カヴァリエリの原理、面積・体積の学習、17世紀の数学
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第66巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 66, No.1. 平 成 27 年 8 月 August, 2015. カヴァリエリの原理,面積・体積の学習,17世紀の数学. カヴァリエリの原理,面積・体積の学習,17 世紀の数学 齋 藤 幸 子. 齋 藤 幸 子. . 北海道教育大学教育学部旭川校数学教育専攻. 北海道教育大学教育学部旭川校数学教育専攻. Cavalieri’s principle, learning areas and volumes, Cavalieri’sand principle, learning areas and volumes, mathematics in the 17th century. and mathematics in the 17th century . SAITO Sachiko. SAITO Sachiko. . Department of Mathematics Education, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. Department of Mathematics Education, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. . 概 要 概 要 この小論では,高等学校で学ぶ区分求積法の考え方,特に,カヴァリエリの原理に焦点を あて,これを,小学校および中学校での面積や体積を求める学習において積極的に用いるこ とを提案する。同時に,教員養成課程数学教育専攻のカリキュラムにおいても,この原理を 意識的に授業の中に取り入れることで,例えば,代数的計算が主になってしまう線型代数学 の幾何学的意味を学ぶことができ,将来の数学教育に役立てられると主張する。大学で 19∼. 20 世紀流の厳密な数学を学ぶことは,高等学校までの数学の曖昧さを解消して1から組み立 て直すという意義があるゆえ,教員養成課程数学教育専攻の学生もそれを理解すべきである。 しかし,自然で自由な発想に富む 17 世紀の数学は,高等学校までの数学に通ずるものがあり, これらを学ぶことで,厳密な数学だけでは学べないものを補うことができる。 . 1 カヴァリエリの原理 1 カヴァリエリの原理. 用するなどである。 しかし,真っ直ぐでない図形,例えば,円の面. 図形の面積の公式を導く際,小学校では,切り. 積を求めるとなると,小学校の教科書においても,. 貼り(元の図形を有限個の図形に分割して並べ替. 「細かく切り分けてから総和して近似する方法」を. え)し,元の図形に「分割合同」な図形に変形し. 採用している。よく知られているのは,円を細い. て既存の公式に当てはめる事が多い。例えば,三. (つまり中心角の小さい)扇形に切り分け,それ. 角形を長方形に,平行四辺形を長方形に,台形を. らを並べ直して長方形とみなす(近似する)方法. 平行四辺形に変形し,それぞれの面積の公式を適. 1. 365.
(3) 齋 藤 幸 子. である(矢野健太郎著「お母さまのさんすう」[8],. p.206 なども参照)。ほかには,沢山の同心円環領 域 (annuli) に切り分け,それらを引き伸ばして長 方形とみなし(この時点で近似),それらを並べ て三角形とみなす(近似する)方法もある。この 方法は,ケプラー (1571–1630) の著書 (1615 年) に既に現れている ([1], p.69 図 4.12 参照)。 立体図形について言えば,小学校高学年∼中学 校で,錐体や球の体積の公式を学ぶが,その証明 には触れない。証明は,高等学校(数学 III レベ ル)で,区分求積法あるいは積分法を用いて可能 となる。 ところで,高等学校で学ぶ区分求積法も,易し く言えば, 「細かく切り分けてから総和して近似す る方法」であるから,小学校高学年児童∼中学生 も,この方法で面積・体積の公式を理解すること が可能ではないだろうか(ただし,発展的な学習 という位置づけになるだろう)。 例えば,小学生向けの事典「算数おもしろ大事 典」[6] には, 「底面積 S 高さ h の三角錐の体積は 13 Sh である」. という事実が,その「根拠」を解説したうえで紹 介されている。これは小学生対象の書物としては 珍しい。区分求積法や積分を使わずにどうやって. 説明するのか? どこかに論理の飛躍があるはず である。分析してみたところ,次の原理を暗黙の うちに認めていることがわかる: 原理 1.1 「底面が合同で,高さの等しい錐体の体. 積は(頂点がどこにあっても)すべて等しい」. [6] の解説は以下のとおりである: 底面積 S 高 さ h の三角柱(体積は Sh)を,図 1.1 のように, 合同な底面と等しい高さを持つ 3 つの三角錐に切 り分ける。すると,原理 1.1 より,各三角錐の体 積は 13 Sh ということになる。同時に,底面積 S. 高さ h の三角錐の体積は,頂点がどこにあっても, 1 3 Sh. であることがわかる。 ([6] ではそこまで言及. していないが。). 366. 図 1.1: 三角柱を体積の等しい 3 つの三角錐に切 り分ける ところで,原理 1.1 は,次のカヴァリエリ1 の. 原理」([9] など参照)の特別な場合である。. 原理 1.2 (カヴァリエリ (Cavalieri), 1635 年). (1) 2 つの平面図形 A, B が平行な 2 直線に挟ま れているとする。この 2 直線に平行な任意の直線 に対して,図形 A との交わり部分の長さと図形. B との交わり部分の長さが等しいならば,A の 面積と B の面積は等しい。. (2) 2 つの立体図形 A, B が平行な 2 平面に挟 まれているとする。この 2 平面に平行な任意の平 面に対して,図形 A との交わり部分の面積と図 形 B との交わりの部分の面積が等しいならば,A の体積と B の体積は等しい。 カヴァリエリの原理 1.2 の statement は正確さ において不十分であり,小学生から中学生向けに 1 B.Cavalieri, 1598–1647,ミラノ公国,ミラノに生まれ, ボローニャで没した。ボローニャ大学教授。 「幾何学において アルキメデス以来の深さに到達」した(ガリレイ評)([1] よ り引用)。カヴァリエリの原理の系譜については,[7] などで 研究されている。.
(4) カヴァリエリの原理,面積・体積の学習,17世紀の数学. 述べられていると言える。図形を定義する方程式. でも,動画を見せたり,工作のような作業も取り. や関数の連続性に関する設定がないうえ,図形の. 入れることにより,理解できる児童が多いと考え. 「長さ」, 「面積」, 「体積」をどう定義するのか,ま. られる。また,既知の平面図形(三角形,平行四. たそれらは測定可能なのかについて認識されてい. 辺形,台形など)の面積の公式を,カヴァリエリ. ない。そこで,高等学校(数学 III)レベルで述べ. の原理から導くことも,自由研究教材として面白. 直すならば,次のようになる(平面図形の場合で. いであろう。. 述べる) : 「閉区間 [a, b] 上の連続関数 f (x), g(x) (任意の x に対し f (x) ≥ g(x) だとする) に対し,x = a, x = b, y = f (x), y = g(x) で囲まれる領域 A の面積は. である」. ∫. b a. (f (x) − g(x))dx. すなわち,連続関数 f (x), g(x) がどのようであ れ,領域 A の面積は,直線 x = a に平行な直線と. A との交わり部分の長さ f (x) − g(x) で決まる。. しかし,さらに,大学で微分積分学を学べばわ ∫b かるように,そもそも,リーマン積分2 a (f (x) −. g(x))dx の定義の仕方から,これが x = a, x =. b, y = f (x), y = g(x) で囲まれる領域 A の面積 だと解釈してよいとするのであって, 「面積」の定 ∫b 義が別にあって,それが積分 a (f (x) − g(x))dx と一致するという意味ではない。3. さて,小学校や中学校では,そのような厳密さ. を要求していないが,カヴァリエリの原理を視覚. 22 線形代数学を幾何学的に 線形代数学を幾何学的に カヴァリエリの原理 1.2 の教育的応用は多く,教 員養成系の「大学」の授業においても,意義のあ る応用ができる。筆者は,北海道教育大学教育学 部(旭川校)数学教育専攻1年生向け「幾何学 I」 の授業で,行列の行列式に関する次の命題を指導 している: 命題 2.1 R3 のベクトル a = t (a1 , a2 , a3 ), b =. (b1 , b2 , b3 ), c = t (c1 , c2 , c3 ) に対し,実 3 次正方 行列 A = [a, b, c] を考える。写像 fA : R3 → R3 t. を,x ∈ R3 に対し fA (x) = Ax と定める。R3 に おいて,基本単位ベクトル e1 = t (1, 0, 0), e2 =. (0, 1, 0), e3 = t (0, 0, 1) を 3 辺とする単位立方体 を U とする。U の fA による像 fA (U )(平行 6 面 体)の “体積”は A の行列式の絶対値 | det A| で t. ある。. 的に捉えることは可能であり,求積の学習に良い 教材を提供すると考えられる。実際,中学生用の. z. 教科書である「体系数学1(幾何学編)」 (数研出 版)[5] では,原理 1.1 に言及し (第 2 章 空間図形,. 2 節 立体の表面積と体積,p.60),底面に平行な平 面で細かくスライスする方法によって,その根拠 を説明している。この方法は,難易度的には,円 の面積の公式を細かい扇形に切り分けて導く方法. y. b. c a. x. とほぼ同レベルであろう。従って,小学校高学年 2 Georg Friedrich Bernhard Riemann, 1826–1866, ゲッ ティンゲン大学で,1851 年にガウス (1777–1855) のもとで 論文「1 複素変数関数の一般理論の基礎づけ」を提出して博士 号を取得。1854 年には「幾何学の基礎にある仮説について」 で大学教授資格を取得。リーマン幾何学,リーマン積分,リー マン予想,リーマン面。[1], [9] など参照。 3 このことを知っておくことは,大学で積分を学び直す意 義のひとつであろう。. 図 2.1: 平行 6 面体 1年生は,入学直後から線形代数学を学んでい るが,ベクトルや行列の計算が主になってしまう. 367.
(5) 齋 藤 幸 子. ため,後期開講の「幾何学 I」という授業の中で, 行列式の幾何学的意味について考えようというね らいであった。そして,そこでも,カヴァリエリ の原理 1.2 が役に立った。例えば,長谷川浩司著 「線型代数」[2] における命題 2.1 の証明の概要は 以下のとおりである: まず,a, b, c は線形独立であるとしてよい(線. の絶対値である。この底面の面積は, ] [ a1 + rc1 b1 + sc1 | | det a2 + rc2 b2 + sc2 [ ] [ ] a b c b = | det a1 b1 + r det c1 b1 2 2 2 [ 2 ] a c +s det a1 c1 | 2. =. 形独立でない場合の体積は 0 である)。したがっ て,c3 ̸= 0 と仮定してよい。. a と c で決まる平行四辺形を底面(その面積を S. とする)と見做したときのこの平行 6 面体 fA (U ). |(a1 b2 − a2 b1 ) −. なので,求める平行 6 面体の体積は,それに |c3 | を掛けて,A の行列式 det A の絶対値. の高さを h とすれば,fA (U ) の “体積”は,カヴァ リエリの原理 1.2(立体図形の場合)により,底面. 積 S ,高さ h の柱体の体積と等しいので,Sh であ. | det A| であることがわかる。 [命題 2.1 の証明終]. る。次に,a と c で決まる平行四辺形の “面積”は, これも,カヴァリエリの原理 1.2(平面図形の場 合)により,a を a+rc (r は任意の実数) に変えて. a の第 も変化しない。r を適切にとることにより, a1 + rc1 3 成分は 0 となる。実際,a+rc = a2 + rc2 . a3 + rc3 a3 であるから,r = − とすればよい。 c3 このとき,a と c で決まる平面は変化しないの. で高さ h も変化しないことに注意する。 同様に,b を b + sc (s は任意の実数) に変えて b3 もよいので,s = − とすれば,b の第 3 成分は c3 0 となる。 このようにして,体積を変えないまま,a, b を ともに xy 平面 {z = 0} 上のベクトル. a−. a3 b3 c, b − c c3 c3. に変えた。これらで決まる平行四辺形を底面と見 做したときの平行 6 面体の高さは c の第 3 成分 c3. この証明からわかるように,カヴァリエリの原 理は, 「ある列に別の列の実数倍を加える」という 行列の基本変形により行列式の値が変化しないこ とに対応している([4],p.83,系 3.15)。平行 6 面 体の体積については,[4],p.76,例題 3.7 も参照。. 3. 高等学校で学ぶ定積分とリー. 3 高等学校で学ぶ定積分とリーマン積分 マン積分. a > 0, h > 0 を実定数とし,底辺 a,高さ h の 三角形の面積を区分求積法により計算してみる。r r を任意の実数とし,関数 y = f (x) = x + a のグ h (a + r) x のグラフ ラフの下方,関数 y = g(x) = h の上方,x = 0 から x = h まで(図 3.1 参照)の 面 積として,小長方形の面積の総和で近似する。 高さ h を n 等分する。f (x) − g(x) = −( ha )x + a =. ( ha )(h − x) であることから, lim. n→∞. 368. 2. a3 c3 (c1 b2 − c2 b1 ) − cb33 (a1 c2 − a2 c1 )|. n−1 ∑ k=0. k h a ( )(h − h) · h n n.
(6) カヴァリエリの原理,面積・体積の学習,17世紀の数学. = =. lim. n→∞. lim. n→∞. n−1 ∑ k=0 n−1 ∑ k=0 n ∑. a(1 −. 定義 3.1 閉区間 [a, b] に対し,. k h )· n n. △ : a = x0 ≤ x1 ≤ · · · ≤ xn−1 ≤ xn = b. n−k h · a n n. を,閉区間 [a, b] の分割と呼ぶ。閉区間 [a, b] 上の. k h · n→∞ n n k=1 n ah ∑ 1 n = lim 2 ( k) = ah lim 2 (1 + n) n→∞ n n→∞ n 2 k=1 1 1 1 = ah lim ( + 1) = ah n→∞ 2 n 2 と求められる。このようにして,底辺 a,高さ h =. lim. a. 関数 f (x) に対し, n ∑ i=1. (ここで,xi−1 ≤ ξi ≤ xi ). f (ξi )(xi − xi−1 ). をリーマン和4 と呼ぶ。 関数 f (x) が閉区間 [a, b] でリーマン積分可能で あるとは, ある実数 S が存在し,任意の ε > 0 が与えられ. y=((a+r)/h)x a+r. y=(r/h)x+a. a. たとき,適当な δ > 0 をとると,. < δ ならばつねに 分 割 △ の 幅 |△| n ∑ | f (ξi )(xi − xi−1 ) − S| < ε i=1. が成り立つことである。この値 S を ∫ b f (x)dx a. と書き,関数 f (x) の閉区間 [a, b] での(リーマン) h. 0. 積分と呼ぶ。 このような. 図 3.1: 底辺 a,高さ h の三角形の面積 の三角形であれば,どこに頂点があっても,同じ n ∑ 値 12 ah が得られる( lim で計算しても同じ値 n→∞. a. f (x)dx の定義であれば,任意の. x ∈ [a, b] に対し f (x) ≥ 0 である場合には,積分 ∫b の値 a f (x)dx が関数 f (x) のグラフの下方 x = a から x = b までの “面積”であると解釈できる。. 定理 3.2 閉区間 [a, b] 上の連続関数 f (x) はリー マン積分可能である。. k=1. が得られる)ので,三角形の面積に対するカヴァ リエリの原理 1.2 を,高等学校で学ぶ区分求積法 により「証明」できたことになる。 さて,大学では,区分求積法よりも一般的で厳 密なリーマン (Riemann) 積分を学ぶ。現在,中 学校・高等学校の数学教員を目指す人々は,大部 分,大学でこれを学んでいるだろう。定義を振り 返っておく:. ∫b. 高等学校で扱う関数は連続関数がほとんどであ るから,この定理により,大抵の関数が積分可能 であることが保障されている。指導者はそのこと を知っているべきであろう。 定理 3.3 (微分積分学の基本定理) 関数 f (x) が 閉区間 [a, b] 上でリーマン積分可能であるとき, ∫ x G(x) := f (t)dt (a ≤ x ≤ b) 4 ここで,ξ i. a. を小区間 [xi−1 , xi ] のどこにとってもよいこ とは画期的である。. 369.
(7) 齋 藤 幸 子. おくと,閉区間 [a, b] 上で. が現れる以前の数学もそうであったことがわかる。 その意味で,17 世紀の数学は,高等学校の数学と. G′ (x) = f (x). 共通する特徴がある。 以下に,ニュートンやライプニッツの得た数学. が成り立つ。 この定理により,関数 f (x) が閉区間 [a, b] 上で リーマン積分可能であるとき,G(x) は f (x) の原 始関数の1つであることがわかる。そして,関数. f (x) (a ≤ x ≤ b) の任意の原始関数 F (x) に対 し,F (x) = G(x) + C (a ≤ x ≤ b, C はある定. 数) と表せることから,. ∫. その当時の証明方法を,E. ハイラー,G. ヴァン ナー著,蟹江幸博訳「解析教程(上)」[1](丸善 出版)5 から引用して紹介する。. 4.1 逆正弦関数 arcsin x の級数展開 4.1 逆正弦関数 arcsin x の級数展開. 時代背景 ([1] より引用) log(1+x) の級数が記載され. b a. 的成果のうち,逆三角関数の級数展開について,. f (t)dt = F (b) − F (a). (3.1). が成り立つことがわかる。 一 方 ,高 等 学 校 の 教 科 書 に お い て は ,. f (x) の任意の原始関数 F (x) をとったとき, 等式 (3.1) により,関数 f (x) の a から b までの定 ∫b 積分 a f (t)dt 定義する。しかし,この定義 (3.1). では, 「定積分が面積を表す」ということが見え にくくなっている。リーマン積分の定義のほう. たメルカトール (1619?–1687) の本が 1668 年末に出版 されると,ニュートン (1642–1727) は急いで原稿(「解 析について」(1669))を何人かの友人に見せましたが 出版することは許しませんでした。最終的には,それは. W. ジョーンズによって出版された「量の解析」 (ニュー トン,1711)の第1章に入れられることになりました —. ニュートンは,逆正弦関数 arcsin x の級数展開. が,厳密性のために定式化が煩雑になってはいる. arcsin x. ものの,面積を求める自然な流れに従っている。. =x+. また,積分の考え方は,歴史的にそのように発展 してきた。. 4 数学史と高等学校の数学 4 数学史と高等学校の数学 北海道教育大学(旭川校)教員養成課程数学教 育専攻では,3年生向けの授業科目として, 「数学 史」を設けている(5 人の教員で分担)。その中 で筆者は,ニュートン (1642–1727) やライプニッ ツ (1646–1716) の時代(微分積分学の黎明期)の 数学をテーマに,3回の授業を担当している。高 等学校の数学は,厳密さに拘らずに直観的に学ぶ 部分も多いのだが,オイラー (1707–1783),ガウ ス (1777–1855),コーシー (1789–1857),リーマン. (1826–1866) と言った数学者(例えば,[9] 参照). 370. 1 2. ·. x3 3. +. 1 2. ·. 3 4. ·. x5 5. +. 1 2. ·. 3 4. ·. 5 6. ·. x7 7. + ··· (4.1). や,sin x, cos x の級数展開を発見した。 級数展開 (4.1) のニュートンによる証明 (1669 年) は,[1] によれば,以下のようなものである: 実数 0 ≤ x ≤ 1 が与えられたとし,sin y = x. となる角度 y を計算したい。図 4.1 のように半 径 1 の円を考えると,弧長 y が角度を表す。x が. ∆x 増えるとき弧長 y は ∆y 増えるとする。増量 ∆y は x に依存する。∆y は弧であるが,∆x が 微小のときには弦とみなし(ここで近似してい 5 [1] によれば,1968 年にヴァンナー (Wanner) がオー ストリアの大学で初めて解析学の講義をしたとき,ハイラー (Hairer) はその講義を受講する 1 年生であった。以来ヴァン ナーはハイラーとともに,解析学の講義法を模索し,いくつ もの大学で講義を実践しながら,スイスで教科書を作り,毎 年改訂・修正を繰り返した。 2014 年 ,Ernst Hairer の 子 息 で あ る Martin Hairer (1975–) がフィールズ賞を受賞した。.
(8) カヴァリエリの原理,面積・体積の学習,17世紀の数学. る),∆x を底辺とし ∆y を斜辺とする小さい直. y. 1. 角三角形を考える。さらに,∆y を接線とみなす. y. (ここでも近似)と,これは円の半径に垂直であ ることになり,相似な 2 つの直角三角形が得られ √ て,∆x : ∆y = 1 − x2 : 1 より,. ∆y = √. 1. 1 ∆x. 1 − x2. -1. 1. x. 0. x. 1. したがって,与えられた x に対し,求める弧長 y 1 は,t = 0 から t = x までの √ ∆t の総和 1 − t2. ∑. √. 1 ∆t 1 − t2. -1. である(これは, 「リーマン和」の形になっている ことに注意)。. 1 の長方形の面積の 1 − t2 総和とみなし(y は弧長を表していたが,式の形 これを,横 ∆t,縦 √. により,面積だとみなすという発想の転換),分 割の幅 ∆t を限りなく細かくする(極限をとる操 作)と,y は,関数 y =. √ 1 1−x2. のグラフの下方. x = 0 から x = x までの面積 ∫ x 1 √ y= dx 1 − x2 0. により,. ·. 3 4. ·. 5 6 6x. + ···. =x+. ·. +. 1 2. ·. 3 4. ·. x 5. 展開 (4.2) は,1671 年に J. グレゴリーによって発見さ れました。その後,1674 年にライプニッツにより再発. とによりようやく発見されました —. 逆正接関数 arctan x の級数展開. x5 5. −. x7 7. +. x9 9. −. x11 11. + ···. (4.2). +. 1 2. ·. 3 4. ·. 5 6. ·. 7. x 7. が得られる。 [級数展開 (4.1) の証明終]. : ある(これも [1] から引用) 実数 0 ≤ x < 1 が与えられたとし,y = arctan x. とおく。すなわち,x = tan y となる角度 y (図. 4.2 の右図の弧 AD の長さ)を求めたい。ここで, ∠AOD は. arcsin x = y x 3. 時代背景 ([1] より引用) 逆正接関数 arctan x の級数. のライプニッツによる証明は以下のようなもので 1 2. 性」については論じていない)と,級数展開 (4.1). 1 2. 逆正接関数 arctan x の級数展開. 4.2 逆正接関数 arctan x の級数展開. arctan x 3 = x − x3 +. と級数展開され,項別積分する(「項別積分可能. 5. 4.2. イプニッツの方法は,彼の個人的なノートを調べるこ. ていた「一般化された二項定理」 (1665∼1666 頃). 3. 開の方法 (1669 年). 見され,1682 年の「学術論叢」に発表されました。ラ. だということになる。次に,ニュートン自身が得. 1 √ 1 − x2 = (1 − x2 )−1/2 = 1 + 12 x2 + 12 · 34 x4 +. 図 4.1: ニュートンによる y = arcsin x の級数展. + ···. π 4. より小さいことに注意し,∠AOC を. ∠AOD の 2 倍にとり,扇形 OADCO の面積を G とすると,π : G = 2π : 2y なので,G = y. 底. 辺 1 高さ x の 2 つの合同な三角形からなる四角形. OABCO の面積を F とすると F = x である。三. 371.
(9) 齋 藤 幸 子. 日月形の領域 ABCDA の面積を L とすると,. となる。これを,ニュートンの方法と同様に,小 長方形の面積とみなすと,三日月形 ABCDA の面. y =G=F −L. 積 L は,関数 y =. なので,L を求めたい。 ライプニッツは,領域 ABCDA の面積 L を小 さな三角形の面積の総和で近似した。(長方形で. x2 1+x2. のグラフの下方 x = 0 か. ら x = x までの面積,すなわち, ∫ x x2 dx 2 0 1+x. はなく三角形であるところに,この時代の発想の. ということになる。ヴィエート (1593) の結果を用. 自由さがある). いて,. x2 = x2 − x4 + x6 − x8 + x10 + · · · 1 + x2 1. C. B D x. となり,したがって,. y. 0. O. と級数展開されるので,項別積分することにより, ∫x ∫x ∫x L = 0 x2 dx − 0 x4 dx + 0 x6 dx ∫x ∫x − 0 x8 dx + 0 x10 dx + · · · x5 x7 x9 x11 x3 − + − + − ··· = 3 5 7 9 11. A. y = G = F −L = x−. x3 x5 x7 x9 x11 + − + − +· · · 3 5 7 9 11. を得る。 [級数展開 (4.2) の証明終] 図 4.2: ライプニッツによる y = arctan x の級数 展開の方法 (1674 年). arctan x が奇関数であることから,級数展開 (4.2) は −1 < x < 1 でも成立する。. このように,ニュートンやライプニッツの時代. の数学者(天文学者,物理学者・ ・ ・)たちは,厳密 さこそ欠くものの,自然で自由な発想により,既. h. 知の結果を駆使して画期的な成果を得ていたこと x+ x x. がわかる。そして,それらの結果が正しいことが, 次の時代の厳密な議論の下でも証明されたことは 驚くべきである。 大学で数学を学ぶことにより,高等学校の数学 が厳密でないことに気づくのはもちろん大切なこ. 図 4.3: ライプニッツの方法 図 4.3 で,h =. 2x2 x2 +1. であることがわかるので,. 小さな三角形の面積は,. 1 x2 ∆x · h = ∆x 2 1 + x2. 372. とであるが,一方で,17 世紀以前の数学の多様な 発想を学べば,新鮮な驚きがあり,数学教育上の 意義もあると考えられる。 ところで,級数展開 (4.2) が x = ±1 でも成立. することについては,次の時代の厳密な証明を要 した。それについては次節で述べる。.
(10) カヴァリエリの原理,面積・体積の学習,17世紀の数学. 4.3. アーベルの定理. 4.3 アーベルの定理. この節では,級数展開 (4.2) において x = 1 と した場合の等式:. 定理 4.3 (アーベル) x を実数とする。上の (2) の ∑ an xn が x = r(ある 場合のべき級数 f (x) :=. いは x = −r)でも収束するならば,関数 f (x) は. そこで連続である。すなわち, (x = r の場合で説. π 1 1 1 1 = 1 − + − + − ··· 4 3 5 7 9. (4.3). 明すると). lim f (x) = f (r),. の厳密な証明を見てみよう。笠原晧司著「微分積 分学」[3] を参考にする。. x→r−0. すなわち,. 定理 4.1 (コーシー・アダマール) べき級数. lim. x→r−0 ∞ ∑. an z. n. n=0. (an ∈ C). に関して,次のいずれかが成り立つ。. が成り立つ。. 数 z に対して収束し,|z| > r に対して発散する。. また,. r= である。6. 1 1. lim supn→∞ |an | n. (3) すべての複素数 z に対して収束する。 このコーシー ・アダマールの定理より,(4.2) 7. an x =. n=0. ∞ ∑. an rn .. n=0. x5 x7 x9 x3 + − + − ···) 3 5 7 9 − 17 + 19 − · · · . (4.4). lim (x −. =. x→1−0 1 1 3 + 5. 1−. ところで,arctan x の級数展開 (4.2) が |x| < 1. で成立することにより, 3. =. limx→1−0 (x − x3 + limx→1−0 arctan x.. x5 5. −. x7 7. x5 x7 x9 x3 + − + − ··· 3 5 7 9. の収束半径は 1 である。ところが,次の定理によ り,このべき級数は x = 1 でも収束する: 定理 4.2 (ライプニッツの交項級数). an > 0, (n = 0, 1, 2, . . . ) のとき, ∞ ∑. (−1)n an. を交項級数という。交項級数は,an が単調に減少 して 0 に収束するならば,収束する。 う。. 7 Augustin. 者。. ∑. − ···). さて,関数 y = arctan x 自体は,狭義単調増 π 2 )(その値. 域は実数全体)の逆関数であるから,実数全体上 で定義された狭義単調増加連続関数である。した がって,. lim arctan x = arctan 1 =. π . 4. (4.6). (4.4),(4.5),(4.6) より,級数 (4.3) π 1 1 1 1 = 1 − + − + − ··· 4 3 5 7 9 が得られる。 [証明終]. n=0. r をべき級数. x9 9. (4.5). x→1−0. 6 このとき,正の数. +. 加連続関数 x = tan y (− π2 < y <. の右辺のべき級数. x−. n. アーベル8 の定理より,. (1) z = 0 のときだけ収束する。 (2) ある正の数 r に対し,|z| < r なる任意の複素. ∞ ∑. an z n の収束半径とい. Louis Cauchy,1789–1857,フランスの数学. −1 < x < 1 で成立する級数展開 (4.2) が x =. ±1 でも成立するということを証明するにも,上. のような厳密な議論を要するということを,大学 で学んで知っておくべきである。. 8 Niels Henrik Abel,1802–1829,ノルウェーの数学者。 5 次方程式の代数的不可解性の証明。楕円関数に関する業績。. 373.
(11) 齋 藤 幸 子. 5 終わりに 5 終わりに 教員養成課程数学教育専攻の専門科目の題材の 選定およびそれらの履修順序は重要である。筆者 が現在勤務する北海道教育大学教育学部旭川校数 学教育専攻では,1 年次前期に集合と論理,高等 学校の数学 III の補習も兼ねた微分積分学の演習, ベクトル・行列の計算演習,そして,1 年次後期 に,イプシロン・デルタ論法に基づく微分積分学 (実数の連続性,リーマン積分を含む),同後期 「代数学 I」で行列式とベクトル空間の理論,同後 (第 2 章で述べたように)幾何 期「幾何学 I」で, 学的な線型代数(およびアフィン幾何)を学んで いる。よく言われるように,大学新入生は,集合 論やイプシロン・デルタ論法に対し,苦手意識を 持ち易い。しかし,その後のカリキュラムを考え ると,これらをはずすことは出来ない。第 4 章の 最後にコーシー・アダマールの定理 4.1 に言及し たが,2 年次前期には,半期をかけて複素関数論 の基礎を学ばせている。さらに,高校の範囲を超 えた多様な幾何学的対象(多様体など)を学ぶに は,距離空間・位相空間による基礎付けが不可欠 であり,2 年次後期の「幾何学 III」で,これらを 学ばせている(1 年次の集合論は,そのための基. を体感することになる。そこで,教育実習直後の. 3 年次後期に, 「数学史」という科目を設定してい 「数学史」の授業内容 る。第 4 章で述べたことは, の一部である。このようなカリキュラムが,学生 の卒業後,実践的な意味でどのように役に立って いるのか(立っていないのか),その分析と検証 も,今後の課題である。. 参考文献. 参考文献. [1] E. ハイラー,G. ヴァンナー著,蟹江幸博訳, 「解析教程(上,下)」,丸善出版,初版 1997.. [2] 長谷川浩司著, 「線型代数」,日本評論社,2004. [3] 笠原晧司著, 「微分積分学」,サイエンス社, 1974. [4] 木村達雄,竹内光弘,宮本雅彦,森田純著, 明解「線形代数」,日本評論社,2005.. [5] 岡部恒治編,中高一貫教育をサポートする 「体系数学1」(中学 1,2 年生用)幾何学編, 数研出版,初版 2003.. [6] 志村隆ほか編,特装版「算数おもしろ大事. 礎知識となる)。距離・位相は,言うまでもなく,. 典–IQ(いっきゅう)」,学研,特装版第 1 刷. 微分積分学,解析学との関連が強いので,科目間. 2007.. の連携にも注意を払っている。以上のような科目 の体系的学習は,北海道教育大学教育学部旭川校 数学教育専攻のカリキュラム(特に,教科の内容) の根幹部分となっており, 「ゆとり教育」と呼ばれ た時代を経て,現在に至るまで維持し,効果を挙 げている。同時に,われわれ教員は,教育実習の 研究授業参観,あるいは,教員同士の対話などを 通して,数学教育専攻としてあるべき授業内容の 改善に取り組んで来た。学生たちは,3 年次の 8 月から 9 月にかけて,5 週間の教育実習を経験し, 大学で学んだ知識と教育現場の状態とのギャップ. 374. [7] 上垣渉著, 「カヴァリエリの原理とその系譜」, 数学セミナー 9 月号(日本評論社, 2003),. 40–43. [8] 矢野健太郎著, 「お母さまのさんすう」,暮し の手帖社,第 7 刷 1991.. [9] 矢野健太郎著,茂木勇増補,改訂版「数学史」, 科学振興新社,初版 1967,改訂版 1989. (旭川校准教授) (齋藤幸子 旭川校准教授).
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