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健康増進に役立つ身体運動のセンシング技術

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Academic year: 2021

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1.は じ め に

バイオメカニクスという学問領域をご存じだろうか. 後に説明するが,bio(生体)と mechanics(力学)が 組み合わさった造語である.現状においてバイオメカニ クスと人工知能はあまり接点があるとはいえないであろ う.しかし,時代の潮流として両分野の融合的な研究 は近い将来において高い確率で出現することが予測でき る.そこで,本解説ではバイオメカニクスを専門とし, 人工知能の専門家ではない著者らではあるが,可能な限 りお互いの領域の接点を見つけ,新たな研究の発想につ ながるような動作の計測に関する基本的な情報を提供し ていくこととする.

2.バイオメカニクスとは?

バイオメカニクスはかなり広い学問領域を網羅してい る.バイオは生体という意味であり,人間だけでなく動 物や植物も含む.そして,力は生体に対してミクロ的に もマクロ的にも作用する.したがって研究対象は分子レ ベルから全身レベルまでとなる.これらの観点からバイ オメカニクスを論じる際には具体的に何を対象にし,ど のような大きさを力学の観点から扱うのかを明確にす る必要がある.今回扱うバイオメカニクスは人間を対 象にした全身レベルの「身体運動のバイオメカニクス」 (Biomechanics of Human Movement)である.このバ

イオメカニクスの基礎となる分野は「機能解剖学」,「筋 神経生理学」,「機械力学」の三分野で構成されている. そして,身体運動という概念はスポーツ動作から,姿勢, 歩行や介助動作などを含む日常生活動作までも含んでい る.また,スポーツ動作に特化したものはスポーツ・バ イオメカニクスと呼ばれるが,場合により身体運動のバ イオメカニクスと同義的に用いられることも多い.身体 運動のバイオメカニクスの目的は二つあり,一つはパ フォーマンスの改善,もう一つは傷害予防である.パ フォーマンスという用語は日本語に適切な言葉がないた めにカタカナになっていると思われる.著者ら自身は他 者との相対比較ではなく本人自身の絶対的能力を向上さ せることと理解している.また,傷害が起きるとパフォー マンスが低下するために二つの目的は独立しているので はなく,互いに関係している.タイトルにあるように, 健康というキーワードを扱う場合,身体運動のパフォー マンスが向上したならば,健康も増進されたと考えられ る.そして,傷害が予防されれば,健康も維持できる. したがって身体運動のバイオメカニクスは応用健康科学 の一面ももち合わせていることになる.

3.身体運動を計測するための実験機材

身体運動を計測するために頻繁に使用される主な三つ の機材を紹介していきたい.一つ目は身体に貼り付けら れた複数の反射マーカーの三次元位置座標を赤外線カメ ラにより計測するモーションキャプチャシステムである (図 1).近年,このシステムは国内において急速に普及 している.また,テレビゲームや映画のアニメーション 作成時にも利用されるためにテレビ番組で取り上げられ る機会もある.そのためバイオメカニクス以外の専門分 野の方々にもイメージしやすいかもしれない.そして, 最近では屋外計測可能になったり,低価格化や小型化も 進んでいる.しかしながら,このシステム以前は静止画 の連続撮影可能なカメラから始まり,映画用の 16 ミリ

吉田 康行

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院

Yasuyuki Yoshida Institute for Liberal Arts, Tokyo Institute of Technology.

[email protected], http://www.tm.hum.titech.ac.jp/

丸山 剛生

(同   上)

Takeo Maruyama [email protected]

今泉 一哉

東京医療保健大学医療情報学科

Kazuya Imaizumi Division of Healthcare Informatics, Tokyo Healthcare University.

[email protected], http://www.thcu.ac.jp/faculty/healthcare/healthinfo/

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フィルムカメラになり,今日あるビデオカメラを経て, モーションキャプチャシステムの赤外線カメラにたどり 着いている. カメラの情報から位置座標に変換するソフトウェアも 同様に進化してきている.図 2 にはモーションキャプ チャシステムの制御ソフトの画面を示している.身体に 装着された反射マーカーの位置が表示され,それが線で 結ばれてスティックピクチャとして表示されるために直 感的に理解しやすい.さらに動作中の各マーカーに名称 を付けるラベリングも完璧ではないものの,ほぼ自動で 認識可能である.それ以前のソフトウェアではビデオ映 像が PC の画面上の座標系に映し出され,必要な箇所に 1コマずつカーソルを当てクリックしていくという長時 間の作業であった.そして,実空間座標系と PC 画面の 座標系の関係は DLT 法 [石田 02] を用いて算出されてい た.しかし,現在では動的な DLT 法 [藤井 00] が用いら れるために作業時間が短縮され,かつほとんどが全自動 で多数のマーカーの三次元位置座標値が算出される仕様 となっている. Yangら(2013)は 0.40 m/s, 0.93 m/s, 1.47 m/s の歩 行速度をトレッドミルで設定し,その際の水平面におけ る胸椎,腰椎,骨盤の動作を計測した [Yang 13].脊柱の 動作をモーションキャプチャシステムで計測するために 特徴のあるマーカーセットを用いている.その結果,速 度増加に伴い,体幹上部の角度変化が減少し,体幹下部 の角度変化が増加していることが明らかとなった(図 3). ここでモーションキャプチャシステムと人工知能の関 係を考えてみたい.反射マーカーの位置座標と名称を関 連付けさせるラベリングは人工知能の技術を用いている と容易に推測できる.一般的には図 2 に見られるような Tポーズと呼ばれる静止立位を最初に撮影する.次にラ ベル名を任意で設定し,マーカーの位置座標と関連付け て,基準となるモデルを作成する.そのモデルを各試技 に適用させていく.このマーカーの識別も年を追うごと に進歩しているものの,単純なミスもしばしば起きる. それは左右の認識が入れ替わることである.これだけ複 雑なモーションキャプチャシステムを作製しているにも かかわらず,ソフトウェアは人間の左右や前後が理解で きないことに驚かされる.現在,システムを開発してい るメーカがどのようなアルゴリズムを用いているかは明 図 2 モーションキャプチャシステムの操作画面 図 1 東京工業大学のモーションキャプチャシステム(上部の 4 台の赤外線カメラ)とフォースプレート(床面中央部)が 設置された実験室 図 3 歩行動作中の胸椎,腰椎(L1, L3, L5),骨盤の動作を 計測するためのマーカーセット [Yang 13] 図 4 歩行速度の変化による胸椎,腰椎(L1, L3, L5),骨盤の 角度変化 [Yang 13]

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モデルを認識する人工知能の技術にたどり着くと考えら れる.マーカーを装着せずに画像から身体を頭部,体幹 部,大腿部などのセグメントとして認識し,そして膝関 節や股関節などの関節点を精度良く認識する技術が待ち 望まれている. 次に紹介するのはフォースプレートである.図 1 の 床面中央部に見られるように床に埋め込んで使用する. フォースプレートは簡単に説明すると精度が高く荷重点 の位置と方向も計測できる体重計である.また,モーショ ンキャプチャシステムと組合せ計測することも一般的で ある.このプレートにはストレインゲージと圧電素子を 用いたものに分類できるが,圧電素子を用いたスイスの キスラー社製の計測精度が高いために使用されている場 合が多い.キスラー社製のフォースプレートは四隅に三 軸の圧電素子を用いた力センサが埋め込まれている.そ のため時々刻々と動作中に変化する重心に作用する地面 反力が計測可能である.また,力の作用点である圧力中 心の位置の計測も可能であるが,圧力の分布はわからな いため,その際には圧力を計測するシート型センサが必 要になってくる. 松浦らはバレエダンサー群とバレーボール選手群に高 ることが有意な差で検証できた.これは,バレエダンサー が足関節をより大きく動かしているためと報告されてい る.このように,衝撃緩衝という身体運動のスキルを評 価する際にフォースプレートは有用な機材となる. このフォースプレートを使用する際にも問題点はあ る.歩行を含めた動的な運動を行う際には 1 枚のフォー スプレートに対して片足を乗せなければならない.1 枚 のプレートに両足が乗っても計測可能ではあるが,片足 のみに作用する地面反力の解析ができず,圧力中心も両 足の間となってしまう.もし,1 枚のフォースプレート からのデータを左右の足に分離できる技術があれば,研 究を進めていくうえでかなり有用だと思われる. フォースプレートを使用した静止立位の姿勢制御の 研究も頻繁に行われてきている.基本的に圧力中心の動 揺の解析が主となるが,フォースプレートでは身体の各 部位の微細な振動は計測できない.特定の部位の一部に レーザを使用し,変位を計測した研究 [Tanabe 14] はあ るものの,全身レベルではない.全身の微細な振動が計 測できる技術があればさらに研究が進むと思われる. 最後は筋電位計である.筋の活動中に生じる微弱な電 位を計測する装置である.近年,小型化と無線化が進み, 国内外の多くの企業が開発している.図 6 に示すように 10円玉 2 枚分ほどの大きさの中に電極とアンプが内蔵 されている.そのため実験参加者はセンサの装着による 違和感が少ない状態で実験に望むことが可能となる.図 7にはランニング中の下腿部にある前脛骨筋(すねの前 の筋肉)と腓腹筋(すねの後ろの筋肉)の筋活動を示し ている.接地直後に前脛骨筋が,離地直前に腓腹筋が活 動しているなど,どのタイミングでどの筋が活動してい るのか理解可能となる. 筋電位計には身体深部へ挿入する針電極と呼ばれるも 図 5 バレエダンサー(上)とバレーボール選手(下)のドロップ 着地中の鉛直地面反力の代表例 [松浦 13] 図 6 小型の無線式アンプ内蔵電極

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のもあるが,表面電極が一般的である.そのため身体の 表層にある筋の電位を計測している.身体の解剖学的構 造上,皮膚から深く入った深層部にも多くの筋が存在す る.メディアでは「インナーマッスル」,「コアトレーニ ング」がよく取り上げられている.しかし,残念ながら 深層部の筋群の静止画像は MRI で撮影可能であるが, 運動中の深層部の筋活動は計測できないのが現状であ る.もし皮膚表面の筋電位から深層部の筋ごとに筋活動 が分離できたならば,新たな研究に発展していくと考え られる. そのほかの機材として加速度や角速度センサも筋電 位計と同様に無線化と小型化が進み身体運動の計測に使 用されることも多くなってきている.川口らはアーチェ リーの弓に角速度センサを装着し,行射動作の計測を多 数回行った [川口 16].その後,機械学習手法の一つで ある隠れマルコフモデルを使用して解析を行った.そし て,矢のリリースが良かった場合と,そうでなかった場 合の状態遷移パターンを示した(図 8).通常のバイオ メカニクスでは上級者と初級者の動作の比較は頻繁に行 われているが,動作をパターン化することはないといえ る.元来が音声認識のための人工知能技術である隠れマ ルコフモデルをバイオメカニクスに適用したのは意外な 発想であろう.

4.実験室から日常生活の環境へ

モーションキャプチャシステム,フォースプレート, 筋電位計といったバイオメカニクスの実験室には必ずあ ると思われる機材を紹介してきた.一般的なバイオメカ ニクスの研究では実験対象者数を 10 ∼ 15 名程度で行う 傾向があるといえる.したがってこの人数から得られた データをビッグデータとは呼ばないであろう.バイオメ カニクスの研究では少人数から得られたデータを詳細に 検証していく傾向が強いと思われる.そのため個々の実 験室内ですべてが完結すると考えられる.しかしながら, 個々の実験室をネットワークで接続できれば実験環境の 違いの問題はあるかもしれないが,ビッグデータでしか わからない身体運動の特徴が抽出される可能性が出てく る.そして,国内だけでなく世界各国の実験室がつなが れば身体運動の地域や文化の特徴も理解できるかもしれ ない. 次に考える必要があるのは,実験室内と日常生活にお ける身体運動の差であろう.Yoshida らはバレエのトゥ シューズの着用経験者群と未経験者群に対してフォース プレート上で踵を上下動させるライズアップ動作を行わ せた [Yoshida 13](図 9).その際,メトロノーム音を使 用して動作の周期を規定した.実験室内で周期的な動作 を行う場合はメトロノーム音を使用する場合も多い.し かし,実際のバレエの現場である舞台上ではメトロノー ム音ではなく音楽が用いられ,多数のダンサーが舞台上 にいる場合も多く,さらには観客もいる.その他の例と して,歩行動作を計測した場合,実験条件として先と同 様にメトロノーム音などで歩行動作を規定し単純化して いく.一方,日常生活での歩行では,周囲に多くの人が いたり,足元の障害物を確認したりしながら歩くことが 多い.そのため実験室内と日常生活の環境では動作に何 らかの違いがある可能性が高い. 日常生活の環境における動作のモニタリングは必要と されているが容易ではないと考えられる.筋電位計,そ してフォースプレートの代用にシューズ内にシート型圧 力センサを使用し,データロガーと併用すれば長時間計 測は可能である.しかし,全身の動作を計測し続けるこ とは容易ではないと考えられる.室内であればモーショ ンキャプチャ用のカメラが設置可能かもしれない.おそ らく屋外で動作の計測を長時間続けるならば,カメラ以 外の小型の何らかのセンサを使わなければならないであ ろう.著者らが知る限り現時点で確立された技術はない. しかしながら,スマートフォンの普及により GPS やビー コンによる位置情報の計測が容易になってきている.ま 図 7 ランニング中の前脛骨筋と腓腹筋の筋活動 [今泉 10] リリースがうまくいかなかった場合の状態遷移パターン リリースが良かった場合の状態遷移パターン 図 8 リリース動作周辺における状態遷移 [川口 16] 図 9 バレエのトゥシューズ着用経験者と未経験者のライズ アップ中の地面反力 [Yoshida 13]

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ビッグデータが収集可能になれば,結果的にそのデータ をもとにして新たな実験室内の実験に取り組める可能性 も出てくる.つまり,前述したことと逆に日常生活の解 析結果をもとにして実験室内で行う研究のニーズを探る ことができる.そうなると実験室内と日常生活の研究の 間に相互に循環する仕組みが出来上がることになる.バ イオメカニクスの研究に関して現場と研究の間には隔た りがあると指摘されることもある.多様な要因があると 考えられるが,一要因として実験室内で得られた結果の 考察がしやすいように実験設定を行っていることがあげ られるであろう.そこに日常生活の動作の計測が容易に できるような技術が発展すれば,その隔たりを少しでも 埋めることになるであろう.

◇ 参 考 文 献 ◇

[藤井 00] 藤井範久:2 点間距離に基づく三次元 DLT パラメータ算 出手法に関する研究,体育科学系紀要,Vol. 23, pp. 89-98(2000) [今泉 10] 今泉一哉,吉田康行:わかりやすいスポーツバイオメカ ニクス 9,対談,筋電図って何?,月刊トレーニング・ジャーナル, Vol. 32, No. 7, pp. 62-71(2010) [石田 02] 石田明允,廣川俊二,宮崎信次,阿江通良,林 豊彦:身 体運動のバイオメカニクス,pp.126-166,コロナ社(2002) [川口 16] 川口 碧:隠れマルコフモデルを用いたアーチェリー動作 の比較,東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科 学専攻長谷川研究室修士論文(2016) [松浦 13] 松浦 愛,吉田康行,水村(久埜)真由美:女性バレエ ダンサーによる片脚ドロップ着地時の下肢関節角度および鉛直 地面反力の特徴,トレーニング科学,Vol. 25, No. 1, pp. 79-85 (2013)

[Mentiplay 15] Mentiplay, B. F., Perraton, L. G., Bower, K. J., Pua, Y. H., McGaw, R., Heywood, S. and Clark, R. A.: Gait assessment using the Microsoft Xbox One Kinect: Concurrent validity and inter-day reliability of spatiotemporal and kinematic variables, J. Biomech., Vol. 48, Issue 10, pp. 2166-2170(July 2015)

M.: Differences in skills through ankle joint kinematics and vertical ground reaction force during dance movement with pointe shoes, Arts Biomechanics, Vol. 1, No. 2, pp. 131-142 (2013) 2016年 2 月 29 日 受理 吉田 康行 2005年東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行 動システム専攻博士課程修了.早稲田大学人間科学 学術院助手などを経て 2015 年より東京工業大学大 学院社会理工学研究科産官学連携研究員.2016 年か ら改組によりリベラルアーツ研究教育院研究員.日 本バイオメカニクス学会,日本機械学会,日本ダン ス医科学研究会などの会員. 丸山 剛生 1985年筑波大学大学院体育研究科修士課程修了. 1985年東京工業大学工学部一般教育等保健体育助 手,1993 年同講師,1996 年同大学院社会理工学研 究科人間行動システム専攻助教授,2007 年同准教授, 2016年より同リベラルアーツ研究教育院准教授.日 本バイオメカニクス学会,日本機械学会などの会員. 今泉 一哉 2007年早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課 程単位取得退学.2007 年度東京医療保健大学医療保 健学部医療情報学科助手,2009 年同講師,2013 年 同准教授.博士(人間科学).専門はバイオメカニ クス,人間工学.日本生体医工学会,ライフサポー ト学会などの会員.

著 者 紹 介

参照

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東京大学 大学院情報理工学系研究科 数理情報学専攻. [email protected]

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大谷 和子 株式会社日本総合研究所 執行役員 垣内 秀介 東京大学大学院法学政治学研究科 教授 北澤 一樹 英知法律事務所

関東総合通信局 東京電機大学 工学部電気電子工学科 電気通信システム 昭和62年3月以降