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Academic year: 2021

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『複雑系叢書』刊行にあたって

本叢書は,各分野のフロンティアで活躍されている方々にそれぞれの 立場から「複雑系の問題」を,たとえば現象,実験,技術,理論,方法 論,あるいは論理,歴史や思想など,テーマを自由に選んでいただき,分 野を越えて議論の輪が広がるように,できるだけ平易な言葉で論じてい ただくために企画したものであります. 1980 年代に始まった現在の複雑系研究の流れは,自然科学,工学,人 文社会科学,数学などの広範な分野に及んでいます.学問の総合化に向 かう近年の時代の流れとも相俟って,分野横断的な共同研究を模索しつ つ,学際領域の開拓や実際的な課題への挑戦に向けて展開してゆくのが これからの複雑系研究の状況であろうかと思われます.近代以降に急速 に発展した物質世界ならびに精神世界に関する人類の知と技術が,自ら が齎した錯雑たる現実に対処するために,またこれまで積み残してきた 重い課題に向けて歴史の歩を進めるために,相互の交流を開始している と言えるでしょう. 複雑システムの誕生,維持,発展,崩壊,そしてつぎのシステムへの 変遷など,そのそれぞれの段階に潜む未知の法則性を探り,拡大する予 測困難さと多様性に対処する手法や論理を見いだすこと,また学習や教 育,さらに科学技術に対する慎重な施策,展望を提供することなど,多 くの役割が複雑系研究には期待されるところであります.一言で申せば, それらは繊細で寛容な構想力を培う「グローバルな知」の探求と言える かもしれません.21 世紀には人間活動の拡大がますます多様複雑に進行 し,そのなかで複雑系研究に向ける努力は知性の新しい啓蒙にとってか けがえのない道標となるでしょう.そのためにも,高度に専門化した工 学技術や社会技術も含めて,《諸学の新たな共同》が何にもまして求めら れてゆくものと思われます. そのような想いから,本叢書では,専門分野を異にする者同士がこれ

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ii からの複雑系研究に対する期待と切り口をそれぞれの立場から提言し合 うことによって,互いの成果とその背景にある理念を共有し,将来のよ り豊かで個性的な学問的土壌の形成に貢献したいと思います. なお,本叢書は,2000 年に設立された早稲田大学複雑系高等学術研究 所における学際的交流を通して企画・立案され,想いを共有する執筆者 をはじめとする大勢の方々の熱意と共立出版社のご好意に支えられて刊 行を迎えることとなりました.自由の気風から生まれた手づくりの論文 集として本叢書を世に送り出すにあたり,研究所の日頃の活動に対して 早稲田大学から戴いたさまざまな支援に心からの感謝を表したいと思い ます. 早稲田大学複雑系高等学術研究所 所長相澤洋二

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序  文

自然界を理解するのにその最も基礎になると考えられるのが,さまざ まな現象の法則化であろう.一見よくわからない複雑な現象を観察して いると,そのうちに何か規則的なルールが見つかり,やがてそれは一つ の法則としてまとめられる.そして多種多様な自然現象を一つの法則で 表現できるようになる.さらに,まったく別の現象を表す二つの法則が より基本的な一つの法則の異なった側面を見ているということがわかっ たとき,人びとはそれらの現象に対する理解がより深まったと考える. それをどんどん推し進めると「法則の統一」というアプローチが現象理 解の本流となり,その行き着く先は「究極の理論」の探求になるという わけである.20 世紀まではそのような流れに沿って自然現象の理解が深 まっていったといえるだろう.ニュートン力学や流体力学などで記述さ れる巨視的な物質の法則の確立から原子· 分子のミクロな対象がみたす 法則の発見へと進んでいった.この成功により,対象を細かく切り刻み, 構成要素を見つけ,その要素がみたすべき法則の発見が現象理解のため の本格的手法だと考えられるようになる.そしてその要素の最小単位と, それがみたすべき「究極の理論」の発見が自然現象すべての理解へとつな がるといった,「要素還元論」がもっともらしく語られるようになった. 複雑系という考え方は,そのような画一的アプローチの危険性を指摘す る「警鐘」として必然的に現れた.自然界は1 + 1 = 2 といった単純な 「和」だけでは解明できないのではないか,また自然現象を理解するのに もっと多様なアプローチがあってよいのではないかといった素朴な疑問 がその背景にあるであろう. 近年「複雑系」という考え方は,特に自然科学では十分に定着してき ているように思う.専門家以外にもなじみのある言葉となってきたし, すでに多くの書物が出版されている.その意味で,この複雑系叢書の一 巻として新たに「自然科学」を切り口とした話題をまとめるというのは

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iv 非常に困難であった.そこで考えたのが原点回帰である.現在「複雑系」 と位置づけられている自然科学の話題を紹介するのではなく,「複雑さ」 を法則化するときにどのような新しい考え方があるのであろうか,従来 のアプローチにない発想はどのようなものだろうかといった観点から本 書の構成を考えた. 現時点ではそのアプローチが未だ確立しているといえない生命現象は, 複雑系科学の典型的な対象であり,その「複雑さ」の解明においては従 来の物理学的手法をこえたアイデアが要求されるであろう.その一方で, 20 世紀に登場し大きな進展を見せた量子力学や相対性理論(重力理論) は,実験や観測的証拠も十分に存在し,理論としては完成しているかに 見える.しかしながら,21 世紀になってさらに新しい展開を見せている ということも事実である. 本書ではそれらの新しい観点から,「早稲田大学複雑系高等学術研究 所」の周辺で活躍されている方たちに,これまでにわかったことをまと める教科書的な書き方ではなく,これからの新しい展開が見えるように それぞれの思うところを執筆いただいた.これまでの複雑系科学とはひ と味違った個性豊かな「著作集」をお楽しみいただきたい. 2006 年 11 月 前田惠一

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