低圧環境下での前額部
fNIRS 計測における皮膚血流と
脳酸素化動態の評価
―独立成分分析によるパイロットスタディ―
栗田太作
(情報教育センター)寺尾 保
(スポーツ医科学研究所)瀧澤俊也
(医学部内科学系神経内科)沓澤智子
(健康科学部看護学科)灰田宗孝
(医療技術短期大学看護学科)八木原 晋
(理学部物理学科)両角 速
(体育学部競技スポーツ学科)Evaluation of Skin Blood Flow and Source-detector Distance on fNIRS-determined
Cerebral Oxygenation by using Independent Component Analysis during Calculation
Task under Hypoxic Environment
Daisaku KURITA, Tamotsu TERAO, Shunya TAKIZAWA, Tomoko KUTSUZAWA, Munetaka HAIDA, Shin YAGIHARA and Hayashi MOROZUMI
Abstract
To evaluate of skin and brain layersʼ contribution, we measured functional near-infrared spectroscopy (fNIRS) between light source and detector distance of 30, 15, and 11mm for forehead, in two male subjects under the altitude of 0m (1013 hPa) and 1500m (837 hPa) conditions including the calculation task, and used independent component analysis. Especially fNIRS between light source and detector distance of 30 and 11mm under the altitude of 0m condition including the calculation task was activated brain removed skin layer better than the distance of 30 and 15mm on independent component analysis. Our trial suggests that independent component analysis may be a useful tool to see a brain oxygenation states unaffected by skin blood flow.
機能的近赤外分光法(fNIRS)は、生体内の血 液血行動態を非侵襲的で姿勢に制約がなく、そし てリアルタイムに測定する方法として臨床医学の みならず、スポーツ医学等様々な研究分野で幅広 く活用されている1-3)。fNIRS は、生体組織を透過 する近赤外光の特性を利用して、主に毛細管由来 の酸素化ヘモグロビン(HbO)と脱酸素化ヘモ グロビン(HbR)の濃度長(通常の近赤外光装置 では、濃度と光路長の積の形で求まるので濃度長 と呼ぶ)の経時変化(NIRS 信号)から酸素化動 態反応を測定することができる4)。しかしなが ら、fNIRS は 皮 膚 表 面 に 光 源 - 検 出 セ ン サ ー (Source-Detector:S-D)を設置して計測するため、 皮膚血流の影響が含まれた酸素化動態反応を観測 することになる5, 6)。また前額部において、近赤 外光の性質として、皮膚表面で S-D 距離を変化 させることにより、浅い層から深い層まで光を透 過させることができる。つまり、短い S-D 距離 は皮膚層を、長い S-D 距離は皮膚層と脳実質層 を透過すると考えられる。皮膚血流が特に問題に なるのが、前額部の計測で、長い S-D 距離では、 脳と皮膚の両方の情報が含まれている。しかしな がら、どの程度皮膚の情報が脳の NIRS 信号に含 まれているかは明らかではない。更に、脳の NIRS信号のみを検出する方法は、未だ確定され ていない5)。 その一方で、工学や統計学分野において、信号 分離・抽出の技法が数多く存在し、その中でも多 変量解析の一つである独立成分分析に注目が集め られている。独立成分分析は、観測された信号を 原信号と見なし、原信号には、本来の信号とそれ にいくつかの独立成分が加わったものから成ると 仮定する。原信号から任意の独立成分を除去後、 復元された信号が求めるべき信号であるとする技 法である7, 8)。 そこで我々は、パイロットスタディとして、低 圧環境下での前額部 fNIRS 計測における、本来 の脳酸素化動態の信号に、皮膚血流がどの程度関 与するか評価を行うために、S-D 距離が異なる 30mmと11mm、 お よ び30mm と15mm の NIRS 信号を計測し、独立成分分析を行い、得られた NIRS信号から皮膚血流の影響が分離できるか比 較検討した。 対象者は、東海大学に所属している男性健常人 2人で、被験者 1 は年齢22歳右利きで、被験者 2 は年齢24歳右利きである。これら被験者は、高地 トレーニングや低圧トレーニング未経験者である9)。 低圧負荷プロセスは、低圧室を使用し標高 0 m (1013hPa)と1500m(837hPa)に設定した。減 圧速度はおよそ10分で1500m とした。低圧室温 度は18℃に設定した。前頭葉を賦活させる課題 (タスク)は、計算タスクとした。計算は50問と し、被験者にできるだけ速く解答するよう促し た。この計算タスクは、標高 0 m と1500m で行 われた。各被験者に対する標高 0 m と1500m の 計算時間を記録し正解率を算出した。低圧負荷プ ロセスは、連続的に先ず標高 0 m で、約 2 分の 安静後、 1 回目の計算タスクを 2 - 4 分施行し、 計算タスク後に安静を約 3 分とった。その後約10 分で減圧し、標高1500m とし約 5 分後に、同様 に 2 回目の計算タスクを施行した。タスク終了 後、約10分で加圧し標高 0 m とした。標高 0 m の 1 回目の計算タスク前安静時から、減圧、 2 回 目計算タスク、加圧終了後まで、連続的に前額部 の fNIRS 測定を施行した。また、低圧負荷プロ セ ス で は、TEIJIN 社 製 パ ル ス オ キ シ メ ー タ PULSOX-Me300を用い、被験者の左第 2 指より経 皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を記録 した。標高 0 m と1500m の各安静状態は、SpO2 と脈拍数を監視し、生理的条件化であるか判断し た。 計算タスクは、通常単純な 1 から 2 桁の四則演 算であるが、予備実験で各被験者にその計算タス
Ⅰ.緒言
Ⅱ.実験方法
クを行ったところ、NIRS 信号に殆ど変化がなか った。そのため、逐次的に 1 桁多くなる計算タス ク10)を採用し、50問出題し、できるだけ速く解 答するよう促した。この逐次的に 1 桁多くなる計 算タスクでは、各被験者の NIRS 信号に顕著な変 化が認められた。また、各被験者には、内容を知 らせずに標高 0 m と1500m で同じ計算タスクを 行った。各計算タスク前後の安静では、紙上の黒 点を凝視するように促した。
fNIRS測 定 装 置 は、Spectratech 社 製 OEG-SpO2を使用した。この fNIRS 装置は、送光部波 長が770と840nm でサンプリング時間が0.08192秒 である。また、この装置は、光変調技術として CDMA方式を採用しているため11)、回路規模縮 小化に優れ、装置自体の携帯化と軽量化を実現し ており、実際、低圧室の様な狭い空間においても 測定可能である2, 12, 13)。更に CDMA 方式は、送光 と受光とを乱数コードにより特徴付けされている ため、複数の送光点に対して 1 つの受光点でも、 どこの送光点からの信号であるか特定できる。 fNIRS計測用のセンサーバンドは、脳酸素化動 態と皮膚血流の影響を評価するために、複数の S-D距離を装備した 2 種類のものを作製した。通 常の脳酸素化動態測定に用いる S-D 距離30mm に 11mmのホルダーを増設したものと、30mm に 15mmのホルダーを増設したものである。この S-D距離が11mm および15mm の送光部からの光 強度は、S-D 距離が30mm の送光部からの光と比 べ強いため、適切な光学フィルターを貼付し、減 光させた。 近赤外光送光部と受光部センサーの中点を fNIRSの測定点と考え、チャンネルと呼ぶ。図 1-(a)に送光部と受光部センサーとチャンネル の関係をシェーマで示す。各々のセンサーは、セ ンサーバンドに配置し、計10チャンネルとした。 S-D距離が11mm および15mm の各チャンネルは センサーバンド左と右にそれぞれ 1 つ設けた。図 1-(b)に S-D 距離が30mm と11mm、図 1 - (c) に S-D 距離が30mm と15mm のセンサーを配置し た様子を示す。図 2 に示すように、各被験者は、 前額部眼窩上15mm 付近にチャンネル 2 と 9 が位 置するようにセンサーバンドを装着した。そし て、遮光のためのヘッドバンドをセンサーバンド 上に固定し、低圧室内で計算タスクを行っている 様子を図 3 に示す。 以前の我々の研究で示したように、各チャンネ ルから得られたデータは、修正ビア・ランバート 則に基づき、酸素化ヘモグロビン(HbO)およ び脱酸素化ヘモグロビン(HbR)の濃度長の経時 変化、すなわち NIRS 信号が得られる2)。 S-D距離が30mm の NIRS 信号には、脳酸素化 動態に皮膚血流の影響を含むと考えられるため、 S-D距離11mm および15mm からの NIRS 信号を 用いて、脳酸素化動態から皮膚血流の影響を分離 する解析方法、すなわち独立成分分析(ICA)を 行った8)。 ICAソフトは、ビー・アール・システムズ社製 BRainAnalyzer (Ver.1.04)を使用した。実際に用 いた ICA の概要は、 x ( t )= A・s ( t ) s ( t )= W・x ( t ) ここで、x ( t ) は各チャンネルから観測された NIRS信号、s ( t ) は原信号、A は混合行列、 W は分離行列である。非線形無相関化に基づく方法 を用い、非線形性の評価関数として tan h を選択 した。原信号の s ( t ) は、いくつかの独立成分か ら成ると仮定し、任意の独立成分 s′( t ) を除去し たい場合、混合行列 A の選択された列の値は 0 となり修正混合行列 A′が得られる。従って、任 意の独立成分を除去した後の復元された NIRS 信 号 x'( t ) は、 x'( t )= A'・W・s ( t ) を計算することにより得られる。 この解析方法を用いて S-D 距離11mm および 15mmの NIRS 信号、すなわち皮膚血流に由来す る 独 立 成 分 を 除 去 す る こ と に よ り、S-D 距 離 30mmの NIRS 信号を復元し、脳の酸素化動態を 評価した。また、ICA は被験者の前額部左と右に 設置してある11mm あるいは15mm の短い S-D 距 離の 2 つのチャンネルに対して別々に行った。更
図 ₁ fNIRS の送光部 ‐ 受光部間 (S-D) 距離とその配置 (a) fNIRS の10チャンネルの S-D 距離とその配置のシェーマ (b) S-D 距離11mm を含むセンサーバンド
(c) S-D 距離15mm を含むセンサーバンド
Fig 1 fNIRS channels between light source and detector (S-D) distance, and its arrangement. (a) Schematic view of ten fNIRS channels between light source and detector.
(b) The sensor band including S-D distance 11mm. (c) The sensor band including S-D distance 15mm.
図3 被験者がセンサーバンドを装着し低圧室内で計算タスクを行っている測定風景
Fig 3 A subject attached sensor band during the calculation task in hypobaric chamber. 図2 被験者の前額部に装着されたセンサーバンド
に、必要な場合、復元された NIRS 信号に適切な ベースライン補正を行った。 尚、本研究は、東海大学が定める「人を対象と する臨床研究倫理委員会」より承認を受けている (承認番号: 14006)。被験者に書面による同意説 明を行った。 代表的な低圧負荷プロセスにおける前額部の HbOと HbR の経時変化を図 4 -(a)に示す。チ ャンネル 5 と 6 の NIRS 信号は、短い S-D 距離 (この図では15mm)に因るもので、チャンネル 1- 4と 7 -10の NIRS 信号は、通常用いられてい る S-D 距離30mm の因るものである。各チャンネ ルの NIRS 信号は、標高 0 m と1500m の計算タス ク中で HbO の増加と HbR の減少が認められた。 また、標高1500m の HbO と HbR の変化は、標 高 0 m 比べ低下が認められた。 標高 0 m と1500m のチャンネル 1 - 5(右前額 部)の計算タスク中の独立成分(IC)を図 4 -(b)と(c)、同様にチャンネル 6 -10(左前額部) の計算タスク中の IC を図 4 -(d)と(e)に示 す。チャンネル 1 - 5 における標高 0 m と1500m の計算タスク中の IC は各 5 計10種類に分離され た。同様にチャンネル 6 -10の計算タスク中の IC は各 5 計10種類に分離された。 皮膚血流に寄与すると考えられる S-D 距離 11mm(チャンネル 5 、右前額部)における、標 高 0 m の計算タスク中の NIRS 信号を図 5 -(a) に示す。ICA により分離された 2 種類の IC を除 去し、復元された NIRS 信号を図 5 -(b)に示 す。また、標高1500m の計算タスク中の NIRS 信 号を図 5 -(c)に示す。ICA により分離された 2 種類の IC を除去し、復元された NIRS 信号を図 5-(d)に示す。図 5 -(b)と(d)から判るよ う、分離された 2 種類の IC を除去することによ り、HbO と HbR の変化はほぼ消失した。図に示 していないが、左前額部のチャンネル 6 に関して も同様で、標高 0 m と1500m の計算タスク中の ICAは、それぞれ 2 と 3 種類の IC に分離され、 それらを除去した NIRS 信号の HbO と HbR の変 化は消失した。このことから、S-D 距離11mm で 得られた 2 つあるいは 3 つの IC は皮膚血流を代 表すると考えられた。 S-D距離15mm(チャンネル 5 、右前額部)に おける、標高 0 m の計算タスク中の NIRS 信号を 図 6 -(a)に示す。ICA により分離された 3 種類 の IC を除去し、復元された NIRS 信号を図 6 -(b)に示す。また、標高1500m の計算タスク中 の NIRS 信号を図 6 -(c)に示す。ICA により分 離された 3 種類の IC を除去した NIRS 信号を図 6-(d)に示す。図 6 -(b)と(d)から判るよ う、分離された 3 種類の IC を除去することによ り、HbO と HbR の変化は消失した。図に示して いないが、左前額部のチャンネル 6 に関しても同 様で、標高 0 m と1500m の計算タスク中の ICA は、それぞれ 3 と 2 種類の IC に分離され、それ らを除去した NIRS 信号の HbO と HbR の変化は 消失した。このことから、S-D 距離15mm は、 S-D距離11mm と同様に、求められた 2 つあるい は 3 つの IC が皮膚血流を代表すると考えられた。 上記の様に、前額部左右の短い S-D 距離の各 計算タスク中の信号を代表する 2 から 3 種類の ICが求められたので、これらの IC を S-D 距離 30mmの NIRS 信号から除去し、残った NIRS 信 号が脳の酸素化動態を表すと考えた。 標高 0 m と1500m の各計算タスク中の S-D 距 離11mm で求められた NIRS 信号を図 7 に示す。 標高 0 m の計算タスクに関しては、右前額部の チャンネル 1 と 2 、左前額部のチャンネル 7 と 8 で HbO の増加と HbR の減少が認められた。標 高1500m の計算タスクに関しては、若干ではあ るが、チャンネル 1 と 7 で HbO の増加と HbR の 減 少 が 認 め ら れ た。 こ の こ と か ら、S-D 距 離 11mmから求められた NIRS 信号は、標高 0 m、 標高1500m の計算タスクでは脳の酸素化動態を 反映すると考えられた。しかし、1500mでは 0 m の様な HbO の上昇が見られなかった。それは、
Ⅲ.結果および考察
図 4 代表的な低圧負荷プロセスにおける前額部の HbO と HbR の経時変化と計算タスク中の各チャンネルから得られた NIRS 信号 の独立成分(IC) (a) HbO と HbR の経時変化 (b) 標高0m のチャンネル1-5の計算タスク中の IC (c) 標高1500m のチャンネル1-5の計算タスク中の IC (d) 標高0m のチャンネル6-10の計算タスク中の IC (e) 標高1500m のチャンネル6-10の計算タスク中の IC
Fig 4 The typical time course of changes in HbO and HbR, and the independent components (ICs) during calculation task under the altitude of 0m and 1500m conditions.
(a) The time course of changes in HbO and HbR.
(b) ICs from channel 1-5 during calculation task of 0m condition. (c) ICs from channel 1-5 during calculation task of 1500m condition. (d) ICs from channel 6-10 during calculation task of 0m condition. (e) ICs from channel 6-10 during calculation task of 1500m condition.
図 5 S-D 距離11mm(チャンネル5)における、標高0m と1500m の計算タスク中の NIRS 信号と ICA により復元された NIRS 信号 (a) 0m のタスク中の NIRS 信号
(b) 0m のタスク中の復元された NIRS 信号 (c) 1500m のタスク中の NIRS 信号 (d) 1500m のタスク中の復元された NIRS 信号
Fig 5 NIRS signals and the reconstructed NIRS signals of S-D distance 11mm during calculation task under the altitude of 0m and 1500m conditions.
(a) NIRS signal during task of 0m condition.
(b) The reconstructed NIRS signal during task of 0m condition. (c) NIRS signal during task of 1500m condition.
(d) The reconstructed NIRS signal during task of 1500m condition.
図 6 S-D 距離15mm(チャンネル5)における、標高0m と1500m の計算タスク中の NIRS 信号と ICA により復元された NIRS 信号 (a) 0m のタスク中の NIRS 信号
(b) 0m のタスク中の復元された NIRS 信号 (c) 1500m のタスク中の NIRS 信号 (d) 1500m のタスク中の復元された NIRS 信号
Fig 6 NIRS signals and the reconstructed NIRS signals of S-D distance 15mm during calculation task under the altitude of 0m and 1500m conditions.
(a) NIRS signal during task of 0m condition.
(b) The reconstructed NIRS signal during task of 0m condition. (c) NIRS signal during task of 1500m condition.
図 7 チャンネル1、2、7、そして8での標高0m と1500m の各計算タスク中における S-D 距離11mm の独立成分除去後の復元された NIRS 信号
Fig 7 The reconstructed NIRS signals of channel 1, 2, 7, and 8 removed the independent components of S-D 11mm during calculation task under the altitude of 0m and 1500m conditions.
図 8 チャンネル1での標高0m と1500m の各計算タスク中における S-D 距離15mm の独立成分除去後の復元された NIRS 信号 Fig 8 The reconstructed NIRS signals of channel 1 removed the independent components of S-D 15mm during
表 1 に示すように、経皮的動脈血酸素飽和度 (SpO2)が94.4% と低下しており、そのため、本 来上昇すべき脳内の HbO が,上昇しなかったた め、あるいは皮膚血流が脳以上に上昇したためと 考えられた。 同様に、標高 0 m と1500m の各計算タスク中 の S-D 距離15mm で求められたチャンネル 1 の NIRS信号を図 8 に示す。図 7 で示した結果とは 大きく異なり、同じチャンネル 1 の NIRS 信号 が、殆ど消失した。また、標高1500m の計算タ スク中の復元された NIRS 信号は、 0 m のタスク 中より顕著に消失した。図に示していないが、他 のチャンネルの求められた NIRS 信号も、同様に 殆ど消失した。このことは、S-D 距離15mm で求 められた IC は、他のチャンネルの信号成分と同 一である事を示している。 Funaneらの報告7)によると、複数の S-D 距離 によって計測された NIRS 信号に関して、深い組 織層(脳)に対する浅い組織層(頭皮や皮膚)の 影響を定量化する分析法として、ICA が提案され ている。その結果、ICA で浅い組織層を除去する 適切な S-D 距離は15mm を推奨している。しかし ながら、我々の15mm の結果(図 8 )では、タス ク中の NIRS 信号は、消失してしまった。この消 失は、我々の S-D システム(LED とフォトダイ オード(図 1 -(b)と(c)参照)では、S-D 距 離が15mm でも十分に深い組織層(脳)の NIRS 信号が含まれており、ICA では、脳の IC を除去 してしまうためと考えられる。我々のシステムで は、S-D 距離11mm 程度が妥当と考えられる。ま た、Funane らの S-D システムは光ファイバーで あり、点光源と点状の検出器と考えられるが、 我々のシステムでは 各々面状(外径11mm)であ る。つまり、我々の場合、光は最長の場合、プロ ーブの両端の距離15+11=26mm の距離の光を含 み、30mm に近い。このプローブの差異が結果に 反映されていると考えられた。 標高1500m の計算タスク中の S-D 距離11mm の ICを除去した後、復元された NIRS 信号は微弱 であった。各被験者の 0 m と1500m の安静、計 算タスク中の SpO2と脈拍数、計算タスク時間、 そして計算の正解率を表 1 に示す。今回の計算タ スクは、逐次的に 1 桁多くなる計算タスク10)を 採用し、50問出題し、できるだけ速く解答するよ う促した。また、予め被験者に知らせずに標高 0mと1500m で同じ計算タスクを行った。内容 を知らないとは言え、1500m で同じ計算タスク を行うことは、被験者心理として、慣れや集中力 低下につながる可能性が考えられる。表 1 におい ても、被験者両者で計算タスク時間の延長や計算 表 ₁ 各被験者の0m と1500m の安静、計算タスク中の SpO2と脈拍数(平均±標準偏差)、計算タスク時間、そして計算の正解率
の正解率の低下が認められた。今後、低圧環境下 に適した計算タスクを検討したい。 パイロットスタディとして、前額部 fNIRS 信 号から皮膚血流の影響を分離し、脳酸素化状態が 評価できるか、独立成分分析(ICA)により検討 した。対象は、 2 人の低圧トレーニング経験のな い一般健常人とした。NIRS 計測は、通常用いら れている送光部 ‐ 受光部間(S-D)距離30mm と、皮膚血流の影響を評価するための S-D 距離 11mm、あるいは15mm を装備した 2 種類のセン ターバンドを作製し行った。低圧負荷プロセスで は、標高 0 m と1500m の計算タスクを行った。 前額部左右の短い S-D 距離の各計算タスク中の 独立成分(IC)は、 2 から 3 種類に分離された。 S-D距離11mm から復元された NIRS 信号は、標 高 0 m、標高1500m の計算タスクでは脳の酸素化 動態を反映した。しかし、標高1500m の信号は 弱かった。S-D 距離15mm から求められた NIRS 信号は消失した。以上より本装置による fNIRS 計測において ICA は、最短 S-D 距離、11mm 程 度で行う方が良いと考えられた。今後、被験者の 例数を重ね、更なる検討を行いたい。 参考文献
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