教育の価値を明確にし、家庭や地域 に発信しなければならない。学校文化を生み出し、それを家庭や地域に伝え、保護者や地域住民と一緒にな って新しい文化をつくり、よりよいものに育てることが重要であると考える。 その際、注目しなければならないことが二つあると考える。その一つは、子どもたちの多様性に対応した 教育についてである。二つ目は、人口減少への対応で、学級、学年のあり方も含め教育のシステムを見直さ なければならないということである。いずれの場合も、一斉、画一的な授業や、学級担任制による教育だけ ではなく、多様な子供たちがいることを基本において、教育を進めなければならない。子どもたちに知識や 技能を身につけさせるだけでなく、「将来どのように社会や世界と関わり、より良い人生を送るか」という、 人としての心や希望をどう育てるかを考えなければならない。また、子どもの持つ主体性や多様性、協調性 や創造性を培うことも重要であり、課題解決に取り組み、探究活動を行う教育を進めることも必要である。 また、滋賀の子どもをどう育て、滋賀の文化をどう創り、伝えていくのかについても考えなければならな い。滋賀県には、琵琶湖とそれを取り巻く美しい山々がある。この近江の地に流れ受け継がれてきた素晴ら しい歴史と文化がある。さらに、豊かな人とのつながりや地域コミュニティーが今も強く残っている。これ らを大切にしながら、地域と共に生きる子供、地域社会に貢献できる子どもを育てることも、教育の使命で ある。 教育に携わる者は、教育の課題を常に認識し、その解決のために研究と修養を自らに課し、教員としての 使命を果たすことが求められている。子どもたち以上に多様な集団である大人の社会では、価値観の異なる 多様な考えを持つ者が、互いに議論し、認め合い、対立を超えて協働していく。このことが、これからの新 しい文化や社会を創造し、教育を創造する原動力になるのではないかと考える。教育は未来を創るという人 類の根幹となる役割を担っていると考える。 こうした関心から、私が滋賀県教育委員会教育長として就任した平成24年度から平成27年度までの4 年間の経験をもとに、小学校経営や人材育成のあり方について考察していきたい。 2 校長の役割について (1)校長の権限と責任 現在の滋賀県教育の状況は、平成24 年から 25 年にかけてのいじめの問題や今年度の全国学力・学習状況 調査の結果など大変厳しい状況にある。さらには、不登校の率も全国ワースト2であり、運動能力・体力に ついても全国と比較して非常に低い状況にある。 どうして、滋賀の教育がこのような状況になったのかについて、その理由を考えたとき、残念ながら滋賀 の教育がこの何年間か、停滞していたことによるのではないかと感じている。課題認識が希薄で、教育改革 や授業改善などに明確な方針や意志を持って取り組めていなかったのではないかと思う。 教育の目的は、子どもたちに真の学力と人間力をつけることである。教育基本法には、人格の完成と国家 社会の形成者という表現がある。真の学力と人間力をつけ、共同社会の中に生き抜くことができる子どもた ちを育てることが我々に与えられた使命である。そのために、校長はそれぞれの学校で教育目標を掲げ、学 校経営方針を明確にし、それを実現するために組織を構築し、教育という仕事に教職員が使命感をもち責任 を果たすように、校長としてのリーダーシップを発揮する。その学校を任された校長として、与えられた権 限を行使して、校長の職務と責任を果たすことにある。 校長には教育の方針、方向性を見定め、教育課題の解決のため、教育改善のため、教職員を指導し、組織 運営を行うことが求められている。 学校経営の根幹は、子どもたちにとって一番重要な年代において、自らの成長を実感できるようにするこ とと、友とのつながりを大切にできるようにすることにある。そのためには、教育基本法の教育の目標を理 解し、教育改革を推進する学校経営を行うことと、社会情勢の変化の中で学校教育の課題解決に向けて、教 職員の人事配置と組織の改善を図ることである。校長は学校のトップとして、組織マネジメントを行い、組 織を構築し、動かすことができるかということである。また、自分の学校の内側をみて、内側を変えるかと いうことである。学校の組織を刷新するためには、人を動かすことも重要である。能力が高い教員を学校の 中に抱え込むか、それとも外に出すか、校長の資質として大きな違いがある。能力のある教員を外に出すこ とによって、別の教員が力を発揮する。能力のある教員がいることで次の世代の教員が育たないという問題 もある。いかに機能する組織を構築するか、適切な人材を配置するか、そして人材を入れ替えるか、これが 組織の充実と刷新につながる。 次に、学校経営についてである。管理職はどのような学校経営をするのか。経営理念を実現するために教 職員をどのように育て、機能させるのか。それが校長の能力である。学校経営の理念と実践を校長として地 域や保護者、教員に発信する。そのことで学校を変える。 また、組織というのは権限と責任の束である。組織には権限の大なるものから権限の小なるもので構成さ れている。校長という最も権限の大きい者から教頭、教務主任、教員、そして新任の教員と順に権限の大な るものから小なる者へと並んでいる。責任も大なるものから小なる者へと並んでいる。そういう形で組織は 構築されており、これが束となる。権限の大なるものは責任も大であり、権限の小なるものは責任も小であ る。責任を多く持っている人間には権限がある。新任の先生方にももちろん権限があり、責任がある。しか し、それは校長に比べてはるかに小さい権限であり、責任も小さい。失敗してもみんなが守ってくれる。こ れが権限と責任の束であり、組織というものである。そういう意味では、校長には大きな権限があるわけだ から、これを発揮することが責任を果たしていくということになるわけである。 (2)校長のもつ三つの権限 校長が持つ権限には大きく三つある。教育課程編成権、財政権と人事権である。そのうち、最大の権限は 教育課程編成権である。小学校や中学校はほとんど単位数が固定されているかもしれないが、学校全体でど ういう教育をするのかを決めて、やるかどうか。この教育課程編成権が最大の権限である。先日、小学校に 行き生徒たちが「群読」1)をしているのを見学した。子どもたちが学年を超えて集団になり、それぞれが朗 読したり、全員で声を合わせて朗読したりする。子どもたちが心から、体全体を使って、声を出している。 みんなでタイミングを合わせて一緒に声を出す。そういう中で人の意見や話を聞く態度が身につき、自分が 意見を堂々と言うようになる。さらに、登下校の時に、上級生と下級生が互いに信頼し、助け合って一緒に なって行動する。子どもたちが自分に自信を持つ中で、校長から群読をする中で徐々に形ができてきた。次 は学ぶ力の向上だとの話を聞くことができた。自分の学校をいかに経営し、教育方針や教育目標を教育課程 に具体的な形で編成し、表現できるのが校長の最大の権限である。 2つ目の権限は財政権である。予算編成権と言ってもよい。一体どれだけお金が校長に与えられているの か。高等学校には確かな自己実現支援事業というのがあり、予算総額は1500万円である。対象学校は1
6校なので1校につき100万円程度の予算の配分である。小中学校は事務費も簡単には執行できない仕組 みになっており、校長には財政権はほとんどないように思える。それでは校長には財政権はないのか。教育 委員会の予算額は県の予算の中でもかなり大きな予算が組まれている。その予算のうちの90パーセント以 上は人件費である。1人1年間、報酬や社会保険料などの共済費などを合わせると、平均するとほぼ800 万円になる。その他に、施設や事業費、需用費などもあるので、教員一人あたり年間1000万円のお金が 投入されていることになる。そのように計算すると教職員が30人の学校であれば年間3億円である。校長 がその学校に3年間赴任したとしたら3億かける3年間で9億円となる。つまり、校長になるということは 10億、15億という予算を預かって仕事をしていることになる。それだけの事業を任されているのである。 であれば、校長は教育方針を立て、教員を動かし、教育を有効に実践しなければならない。しかも、これは 税金である。教育に携わるということはそういうとてつもない大きな仕事をしているということである。 最後の1つは人事権である。県全体の人事を動かす場合は人事異動に関する具申権である。校内人事につ いては全て校長に委譲されている大きな権限である。この人事権を執行して、学校を変え、教職員を変え、 子どもたちを変える。大きな権限があると同時に、大きな責任があるとも言える。この大きな権限をフルに 発揮しないと組織は動かない。組織が動かなければ教育は変わらない。権限を十分に発揮するということが 校長としての責任を果たすことにもなる。ただし、この権限を何のために、誰のために行使するのかという ことが問題である。言うまでもなく滋賀の教育のためであり、良い教育をして子どもを変容させ、成長させ るためである。そして、学校を前へ進める。こういうことであろうと思う。人事異動を具申する時に常に頭 に描くのは、一つは、いかに学校経営をうまくするかということである。もう一つは教員一人ひとりの教員 人生に想いを馳せることである。学校を組織として動かして一人ひとりが機能するようにするには組織改編 が重要である。組織を変え、誰をそのグループに配置し、誰をグループリーダーにするか。校務分掌や学年 集団の機能をどう理解し組み立て配置するか。学校経営や校長としての構想もあるが、組織運営や組織マネ ジメントを全力で行うことである。もう一つは、一人ひとりの教員人生を考えることである。その教員自身 の教員人生というものがあり、その人生設計を踏まえた形で人事異動や配置を考えることが重要である。 3 学級経営について (1)課題認識 教育委員会では、学力調査に関して、4項目の事柄を各学校で取り組むよう依頼した。その項目を実行し てほしいということもあるが、それ以上に校長自らが課題を認識し、それをもとに改革すべきことを明確に し、ビジョンに落とし込んで実行する。課題認識をすれば、課題解決のために何をすべきかを考える。新し い考え方や価値観で教育を見直すことになる。それをビジョンとして組み立て、子どもたちや教職員、さら には保護者に対して発信する。ここに校長としての力量がある。教育の価値をどのように捉えるかというこ とにある。教育とは何か。教師として、校長として、自分は何をしたいのか。この学校が子どもたちにすべ きことは何か。そういう教育の価値を考えることから、教育は始まる。それは同時に、教師としての使命を 問い直すことにもなる。 昨年の管理職試験のとき、面接で次のような質問をした。「今、滋賀県においては、教育課題が山積してお り、いろんな課題があります。このような状況の中で、学校改革や教育改革、指導改善をしなければなりま せん。そんな中であなたは、何を課題と捉えていますか。それに対して、あなたはどのように教育改革や学 校改革をしていこうと考えていますか。」である。この質問に対して、明快に「なるほど」と思う答えを返し てくれたのは、ほんの少しであった。明快とは言えないまでも何らかの形で学校改革の方向性を答えた人を 含めても、2割程度であった。教育課題を認識し、自分の学校をこのようにしていきたいというビジョンを 持たなければ、リーダーになれないのではないか。常にこうしていきたいという思いがなければ、管理職と 言えないのではないか。 教育委員会の職員の昇任面接でも答えられる者は少ない。何のために教育委員会に来ているのか。たとえ ば、今、予算の策定時期である。予算を組み立てるということは、来年度の教育施策を組み立てるというこ とである。どういう教育施策を組み立てて動かすかが、教育委員会の重要な仕事である。この予算をいい加 減にすれば、来年度の教育が進まなくなる。 しかし、それぞれの担当が最初に出してきたものは、文部科学省が概算要求している施策をそのまま持っ てきて、なぞっただけの案であるとか、昨年度出した予算の数字だけを変えたような案であった。指導主事 として何をしたいのか。どのように教育を変えたいのか。学校をよくしたいという情熱や意欲が感じられな かったのである。そこで予算案について、教員の活動が見え、成果の上がる事業の組み立てを行った。 それと同じく、学校でもそのような経営や学校目標の設定が必要なのではないかと考える。ビジョンを持 つこと、教育の価値を明確にすること、学校のなすべき使命を明らかにし、それを実行するために何をすべ きかを考えることがなければ、学校を経営することにはならない。 (2)教育の価値を発信する 1年半ほど前に、アップルコンピューターのスティーブ・ジョブズの人間性、経営、創造の精神を著した 本が発売された。think simple-シンプルを考えるという本2)である。ジョブズは、ものの考え方、判断の仕 方にthink simple と think different ということを中心に据えて仕事をしてきた。think simple は複雑なものを考 えるのではなく、シンプルに考えるということ。think different は、違ったものの見方をし、新しい価値を見 いだすこと。そのことが書かれている。本の中に世界の5大企業があげられる。その中にもちろんアップル は入っているが、他にナイキ、ディズニー、ソニーが入っている。例えば、ナイキは商品の価格がいくらか とか、性能がどうかということを広告記事には出さない。何を公告に出すかといえば、トップアスリートの スタートダッシュの瞬間の映像や、マラソンで競技場に帰ってきた選手が大勢の観客に拍手で迎えられる場 面の様子を写して、「スポーツというのはこんなにすごいんだ」ということを表現する。また、「トップアス リートというのはこんなに素晴らしく生き生きとしたものを持っている」という映像を流し、その画面の隅 のほうに少しだけ、ナイキのマークを示してある。ディズニーランドも、ジェットコースターの性能やスリ ルをアピールするのではなく、家族のつながりや思い出づくりの素晴らしさを発信している。 教育もまた、教育そのものの質や技能を高めるとともに、学校や教育がどのような価値を持っていて、そ れがどのような形で子どもたちの人格形成や社会の在り方に影響するのかを明確にし、発信していかなけれ ばならない。何が校長として、また滋賀の教育のリーダーとして、教育的な価値を見いだし、それを形にし て発信できるのかが問われていると考える。校長が自分の教育ビジョンを教職員や保護者に説明し実行する ために、どんな組織が必要なのかを考えることが必要である。 それと同時に人事異動というものがある。人事異動は人を動かすというだけではない。各学校で教員を育 てるということも人事の大きな柱である。校長が描く教育方針に則り、教育を進めていけば、それぞれの学 校で教員が育つ。さらに、成長した教員を違う学校や管理職、教育委員会などへどんどんと出していく。優 れた教員はほしいが、課題のある教員はいらないでは、教育は改善しない。課題のある教員が転勤してきて も、その教員を自分の学校で一人前にする、そういう校長になれば、学校は変わり、滋賀の教育も変わると 考える。国づくりは人づくりと言う。教師の使命は、人を育てることであり、校長の最後の仕事も、人材育 成である。校長の集大成は、自分の後に続く教員を育てることにある。 (3)教育を機能させる この何年間か、いじめの問題、学力の問題、特別支援、体力・運動、様々な問題、課題が本県には山積を している。その解決に、教育に携わる者が一体となって取り組んでいかなければならない。この思いは、教 育委員会も、校長も、学校にいる教職員も、同じ思いをもっていると思う。同時に、これらの教育課題が顕 在化してきた原因や理由がどこにあるのかをつきとめ、根本から教育を立て直す必要がある。 教育が機能しない理由や原因がどこにあるのか。社会が変化し、複雑になってきていることに原因がある
6校なので1校につき100万円程度の予算の配分である。小中学校は事務費も簡単には執行できない仕組 みになっており、校長には財政権はほとんどないように思える。それでは校長には財政権はないのか。教育 委員会の予算額は県の予算の中でもかなり大きな予算が組まれている。その予算のうちの90パーセント以 上は人件費である。1人1年間、報酬や社会保険料などの共済費などを合わせると、平均するとほぼ800 万円になる。その他に、施設や事業費、需用費などもあるので、教員一人あたり年間1000万円のお金が 投入されていることになる。そのように計算すると教職員が30人の学校であれば年間3億円である。校長 がその学校に3年間赴任したとしたら3億かける3年間で9億円となる。つまり、校長になるということは 10億、15億という予算を預かって仕事をしていることになる。それだけの事業を任されているのである。 であれば、校長は教育方針を立て、教員を動かし、教育を有効に実践しなければならない。しかも、これは 税金である。教育に携わるということはそういうとてつもない大きな仕事をしているということである。 最後の1つは人事権である。県全体の人事を動かす場合は人事異動に関する具申権である。校内人事につ いては全て校長に委譲されている大きな権限である。この人事権を執行して、学校を変え、教職員を変え、 子どもたちを変える。大きな権限があると同時に、大きな責任があるとも言える。この大きな権限をフルに 発揮しないと組織は動かない。組織が動かなければ教育は変わらない。権限を十分に発揮するということが 校長としての責任を果たすことにもなる。ただし、この権限を何のために、誰のために行使するのかという ことが問題である。言うまでもなく滋賀の教育のためであり、良い教育をして子どもを変容させ、成長させ るためである。そして、学校を前へ進める。こういうことであろうと思う。人事異動を具申する時に常に頭 に描くのは、一つは、いかに学校経営をうまくするかということである。もう一つは教員一人ひとりの教員 人生に想いを馳せることである。学校を組織として動かして一人ひとりが機能するようにするには組織改編 が重要である。組織を変え、誰をそのグループに配置し、誰をグループリーダーにするか。校務分掌や学年 集団の機能をどう理解し組み立て配置するか。学校経営や校長としての構想もあるが、組織運営や組織マネ ジメントを全力で行うことである。もう一つは、一人ひとりの教員人生を考えることである。その教員自身 の教員人生というものがあり、その人生設計を踏まえた形で人事異動や配置を考えることが重要である。 3 学級経営について (1)課題認識 教育委員会では、学力調査に関して、4項目の事柄を各学校で取り組むよう依頼した。その項目を実行し てほしいということもあるが、それ以上に校長自らが課題を認識し、それをもとに改革すべきことを明確に し、ビジョンに落とし込んで実行する。課題認識をすれば、課題解決のために何をすべきかを考える。新し い考え方や価値観で教育を見直すことになる。それをビジョンとして組み立て、子どもたちや教職員、さら には保護者に対して発信する。ここに校長としての力量がある。教育の価値をどのように捉えるかというこ とにある。教育とは何か。教師として、校長として、自分は何をしたいのか。この学校が子どもたちにすべ きことは何か。そういう教育の価値を考えることから、教育は始まる。それは同時に、教師としての使命を 問い直すことにもなる。 昨年の管理職試験のとき、面接で次のような質問をした。「今、滋賀県においては、教育課題が山積してお り、いろんな課題があります。このような状況の中で、学校改革や教育改革、指導改善をしなければなりま せん。そんな中であなたは、何を課題と捉えていますか。それに対して、あなたはどのように教育改革や学 校改革をしていこうと考えていますか。」である。この質問に対して、明快に「なるほど」と思う答えを返し てくれたのは、ほんの少しであった。明快とは言えないまでも何らかの形で学校改革の方向性を答えた人を 含めても、2割程度であった。教育課題を認識し、自分の学校をこのようにしていきたいというビジョンを 持たなければ、リーダーになれないのではないか。常にこうしていきたいという思いがなければ、管理職と 言えないのではないか。 教育委員会の職員の昇任面接でも答えられる者は少ない。何のために教育委員会に来ているのか。たとえ ば、今、予算の策定時期である。予算を組み立てるということは、来年度の教育施策を組み立てるというこ とである。どういう教育施策を組み立てて動かすかが、教育委員会の重要な仕事である。この予算をいい加 減にすれば、来年度の教育が進まなくなる。 しかし、それぞれの担当が最初に出してきたものは、文部科学省が概算要求している施策をそのまま持っ てきて、なぞっただけの案であるとか、昨年度出した予算の数字だけを変えたような案であった。指導主事 として何をしたいのか。どのように教育を変えたいのか。学校をよくしたいという情熱や意欲が感じられな かったのである。そこで予算案について、教員の活動が見え、成果の上がる事業の組み立てを行った。 それと同じく、学校でもそのような経営や学校目標の設定が必要なのではないかと考える。ビジョンを持 つこと、教育の価値を明確にすること、学校のなすべき使命を明らかにし、それを実行するために何をすべ きかを考えることがなければ、学校を経営することにはならない。 (2)教育の価値を発信する 1年半ほど前に、アップルコンピューターのスティーブ・ジョブズの人間性、経営、創造の精神を著した 本が発売された。think simple-シンプルを考えるという本2)である。ジョブズは、ものの考え方、判断の仕 方にthink simple と think different ということを中心に据えて仕事をしてきた。think simple は複雑なものを考 えるのではなく、シンプルに考えるということ。think different は、違ったものの見方をし、新しい価値を見 いだすこと。そのことが書かれている。本の中に世界の5大企業があげられる。その中にもちろんアップル は入っているが、他にナイキ、ディズニー、ソニーが入っている。例えば、ナイキは商品の価格がいくらか とか、性能がどうかということを広告記事には出さない。何を公告に出すかといえば、トップアスリートの スタートダッシュの瞬間の映像や、マラソンで競技場に帰ってきた選手が大勢の観客に拍手で迎えられる場 面の様子を写して、「スポーツというのはこんなにすごいんだ」ということを表現する。また、「トップアス リートというのはこんなに素晴らしく生き生きとしたものを持っている」という映像を流し、その画面の隅 のほうに少しだけ、ナイキのマークを示してある。ディズニーランドも、ジェットコースターの性能やスリ ルをアピールするのではなく、家族のつながりや思い出づくりの素晴らしさを発信している。 教育もまた、教育そのものの質や技能を高めるとともに、学校や教育がどのような価値を持っていて、そ れがどのような形で子どもたちの人格形成や社会の在り方に影響するのかを明確にし、発信していかなけれ ばならない。何が校長として、また滋賀の教育のリーダーとして、教育的な価値を見いだし、それを形にし て発信できるのかが問われていると考える。校長が自分の教育ビジョンを教職員や保護者に説明し実行する ために、どんな組織が必要なのかを考えることが必要である。 それと同時に人事異動というものがある。人事異動は人を動かすというだけではない。各学校で教員を育 てるということも人事の大きな柱である。校長が描く教育方針に則り、教育を進めていけば、それぞれの学 校で教員が育つ。さらに、成長した教員を違う学校や管理職、教育委員会などへどんどんと出していく。優 れた教員はほしいが、課題のある教員はいらないでは、教育は改善しない。課題のある教員が転勤してきて も、その教員を自分の学校で一人前にする、そういう校長になれば、学校は変わり、滋賀の教育も変わると 考える。国づくりは人づくりと言う。教師の使命は、人を育てることであり、校長の最後の仕事も、人材育 成である。校長の集大成は、自分の後に続く教員を育てることにある。 (3)教育を機能させる この何年間か、いじめの問題、学力の問題、特別支援、体力・運動、様々な問題、課題が本県には山積を している。その解決に、教育に携わる者が一体となって取り組んでいかなければならない。この思いは、教 育委員会も、校長も、学校にいる教職員も、同じ思いをもっていると思う。同時に、これらの教育課題が顕 在化してきた原因や理由がどこにあるのかをつきとめ、根本から教育を立て直す必要がある。 教育が機能しない理由や原因がどこにあるのか。社会が変化し、複雑になってきていることに原因がある
のか。それとも、教員の質が低下し、指導できないことに原因があるのか。また、校長の企画力や組織力な どマネジメント能力が低下をしてきたからなのか。そうではなくて、教育委員会が発信すべきことを発信し ていないからなのか。教育をこのように行い、このような児童生徒を育て、このような教員を育てることで、 次の時代にこういう社会を創るのだという思いを議論し明確にして発信してこなかったからなのか。これか らの教育をどうするのかというイメージをもち、教育を創造するために、今何をなすべきかを児童や生徒に、 教職員や学校に、地域や家庭に示していないから、教育が機能しなくなったのではないかと思う。 教育とは何か。その理念と本質はどこにあるのか。また、教育を機能させるにはどうすればよいか、実際 に人を動かし、組織を動かすことで、教育を機能させるにはどうすればよいかを明確にする。そのことで、 学校が変わり、教員が変わり、児童生徒が変わる。そして、保護者や地域、社会が変わる。文化を創造し、 伝えると言ってもよい。これが教育に携わる者が担わなければならない使命である。 学力問題をどのように解決をするのか。また、学力だけではなくて、それを支える学級活動をどのように 展開するのか。さらには、今、教科化等の問題でクローズアップされている道徳教育をどのように進めるの か。キャリア教育や不登校の問題、いじめ、体罰、運動と体力、文化と芸術など知性と感性をいかに子ども たちに醸成するのか。そして、子ども達にどのようにして成長を実感させるのか。教育はまさに価値観や文 化を扱うものであり、大変な仕事である。 教育委員会も大変である。学力調査の発表があった8月後半以降は、ほとんど土曜日も日曜日もない状態 が続いている。指導主事・人事主事は必死で仕事をしている。もちろんこれは学校の教職員も同じである。 この対応が終わると、次に議会がありいろいろな質問に答えていかなければならない。それが終わると政策 課題や来年の重点政策の組み立てを行う。そして、それが終わると通常予算という形で進んでいく。その予 算編成をする上で、ルーチンワークや形式的なものではなくて、教育の本質を捉え、教育が機能するように 予算を編制することが重要である。そういう組み立てに今、全力で議論し、協議を進めているところである。 (4)教育予算についての考え 予算協議をする中で見えてきたものは、様々な教育課題を解決するためには、理念だけでは機能しないと いうことである。滋賀県教育委員会は学校教育課と教職員課という組織の二つに分かれている。そして、予 算を作る場合は、その多くがソフト事業なので学校教育課が作成する。もし、学校教育課が人の動きと関係 なしに理念だけを受け止めて事業をすると、観念的な事業になる恐れが生じる。「絵に描いた餅」で、実際に 機能しない事業にならないとは限らない。政策、予算が機能するためには理念だけでなく、その理念が実践 され、実際に機能していかなければならない。予算が、ルーチンワークや形式的なもの、観念的なものにな らないようにすることが重要である。逆に人はついているが、その人をどのように動かしてほしいのかを明 確に示すことができていない事業、さらには補助金を出すことだけに終わり、執行することによりどういう 成果を上げているのかが見えない事業がある。どのように実行され教育改善に寄与しているのか。予算編成 においてはこのことに細心の注意を払わなくてはならない。そういう教育予算が機能するためには、人を絡 めて予算を構築していかなければならない。 人を絡めるということは、組織改革をすることにも通じる。組織を変える。組織を意識する。そして、人 を配置し、人事異動を含めて、人を戦略的、戦術的に組み立てて行うということが、重要である。事業を組 み立てるときに、理念と人を合わせて組み立てていくのである。そして、これは学校においても同じことで はないかと思う。学ぶ力の向上も同じように考えなければならない。県の教育委員会の事業の中には、授業 改善や評価問題の作成、さらには家庭学習のための振り返りテストなど、やってほしいことをお願いしてい るが、こういう事業を実際に動かす先生や生徒自身が動かなければ、また、保護者の理解が得られなければ、 動かすことはできない。何かをする前に、校長の経営努力やマネジメント力が求められるのではないかと思 う。校長が、今引き受けている学校の課題を分析し、その改善のためにどこから手を打つのか。そのために どのような組織を作り、どのように人事配置をして、学校を、教職員を動かしていくのかが重要である。 (5)エネルギーを伝える 教育は人である。人というのは、校長や教職員のもつエネルギーである。そのエネルギーをどのようにし て子どもたちに伝えるかが重要である。 今、小学校の5年生の子どもたちを集めて、国体に向けたレイキッズのプログラムが行われている。そこ へ、滋賀大学の准教授でオペラ歌手の渡辺史氏に講師をお願いした。講演の中で渡辺氏から子どもたちに対 して、「歌手というのがどういう職業か。」ということを、問いかけられた。そして、次のように話された。 「歌手というのは、歌を聴かせて、お客さんからお礼をいただく。お礼をいただくためには、お客さんがい いなあという気持ちにならないといけない。歌の何がいい気持ちにさせるのか。スポーツをしている子もス ポーツを見ている人もわくわくする。いい気持ちになる。何故、スポーツをしている人も、見ている人もい い気持ちになるのか。」こういう語りかけをしたのである。その答えを次のように言われた。「人間がもって いるエネルギーを感じて人は感動するのです。だから、歌もスポーツもみんながわくわくするのです。人間 のもつエネルギーやパワーが、いろんな形になって、皆さんの体からほとばしる。そのエネルギーやパワー を見た人がすごい、かっこいい、すてきと感動するのです。」「歌手としての私も、エネルギーを見せて、お 客さんにどきどき、わくわく、うっとりさせています。そして、私のもっているエネルギーの表し方は声で す。その声というのは、皆さん一人ひとりがもっています。いろいろな人との会話やコミュニケーションと いうのは、お互いの声というエネルギーの交換なんです。」という話をされた。教師も、声が、この喋りが大 きな力を発揮する。声で、自分のもっているエネルギーを全部出し切って、伝える。 教職員も、校長も、自分の中にもっている教育にかける熱い思いやエネルギーを、子どもたちに伝えてい くことが、本当に大切なことである。それをするためには、人を育てていただく。人事異動ということが校 長にとって大変重要な職務だというように思ったところである。教育にとって厳しい時代であるが、たまた まこの時期に校長として、また、教育委員会の職員として、同じ時間を共有しているのであるから、子ども たちと滋賀の教育のために、共に力を尽くしていきたい。 (6)組織体制 教育を進めていくうえで、人を動かし、組織を組み立て機能させることは、校長としての最大の職務であ る。学校の組織体制の中で、校長や教頭、主任等はどのように組織されているのか。学校教育法の第37条 にその規定がある。まず校長の職務についてである。「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。」 と示している。副校長については同様に、「副校長は、校長を助け、命を受けて校務をつかさどる。」とある。 また教頭については、「教頭は、校長を助け、校務を整理し、及び必要に応じ児童の教育をつかさどる。」と ある。一方、教諭については、「教諭は、児童の教育をつかさどる。」と示されている。また、学校教育法施 行規則の第44条には、「小学校には、教務主任及び学年主任を置くものとする。」とあり、「教務主任は、校 長の監督を受け、教育計画の立案その他の教務に関する事項について連絡調整及び指導、助言に当たる。」「学 年主任は、校長の監督を受け、当該学年の教育活動に関する事項について連絡調整及び指導、助言に当たる。」 となっている。また、第70条、71条には生徒指導主事および進路指導主事の規定がある。生徒指導主事 については、「中学校には、生徒指導主事を置くものとする。」「生徒指導主事は、校長の監督を受け、生徒指 導に関する事項をつかさどり、当該事項について連絡調整及び指導、助言に当たる。」進路指導主事について は、「中学校には、進路指導主事を置くものとする。」「進路指導主事は、指導教諭又は教諭をもって、これに 充てる。校長の監督を受け、生徒の職業選択の指導その他の指導に関する事項をつかさどり、当該事項につ いて連絡調整及び指導、助言に当たる。」とある。これら校長、副校長、教務主任等の分掌主任と学年主任お よび教諭を、校長がどのような考えのもとに組織するかが学校経営においては重要である。これらの規則を よく見ると、校長、副校長、教務主任が一つのラインに位置すると考えられる。また校長、副校長、教頭、 生徒指導主事・進路指導主事も一つのラインに乗ると考えられる。前者は、教育理念や教育方針など教育計
のか。それとも、教員の質が低下し、指導できないことに原因があるのか。また、校長の企画力や組織力な どマネジメント能力が低下をしてきたからなのか。そうではなくて、教育委員会が発信すべきことを発信し ていないからなのか。教育をこのように行い、このような児童生徒を育て、このような教員を育てることで、 次の時代にこういう社会を創るのだという思いを議論し明確にして発信してこなかったからなのか。これか らの教育をどうするのかというイメージをもち、教育を創造するために、今何をなすべきかを児童や生徒に、 教職員や学校に、地域や家庭に示していないから、教育が機能しなくなったのではないかと思う。 教育とは何か。その理念と本質はどこにあるのか。また、教育を機能させるにはどうすればよいか、実際 に人を動かし、組織を動かすことで、教育を機能させるにはどうすればよいかを明確にする。そのことで、 学校が変わり、教員が変わり、児童生徒が変わる。そして、保護者や地域、社会が変わる。文化を創造し、 伝えると言ってもよい。これが教育に携わる者が担わなければならない使命である。 学力問題をどのように解決をするのか。また、学力だけではなくて、それを支える学級活動をどのように 展開するのか。さらには、今、教科化等の問題でクローズアップされている道徳教育をどのように進めるの か。キャリア教育や不登校の問題、いじめ、体罰、運動と体力、文化と芸術など知性と感性をいかに子ども たちに醸成するのか。そして、子ども達にどのようにして成長を実感させるのか。教育はまさに価値観や文 化を扱うものであり、大変な仕事である。 教育委員会も大変である。学力調査の発表があった8月後半以降は、ほとんど土曜日も日曜日もない状態 が続いている。指導主事・人事主事は必死で仕事をしている。もちろんこれは学校の教職員も同じである。 この対応が終わると、次に議会がありいろいろな質問に答えていかなければならない。それが終わると政策 課題や来年の重点政策の組み立てを行う。そして、それが終わると通常予算という形で進んでいく。その予 算編成をする上で、ルーチンワークや形式的なものではなくて、教育の本質を捉え、教育が機能するように 予算を編制することが重要である。そういう組み立てに今、全力で議論し、協議を進めているところである。 (4)教育予算についての考え 予算協議をする中で見えてきたものは、様々な教育課題を解決するためには、理念だけでは機能しないと いうことである。滋賀県教育委員会は学校教育課と教職員課という組織の二つに分かれている。そして、予 算を作る場合は、その多くがソフト事業なので学校教育課が作成する。もし、学校教育課が人の動きと関係 なしに理念だけを受け止めて事業をすると、観念的な事業になる恐れが生じる。「絵に描いた餅」で、実際に 機能しない事業にならないとは限らない。政策、予算が機能するためには理念だけでなく、その理念が実践 され、実際に機能していかなければならない。予算が、ルーチンワークや形式的なもの、観念的なものにな らないようにすることが重要である。逆に人はついているが、その人をどのように動かしてほしいのかを明 確に示すことができていない事業、さらには補助金を出すことだけに終わり、執行することによりどういう 成果を上げているのかが見えない事業がある。どのように実行され教育改善に寄与しているのか。予算編成 においてはこのことに細心の注意を払わなくてはならない。そういう教育予算が機能するためには、人を絡 めて予算を構築していかなければならない。 人を絡めるということは、組織改革をすることにも通じる。組織を変える。組織を意識する。そして、人 を配置し、人事異動を含めて、人を戦略的、戦術的に組み立てて行うということが、重要である。事業を組 み立てるときに、理念と人を合わせて組み立てていくのである。そして、これは学校においても同じことで はないかと思う。学ぶ力の向上も同じように考えなければならない。県の教育委員会の事業の中には、授業 改善や評価問題の作成、さらには家庭学習のための振り返りテストなど、やってほしいことをお願いしてい るが、こういう事業を実際に動かす先生や生徒自身が動かなければ、また、保護者の理解が得られなければ、 動かすことはできない。何かをする前に、校長の経営努力やマネジメント力が求められるのではないかと思 う。校長が、今引き受けている学校の課題を分析し、その改善のためにどこから手を打つのか。そのために どのような組織を作り、どのように人事配置をして、学校を、教職員を動かしていくのかが重要である。 (5)エネルギーを伝える 教育は人である。人というのは、校長や教職員のもつエネルギーである。そのエネルギーをどのようにし て子どもたちに伝えるかが重要である。 今、小学校の5年生の子どもたちを集めて、国体に向けたレイキッズのプログラムが行われている。そこ へ、滋賀大学の准教授でオペラ歌手の渡辺史氏に講師をお願いした。講演の中で渡辺氏から子どもたちに対 して、「歌手というのがどういう職業か。」ということを、問いかけられた。そして、次のように話された。 「歌手というのは、歌を聴かせて、お客さんからお礼をいただく。お礼をいただくためには、お客さんがい いなあという気持ちにならないといけない。歌の何がいい気持ちにさせるのか。スポーツをしている子もス ポーツを見ている人もわくわくする。いい気持ちになる。何故、スポーツをしている人も、見ている人もい い気持ちになるのか。」こういう語りかけをしたのである。その答えを次のように言われた。「人間がもって いるエネルギーを感じて人は感動するのです。だから、歌もスポーツもみんながわくわくするのです。人間 のもつエネルギーやパワーが、いろんな形になって、皆さんの体からほとばしる。そのエネルギーやパワー を見た人がすごい、かっこいい、すてきと感動するのです。」「歌手としての私も、エネルギーを見せて、お 客さんにどきどき、わくわく、うっとりさせています。そして、私のもっているエネルギーの表し方は声で す。その声というのは、皆さん一人ひとりがもっています。いろいろな人との会話やコミュニケーションと いうのは、お互いの声というエネルギーの交換なんです。」という話をされた。教師も、声が、この喋りが大 きな力を発揮する。声で、自分のもっているエネルギーを全部出し切って、伝える。 教職員も、校長も、自分の中にもっている教育にかける熱い思いやエネルギーを、子どもたちに伝えてい くことが、本当に大切なことである。それをするためには、人を育てていただく。人事異動ということが校 長にとって大変重要な職務だというように思ったところである。教育にとって厳しい時代であるが、たまた まこの時期に校長として、また、教育委員会の職員として、同じ時間を共有しているのであるから、子ども たちと滋賀の教育のために、共に力を尽くしていきたい。 (6)組織体制 教育を進めていくうえで、人を動かし、組織を組み立て機能させることは、校長としての最大の職務であ る。学校の組織体制の中で、校長や教頭、主任等はどのように組織されているのか。学校教育法の第37条 にその規定がある。まず校長の職務についてである。「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。」 と示している。副校長については同様に、「副校長は、校長を助け、命を受けて校務をつかさどる。」とある。 また教頭については、「教頭は、校長を助け、校務を整理し、及び必要に応じ児童の教育をつかさどる。」と ある。一方、教諭については、「教諭は、児童の教育をつかさどる。」と示されている。また、学校教育法施 行規則の第44条には、「小学校には、教務主任及び学年主任を置くものとする。」とあり、「教務主任は、校 長の監督を受け、教育計画の立案その他の教務に関する事項について連絡調整及び指導、助言に当たる。」「学 年主任は、校長の監督を受け、当該学年の教育活動に関する事項について連絡調整及び指導、助言に当たる。」 となっている。また、第70条、71条には生徒指導主事および進路指導主事の規定がある。生徒指導主事 については、「中学校には、生徒指導主事を置くものとする。」「生徒指導主事は、校長の監督を受け、生徒指 導に関する事項をつかさどり、当該事項について連絡調整及び指導、助言に当たる。」進路指導主事について は、「中学校には、進路指導主事を置くものとする。」「進路指導主事は、指導教諭又は教諭をもって、これに 充てる。校長の監督を受け、生徒の職業選択の指導その他の指導に関する事項をつかさどり、当該事項につ いて連絡調整及び指導、助言に当たる。」とある。これら校長、副校長、教務主任等の分掌主任と学年主任お よび教諭を、校長がどのような考えのもとに組織するかが学校経営においては重要である。これらの規則を よく見ると、校長、副校長、教務主任が一つのラインに位置すると考えられる。また校長、副校長、教頭、 生徒指導主事・進路指導主事も一つのラインに乗ると考えられる。前者は、教育理念や教育方針など教育計