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算数科における教科横断的な学習に関する一考察 : 初等教育のカリキュラム・マネジメントに焦点を当てて

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Academic year: 2021

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(1)Title. 算数科における教科横断的な学習に関する一考察 ― 初等教育のカリキ ュラム・マネジメントに焦点を当てて ―. Author(s). 石井, 洋. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 69(2): 147-154. Issue Date. 2019-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10395. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第69巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 69, No.2. 平 成 31 年 2 月 February, 2019. 算数科における教科横断的な学習に関する一考察 ― 初等教育のカリキュラム・マネジメントに焦点を当てて ―. 石 井 洋 北海道教育大学函館校数学教育研究室. A Study on Cross-curriculum learning in Mathematics ― Focusing on Curriculum Management of Primary Education ―. ISHII Hiroshi Mathematics Education Laboratory, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 これからの学校現場では,新しい時代に求められる資質・能力を子供たちに育むため,各学 校において教育課程を軸に学校教育の改善・充実の好循環を生み出す「カリキュラム・マネジ メント」が求められている。そこでは,総合的な学習の時間の授業時数が年間105時間から70 時間に減少することによって,これまで以上に各教科等の相互の関わりを意識した教科横断的 なカリキュラムの編成が必要とされる。 そこで本稿では,算数科における教科横断的な学習の可能性について考察することを目的と した。初等教育における算数科と他教科との横断的な学習について,学習指導要領解説やこれ までの日数教の学会誌及び教育書からその内実を確認した結果,実践レベルでは,算数科を含 めた横断的な学習の具体例が若干見られるが,研究レベルではほとんど扱われていないことが 明らかとなった。. 1.はじめに. ム・マネジメント」の実現を目指すことを求めて いる(文部科学省,2016)。. 平成28年12月21日に中央教育審議会は答申を示. この「カリキュラム・マネジメント」について. し,新しい時代に求められる資質・能力を子供た. は,新しい学習指導要領等の理念において次の三. ちに育むため「社会に開かれた教育課程」の実現. つの側面から教育活動の質の向上を図っていくこ. を目指し,各学校において教育課程を軸に学校教. とと定義されている。. 育の改善・充実の好循環を生み出す「カリキュラ. ・児童や学校,地域の実態を適切に把握し,教育. 147.

(3) 石 井 洋. の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教. ①については,従来通り算数科の教科の枠組み. 科等横断的な視点で組み立てていくこと. の中で育成していくことを目指すものである。一. ・教育課程の実施状況を評価してその改善を図っ ていくこと. 方,②における学習の基盤となる資質・能力につ いては,解説総則編の中で,ア言語能力,イ情報. ・教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を. 活用能力,ウ問題発見・解決能力がその例として. 確保するとともにその改善を図っていくこと. 示され,教科等横断的な視点でカリキュラムを編. . (文部科学省,2017c, p.5). 成しながら育成することが求められている。. これら三つの側面は,これまでも教育課程の編. また,③については,現代的な諸課題に対応で. 成,評価,改善として管理職が主体となって取り. きるようになるために必要な力として,健康・安. 組んできたことであるが,新学習指導要領で明示. 全・食に関する力,主権者として求められる力. されている「何ができるようになるか」 (育成を. 等,7つの力が例示され,それを育成するための. 目指す資質・能力),「何を学ぶか」(教科等を学. 教科等横断的な学習内容が付録6として示され. ぶ意義と,教科等間・学校段階間のつながりを踏. た。しかしながら,例示されたすべての学習内容. まえた教育課程の編成), 「どのように学ぶか」 (各. において,算数・数学科に関する記述は見られ. 教科等の指導計画の作成と実施,学習・指導の改. ず,現代的な諸課題に対応して求められる資質・. 善・充実)という視点のもとでは,カリキュラム. 能力を育成する上で,算数・数学科の学習がどの. 自体を捉え直すことが強調されている。そこで. ように対応しているのか,ほとんど示されていな. は,上述の一つ目の記述のように教科等横断的な. い。初等教育において,国語科と並んで算数科は. 視点に立った資質・能力の育成を見据えて,カリ. 児童の学習する教科の中心であったが,ここで. キュラムを編成していくことが求められる。. は,総合的な学習の時間が中心となり,国語科や. 新学習指導要領解説には,中央教育審議会にお. 社会科,理科等のつながりが示されているが,算. いて数多く論じられてきた資質・能力について以. 数科は蚊帳の外となっている。. 下の3点に大別して整理している。. 今後,小学校の現場ではこの学習指導要領に基. ①各教科等における資質・能力. づき,カリキュラム・マネジメントの基で授業研. 例えば国語力,数学力などのように,伝統的な. 究を進めていくことになるが,学習指導要領解説. 教科等の枠組みを踏まえながら,社会の中で活用. 総則編において教科等横断的な学習の中で算数科. できる力としての在り方について論じているもの. の記述が一切示されていないことから,算数科が. ②学習の基盤となる資質・能力. 相対的に軽視されるのではないかという課題が浮. 例えば言語能力や情報活用能力などのように,. かび上がる。. 教科等を越えた全ての学習の基盤として育まれ活. そこで,本稿では,算数科における教科横断的. 用される力について論じているもの. な学習についての可能性について考察することを. ③現代的な諸課題に対応して求められる資質・能. 目的とする。まず,教科横断的な学習に関する先. 力. 行研究にあたり,その捉え方を確認する。そして,. 例えば安全で安心な社会づくりのために必要な. 初等教育における算数科と他教科との横断的な学. 力や,自然環境の有限性の中で持続可能な社会を. 習の内容について,これまでの日本数学教育学会. つくるための力などのように,今後の社会の在り. の学会誌や学習指導要領解説算数編等からその方. 方を踏まえて,子供たちが現代的な諸課題に対応. 向性を明らかにする。その上で,実際に算数科に. できるようになるために必要な力の在り方につい. 焦点をあてた教科横断的な学習の実践事例を取り. て論じているもの. 上げ,そこでの成果や課題を検証することで,そ. . の可能性を明らかにする。. 148. (文部科学省,2017c, pp.47-48).

(4) 算数科における教科横断的な学習に関する一考察. 2.横断的な学習に関する先行研究. 裕がないとし,教科が前提のタイプBや総合的な 学習の時間であるタイプC,それを結び合わせた. 新学習指導要領における育成すべき資質・能力. タイプEが当面の方向性であると述べている。. やカリキュラム・マネジメントの視点から,教科. 一方,静岡県総合教育センター(1996)は,横. 等横断的な学習は再評価されてきているが,これ. 断的な学習と総合的な学習の違いについて関係図. までも我が国においては,戦後のコア・カリキュ. を用いて示している。. ラム運動や総合的な学習の時間が導入される2002 年前後に議論が行われてきている。また,そこで は,イギリスのクロスカリキュラムやアメリカの 統合化カリキュラムの影響を受けており,教科横 断と言っても多様な方向性においてその解釈がさ れてきた。ここでは,それらの先行研究を整理 し,本研究における横断的な学習の捉え方を示す こととする。 まず,横断的な学習について総合的な学習と比. 図1 静岡県総合教育センターが作成した関係図. 較しその相違点を明確化する。今谷(1997)は, 横断的・総合的な学習における教科,領域の関連. 横断的な学習は,教科の枠を残しながら,特定. 性として表1のように5つのタイプに分けて示し. のテーマに関する学習内容・活動を関連付けて編. ている。. 成する学習とし,総合的な学習は教科の枠を取り 去って,特定のテーマに関する新たな学習内容・. 表1 横断的・総合的な学習における教科,領域 の関連性. 活動を編成する学習としている。この図から新学 習指導要領において用いられている教科等横断的. タイプA. 教科や領域の枠を取 り払う. 生活単元学習 コア・カリキュラム. タイプB. 教科や領域の枠は変 えない. クロスカリキュラム 統合化カリキュラム. タイプC. 教科や領域とは全く 別枠. 総合的な学習の時間. タイプD. 教科や領域の一部を 再編・統合. 例)記号科,表現科, 人間科等. あり,教科の枠を越えて,知識を統合するような. タイプE. 複数の教科や領域で 同一の課題やテーマ に多教科間的にクロ スさせて取り組む. タイプBとタイプC を合わせた形. は,教科で教えられる理論的知識が,実際場面に. な視点によるカリキュラムデザインは,教科の枠 を残した①合科的な指導と②クロスカリキュラム が対応していると言える。 クロスカリキュラムとは,イギリスの1988年に 施行された教育改革法において提案された概念で. 今谷(1997)を基に筆者作成. 主題学習やプロジェクト学習が行われる。そこで おける生産的知識や実際的知識と統合されている (中野,1999)。 表2のように,クロスカリキュラムとは,機会 の平等という雰囲気のもと,学際的な主題に対す. ここでは,教科,領域の枠を考慮するか否かで. る教科横断的なプロジェクト学習を進める中で,. 大きく大別し,生活単元学習や総合的な学習の時. 様々な能力を育成するというものである。. 間などと結び付けた形で示している。しかし,今. 今回の学習指導要領改訂で,総合的な学習の時. 谷(1997)は総合的な学習の時間が導入される. 間の授業時数は小学校第3学年以降,年間105時. 2002年の段階では,タイプAやタイプDのような. 間だったものが70時間へと変更されている。しか. 全面的な教科の再編や新教科の導入は時間的な余. しながら,平成29年の中教審の答申では,総合的. 149.

(5) 石 井 洋. 表2 クロスカリキュラムの要素 ⑴次元. 機会の平等という雰囲気. ⑵技能. コミュニケーション技能 計算技能,学習技能,問題解決技能 個人的社会的技能,情報工学技能. ⑶主題. 市民教育,環境教育,経済と産業の理解, 健康教育,キャリア教育とガイダンス 中野(1999)を基に筆者作成. いて,各教科の特質に応じた言語活動の内容が記 載されている。算数科では,「思考力,判断力, 表現力等を育成するため,各学年の内容の指導に 当たっては,具体物,図,言葉,数,式,表,グ ラフなどを用いて考えたり,説明したり,互いに 自分の考えを表現し伝え合ったり,学び合った り,高め合ったりするなどの学習活動を積極的に 取り入れるようにすること」とあり,算数科の特. な学習の時間について,これまで以上に各教科等. 性に応じた言語活動が意図されている。言語活動. の相互の関わりを意識しながら,学校全体で育て. の充実は,国語科を中心にという記述もあるが,. たい資質・能力に対応したカリキュラム・マネジ. 「学習の基盤となる資質・能力」として教科等を. メントが行われるようにすることが求められてい. 越えた全ての学習の基盤として育まれ活用される. る。ここから,総合的な学習の時間以外の授業時. 力であり,教科横断的な視点が内在しているもの. 間においても,各教科,領域を横断的に学習する. である。. ためのカリキュラムをデザインする必要性が指摘. 次に「⑶ コンピュータ等や教材・教具の活用,. できる。. コンピュータの基本的な操作やプログラミングの. 以上のように,教科横断的な学習は,総合的な. 体験」においては,教育課程全体を見渡し,プロ. 学習とは区別して捉えられ,その在り方として,. グラミングを実施する単元を位置付けていく学年. 複数教科の類似内容を関連的に指導する合科的指. や教科等を決定する必要があるとされている。そ. 導と学際的な内容について主題を設定し,複数教. して,算数科,理科,総合的な学習の時間におい. 科を割り当てて横断的に学習を進めていくクロス. て,児童がプログラミングを体験しながら,論理. カリキュラムの考え方に整理することができる。. 的思考力を身に付けるための学習活動を取り上げ. また,今谷(1997)が示すタイプEのような総合. る内容やその取扱いについて例示されている。そ. 的な学習の時間を含めた複数教科の横断もあり,. こでは,プログラミングを体験しながら論理的思. それについては横断的・総合的な学習としてまと. 考力を身に付けるための学習活動の例として表3. めることができる。本稿では,この3つの教科横. のような例が挙げられている。. 断的な学習についてその方向性を検討する。 表3 プログラミング教育の学習例. 3. 新学習指導要領における算数科の横断的 な学習 本節では,初等教育における算数科と他教科と の横断的な学習の内容について,小学校学習指導 要領(平成29年告示)解説総則編及び算数編から その方向性を明らかにする。. 教科, 領域等. 対象学年. 算数科. 第5学年. 図形「正多角形の作図」. 理科. 第6学年. 物質・エネルギー 「電気の性質や働きを利用した道 具」. 総合的 な学習 の時間. -. 情報「様々な製品や社会のシステ ムなどがプログラムにより働いて いることの体験的な理解」. 領域,内容. ⑴ 総則編 ここでは,総則編における算数科の横断的な学. このように,プログラミング教育においては,. 習に関わる記述を中心にその内容を整理する。ま. 教科横断的な学習が求められていると言える。. ず, 「⑵ 言語環境の整備と言語活動の充実」にお. そして,今回の改訂で教科化された道徳教育に. 150.

(6) 算数科における教科横断的な学習に関する一考察. おいても算数科との横断的な視点が次のように明 示されている。. 表4 現代的な諸課題に関する教科等横断的な教 育内容の例示における関連教科 教育内容. 該当教科. 伝統や文化に関する 教育. 国語科,社会科,音楽科,図画 工作科,家庭科,道徳,総合的 な学習の時間,外国語科,特別 活動. に活用しようとする態度」を育てることは,工夫. 主権者に関する教育. 社会科, 道徳, 特別活動, 家庭科,. して生活や学習をしようとする態度を育てること. 消費者に関する教育. 社会科,家庭科,道徳. にも資するものである。》. 法に関する教育. 社会科,家庭科,道徳,特別活動. これは,道徳的な判断をするための数理的な意. 知的財産に関する 教育. 国語科,社会科,音楽科,図画 工作科,道徳. 郷土や地域に関する 教育. 社会科, 生活科, 国語科, 音楽科, 図画工作科,家庭科,外国語科, 総合的な学習の時間,特別活動. 海洋に関する教育. 社会科,特別活動. 環境に関する教育. 社会科,理科,生活科,家庭科, 体育科,道徳,総合的な学習の 時間. うものであるとしている。. 放射線に関する教育. 国語科,社会科,道徳. このように数理的な根拠を明確にしながら合意. 生命の尊重に関する 教育. 理科,生活科,道徳,特別活動. 《算数科の目標にある「日常の事象を数理的に捉 え見通しをもち筋道を立てて考察する力」を育て ることは,道徳的な判断力の育成にも資するもの である。また, 「算数で学んだことを生活や学習. 思決定として捉えることができる。西村ら(2016) は, 「数理科学的意思決定」を提唱し,現実世界 の問題を数学の問題に定式化し,数学的な処理を 施すことで数学的結果を得て,その過程を経るこ とで複数の選択肢を創出し,その中から根拠を明 確にしながら合意形成を図り,何らかの決定を行. 形成を図り,何らかの決定を行うという視点は, 算数と道徳の教科横断的な視点が生かされるもの である。 一方で総則編の付録6には,現代的な諸課題に 関する教科等横断的な教育内容におけるカリキュ ラム・マネジメントの参考資料として13の例示が なされているが,表4のように算数科はどの教育 内容にも具体的な関連性が明示されていないのが. 心身の健康の保持増 進に関する教育. 体育科,家庭科,理科,生活科, 道徳,社会科,総合的な学習の 時間,特別活動. 食に関する教育. 理科,家庭科,社会科,体育科, 特別活動,生活科,道徳,総合 的な学習の時間. 防災を含む安全に関 する教育. 体育科, 家庭科, 特別活動, 道徳, 総合的な学習の時間,理科,社 会科,生活科,図画工作科. 文部科学省(2017c)を基に筆者作成. 実態である。 表4のように,算数科はどの教育内容にも関連 性が示されていない唯一の教科となっている。そ. ⑵ 算数編. れぞれの教科において対象学年や具体的な学習内. ここでは,新学習指導要領解説の算数編におい. 容が整理されている。もちろんこれらは,一例と. て,他教科との関連がどのように示されているか. して,他教科を含めたり,該当内容以外も地域や. を整理する。解説において,他教科の内容が記述. 児童の実態に応じて編成できるとされているが,. されている箇所を検索し,該当箇所の内容を対象. 算数科の例示が一切ないことは,今後の小学校の. 学年,単元名,関連教科,学習内容の各項目につ. 現場における校内研修に影響があるのではないか. いて整理した。結果は表5の通りである。. と考える。このようにカリキュラムの全体像とし. 今回の学習指導要領解説には,全学年にまた. ての総則編には,算数科の教科横断的な視点に関. がってその学習内容の例が記載されていた。領域. する記述は限定的であることが明らかとなった。. についてもA 〜 D領域のすべてが見られた。一 方,関連教科については,生活科と社会科が2つ ずつ示され,音楽科,体育科,図画工作科といっ. 151.

(7) 石 井 洋. 表5 学習指導要領解説に示された他教科との関連 学 年. 単元. 関連 教科. 第 1 学 年. 絵や図を用い た数量の表現. 第 2 学 年. まとめて数え たり,分類し て数えたりす ること. 生活科. 万の単位. 社会科. 第 3 学 年. 生活科. 学習内容 あさがおの咲いている状 況を絵グラフに表す. こで本節では,これまで我が国において実践され てきた算数科を対象とした横断的な学習の実践事 例を整理し,その特徴を捉える。ここでは,日本 数学教育学会誌の臨時増刊である大会特集号を中 心に,教科横断的な学習をテーマとする教育書も 対象とする。大会特集号の小学校部会の基調発表. 面積の単位 第 ( c m 2, m 2, 4 km2)と測定 学 年 第 5 学 年. 平均の意味. 第 6 学 年. 縮図や拡大図. 社会科. 理科. 育てたひまわりの種を数 え る こ と や, 木 の 実 を 拾った数を数えることな ど. の課題の中には,「総合的な扱いに関する課題」. 地域のことを調べていく 過程で見付けることので きる数について,その大 きさをつかんだり読んだ りすること. いる。そこでの実践事例は表6の通りである。. 田や畑などの面積を表す 場合に平方メートル(m2) を単位とすると数値が大 き く な る の で, ア ー ル (a),ヘクタール(ha) の単位を使う 測定値を平均すること, 平均の考え. という項目が立てられており,教科横断的な学習 活動のあり方に関する研究の必要性が指摘されて このように多くの実践が総合的な学習の時間が 新設された2002年前後に行われている。そして, その影響からか,関連教科等として総合的な学習 の時間や生活科が圧倒的に多い。カリキュラムデ ザインに自由度があり,教科横断的な視点として 柔軟に関連させることができたことがその要因と して考えられる。田村(2001)は,総合的学習と 算数という教科の関連を考えた時,教科としての 算数の内容をベースに実践を構想する方法と,教 科内容とは関係なく存在する総合的学習の中で,. 国語 総合的 な学習 の時間. パンフレットやリーフ レットに縮図を用いて挿 絵をかく. 文部科学省(2017b)を基に筆者作成. いかに算数科の力が活用されていくかを考える方 法の大きく二つに大別されると指摘している。前 者は算数科の内容をよりよく理解することに焦点 があたり,後者は総合的学習でのねらいが学習の 最終的な目的となる。田村(2001)は,総合的学. た情操教育との関連は示されていなかった点が明. 習でねらっている問題解決能力やコミュニケー. らかとなった。. ション能力,学び方や考え方,主体的な態度の育. 学習指導要領解説における算数科と他教科との. 成等は,後者の方がより期待できるとしている。. 関連については,文言には示され,強調されてい. 教科横断的な学習における実践事例の学習内容. るものの具体的な例示は少なく,個々の学校や教. には多様性があり,多くがその成果を挙げてい. 師に任されているのが現状である。その裁量こそ. る。山田(2015)は,合科的指導の長所として,. がカリキュラム・マネジメントの充実にあたるも. 知識偏重の弊害を軽減できる,生活経験を重視で. ので,今後校内研修としての授業研究において重. きる,活動を中心とした授業が組み立てられる,. 視されていくことになると考えられる。. 児童の興味関心を尊重できる,楽しい授業になり やすいといった点を挙げている。一方,課題とし. 4.算数科における横断的な学習の実践事例. て学力低下を招きやすい,系統的な学習がしにく い,校内の協力体制や教材などの研修の機会が必. 前節で述べたように,意図されたカリキュラム. 要としている。このように,教科横断的な学習に. としての学習指導要領解説においては,算数科に. ついては,カリキュラムデザインに係る労力が大. おける横断的な学習の具体例は限定的である。そ. きく,教科を越えた全体的な学年の見通し,学校. 152.

(8) 算数科における教科横断的な学習に関する一考察. 表6 算数科を対象とした教科横断的な学習の実 践例 著者. 学 年. 佐 藤 1 (1999). 算数科の 学習内容. 関連教科等の 学習内容. 生活科. すごろくづく り. 立体図を構 成する要素 ( 面, 辺, 頂点). 図画工作科. 箱作り. 大きな数, 足し算,引 き算,表の 作成. 生活科,国 語科. はかりの読 み方,円と 球. 社会科 図画工作科. 盛 山 3 (2001) ・4. 表・グラフ. 総合的な学 習の時間. けがをなくそ う. 井 上 4 (2001). 角と角度. 総合的な学 習の時間. 人に優しい街. 2次元表, 折れ線グラ フ. 総合的な学 習の時間. 見直そう私た ちの生活-節 約とリサイク ル. 盛 山 4 (2001). 式のきまり. 総合的な学 習の時間. 点字ボード. 5. 資料の整 理,速さ. 社会科,総 合的な学習 の時間. 安全なくらし を守る,校区 の交通安全を 考えよう. 山 戸 (1981). 森 川 (2001). 本 田 (1998). 小 森 (2001). 井 上 (2001). 2. 2. 3. 4. 5 本 田 (1998). 矢寺ほ か (2002). 5. 大きな数. 関連教科等. 比例,分数 の加減,割 合,縮尺, 速さ,折れ 線グラフな ど 台形の求積. 5 ・6. 表,グラフ. 田 村 6 (2001). 表,グラフ. 盛 山 (2001). 年間計画の見通しが必要となる。横断的な実践に 関する事例が絶対的に少ないのは,そのことが要 因の一つであると考えられる。. 5.おわりに 本稿では,算数科における教科横断的な学習に ついての可能性について考察することを目的と. 特別活動. 総合的な学 習の時間. 町探検・商店 の役割を考え る,働く人の 仕事の感想文 ぶどう作りの 工夫 ぶどうの模型 作り. キャンプ (材料の分量, 買い出し,調 理,地図,目 的地までの移 動,寒暖の様 子) オゾンホール についての学 習 オゾンホール の面積の求積. 総合的な学 習の時間. 新聞折り込み 広告から生活 を考える. 総合的な学 習の時間. ボランティア. し,まず,教科横断的な学習に関する先行研究に あたり,その捉え方を確認した。そして,初等教 育における算数科と他教科との横断的な学習の内 容について,学習指導要領解説やこれまでの日本 数学教育学会の学会誌及び教育書からその方向性 を明らかにした。実践レベルでは,算数科を含め た横断的な学習の具体例が若干見られるが,研究 レベルではほとんど扱われていないことが明らか となった。今後,校内研修の場において,教科横 断的な学習の実践が増えていくと予想されるた め,算数科における実践研究を蓄積し,研究の俎 上に載せていくことが求められると言える。. 6.引用・参考文献 本田雅史(1998).学習内容の厳選を考えた単元開発の構 想:算数科を中心とした横断的学習の実践.日本数学 教育学会誌.臨時増刊.総会特集号.80.195. 今谷順重 (1997) .横断的・総合的な学習とクロスカリキュ ラム-新しい問題解決のストラテジー-.黎明書房. 井上恭佐(2001) .生活に根ざした題材を取り上げ,生活 に役立つ授業の展開を!.算数・数学科から発展する 総合的学習の学力(pp.95-105) . 小森晃(2001) .総合的学習を支援する算数科の実践.算 数・数学科から発展する総合的学習の学力(pp.127138) . 森川みや子(2001) .八百屋さんの算数.算数・数学科か ら発展する総合的学習の学力(pp.73-83) . 文部科学省(2016) .幼稚園,小学校,中学校,高等学校 及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な 方策等について(答申) .中央教育審議会. 文部科学省 (2017a) .小学校学習指導要領 (平成29年告示). 文部科学省(2017b) .小学校学習指導要領(平成29年告示) 解説算数編. 文部科学省(2017c) .小学校学習指導要領(平成29年告示) 解説総則編.. 153.

(9) 石 井 洋. 中野和光(1999).クロスカリキュラム.授業研究重要用 語300の基礎知識(p.280). 西村圭一(2016) .真の問題解決能力を育てる算数授業- 資質・能力の育成を目指して-.明治図書. 佐藤佳世(1999).総合学習における算数活動の試み:す ごろくづくりを通して.日本数学教育学会誌.臨時増刊. 総会特集号.81.189. 盛山隆雄(2001) .総合的学習への発展や関連ができる算 数・数学科教材例.算数・数学科から発展する総合的 学習の学力(pp.182-191). 静岡県総合教育センター(1996).横断的・総合的な学習 に関する用語の定義・意味.web.thn.jp/ninjinhouse/ j-sougou-teigi.pdf.(2018.7.24最終確認) 田村学(2001) .ボランティアのデータを処理し表現する 活動.算数・数学科から発展する総合的学習の学力 (pp.160-170). 田村学(2017).カリキュラム・マネジメント入門.東洋 館出版社. 矢寺泰志,渡辺伸樹,札野豊(2002).算数から総合学習 への発展:小学校高学年における実践.日本数学教育 学会誌.臨時増刊.総会特集号.84.183. 山戸敏治(1981).低学年における合科的な指導について. 日本数学教育学会誌.63⑽.217-219. 山田丈美(2015) .合科的指導に対する小学校の通常の学 級担任の意識.障害者教育・福祉学研究.11.79-88.. (函館校准教授). 154.

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