大林組技術研究所報 No.75 2011
1 ◇技術紹介 Technical Report
大規模・高速化非線形FEM解析ソフト
「FINAL-GEO」
Large Scale and High Speed Calculation
Nonlinear FEM Analysis Software “FINAL-GEO”
米澤 健次
Kenji Yonezawa
穴吹 拓也
Takuya Anabuki
江尻 譲嗣
Joji Ejiri
1. はじめに
近年,構造物の設計体系が性能照査型に移行し,高精 度な解析技術が求められている。特に,高精度でかつ大 規模な解析モデルを用いた非線形FEM解析技術のニー ズが高まっている。例えば,原子力分野では,原子力施 設全体を詳細にモデル化した地震応答解析による安全性 評価,一般建築・土木分野においては,建物・構造物と 地盤の 3 次元連成効果を詳細に考慮した解析が求められ ている。 今までは,計算機や解析ソフトの計算容量及び計算速 度の制限で,例えば 2 次元解析など,簡略したモデルに よる解析が行われていた。そのため,考慮すべき現象を 表現できず,多くの仮定を用いることから,結果に対し て大きな安全率を見込まざるを得ない現状であった。 そこで,当社開発ソフトの「FINAL」の機能を導入し た大規模・高速化非線形FEM解析ソフト「FINAL-GEO」 を開発した。2. FINAL の概要
当社の非線形有限要素解析ソフト FINAL は,原子力関 連構造物のように面内せん断力を受ける RC 壁体の解析 精度の向上を目指して,開発が始まった。当社で実施し た一連の RC 平板実験に基づき,独自の RC 材料構成則 を誘導したのを皮切りに,その後,2 次元解析において RC 部材の正負繰返し荷重に対する解析技術の開発を経 て,非線形の時刻歴応答解析を可能にした。さらに,適 用範囲を 3 次元に拡大するため,3 軸応力下のコンクリ ート材料構成則の研究を行い,現在では,コンクリート 系構造物の非線形挙動に対する,3 次元モデルによる正 負繰返し載荷解析や時刻歴応答解析が可能である1)。こ の FINAL の解析精度については,国際解析コンペで優勝 するなど高い評価を得ている2)3)。 作用する動的な力を静的な力に,様々な仮定に基づいて 置き換える。また,地盤の解析には構造物の三次元的応 答が考慮されておらず,実現象が適切に考慮されていな い。このように,解析においては様々な仮定が必要とな り,大きな安全率を見込んで構造物の安全性評価がなさ れていた。そこで,地盤と構造物のすべてを詳細にモデ ル化できれば,精度良く実現象を再現・予測だけできる だけでなく,無駄を省いた合理的な設計・評価が可能に なる。4. FINAL-GEO の特徴及び計算速度
FINAL と FINAL-GEO の違いは,主に連立方程式の解 法にある。FINAL ではガウスの消去法に属するスカイラ イン法と呼ばれる直接法を採用しているが,FINAL-GEO では,反復法に属する共役勾配法(共役傾斜法,CG 法) を用いている。直接法と比較して反復法の利点は,行列 を記憶するための容量が少なく抑えられるため,大規模 な連立方程式の解法を可能にする点にある。Table1 に FINAL Version11 と FINAL-GEO を用いた場合 における,解析モデルの規模に対する計算時間の比較を 示す。この比較は,Fig.2 に示すように RC 造の片持ち柱 を模擬した非線形解析で,要素分割の粗密を変化させて 比較した。Table1 より,解析の規模が大きくなるほど,
3. 大規模・高速化のメリット
従来,地中構造物の耐震安全性を評 価する場合,解析規模及び計算時間の 制約から,さまざまな仮定を用いて解 析を行っていた。例えば,Fig.1 に示す ように,構造物を簡易にモデル化した 2 次元モデルを用いて地盤の時刻歴応 答解析を行い,その結果から構造物に 作用する力を求めて,3 次元でモデル 化した構造物の解析を行っていた。こ の解析方法においては,まず,地盤の 時刻歴応答解析から得られた構造物に 強制変位 脚部完全固定 コンクリート 鉄筋: X方向⇒1% Y方向⇒1% Z方向⇒1% 鋼材要素 強制変位 弾性体 RC躯体 脚部固定 総節 点数 総自由 度数 総要 素数 STEP数 Final-GEO Final V11 速度 向上率 モデル1 2511 7290 1920 100 0.28 0.69 2.5 モデル2 10000 28800 8664 100 2.93 53.34 18.2 モデル3 27000 78300 24389 100 10.27 752.02 73.3 モデル4 50000 142500 45619 100 22.95 不可能 モデル5 250000 742500 237699 100 235.32 不可能 モデル概要 1STEP当たりの計算時間(単位:秒) Fig. 1 従来の解析手法 Analysis Method as in the past Table 1 計算速度の比較Comparison of Calculation Speed
Fig. 2 解析モデル Analysis Model 粘性境界 エ ネ ル ギ | 伝 達 境 界 エ ネ ル ギ | 伝 達 境 界 (地盤) 2次元平面ひずみで地震応答解析 外力分布 (RC地中構造物) 3次元静的解析 構造物 (簡易モデル)
大林組技術研究所報 No.75 大規模・高速化非線形FEM解析ソフト「FINAL-GEO」 2 両者を比較して計算速度の向上率が上がり,FINAL-GEO は,約 80,000 自由度の解析において,従来の FINAL に 比べて約 70 倍の計算速度を示すことがわかる。FINAL でこれまでに扱った最大規模の解析モデル(約 45,000 節 点,12 万自由度)では,1 ステップの解析に約 90 分を要 していた。一方,FINAL-GEO では約 170,000 節点,48 万自由度の超大規模モデルを 1 ステップあたり約 1.3 分 で計算でき,飛躍的な高速化・大規模化を図れた。なお, 解析精度に関しては,FINAL の結果と比較して,直接法 と殆ど差異がない結果が得られることを確認している。
5. 解析例
2 件の解析例を示す。Fig.3 に示すモデル 1 は,地中構 造物で立体交差した RC 造のトンネルを模擬し, Fig.4 に示すモデル 2 は地中の RC 造の杭基礎を対象とした遠 心振動台実験を模擬したものである。両者ともに RC 躯 体・地盤の材料非線形を考慮した解析である。モデル 1 は約 20 万節点,66 万自由度,モデル 2 は約 17 万節点, 48 万自由度の超大規模モデルであるが,1 ステップ当た りの計算時間は 1.7 分~2.2 分程度であり,実用的な計算 時間で解析が可能になったことがわかる。6. まとめ
FINAL の材料構成則を組み込んだ大規模・高速化非線 形FEM解析ソフト「FINAL-GEO」を紹介した。これに より,数十万自由度の超大規模モデルの精度の良い非線 形解析が実用的な計算速度で可能になった。 参考文献 1) 米澤健次,長沼一洋:3 次元非線形FEM解析によ るRC構造物の地震時挙動シミュレーション,大林 組技術研究所報 No.71,(2007)2) Anabuki,T,et al.: Failure Prediction of Full Scale Bridge Pier on 3D Shaking Table Test, IABSE 34th Symposium, A-270,(2010) 3) 米澤健次,田中浩一,穴吹拓也,長沼一洋:正負繰 返し及び動的荷重を受けるRC部材の 3 次元FEM 解析の精度,大林組技術研究所報 No.72,(2008) ‐50 ‐40 ‐30 ‐20 ‐10 0 10 20 30 40 50 0 5 10 15 20 変位 (m m ) 時刻(秒) モデル全体 地中RC躯体のモデル 地中RC躯体の応力コンター 地中RC躯体中央の層間変位の時刻歴 地中RC躯体のひび割れ状況(最大変形時) 地盤 地下駅躯体 トンネル 総節点数:205351 、総自由度数:656253 計算時間 : 1.7分/STEP 躯体のひび割れ状況と応力コンター (最大変位時) フーチング 杭 地盤 錘 モデル全体 変形状況(最大変位時) 総節点数:167729 総自由度数:482764 計算時間 : 2.2分/STEP RC躯体部拡大 ‐1.8 ‐1.3 ‐0.8 ‐0.3 0.2 0.7 1.2 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 フー チ ン グ 水 平変 位 (m m ) 時刻(s) 解析 実験 フーチングの応答変位の時刻歴 Fig. 4 RC杭基礎と地盤の連成解析(モデル2)のモデル及び解析結果例 Analysis Model and Output Example of Large Scale Model Analysis (Model 2)
Fig. 3 地中RCトンネル構造物の解析モデル及び解析結果例(モデル1) Analysis Model and Output Example of Large Scale Model Analysis (Model 1)