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イネ縞葉枯病の現状 ~序にかえて~

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Academic year: 2021

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イネ縞葉枯病の現状 ∼序にかえて∼ ― 1 ― 77 近年,日本各地でイネ縞葉枯病の発生が増加している (図―1)。本病は昆虫によって媒介されるイネ縞葉枯ウイ ルスが原因となるイネの重要病害であり,発病したイネ は新葉が垂れ下がって枯死したり,穂が正常に出なくな るなどの症状により収量が減少する(図―2,口絵①)。 イネ縞葉枯ウイルスは媒介虫の体内で増殖し,かつ,経 卵伝染により次世代以降の媒介虫も媒介能力を持ち続け るほか,主要な媒介虫であるヒメトビウンカ(口絵②) は広くイネ科植物を寄主とし国内で越冬可能である。そ のため,本病が流行期に入った場合は直ちに終息させる ことは困難であり,実際に,日本国内で起こった過去の 2 回の流行時は,流行開始から終息までに 10 年以上の 時間を要している。 イネ縞葉枯ウイルスの主要な媒介虫であるヒメトビウ ンカは,秋になると水田畦畔や道路法面等のイネ科雑草 に移動して幼虫で越冬する。春先に羽化した成虫(越冬 世代成虫)がムギ類やイネ科雑草で増殖し,その次の世 代である第1 世代成虫が水田に侵入する。ムギ類はヒメ トビウンカにとって好適な 資源となるため,ムギ類の 栽培が多い地域ではヒメトビウンカが増殖しやすく,ム ギ類栽培のない地域と比較してイネ縞葉枯病が多発する 傾向がある。近年のイネ縞葉枯病多発生の原因として は,地球の温暖化傾向,周辺環境や作型の変化,ヒメト ビウンカの薬剤感受性の変化等,本病と媒介虫の発生動 態に影響を及ぼす要因の変化が疑われるが,現時点では はっきりとしたことはわかっていない。また,2008 年 には中国から飛来した個体群によるイネ縞葉枯病の発生 が九州や山口県等で確認されているが,ヒメトビウンカ の海外からの飛来と近年のイネ縞葉枯病の多発生との因 果関係も不明である。 イネ縞葉枯ウイルスに感染したイネを治療する方法は ないことから,水田内での本病の対策は,イネ縞葉枯病 抵抗性品種を栽培するか,または,イネがウイルスに感 染するのを防ぐかのどちらかである。抵抗性品種の利用 は,薬剤散布による媒介虫防除の必要がなく,イネ縞葉 枯病の常発地域では有効な防除対策である。ただし,依 然としてコシヒカリなどの感受性品種の人気が高く,多 発生地域といえども感受性品種をすべて抵抗性品種に置 き換えることは容易ではない。県の奨励品種の中に抵抗 性品種が存在しないため,抵抗性品種の普及が困難な地 域もある。また,抵抗性品種を栽培する水田ではヒメト ビウンカの防除がおろそかになりやすいため,周辺の感 受性品種の被害拡大やヒメトビウンカが媒介するイネ黒 すじ萎縮病が発生しやすくなるといった課題も残されて いる。一方,イネ縞葉枯ウイルスの感染予防とヒメトビ ウンカによるその他の被害の抑制に対しては,薬剤防除 が効果的である。具体的な例として,イネ移植時に殺虫 剤を苗箱施用しておき,その後水田に飛来する媒介虫を 防除することでイネ縞葉枯病の被害を軽減できる。ただ し,早期移植では,ヒメトビウンカの侵入が起こる前に 薬剤の効果がなくなってしまう場合もあるので,残効性 の長い箱薬剤を選択するか箱薬剤を使用せずに本田防除 を中心に対策を考える必要がある。また,飼料イネ栽培 や乾田直播栽培技術の導入に際しては,導入による作型 の変化にともないヒメトビウンカの発生動態が一変する ケースも考えられるため,使用する薬剤の種類・使用時 期・方法等についてあらためて検討する必要がある。 イネ収穫後の圃場管理もイネ縞葉枯病による被害軽減 に有効であると思われる。ヒメトビウンカはイネの収穫 時期が近づき 植物として適さなくなってくると,水田 畦畔や道路法面等のイネ科植物に移動して産卵し,次の 世代が幼虫で越冬する。そのため,秋に水田畦畔などの 雑草管理をしっかり行い,媒介虫の産卵・越冬場所を取 り除くことで,翌年のヒメトビウンカの個体数を減少さ せることができる。また,収穫後の水田内にイネ科雑草 が繁茂すると水田内もヒメトビウンカの大規模な越冬場 所になる危険があるので,イネ収穫後の水田はしっかり 耕起してヒメトビウンカの越冬場所にならないようにす ることも重要である。 本病の防除対策を講じるうえでは,それぞれの地域に おける本病と媒介虫の発生動態およびそれらに影響を及 ぼす作型や周辺環境までを考慮して,薬剤防除,抵抗性 品種利用,圃場管理等の技術を組合せた総合防除を実施 することが理想的である。本特集記事は,近年のイネ縞

イネ縞葉枯病の現状 ∼序にかえて∼

柴     卓  也

農研機構 中央農業総合研究センター

Present State of Rice Stripe Disease ―Introduction―  By Takuya SHIBA

(キーワード:イネ縞葉枯病,ヒメトビウンカ)

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植 物 防 疫  第70 巻 第 2 号 (2016 年) ― 2 ― 78 葉枯病の主要な発生県であり,多発生の背景や防除対策 の選択肢に異なる点が多い茨城県,栃木県,埼玉県,兵 庫県,福岡県を取り上げ,それぞれの県におけるイネ縞 葉枯病の発生状況と防除対策について幅広い内容で詳細 に紹介している。また,ヒメトビウンカの簡便な発生予 察方法,ヒメトビウンカの海外飛来予測システム,海外 飛来に伴うヒメトビウンカの薬剤抵抗性の変化,イネ縞 葉枯病抵抗性品種の育成等についても紹介しており,応 用性の高い有用な情報に富んだ内容となっている。本特 集記事が,水稲の病害虫防除に携わる方々にとって,イ ネ縞葉枯病の防除対策を検討する際の有用な情報源とな れば幸いである。 図−2  イネ縞葉枯病の典型的な症状 左:生育初期の感染では新葉が巻き垂れ下がった状態で枯れあがり. 右:生育中期の感染では正常に穂が出なくなる. 発生面積︵ ha ) 0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 2000 2005 2010 2015 図−1  近年のイネ縞葉枯病の発生面積の推移 (日本植物防疫協会資料より作図,2015年は速報値)

参照

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