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リスク計測手法の多様化に伴う銀行行動の変化 : 地方銀行を取り巻く環境および規制枠組みが銀行経営に与える影響について

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博士論文 リスク計測手法の多様化に伴う銀行行動の変化 ~地方銀行を取り巻く環境および規制枠組みが銀行経営に与える影響について~ 2015年1月 滋賀大学大学院経済学研究科 経済経営リスク専攻 氏 名 安井 進 指導教員 二上 季代司 指導教員 久保 英也 指導教員 楠田 浩二

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目次

序 章 規制の枠組み・環境の変化と銀行行動 ...1 1.はじめに ...1 2.バーゼル規制の枠組み ...2 3.地方銀行を取り巻く環境 ...3 4.本論文の目的 ...4 5.先行研究 ...4 6.本論文の構成 ...6 第1章 統合リスク管理およびリスク量の状況 ...8 1.はじめに ...8 2.統合リスク管理とは ...11 3.地方銀行の統合リスク管理 ...17 4.まとめ ...26 第2章 信用リスク計測手法の違いによる銀行行動 ...28 1.はじめに ...28 2.信用リスク計測手法とその目的 ...29 3.自己資本と信用リスクアセットの動向 ...32 4.内部格付手法行の信用リスクアセットの動向と資本政策 ...44 5.まとめ ...48

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3.コア預金モデルについて ...53 4.コア預金モデルの導入の影響 ...58 5.預金者行動 ...63 6.まとめ ...66 第4章 流動性規制における預金の取り扱い ...67 1.はじめに ...67 2.流動性リスクについて ...69 3.地方銀行における流動性カバレッジ比率の影響 ...71 4.将来的な流動性カバレッジ比率の試算と業務戦略の課題 ...77 5.まとめ ...85 第5章 おわりに ...86 参考文献...93

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序 章 規制の枠組み・環境の変化と銀行行動 1.はじめに バブル崩壊後の不良債権処理およびリーマンショック、欧州債務問題などをふまえ、地方 銀行は近年、ますますリスクを考慮した銀行行動となっている。他方で、リスクを計測・認 識・管理するにあたっては、リスク計測手法の選択やそのモデル化、内部のリスク管理の方 法など、各銀行の裁量による部分が増えている。 金融危機が発生する度に、規制によるリスクのカバレッジが拡大されるとともに、より高 度化されたリスク計測手法が導入されるなど、今日まで規制の枠組みは絶えず変化し、複雑 なものとなってきている。 一方で、将来の人口動態の変化あるいは高齢化社会の到来から、特に地域経済の縮小が予 想されている。地方に拠点を置く地方銀行の経営は、必然的に地域経済との連動性が高い。 今後地方銀行は、人口減少、高齢化、市場規模の縮小などによる負の連鎖から疲弊する地域 とともに沈むのか。あるいは、外部環境が変化する社会にあって、果敢にリスクマネーを供 給する(リスクテイクする)ことにより、地域とともに発展する道筋を示せるのか、重要な 分岐点に差し掛かっていると考えられる。 本稿においては、上記のような環境認識のもと、リスク計測手法あるいは規制が多様化・ 複雑化する中にあって、銀行行動の変化やリスク選好の面から地方銀行の存在意義を確認 するものである。 自己資本比率規制以外にも流動性規制や金利リスクのリスク計測など、様々な規制を銀 行に適用することにより、個々の銀行経営の健全性は確保することができる。一方で、過度 に規制を意識することにより、銀行行動が制約される側面があることに留意が必要である。 規制・環境の変化に対して、各行がどのようなリスク計測・管理方法を採用し、どのよう なリスク選好をとっているのか。また将来の地域社会の置かれる状況を鑑み、積極的にリス クマネーを供給できるような状況にあるのか、地域の衰退を招くような一律の規制対応と なっていないか、リスク・規制に対して過度に保守的な対応となっていないか検証する。こ

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2.バーゼル規制の枠組み なぜ、地方銀行が近年になって、リスク感応的な銀行行動をとるようになったのか、そ の理由、背景について、バーゼル規制の変遷を中心に整理する。1980 年代後半のバーゼル 規制導入およびその後の改定(バーゼルⅡ、バーゼルⅢへ)と、リスクのカバレッジの範 囲が信用リスクからマーケットリスク、オペレーショナルリスク、流動性リスクと拡大し ている。そうした中、金融技術の進展からリスク計測手法も適宜見直し高度化されること により、例えば自己資本比率規制における内部格付手法の利用など、規制の枠組みが実際 の業務運営に近づいてきた。このことが、より規制(リスク)を意識したリスク感応的な 業務運営となっている可能性がある。一方で、こうした金融技術の発展あるいは金融危機 の教訓として規制カバレッジが拡大することで、銀行経営の多様性が失われている可能性 もある。 銀行経営を営むうえで、特に留意される規制として自己資本比率規制があげられる。当該 規制を通じて、個々の銀行経営の健全性を確保すること、そのことによって金融システム全 体の安定的な秩序を提供するものとして多くの国で適用されている。しかしながら、過度に 規制を適用することにより、銀行行動が制約される側面があることには留意が必要である。 宮内[2003、2004]では、銀行規制・監督の枠組みを設計するうえで、金融仲介機能の効 率性と金融システムの安定性の 2 つの視点でバランスをとることが重要であるとしている。 例えば、自己資本比率規制は、銀行が業務を継続するうえでの最低水準を示すものである ものの、リスクテイクやリスク管理など銀行行動に強い影響を及ぼす可能性がある。したが って、銀行行動は規制・監督によって生み出されるインセンティブに敏感となることから、 規制がリスクを適切に捕捉・反映していれば、銀行行動の経済性は損なわれることはないと している。 信用リスクを計測する内部格付手法を中心としたバーゼルⅡの改定では、リスク感応的 な自己資本賦課や、銀行が内部管理に使用するパラメータなど、その仕組みを利用できるこ とが狙いとなっていた。バーゼルⅡではリスク感応的な構造により、リスクに応じた貸出等 の戦略を促すことから、ストレス時に銀行にリスクが集中する旧来の貸出慣行に転換を促 す面も想定されている。このことは、銀行がリスク管理の高度化を進める結果、貸出業務に おいては、従来よりも増してリスクを意識したビジネスモデルに変わっていくものとされ ている。ただし、こうした規制の枠組みの変更が、ストレス時に継続して金融仲介機能を発

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これまでのバーゼル規制導入の経緯、また現在国際的な議論の中で検討されている新た な規制枠組みの全体像を俯瞰することは、将来の銀行経営を考えるうえで重要なファクタ ーである。リーマンショックの教訓から、銀行の流動性リスク管理体制の向上を促す、ある いは銀行セクターの強靱性を高めることを目的として、「流動性規制」の 1 つとして流動性 カバレッジ比率が適用される予定である。本邦においても、地方銀行 10 行を含む国際統一 基準行に先行して規制が導入されるが、将来何らかの形で国内基準行にも適用される可能 性がある。 銀行規制の 1 つとして流動性カバレッジ比率が適用された場合、自己資本比率規制と同 様に内部管理の指標として利用されるであろう。このため、その水準は今後の銀行経営に大 きな影響を与える可能性が高いと考えられる。 3.地方銀行を取り巻く環境 従来、地方銀行においては預金・貸出金を中心に伝統的な商業銀行のビジネスモデルを ベースとしていた。しかしながら、近年においては長らく続くデフレ環境のもと、貸出金 の資金需要の低迷から趨勢的に預貸ギャップが拡大、有価証券運用による余資運用が拡大 するなどポートフォリオが変化している。このことは、貸出金等の信用リスクに加え、有 価証券運用により市場リスクが高まっている可能性が考えられる。 また、足元では地方において預金の伸び悩みが懸念され始めている。預金残高の推移につ いて、都市部の増加率に対し地方は伸びが鈍化しており、その要因の 1 つにあげられるのが 「人口動態の変化」である。 預金の過半は高齢者が保有しており、一般的に 70 歳を超えると貯蓄していた預金を生活 費等に充当する。このため、高齢化が進展する地方においては預金の取り崩しが始まってい る可能性がある。さらに、若年層における地方から都市部への人口移動は、相続時に都市部 の相続人へお金の移動が起きることにより、地方から預金が流出することが予想される。加 えて、生産年齢人口が減少に転じていることに伴い、地方の市場規模が縮小することも予見 されている。

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4.本論文の目的 本稿においては、上記環境認識のもと、地方銀行が地域経済へ貢献することがますます 求められている中、規制・環境の変化に対して、各行がどのようなリスク計測・管理方法 を採用し、どのようなリスク選好をとっているのか。またそれが積極的にリスクマネーを 供給できるような状況にあるのか、地域の衰退を招くような一律の規制対応となっていな いか、規制・リスクに対して過度に保守的な銀行行動となっていないか検証するものであ る。 金融技術の発展に伴いリスク計測手法が多様化するとともに、度重なる金融危機をふま えてリスクのカバレッジ範囲が拡大している。銀行が業務運営を遂行するうえで直面する リスクに対し、リスク感応的な仕組みが規制や銀行自身の内部管理に取り込まれてきたも のの、そのことが銀行を過度に保守的な行動を取らせている可能性があることに言及す る。 本稿では、多様化する銀行規制およびリスク計測手法の観点から分析する。地方銀行に よるリスク計測手法やリスク管理方法また各銀行のリスク選好が、今後の銀行経営の巧拙 を決める大きな要因となってくる可能性がある。リスク計測手法の選択および適用される 規制が地方銀行の銀行経営に与える影響を考察することにより、今後の地方銀行のあるべ き姿について展望したい。 5.先行研究 本稿に関わる先行研究として、地方銀行を含む地域金融機関の行動を分析した先行研究 は多数ある。例えば、内田、小倉、筒井、根元、家森、神吉、渡部[2014]では、地域経 済が低迷する現況下、個別金融機関向けのアンケート調査に基づき、地域金融機関の経営 実態を明らかにしている。地域金融機関が地域への貢献を強く求められる中で、金融機関 の経営文化・企業文化に関連し、金融機関経営と地域貢献とのバランスについて質問して いる。結果として、「自社の収益を犠牲にしてまで地域貢献を行う」という考え方につい て、特に共感も反感も持っていないことが示されている。ただし、相対的には「短期的な 利益の犠牲を受け入れる」金融機関が多いのに対し、「長期的な利益を犠牲にしてまでも 地域貢献を行う」と考える金融機関は少ない結果であった。

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またリスクテイクに関する質問では、「預金取扱金融機関はリスクを避ける傾向」であ ることを確認している1)。このリスク回避性向が適切なものなのか、それとも行き過ぎた ものなのかを明らかにすることは、重要であるとしている。これらアンケート結果につい ては、今後、回答要因やその背景等をより詳細に分析するとされている。ただし、本アン ケートでは各金融機関のリスク計測手法や保有リスクエクスポージャー等にふれられてお らず、各々の行動・変化を分析するためには、開示資料等により補足する必要があると考 えられる。 一方、現況の地域金融機関の状況を前提に、地域別に銀行行動を分析した研究として、 堀江[2008]は地域金融機関の行動を地域経済との関わりの中で分析している。地域金融 機関の利益構造の変化および貸出行動の特徴、合併等に伴う銀行行動の変化、地域におけ る企業との関係を中心にミクロ面から分析しているのが特徴である。具体的には貸出業務 を中心として分析が行われている。貸出による利益は全体の 6 割前後と引き続き大きいも のの、収益環境の厳しさから固定性の強い経費削減が重要となっており、近年では経費削 減を目指した規模の拡大といった「規模の経済性」へのインセンティブが高まっていると 指摘している。また、近隣県および大都市圏(例えば余資運用としてシンジケートローン による運用)で貸出を伸ばしている銀行が多いものの、引き続き地元中小企業向け貸出強 化のため、これまで培ってきた企業との関係を活かし、情報収集を行っていくリレーショ ンシップバンキングによる貸出が重要であるとしている。 銀行規制面から、渡部[2010]では、日本の金融監督政策と銀行行動について分析して いる。1990 年代後半以降の金融監督政策について概観した後、各種政策が意図した目的の 達成に有効であったのか論じている。銀行行動、特に融資行動にどのような影響を与えた のか、実証研究をサーベイしながら考察している。 淵田[2011]では、規制強化が中長期的に金融ビジネスへ与える影響について考察して いる。特に、大手行を中心に、リーマンショックの危機をふまえて導入される各種規制に よる銀行行動の変化について考察している。 各種規制強化を通じて、短期的には収益力低下および資本拡充の圧力など、銀行財務に

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力することにならざるをえないとしている。これには、既存市場におけるシェアアップと 新興国市場への進出がポイントになるとしている。日本における金融業の将来像について は、アジアへの進出がポイントであることが述べられている。 金融調査研究会[2010]においては、リーマンショック後の自己資本比率規制の強化に ついて、多様なビジネスモデルをもつ金融機関に対して、一律に資本の強化を求めること は、銀行の資金供給機能を阻害する懸念があるため、各国の実情を反映できるような規制 を検討すべきであると提言している。 加えて、金融調査研究会[2014]では、リーマンショック後の金融規制改革が実体経 済・金融市場へ与える影響を分析している。その中で、本稿に関連し、規制の重複や累積 的な影響が懸念される項目として、①流動性カバレッジ比率規制やデリバティブ取引に係 る証拠金規制など複数の規制導入に伴い国債など適格流動資産の逼迫の懸念、②高いレバ レッジ比率規制の導入は、自己資本比率規制でその重要性を認識するリスク感応度とのバ ランスが大きく犠牲になる可能性があること、③自己資本比率におけるリスクアセットの 計測手法の見直しにより生じるマクロ経済に対する負の影響やコストが十分に検証されて いない可能性があることを指摘している。 これらの先行研究については、アンケートによる個別行の現況認識、あるいは地域別の 分析、また個別の規制が銀行行動に与える影響についてマクロ的な分析を中心に行ってい る。先行研究に対し、本稿では規制の変化、リスク計測手法の多様化が銀行行動にどのよ うな変化を与えたのかを、①統合リスク、信用リスク、金利リスク、流動性リスクの 4 つ の視点で包括的に直面する各種リスクに対する銀行行動を分析している。その際、②各銀 行が採用・選択しているリスク計測手法、あるいは開示されている財務データや計量化さ れたリスク量に基づき分析を試みている。また③金融危機の度に、規制のカバレッジが拡 大される中にあって、リスク計測手法・尺度の違いから生じる銀行の内部管理体制の状況 もふまえた銀行行動の変化を検証するものである。 6.本論文の構成 第 1 章では、地方銀行の現況を確認するにあたり、リスクの状況およびその管理・計測 手法について整理する。その際、多くの銀行で採用されている統合リスク管理の開示情報 をもとに業態内の比較を行う。リスクを計測するにあたり、計測手法や前提条件、またそ

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第 2 章においては、2008 年夏の世界的な金融市場の混乱(所謂、リーマンショック)前 後を例にとって、自己資本比率規制における信用リスク計測手法の違いが、地方銀行の銀行 行動(リスクテイクの状況)にどのような相違・影響・変化を与えたか検討する。リスク計 測手法によって、ストレス期における自己資本比率の水準および資本施策など自己資本管 理が異なることを明らかにする。加えて、内部データがより詳細に開示されている内部格付 手法行を中心に、リスクテイクの状況・銀行行動を分析し、リスク感応的な銀行行動につい て明らかにする。 第 3 章においては、銀行勘定の金利リスク(所謂、アウトライヤー基準)とコア預金モデ ル導入の影響について考察する。アウトライヤー基準を計測する際、流動性預金の取り扱い として、コア預金の概念が適用されている。このコア預金については「合理的に預金者行動 をモデル化」することが可能であれば、流動性預金の満期やキャッシュフローを内部モデル により計測することが認められている。このことは、各銀行の採用するモデルによっては、 金利リスクテイクできる上限が変化することになる。各銀行の導入状況を探るとともに金 利リスクテイクへの影響について分析する。また、預金者行動の特徴を捉える方法として、 預金者の限定合理性に係る留意点について述べたい。 続いて第 4 章においては、リーマンショック時の金融危機をふまえて導入が予定されて いる流動性カバレッジ比率について、その特徴と規制として適用された際の影響を分析す る。当該指標では、流動性預金の資金流出を計測することが求められており、どのような預 金が安定的に銀行に歩留まるのか判定し(預金保険の対象か否か、銀行と預金者の取引状 況)、異なる流出率を乗じることとされている。また、新たな規制に対し、将来の人口動態 の変化(預金残高の変化)をふまえ、銀行経営に与える影響を分析する。 第 5 章では、全体のまとめとして、複雑化する規制の枠組みにあって、多様化するリスク 計測手法やリスク管理方法、また各銀行のリスク選好が銀行経営の巧拙の大きな決定要因 となってくる可能性について述べる。本稿でとりあげた統合リスク、信用リスク(自己資本 比率規制)、金利リスク(アウトライヤー基準)、流動性リスク(流動性規制)の 4 つの視点 からリスクを包括的に捉え、今後地方銀行のあるべき姿を展望する。

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第1章 統合リスク管理およびリスク量の状況 1.はじめに 第 1 章では、地方銀行のリスク管理に係る概況を確認するにあたり、その管理方法や計測 手法の特徴等を整理する。その際、多くの銀行で採用されている統合リスク管理について、 IR等の会社説明会資料などの開示情報をもとに業態内での比較を行い、信用リスク・市場 リスクを中心に特徴を述べる。 統合リスク管理については、バーゼルⅡ「第 2 の柱」における監督上の検証プロセスの中 で銀行に求められている。銀行は、自己資本充実度評価のプロセスおよび自己資本水準維持 のための戦略を有するべきとし、銀行のリスク・プロファイルに応じて十分な自己資本を確 保することを求めている。 一方、これからの地方経済を見通すうえで、人口減少、少子高齢化に加え、企業の海外 進出に伴う地域の空洞化が進むことも予想される。地域経済が疲弊する中、地方銀行は地 域活性化のため積極的にリスクマネーを供給するなど、資源の配分を見直すときでもあ る。 リーマンショック後には、中小企業金融円滑化法が導入され、中小企業に対する下支え が行われた。この結果、急激な倒産の増加等は抑制されたものの、再生が困難な中小企業 への融資が継続した。2013年3月末に同法律が終了したが、引き続き中小企業の再生に取 り組むとともに、今後は新たな成長分野への資源の配分が必要である。 上記、地域経済の状況を鑑み、従来の融資に限らず様々な面から資源の配分先を成長分 野へ展開していくことが必要であると考えられる。リスクマネーの積極的な供給を通じて 地域の活性化を支援することが、地方銀行に与えられた1つの使命でもある。 こうした観点から、各銀行が認識している自行のリスクの状況について統合リスク管理 の面から検討する。前提条件等が異なるなど各地域の特性をふまえた統合リスク管理が実 施されているのか。これらの違いは銀行経営に大きな影響を与えるものなのか、地域経済 を支えるため適切な資源配分が実施されているのかなど検証する。 統合リスク管理は銀行経営の根幹であり、各銀行が独自性をもって業務運営を行うにあ たり、そのリスクテイクの方針は経営戦略や経営目標と整合的である必要がある。特に地 方銀行においては、投資家目線の経営目標としてROE等の収益性指標の達成を求められる

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を担う。 統合リスク管理の手法については画一的なものはなく、当然地域の置かれた状況および 銀行毎の経営戦略や業務内容によって異なった手法を採用しているものと考えられる。 具体的には、①対象リスク、②前提条件を含むリスク計測手法、③リスク資本配賦とリ スク量の状況から、各銀行で異なる態様になっているのか確認する。 結果として、統合リスク管理の対象としているリスクカテゴリーは概ね地域性に関係な く同様であった。信用リスク、市場リスクのリスク計測手法の普及に伴い、前提条件は異 なるものの、VaRなど同一のリスク計測手法でリスクを計測している。 また各銀行の前提条件などリスク計測手法の特徴をみると、規模が大きい銀行ほど信頼 水準を高く設定しリスク量を認識している傾向がある。信頼水準を高くすることによりリ スク量は増加するため、健全性の観点からは保守的な対応となっている。一方で、このこ とによりリスクテイク余地が限られることにもなる。 銀行が健全性を確保することにより、金融システムの維持を図ることは重要である。し かしながら、地域経済を支援する観点からは、銀行が過度に保守的なリスク管理に陥るの ではなく、健全性とリスクテイクの間でバランスをとって業務運営を進める必要がある。 各銀行のリスク・プロファイルから、リスク量については全般的に信用リスクに比べ、 株式リスクを含む市場リスクのリスク量の方が大きい傾向となっている。これに伴いリス ク資本配賦についても市場リスクに対してより多く配賦していることが確認できた。 地域経済の衰退が予想される中、地元取引先の信用リスクについてより踏み込んだリス クテイクのできる余地があると考えられる。リーマンショック以降の各銀行におけるリス ク量の推移からも、金融危機直後においては一時的に信用リスク量が増加したものの、そ の後抑制的に推移してきた。一方、市場リスクについては、金融危機後にリスク量が大き く減少したものの、足元は増加傾向となっている。これは、預貸率の低下から資産全体に 占める有価証券運用の割合が増加していること、また長らく続く低金利の影響から、預金 による短期調達を長期の貸出金あるいは債券等の有価証券で運用することにより、長短ミ スマッチのリスクから収益獲得を目指した結果、市場リスク量が大きいものと考えられ

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統合リスク管理面から本章では、地域経済の活性化のためには、地元企業へのリスクマ ネー供給を通じて地域の発展につなげるべきであるものの、信用リスクに十分に踏み込み きれていないことが示唆された。今後、地域経済を支える観点から、リスク管理面からも 資源配分の見直しをすすめる必要があると考えられる。 次章以降では、統合リスクで取り上げた信用リスク・市場リスクについて、より踏み込 んだ分析を試みている。第2章では、銀行行動に大きく影響を与える自己資本比率規制の 面から信用リスクを改めて分析している。銀行行動が異なるベクトルとなっているのか、 あるいはリスク計測手法が多様化される中、リスク認識そのものは同一のベクトルとなっ ているのか確認する。 また第3章では、市場リスクのうち銀行勘定の金利リスクにおけるコア預金モデルの取 り扱いの面から詳細に分析する。 本章の構成として、第2節では統合リスク管理の枠組みについて標準的なリスクの把握 方法およびリスク資本配賦の考え方を整理する。次に第3節では、地方銀行を対象に会社 説明会等で開示されているIR資料をもとに、統合リスク管理および資本配賦の状況につい て検証する。第4節はまとめとする。 先行研究に金融機関のリスク資本に関するフレームワークについて考察したものとして、 石川、山井、家田(2002)がある。この中で、リスク資本の配賦(以下、資本配賦)を行う にあたっては、その配賦方法の決め方には根本的な難しさがあることを指摘している。 こうした点からも、地域の特性にあった独自性のある資源配分が必要であると考えられ る。

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2.統合リスク管理とは (1)統合リスク管理および資本配賦の考え方 そもそも統合リスク管理2)とは、銀行が直面する様々なリスクを統一的な尺度をもって 評価し、その合計のリスク量が銀行の経営体力である自己資本の範囲に収まるように管理 する手法である。 昨今における銀行業務の多様化・複雑化する中で経営の健全性を確保するとともに、資 本の有効活用の観点から効率性・収益性を高めいく手法として地方銀行においても導入さ れている。また、統合リスク管理は、その枠組み・運営を通じて銀行内外のステークホル ダーとのコミュニケーションツールとしても活用されている。例えば、経営陣とのリスク 認識あるいはリスクテイク方針の共有化、IR等の開示を通じて投資家への健全性・資本効 率性のアピール、監督当局へのリスク管理の方針あるいはその対応能力の説明責任を果た す際など、コミュニケーションツールとして利用されることが期待される。 統合リスク管理の枠組みを図示したものが、図表1である。フレームワークとして、業 務部門毎あるいはリスクカテゴリー毎に、内部管理上の仮想的な資本を配賦(資本配賦) し、各業務部門、各リスクカテゴリーにおいて配賦された資本を上回らないようにリスク をコントロールすることになる。このように配賦された仮想の資本をリスク資本とし、全 体のフレームワークを資本配賦制度として構築している銀行が多い。 また、石川、山井、家田[2002]により資本配賦に係るフレームワークを整理すると、 ①バリューアットリスク3)等(以下、VaR)により計量化されたリスク量に見合うリスク資 本を保有する、②各業務部門(あるいは、リスクカテゴリー)に応じてリスク資本を配賦 する、加えて③リスク調整後収益指標により事業の収益性をリスク対比で評価することと なる。

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規 制 資 本 信用リスク見合い 市場リスク見合い オペリスク見合い 株式リスク見合い リスク資本の配賦 信用リスク 市場リスク オペリスク 株式リスク 計量化されたリスク リスク資本 リスク資本の範囲で リスク・テイク 部 門 毎 の 収 益 リスク対比資本の確保 リスク・リターンによる部門の収益性評価 図表1 統合リスク管理の枠組み これら資本配賦運営をまとめると、図表2のように①自己資本を上限にリスク資本の配 賦、②リスク資本をベースに各種リミットの設定、③その範囲内でのリスクテイク、④リ ミットの遵守状況のモニタリング等を通じたリスクのコントロール、といった対応が業務 運営として実施されることになる。 図表2 自己資本、リスク資本、リスク量の関係 (出所) 日本銀行[2005]を参考に筆者作成 自己資本 配賦可能 資本 配賦資本 (リスク資本) リスクリミット 実際の リスク量

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(2)リスクの把握方法およびリスク資本配賦の考え方 次に統合リスク管理上のリスクを把握する方法として、標準的なフレームワークおよび リスク資本を配賦する際の考え方を整理する。 ① 対象リスク 具体的な統合リスク管理の枠組みとして、まず対象とするリスクを特定する必要があ る。リスクを把握するうえで、概念図を示したものが図表3である。 図表3 リスクの把握 この場合、計量化できるもの(リスク量)として、例えば信用リスク、市場リスク、株 式リスク、オペレーショナルリスク(以下、オペリスク)が標準的な分類としてあげられ る。これらはVaR等の共通の計測手法を用いることにより計量化可能なリスクとして整理 できる。標準的に分類される統合リスク管理の対象となるリスクカテゴリーをまとめたも のが図表4である。 (出所) 日本銀行[2014]を参考に筆者作成

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りリスクを捕捉することにもなる。 計量化手法についてはVaR以外の手法もあり、リーマンショック時の教訓からVaRでは捕 捉できなりリスクについても、複眼的なリスク指標の活用あるいはストレステストの活用 により把握・補完する体制を構築することが求められている。 図表4 リスクカテゴリー カテゴリー リスク指標 内容 信用リスク UL ポートフォリオの損失可能性を統計的手法である信用VaR で計測、EL(期待損失)を控除したもの 市場リスク VaR 市場リスクファクター(金利等)に対して、ある一定確 率のもとポートフォリオが被る想定される最大損失額 株式リスク VaR 市場リスクと同様に株価が変動した場合に想定される最 大損失額(市場リスクとして管理されるケースもある) オペリスク オペリスク 量 損失データ等から統計的手法を用いて計測したリスク 量、自己資本比率規制における計測手法を代替する金融 機関が多い ② 保有期間 リスクを計量化するためには、ある資産を一定期間保有したことを前提として損失発生 のリスクを計測することになる。例えば、貸出金であれば運転資金のような短期のものあ れば、設備投資あるいは住宅ローンのように長期なものもある。有価証券においても、国 債等の流動性が高いポートフォリオであるならば、短期での売買が可能であることから、 保有期間は短期とみなせることができる。 短期間で組み替え可能なポートフォリオについては、例えば市場変動に応じて損失を限 定できる。一方、長期保有(あるいは保有せざろうえない資産)を前提としたポートフォ リオについては、市場変動(評価損益の変動)に晒されるため、リスク量は大きくなる。 一般的に市場リスクを計測するうえでの保有期間の前提は、トレーディング目的であれ ば1〜10日、バンキング勘定による運用であれば、1ヶ月〜12ヶ月としている銀行が多い。 (出所) 新日本監査法人[2003]を参考に筆者作成

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いても6ヶ月〜12ヶ月が前提となる。 一方、信用リスクを対象とする貸出金については、概ね1年を保有期間とする銀行が多 い。 これら対象資産に応じた保有期間の設定により、リスク量は大きく変動することから も、各銀行の前提条件次第では、リスクの認識が大きく異なる可能性があることに留意が 必要である。 ③ 信頼水準 リスクを計測するにあたって、統計的な手法を用いることからも、発生する可能性のあ る損失額をある一定の確率で表現するため、信頼水準を設定する。 一般的に多くの銀行が99%か99.9%の信頼水準を用いてリスクを計測している。99%の 信頼水準とは、99%の確率でリスク量が損失として顕現化しないことを示す。一方、 99.9%の信頼水準では、格付会社からの高格付目指すため高い信頼水準でリスク管理を行 う銀行もある。この場合、その信頼水準の高さからリスク回避的な経営行動となる可能性 もある。自己資本比率規制において、信用リスクについては99.9%でのリスク量の計測が 前提となっている。 ④ バッファーの考え方 一般的なリスク計測手法として、VaRなど統計的手法を用いていることから、過去のデ ータに依存するデメリットが存在する。例えば、リーマンショック時の経験では、過去デ ータに大きな市場変動ショックが含まれておらず、十分なリスク量を計測できなかった経 緯がある。また、従来とは異なる新商品が開発された場合に、内在する新たなリスクにつ いて十分に捕捉できていないこと、あるいは、リスク計測のため様々な前提条件を設定す るものの、この前提が崩れてしまった場合に想定以上にリスクが大きくことなることも想 定される。 こういったことからも、リスク資本配賦検討時には、経営体力である自己資本から一定

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⑤ リスク資本の考え方 最後に、リスク資本配賦額の決定にあたっては、経営戦略あるいは外部環境の変更等に 応じて各銀行が配賦額を決定することになる。 例えば、図表5に示す通りリスク資本配賦時の検討事項として以下のものがあげられ る。 図表5 リスク資本配賦時の検討事項 信用リスク ・業務計画に基づく与信ポートの変化、あるいは外部環境の変化に 伴うパラメータの変化に基づきリスク量を試算 ・ストレス事象を想定したリスク量の増加など 市場リスク ・業務計画等に基づく予想ポジションおよび予想されるマーケット のレンジ・シナリオ等をもとにリスク量を試算 ・マーケットの大幅な変動によるリスク量の増加など 株式リスク ・予想されるマーケットのレンジ・シナリオ、あるいは大幅な変動 によるリスク量の増加など考慮して配賦 オペリスク ・前期実績に基づき配賦 これまでは、リスクの把握方法およびリスク資本配賦の考え方について、標準的なフレ ームワークを整理した。次に、地方銀行の開示資料をもとに、現状の統合リスク管理の取 り組みについて検証する。 (出所) 新日本監査法人[2003]を参考に筆者作成

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3.地方銀行の統合リスク管理 地方銀行の統合リスク管理を検討するうえで、過去の金融危機等をふまえ過度なリスク テイクを適切に抑制しつつも、地域経済の活性化や中長期的なビジネスモデルの構築な ど、積極的なリスクテイクが求められている面もある。必要に応じて従来のリスク管理の 枠組みを見直す必要があると考えられる。 日本銀行の「2014年度の考査の実施方針」の基本的な考え方からも、統合リスク管理に 係る項目として、経営陣が関与するもとで①業務の戦略や計画の策定時にリスク認識の共 有を図っているか、②経営体力をふまえたリスクテイク方針が策定され、それに見合った リスク管理体制の整備を図っているか、③環境の変化に応じて、リスクテイク方針の見直 しやリスク管理の改善を図っているか、検証するとしている。リスクテイクにあたり業務 計画・戦略との整合性、あるいは銀行を取り巻く環境変化に応じた統合リスク管理が求め られている。 こういったことからも、地域の特性をふまえた・業務戦略に則った統合リスク管理の実 施となっているのか、経営体力である自己資本と比してリスクテイク方針が適正なもので あるのか、あるいは環境の変化・ポートフォリオの変化に応じた統合リスク管理の枠組み となっているのか、地方銀行の開示資料をもとに整理する。 その際、注目するポイントとして、計測手法、前提条件の違いが経営戦略として表れて いるのか、パターン化できる相違点があるのか、地域の特性、基盤の違いによる統合リス ク管理上の違いはあるのか等に注目する。 (1)対象リスク 図表6の通り、計量化されるリスクとして統合リスク管理の対象としているリスクカテ ゴリーは概ね地域性に関係なく同様であった。全ての銀行で信用リスク、市場リスク、オ ペリスクが計測されている。また株式リスクについては、市場リスクに含める銀行が多い 中で、一部の銀行は個別にリスク量を開示している銀行もあった。その他のリスクとし て、退職給付関連、関連会社等を統合リスク管理の対象とする銀行もあったが、少数にと

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い、銀行行動が横並びになっている可能性がある。 図表6 統合リスク管理の対象リスク(2013年9月期) (2)前提条件 次に各銀行のリスク計測手法の前提条件を確認すると、比較的規模が大きい銀行ほどリ スク計測の際に信頼水準を 99.9%としてリスク量を認識している。このことは、信頼水準 を引き上げることによりリスク量は増加することになることから、健全性の観点からは保 守的な対応となっている面もある。一方で、このことによりリスクテイク余地が限られる ことからも、積極的にリスクマネーを提供する局面においては足かせとなる可能性があ る。 保有期間については、信用リスクではほぼ 1 年で統一されているものの、市場リスクは 各銀行で異なることが確認できる。これについても、比較的規模が大きい銀行ほど保有期 間を長めに認識することにより、保守的にリスク量を計測している傾向が確認できる。 (出所) 各銀行 IR 資料をもとに筆者作成 七十七 常陽 千葉 横浜 群馬 山梨 八十二 静岡 スルガ 信用リスク ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ 市場リスク(含む株式リスク) ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ (株式リスク) ⚪ ⚪ ⚪ オペリスク ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ その他(リスク量は小さい) ⚪ 退職給付関連 ⚪ ⚪ 関連会社 ⚪ ⚪ 流動性リスク ⚪ 京都 池田泉州 紀陽 山陰合同 中国 広島 山口 伊予 肥後 信用リスク ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ 市場リスク(含む株式リスク) ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ (株式リスク) ⚪ ⚪ ⚪ オペリスク ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ ⚪ その他(リスク量は小さい) 再配賦資本 ⚪

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図表7 リスク計測手法の前提条件(2013年9月期) (3)リスク資本配賦とリスク量 2013 年 9 月期において開示されているいくつかの地方銀行の統合リスクのリスク・プロ ファイルを示したものが図表 8、9 である。各銀行のリスク量については、保有期間、信 頼水準など各銀行の前提条件の違いは調整していない。このため、各銀行間の単純な絶対 値により比較することは評価が難しいものの、ここでは、各銀行のリスク認識について概 観する。 全般的に信用リスクに比べ、株式リスクを含む市場リスクのリスク量が大きく、リスク 資本の配賦についても厚めに配賦していることが確認できる。株式リスクについて、一部 の銀行では、リスク量と株式評価益を相殺することにより、リスク量が小さく表記されて いる。 これら地方銀行のプロファイルをふまえると、足元預貸率の低下から資産全体に占める 有価証券運用の割合が増加していること、また長らく続く低金利の影響から長短ミスマッ チによりリスクテイクした結果、市場リスク量が大きいものと考えられる。 本来、地域経済の活性化のためには、地元中小企業等へのリスクマネー供給を通じて地 域の発展につなげることが可能であるものの、現状では市場リスクに比べ信用リスクテイ クには十分に踏み込みきれていないことが示唆された。 (出所) 各銀行 IR 資料をもとに筆者作成 千葉 八十二 スルガ 京都 紀陽 山陰合同 中国 広島 伊予 信用リスク 信頼水準 99.9% 99.9% 99.0% 99.0% 99.0% 99.0% 99.9% 99.9% 99.9% 保有期間 1年 1年 240日 1年 1年 1年 1年 1年 1年 市場リスク 信頼水準 99.9% 99.9% 99.0% 99.0% 99.0% 99.0% 99.9% 99.9% 99.9% 保有期間 1年 6ヶ月 125日 1年 有価証券 60日 1年 6ヶ月 3ヶ月 3ヶ月 (株式) 120日 6ヶ月 3ヶ月 6ヶ月 6ヶ月 預貸金 60日 1年 6ヶ月 3ヶ月 1年

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図表8 リスク資本配賦とリスク量(2013年9月) 【経営体力】 (単位:億円) 七十七 常陽 千葉 横浜 群馬 山梨 八十二 静岡 スルガ 自己資本 2,928 3,772 6,436 6,756 3,301 1,555 4,334 6,851 2,077 バッファー 856 1,188 903 1,263 384 836 1,318 1,395 配賦可能資本 2,072 2,584 5,533 6,756 2,038 1,171 4,398 5,533 682 京都 池田泉州 紀陽 山陰合 中国 広島 山口 伊予 肥後 自己資本 3,110 1,776 1,375 2,288 3,596 2,840 4,362 4,423 2,221 バッファー 1,630 724 547 651 210 460 3,237 1,523 1,155 配賦可能資本 1,480 1,052 828 1,637 3,386 2,380 1,125 2,900 1,066 【リスク資本配賦】 (単位:億円) 七十七 常陽 千葉 横浜 群馬 山梨 八十二 静岡 スルガ リスク資本 2,072 2,584 5,300 4,823 2,038 1,120 3,555 5,533 682 信用リスク 900 665 2,250 1,370 784 440 860 1,611 250 市場リスク 1,060 630 2,800 2,630 838 615 2,010 3,685 294 株式リスク 1,030 278 210 138 オペリスク 112 156 250 202 138 60 145 237 その他 103 621 5 330 京都 池田泉州 紀陽 山陰合 中国 広島 山口 伊予 肥後 リスク資本 1,480 1,052 828 1,637 3,386 2,380 2,728 2,900 1,066 信用リスク 970 300 260 419 930 1,030 1,052 650 285 市場リスク 360 662 490 1,126 2,120 720 1,504 2,120 370 株式リスク 30 470 320 オペリスク 120 90 78 92 142 160 172 130 91 その他 194 【リスク量の実績】 (単位:億円) 七十七 常陽 千葉 横浜 群馬 山梨 八十二 静岡 スルガ リスク量 1,690 1,831 3,314 1,560 670 2,185 2,927 539 信用リスク 641 458 1,125 755 248 583 587 168 市場リスク 937 338 1,365 667 369 1,121 2,068 239 株式リスク 776 0 6 132 オペリスク 112 156 202 138 53 145 237 その他 103 621 330 35 京都 池田泉州 紀陽 山陰合 中国 広島 山口 伊予 肥後 リスク量 1,000 659 523 966 2,423 1,335 2,110 2,025 646 信用リスク 705 214 206 222 652 709 813 419 161 市場リスク 175 360 240 653 1,629 218 1,125 1,483 175 株式リスク 0 248 219 オペリスク 120 85 77 91 142 160 172 123 91 その他 (出所) 各銀行 IR 資料をもとに筆者作成

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図表9 リスク資本配賦とリスク量(構成比および使用率)(2013年9月) 【リスク資本配賦】(構成比) 七十七 常陽 千葉 横浜 群馬 山梨 八十二 静岡 スルガ リスク資本 100% 100% 100% 100% 100% 100% 100% 100% 100% 信用リスク 43% 26% 42% 28% 38% 39% 24% 29% 37% 市場リスク 51% 24% 53% 55% 41% 55% 57% 67% 43% 株式リスク 40% 14% 6% 20% オペリスク 5% 6% 5% 4% 7% 5% 4% 4% 0% その他 4% 13% 0% 9% 0% 京都 池田泉州 紀陽 山陰合 中国 広島 山口 伊予 肥後 リスク資本 100% 100% 100% 100% 100% 100% 100% 100% 100% 信用リスク 66% 29% 31% 26% 27% 43% 39% 22% 27% 市場リスク 24% 63% 59% 69% 63% 30% 55% 73% 35% 株式リスク 2% 20% 30% オペリスク 8% 9% 9% 6% 4% 7% 6% 4% 9% その他 6% 【リスク量の実績】(構成比) 七十七 常陽 千葉 横浜 群馬 山梨 八十二 静岡 スルガ リスク資本 100% 2,584 100% 100% 100% 100% 100% 100% 信用リスク 38% 665 34% 48% 37% 27% 20% 31% 市場リスク 55% 18% 41% 43% 55% 51% 71% 44% 株式リスク 42% 0% 24% オペリスク 7% 9% 6% 9% 8% 7% 8% 0% その他 6% 19% 15% 1% 0% 京都 池田泉州 紀陽 山陰合 中国 広島 山口 伊予 肥後 リスク資本 100% 1 100% 100% 100% 100% 100% 100% 100% 信用リスク 71% 0 39% 23% 27% 53% 39% 21% 25% 市場リスク 18% 55% 46% 68% 67% 16% 53% 73% 27% 株式リスク 19% 34% オペリスク 12% 13% 15% 9% 6% 12% 8% 6% 14% その他 【使用率】 七十七 常陽 千葉 横浜 群馬 山梨 八十二 静岡 スルガ リスク資本 2,584 信用リスク 71% 69% 82% 96% 56% 68% 36% 67% 市場リスク 88% 54% 52% 80% 60% 56% 56% 81% 株式リスク 75% 3% 96% オペリスク 100% 100% 100% 100% 88% 100% 100% その他 100% 100% 0% 京都 池田泉州 紀陽 山陰合 中国 広島 山口 伊予 肥後 リスク資本 信用リスク 73% 71% 79% 53% 70% 69% 77% 64% 56%

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(4)リーマンショック以降のリスク量の推移(時系列) ① 自己資本等の推移 図表 10 では、配賦原資となる自己資本の対前期比の変動率を表す。リーマンショック 直後においては、配賦原資である自己資本が保有債券、株式の減損に伴い大きく減少した 銀行があった。その後、落ち着きを取り戻す中で全体の平均で配賦原資である自己資本等 は 3~5%程度で増加している。 ただし、個別行の状況では、震災の影響(東北)、合併(十六銀行)、有価証券含み益増 加(伊予)等の影響により大きく増減している銀行もある。また、配賦原資から繰延税金 資産を控除するなど厳格化(山陰合同)することにより、保守的な資本配賦制度に見直す 銀行もあった。 ② 信用リスク量の推移 リーマンショック以降の各銀行における信用リスク量の推移については、金融危機直後 においては景気後退に伴う信用リスクの高まりから一時的にリスク量が増加した。その 後、リスクテイクは抑制的な推移となっている。一部、東北地域の銀行については、復 旧・復興等の資金供給による与信額の増加からリスク量が他地域と比較し増加している。 ③ 市場リスク量の推移 市場リスクについては、株式リスクと金利リスク、価格変動リスクが含まれている。リ ーマンショック以降、一時的にリスク量が大きく減少したものの、足元は増加傾向となっ ている。市場リスクについては有価証券運用による機動的なコンロトールが可能であるこ と、またデリバティブ取引によるリスクヘッジが比較的容易なことから信用リスクに比べ 変動率の振れ幅が大きい動きとなっている。 市場のボラティリティに影響されること、後述のコア預金モデルの内部管理への適用か ら、時系列でみるとリスク量が大きく振れる結果となっている。(詳細は第3章にて) 全般的に、預貸率の低下から資産全体に占める有価証券運用の割合が増加していること から、預金による短期調達を長期の貸出金あるいは債券等の有価証券で運用することによ り、長短ミスマッチのリスクから収益獲得を目指した結果、市場リスク量が大きいものと 考えられる。

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図表10 自己資本等(Tier1資本等)の推移(対前期比変動率) 【自己資本等】 (単位:%) 08/09 09/09 10/09 11/09 12/09 13/09 みちのく -18.65 -22.47 41.63 -8.52 -1.80 7.95 岩手 1.82 -4.67 5.22 -0.54 5.46 9.31 七十七 - 2.67 3.72 -12.65 2.80 3.43 山形 - -2.02 1.86 2.41 2.26 5.89 常陽 -9.47 3.51 4.68 -1.60 2.57 -0.63 群馬 5.07 2.41 4.85 2.15 4.02 1.16 千葉 - 11.51 6.24 1.64 8.08 3.42 横浜 - - - 2.34 5.74 -0.69 第四 - 11.49 2.31 2.77 3.60 2.03 八十二 4.19 -0.58 4.04 3.10 4.14 2.51 静岡 - 0.79 1.89 2.17 8.11 5.76 スルガ 7.54 3.45 0.54 -2.25 4.22 9.14 十六 1.57 -5.95 4.38 1.92 25.89 3.36 京都 10.28 4.41 4.77 -2.07 -1.54 5.75 南都 -14.93 - - -0.60 -9.03 24.40 紀陽 -19.21 31.95 5.62 3.18 -8.63 0.73 山陰合同 -0.45 3.24 -10.25 3.55 3.76 3.53 中国 1.50 -2.96 6.04 -0.20 -2.03 3.69 広島 5.67 1.46 2.89 2.55 5.19 -5.30 伊予 23.06 3.95 4.55 1.61 13.83 13.88 肥後 - - 3.33 4.56 5.21 3.96 大分 -14.06 22.21 2.74 2.89 3.81 1.04 鹿児島 - - 3.41 3.10 - - 平均 0.69 3.19 3.72 0.70 4.62 3.99 (出所) 各銀行 IR 資料をもとに筆者作成 (注) 開示頻度の都合上、一部の銀行については年度比較。

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図表11 信用リスク量の推移(対前期比変動率) 【信用リスク】 (単位:%) 08/09 09/09 10/09 11/09 12/09 13/09 みちのく -21.09 28.71 41.54 -11.41 -19.63 -3.05 岩手 26.52 -3.59 -7.45 5.37 133.76 1.63 七十七 - 24.36 -38.94 60.75 68.54 -10.72 山形 - 22.73 -11.11 4.17 -4.00 133.33 常陽 7.58 -1.54 -7.83 6.55 12.76 -7.47 群馬 18.49 13.87 11.34 -12.01 10.19 18.34 千葉 - -12.11 9.58 3.83 1.58 16.58 横浜 - - - -16.34 0.80 -25.84 第四 - 11.39 -5.68 -28.92 14.69 -9.36 八十二 100.00 -2.50 -22.31 -14.36 8.09 3.92 静岡 - 51.92 -24.07 -10.33 6.05 8.10 スルガ -1.86 -17.72 11.54 -4.14 8.63 11.26 十六 13.52 -6.27 -6.69 -12.54 -4.10 -16.67 京都 35.12 40.06 32.53 -19.77 26.28 14.63 南都 -55.41 - - -5.07 4.85 -10.65 紀陽 17.65 84.17 -0.45 3.18 -6.61 -2.83 山陰合同 63.96 -9.89 -9.15 36.91 11.27 -2.20 中国 -2.85 -0.85 -2.48 -0.98 -25.49 -13.53 広島 7.11 7.08 2.89 13.86 54.85 -19.25 伊予 11.51 0.00 6.88 -3.43 13.11 -17.68 肥後 - - 3.25 10.69 -8.52 143.48 大分 9.18 -14.16 0.00 10.82 13.49 32.79 鹿児島 - - 0.00 5.19 - - 平均 11.76 4.63 -1.84 -3.25 9.54 1.09 (出所) 各銀行 IR 資料をもとに筆者作成 (注) 開示頻度の都合上、一部の銀行については年度比較。 (注) またリスク量の開示がない銀行についてはリスク資本で代替。

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図表12 市場リスク量の推移(対前期比変動率) 【市場リスク】 (単位:%) 08/09 09/09 10/09 11/09 12/09 13/09 みちのく 88.37 -49.07 -46.06 17.98 -26.67 132.47 岩手 20.68 7.93 -50.71 34.13 -16.49 80.26 七十七 - -13.32 -48.61 83.20 -56.01 79.16 山形 - -7.83 -5.31 -6.73 -4.81 28.54 常陽 20.15 -15.13 -3.45 3.57 12.45 -12.94 群馬 -27.73 32.68 -13.39 37.09 7.22 -29.86 千葉 - 28.87 -7.60 14.72 5.66 0.00 横浜 - - - -7.74 6.22 15.87 第四 - 29.37 -7.80 -23.87 -19.51 93.25 八十二 40.74 -16.22 -68.13 56.27 11.47 15.95 静岡 - -68.03 -79.58 608.73 24.19 86.47 スルガ 147.66 -25.47 -39.75 -6.30 -16.59 28.49 十六 207.39 10.76 -49.94 21.23 -24.86 44.86 京都 27.54 -6.10 -22.00 44.23 -78.67 82.29 南都 -30.28 - - -12.00 -31.82 27.54 紀陽 -41.80 73.49 -43.52 -10.96 -57.31 116.22 山陰合同 20.26 -26.70 -56.87 42.91 -29.54 124.40 中国 -9.46 -31.12 -0.33 5.56 4.00 59.82 広島 100.64 -4.53 -45.25 21.12 -17.94 -42.75 伊予 18.97 -5.82 -14.72 -8.50 14.57 26.54 肥後 - - -15.46 -14.63 40.71 -2.03 大分 -33.07 -7.06 -10.13 25.35 -6.74 21.69 鹿児島 - - -10.47 -6.49 - - 平均 18.80 -10.92 -30.39 17.77 -5.94 23.14 (出所) 各銀行 IR 資料をもとに筆者作成 (注) またリスク量の開示がない銀行についてはリスク資本で代替。 (注) 開示頻度の都合、一部の銀行については年度比較。

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4.まとめ 本章では、各銀行が認識している自行のリスクの状況について統合リスク管理の面から 検討した。前提条件等が異なるなど各地域の特性をふまえた統合リスク管理が実施されて いるのか。これらの違いは銀行経営に大きな影響を与えるものなのか、地域経済を支える ため適切な資源配分が実施されているのかなど検証した。 具体的には、①対象リスク、②前提条件を含むリスク計測手法、③リスク資本配賦とリ スク量の状況から、各銀行で異なる態様になっているのか確認した。 結果として、統合リスク管理の対象としているリスクカテゴリーは概ね地域性に関係な く同様であった。信用リスク、市場リスクのリスク計測手法の普及に伴い、同一の手法で リスクを測ることになるが、このことが銀行行動を同じベクトルとしている可能性があ る。リスクが計量化されることにより銀行行動が横並びになっている可能性がある。 次に銀行別に計測手法の特徴をみると、規模が大きい銀行ほど信頼水準を高めてリスク 量を認識している。高い信頼水準ではリスク量は増加するため、健全性の観点からは保守 的な対応となっている。一方で、このことによりリスクテイク余地が限られることにもな る。 銀行が健全性を確保することにより、金融シスムの維持を図ることは重要である。しか しながら、地域経済を支援する観点からは、銀行が保守的なリスク管理に陥るのではな く、健全性とリスクテイクの間でバランスをとって業務運営を進める必要がある。 各銀行のリスク・プロファイルから、リスク量そのものについては全般的に信用リスク に比べ、株式リスクを含む市場リスクのリスク量の方が大きい傾向である。これに伴いリ スク資本の配賦についても市場リスクに対して厚めに配賦していることが確認できた。資 本配賦の観点から地元取引先の信用リスクについて、より踏み込んだリスクテイクが可能 であると考えられる。 リーマンショック以降の各銀行におけるリスク量の推移からも、金融危機直後において は一時的に信用リスク量が増加したものの、その後抑制的に推移してきた。一方、市場リ スクについては、金融危機後にリスク量が大きく減少したものの、足元は増加傾向となっ ている。 本来、地域経済の活性化のためには、地元企業へのリスクマネー供給を通じて地域の発 展につなげるべきであるものの、信用リスクテイクには未だ充分に踏み込みきれていない

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第2章 信用リスク計測手法の違いによる銀行行動 1.はじめに ここでは、2008 年夏の世界的な金融市場の混乱(所謂、リーマンショック)前後を例に とって、自己資本比率規制における信用リスクアセット計測手法(以下、信用リスク計測手 法)の違いが、地方銀行の銀行行動(リスクテイクの状況)にどのような相違・影響・変化 を与えたかについて検討するものである。現在、自己資本比率の算出にあたっては、金融庁 告示第 19 号に定められた算式として、信用リスク計測に 3 つの手法(標準的手法、基礎的 内部格付手法、先進的内部格付手法)4)がある。 日本においては、米国の住宅ローン等に係る証券化商品による直接的な銀行の損失は限 定的であったものの、リーマンショック後の景気後退や保有有価証券の値下がりなど、間接 的に銀行の経営に打撃を与えた。こういった状況をふまえ、標準的手法と内部格付手法の違 いが、信用リスクに対する、あるいは資本政策などの銀行行動を左右することについて言及 したい。加えて内部データがより詳細に開示されている内部格付手法行を中心に、地方銀行 が保有する信用リスクの特徴およびリスクテイクの変化・行動を分析するものである。 そのため、本稿の検証アプローチとして、現状の信用リスク計測手法とその目的・概念に ついて整理し、異なる信用リスク評価方法が混在する地方銀行について、過去 5 年間のデー タを用いて比較・分析し、内部格付手法行が、よりリスク感応的な銀行行動をとってきたか どうかを検証するものである。 検証結果として、①内部格付手法行は、標準的手法行よりも高い自己資本比率を維持する 必要性がある、②金融危機後の資本政策に明確な違いがある、③バーゼルⅢベースの自己資 本比率において、標準的手法行ではリーマンショック時のような強いストレスがかかった 時に、リスクテイク余地が限られリスク回避的な行動に結びつく可能性がある、④内部格付 手法行の間でも、リスクテイクの状況など異なる銀行行動となっていると、4 つの結果が得 られた。 リスク計測手法の違いによる銀行行動・評価について分析した先行研究として、樋渡 [2012]では、リスクアセット計測手法の相違(リスク管理手法の高度化)と株主価値との関 4) 基礎的内部格付手法と先進的内部格付手法では、パラメータの利用など異なる部分もあるが、銀行内部

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連性について検証している。リスク管理高度化といったバランスシートに計上される資産 以外の知的資産等の見えない資産が、株主価値に有意に影響を与えているとしている。また 福田[2010]では、信用リスクアセット計測の精緻化が銀行貸出行動にどのような影響を与 えたか検証している。バーゼルⅡ、特に内部格付手法は景気循環に対してプロシクリカルで あるとの指摘があるものの、実証分析の結果、比較的銀行が健全であった 2007 年度では異 なったものであったとしている。 本章では、バーゼルⅡが導入されてからの時系列データを用いることにより、リーマンシ ョックという実際に銀行経営にストレスがかかった際に、リスク感応的な仕組みが銀行行 動に与えた影響について明らかにするものである。 2.信用リスク計測手法とその目的 (1)信用リスクの計測手法5) 銀行が自己資本比率を算出するにあたって、リスク加重された信用リスクアセットの計 測手法としては、バーゼルⅡが適用される前の自己資本比率規制(以下、バーゼルⅠ)では 単一の計測手法しかなく、大まかな資産区分毎(事業法人や住宅ローンなど)に一律のリス ク・ウェイトが設定されていた。その後、バーゼルⅡでは信用リスクアセット計測の精緻化 が図られる中で、「標準的手法」と「内部格付手法」から銀行自らがそのリスク管理レベル に照らし合わせ、リスク計測手法を選択することになった。 標準的手法においては、従来の仕組みを継承しつつ、事業法人先等ではその先の信用力 (外部格付)に応じたリスク・ウェイト、また中小企業あるいは個人向け貸出については小 口分散を勘案したリスク・ウェイト、延滞債権は引当率に応じたリスク・ウェイトの適用な ど、比較的簡素な枠組みにより信用リスクアセットを計測することができる。 一方、内部格付手法では、①銀行自身が行内の格付制度「内部格付制度」を整備し、それ に基づいて与信先に格付を付与、②また各格付には実績データからパラメータ(PD、LGD、 EAD)6)を推計し、③そのパラメータをバーゼル銀行監督委員会から示されたリスクアセッ

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トの計算式に投入して、所要自己資本額を算出する、といったプロセスになっている。 図表1 バーゼルⅠとバーゼルⅡ(標準的手法)のリスク・ウェイト したがって、その算出プロセスは、内部データの整備、システムの構築、格付制度の運用 など、銀行内部の管理体制に依拠した枠組みとなっている。また自己資本比率算出に内部格 付手法を採用するにあたっては、金融庁の承認手続きが必要となってくる。 このように、標準的手法と内部格付手法では、同じ自己資本比率規制であってもリスク計 測手法によって、算出プロセス、内部管理体制は大きく相違してくるものと考えられる。 図表 2 では、バーゼルⅡが日本において適用開始された 2007 年 3 月以降の全銀行(都市、 長信銀、信託銀、地銀、第二地銀)における採用手法別の推移である。バーゼルⅡ導入当初 の 2007 年においては、内部格付手法を採用する銀行が 14 行と 1 割程度であったが、4 年が 経過した 2011 年には 9 行増えて 119 行中 23 行となっている。 図表2 標準的手法採用行と内部格付手法採用行の推移 (単位:行数) 2007 2008 2009 2010 2011 標準的手法 111 106 103 99 96 内部格付手法 14 18 20 21 23 ウチ先進的手法 0 0 6 6 6 合計 125 124 123 120 119 (出所) 全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」(各年度)より作成 (2)バーゼルⅡにより期待される効果・目的 そもそも、バーゼルⅡが適用されるに至った経緯・背景については、氷見野[2005]がバー 事業法人(中小企業以外) 中小企業・個人 住宅ローン 延滞債権 バーゼルⅠ 100% 100% 50% 100% バーゼルⅡ (標準的手法) (格付に応じて)20~150% 又は (格付使用せず)一律100% 75% 35% (引当率に応じて) 50%~150% (出所) 金融庁告示第 19 号より作成

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本章では、バーゼルⅡ適用後の信用リスク計測手法の違いによる銀行行動の相違を検証 することを目的としている。以下では、バーゼルⅡの枠組みの目的や銀行の規制・監督に関 する基本的な考え方について、宮内[2003、2004]に従い整理することにより、バーゼルⅡ適 用後の銀行行動の変化を想定する。 銀行規制・監督の枠組みを設計するうえでは、金融仲介機能の効率性と金融システムの安 定性の 2 つの視点でバランスをとることが重要であるとされている。自己資本比率規制は、 銀行に業務を継続するうえでの最低水準を示すものであるものの、銀行行動(リスクテイク やリスク管理など)に強い影響を及ぼす可能性がある。したがって、銀行行動は規制・監督 によって生み出されるインセンティブに敏感となることから、規制がリスクを適切に捕捉・ 反映していれば、銀行行動の経済性は損なわれることはないとしている。 内部格付手法を中心としてバーゼルⅡでは、リスク感応的な自己資本賦課や、銀行が内部 管理に使用するパラメータなど、その仕組みを利用できること(銀行のインセンティブ、リ スク評価を活かすこと)が狙いとなっている。バーゼルⅡのリスク感応的な構造(リスクに 応じた自己資本賦課)によりリスクに応じた貸出等の戦略を促すことから、ストレス時に銀 行にリスクが集中する旧来の貸出慣行に転換を促す面も想定される。このことは、バーゼル Ⅱの導入により、銀行がリスク管理の高度化を進める結果、貸出業務においては、従来より も増してリスクを意識したビジネスモデルに変わっていくものとされている。 以上をふまえ、本邦において 2007 年 3 月よりバーゼルⅡが適用される中、リーマンショ ックの影響を直接的・間接的に受けた地方銀行が、継続して金融仲介機能を発揮できたのか、 また信用リスク計測手法の違いが銀行行動に相違をもたらしたか、検証する。 具体的には、標準的手法と比較して内部格付手法は、よりリスク感応度の高い仕組みであ り、かつ内部管理で利用されている格付がそのまま自己資本比率に影響を与えるため、内部 格付手法行がよりリスク感応的な銀行行動につながったのかを、次節以降で検証する。

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10.0 10.5 11.0 11.5 12.0 12.5 13.0 13.5 14.0 14.5 07/03 07/09 08/03 08/09 09/03 09/09 10/03 10/09 11/03 3.自己資本と信用リスクアセットの動向 本分析の対象行として、同一業態内で標準的手法と内部格付手法が混在している地方銀 行を中心として、信用リスク計測手法の違いによるリスク感応度について検証する。各銀行 の有価証券報告書などの決算データ、および各銀行の発行するディスクロージャー誌の「自 己資本充実の状況」の定量的事項を中心としたデータを用いて分析を行った。 (1)地方銀行の自己資本比率の現状 まず、バーゼルⅡ適用後の自己資本比率の状況について概観する。図表 3 は信用リスク計 測手法別(内部格付手法、標準的手法)に銀行を分類し、自己資本比率の平均値の推移を確 認している。2011 年 3 月期現在、全体の 2 割にあたる 12 行の銀行が内部格付手法を採用し ており、残りの 51 行は標準的手法を採用している。 自己資本比率については、一貫して内部格付手法行が標準的手法行より高い自己資本比 率を維持している。内部格付手法行では、景気変動等に対しリスクアセットがより感応的に 変動する仕組みであることから、その変動のバッファーとして標準的手法行よりも高い自 己資本比率を維持している可能性が考えられる。加えて、リーマンショック以降その乖離は 大きくなり、2011 年 3 月期で標準的手法行は 11.66%、内部格付手法行は 13.84%と約 2% 高いことが確認できる。 図表3 信用リスク計測手法別の自己資本比率の推移(グループ別) 参考(主要行等) 地銀(内部格付手法) 地銀(標準的手法) (出所) 各行有価証券報告書、ディスクロージャー誌より作成 (%)

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0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 <8 <9 <10 <11 <12 <13 <14 標準的手法 内部格付手法 信用リスク計測手法の選択にあたっては、導入前の自己資本比率の水準に影響を受ける 可能性がある。特に、内部格付手法では、宮内の述べるようにリスク感応的な仕組みである ことから、景気後退期には自己資本比率が大きく変動する可能性があり、リスクアセットお よび自己資本管理の重要性が増すこととなる。一方で、自己資本比率の低い銀行は、標準的 手法を採用することで、より安定的な業務運営を選択することも考えられ、導入当初から内 部格付手法を選択する銀行は限定されていた可能性がある。 そこで、バーゼルⅡ導入以前の自己資本比率の分布状況を確認することにより、その後の 信用リスク計測手法選択への影響を確認する。リーマンショック(2009 年 9 月)を境に、 内部格付手法を採用している銀行(8 行)と標準的手法行(55 行)とに分類し、2006 年 9 月 期の自己資本比率の分布を表したのが図表 4 である。 図表4 自己資本比率の分布(2006 年 9 月期) 内部格付手法行では平均 11.35%の自己資本比率に対し、標準的手法行では 10.37%と、 約 1%の乖離がある。しかしながら、自己資本比率 10%以上を確保している標準的手法行も 33 行あり、自己資本比率の水準から内部格付手法行と比べ見劣りするものでないと考えら (出所) 全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」より作成 (%) (行数)

参照

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