1 多文化公共圏センター年報 第7号 EU が 28 か国に拡大したのは、資格などの共 通の尺度が適用される社会環境が存在したため ばかりではない。加盟各国の意見が尊重される という前提があるからであろう。加盟各国の言 語が等しくコミュニケーションツールとして認 知されているのである。合意文書はすべての言 語で等しく記載される。少数意見尊重のあらわ れである。 ヨーロッパ議会の代議員数は、加盟各国の人 口比により配分されてはいるが、国家を超える 政党が国家を超える支持を集める。このこと は、超国家的合意形成の可能性を示すものとい えよう。ヨーロッパ議会は個別の国家意思を尊 重するとともに、いわゆるヨーロッパ市民とし ての意識を醸成することにも、事実貢献してい る。 国際学部において講演をお願いしたことがあ るオーストリア出身の日本研究者F氏は、「ド イツは資格の社会、日本は場所の社会だ」と 語っていた。日本では個人の評価は○○会社社 員とか△△課長とか「場所」に重きが置かれる ことが多く、一方、ドイツ・ヨーロッパでは○ ○技師とか△△職人とか「資格」に重きが置か れる、というのである。 一般に多様な民族と文化と価値観から構成さ れるヨーロッパ社会と日本のそれとは歴史的に も地理的にも大いに異なり、社会とか個人とか に属する概念や思考形式をそのまま当てはめる ことはできないが、この場合、両社会の「公私」 という考え方の違いに、この理由を求めること ができるのではなかろうか。ドイツ・ヨーロッ パでは個人の私生活が優先されていること、一 方、日本では仲間や個人が所属する社会が優先 される性向が強いということであろう。 しかし、近年少しずつであれ、日本の「場所 の社会」にも変化が生じてきているのではなか ろうか。20 年前国際学部創設当時における日 本国内の「国際化」から世界を標準とする「世 界化」へという潮流は、Internationalization とい う語より Globalization という語の方が、現在普 通に使用されていることが示すように日本の社 会の個人と集団、仲間の関係にも変化をもたら している。外国人在住者や旅行者が増加し、多 様な文化も価値観も受け入れなければならなく なった日本社会は、確実にヨーロッパのように 個人尊重の思想を受容しつつあるのではなかろ うか。 とりわけ個人情報保護法が施行されたように 「プライベイト」に法的保護が及ぶようになっ た。「私」の範囲および権利の拡大が進んでい る。ハーバマスがいうところ公共の議論・討論 をとおした合意形成が必要な社会となりつつあ る。年長者や団体の利益という従来の合意決定 要因にかわり、確実に多文化と個人の多様な価 値観を反映する公共の利益が合理的合意決定要 因となって来ている。 多様な議論や討論、意見発表の場としての宇 都宮大学国際学部附属多文化公共圏センターの 存在意義が、今日、改めてクローズアップされ てしかるべきであろう。ここにお届けする「多 文化公共圏センター年報 第 7 号」の内容が、 事実このことを明示している。
【02】はじめに
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