少量試料に適用可能な簡易分析法に基づく深部地下水中の溶存有機物の特性
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(2) 望月陽人ほか 摘 要 地下水中の腐植物質の特性評価は一般的に,大量の地下水から分離精製された腐植物質を利用して実 施される。しかし,腐植物質の分離精製には多大な時間と労力を要するうえ,地下水量が少ない地域に は適用困難である。そこで,少量の試料にも適用可能である簡易特性分析法として,三次元蛍光分析, ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)およびイオンクロマトグラフィー(IC)を北海道幌延地域の地下 水と地表水に適用し,腐植物質をはじめとする溶存有機物(DOM)の特性評価を試みた。少量の地下水 試料から取得された三次元蛍光スペクトルは,大量の地下水から分離精製した腐植物質のものと類似し ており,深度間での差も小さい一方で,地表水とはピーク位置が異なっていた。GPC により,地下水中 の DOM の大部分を分子量1,200~2,000 Da 程度の腐植物質が占め,その分子量は深度とともに減少する ことが示された。これらは,分離精製した腐植物質の特性とも整合していた。また,地下水中の DOM に占める低分子量有機物の割合は小さいことが IC により示され,GPC の結果とも整合していた。以上 より,本研究で適用した分析方法は,地下水中の DOM の特性を簡易に評価するのに有効な方法である ことが示唆された。 キーワード:溶存有機物,腐植物質,地下水,三次元蛍光分析,ゲル浸透クロマトグラフィー (2019年10月18日受付:2020年2月29日受理) ら腐植物質が分離精製され,その元素組成,蛍光特性,. はじめに. 官能基,分子量分布などに関する分析が実施されている。. 天然水中の溶存有機物(DOM) , なかでも腐植物質(フ. さらに,分離精製した腐植物質を用いて,放射性核種の. ミン酸およびフルボ酸)は,物質の分布や動態を支配す. アナログ元素であるユウロピウムとの錯形成能に関する. る要因の一つと考えられている。たとえば,DOM は,. 研究も行われている(Terashima et al., 2012)。国外でも,. 一般的に重金属と呼ばれる銅,亜鉛,カドミウム,ニッ. 花崗岩が分布するカナダのホワイトシェル地域(Vilks. ケルなどの微量金属と錯体を形成し,これら元素の土壌. and Bachinski, 1996)や堆積岩が分布するドイツのゴア. 水や地下水中での移行挙動に影響を与えうる (たとえば,. レーベン地域など(Artinger et al., 1999, 2000)において,. Christensen et al., 1996; Temminghoff et al., 1997) 。農薬や. 数十~数千 L の地下水から分離精製した腐植物質の特. 炭化水素類など疎水性の有害有機物も,溶存腐植物質と. 性が評価されている。一方,スイスのオパリナス粘土. の錯形成によって溶解度が上昇することが報告されてい. (Courdouan et al., 2007a)およびフランスのカロボ・オッ. る(たとえば,Chiou et al., 1986; Herbert et al., 1993) 。. クスフォーディアン粘土質岩(Courdouan et al., 2007b). DOM はまた,高レベル放射性廃棄物の地層処分の安. では,地下水の化学組成を模擬して人工的に調製した水. 全評価においても考慮すべき物質である。DOM は,放. と岩石とを反応させ,岩石から溶出しうる有機物画分を. 射性核種,特に価数の高いアクチノイドなどと錯体を形. 抽出している。これは,岩盤の透水性がきわめて低く,. 成する。これにより,核種の溶解度の上昇や土壌・岩盤. DOM の特性評価や腐植物質の分離精製に必要な地下水. への吸着量の変化を引き起こし,地下環境中での放射性. 量の確保が難しいことによる。. 核種の移行挙動に影響を及ぼす可能性が指摘されてい. このように,地下水中の腐植物質の特性を評価するう. る( た と え ば,Choppin, 1992; Moulin and Moulin, 1995;. えでは,大量の地下水から樹脂を用いて腐植物質を分離. Artinger et al., 1998) 。このため,地下水中の DOM の特. 精製する方法が一般的である。しかしながら,同手法に. 性評価や放射性核種との錯形成に関する研究が,国内外. よる試料の処理には多大な時間と労力を要し,処理可能. で進められてきた。. な試料数にも限りがある。さらに,上述したような地下. わが国では,花崗岩が分布する岐阜県の東濃地域(長. 水量の確保が難しい地域では,多量の地下水を必要とす. 尾ら , 2009a)や新第三系~第四系の堆積岩が分布す. る分離精製法の適用は困難である。このため,少量の水. る北海道の幌延地域(Terashima et al., 2012; Saito et al.,. 試料からでも有機物の特性を簡便に評価できる方法を確. 2015; Kimuro et al., 2018)において,数千 L の地下水か. 立する必要がある。. 154.
(3) 少量試料に適用可能な簡易分析法に基づく深部地下水中の溶存有機物の特性 Kalbitz et al. (2000) は,地下水および地表水試料に対. 方 法. して紫外可視分光分析と蛍光分析を実施し,分離精製し た腐植物質のスペクトルとの比較から,これら分析法に. 研究対象地域における地質環境の概要. より DOM 組成の特徴を簡便に評価できる可能性を指摘. 幌延地域は,北海道北部の日本海側に広がる新第三系. した。また,海水,湖水および河川水に対しては,三次. ~第四系の堆積盆の東端に位置する。同地域には,下位. 元蛍光スペクトルにおけるピーク位置やスペクトル形状. より順に新第三系の増幌層,稚内層,声問層,新第三系. の違いから有機物の特性を評価する方法が提示されてお. ~第四系の勇知層,第四系の更別層および更新世末~完. り(たとえば,Coble, 1996; Stedmon and Markager, 2005;. 新世の堆積物が分布する(Fig. 1)。このうち,本研究で. Yamashita et al., 2008) ,地下水に対しても同様に三次元. 地下水を採取した地層は,珪質泥岩からなる稚内層およ. 蛍光スペクトルを適用することにより有機物の特性が評. び珪藻質泥岩からなる声問層である。両層の代表的な構. 価できる可能性がある。長尾・岩月 (2007) は,岐阜県. 成鉱物は , いずれもシリカ鉱物(オパール CT /オパー. 東濃地域の地下水から分離精製した腐植物質と地下水試. ル A),少量の石英・長石・粘土鉱物(カオリナイト,. 料とで三次元蛍光スペクトルを比較し,同分析法による. スメクタイト,イライト,緑泥石),黄鉄鉱,炭酸塩鉱. 腐植物質の特性評価の妥当性や地層間での特性の違いに. 物(シデライト,マグネサイト)であり,稚内層は主に. ついて議論している。長尾ら (2009b) では山形県金丸地. オパール CT からなるのに対し,声問層はオパール CT. 域の地下水に三次元蛍光光度分析法を適用し,腐植物. を含まない(太田ら,2007)。. 質の構造や分子量が地層ごとに異なる可能性を指摘し. 声問・稚内両層は約1,300万~200万年前に海底で堆積. ている。また,地表水に対しては,高速液体ゲル浸透. し(柴田・棚井,1982; 安江ら,2006; 石井ら,2008) ,. クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー). 約130万~100万年前に最大埋没した後,大曲断層(Fig. 1). を利用して,天然水試料中に含まれる有機物の種類や. および近傍の背斜構造の形成に伴い隆起に転じた(石井. 量,分子サイズなどに関する評価も行われている(たと. ら,2008)。この地殻変動とそれに伴う侵食により,稚. えば,Becher et al., 1985; Knuutinen et al., 1988; Chin et al.,. 内層の深度約400 m 以浅には高透水性を示す多数の小断. 1994) 。この方法を地下水にも適用し,腐植物質の見掛. 層が形成された(Ishii et al., 2010)。一方,稚内層の深度. け分子量分布を直接測定する可能性についても言及され. 約400 m 以深や声問層には,このような高透水性構造は. ており(長尾 , 1995) ,地下水に対する適用例も複数存. 認められない。以上のことから,両層の水理地質特性は,. 在する(たとえば,Nagao et al., 2003; Tareq et al., 2013)。. 次の3つの領域(サブシステム)に概略的に区分するこ. しかし,多量の地下水からの腐植物質の分離精製を必要. とができる(岩月ら,2009)。. としない上述のような簡易分析法の適用例は依然として. サブシステム1:低~中透水性で,水理学的に多孔質と. 少なく,その確立には至っていない。また,同一の試料. して扱える声問層. に対して複数の簡易分析法を実施し,それぞれの分析結. サブシステム2:高透水性の地質構造を有する,深度約. 果の整合性や相違点を議論することにより,地下水中の. 400 m 以浅の稚内層. DOM 特性に関してより詳細かつ多角的な評価が可能に. サブシステム3:低~中透水性で深度約400 m 以深に分. なると考えられる。. 布する稚内層. 本研究では,少量の試料量でも DOM の特性評価が. サブシステム1および2では,約130万~100万年前以降. 可能と考えられる三次元蛍光分析法(EEM) ,ゲル浸透. の隆起・侵食に伴い地表から天水が浸透し,間隙水が洗. クロマトグラフィー-紫外可視分光/全炭素検出分析. い出されたため,相対的に塩濃度の低い環境が形成され. 法(GPC-UV/TC)およびイオンクロマトグラフィー法. ている。一方,サブシステム3では,堆積物の埋没過程. (IC)を,北海道幌延地域の複数の深度から採取した地. におけるシリカ鉱物の脱水反応,有機物の熟成反応,微. 下水および地表水に対して適用した。それぞれの分析結. 生物活動に伴う生物化学反応などにより水質が変化して. 果から示唆される DOM 特性の整合性を確認するととも. いるものの,塩濃度は海水の1/3~1/2程度と相対的に高. に,数千 L の地下水から分離精製した腐植物質の分析. い。. 結果(Terashima et al., 2012; Kimuro et al., 2018)とも比 較し,手法の妥当性について議論した。また,地下水中. 試料の採取. の DOM 特性と地質環境との関係についても考察した。. 有機物特性の簡易分析に供する地下水試料は,日本原. 155.
(4) 望月陽人ほか 子力研究開発機構幌延深地層研究センターの地下研究施. 道は両層の地層境界付近に位置する。. 設(幌延 URL; Fig. 2)より採取した。同センターでは,. 各深度の調査坑道から掘削したボーリング孔を利用し. 堆積岩を対象とした深地層の科学的研究,および地層処. て,地下水試料を採取した。各孔に設置されている地下. 分技術の信頼性向上や安全性評価手法の高度化のための. 水モニタリング装置により,原位置の環境を維持したま. 研究開発が実施されている。地下研究施設は,鉛直方向. までの採水が可能となっており,一部のボーリング孔に. に掘削された東立坑・西立坑・換気立坑の3本の立坑(現. は多連式のパッカーにより複数の観測区間が設けられて. 在の掘削深度はそれぞれ380 m,365 m,380 m)と,そ. いる(南條ら,2012;女澤ら,2016)。140 m 調査坑道. れらを水平方向に連結する深度140 m,250 m,350 m の. では07-V140-M01孔(パッカー設置なし),250 m 調査. 調査坑道が2014年6月までに整備され,その後,地層科. 坑道では09-V250-M02孔の区間1,350 m 調査坑道では. 学研究および地層処分研究開発のための各種試験・調査. 13-350-C01孔(パッカー設置なし)および13-350-C06孔. が展開されている。140 m 調査坑道は声問層中に,350. の区間1から採水した(Fig. 2)。. m 調査坑道は稚内層中に掘削されており,250 m 調査坑. 地下施設の換気立坑および東立坑には,坑壁から染み. Fig. 1. ⁅⁘⁓⁕⁗‒⁓⁗ ‚⁅⁚⁛ ⁛‒⁄⁛⁗‛. 図1 幌延地域の地質図(Ishii et al. (2010) に著者加筆) . Fig. 1 Geological map of the Horonobe area (based on Ishii et al. (2010)).. 156.
(5) 少量試料に適用可能な簡易分析法に基づく深部地下水中の溶存有機物の特性 出した地下水を回収・採取するための設備である集水リ. WR-V-133.8は2016年11月,13-350-C01お よ び 地 表 水 は. ングが,30~40 m ごとの深度で設置されている(Fig. 2)。. 2017年11月,09-V250-M02お よ び13-350-C06は2018年9. 試料水は,回収・採取の過程で大気と接触している。本. 月に実施した。採取試料量は,いずれの地点において. 研究では,換気立坑の深度133.8 m に設置された集水リ. も1 L であった。07-V140-M01および WR-V-133.8は,採. ング(WR-V-133.8)で採取された試料を分析に供した。. 取直後に試料の一部を現場で孔径0.45 μm のメンブレン. さらに,地表水の試料として,幌延深地層研究センター. フィルターで濾過し,後述する溶存態有機炭素の分析に. の周辺を流れる清水川(Fig. 1)の水も採取・分析した。. 供した。それ以外の試料は濾過せずに採取し,各分析の. 以上の地点における試料採取は,07-V140-M01および. 直前に必要な処理を施してから濾過した。 Table 1には,地下水および集水リング試料の主要成分 の分析結果を示した。pH は東亜ディーケーケー社製の. Ventilation shaft. マルチ水質計 MM-60R に pH 電極 GST-5721C を接続し、 フタル酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩の標準液で校正した後. East shaft. West shaft. に測定した。電気伝導度(EC)は上記と同様のマルチ 水質計に導電率電極 CT-57101C または CT-57101A を接. 07-V140-M01. WR-V-133.8. 続して測定した。Na+ および K+ はフレーム原子吸光法, Mg2+ および Ca2+ は誘導結合プラズマ発光分光分析法, Cl- および SO42- はイオンクロマトグラフ法で分析した。. 140m Gallery. HCO3- および CO32- は赤外線分析法による全無機炭酸濃 度と pH から算出した。分析方法の詳細は,宮川ら (2017). 09-V250-M02-zone 1. を参照されたい。. 250m Gallery 13-350-C01. 分析方法 全有機炭素・溶存態有機炭素 未濾過の試料から全有機炭素(TOC)濃度を,孔径0.45 μm のメンブレンフィルターで濾過した試料から溶存. 350m Gallery 13-350-C06-zone 1. 態有機炭素(DOC)濃度をそれぞれ算出した。東レエ ンジニアリング製の燃焼酸化-赤外線式 TOC 計 TNC-. 図2 地下研究施設の概要図(2019年9月現在)と試料採取地 点. 09-V250-M02孔と13-350-C06孔の丸で囲んだ部分は,試 料を採取した区間を表す。 Fig. 2 Schematic of the underground research laboratory (as of September 2019) and sampling points. The circles at boreholes 09-V250-M02 and 13-350-C06 represent the sampling zones.. 6000を用い,酸を添加して通気した試料を分析に供す る NPOC(Non-Purgeable Organic Carbon)法を適用した。 測定に必要な試料量は,最大で20 mL 程度であった。. 表1 地下水および集水リング試料の主要成分濃度. EC: 電気伝導度. Table 1 Concentration of major components in groundwater samples collected from boreholes and the water collection ring. EC: electrical conductivity. Sample. Depth (m). pH. EC -1. (S m ). Na+. K+ -1. (mg L ). Mg2+ -1. (mg L ). -1. (mg L ). Ca2+ -1. (mg L ). Cl-. SO42-1. (mg L ). -1. (mg L ). HCO3-1. (mg L ). CO32(mg L-1). WR-V-133.8. 133.8. 8.7. 1.6. 3,600. 140. 52. 57. 4,200. 2.1. 3,000. 10. 07-V140-M01. 137.8. 7.2. 1.6. 3,400. 120. 60. 97. 4,200. <0.1. 3,000. 3.3. 09-V250-M02-zone1. 248.9. 7.4. 0.87. 1,900. 49. 25. 40. 1,900. <0.1. 2,000. 1.8. 13-350-C01. 349.0. 7.4. 2.0. 4,500. 82. 93. 98. 6,100. 0.2. 2,500. 4.0. 13-350-C06-zone1. 348.4. 7.5. 1.6. 3,600. 72. 61. 86. 4,400. <0.1. 2,700. 3.0. 157.
(6) 望月陽人ほか エチレングリコール(分子量8,000,4,000,1,500,1,000,. 三次元蛍光分析 -1. 未濾過の水試料約50 mL に,濃度が約0.1 mol L とな. 600,400,200)およびプルラン(分子量21,100,9,600,. るように NaOH 溶液を加えた。これを孔径1.2 μm のガ. 6,100)を用いて作成し,試料のクロマトグラムにおけ. ラスファイバーフィルターで濾過し,濾液の DOC 濃度. るピークの保持時間から推定見掛け分子量を算出した。. を測定した。DOC 濃度に応じて濾液を適宜希釈した後 に,日本分光製の蛍光光度分光計 FP-8200を用いて三次. イオンクロマトグラフィー. 元蛍光スペクトルを測定した。励起波長(Ex.)は200~. 試料を孔径0.45 μm のメンブレンフィルターで濾過. 500 nm,蛍光波長(Em.)は210~550 nm を測定し,両. し,Thermo ScientificTM 製 の2種 類 の イ オ ン 交 換 樹 脂. 波長ともバンド幅5 nm, サンプリング間隔0.5 nm とした。. (OnGuardTM II H および OnGuardTM II Ag)で処理した後,. 試料の相対蛍光強度は,1 μg L の硫酸キニーネ溶液の. IC でギ酸,酢酸,シュウ酸,リンゴ酸およびクエン酸. 励起波長345 nm,蛍光波長455 nm での蛍光強度を1硫酸. を分析した。装置は Thermo ScientificTM 製の ICS-2100,. キニーネユニット(QSU)として見積もった。また,励. カラムは Thermo ScientificTM 製の DionexTM IonPacTM AS23. 起波長250~500 nm,蛍光波長375~550 nm の領域にお. (直径2 mm,長さ250 mm),検出器は電気伝導度計を用. ける蛍光強度の総和を QSU 値に換算した値も併せて算. いた。溶離液は KOH 溶液のグラジエントとし,試料注. 出した。. 入量は0.1 mL とした。検出限界は,ギ酸およびシュウ. -1. 酸が0.3 mg L-1,それ以外の有機酸が0.6 mg L-1である。 ゲル浸透クロマトグラフィー フナコシ製のディスポーザブル透析カセット Slide-A-. 結果と考察. LyzerTM G2(分画分子量2K)で試料を脱塩し,DOM 濃 度に応じて凍結乾燥機で3~10倍に濃縮した後,GPC-. 以下ではまず,「分析方法」の項で示した各分析の結. UV/TC 装置で分析した。ただし,地表水については塩. 果を示し,分離精製した腐植物質の分析結果との比較や. 濃度が低いため脱塩処理を行わなかった。GPC-UV/TC. 各分析で示唆される DOM 特性の整合性確認により,実. ®. 装置のカラムは東ソー製の TOYOPEARL HW-50S(直. 施した簡易分析法の妥当性を評価する。その後,これら. 径20 mm,長さ250 mm) ,UV 検出器はジーエルサイエ. の分析により得られる複数のパラメータを深度ごとに比. ンス製の GL7450(波長220 nm) ,TC 検出器は東レエン. 較し,有機物特性の深度変化や地質環境との関連性につ. ジニアリング製の Total Carbon Detector LCT-100を用い. いて議論する。. た。なお,UV 検出器の後段に TC 検出器を接続してい 全有機炭素・溶存態有機炭素. るため,保持時間は UV 検出器のほうが3~5分短い。溶 -1. 離液は30 mmol L の Na2HPO4溶液 (H3PO4で pH6.0に調整). 幌 延 URL の 地 下 水 試 料 お よ び 地 表 水 試 料 に お け. を使用し,試料注入量は1 mL とした。GPC の較正曲線. る TOC・DOC 濃 度 を Table 2に 示 す。DOC に つ い て,. は,標準物質にラフィノース五水和物(分子量594.51),. 07-V140-M01お よ び WR-V-133.8は 現 場 で 採 取 直 後 に,. ,マンノース(分 マルトース一水和物(分子量360.31). それ以外の試料は分析の直前に濾過した試料を分析し. 子量180.16) ,エチレングリコール(分子量62.07),ポリ. た。いずれの試料についても,TOC と DOC の濃度がほ. 表2 溶存有機物の特性に関する分析結果一覧. ―: 未測定. Table 2 Analytically determined characteristics of dissolved organic matter. ―: not determined. TOC. DOC. EEM Peak (Ex./Em.). Apparent molecule weight of. Formic acid. Acetic acid. (mg L-1). (mg L-1). (nm). GPC-UV peak (Da). (mg L-1). (mg L-1). WR-V-133.8. 32. 34. 230/393, 315/385. 2,000. 0.3. 0.6. 07-V140-M01. 27. 28. 230/392, 320/385. 2,000. 0.3. <0.6. 09-V250-M02-zone1. 12. 12. 240/396, 320/390. 1,600. ―. ―. 13-350-C01. 19. 19. 230/375, 310/381. 1,200. ―. ―. 13-350-C06-zone1. 17. 17. 230/345, 230/376, 315/382. 1,600. ―. ―. Surface water. 7.4. 7.4. 250/452, 310/436. 2,400. ―. ―. Sample. 158.
(7) 少量試料に適用可能な簡易分析法に基づく深部地下水中の溶存有機物の特性 ぼ同じであったことから,試料中の有機物はほぼすべて. また,深度ごとの DOC 濃度の違いについては後に議論. 溶存態として存在していたと考えられる。なお,一部の. する。. 試料では DOC が TOC よりも高い濃度を示したが,こ れは分析誤差(約10%)によるものであると考えられる。 . Fig. 3. 50. 50. (a). (b) 45 Ex. Wavelength. Ex. Wavelength. 45 40 35 30 25. 40 35 30 25. 20. 20 25. 30. 35. 40. 45. 50. 55. 25. 30. Em. Wavelength 50. 45. 50. 55. 50. 55. 50. 55. (d). 45. 45 Ex. Wavelength. Ex. Wavelength. 40. 50. (c) 40 35 30 25. 40 35 30 25. 20. 20 25. 30. 35. 40. 45. 50. 55. 25. 30. Em. Wavelength. 35. 40. 45. Em. Wavelength. 50. 50. (f). (e) 45. 45 Ex. Wavelength. Ex. Wavelength. 35. Em. Wavelength. 40 35 30 25. 40 35 30 25. 20. 20 25. 30. 35. 40. 45. 50. 55. 25. Em. Wavelength. 30. 35. 40. 45. Em. Wavelength. 0. 20,00. Relative Fluorescence Intensity (QSU) 図3 幌延の地下水および地表水試料における三次元蛍光スペクトル. WR-V-133.8,(b) 07-V140-M01,(c) 08-V250-M02,(d) 13-350-C01,(e) 13-350-C06,(f) 地表水. (a) Fig. 3 3D-fluorescence spectrum of groundwater and surface water samples in the Horonobe area. (a) WR-V-133.8, (b) 07-V140-M01, (c) 08-V250-M02, (d) 13-350-C01, (e) 13-350-C06, (f) surface water.. 159.
(8) 望月陽人ほか 報告されている陸域起源の腐植物質のピーク(250/435. 三次元蛍光分析 幌延 URL の地下水試料および地表水試料における三. nm および335/435 nm; 福島ら , 2001,<260/458 nm およ. 次元蛍光スペクトルを Fig. 3に示す。また,各スペクト. び345/433 nm; Yamashita et al., 2008) と 類 似 し て い た。. ルのピーク波長を Table 2に示す。測定時の試料希釈倍. 以上の結果は,これら試料の起源の違いを反映している. 率などが異なるため,ピークの蛍光強度は試料ごとに異. ものと考えられる。. なるものの,ピーク位置は採水深度の異なる地下水間で. 幌 延 URL の 深 部 地 下 水( 深 度495~550 m) 約1,700. 類似していた。すなわち,地下水では深度によらず Ex./. L から分離精製した腐植物質の三次元蛍光スペクト. Em. = 230/380 nm 付近と315/385 nm 付近の2つのピーク. ル(Terashima et al., 2012) で は, フ ミ ン 酸 は Ex./Em.. が認められた(Table 2) 。これらピークは,Yamashita et. = 257/417 nm と335/405 nm に, フ ル ボ 酸 は Ex./Em. =. al. (2008) で報告されている海洋腐植物質由来のピーク. 257/407 nm と330/405 nm にピークを示した。これと比. (<260/385 nm および325/385 nm)と類似する。声問層お. 較すると,本研究のスペクトルでは,2つのピークの励. よび稚内層は海成堆積岩層であり,浅部では天水浸透の. 起・蛍光波長いずれもが10~40 nm 低波長側に位置して. 影響があるものの,地下水は地層堆積時の海水が変質し. いた。EEM 測定溶液の液性は,Terashima et al. (2012). た塩水(化石海水)を起源にもつ(岩月ら , 2009)。し. では pH 5.0,本研究では pH 9程度の弱アルカリ性溶液. たがって,地下水の三次元蛍光スペクトルにおいて上述. である。そこで,pH 5と pH 9における段戸フルボ酸2.0. した海洋腐植物質由来のピークが認められることは妥当. mg L-1の三次元蛍光スペクトルを比較したところ,少. であると考えられる。また,13-350-C06孔の区間1から. なくとも励起波長に関しては,pH 9のほうが10~20 nm. 採取した試料では,230/345 nm 付近までピークの広が. 程度低波長側にピークが位置していた(Fig. 4)。また,. りが認められる(Fig. 3(e)) 。これは,先行研究で報告. Terashima et al. (2012) では測定溶液のイオン強度を0.1. されているタンパク質様 (特にトリプトファン様)のピー. mol L-1に調整しているが,本研究ではこのような処理を. ク(福島ら , 2001)と類似しており,地下環境での微生. 実施していない。このため,上述したピーク位置の差は,. 物活動と関係している可能性が考えられる。一方,地. 溶液の pH やイオン強度の違い,あるいは試料中に含ま. 表水では Ex./Em. = 250/452 nm と,強度は小さいものの. れる腐植物質以外の有機物(たとえば,低分子量の紫外. 310/436 nm にピークが認められた (Table 2) 。これらピー. 吸収有機物;長尾・岩月,2007)の寄与などによるもの. クの位置は地下水のものとは異なっており,先行研究で Fig. 4. と考えられる。しかしながら,本研究で得られた地下水. . 50 . 50. . 45 Ex. Wavelength. Ex. Wavelength. (b). (a). 45 40 35 30 25. 40 35 30 25. 20. 20 25. 30. 35. 40. 45. 50. 55. 25. Em. Wavelength. 30. 35. 40. 45. 50. 55. Em. Wavelength. 0. 20,00. Relative Fluorescence Intensity (QSU) -1. 図4 異なる pH における2 mg L 段戸フルボ酸の三次元蛍光スペクトルの比較. (a) pH = 5,(b) pH = 9. Fig. 4 Comparison of 3D-fluorescence spectra for 2 mg L-1 of Dando fulvic acid at different pH values. (a) pH = 5, (b) pH = 9.. 160.
(9) 少量試料に適用可能な簡易分析法に基づく深部地下水中の溶存有機物の特性 の三次元蛍光スペクトルは,地下水から分離精製した腐. のクロマトグラムでは認められない。また,幌延の腐植. 植物質のスペクトル形状と同様の特徴を示している。し. 物質について,Kimuro et al. (2018) では5,000 Da 以下に. たがって,少量の地下水の分析によっても腐植物質のス. 3つのピークが認められたが,本研究ではピークは1つの. ペクトルの特徴を捉えることができているといえる。. みである。これらについては,腐植物質の分子量分布の. ゲル浸透クロマトグラフィー. 分析条件の違いによる影響が考えられるが,現状では詳. 幌延 URL の地下水試料および地表水試料におけるゲ. 細な原因は不明であり,今後の検討が必要である。. ル浸透クロマトグラムを Fig. 5に示す。なお,各クロマ. GPC-TC のクロマトグラムにおいてより長い保持時間. 地域差,および測定波長や溶液の pH・イオン強度など. トグラムの吸光度および炭素濃度は,試料を濃縮する前. を示すピークは,推定見掛け分子量が100 Da 未満と算. の値に換算している。地下水試料ではいずれも,GPC-. 出されることから,低分子量有機物または無機炭素に起. UV には1つ,GPC-TC には2つのピークが認められた。. 因するものと推測される。ただし,上述した腐植物質. 地表水試料では,GPC-UV と GPC-TC の両方が2つのピー. 由来のピークと比較するとその強度が小さいことから,. クを示した。GPC-TC のクロマトグラムのうち保持時間. 低分子量有機物に起因する場合でも,試料の有機物中. が短いほうのピークは,GPC-UV のピーク(地表水では,. に占める割合は小さいといえる。また,地表水の GPC-. 保持時間が短いほうのピーク)とほぼ同じ保持時間を示. UV クロマトグラムにおいて保持時間が長いほうのピー. し, 大部分の試料で強度が相対的に大きかった。 したがっ. クは,UV 検出器の検出上限値を超過しており,GPC-. てこのピークは,UV 吸収を有し試料中の DOM に占め. TC クロマトグラムのピークとは異なる保持時間を示す. る割合が高い有機物群に起因する。上述した三次元蛍光. (Fig. 5(f))。地表水は脱塩処理を行っていないため,こ. スペクトルの結果もふまえると,これは腐植物質に相当. のピークは,UV 吸収を示す無機塩(硝酸塩など)が試. すると考えられる。. 料の濃縮により高濃度となったことによるものと考えら. 上記のピークに相当する有機物群の推定見掛け分子量. れる。. (Table 2)は,地下水で1,200~2,000 Da,地表水で約2,400 Da であった。一方,既往研究において数千 L の地下水. イオンクロマトグラフィー. から分離精製した腐植物質の分子量分布については,次. 幌 延 URL の 地 下 水 試 料 お よ び 地 表 水 試 料 に お い. のような結果が報告されている。長尾ら (2009a) によ. て,IC で測定された低分子量有機物の濃度を Table 2. れば,岐阜県東濃地域における地下水中のフミン酸は,. に示す。本測定を実施した試料は一部のみであるが,. 花崗岩では <5,000 Da,10,000~30,000 Da および30,000. 07-V140-M01ではギ酸濃度が0.3 mg L-1,酢酸濃度が検出. ~100,000 Da にそれぞれ約30%,堆積岩では <5,000 Da,. 限界未満であり,WR-V-133.8ではギ酸濃度が0.3 mg L-1,. 10,000~30,000 Da および100,000 Da ~450 nm にそれぞ. 酢酸濃度が0.6 mg L-1であった。シュウ酸,リンゴ酸お. れ約30% の割合で分布していた。一方,フルボ酸は,. よびクエン酸は,いずれも検出限界未満であった。これ. いずれの岩石でも <5,000 Da の画分が60~70% を占めて. らすべての低分子量有機物の濃度を合わせても,DOC. いた。また,幌延と同じく,堆積岩中に塩水系の地下水. 濃度の数 % 程度である(Table 2)。このことは,ゲル. が分布する千葉県茂原地域では,フミン酸が <5,000 Da. 浸透クロマトグラフィーにより得られた,「地下水中の. と10,000~30,000 Da にそれぞれ約40% の割合で分布し,. DOM が主に腐植物質からなり,低分子量有機物の寄与. フルボ酸は <5,000 Da の画分が約50% を占めた。幌延の. は小さい」という結果とも矛盾しない。. 地下水(深度350 m)約3,400 L から分離精製したフミン 酸およびフルボ酸についても,5,000 Da 以下の範囲のみ. 有機物特性の深度変化. に3つのピークが認められた(Kimuro et al., 2018)。以上. Fig. 6には,以下のパラメータの鉛直分布を示した。. のように,地下水から分離精製した腐植物質(特にフル. ・三次元蛍光スペクトルから算出された相対蛍光強度. ボ酸)ではおおむね <5,000 Da の画分の割合が高い。本. (RFI)の総和(QSU 換算値)(Fig. 6(a)). 研究において GPC-UV で検出された地下水試料のピー. ・EEM 測定のために NaOH を加えて濾過した試料(EEM. クも,このような相対的に低分子量の腐植物質を捉えて. 測定溶液)中の DOC 濃度(Fig. 6(b)). いると考えられる。一方,長尾ら (2009a) で観測されて. ・EEM 測定溶液における RFI/DOC 比(Fig. 6(c)). いる相対的に高分子量(>10,000 Da)の画分は,本研究. ・GPC-UV における腐植物質ピークの推定見掛け分子量. 161.
(10) 望月陽人ほか. 図5 幌延の地下水および地表水試料におけるゲル浸透クロマトグラフィー. 上段 : 紫外可視分光法(GPC-UV),下段 : 全炭素検出分析法(GPC-TC) . (a) WR-V-133.8,(b) 07-V140-M01,(c) 08-V250-M02,(d) 13-350-C01,(e) 13-350-C06,(f) 地表水. Fig. 5 Gel permeation chromatography of groundwater and surface water samples in the Horonobe area. Upper: detected by ultraviolet visible spectrophotometer (GPC-UV), lower: detected by a total carbon meter (GPC-TC). (a) WR-V-133.8, (b) 07-V140-M01, (c) 08-V250-M02, (d) 13-350-C01, (e) 13-350-C06, (f) surface water.. 162.
(11) 少量試料に適用可能な簡易分析法に基づく深部地下水中の溶存有機物の特性. RFI (×106) (QSU). Fig. 6. 0 000.00. 2. 4. 2.00. 4.00. 6. 8. 6.00. 8.00. DOC in EEM solution (mg L-1) 0 10.000 10 20.000 20 30.000 30 40.000 40 0.000. 10. 10.00. 00. 300 300 C01. 200 200. 300 300. 400 400. 400 400. 3000. 0 00. 0.01 10. 0.02 20. 300300 C01. 0. 0.03 30. 00. C06. 4. 4.00. C01. 1. 0.00. 1.00. 2. 2.00. 3. 3.00. (f). 100 100 Depth (m). Depth (m). 100100. 400400. 0. (e). (d). 200200. 3. 3.00. Abs./DOC (×10-3). 100 100 Depth (m). 00. 2000. C06. Abs. at 220 nm by GPC-UV. 1,000 2,000 3,000 1000. 2. 2.00. 200 200. 300 300. Apparent MW of GPC-UV peak (Da) 0. 1. 1.00. 100 100 Depth (m). 200 200. 0. 0.00. (c). 100 100 Depth (m). Depth (m). 100 100. C06. 0. 00. (b). (a). 400 400. RFI/DOC (×105). 200 200. 200 200. 300 300. 300 300. 400 400. 400 400. C01. C06. 図6 腐植物質の特性に関するパラメータの鉛直分布. (a) 三次元蛍光スペクトルから算出された相対蛍光強度(RFI)の総和,(b) 三次元蛍光スペクトル測定溶液 中の DOC 濃度,(c) 三次元蛍光スペクトル測定溶液における RFI/DOC 比, (d) GPC-UV における腐植物質ピー クの推定見掛け分子量,(e) GPC-UV における腐植物質ピークの220 nm での吸光度,(f) 腐植物質ピークの 220 nm での吸光度を試料の DOC 濃度で除した値(Abs./DOC 比) . ●:地下水(ボーリング孔採取),○:地下水(集水リング採取) ,▲:地表水 図中の「C01」と「C06」はそれぞれ,13-350-C01孔と13-350-C06孔を意味する. Fig. 6 Vertical distribution of parameters regarding characteristics of humic substances. (a) Total relative fluorescence intensity (RFI) obtained by the 3D-fluorescence spectrum, (b) DOC concentration in the solution for EEM measurement, (c) RFI/DOC ratio in the solution for EEM measurement, (d) apparent molecular weight (MW) of the peak of humic substances obtained by GPC-UV, (e) absorbance (Abs) at 220 nm of the peak of humic substances obtained by GPC-UV, (f) Abs./DOC ratio. ● : groundwater (collected from boreholes), ○ : groundwater (collected from the water ring), ▲ : surface water. C01 and C06 represent boreholes 13-350-C01 and 13-350-C06, respectively.. 163.
(12) 望月陽人ほか じた腐植物質の蛍光特性を反映すると考えられている. (Fig. 6(d); Table 2). RFI/DOC 比(長尾・岩月 , 2007)や,GPC-UV により求. ・GPC-UV における腐植物質ピークの220 nm での吸光. めた Abs./DOC などのパラメータは,地下水と地表水で. 度(Fig. 6(e)) ・腐植物質ピークの220 nm での吸光度を試料の DOC 濃. は大きく異なる値を示すものの,地下水においては深度. 度(Table 2)で除した値(Abs./DOC 比 ; Fig. 6(f)). 間で明瞭な差が認められなかった。幌延の地下水では, 三次元蛍光スペクトルが深度間で大きな違いを示さない. RFI は地表水で相対的に低く,地下水では250 m < 350. (Fig. 3)ことからも,腐植物質の分子構造や蛍光特性が. m < 140 m の順に値が高くなっている(Fig. 6(a))。EEM. 深度に拠らず類似している可能性が示唆される。これに. 測 定 溶 液 中 の DOC 濃 度 も 同 様 の 傾 向 を 示 し た(Fig.. 関しては今後,有機物特性が深度方向で異なると推測さ. 6(b)) 。 「研究対象地域における地質環境の概要」およ. れる他地域の地下水を対象とし,上記パラメータの妥当. び「試料の採取」の項で述べたように,声問層と稚内層. 性を検証する必要があると考えられる。. の地層境界付近に位置する深度250 m 付近の岩盤はサブ システム2に属し,高透水性の地質構造を有する。した. 結 論. がって,天水の浸透による地下水の希釈の度合いが大き く,地下水の中でもっとも低い RFI 値や DOC 濃度を示. 北海道の幌延地域で採取された地下水および地表水に. したと考えられる。Table 1に示した主要成分濃度(特に. 対して,少量の試料にも適用可能な簡易分析法である三. Na+,Cl- など)も深度250 m で相対的に低い値を示して. 次元蛍光分析法(EEM),ゲル浸透クロマトグラフィー. おり,天水浸透の影響がこれら主要成分のほか,有機物. -紫外可視分光/全炭素検出分析法(GPC-UV/TC)お. の濃度や特性値にも認められる。RFI/DOC 比は,地表. よびイオンクロマトグラフィー法(IC)を適用し,腐. 水のみやや低く,それ以外は値にばらつきがあり深度間. 植物質をはじめとする溶存有機物(DOM)の特性評価. での明瞭な傾向は認められなかった(Fig. 6(c)) 。. を試みた。少量の地下水試料を対象とした EEM および. GPC-UV における腐植物質ピークの推定見掛け分子量. GPC の分析結果は,数千 L の幌延地下水から分離精製. は,おおむね深度とともに減少する傾向を示した(Fig.. した腐植物質の蛍光特性や分子量分布に関する分析結果. 6(d)) 。Kimuro et al. (2018) は,深度350 m 地下水の腐. (Terashima et al., 2012; Kimuro et al., 2018)ともおおむね. 植物質の分子量ピークが地表土壌中の腐植物質よりも低. 整合していた。また,本研究で実施した簡易分析法によ. 分子量側に位置することを示し,その原因として,稚内. り,幌延の地下研究施設から採取した地下水中の有機物. 層中の有機物が低温~中温かつ高圧の環境で長期間をか. 特性に関して以下のことが明らかとなり([] 内は根拠と. けて分解されたことを指摘している。一方,声問層や. なる分析法),上記の先行研究により示唆される腐植物. 深度350 m 以浅の稚内層では,相対的に低温かつ低圧の. 質の特性とも整合性が認められた。. 環境で有機物が分解されたため,腐植物質の分子量は. ・DOM は大部分が分子量ピーク1,200~2,000 Da の腐植. 深度350 m のものよりも大きいと推測される。本研究の. 物質からなり,低分子量有機物の割合は最大でも数 %. 結果(Fig. 6(d))は,幌延の地質環境に基づく上記の推. 程度である [EEM,GPC,IC]. 測とも整合的である。GPC-UV における腐植物質ピーク. ・腐植物質の推定見掛け分子量は深部ほど小さい [GPC]. の吸光度は,集水リングの試料である WR-V-133.8で相. ・腐植物質の分子構造や蛍光特性は深度に拠らず類似し ている [EEM,GPC]. 対的に高いものの,地表水および地下水試料間で大きな. ・地下水と地表水では有機物特性が大きく異なる [EEM,. 差はなく,地下水では深度とともにやや増加した(Fig. 6(e)) 。Abs./DOC 比は,地下水に比べて地表水で高い値. GPC-UV]. を示した(Fig. 6(f)) 。地下水においては,140 m < 350. したがって,本研究で適用した分析方法により,深部地. m < 250 m の順に値が高くなっているが,これは DOC. 下水中の DOM の特性が簡易に評価可能であることが示. 濃度の大小関係を反映したものと考えられる。. 唆された。. 以上のことから,地下水中の DOC 濃度,EEM におけ る RFI 値,および GPC をもとに算出される推定見掛け 分子量は,幌延地域の地質環境を反映して深度ごとに異 なる値を示しているといえる。一方,地層の特徴に応. 164.
(13) 少量試料に適用可能な簡易分析法に基づく深部地下水中の溶存有機物の特性 DOM in seawater using excitation–emission matrix. 謝 辞. spectroscopy. Marine Chemistry, 51(4): 325-346.. 分析方法の適用に関する議論において,株式会社東レ. Courdouan, A., I. Christl, S. Meylan, P. Wersin and R.. リサーチセンターの樋口修久氏に有益なご意見をいただ. Kretzschmar (2007a): Characterization of dissolved. いた。 地表水の試料採取に際し, 幌延深地層研究センター. organic matter in anoxic rock extracts and in situ pore water. 保安・建設課にご協力いただいた。匿名の査読者2名か. of the Opalinus Clay. Applied Geochemistry, 22(12): 2926-. らは,有益な助言を多数いただいた。以上の方々に,こ. 2939.. の場を借りて深く御礼申し上げる。. Courdouan, A., I. Christl, S. Meylan, P. Wersin and R. Kretzschmar (2007b): Isolation and characterization of dissolved organic matter from the Callovo–Oxfordian formation. Applied Geochemistry, 22(7): 1537-1548.. 文 献. Christensen, J. B., D. L. Jensen and T. H. Christensen (1996):. Artinger, R., B. Kienzler, W. Schüßler and J. I. Kim (1998): Effects of humic substances on the. 241. Effect of dissolved organic carbon on the mobility of cadmium, nickel and zinc in leachate polluted groundwater.. Am migration in. a sandy aquifer: column experiments with Gorleben. Water Research, 30(12): 3037-3049. 福島武彦・中島俊之・今井章雄・松重一夫・尾崎則篤. groundwater/sediment systems. Journal of Contaminant. (2001): EEMS による水中溶存有機物の特性解析 . 水. Hydrology, 35(1-3): 261-275.. 環境学会誌 , 24(10): 686-692.. Artinger, R., G. Buckau, J. I. Kim and S. Geyer (1999):. Herbert, B. E., P. M. Bertsch and J. M. Novak (1993): Pyrene. Characterization of groundwater humic and fulvic acids of different origin by GPC with UV/Vis and fluorescence. sorption by water-soluble organic carbon. Environmental. detection. Fresenius' Journal of Analytical Chemistry,. Science and Technology, 27(2): 398-403. 石井英一・安江健一・大平寛人・古澤明・長谷川健・中. 364(8): 737-745.. 川光弘 (2008): 北海道北部 , 大曲断層近傍の背斜成長. Artinger, R., G. Buckau, S. Geyer, P. Fritz, M. Wolf and J.. の開始時期 . 地質学雑誌 , 114(6): 286-299.. I. Kim (2000): Characterization of groundwater humic. Ishii, E., H. Funaki, T. Tokiwa and K. Ota (2010):. substances: influence of sedimentary organic carbon. Applied Geochemistry, 15(1): 97-116.. Relationship between fault growth mechanism and. Becher, G., G. E. Carlberg, E. T. Gjessing, J. K. Hongslo. permeability variations with depth of siliceous mudstones. and S. Monarca (1985): High-performance size exclusion. in northern Hokkaido, Japan. Journal of Structural Geology,. chromatography of chlorinated natural humic water and. 32(11): 1792-1805.. mutagenicity studies using the microscale fluctuation assay.. 岩月輝希・石井英一・新里忠史 (2009): 北海道幌延地域 における深部地球化学環境の長期変遷シナリオの構. Environmental Science and Technology, 19(5): 422-426.. 築 . 地学雑誌 , 118(4): 700-716.. Chin, Y. P., G. Aiken and E. O’Loughlin (1994): Molecular weight, polydispersity, and spectroscopic properties of. Kalbitz, K., S. Geyer and W. Geyer (2000): A comparative. aquatic humic substances. Environmental Science and. characterization of dissolved organic matter by means of. Technology, 28(11): 1853-1858.. original aqueous samples and isolated humic substances.. Chiou, C. T., R. L. Malcolm, T. I. Brinton and D. E. Kile. Chemosphere, 40(12): 1305-1312.. (1986): Water solubility enhancement of some organic. Kimuro, S., A. Kirishima, S. Nagao, T. Saito, Y. Amano,. pollutants and pesticides by dissolved humic and fulvic. K. Miyakawa, D. Akiyama and N. Sato (2018):. acids. Environmental Science and Technology, 20(5): 502-. Characterization and thermodynamic study of humic acid in. 508.. deep groundwater at Horonobe, Hokkaido, Japan. Journal. Choppin, G. R. (1992): The role of natural organics. of Nuclear Science and Technology, 55(5): 503-515.. in radionuclide migration in natural aquifer systems.. Knuutinen, J., L. Virkki, P. Mannila, P. Mikkelson, J. Paasivirta and S. Herve (1988): High-performance liquid. Radiochimica Acta, 58(1): 113-120. Coble, P. G. (1996): Characterization of marine and terrestrial. chromatographic study of dissolved organic matter in. 165.
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