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街なかと住み替え支援に関する一考察-宇都宮市を例に(1)-

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街なか居住と住み替え支援に関する一考察

─ 宇都宮市を例に(1) ─

Intown Living and Assistance to Exchanging Dwellings

A Case Study of Utsunomiya City

-陣内雄次 上田由美子

JINNOUCHI Yuji UEDA Yumiko

1.はじめに

筆者らは「住み続けられる中心市街地を目指して」と題し、宇都宮市西地区を対象に平成18(2006) 年に第一報:街なか居住の利便性、平成19(2007)年には第二報:地域コミュニティ、という観点か らそれぞれ調査・分析を行った。その結果当初危惧したとおり、本来中心市街地で暮らすことのメリ ットであったはずの、買物の利便性や、賑わい・文化交流拠点についての魅力が大きく低下してきて いることがわかった。また、空家の増加やマンション建設などへの不安がある一方で、古くからのコ ミュニティがなお息づいており、住み続けている人の多くは、地域への愛着や暮らしやすさを実感し ていることも明らかとなった。 ところで、東京のような大都市圏はともかく、宇都宮のような地方都市では、街なかからそれほど 遠くないところに大規模な住宅開発地があり、緑豊かで良好な住宅・住環境が豊富に供給されている。 これらの多くは価格的にも市民にとって手の届く範囲内であることから、住宅・住環境に関する意 向・市民アンケート調査1) では、将来の中心市街地への居住について約6割が「住みたくない」と答 え、そのうち8割は持家希望者と、相変わらず郊外居住や新築一戸建てへの願望は強い。彼らは、な ぜそれほどまでに郊外一戸建てを希望するのだろうか。この背景には、国の政策や住宅産業の隆盛な ど、様々な要因があると思われるが、要は、多くの人 にとって、郊外の方が、より理想の住宅・住環境に近 いものが得られると捉えられているということだろう。 これに対し、街なかでの居住イメージはマンション購 入のチラシなどで「駅から○分」というふうに利便性 ばかりが強調され、郊外に比べれば、その具体的な生 活イメージの発信はまだほとんど行なわれていないの が現状である。 *宇都宮まちづくり市民工房 1) 宇都宮市住生活基本計画 平成20年3月 図1 宇都宮の中心市街地区域 出典:宇都宮市中心市街地活性化基本計画 平成11年3月宇都宮市

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今後、街なか居住*1 を進めるためには、街なかの便利さだけでなく、郊外一戸建てとは異なる豊か さを追求できる、街なかならではのライフスタイル像をつくり、アピールしていくことが重要となる。 折りしも、平成20(2008)年に策定された宇都宮市第五次総合計画では、ネットワーク型コンパク トシティが掲げられ、郊外の集約化、中心部への回帰と、これらを公共交通でネットワークすること がうたわれている。本稿は、こうした計画と有効にリンクしつつ、街なか居住の便利さを取り戻しな がら、その本来の楽しさ、快適性をもっと前面にアピールした「街なか居住」を推進・提案するため の一助としたい。

2.街なか居住は、中心市街地活性化策の最後の切り札

街なか居住を考える前に、まず、なぜ「街なか」なのかを整理しておきたい。これを語るには、背 景に中心市街地活性化という命題があったことは否定できない。中心市街地活性化は言うまでもなく モータリゼーションの進展とともに、郊外へ拡大していった生活圏の裏返しとして、中心市街地がさ びれて空洞化したことへの危機感に端を発しているわけであるが、活性化を含む、中心市街地に関す *1 全国的には都心居住とまちなか居住という2つのキーワードが使われているが、本稿では「まちなか居住」で 統一する。また、街なかとは、概ね「中心市街地活性化基本計画 平成11年 宇都宮市」に定められている中 心市街地区域をさす。 *2 昭和30年代初頭バンバ名店ビルが完成。当時は全国から多くの視察者が訪れ、都市計画の促進と防火地区の設 定促進に一役かった。 表1 宇都宮市の中心市街地と郊外の開発経過

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る施策の変遷をみていくと、いくつかの事実が浮かび上がってくる。 表1に、宇都宮市の中心市街地と郊外の開発過程について整理した。 表1をみると、まず、宇都宮の戦後のまちづくりが中心部から少しづつ郊外へ広がっていったこと がわかる。また、表中①∼④までの時期において、中心市街地のまちづくりはほとんど「商業活性」 で進められたといっても過言ではなく、実際、国の法律なども、ほぼその流れをたどっている。かつ てのように中心部の求心力が圧倒的であり、人が集まってきていた時代は広域を対象とした「商い」 が成り立っていた。しかし、郊外への投資が盛んになり、モータリゼーションの波とともに「職」 「住」なども、どんどん郊外へ立地・流出するようになり、中心市街地では来訪者、居住者ともに減 少の一途をたどった。「職」「住」そのほかの要素がなくなり、「商」だけで人々を中心市街地に惹き つけておくには、郊外ショッピングセンターは、あまりに巨大で強力過ぎた。 こうした中で、近年にわかに脚光を浴びてきたのが都心(街なか)居住という考え方である。「人 が住んでこそ街」という原点に戻ったとも言えるが、 そこには、外部からの客が減少しても、生活者のため の商いが成り立つのではないかというかすかな期待が 読み取れる。このようにして、いわば「住」は、中心 市街地活性化の最後の切り札として提示されたわけで あるが、時を前後して、地方都市ではちょうどマンシ ョンブームが始まっており、宇都宮市でもこの数年マ ンションラッシュ*3 を迎えているのは周知のことだ。し かし、この両者、すわなち中心市街地活性化策における街なか居住と昨今のマンション建設は、果た してうまく連携しているのだろうか。 実は民間開発の側も、中心市街地での商業ビルはテナント獲得などの困難性など*4 から、最近では マンションやホテル系が多くなってきているのである。こちらでも市場の論理で偶然にも「商業系」 から「住居系」にシフトしてきているのだ。だが、前述したように、この両方の流れはどちらも「商 がダメだから住」という、残された選択肢がこれしかないという状態でたどり着いた結果なのである。 したがって当然それぞれの方策が“勝手に”押し進められており、せっかく「住」という同じテーマ を扱っておきながら、両者は必ずしも連携できていないのである。 既に「住み続けられる中心市街地を目指して」で報告したとおり、今、街なかでは、日常生活に必 要な買物の便が悪くなっていること、賑わいなどの魅力が低下しているという実態が示されている。 図2 市役所南に建設中のマンション *3 宇都宮市では10階建て以上の集合住宅はバブル期以降3棟前後/年で推移していたのが、2006年度∼07年度の 2年間で、建設中も含め20棟の高層マンションが誕生している。(下野新聞2008年7月1日掲載記事) *4 更地への賃貸マンション建設では相続税が大幅に節約できるなど税制上の優遇措置がある。また、国交省は街 なか再生ファンド(2005)を開始し、一定規模の賃貸マンション建設事業に対し、総事業費の3割を上限とする 出資方式の住宅供給を支援している。このように、街なかへの「住」の供給は、土地所有者にとっても建設業 者にとっても魅力がある。

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便利な街なかだからとマンションを買って住んでみたものの、「こんなはずではなかった」という、 居住者のつぶやきが聞こえてくるようである。このような事態が起きないよう、一刻も早く、計画的 な街なかの住宅供給と、それと連携した生活者のための総合的なまちづくりを行なうことが求められ るのである。

3.街なか居住と郊外居住の違い

3-1 街なか居住者の実感

実際に、宇都宮の街なかに居住している人たちは、そこでの暮らしをどのように捉え、評価してい るのだろうか。ここでは、2004年における中心市街地居住者等への聞き取り調査を整理した。 表2 宇都宮の中心市街地居住者等からみた現状と課題

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表3をみると、街なか居住のメリットは「交通面での便利さ」が圧倒的に多い。ただし、その便利 さは市内交通というよりも、東京方面へ出るのが便利という気になる側面もあった。デメリットは数 多くあげられ、「ごみごみしている」「交通マナー」「治安の悪化」「固定資産税が高い」など様々だが、 「街の魅力がない」というのが何とも切ない。交通の便がよいというメリットがあれば、その裏返し として、渋滞や騒音、マナーの問題などのデメリットが生じるのはある意味当然であり、両者は相殺 される。しかしながら、ここでは、街なかならではのプラスアルファ的な魅力となるはずの、歴史・ 文化的な魅力をメリットとしてあげた人が非常に少なく、この点については、住宅・宅地開発業者が、 中心市街地について評価しにくい点としてあげた「中心性の喪失」という点でも一致する(表4)。 また、表2の「将来どうするか(このまま住み続けたいか)」という項目に対し、半数の人が「可 能であれば郊外でのんびりしたい」と答えている。住み続けられる中心市街地を考える場合、まず、 現在住んでいる人々に、そのまま住み続けてもらうのが第一と考えるならば、これは大変気になるデ ータである。要するに街なかで暮らすことのマイナス要素を補うほどのプラス要素が、現在の宇都宮 の中心市街地には少ないという結論になり、これにどう対処していくのかが大きな課題となる。 表3 宇都宮の街なか居住者が感じるメリット、デメリット 表4 住宅・宅地開発業者の中心市街地に関する評価

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3-2 街なか居住と郊外居住の違いとは

戦後の復興時に比べると、日本の居住水準は比較にならないほどアップした(一人当たり居住室の 畳数:昭和45年(1970)6.1畳→平成15年(2003)では12.17畳)。国の住宅政策も、それまでの五ヵ年 計画を終了し、「良好な住宅ストックの形成と将来世代への継承」「良好な居住環境の形成」「住宅市 場の環境整備」「住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保」などを目標に掲げた、住生 活基本計画(2006年に策定)へとシフトしている。しかし、こうした一軒一軒の住宅のレベルが上が った結果、何が起きているだろうか。データがないので憶測の域を出ないが、現在の住まいにおいて は、仕事などを除き、住居内にこもる(外出しない)時間が増えたのではないだろうか。なぜなら、 以前に比べて面積水準・質ともに飛躍的に向上し、ある意味、外へ出るよりも、家の中にいた方がは るかに快適だと考えられるからである。加えてテレビやネットさえあれば退屈しないし、ホームシア ターなるものまで供えれば映画館へ行くこともない。何より、住宅メーカーの戦略が「新しいライフ スタイルの提案」とばかりに、住居内で、すべてが完結するかのようなイメージをつくり、実際、家 の中でちょっとしたカフェ気分を味わうことだってできるのである。 郊外一戸建て住宅が、この「プライベートスペース(住居内)の充実」で点数を稼ぐとしたら、街 なかの住宅はどう対処すればよいのであろうか。答えは単純である。街なかの場合、個々の住宅の質 はやや劣るとしても、みんなで共有するコモンスペースの充実ぶりを、もっと正統に評価すべきなの である。街なかの場合、居住空間だけでなく、長年に渡って蓄積された優れたストックが多くあり、 住居とセットでこれらを十分に生かしきる、総合的なまちづくりが行なわれるならば、郊外とは異な る魅力的なライフスタイルをアピールすることができる。 では、こうしたまちづくりを、どのように進めたらよいのだろうか。筆者らはその解を歩いて暮ら せる街なか居住の物語を作ることにおきたい。 図3 郊外と街なかのライフスタイルの違い (プライベートスペースとコモンスペース)

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4.街なか居住の物語をつくる

4-1 街なか居住の物語性とは

街なか居住に欠かせない物語性とは何か。参考までに、世界中で最も魅力的とされる都市の一つで あるパリに目を向けてみたい。世界中、人気の高い都市が多くある中でも、パリはある種特別なイメ ージがある。なぜならパリに関しては、単なる観光目的というより「暮らすように旅する」すなわち、 市内のアパートなどに滞在するというツアーが多くみられ るからである。華やかで洗練された都市のイメージという ことだけでは捉えきれないこの街の魅力を、その中に「に わか住民」として身をおいて満喫したい、という希望が多 いのだ。なぜだろうか。こうしたツアーでは「地元のマル シェでお買い物をしたり、美味しいパン屋さんを探索した り、昼下がりのカフェでのんびり過ごしたり・・・。」とい う誘い文句がある。物見遊山の旅行とは一線を画す「タウ ンライフ」を楽しむ旅行である。 話を戻すと、郊外居住が、家の中だけである意味完結することを考えるならば、街なか居住では、 まち全体が生活の場である。そこには「働くだけ」のオフィス街や「眠るだけ」のベッドタウンとい う単一機能ではない職住遊学すべての機能が揃っている。生活者は、その中のお気に入りの場所で滞 在したり、縦横無尽に移動することができる。郊外居住は、 住宅内で過ごすのが基本だが、街なか居住は戸外で豊かな時 間を過ごせるのが、その大きな醍醐味なのである。 そして、戸外で多様かつ豊かなタウンライフを過ごすため の重要な手段が「楽しく歩けること」である。日本の多くの 街は、古くから、回遊性を意識して造られてきた。西欧のよ うな象徴的な「広場」よりは、道を行き交うこと(回遊性) で、庶民の暮らしぶりや賑わいを楽しむような街の造り方を されてきた。街なかに居住しているわけだから、そこでの移 動には車を使う必要性はなく、そうした身軽さが街なか居住 の格別な喜びなのである。もとより、ほどよく密集してつく られた街の構造は、クルマより歩くことでこそ、心地よさが 感じられるはずである。住み慣れた街を日々回遊する中で、何が得られるのだろうか。昨日とは違う 道を選んだり、季節ごとの行事や店先に並ぶものの品代わり、時間帯による景色の違い、夜の賑わい や、人々との語らいの中で起きる小さな変化、いわば日常の中の非日常性に物語が生まれ、そこに喜 びを見出せることが、街なか居住の豊かさと言えるのではないか。 図4 パリの水辺でくつろぐ人々 (c)ParisTourist Office Photographe:Amelie Dupont 図4 まちは「わが家」であり、 生活の場 「まちづくりの知恵と作法」 日本経済新聞社1994 p.22

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ここでは「街なか居住」の物語をつくるポイントとして、以下の3点を挙げる。 ●まちなか居住の物語に必要な3つのポイント ポイント1 魅力的な道具立てをみつけ、つなぎ、物語をつくる→回遊イメージを考える ポイント2 物語が成り立つ環境をつくる→回遊のしやすさを保障する基盤整備 ポイント3 物語を発信する→物語を実際に語りつむぐのは人 以下、順を追って詳しくみていく。

4-2 回遊ルートを形成しうる宇都宮の街なかの道具立て

宇都宮の街なかの物語を作るための道具立てとなるものを、以下にテーマごとに整理してみる。 表参道 ミハシ 表5 豊かな街なか居住を彩る街なかの道具立て ※以下、解説に加え、一部具体例を示す。

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このようにしてみると、宇都宮の中心市街地は、実に上質でユニークな多様性を内包しており、そ のポテンシャルはかなり高いとみてよいのではないだろうか。ただ現段階では、まだ「内包」であり、 必ずしもその魅力に十分にスポットライトが当たっていないものもある。こうしたものに光をあてつ つ、全体が物語としてつながるような歩行者回遊ルートを形作っていくことが必要である。

4-3 物語が成り立つ環境をつくる∼回遊のしやすさを保障する基盤整備∼

前述の魅力的な場所・要素をネットワークする回遊ルートは、楽しく安全に歩けることが大前提と して保障されなければならない。そのことは、歩いて暮らせることにもつながるのである。(4-2) で示した中に、各スポットを結ぶラインとして活用できる素材も含まれ、これらを積極的に活用しな がら、少しづつ街なかの歩行者ネットワークを形成していくことが望まれる。 ①短期的にはまず既存の歩行者専用道、緑道、歩道、河川管理用通路などを生かした可能な範囲で のネットワークを形成。 ②上記ネットワークの不足部分(つなぎ)について、歩行者優先とする一般道路エリアをチョイス する。(地域住民も参加)この道路については車両通行を制限する。 ③上記ネットワーク部分の舗装パターン(色・素材)を変更し、一般道路との違いを明確にする。 また、要所へのハンプの設置や利用時間の制限などわかりやすい標識を設置し、ドライバーへの 注意を喚起する。これらの歩行者優先についての考え方の教育と十分な周知(自動車学校で免許 取得・更新時に必ず組み入れる)と同時にわかりやすいサインや休憩スペースを提供する。

4-4 街なか居住の物語を発信する

街なかに長らく居住している人 は、おそらくすでにそれぞれ上質 な物語を有していると考えられる が、新しい転入者は、まだそこま で熟知しているとは限らない。さ らに、今後、街なか居住を推進す るためには、その呼び水となるよ うな街なかでのタウンライフイメ ージをアピールすることが有効と 考えられ、積極的に、紡ぎ出され た街なかの物語を発信していくこ とも不可欠である。以下に、その アイディアをいくつか挙げる。 ①街なかの魅力を伝えるマップづくり 来街人を対象としたマップは多くあるが、街に住んでいる人のためのものは意外に少ないもの。 図6 宇都宮の街なかの風景

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転入者、街なかへの転入希望者にはマップのような形でまとめられていると大きなPRにもなる し、生活情報としても役に立つ。 ②うつのみや街なか居住学講座・街案内かたりべの養成 マップを渡すだけでなく、口コミ情報、ウラ情報を含め、街なかでの生活の知恵を伝授し、各 人がそれぞれの「物語」をつくっていけるような手助けをする。

4-5 街なか居住者が、宇都宮のアイデンティティを継承する

前述したように宇都宮では、第五次総合計画で、ネットワーク型コンパクトシティという構想が示 されており、そこではネットワークの中心核として、街なかが位置づけられている。しかし、居住者 聞取り調査(表3)では、「中心市街地がなくてもそれほどに困らない・・」という意見がいくつか 見られた。郊外で事足りる生活を送っている人間が多いだけでなく、街なかで暮らしている人ですら、 中心市街地の必要性をもはや感じていないのである。既に繰り返し述べてきたように、そもそも中心 市街地の機能は「商業」だけではない。住む人がたくさんいるから「商い」が成り立つようになり、 長年にわたる人々の生活の積み重ねが「文化」となって蓄積されてきた訳である。一見脅威と見なさ れがちな郊外大型店が中心市街地に勝るとすれば、それはやはり「商業機能」だけであり「住・生活 臭・町並み」「歴史・文化」などは、郊外店舗にはほとんどない要素なのである。 では中心市街地の居住者にとって「住・生活臭・町並み」「歴史・文化」がないと、明日からの生 活に困るのかというと、必ずしもそういうわけではない。ここで浮上してくるのが、都市と自己アイ デンティティ、都市のイメージ(ケビン・リンチ)という考え方である。つまり、人が居住する地域 に対して満足感を覚えるのは、単に経済性、利便性だけではなく、時間軸の中で蓄積されてきたその 地域固有の歴史、文化が強烈な都市イメージを形成し、そこに自己アイデンティティを重ね合わせる ことにより、その地域への愛着や居心地の良さなどプラス要因が増幅されるからである。 宇都宮は1000年以上の歴史を持つ街であり、その中心は二荒山神社が存在する現在の街なか(中心 市街地)であり続けた。周辺市町村を合併しながらも宇都宮が宇都宮であり続けるのは、この核とな る部分の存在があるからに他ならない。その求心力は時代によって多少の変化はあるにせよ、今後も、 宇都宮のアイデンティティを継承していくのは、街なか(中心市街地)なのである。現代社会のよう に、居住域が拡大し、ネットワーク型で生活圏が分散した時代において、その存在はさらに重要性を 帯び、街なか居住者は、これまでの時代の蓄積を次の時代に受け渡していく存在(宇都宮のアイデン ティティを継承する人々)として、特別な意味を持つものとも考えられるのである。

5.おわりに ∼次回へ向けて∼

本稿では、住居とセットになった街なかの魅力を総合的に整え、発信していくことの重要性とその 手がかりを示した。 ところで、3回に渡って取り上げてきた「街なかに住み続ける」という命題に対し、実際にどのよ

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うな人が住むことを想定すべきなのだろうか*5 。宇都宮市の住生活基本計画では、中心市街地の居住 人口を、平成19年の15,956人から平成27年には17,600人に増やすという成果指標を設定している。こ のように、今後、街なか居住者が絶対数で増えると仮定した場合、その内訳は、①既に住んでいる人 がそのまま住み続けるケース、②街なかの範囲内で住み替えるケース、③郊外などから新たに街なか へ転居してくるケースが考えられる。②③は住み替えということになるが、前述した、住宅・住環境 に関する意向・市民アンケート調査によると、中心市街地への居住意向が相対的に高いのは、「年収 400万円未満」「1∼2人世帯」などの層となっている。そこには所得水準により、居住地をある程度 限定される人々、高齢化などでクルマ依存型の郊外居住に対する不安を抱える人々の存在などがみえ る。 街なかで現在の居住者が住み続け、さらに新たな居住者を受け入れるためには、こうした、今後居 住が想定される人々が抱える多様な背景と、そのニーズに答える受け皿を用意しつつ、一方では、ス トック活用を含めた住み替えがスムーズに行なえるような政策が必要となる。 次報では、このことについて論じたい。

参考文献

・山崎由希 2004年度卒業論文「中心市街地における居心地のよい場所―宇都宮を例に―」p.57-73 ・宇都宮まちづくり推進機構/宮あるき探偵団 宇都宮大学 2005年「中心市街地魅力再発見事業に 関する共同研究」 ・三井不動産S&E研究所、北山創造研究所編 日本経済新聞社 1994年 「まちづくりの知恵と作 法」 ・北原啓司「地方中心市街地に賑わいを取り戻す∼街なか居住の可能性と課題」地方自治職員研修 2008年6月 p.20-22 *5 宇都宮市では若年層の中心市街地への定住を促進するため、若年夫婦世帯家賃補助制度を設けている。

参照

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