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山形県大石田方言の研究 : 名詞の曲用の体系を中心として

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(1)Title. 山形県大石田方言の研究 : 名詞の曲用の体系を中心として. Author(s). 工藤, 清香; 吉見, 孝夫. Citation. 北海道教育大学紀要, 人文科学・社会科学編, 60(1): 71-86. Issue Date. 2009-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/1026. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第60巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(HumanitiesandSocialSciences)Vol.60,No.1. 平成21年8月 August,2009. 山形県大石田方言の研究 一名詞の曲用の体系を中心として−. 工藤 晴香・吉見 孝夫*. 北海道教育大学大学院教育学研究科教科教育専攻国語教育専修国語学研究室 *北海道教育大学札幌枚国語学研究室. AStudyofOishidaDialectinYamagataPrefecture. −FocusingontheSystemoftheDeclensionofNouns− KUDOSayakaandYOSHIMITakao* DepartmentofJapaneseLinguistics,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. *DepartmentofJapaneseLinguistics,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 きたむらやまぐんああいしだまち. 本稿は「山形県北村山郡大石田町」の方言の,名詞の曲用に関する研究成果を報告するものである。中で も標準語の“に格’’相当の働きをする,「サ格」に関する問題を中心に取り上げている。 実地調査から,当町方言では く移動動作の目的〉 をあらわす用法において,サ格とハダカ格の両形式の併. 用が確認された。有標の格形式であるサ格が使用される場合,そこにはサ格の「方向性」と「とりたで性」 の機能が関与していると考えられる。また,〈あいて〉 をあらわす用法には,サ格のみが許容さる場合とガ ラ格のみが許容される場合とが存在し,動作や恩恵の方向性がその格支配を決定していると考えられる。 なお県内方言の研究成果として,当町方言を含む「村山方言」に関する記述は,1950年代以降体系的な形 で報告されていない。よって,本稿による記述は,現在の「村山方言」の姿を記録するという上で有用なも のになると考えられる。. 1 はじめに きたむらやまぐんみみいしだまち. 「山形県北村山郡大石田町」は,県のほぼ中央に位置する,面積79.59平方km,総人口8,620人の県内で. も比較的小規模な町である1。山形県は,古くは江戸期から藩政が安定していた地域と評されるが,当町域 むらやま. を含む村山地方のみは,唯一複数の藩による代替わりが生じていた地域である。また,当町は県内の行政区. もがみ 画上,県央の村山地方に属するが,地理上では県北の最上地方にも隣接し,村山,最上両地方による言語的 71.

(3) 工藤 晴香・吉見 孝夫. な干渉が予測される地域でもある。. 当町の方言は,全国的方言区画において,岩手県南部,宮城県,山形県南部,福島県で使用される「南奥 しようない. あきたま. 羽方言」に位置付けられる。また県内的に見れば,県内四地方(庄内,最上,村山,置賜地方)のうち, 最上,村山,置賜地方で使用される方言は,「内陸方言」に属することになる。当町方言は,村山地方で使 用される「村山方言」の一部として位置付けられる。 工藤は,当町の方言(以下,「大石田方言」と呼ぶ。)の共時的な姿を記録するため,卒業論文の段階から. 研究に取り組んできた。卒業論文では,当町域を含む村山地方の方言において,特に記述的研究の遅れてい る名詞の格に関する問題を取り上げた。その際に参考としたのが,鈴木重幸(1972)『日本語文法・形態論』, 高橋太郎(2005)『日本語の文法』における形態論である。卒業論文の段階では,鈴木(1972),高橋(2005). らによる研究成果に学びながら,実地調査で得られた用例をそれぞれの名詞の格の用法に基づき分類するこ とを試みた。 調査によって得られた結果から,大石田方言には「ハダカ格」「ガ格」「バ格」「ニ格」「サ格」「デ格」「ド. 格」「ガラ格」「マデ格」という,9種の連用格の存在が明らかとなった。このうち,「バ格」と「サ格」の 2つが,大石田方言に特徴的な名詞の格である。バ格は,標準語の対格に対応する名詞の格であり,サ格は, 標準語の向格と与格に対応する名詞の格である。したがって単純化すれば,バ格に対応する標準語の格は“を 格’’となり,サ格に対応する標準語の格は“へ格’’と“に格’’ということになる。 しかし,実際の用例を観察してみると,大石田方言において標準語の“を格’’の用法の大半を担うのはハ ダカ格であり,バ格の出現自体は極めて稀である。また,標準語の“へ格’’の用法にはサ格があらわれやす いが,“に格’’の用法にはサ格やハダカ格,ニ格,あるいはガラ格があらわれる場合も存在し,その標示形 式は一様ではない。 そこで本稿では,主として“に格’’の用法にあらわれるサ格とハダカ格の使用について,つまり有標と無. 標の格形式とが併用される場合において,有標の格形式が使用される場合の要因と,そこから導き出される サ格の基本的な機能を明らかにしていく。ヴォイスに関わる構文の,くあいて〉 をあらわす“に格’’の用法 に関しては,サ格とガラ格との問題が関与しており,この両形式の使用についても考察していく。. 2 実地調査の概要 実地調査は,2006年6月4日,9月22日,および2007年1月9日,2008年6月5日,10月7日の5度にわ かめいだ. よこやま. たって実施した。インフォーマントは,大石田地区,亀井田地区,横山地区の各地区在住者から計33名を選 出した2。インフォーマントの年齢,出身地区の内訳は,表1の示す通りである。. 表1 年齢,出身地区別に見るインフォーマント数 年 齢 50 代. 出身地区. 72. 60 代. 70 代. 80 代. 合 計. 大石田地区. 0. 0. 3. 3. 6. 亀井田地区. 3. 7. 12. 2. 24. 横山地区. 0. 0. 3. 0. 3. 合 計. 3. 7. 18. 5. 33.

(4) 山形県大石田方言の研究. 録音器具には,「SONYポータブルミニディスクMZ−BlOO」を使用し,微量な音も拾えるように「SONY ECM(エレクトレットコンデンサーマイクロホン)−DS30P」を取り付けた。その際に,風や息がマイクに 直接あたり発生する雑音を防ぐため,マイクにはウインドスクリーンを取り付けている。また,なるべく閉 め切った室内で,雑音が入らないような環境下で録音した。 録音の形式に関しては,談話形式と問答形式の2つの方法を取った。まず,談話形式に関しては,なるべ く自然な形で会話を採取する必要があったため,筆者とインフォーマントもしくは工藤俊夫氏の協力の下, 工藤氏と他のインフォーマントという形式を取った。敢えてこのような形式を選択したのは,以前試験的に 独演形式での録音調査を試みた際,インフォーマントに照れが生じたり,言葉に詰まったりすることが多かっ. たためである。一方,問答形式については,様々なパターンの標準語の文をインフォーマントに提示し,そ れを方言訳してもらう形式をとった。また,いくつかの絵を碇示し,それらのあらわす出来事について解説 を受けるといった方法も取っている。. 3 大石田方言の名詞の曲用の体系 3−1 本稿における基本的な立場 本稿では,鈴木(1972),および高橋(2005)における文法理論に学びながら,大石田方言の名詞の曲用 に関する考察を行なっている。なお,ここで言う. 「曲用declension」とは,動詞や形容詞の語形変化(=. 「活. 用conjugation」)に対するもので,名詞の語形変化を指す。鈴木(1972),高橋(2005)は,日本語の名詞 を膠着3の手つづきをとりながら,「格」「とりたて」「ならべ(並立)」といった文法的なカテゴリーによっ. て語形変化する品詞として位置付けている。また,いわゆる伝統文法における「助詞」を,1つの独立した 単語とは見なさない。. 筆者がこの立場を支持する理由には,方言の多くが名詞の語末と助辞(名詞の接辞)との融合や,音の脱 落が起こる場合が多く,明確に名詞と助辞とを分離できないという実態がある。大石田方言の場合も同様に,. とりたて助辞[−Wa]に[w]の脱落が起きる場合が存在している。なお,以降に挙げる用例において,用 例番号に()が付されたものは大石田方言の例を示し,[]のものは標準語の例を示している。. (1)オライノ ジーチャンヨリ エーイチア フタッツ ウガイベェ? [俺の家の じいちゃんより エイイチは 2つ (歳が)多いでしょう?] (1)のような例は,大石田方言の助辞の独立性の低さを物語っている。したがって本稿では,名詞は語形変化. することを前提とし,例えば格助辞は,名詞の有する「格」という文法的なカテゴリーの表現形式と位置付 けておく。. なお,助辞には,格助辞(連用格・連体格),とりたて助辞,ならべ助辞,むすび助辞,終助辞の5つが あるが,本稿では連用格のタイプについてのみ扱う。. 3−2 連用格 大石出方言には,以卜の9種の連用格が存在する。なお,卜記の名詞の格において,大石出方言の場合は 片仮名で,標準語の場合は平仮名で表記している。 ハダカ格ト¢]⇒標準語の“が格(主格)’’,“を格(対格)’’,“に格(与格)’’相当。 ガ格トga]. バ格トba]=〉標準語の“を格(対格)’’相当。 ニ格[−ni]4. 73.

(5) 工藤 晴香・吉見 孝夫. サ格トsa]=〉標準語の“へ格(向格)’’,“に格(与格)’’相当 デ格[−de]. ド格トdo]⇒標準語の“と格(共格)’’相当。 ガラ格トgara]⇒標準語の“から格(奪格)’’相当。 マデ格トmade] 上記の格があらわれる際の実例は,表2の示す通りである。. 表2 大石田方言の連用格一覧 連 用 格. 用. 大石田方言 標準語 はだか格. 例. ワレ コドス ドゴデ ハダライッダンダ? [お前は 全室 どこで 働いているのだ?]. が格. セツビヤサン ミナ スッベ。 [設備屋さんが みんな (修理を)するだろう。]. ハダカ格 を格. に格. ガ格. が格. バ格. を格. ニ格. に格. へ格. コツカラ クダ イレデ。 [ここから 管を 入れて。]. コゴノ オニーサンガ オレサ オミアイ キ夕べ? [ここの お兄さんが 私(のところに)お見合いに 来ただろう?] チョーナンガ スンダノヨー。 [長里旦ミ 死んだんだよ。]. サッキリッケノ 旦±旦ゴ ミデ キタゲットン。 [さっき リッケ(=屋号)の 墜里 見て 釆たのだけど。] オバナザワノヨオ ザイニ ドンブグロツチエー ドゴ アッケベ?. [尾花沢の 在郷(=田舎に)どんぶくろという ところが あっただろう?] トーキョーサ イッタゲットヨ。 [車重二三 行ったけれどよ。]. サ格 に格. デ格. で格. ド格. と格. ガラ格. から格. マデ格. まで格. オヤジサ イッタド ナシテ オライサ タノマネッテ。 [墾茎昼 言ったと, どうして 私の家に 頼まないのかって。] ケートデ ナニガバ アンデダナ。 [毛糸で 何かを 編んでいるな。]. カガ グレド ニツダベ。 [母さんは 謹呈 似ているだろう。]. オバナザワガう コツチャ キタンダ。 [尾花沢から こっちに 来たのだ。] エギマデ ヒトバ ムガエ イッタ。. [堅皇軍 人を 迎えに 行った。]. ただし大石田方言では,上記の格以外にも,(2)が示すようなエ格(標準語の“へ格’’)の使用や,(3)のよ うな古語の名残を留める形式[−Site]の使用も,数例ながら確認されている。. 74.

(6) 山形県大石田方言の研究. (2)アジショーユユ ッケタンダ。 [(アスパラを)昧醤油へ 漬けたんだ。]. (3)ホシテ ィマ ヒトリシテ オーチ タッデヨー ヤスグ カッテ オーチ タッデ。 [そして 今 二△竺 お家を 建ててねえ,. 安く 買って お家を 建てて。]. しかし,(2)のエ格の使用に関しては,インフォーマントの多くが「標準語的な言い回しに感じる」旨を示し たことから,大石田方言の格からは除外することにした。なお,標準語の“へ格’’の用法は,サ格の名詞が 担っている。また,(3)の形式[−Site]については,デ格の用法の中でも,「ようす」をあらわす場合に限っ てのみ使用されるものであり,自然談話の中では非常に稀なものである。したがって,(2)と同様,大石田方 言の格としての認定は見送ることにした。 標準語には,上記の形式以外にも,“までに格’’や“より格’’といった名詞の格が存在する。 [1]8時までに 帰って来なさい。 [2]明日より 三日間 休業致します。. [1]に関しては,大石田方言の場合,“まで格”と“までに格”との違いがそれほど明確には意識され ておらず,インフォーマント自身も「ハズズマデ カエツテコイ。」のように「マデで言い表した方が普通 である」という認識を持っている。また,“より格’’に関しても,[2]のような文語的なニュアンスをもつ. 名詞の格としての使用は確認されず,「アスガラ ミッカカン キューギヨースマス。」のように,ガラ格を 使用するのが普通である。よって,“までに格’’と“より格’’に関しても,大石田方言の名詞の格としては 認定しないことにした。ただし,比較の基準としての[−yOri]は,いくつか確認されており,この場合の[−yOri] は,文中の他の名詞のあらわす物との比較の関係をあらわすだけで,格的な関係をあらわしてはいない5。 (4)オライノ ジーチャンヨリ フタッツ スグナインダァモノ。. [俺の家の じいちゃんより 2つ (歳が)少ないんだもの。] 以上の点から,本稿では先の9種のみを連用格として取り扱い,次の4以降では,このうちの「サ格」に 関する問題のみを取り上げることにする。以下,その概要について述べていく。. 4 サ格の形態的特徴と基本的用法 4−1 サ格の形態上の特徴 東北方言には,「北サ イグ」「人サ ハナス」のように,[−Sa]の形式をとる名詞が頻出する。この[−Sa] の語源について,小林(1997)は,中古から中世前期にかけて使用された畿内中央語の「さま+へ/に」で あると指摘している6。これは,移動が向かう先を大まかに提示する形式であり,「さま」は「方向」の意を 担う接尾辞である。このような東北方言のトsa]と同類のものは,関東方言や九州方言の中にも認められ, 宮崎県日南市方言では,現在でも「サメ」という形式が「∼の方へ/に」という意味を保存している。 しかし,現代の東北方言のトsa]の使用に関しては,「人サ ハナス」のような接尾辞的な「∼の方」の 意を汲み取れない場合が多く,これは大石田方言の場合も例外ではない。こうした東北方言のトsa]の使 用に関して,小林(1997)は次のように言及している7。 (前略)東北方言のサには,関東方言のような移動先の表示のみでなく,存在の場所,変化の結果,使役・ 受身の相手の表示など,直接には移動に関わらない幅広い用法を獲得する地域が存在しており,この点で 共通語の格助詞「に」の用法の広がりに近いものとなっている。 すなわち,東北方言のトsa]は,「∼の方」の意をしめす接尾辞的な機能を放棄することにより格助辞化し, 向格のみならず与格の用法までをも確立したということになる。. 75.

(7) 工藤 晴香・吉見 孝夫. 以上の指摘から,本論文ではこのトsa]の形式を標準語の向格,与格に相当する助辞の1つとして位置 付け,「サ格」と呼ぶことにしたい。. 4−2 サ格の基本用法 サ格の基本的な用法は,表3が示す通りである8。なお,表3に挙げるサ格の用法名は,全て高橋(2005) に基づいたものである9。ただし,2−6の〈あいて〉をあらわす用法については,鈴木(1972)がより詳 細な分類を行なっているため,その記述を参考にしている10。. 表3 大石田方言のサ格の基本用法一覧 構文論上 の機能. 基本的用法. 用. ユピノ サギッポサ アッケ トマッテダ。. くっつくところ. [指の 先っぽに 鯖齢が とまっている。]. やりとりの対象がむけられるあいて あ. 言語活動の内容がむけられるあいて て. 使役のあいて. 態度の対象 補. 語 間接対象. なしとげ(成就)の対象 状態や性質がなりたつための基準 いれるところ/はいるところ. ありか 移動の到着点 あらわれる場所/きえる場所 方向 移動動作の目的 状 況 語. 連用修飾語. 例. タローガ ハナコサ モユタローテ オガス ケッデダ。. [太郎が 花子に モユタロウという お菓子を あげている。] オヤジサ イッタド ナシテ オライサ タノマネッテ。. しヽ [墾些 言ったと,どうして 俺の家に 頼まないんだって。]. カガサ フロパ ワガセド イツタ。. [母さんに 風呂を 盲弗かせと 言った。] セツコサ ネゴガ ナヅイッダ。. [重量旦 猫が 懐いている。] 呈旦とと旦 オッダ。[受些墜 落ちた。] 之竺竺竺 ニデネナ。[弟に 似ていないな。] ユータクンワ チャント カバンサ ヘツデヨ。. [ユウタ君は ちゃんと 塾拉(勉強道具を)入れてね。] ヤマノ 旦主旦 チチャコイ イエコ アル。 [山の ±拉 小さな 家が ある。] トーキョーサ イッタゲットヨ。[垂昼拉 行ったけどね。] ユーレーガ オハガソ ソバサ アラワレル。 [幽霊が お墓の 竺些 現れる。] 旦」塑旦 マガレ。[左拉 曲がれ。] セツコド イツショニ カイモノサ イッタ。 [節子と 一緒に 買い物に 行った。]. 原因. トツゼンノ 之旦 オドロイダ。[突然の 丞拉 驚いた。]. 結果. シンゴーガ ヱ旦竺 カワル。[信号が 赤に 変わる。]. ようす 認識の内容. 旦三竺 アルク。[堕拉 歩く。] ヤナギノ キイ ユレーサ メル。. [柳の 木が 些墨匹 見える。] 「なる」「する」とくみあわさる 述. 語. コピエラとくみあわさる 後置詞とくみあわさる. 76. チョーマガ 竺±里竺 ナッタ。[炊が 型昼 なった。] アイヅァ ドロボーサ チガイネー。. [あいつは 塑墜拉 違いない。] 皐旦と旦 ツイデ ハナス。[昔に ついて 話す。].

(8) 山形県大石田方言の研究. 一方,表4では,大石田方言の格形式を標準語の“に格’’の用法に対応させて整理している。このうち,くあ いて〉 をあらわす用法の一部や,く動作や状態のなりたつとき〉,く移動動作の目的〉,く「なる」「する」とく. みあわさる場合〉では,サ格以外の格の使用が確認される。. 表4 標準語の“に格”の用法に対応する大石田方言の格形式一覧 意味の面から. 構文論上. 基本的用法. の機能. の名づけ. くっつくところ. に格. サ格. に格. サ格. やりとりの対象がむけられるあいて 言語活動の内容がむけられるあいて 使役のあいて. あいて. やりとりの対象をさしだすあいて から格. 言語活動の内容をさしだすあいて 受身のあいて. 与. 格. 態度の対象 なしとげ(成就)の対象. 補. 語 間接対象. ガラ格. 状態や性質がなりたつための基準 いれるところ/はいるところ. に格. サ格. に格. サ格. に格. サ格. に格. サ格. に格. ありか. サ格 (ハダカ格). に格 移動の到着点. へ格. サ格 二格. (はだか格). あらわれる場所//きえる場所. 向. 格. へ格 に格. 方向. へ格. 動作や状態のなりたつとき 状 況 語. 連用修飾語. に格. サ格. に格. ハダカ格. はだか格. ニ格. に格. 移動動作の目的. サ格. ハダカ格 サ格. 原因. に烙. サ烙. 結果. に格. サ格. に格. サ格. に格. サ格. ようす 認識の内容. 与. 格. ハダカ格 述. 「なる」「する」とくみあわさる場合. に格. サ格 ニ格. コピュラとくみあわさる場合. に格. サ格. 後置詞とくみあわさる場合. に格. サ格. 77.

(9) 工藤 晴香・吉見 孝夫. この点を受けて次の5節では,く移動動作の目的〉 をあらわす用法を中心に,サ格とサ格以外の格とが両 立して使用される場合,どのような条件がその格形式を決定しているのか,という点に言及していく。また, くあいて〉 をあらわす用法に関しては,くやりとりの対象がむけられるあいて〉 く言語活動がむけられるあい て〉 く使役のあいて〉 においてサ格のみが使用されるのに対し,くやりとりの対象をさしだすあいて〉 く言語. 活動の内容をさしだすあいて〉 く受身のあいて〉 にはガラ格のみが使用されるという違いがある。このサ格 とガラ格のはりあい関係についても分析を行っていく。. 5 格同士のはりあい関係 5−1 連語論的観点の導入について 4−2の表4に示した通り,標準語の“に格’’の用法に大石田方言の格形式を対応させると,用法によっ ては無標のハダカ格があらわれる場合や,サ格以外の有標の格形式,ニ格やガラ格が出現する場合が存在す る。ここでは,このような各用法における,格同士のはりあい関係について明らかにしていく。 なお,その際に参考としたのが,言語学研究会による「連語」研究の成果である。「連語」とは何かとい う問いに対し,その主要メンバーである奥田(1976)は,次のような規定を与えている11。 ふつう,連語はふたつ,あるいはみっつの単語からなりたっていて,そのうちのひとつが核になってい る。その核になる単語の語彙的な意味をせばめて,具体化するというし方で,ほかの単語が核になる単語 にくみあわさる。したがって,連語は,語彙的な意味の具体化をもとめて,ほかの単語をしたがえる≪か ざられ≫と,そのかざられによりかかる≪かざり≫との,ふたつの構成要素からなりたっている。 つまり,言語学研究会が研究対象とする連語とは,次のような単語のくみあわせのことを示す12〈 [3]林檎を 割る リーl 、. [4]壁に ポスターを. [3]は,「割る」という動詞が「林檎」という具体物を示す名詞とくみあわさることで,. 「林檎を 割る」 ヽm. という連語を構成している。奥田(1976)は,この2つの単語の間に,動作が物=対象に働きかけて,その 物の形,在り方に変化を与える≪もようがえのむすびつき≫が存在すると指摘する13。この場合,≪かざら れ(被修飾)≫となるのは動詞であり,≪かざり(修飾)≫ となるのは名詞である。一方[4]では,「貼る」 という動詞が「ポスター」という具体物を示す名詞とくみあわさることで,「壁に ポスターを. 貼る」と. W. いう連語を構成している。この場合,“を格’’の形をとる名詞は,もはやはたらきかけを受けて変化する物 =対象ではなくなり,“に格’’で示された対象にくっつく く第一の対象〉 をあらわしている。また,“に格’’ で示された対象は,く第一の対象〉がくっつくところである く第二の対象〉 をあらわしている。このとき, これら3単語のくみあわせには,≪とりつけのむすびつき14≫が実現している。 奥田(1976)は,こうした≪かざり≫と≪かざられ≫との関係性について,次のような見解を示している15。 ≪かざり≫と≪かざられ≫とのあいだには構造的なむすびつきがあるが,その構造的なむすびつきは, 連語の構成要素としてあらわれる単語の語彙的な意味の多様さに応じて,さまざまである。いちいちの単 語が現実の物や現象,それらの性質を反映しているとすれば,連語のなかの構造的なむすびつきは,その 物や現象や性質のあいだのむすびつきを反映していると,いまはかりに単純化して,考えてよい。したがっ て,現実のなかのむすびつきの多様さに応じて,連語のなかの構造的なむすびつきも多様である。 したがって,言語学研究会が対象とする連語には,[3]の≪もようがえのむすびつき≫や[4]の≪とり つけのむすびつき≫以外にも,その≪かざり≫となる名詞と≪かざられ≫となる動詞の語彙的な意味のタイ プに応じて,様々なむすびつきが存在することになる。. 78.

(10) 山形県大石田方言の研究. この指摘を受け,本箱では大石田方言の例において,≪かざり≫となる名詞と ≪かざられ≫となる動詞と. がどのようなタイプの語彙的な意味を有するのか,という点に着目し,その連語的むすびつきを明らかにし ていく16。ただし,本箱は,大石田方言の例を言語学研究会編(1983)が示す様々なむすびつきに当てはめ ることを,その論旨とするものではない。かざり名詞とかざられ動詞との語彙的な意味に着目することによ り,その名詞の格が持つ機能をより明確化させることを目的としている。さらに,サ格とハダカ格,サ格と ガラ格といった,それぞれの格の間に生じる関係性をより明らかにしていくためにも,連語論的観点を取り 入れたいと考えている。. 5−2 サ格とハダカ格のはりあい関係 ここでは4−2の表4に挙げた“に格’’の用法のうち,く移動動作の目的〉 をあらわす用法において,有 標(サ格)と無標(ハダカ格)の格形式が併用される場合,有標の格形式が選ばれる場合の要因と,そこか ら導き出されるサ格の基本的な機能について明らかにしていく。 大石田方言では,く移動動作の目的〉をあらわす場合,基本的に次のようにハダカ格の名詞が使用される。. (5)コゴノ オニーサンガ オレサ オミアイ キ夕べ? [ここの お兄さんが 私(の所)へ/に お見合いに 来たでしょう?] (6)ホシテ オヤ コンド シンコンリョコー イッテ クルテ ィッシューカン ルスパン イッテ ケダドー アダラシー. イエサ。. [そして 親は 今度 (息子夫婦が)新婚旅行に 行って くるって(言って), 一週間 留守番. に 行って あげたって 新しい 家に。] (7)アスタ ユノ ヒトミンナデ リョコー ング「 [明日 家族みんなで 旅行に 行く。]. (8)アシタ ウミサ ミズアビ インカナー。 [明日は 海へ 泳ぎに 行こうかなあ。]. では,なぜこの用法においてサ格ではなくハダカ格の形があらわれるのか。その解決の鍵を握るのが,小 林(2004)の,東北方言のサ格に関する次の記述である17。 (Ⅰ)ある対象に向けて,生物や事物・観念の移動が行なわれる場合,その対象をサで表示することができ. る。また,実際の移動を伴わなくとも,論理的な前碇として移動が想定可能であれば,その対象にサを 使用することができる。. (り ただし,具体的なものより抽象的な観念の移動の方が,また実際の移動より論理的な前碇として想定 される移動の方が,サを使いにくい傾向がある。 (Ⅲ)移動を伴わなくとも,ある対象に向けての方向性が認められるならば,その対象をサで表示すること ができる。 (Ⅱつ ただし,この用法でのサの使用は,対象への移動を伴う場合に比較して不安定なものである。. つまり,小林(2004)は,サ格が使用できる用法の多くが,その「方向性」を指し示すという機能により, 説明が叶能であると考えているのである。. この小林(2004)が主張する,東北方言のサ格の「方向性」という機能は,大石田方言のサ格の使用に関 しても当てはまるものと考えられる。例えば,次の(9)の く使役のあいて〉 をあらわす用法において,使役に. あたっての「命令」という抽象的な観念が対象となる相手に向かって移動するという点で,やはり「方向性」 が働いているとみなすことができる。 (9)カガサ フロパ ワガサセダ。. 79.

(11) 工藤 晴香・吉見 孝夫. [母さんに 風呂を わかさせた。] また,次の㈹ような く動作や状態のなりたつ時〉 をあらわす用法においても,サ格の有する「方向性」は 重要な意味を持つ。. ㈹ キョーア シチジニ オギル。 [今日は 7時に 起きる。] qo′)* キョーア シチジサ オギル。. ㈹の「7時に 起きる」では,「起きる」という動作自体が「7時」という時間的制約がなくとも成立し得 るものであり,その点でかざりとなる時間名詞は,かざられ動詞があらわす行為との直接的な関係を有して はいない。そのため,かざられ動詞「起きる」とかざり名詞「7時」との間には,「方向性」という特質が 見出しにくく,サ格の使用が困難になると考えられるのである。 このようなサ格の特徴は,(5)∼(8)の く移動動作の目的〉 をあらわす場合においても関与するものと考えら れる。例えば,(5)と(6)においてかざり名詞の位置にくるのは,「お見合い」「新婚旅行」といった動作性を帯. びた抽象名詞である。これらの名詞は,「オミアイ クル(お見合いに 来る)」「シンコンリョコー イグ (新婚旅行に 行く)」という連語を形成し,動詞「来る」「行く」があらわす移動性のある動作の内容を拡. 大している18。この点で,こうしたタイプの連語は,その単語のくみあわせ自体が複合動詞的に振舞ってい るというだけで. ,「方向性」という特質が見出しにくい。そのため,サ格を使用することが困難となり,ハ. ダカ格で標示されたと考えられるのである。 では,この く移動動作の目的〉 をあらわす用法においてサ格が標示されるのは,どのような場合であるの か。次に,サ格があらわれる場合の例を挙げる。なお,㈱は甲と乙の対話を書き記したものである。. ㈱ 甲:ドサ イッテダーケナヤ? [どこへ 行っていたのだ?] 乙:カイゴーーサ イッテダーケ。 [会合に 行っていたのだ。] この場合,甲の質問に対して乙に期待される答えは,自身のく移動の到着点〉に関する情報である。しかし,. 乙は「会合に 行っていた」が示すように,く移動動作の目的〉 に関する情報を提示している。それにも関 わらず両者の会話が成立しているのは,乙の「会合に 行っていた」という答えの中に,“会合がおこなわ れた場所’’,例えば「公民館」などの場所への移動が,暗に含まれているためと考えられる。この点で,や. はりサ格の使用には,「方向性」という機能が深く関与していると言える。 なお,㈱のような例については,鎌田(1996)が東北方言一般を対象として,「仕事サ行く」と「映画(を) 見サ行く」の場合との比較を通じ,次のような見解を述べている19。 (前略)「仕事」と「見」とは,一応,名詞と動詞という違いはあるが,「仕事」は「仕事する一為に行 く」のであって,「動作の目的」でもあるが,同時に,「学校へ行く」「会社へ行く」「工場へ行く」などと ならべて「仕事へ行く」という形も考えられないこともない。つまり,「学校,会社,工場」はそれぞれ「場 所」であると同時に,「東京」とか「山」とかとは違った意味内容をもっているともとれる。「工場−へ行 く」のは,「仕事の為に行く」のであり,「仕事へ行く」は「仕事場へ行く」の意を含んでいるのである。. 上記の指摘は,仕方の「会合に 行く」の場合にも通じるものであり,やはりこの乙の答えは,く移動動作の 目的=移動の到着点〉 を示していると考えられる。 ただし,次のような対話においても,サ格の名詞はあらわれる。 ㈹ 甲:オメー キンナ ナニ シー オバネマデ イツテダッケナヤ?. [お前は 昨日 何を しに 尾花沢まで 行っていたんだよ?]. 80.

(12) 山形県大石田方言の研究 乙:セツコド イツショ カイモノサ イッテダッケナヨ。 [節子と 一緒に 買い物に 行っていたんだよ。] ㈹の甲の質問に対して乙に求められているのは,自身のく移動動作の目的〉に関する答えである。そのため,. 乙は肝心のその答えを「カイモノサ イッテダッケ」のようにサ格を用いて示すことにより,甲が求める情 報をより明示化して言いあらわしたと考えられる。この㈹のような機能は,小林(2004)が指摘するサ格の 「方向性」の機能からは外れるものである。しかし,このような「とりたで性」とも言うべき機能も,サ格 の使用には無関係ではないと考えられる。 以上の点から,く移動動作の目的〉 におけるサ格の使用には,以下の2つの機能の関与を指摘できる。. ① く移動動作の目的=移動の到着点〉の碇示 =「方向性」の機能 ② く移動動作の目的〉 の明示化 =「とりたで性」の機能 5−3 サ格とガラ格のはりあい関係 4−2の表4が示す通り,くあいて〉 の用法に関しては,くやりとりの対象がむけられるあいて〉 く言語活 動がむけられるあいて〉 く使役のあいて〉 においてサ格のみが使用されるのに対し,くやりとりの対象をさし だすあいて〉 く言語活動の内容をさしだすあいて〉 く受身のあいて〉 にはガラ格のみが使用されるという違い がある。後者の3つの くあいて〉 をあらわす用法は,標準語の場合,“から格’’だけでなく,“に格’’の使用. も可能なものである。しかし,大石田方言では,これら3つの用法において,“に格’’の用法の大半を担う はずのサ格を使用することができない。したがって,ここでは,このようなヴォイスに関わる構文に見られ る,サ格とガラ格とのはりあい関係を中心に考察していく。なお,ガラ格は,ハダカ格との関わりをも有し ているため,両者の関係性についても簡単にふれておくことにしたい。 まず,大石田方言の くあいて〉 をあらわす用法において,㈹の くやりとりの対象が向けられるあいて〉,. ㈹の く言語活動の内容が向けられるあいて〉 をあらわす場合には,傍線部はサ格で標示される。 ㈹ タローガ ハナコサ モユタローテ オガス ケッデダ。. [太郎が 花子に モユタロウという お菓子を あげている。] ㈹ オヤジサ イッタド ナシテ オライサ タノマネッテ。. [親父に 言ったって, どうして 俺の家に 頼まないんだって。] しかし,これが㈹の くやりとりの対象をさしだすあいて〉,㈹の く言語活動の内容をさしだすあいて〉 にな ると,サ格の使用は途端に不可能になる。この場合,かざりの位置にあらわれるのはガラ格の名詞である。 ㈹ ハナコア タローガラ モユタローノ オガスバ モラッテダ。. [花子は 太郎に/から モユタロウの お菓子を 貰っている。] ㈹ アイヅガラ キーダ ハナスダゲットモ… [あいつに/から 聞いた 話だけれども…] こうしたサ格とガラ格との明確な使い分けは,圧力の く使役のあいて〉 と㈹の く受身のあいて〉 の場合にも見 られるものである。㈹と㈹とを比較すると,仰のく使役のあいて〉をあらわす場合にはサ格のみが使用され, ㈹の く受身のあいて〉 をあらわす場合においては,サ格は使用できず,ガラ格のみが使用される。 圧力 旦旦竺 フロパ ワガサセダ。 [母さんに 風呂を 沸かさせた。] ㈹ カガガラ ナガスサ ハゴベッツワツダ。 [母さんに/から 流しに (食器を)運べと言われた。] では,なぜくやりとりの対象をさしだすあいて〉 く言語活動の内容をさしだすあいて〉 く受身のあいて〉 を. 81.

(13) 工藤 晴香・吉見 孝夫. あらわす3つの用法において,サ格ではなくガラ格が使用されるのか。仕7舶の例をもとに考えてみたい。仕刀 のようなく使役のあいて〉をあらわす場合において,傍線部の「母さん」は「動作(影響)の受け手(= く受 身のあいて〉)」をあらわし,文中には直接登場しない「話し手」が「動作(影響)の与え手」をあらわすこ とになる。したがって,仕刀を図示すると,次のようになる。. 一方,㈹では,傍線部は「動作(影響)の与え手(= く受身のあいて〉)」をあらわし,文中に直接登場し. ない「話し手」が「動作(影響)の受け手」をあらわしている。したがって,㈹を抑と同様に図示すると, 次のようになる。. ㈹では,与え手である「母さん」はガラ格で標示され,サ格を用いることはできない。ここでガラ格が使用 される要因として考えられるのが,「動作(影響)の方向性」である。仕鋸ま,与え手である「母さん」から,. 受け手である「話し手」へとむけられる動作(影響)をあらわしている。そのため,く受身のあいて〉 をあ らわす「母さんに」は,大石田方言では「始点」をあらわすガラ格で標示されることになる。一方仕刀では,. ㈹とは逆に,与え手である「話し手」から受け手である「母さん」へとむけられる動作(影響)をあらわし ている。よって,く使役のあいて〉 をあらわす「母さんに」は,「着点」をあらわすサ格で標示されたのであ る。 同様に,く言語活動の内容がむけられるあいて〉 をあらわす㈹と,く言語活動の内容をさしだすあいて〉 を. あらわすq鋸こついても,以下のように図示することが可能である。㈹では,傍線部の位置に着点となる「親 父」がサ格の形であらわれ,㈹では,傍線部の位置に,始点となる「あいつ」がガラ格の形であらわれてい る。. 82.

(14) 山形県大石田方言の研究. また,くやりとりの対象がむけられるあいて〉 をあらわす㈹と,くやりとりの対象をさしだすあいて〉 をあら わす江別こついても,以下のように図示することができる。なお,この場合,㈹と㈹のあらわす出来事の内容. 自体は全く同じものになるが,㈹では着点である「受け手」の「花子」はサ格で標示され,㈹では始点とな る「与え手」の「太郎」がガラ格で標示されている。. 以上の点から,大石田方言のくやりとりの対象をさしだすあいて〉く言語活動の内容をさしだすあいて〉く受. 身のあいて〉 をあらわす用法において,その格標示は出来事の捉え方に関わる重要な問題であると言える。 ㈹㈹のような授受構文の現象は,いわゆる補助動詞の場合にも起こり得るものである。「∼して やる」「∼. して くれる」の形式が使用される㈹と伽)では,二重傍線部が「恩恵(サービス)の受け手」をあらわすた め,サ格の形で標示される。なお,傍線部は「恩恵(サービス)の送り手」をあらわしている。 ㈹ カーチャンヨー シヤデサ セビロコ カッテ ヤルッテヨー。 [母さんがねえ,弟に 背広を 買って やるって(言って)ねえ。]. 鯛 旦旦 旦ヒ竺 モモ ムイデ ケンナガ? [お前は 俺に 桃を 剥いて くれるのか?] しかし,これが拙のような「∼して もらう」の場合になると,傍線部は「サービスの送り手」をあらわ すことになり,ガラ格で標示される。この場合,餌が示すように,傍線部にサ格を使用することは不可能で ある。 飢 オカダガラ ヘビバ コロステ モラウ。. [岡田に ヘビを 殺して もらう。] 餌* ォヵダサ ヘビバ コロステ モラウ。. 拙は,サービスの送り手である「岡田」から,サービスの受け千である「話し手」へと向けられる恩恵(サー. ビス)をあらわしている。そのため,標準語では送り手をあらわす「岡出に」が,「始点」をあらわすガラ 格の名詞で表示されることになる。この点で,大石田方言の授受表現は,標準語のそれよりも明確に出来事 の内容を反映させることができると言える。 一方,次の¢勿ような,いわゆる「迷惑の受身」をあらわす場合にはガラ格は許容されず,代わりにハダカ. 格の名詞が使用される。この場合,二重傍線部の「雨」は「はた迷惑の掛け手」をあらわし,文中にはあら われていない「話し手」が,「はた迷惑の受け手」をあらわしている。. 83.

(15) 工藤 晴香・吉見 孝夫. 鋤 キンナ アメ フラッダ。 [きのう 雨に 降られた。]. ㈹があらわす「雨に 降られる」という連語において,かざられに位置するのはもはや意志的な動作(影響) ではなく,状態である。その点で,飢などの場合との違いがある。㈹では,与え手に位置するのは無生名詞 の「雨」であり,その動作を行なおうとする明確な意志を見出すことができない。したがって,必然的に動 作の「方向性」そのものが弱まり,ハダカ格の標示が可能になったと考えられるのである。. 6 おわりに 以上,大石田方言の名詞の曲用に関する記述から,サ格にまつわる問題を中心に見てきた。 まず,大石田方言の連用格については,「ハダカ格」「ガ格」「バ格」「ニ格」「サ格」「デ格」「ド格」「ガラ. 格」「マデ格」の9種の連用格が存在することが明らかとなった。中でも「バ格」と「サ格」の2つが,大 石田方言に特徴的な名詞の格である。本稿では,このうちの「サ格」に関する事柄について取り上げ,く移 動動作の目的〉 をあらわす用法においては,サ格とハダカ格との使用状況から,有標の格形式であるサ格が 使用される場合の特徴,およびその機能を明らかにした。 また,くあいて〉 をあらわすサ格とガラ格,両形式のはりあい関係についても,一定の見解を示した。. まず,サ格とハダカ格の関係については,サ格の語源と臼される「さま(∼方)に」の影響から,サ格の 使用には対象に対する「方向性」の度合いの関与が考えられた。また,とりたて助辞相当の機能も果たすこ とから,その主要な機能として以下の2点を挙げた。. ① く移動動作の目的=移動の到着点〉の碇示 =「方向性」をあらわす機能 ② 〈移動動作の目的〉 の明示化 =「とりたで性」をあらわす機能 また,大石田方言では,ヴォイスに関わる構文における くあいて〉 をあらわす用法において,動作や恩恵. の「方向性」が格支配を決定していると考えられた。つまり,大石田方言では,動作や恩恵の「与え手(始 点)」をあらわす場合はガラ格で標示され,動作や恩恵の「受け手(着点)」をあらわす場合にはサ格で標示 されるという,格形式の明確な使い分けが存在すると考えられたのである。 なお,本稿が指摘したサ格とガラ格との使い分けに関しては,大石田方言のみに見られる現象とは限らず,. 東北地方の他の地域にも確認される可能性がある。今後,東北地方全域にわたって,くあいて〉 をあらわす 用法について広く調査されていくことを期待したい。. 本稿は,元本学准教授高瀬匡雄氏と吉見の指導の下に工藤が碇出した修士論文に基づき,工藤が執筆した 尿稿に吉見の修正を加えて成ったものである。. 84.

(16) 山形県大石田方言の研究. 注 1 山形県総務部改革推進室続計企画課編(2008)『平成18年度 山形県続計年鑑』,および「大石田町役場ホームページ (http://www.town.oishida.yamagata.jp/)」を参照。 2 当町は,大石田地区,亀井田地区,横山地区の三地区から成る。 3 鈴木重幸(1972)『日本語文法・形態論』p.204は,「日本語の名詞の形つくりは,動詞とちがって,語尾のとりかえ(屈 折)によらずに,名詞にいろいろなくっつきのとりつけ(膠着)の手つづきによる。くっつきのついた形が名詞の文法的な 形である。」と述べる。また,高橋太郎(2005)『日本語の文法』p.276は,単語の語形つくりのてつづきの主要なタイプと して「屈折」と「膠着」の2つを挙げ,「膠着」に関しては「単語に接辞をくっつけて語形をつくるてつづきを膠着という。 日本語の名詞は,うしろに助辞をくっつけて語形をつくる。」と述べる。 4 大石田方言のこ格は,[−ni]の[n]の音が脱落して[−i]のように発音されることがある。ただし,大石田方言におけ るこ格の使用は,ごく限られたものとなっている。. アノ ヤロ ズイブン オドナイ ナックナヤ。 [あの 子は 随分 大人に なったなあ。]. 5 例えば次の2例において,格的な意味はa,bともに「太郎が」があらわすという点で一致するが,bの「花子より」は 足の速さを比較する際の基準をあらわすだけで,「花子」が直凛主語と述語のあらわす実際の出来事に参加しているわけで. はない。 a)太郎が 走った。. b)太郎が 花子より はやく 走った。 6 /ト林隆(1997)「方言形成史の一視点 一束日本における畿内中央語の再生について−」(『国文学 解釈と教材の研究』 第42巻7号)を参照。 7/ト林隆(1997)「方言形成史の一視点 一束日本における畿内中央語の再生について−」(『国文学 解釈と教材の研究』 第42巻7号)より引用。 8 表3には,サ格が使用されている用法のみを取り上げているが,場合によってはサ格以外の格(ニ格,ハダカ格など)も. あらわれる。 9 高橋太郎(2005)『日本語の文法』pp.37−39を参照。 10 鈴木重幸(1972)『口本語文法・形態論』pp.8486を参照。 11奥田靖雄(1976)「言語の単位としての連語」(『教育国語』45号)。奥田靖雄(1984)『ことばの研究・序説』に再録。奥 田(1984)p.69より引用。 12 ただし,鈴木重幸・鈴木康之(1983)「編集にあたって」(言語学研究会編[1983]『日本語文法・連語論(資料編)』)は, 2つ以上の単語のくみあわせで成り立つむすびつきとして,以下の3つのタイプを挙げている。 a.陳述的なむすびつき(predicative) b.従属的なむすびつき(subordinative) c.並列的なむすびつき(coordinative) aの陳述的なむすびつきとは「犬が 走る」のような単語のむすびつきを示し,またcの並列的なむすびつきとは「桃と 林檎」のような単語のむすびつきのことを示している。したがって,連語論の対象となるのはbの従属的なむすびつきを. 示す単語のくみあわせとなる。 13 奥田靖雄(1976)「言語の単位としての連語」(『教育国語』45号)。奥田靖雄(1984)『ことばの研究・序説』に再録。奥 田(1984)p.70を参照。 14 奥田靖雄(1976)「言語の単位としての連語」(『教育国語』45号)。奥田靖雄(1984)『ことばの研究・序説』に再録。奥 田(1984)p.71を参照。 15 奥田靖雄(1976)「言語の単位としての連語」(『教育国語』45号)。奥田靖雄(1984)『ことばの研究・序説』に再録。奥 田(1984)p.69より引用。 16 以下,《かざり》 となる名詞を「かざり名詞」,《かざられ》 となる動詞を「かざられ動詞」と呼ぶことにする。 17/ト林隆(2004)『方言学的日本語史の方法』p.363,p.368より引用。 18 奥田靖雄(1962)「に格の名詞と動詞とのくみあわせ」(言語学研究会編[1983]『日本語文法・連語論(資料編)』)pp.314−316 は,この種の連語について「(前略)移動性の動詞が,に格のかたちをとる動作性の抽象名詞(とくに動詞派生の)とくみ あわさると,目的規定的なむすびつきができる。(中略)この目的規定的なむすびつきは,一般的にいって,規定的な性格 をうしなってはいない。このことの証明に,「散歩にいく」「あそびにいく」「むかえにいく」「手つだいにいく」のような単. 85.

(17) 工藤 晴香・吉見 孝夫 語のくみあわせは,かさね動詞的な性格をつよくもっていて,ふたつの単語の関係は,目的的であるというよりも,移動動 作の質を規定しているようにもみえる。(後略)」と述べている。 19 鎌田良二(1996)「東北方言における格助詞「サ」について」(『甲南女子大学研究紀要』第2巻)pp.78−79より引用。. 参考文献 奥田靖雄(1962)「に格の名詞と動詞とのくみあわせ」(言語学研究会編[1983]『日本語文法・連語論(資料編). 』むぎ書房). 奥田靖雄(1976)「言語の単位としての連語」(『教育国語』45号)。奥田靖雄(1984)『ことばの研究・序説』むぎ書房に再録。 鎌出良二(1996)「東北方言における格助詞「サ」について」(『甲南女子大学研究紀要』第2巻) 小林隆(1997)「方言形成史の一視点一束日本における畿内中央語の再生について−」(『国文学 解釈と教材の研究』第42巻 7号). 鈴木重幸(1972)『日本語文法・形態論』むぎ書房 鈴木重幸・鈴木康之(1983)「編集にあたって」(言語学研究会編[1983]『日本語文法・連語論(資料編)』むぎ書房) 高橋太郎(2005)『日本語の文法』ひつじ書房 山形県総務部改革推進室続計企画課編(2008)『平成18年度 山形県続計年鑑』山形県総務部改革推進室続計企画課 「大石田町役場ホームページ(http://www.town.oishida.yamagata.jp/)」. (工藤 清香 札幌校大学院生) (吉見 孝夫 札幌校教授). 86.

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