仙台市立病院医誌 21,33−35,2001 索引用語 外傷性腸管損傷 腹部鈍的外傷 腹腔内遊離ガス像
交通外傷による腸管損傷例の検討
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高大 信
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博芳高酒
藤 藤 佐 佐 孝彰
博 藤 野 人搬
加 星 丈 幸 潔 大 藤はじめに
腹部の鈍的外傷による腸管破裂や腸間膜断裂 は,腹膜刺激症状や,X線検査での遊離ガス像な どの所見が認められるまでに時間を要することが あり,診断が遅れることも多い。特に,大腸破裂 では,診断・手術が遅れるとエンドトキシンショッ ク,敗血症,多臓器不全を起こし,予後が不良に なる。 しかし,多くの場合,腸管破裂は,手術的治療 が遅れない限り予後は良好であり,症状の経過か ら的確に診断し,開腹手術を決定することが重要 である。 今回,仙台市立病院救急センターでの交通外傷 による腸管損傷例について検討を行った。 対 象1991年4月から2000年4月までの9年間に仙
台市立病院救急センターで,交通事故による外傷 で腸管損傷をきたし開腹手術が施行された42症 例を対象とした。 性別は男性30例,女性12例で,年齢は,6∼76 歳であった。 結 果 1.受傷時の状況 各症例の受傷時の状況は,乗用車運転席が23 例,乗用車助手席が6例,歩行者6例,バイク運 転5例であった。その他,トラクター運転中,橋 の欄干に衝突した1例,自転車運転中,乗用車と 衝突した1例もあった(表1)。 乗用車に乗車中の症例でのシートベルト着用状 況をみると,乗用車運転席23例では,シートベル ト着用8例,非着用あるいは不明が15例で,乗用 車助手席6例では,シートベルト着用3例,非着 用2例,不明1例であった(表1)。 2.理学的所見および画像診断 42例中32例(76%)に筋性防御が,12例(29%) に腹腔内遊離ガス像が認められた。単純X線写真 で遊離ガス像を認めた症例は6例で,CTのみで 遊離ガス像が検出されたのは6例であった。以上 の所見に加え,ショック状態となり手術が施行さ れた症例(6例)もあった(重複例を含む)(表2)。 CTでのみ遊離ガス像が発見できた症例を提示 する。両者は同じスライスのCTで左側は通常の 条件,右側は肺野条件である。通常の腹部条件の CTでは検出できなかった微量の遊離ガス像を肺 野条件のCTで胃泡と大腸ガス像の間に認めた 仙台市立病院外科 *仙台市立病院 事業管理者 表1.受傷時の状況 乗用車運転席 シートベルト着用 不明 乗用車助手席 シートベルト着用 非着用 不明 トラクター運転中橋の欄干に衝突 歩行者 バイク運転中 自転車運転中乗用車と衝突 8例 15例 6例 3例 2例 1例 1例 6例 5例 1例 Presented by Medical*Online34 表2.理学的所見および画像所見 筋1生防御 遊離ガス像(単純X線) 遊離ガス像(CT) 腹腔内出血(CT) 横隔膜破裂(X線) 膀胱破裂(膀胱造影) 出血性ショック 敗血症性ショック 32例 6例 6例 10例 3例 1例 4例 2例 症例 30 25 20 15 10 5 0 0∼12 12∼2424∼3636∼48 48∼ 時間 図2.受傷から手術までの時間 (重複例を含む) (図1)。 手術適応を決定づけた所見は,遊離ガス像,筋 性防御,ショック症状などであり,16例(38%)が 筋性防御の所見のみで手術が決定されていた。 3.受傷から手術までの時間 受傷から手術までの時間をみると,42例中28 例が受傷後12時間以内に,8例が12∼24時間に 手術が施行されており,計36例(86%)の症例は 受傷後24時間以内に手術が施行されていた。 24時間以内に手術が施行された症例の内訳は, 小腸損傷27例,腸間膜損傷21例,大腸損傷2例, 十二指腸損傷3例であった。小腸損傷27例中14 例が小腸単独損傷,腸間膜損傷21例中6例が腸間 膜単独損傷であった。 24時間以上経過してから手術が施行された症 例は5例であり,大腸破裂2例,腸間膜損傷1例 は24∼36時間に,2例の小腸破裂症例は,48時間 以降に手術が施行された(図2)。 25時間経過してから手術が施行された,S状結 腸および回腸破裂の症例が多臓器不全で死亡し た。 4. 損傷部位 損傷部位は小腸損傷が最も多く30例,大腸損傷 4例,十二指腸損傷3例,腸間膜損傷23例であっ た(重複例を含む)。 小腸の好発部位は特定できなかったが,大腸損 傷4例中,3例がS状結腸で,1例が上行結腸肝屈 曲部であった(表3)。 5.合併損傷 腸間膜損傷をも認めない腸管損傷単独は14例 であった。 合併損傷は28例に認められた。内訳は腸間膜損 傷が最も多く16例,骨盤骨折11例,下腿骨折8 例,肝損傷4例,腎損傷3例であった(重複例を 含む)(表4)。 6.予後 死亡例1例を除く,41例は全例軽快退院した。 死亡例は右鎖骨骨折にて他院整形外科入院中, ショック状態となり,消化管穿孔の診断で当科紹 介となった症例で,受傷25時間後に緊急手術施行 した。手術所見では,回腸完全断裂およびS状結 腸破裂が認められ,回腸断裂部切除,端々吻合,S 状結腸破裂部を外痩としたが,手術施行後16時間 図1.通常の腹部条件CT(左側)では検出できなかった微量の遊離ガスを肺野条件のCT(右側)で胃泡と 大腸ガス像の間に認める(矢印)。 Presented by Medical*Online
表3.損傷部位 小腸損傷 大腸損傷 十二指腸損傷 腸間膜損傷 30例 4例 3例 23例 (重複例を含む) 表4.合併損傷 腸管損傷単独(腸間膜損傷もなし) 腸間膜損傷 骨盤骨折 下腿骨折 大腿骨折 足関節骨折 肋骨骨折 肝損傷 腎損傷 14例 16例 11例 8例 4例 4例 4例 4例 3例 (重複例を含む) 後多臓器不全が進行し死亡した。 考 察 交通外傷の腸管損傷の原因として不適切なシー トベルトの着用が挙げられており,シートベルト による腸管損傷の機序については,1)腸管への 直接の損傷,2)腸管内ガスの瞬間的内圧の上昇 による腸管破裂,3)腸管に垂直にベルトの力が かかった時の腸管の断裂と腸間膜の裂開などの機 序が考えられている1)。今回検討した42例では, 13例(31%)はシートベルトが関与しない受傷で あった。交通外傷による鈍的腹部外傷が認められ たときは,腸管損傷の可能性を常に考慮する必要 がある。 交通外傷の腸管損傷の診断には,遊離ガス像や 腹膜刺激症状が重要である。しかし,腹部理学的 所見が軽微な場合や骨折があってその疾痛により 腹部理学的所見が隠されている場合がある。また, 受傷後数時間を経てはじめて遊離ガス像や腹部症 状を認める症例もあり,鈍的腹部外傷に対しては 入院の上経過観察が必要と考えられる2・3)。 遊離ガス像の検出率が低い理由として,小腸に 35 は生理的にガスがほとんど存在しないためと考え られている4)。今回の検討でも遊離ガス像が認め られたのは,42例中12例(28.6%)と少なかった。 微量の腹腔内遊離ガス像の証明にCTが有用との 報告があり5),当院でもCTでのみ遊離ガス像が 発見できた症例があった(図1)。一方,筋性防御 は,42例中32例(76%)に認められ手術を決定す る上で有用であった。 腸管損傷を部位別にみると小腸は,腹腔内の広 い範囲を占めておりかつ前腹壁からの保護が少な いため,瞬間的に鈍力が加わったときに最も損傷 されやすい。一方,大腸は周辺部に位置するため に,鈍力は直接にはおよびにくいが,弁の存在や 靱帯ないし腸間膜による固定のため,回盲部や横 行結腸,S状結腸に多くの損傷がみられる1)。今回