原 著 〔東女医大誌 第63巻 第.2号頁202∼210平成5年2月〕
正常血糖クランプ法を用いたインスリン非依存型糖尿病の
インスリン抵抗性に関する研究
東京女子医科大学 第3内科学教室(主任 クロ キ ヒロ ユキ黒 木 宏 之
大森安恵教授) (受付 平成4年10月24日) Stロdy on tlle Insulin Resistance of Non・lnsulin Dependent DiabetesMellitus by the Euglycemic Hyperinsulinemic Clamp Method
Hiroyuki KUROKI Department of Medicine III(Dir㏄tor:Prof. Yasue OMORI) Tokyo Women’s Medical College Resistance to insulin−mediated metabolism of glucose(孟nsulin resistance:IR)孟s considered to play an important role in the pathogenes量s of accelerated atherosclerosis in patients with non・insul量n dependent diabetes mellitus(NIDDM). The present study evaluated the severity of IR and its relat圭onsh孟p with a number of clinical and metabolic variables in Japanese NIDDM patients. The subjects were 130 NIDDM patients without advanced microangiopathic complications, and 21 hea藍thy controls, and 31 individuals withりorderline glucose intolerance. The glucose infusion rate (GIR), an index of whole body IR, was measured by the euglycemic(80 mg/dl in venous blood) hyperinsulinemic(71.7±31.9μU/m1;mean±SD)clamp technique using an art童ficial pancreas (Nikkiso STG−22). In the NIDDM patients GIR values showed marked var量ation(3.59±2.06 mg/kg/min;0.15−9.01), indicating the existence of insul量n−sensitive and insul圭n−resistant subpopula− tions. A signif量cant negative correlation was found between GIR and each of the following;age, BMI, HbA1、, systolic and diastolic blood pressure, triglycerides, and fasting plasma IRI and CPR levels. There was no significant correlation with total choleSterol and HDLcholesterol levels or with the mode of diabetic therapy. The present study demonstrated a marked variability of IR inJapanese NIDDM patients, and also showed that IR was found to be assoc孟ated with many factors that have been. 奄高垂撃奄モ≠狽?п@in the pathogenesis of atherosclerosis. 緒 言血中の活性ホルモンが,その生理作用を正常に
発現しえない場合をホルモン抵抗性と呼んでい
る.インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)では,
糖代謝におけるインスリン抵抗性が存在し,
NIDDMの発症や大血管合併症の進展に重要な
役割を演じていることが近年しだいに明らかにさ
れつつある1)∼4).大血管障害との関係では,インスリン抵抗性は二次的に代償性の高インスリン血症
をきたして,肥満,高血圧,脂質異常など催動脈
硬化因子を集積し,とくに欧米におけるNIDDM
の死因の過半数を占める冠動脈疾患の有病率を著
しく高めるとする見解1)∼5)が注目されている.欧米白人のNIDDMのほとんどがインスリン抵抗
性である6)心8)とされるのに対して黒人NIDDMで
はinsulin resistantとinsulin sensitiveの2つの variantsが存在9)10)し,またPima Indianではイ ンスリン抵抗性が家族性の特徴を示す11)なぎ,インスリン抵抗性の発現には人種差のあることが示
唆されている12).しかし今日まで,わが国NIDDM
患者のインスリン抵抗性に関するまとまった研究
は皆無に等しく,その実態は明らかではない.
近年,人工膵島を用いた正常血糖クランプ法
(euglycemic hyperinsulinemic clamp)を施行することにより,生体におけるインスリン抵抗性を
客観的,かつ定量的に評価することが可能となっ
た.著者は正常血糖クランプ法を用いて,NIDDM
患者のインスリン抵抗性を測定し,年齢,性,肥
満度,血圧をはじめ糖代謝や脂質代謝の各パラ
メーターおよび血中インスリンやC一ペプチド値
などとの関連から,わが国NIDDM患者のインス
リン抵抗性の特徴について検討を加えた.対 象
東京女子医科大学糖尿病センターに入院または
外来通院中で,すでに糖尿病の治療を受けている
NIDDM患者130例を対象とした.
その臨床的背景を表1に示す.男性90例,女性
40例で,検査時年齢は13歳から79歳,糖尿病の推
定罹病期間は1ヵ月から28年,検査時HbA、。は
5.4∼18.5%に分布し,コントロール良好例から著しく不良例まで含まれている.肥満度の指標であ
るbody mass index(BMI)は16.2∼38.9kg/m2であった.糖尿病性ケトアシドーシスや壊疸など
の重症合併症は除外し,全例において糖尿病合併
症は軽度,すなわち網膜症は福田AII以下,尿蛋
白は間敏的で30mg/d1以下であった.治療法別に
みると,食事療法49例,経ロ血糖降下剤療法56例,インスリン療法25例で,インスリン治療患者の中
にはインスリン抗体価の上昇例は含まれていな
表1 対象の臨床的特徴 例 数 男/女 年齢(歳) 推定罹病期間(年) BMI(kg/m2) HbAlc(%) 130 90/40 47.8±16.9(13∼79) 6.3± 6.6( 0.1∼28) 24.4ゴ= 4.4(16.2∼38.9) 9.7± 2.6(5.4∼18.5) 年齢,HbA、cは検査時のものとした. Body mass index(BMI)を月巴満の指標とし た. 数値はmean±SD,括弧内に範囲を示す い. 対照として,インスリ』ン依存型糖尿病(IDDM) 46例,年齢は34.2±13.6歳,BMIは19.6±:2.4kg/ m2(mean±SD),耐糖能境界型(borderline glu− cose intolerance:BGI)31例,年齢48.5±15.0歳,BMI 23.2±2.8kg/m2および健常者21例,年齢
34.0±10.9歳,BMI 21.0±2.3kg/m2について比 較検討した.方 法
一晩絶食後,検査当日の朝はインスリン,経口
血糖降下剤や降圧剤などの投与を中止し,人工膵
島(日機装社製STG−22)を用い,正常血糖クラン
プ法を行った.すなわち,一側の前腕肘静脈には
採1血用の二重管腔カテーテル(FS−D2)を留置し,一定比率にヘパリン生食液を混じた血液を血液測
定回路に灌流し,1血糖をグルコース酸化酵素法に
より自動的に連続測定した.対側の末梢静脈に留
置した輸液チューブ(FS−F3)からは,生理食塩
水89mlにNovolin R⑭(Novo Nordisk Pharma
Co., De㎜ark)40単位と血漿代用剤ヘマセノレ⑧ (Hoechst Co., Germany)10mlを混入したインスリン液と10%グルコース液を注入した.DeFron−
ZOら13)のアルゴリズムに従い,インスリンを初期 プライミソグ後,1.12mU/kg/minで持続注入し,生理的高インスリン血症(steady state plasma
insulin:71.7±31.9μU/ml)下に静脈血グルコースを80mg/dlに60∼90分間クランプし,最後の30
分間の平均グルコース注入率(glucose infusion
rate:GIR)をもって,生体におけるインスリン抵
抗性の指標とした.検査開始時およびクランプ中
は15分間隔で採血をし,血清インスリン(IRI)は
Phadeseph Insulin RIAキット(Pharmacia Diag− nostics, Sweden), C−peptide immunoreactivity(CPR)はC一ペプチドRIAキット(シオノギ製
薬,大阪)を用い,二抗体RIA法によってそれぞ
れ測定した.高血圧の判定は,最近5回の坐位測定のうち3
回以上で収縮期血圧140mmHg以上または拡張期
血圧90mmHg以上であるか,過去に高血圧症(≧
160/95mmHg)の診断がなされ,現在降圧剤治療
中のものとした.肥満は,BMIで男性27kg/m2,
女性25kg/m2以上とした.脂質異常は,血清コレス テρ一ル220mg/dl以上,.または中性脂肪150mg/
dl以上のいずれか1つ以上を有するものとし,高
脂血症治療薬服用中のものも含めた.統計処理はStudent’s t検定および単相関検定
を用い,p<0.05を有意とした. 結 果1.NIDDM患者のGIR値
図1に示すように1NIDDM患者のGIR値は
0.15mg/kg/minから9.01mg/kg/minと幅広い
分布を示し,平均3.59±2.06(mean±SD)mg/
kg/minであった.対照とした健常者群のGIRは
6.81±1.61(3.53∼9.50)mg/kg/min, BGI群は 5.73±2.!3(2.27∼9.62)mg/kg/minおよび IDDM群は4.56±1.60(1.79∼7.56)mg/kg/minであり,NIDDM群はこれらのいずれの群よりも
有意にGIR高値であった(p<0.01).一方
NIDDM患者130例中57例(43.8%)は.,健常者と
オーバーラップする比較的良好なGIR値を示し
た.2.治療法別にみたGIR値の比較
図2に示すように,各治療群ともGIR値は幅広
いぼらつきを示し,その平均値(±SD)は,食事療 法群3.53±2.07mg/kg/min,.o口血糖降下剤群
3.44±2.05mg/kg/min,およびインスリン治療群 「一一一一一一一一一一一■一一一一*一 10 5 喜 き・ 置 器 4 2 「暉*『一『一一一一一一一一一「 「一一一一一*一一一一 ・ ’ ・ ・= ● ’ o ● ● ● ら ・.・。 ●・・ :。・ コ うヒ ::菰・: :㌘: .。 ±2・13 。.●D:● ナ=一一4.56 、 ノ ロ の し コ の ゆ ロ ロ ゆ蓄翌・・ン,: こ:
騰 ぢ ●
●;{:● ? *P<0.0「 ::● ●●● 6.81 ・ ±1.61 く O NIDDM 謳DDM BGI Co働troI (130) (46) (31) (2D 図1 健常者,BGL IDDMおよびNIDDMにおけ.る GIR値の比較 NIDDM患老のGIR値は,健常者, BGI, IDDMの 各群より有意に低値であった. BGI: borderline glucose intolerance iO 8璽6
薯 星 4 器 2 NS NS NS 「一一一一}一一一「「}一一一一一一『一一一一一一「 .: ・;・: ・● F’.. 翌。7 ● o ●・ ● ::8’: 8 ・・● ;・;’: ::i;: ●.:・’ o ● ロ サ 圭1㌔, ●.;9 ●・● ●o ●一4.05
±L96 o D■ET OHA INSULIN (49) (56) (25) 図2 治療法別のGIR値の比較 GIR値には,食事療法.群,経口血糖降下剤療法群およ びインスリン治療群の間で有意差はなかった, OHA:oral hypoglycemic agents i;1.::. :::●: o 表2 性差によるGIR.の比較Male n=90 Female n=40 P・value
Age(years) 46.7±17.0 50.3=ヒ16.4 ns 肩MI(kg/m2) 24.7±4.1 23.9±5.0 ns HbA、c(%) 9.3±2.7 10.6±2.2 <0,05 Syst. pressure(mmHg) 130.6±18.5 127.4=ヒ18.4 ns Diast. pressure(mmHg) 78.2±13.3 75.5±9.3 ns T.cholestero1(mg/d1) 195.2±37.3 201.1±45,4 ns HDL・cholestero1(mg/dl) 44,8±12.0 48.2±15.6 ns Triglycgride(mg/dl) 170,3±117.2 155.1=ヒ116.3 ns GIR(mg/kg/min) 3,79±2.19 3.15±1.63 ns 男女間では,GIR値には有意差はみられなかった.数値はmean±SDを示す. nS:not Signi丘Cant
4.05±1.96mg/kg/minで,各面間に有意差は認
められなかった.3.性差および加齢とGIR値との関係
表2に示すように,男性NIDDM患者90例の
GIR値は0.15mg/kg/minから9.01mg/kg/
min,平均3.79±2.19mg/kg/minであり,一方女 性40例のGIR値は0.58mg/kg/minから8..01mg/ kg/min,平均3.15±1.63mg/kg/minで, GIR値 には性差はみられなかった..ただし男女両群の年齢,肥満度,血圧,脂質レベルには差はなかった
が,HbA王。のみ女性において有.意に高値であった (p<0.05).加齢におけるGIRの変化を男(図3a),女(図3
b)別に検討すると,いずれも有意な負の相関が認
められた(男:r=一〇.12,p<0.01,女:r=一 〇.31,p〈0。01).しかし,男女とも各年代を通じてGIRの変動が大きく,とくに男性においてその
傾向が強く,男性の相関係数は女性に比べて低値
であった.4.HbA、cからみた血糖コントロールとGIR値
の相関
図4に示すように,検査時におけるHbA、、と
GIRの間には有意な負の相関が認められた
(r=一〇.12,p<0.05).しかし, HbA1。5.6%でも GIR 1.39mg/kg/minと著明に低値のもの,一方,HbA、。17.4%でもGIR 7.44mg/kg/minと良好
なものもみられ,著しく幅広い分布がみられた.
5.肥満とGIR値の相関
肥満度の指標としてBMIをとり, GIRとの相
関をみると,両者の問には有意な負の相関が認め
られた(r=一〇.30,p<0.01:図5).しかし, BMI 18.6kg/m2でGIR 1.31mg/kg/minと低値のもの 10 8 婁 ミ6 星 器4 2 ○ ◎ ●β。 ■ ● ● ● ● ●● ● ■ ● .● ■ o o . Y=一〇.02X十4.51 F−0.i2 PくO.0等 n=90 ■ o ● ・ ● ● ● のゴ’
B,を.
● 10 8 葺6 ミ 9 臣4 2 o 10 20 30 40 50 60 70 BO Age(years, :’ o ● の コ .・ B㌦・:: . ● ・ o コ ロ ・ ● 、 ・ ●o・ ● ■ . o ● ● o ●● 8 ’・o:3・ ’ ・ コ の ロ の .・㍉・∵㍍・1ゴ、、 ■● ● o ●o ● o ・ ● Y=一〇.09X十4.52 r=一〇.12 Pく0.05 n=130 ■図3a 男性NIDDMにおける年齢とGIR値
男性NIDDM患者では,年齢とGIR値の間には有意
な負の相関が認あられた. 0 2 4 6 8 10 12 劉4 16 18 20 HbA 1C(%)図4 NIDDMにおけるHbA、cとGIR値
検査時HbA、cとGIR値との問には,有意の負の相関 が認められた. 紛 816
曇・ 2 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● Y=一〇.03X十4.70 F−0,31 P<0.01 n=40 ・●● ● :・ … 3 ● ● 10 8 喜 ミ6 置 ぎ4 2 ● o ・ ● o .’ ..〆1.1・≒、..
び ・ ヅ㍗.磐●∫・ . ● ・● . ● ● ● O 10 20 30 40 50 60 70 Age(yea「S}図3b 女性NIDDMにおける年齢とGIR値
80 Y=一〇.14X十7.05 r=一D.30 P〈D.01 n罵13D o ご ●女性NIDDM患者でも,年齢とGIR値の間に有意な
負の相関が認められた. 0 図5 20 30 BMI(kg/m=)NIDDMにおけるBMIとGIR値
検査時BMIとGIR値との問には有意の負の相関が
認められた. 40や,BMI 33.3kg/m2でGIR 7.66mg/kg/minと良
好のものまで,著しく幅広い分布が観察された.
6.血圧とGIR値の相関
収縮期一血圧とGIRの間には,有意な負の相関が
認められた(r=一〇.24,p<0.01:図6).同様に拡張期血圧とGIRの間にも,有意な負の相関が認
められた(r=一〇.24,p<0.01).7.血清脂質とGIR値の相関
血清脂質の中で,総コレステロール,中性脂肪,HDLコレステロールとGIRの相関をみた.中性
脂肪との間にに有意な負の相関が認められた
(r=一〇.31,p<0.01:図7).しかし,総:コレステロール(r=一〇.04,p:NS)およびHDLコレ
ステロール(r=.0.13,’吹FNS)とGIRとめ間には
有意の相関は認められなかった.(mean±SD),血中CPRは2.5±1.2ng/m1で
あった.空腹時IRIとGIRの間の相関をみると,
両者には有意な負の相関を認めた(rま一〇.33,p〈0.01:図8).一方,空腹時CPRとGIRの間にも
同様に有意な:負の相関が認められた(r=一〇.34, p<0.01). 10 8 書 ミ6 豊 器4 2 ■・ ● ・ ●● ● ● ● ● o り ’… 。 幽 ● o ● ・.■ ● ψ ・ O o ・ ■ ● ● ● o ● の 0 8● ●。 サ ら .。?E㍗・。. で;鳶3∫●二・∴ .・・ ● ● ● ● ● ● . o ・ o ● o Y漏一〇』05X十4,49 r=一〇.呂1 Pく0.0I n=130 o ●8.空腹時IRIおよびCPRとGIR値の相関
インスリン治療群を除くNIDDM患者105例に
おける空腹時血中IRIは14.7±9.6μU/m1
10 8 書6 ミ 置4 器 2 ● ● Y=一〇,03X十7.06 ● 3 F心。・24 り くロロの . : ・ F130 : :. . の ロ ●。’E● D:.3「 ● {『;芳.・...●=:●. . ・・艶ケ.∫∴べ∼∵.・
◎ . ○ ○ ・ ・ 0 100 200 300 400 500 600 700 τriglyceride(mgldl》図7 中性脂肪とGIR値
NIDDM患者の中性脂肪とGIR値との問には有意な
相関が認められた. 10 8 書6 ミ 琶4 器 2 ● り ゆ ・:・ . ● ・ぐ ・. ■ ● ● ・. ま ロ 。..●… ・. ・ ● ・ ● ノ ロ ら . . , ・ ● ・・ 。 ○ ・ ●・ ●・ ・ o ●● Y=一〇.07X十4.53 r=一〇.33 Pく0.01 例=105 ● o ∼一一L一・一一」一一ムー一」一一」一」L一一一一一」一一一L 200 0 10 1Rl(μulml} 20 30 0 30 100 120 140 160 SBP(mmHg) 図6 収縮期血圧とGIR値 180 NIDDM患者の収縮期血圧(SBP)とGIR値との間に は,有意な負の相関が認められた.図8 インスリン治療群を除くNIDDM患者におけ
る空腹時血清IRIとGIR値NIDDM患者と空腹時血糖IRIとGIR値との間に
は有意な負の相関が認められた. 表3 GIR別の高血圧,肥満,脂質異常の集積頻度 GIR 例数 男/女 集積因子数0 集積因子数1 集積因子数2 集積因子数3 ≧4,62* 37 30/7 15(40.5%)a 22(59.5%)c 4(10.8%)e 1(2.7%) 2.56−4.62 44 28/16 15(34.1%) 29(65.9%) 19(43.2%)f 6(13.6%) ≦2.56綿 49 32/17 10(20.4%)b 39(79.6%)d 27(55.1%)9 7(14.3%) avsb:p〈0.05,cvsd:p〈0.05,evsf:p<0.002,evsg:p<0.001 ℃IRのmean+1/2 SD (λ:2 test) 榊GIRのmean−1/2 SD GIR値が低い群ほど,肥満,高血圧,脂質異常の集積頻度が高かった9.GIRの二二にみた高血圧,肥満,脂質異常の
集積頻度
きFわめて幅広い分布を示すNIDDM患者の
GIR値を,二三がほぼ均等になるように3群に分
けた.すなわち,GIRのmean+1/2SD以上(≧
4.62mg/kg/min)を低抵抗群, mean−1/2SD以下 (≦2,56mg/kg/min)を高抵抗性群,およびその中間の3群である(表3).GIR値が低い群ほど,肥
満,高血圧,脂質異常のうちいずれか1つ,また
は2つ,あるいは3つを併有する率がそれぞれ高
くなる傾向を示し,一方これらのいずれも有しな
いものの比率は,GIR値が高い群ほど高くなる傾
向を示した.考 察
正常血糖クランプ法は,生体とくに骨格筋14)のインスリン抵抗性を測定する画期的な手段とし
て,今日広く世界各国で利用されている.今回本
法を用いて,日本人NIDDM患者のインスリン抵
抗性の特徴について検討した.加齢とインスリン抵抗性の関連については,従
来より加齢とともに耐糖能が低下15)16)することはよく知られている.一方,高齢者では高インスリ
ン血症の頻度が高くなるとされ,その機序として
は,インスリンのmetabolic clearance rateの低下とインスリン抵抗性が考えられていた17).De
Fronzoら2)は非肥満の健常者に正常血糖クラン
プ法を施行し,加齢によりインスリン抵抗性が増
大することを示した.しかしながら,多数例の
NIDDM患者について,加齢の影響をみた報告は
現在のところ見あたらない.今回の成績から,
NIDDM患者においても男女ともに加齢により
インスリン抵抗性が増大することが示された.糖
尿病の自然経過の上で,代謝異常による二次的な
影響に加え,加齢に伴うインスリン抵抗性の増大
も耐二二の修飾に一役かっていることが示唆され
る.性別では,女性においてインスリン抵抗性が
強い傾向を認めたが,有意差はなかった.これは
女性群において,HbA、,レベルが有意に高かった
ことと,正常血糖クランプ法が主として骨格筋に
おける糖取り込みをみていることから,筋肉量の
少ない女性のGIRが三値傾向を呈したものと推
定される.インスリン抵抗性には人種差の存在することが
報告されている.すなわち欧米白人では,NIDDM
やBGIのほとんどがインスリン抵抗性である6)∼8)とされるのに対し,黒人においては,インスリン
抵抗性の強い群とインスリン感受性の良好な群の
2群が報告されている9).わが国のNIDDM患者
のGIRには,きわめて大きい個人差が認められ,
最も抵抗性の強い患者と最も抵抗性の弱い患者と
の間にはGIRでは約60倍の開きがみられた.また
NIDDM患者の44%は,健常者と同等のGIR値を
有していた.このことは,わが国のNIDDMは,
インスリン抵抗性の面からもきわめて不均一な集
団であり,黒人に近い特徴を有していることが明
らかとなった.血糖コントロール指標のHbA1。とインスリン
抵抗性の間には,有意な負の相関がみられた.高
血糖の持続は筋や脂肪組織の糖輸送担体(GLUT
4)の発現や活性を抑制し,インスリンの聴取り込
み促進作用を低下させる(glucose toxicity)18)∼20)と推定されているが,glucose toxicityの詳細な
メカニズムはいまだ不明である.一方,同一患者
について血糖コントロールの改善とインスリン抵
抗性の関連をみると,IDDMでは血糖コントロー
ルの好転後インスリン抵抗性は著明に改善す
る21)∼23)が,NIDDMではこの改善度は比較的軽度であった23).すなわちIDDMのインスリン抵抗性
は高血糖などの代謝異常に起因する二次的な部分
が大きいのに対して,NIDDMにおいては二次的
な影響は比較的少なく,固有の素因が主体である
ことを示唆している.肥満はインスリン抵抗性をきたす最も代表的な
病態として知られているが,今回の成績でもBMI
とGIRとの間には有意の負の相関が認められ,従
来の多くの成績と一致する結果であった24)∼26).肥満によるインスリン抵抗性は,骨格筋に発現する
遺伝的抵抗性とは異なり,体重の是正により改善
することが示されている27}が,おそらく肝におけ
るインスリン抵抗性の比重が増す結果であると考
えられる.NIDDMに特徴的な脂質異常としては,高
VLDLトリグリセリド血症と低HDLコレステ
ロール血症が挙げられ28),両者は冠動脈危険因子としてその重要性がしだいに認識されるに至って
いる29).中性脂肪はほとんどの成績30)31)でGIRと負の相関を示しているが,一方HDLコレステ
ロールとは一定した成績は認められていない.
HDLコレステロールは,血中IRIや中性脂肪と
逆方向に動くことが知られ℃いるので,GIRとは
間接的な関係にあるものと思われる.また,総コ
レステロールも今回の成績にみられるごとく,一
般にGIRとは有意の関連が見出されていな
い31).血中IRIおよびCPR値とインスリン抵抗性の
関連に関しては,今回検討したインスリン治療群
を除く105例のNIDDM患者の空腹時IRI値は
14.7±9,6μU/mlで,20μU/mlを超す症例は
16.2%に過ぎなかった.しかし,欧米のNIDDM
患者に比べインスリンレベルが低いとされる本邦
NIDDM患者32)においても,空腹時IRI, CPRレ
ベルとGIRとの間にはそれぞれ有意な負の相関
が認められたことは注目される. Reaven1)(1988)は,インスリン抵抗性を有する 個体では耐糖能障害をはじめ,高インスリン血症,高血圧,高中性脂肪血症,低HDLコレステロール
血症などの冠動脈疾患危険因子を集積し,冠動脈
疾患の有病率を著しく高めるとして,Syndrome
Xなる仮説を提唱した.Syndrome Xは現在まで
多くの疫学的,臨床的研究によって支持2∼5)33)∼35) されているが反論36)も挙げられている,今回の成績では,収縮期血圧,拡張期血圧,中性脂肪のGIR
の間には各々有意な負の相関が認められたが,
HDLコレステロールとGIRの間には相関は認め
られなかった.わが国のNIDDM患者には欧米の
患者にみられるほどの高インスリン血症は少な
い36)とされる点より,Syndrome Xの臨床的意義
が疑問視されるが,今回の成績にみられるごとく,HDLゴレステロールを除く各因子がそれぞれ
GIRと相関することが示されたことより,わが国
NIDDMの病態においてもSyndrome Xの概念
は敷衛されるものと考えられる.結 論
1)正常血糖クランプ法を用いたNIDDM患者
のインスリン抵抗性には,きわめて幅広い個人差
があることが判明した.また,NIDDM患者の
43.8%は非糖尿病者とオー・ミーラップするGIR
を示した.2)NIDDM患者のGIR値は,年齢,血糖コント
ロール状況(HbA、。),肥満度(BMI),血圧,中性脂肪,空腹時IRIおよびCPRとそれぞれ有意
な負の相関を示した.3)GIR値は,総コレステロール, HDLコレス
テロールとは相関を認めなかった.また治療法別
の群間にも,GIRレベルには差はみられなかっ
た.4)GIR値の低い群ほど肥満,高血圧,脂質異常
が同時に集積する傾向が認められた.これらの成績からインスリン抵抗性の強い個体
ではこれら動脈硬化促進因子の集積を介して特に
冠動脈疾患の発症率を高めている可能性が示唆さ
れる.しかし,わが国NIDDM患者の約40%はイ
ンスリン感受性が良好であり,このことは欧米
NIDDM患者に比べ冠動脈疾患の有病率が低い
事実を説明するものかもしれない. 稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました大森安恵教授ならびに植田太郎助教授に深謝申し上
げます.また,本研究にご協力頂きました当教室各位 に御礼申し上げます. この論文の要旨は,Third International Sympo・ sium:Hypertension associated with Dlabetes Mel− litus(Boston, USA 21−23, Nov,1991)で発表した.文 献
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