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第7章
夫婦の満足度を高めるのはお金なのか愛なのか
データサイエンス学部 井本望夢
1.問題の所在 「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私はあなたと結婚したいのです。」これはあ る結婚情報誌の CM のキャッチコピーだ。昨今の日本では、結婚は人生の選択肢の一つとし て捉えられるようになっており、結婚するかしないかについての自由度は高まっている (内 閣府編 2014)。そのような社会背景でも結婚を希望し、子宝に恵まれる人も存在する。し かし、第1子出生時の母親の平均年齢は上昇傾向にあり、平成 30 年における母親の平均年 齢は 30.7 歳という結果が出ている(内閣府 2018)。加えて厚生労働省は男女共に 30 代の 離婚が多いことも示している(内閣府 2009)。結婚への自由度が高まり晩婚化、晩産化が進 む今日に、30 代で結婚をしている人の離婚が増進すると少子化問題の深刻化も考えられる。 また離婚の種類別構成割合の年次推移を見ると、協議離婚に比べ裁判離婚の割合は上昇傾 向にある(内閣府 2009)。そこで夫婦円満を持続させるには如何にすれば良いかを考える。 未婚女性の結婚条件において言えば、従前にもそれらの研究は行われてきたが、経済的 な側面と恋愛感情の2点が重視される点についての変化はない(府中 2016)。では実際に 結婚を果たした者の夫婦満足度にそれら2点は影響するのだろうか。また、どちらが強く 影響するのだろうか。 以上を踏まえ、本稿では夫婦満足度を高める要因を探ることを目的とし、それはお金な のか、はたまた愛なのかを検証していく。続く第2節では先行研究を整理し、本稿で分析 する仮説を構築する。第3節では使用するデータと変数を概観し、第4節で分析結果を報 告する。最後に第5節で分析結果から考察を行う。 2.先行研究と仮説の検討 2-1.先行研究 米国の家族社会学では夫婦関係に関する実証研究が中心的な位置を占め、毎年、相当数 の研究成果が報告されているのに対し、日本では夫婦関係の満足度に影響を与える要因に ついての実証研究は少なく、家族研究の中では最も調査研究が遅れた領域のひとつとされ ている(神原 1997)。更に、夫婦満足度に関する研究でも、これまでは夫婦の態度や行動 などとの関連性に主眼がおかれ、基本的属性との関連を要視されてきたものは乏しく、今 後の課題となっている。 基本的属性との関連にも着目した数少ない研究に鈴木・田岡 (2000)がある。この研究で は、夫婦の関係性だけに特化されない結婚生活全般への満足度を規定する要因を探るため に、先行研究において結婚満足度との関連性が認められている子どものライフステージや42 子ども数、役割関係(家事分担)、行動次元の伴侶性(会話頻度、夕食を共にする頻度、休 日を一緒にすごす)といった基本的属性以外の変数、さらには本人年収と配偶者年収の組 み合わせと結婚満足度の関連について、吹田市を対象に分析している。その結果、男性で は学歴、世帯年収、本人年収、配偶者(妻)収入の4変数、女性では世帯年収、配偶者(夫) 年収、子どものライフステージ、会話頻度の4変数が結婚満足度と有意な結果を示した。 2-2.仮説の検討 本稿では、使用した調査項目が夫婦関係全体について満足しているかどうか(以下夫婦 満足度と表記)であるため、結婚満足度ではなく夫婦満足度について分析することとし、 「夫婦満足度に関連しているのはお金と愛どちらなのか」を検討する。鈴木・田岡は、女 性では子どものライフステージの影響、また、会話頻度もかろうじて影響力が認められた が、男性では、会話頻度や夕食頻度、あるいは休日を一緒にすごすかどうかといった行動 次元の伴侶性は結婚満足度に関連せず、ほとんど経済的要因のみが結婚満足度に対する規 定力をもっていることを示している。同様の事は大 津市における夫婦満足度でも当てはま るのだろうか。 以上を検討するために、まず、回答傾向を記述統計から確認する。次に夫婦満足度とお 金、愛の基礎的な関連性を相関行列より検討する。最後に基礎的な相関結果について他の 変数を統制しても関連が見られるか、重回帰分析によって検討する。 3.使用するデータと変数 3-1.使用するデータ データには、「大津市男女共同参画及び女性活躍に関する調査」(以下大津市調査と表記) を使用する。調査概要を表1に示す。このデータは大津市に限定しているものの、配偶者 の年収、配偶者が心配事や悩み事を聞いてくれるかどうか(以下情緒的サポートと表記) を尋ねており、これらはお金と愛に置き換えることができるため、本検討課題を分析する 上で適切なデータである。なお、夫と妻それぞれの夫婦満足度への各変数の関連性を見る ため、男女別に分析を行う。 表1.調査概要 調査名 大津市男女共同参画及び女性活躍に関する調査 調査対象 大津市に在住している30歳~49歳の有配偶男女 調査時期 2019年9月14日~9月30日 調査方法 郵送法 抽出方法 住民基本台帳から無作為抽出 計画標本 4000 サンプルサイズ 1969 回収率 49.2%
43 3-2.使用する変数 夫婦満足度を従属変数に、情緒的サポートと配偶者年収(連続量)を独立変数に使用す る。「大津市調査」では、夫婦満足度と情緒的サポートについて「1 あてはまる」から「5 あてはまらない」の5段階評価で尋ねられているが、分析では逆転させ、数値が高くなる ほど満足度が高くなると解釈できるようにしている。また統制変数として、本人年齢(連 続量)、本人学歴を使用した。本人学歴は6段階で尋ねられているが、大卒以上、専門大学・ 短大卒、高卒以下の3カテゴリに統合した。なお、欠損値のある回答者は分析から除外し、 最終的に欠損値のない 1,859 名を使用した。 表2に、使用する変数の記述統計量を示す。この表によると、夫婦満足度について、男 性の方が高く、女性よりも男性の方が夫婦関係に満足していることがうかがわれる。また、 配偶者学歴より、男性は大卒以上が、女性は専門・短大卒と大卒以上の人が多い事がわか る。夫婦満足度への影響について考えると、男性に比べ、女性における情緒的サポートと 夫婦満足度の数値がほぼ同じ値を示していることから、女性の夫婦満足度には情緒的サポ ートが大きく影響しているのではないかと推測する。 表2.記述統計量 4.分析 4-1.基礎的な分析 まず、基礎的な分析として、夫婦満足度、情 緒的サポート、配属者年収の男女別の相関 行列を表3、表4に示す。相関行列より、男性の夫婦満足度には情緒的サポートが関連し ており、女性の夫婦満足度には情緒的サポートに加えて配偶者年収も関連していることが わかる。また男女共に、情緒的サポートと配偶者年収に有意水準 10%で正の相関があるこ とがわかる。
44 表3.相関行列(男性) 表4.相関行列(女性) 表3と表4の結果より、夫婦満足度は情緒的サポートや配偶者年収と関連している可能 性が示唆された。しかし、この関連は配偶者の年齢や学歴といった別の変数と交絡してい る可能性がある。よって、次節では重回帰分析によってこれらの変数を統制した上でも、 情緒的サポートと配偶者年収が夫婦満足度に関連性を持っているのかを確認する。 4-2.重回帰分析 本節では、情緒的サポートや配偶者年収が他の変数を統制しても影響があるか、重回帰 分析によって検討する。表5は重回帰分析の結果である。この表によると、男性の夫婦満 足度には情緒的サポートが主に影響しており、配偶者からの情緒的サポートに満足してい るほど、夫婦満足度が高くなることがわかる。また、有意水準 5%で統制に使用した配偶 者学歴の変数が関連しており、妻の学歴が大卒以上であれば夫婦満足度が高くなる。一方 女性の夫婦満足度には情緒的サポートと配偶者年収が関連している。しかし、標準化回帰 係数は情緒的サポートが 0.677、配偶者年収が 0.049 となっており、情緒的サポートの方 が夫婦満足度に与える影響が大きいと言える。更に、情緒的サポートについて標準化回帰 係数を男女で比較すると、男性が 0.583、女性が 0.677 と、女性の方が大きい値を示すこ とから、他の変数を一定にした時の影響が女性の方が大きいことがわかる。 以上の結果より、男性の夫婦満足度には情緒的サポートと妻の最終学歴が大卒以上か どうかが関連していること、女性の夫婦満足度には情緒的サポートと配偶者年収が関連し
45 ているが影響が大きいのは情緒的サポートであること、また男性に比べ女性の方が他の変 数を一定にした時の情緒的サポートの影響が大きいことが明らかとなった。この結果を踏 まえて次節では考察を行う。 表5.重回帰分析の結果 5.考察 本稿では夫と妻それぞれの夫婦満足度と、お金、愛の関連性を検討するために、お金を 配偶者年収、愛を情緒的サポートという変数に置き換えた。分析の結果、鈴木・田岡(2000) の検討結果とは異なり、夫は愛と妻の最終学歴が大卒以上かどうかが夫婦満足度に対する 規定力を持っている一方で、妻の夫婦満足度にはお金も愛も関連していることが明らかと なった。しかし妻側はお金も求めているものの、愛の方が夫婦満足度に与える影響が大き いことが示された。よって今回の分析における「夫婦の満足度を高めるのはお金か愛か」 という問いには、「愛」と答えることができる。加えて今回用いた変数の中で、可変的なも のは情緒的サポートのみであるが、それについては、心配事や悩み事を充分 に聞くことに よって妻の夫婦満足度を上げることは、夫におけるそれよりも容易であることがわかった。 また男性の、妻の最終学歴が大卒以上で満足度が高まった点については、男性回答者の6 割以上が大卒以上であることから、同じような文化的背景を持っている人同士で、満足度 が高まることを示しているのかもしれない。 最後に、残された課題について2点指摘する。まず1点目は独立変数について、本稿で は情緒的サポートと配偶者年収から、お金と愛の夫婦満足度への関連を検討したが、今回 使用したデータでは、家事・育児に関する細目等のその他の要因についても分析可能であ る。今後は夫婦満足度を上げる要因を、様々な変数を用いて検討する必要がある。2点目 に使用したデータの問題である。今回は大津市のデータを使用したため、今回の結果は大 津市に限定的な結果かもしれない。全国サンプルを使用したデータ分析を行うことによっ
46 て、日本社会全体について議論することができるだろう。 6.むすび 今回の分析によって、対象は大津市に限られているものの夫婦満足度に影響しているの は男女ともにお金よりも愛であることが判明した。第1節で述べた、未婚女性の結婚条件 において経済的な側面と恋愛感情の2点が重視されていることについては、双方とも妻の 夫婦満足度に影響することから、結婚後の夫婦満足度向上に繋がる結婚条件であると言え よう。 昨今はマッチングアプリを用いた結婚や、交際後直ぐに結婚に至るスピード婚なども珍 しくなくなってきている。マッチングアプリにおける年齢や身長、年収や趣味等の条件の 一致については満足が期待されるが、結婚後の夫婦満足度を考慮すると、婚前に、心配事 や悩み事を聞いてくれるかどうかといった情緒的サポートの面での愛を綿密に確認してお くことが重要となるだろう。 結婚に対する自由度が高まっている世の中で、結婚という形で幸せを手にした者達には その後も末永く、幸せであってもらいたいものだ。 参考文献 内閣府, 2018, 『平成 30 年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況』 内閣府, 2009, 『平成 21 年度「離婚に関する統計」の概況平成 20 年の詳細分析』 内閣府, 2009, 『平成 21 年度「離婚に関する統計」の概況 人口動態統計特殊報告』 内閣府, 2013, 『平成 25 年版厚生労働白書 -若者の意識を探る-(本文)』 鈴木富美子・田岡紅実子, 2000, 『結婚満足度』 府中明子, 2016, 『恋愛結婚の条件―首都圏にくらす未婚女性へのインタビューから―』 家族研究年報, 家族問題研究学会 神原文子, 1997, 「夫婦関係の緊張と挑戦」編=野々山久也+袖井孝子+篠崎正美『いま家 族に何が起こっているのか』ミネルヴァ書房