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ニュージーランドのCOVID-19対策から学べること

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Academic year: 2021

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日本ニュージーランド学会誌 第27 巻 -1-

(巻頭言)

ニュージーランドの COVID-19 対策から学べること

武田真理子 東北公益文科大学 世界保健機関(WHO)が新型コロナウィルス(以下、COVID-19)への対応策の検討を各 国に発出してから7 か月が経過した。2020 年 8 月 20 日現在、世界では 2225.6 万人の感染 者が確認されており、感染症による死亡者は78.2 万人を超えている。日本では 5 月から 6 月にかけて、いったん収束したかに見えた感染者数の推移であったが、7 月以降、再び拡 大傾向に転じ、厚生労働省によると8 月 20 日までの PCR 検査による陽性者数は 58,501 人、 死亡者は 1,144 人に上っている。国民生活は、日本政府が要請をし続けてきた「自粛」の ムードが高まる一方で、自身や従業員の生活を支える経済活動との間の葛藤、生活困窮、 差別や偏見に基づく人権侵害に苦しむ人々が増え続けている。 私たちが研究対象としているニュージーランドはどのような状況であろうか。まず、感 染者数の推移については、2 月 28 日の最初の感染者の確認以降、徐々に増加傾向を辿った ものの、後述する積極的な対策を講じた結果、6 月 8 日にはジャシンダ・アーダーン首相 がCOVID-19 に対する「勝利宣言」を発し、その後の 102 日間は新規感染者ゼロの状態が 続いた。8 月 11 日に感染経路不明の感染者クラスターが確認されてから再び増加に転じ、 8 月 20 日現在の感染者数は 1,304 人、死亡者数は 22 人となっている。ニュージーランドも 他国と同様にこの新しい感染症の対応に苦慮しているが、COVID-19 による死亡者数の人 口割合は世界で最も低い水準にとどまっている。 各国間の COVID-19 対策の比較分析は簡単に行えることではないが、少なくとも日本 ニュージーランド学会の一員として、ニュージーランドのCOVID-19 対策から、以下の三 点の日本への示唆を積極的に発信、共有したいと考えている。(以下は、拙著「ニュージー ランドにおける COVID-19 対策と社会保障制度に関する考察」『東北公益文科大学総合研 究論集』第38 号(2020 年 7 月)をもとに論じさせて頂く。) 一点目は、ニュージーランド政府による積極的でわかりやすく、インクルーシブな情報 発信とニュージーランド社会における信頼感の醸成である。日本のメディアでもその姿が 報道されたが、ジャシンダ・アーダーン首相は保健省長官兼チーフ・エグゼクティブのア シュレー・ブルームフィールド医師とともに連日のように記者会見を行い、ニュージーラ ンド国内の感染状況、新型ウィルスの情報、政府の課題と対策方針、国民へのお願い事等 について積極的に、そして丁寧にわかりやすい説明を行った。アーダーン首相はSNS を通 じて執務室から、或いは子どもを寝かしつけた後の時間に自宅から発信を行い、国民から の質問にも丁寧に回答し、対話姿勢を発信し続けた。 3 月 19 日深夜に全ての国からの入国を禁じる措置を講じた後、21 日には首相の声明に より4 段階の「19 アラート・システム」が示された。同システムは、国内の COVID-19 によるリスクを最小限に抑えるための管理を行い、人々が感染症の状況とそれに伴う行

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動等の規制内容を理解することを目指し、全国民共通のガイドラインとあわせて、公衆衛 生、交通、集会、職場、教育など8 分野のより具体的なガイドラインも公表された。緊急 事態の緊迫した状況下だからこそ、重要な情報が全ての人にわかりやすく伝わるよう、例 えば「自宅待機」といった用語も「stay at home in their bubble」という柔らかい表現を用い たり、「COVID-19 アラート・システム」をはじめとする情報を 28 か国語と「Easy Read」 版に翻訳して政府のCOVID-19 対策ホームページのトップページに掲載したりと多くの工 夫が行われた。 COVID-19 は全ての人が当事者であり、全ての当事者の協力なくしては予防も対策も効 果が生まれないということが世界各地で証明をされているが、ニュージーランドの場合は、 以上の積極的な情報公開と発信、明確な方針策定と丁寧な説明、多言語・多手段による発 信、対話姿勢の保持によりニュージーランド社会のソーシャル・キャピタルを強化し、感 染症拡大に歯止めをかけることに成功していると考える。 二点目は、「公平原理」と「ウェルビイング原理」を掲げた「ニュージーランド COVID-19 エリミネーション戦略」の策定と発信である。日本を含め、多くの国は第一波、第二波 とパンデミックに向かう段階ごとにその影響の沈静化をはかるための対策を講じるという 方法でCOVID-19 対策を行っている。そのような従来の方法とは異なり、ニュージーラン ドでは保健省の下に設置された専門家の「COVID-19 公衆衛生対策戦略チーム」が、感染 症の除去を目指した積極的な介入・規制を初期段階から講じる「COVID-19 エリミネーショ ン戦略」を策定し、政府による積極的な国境管理、感染経路特定のための追跡調査の実施、 クラスター発生の未然防止を柱とした対策を実施した。 これらの対策は感染症の終息においては大きな効果を生む一方で、国家権力による私権 制限を伴う内容であり、また人命・健康優先の意識から差別や偏見を生む可能性や、災害 時と同様に最も深刻な影響が社会の中の弱い立場にある人や地域に生じる可能性が高い。 「ニュージーランドCOVID-19 エリミネーション戦略」は、ワイタンギ条約、先住民族の 権利に関する国際連合宣言、ワイタンギ審判所による「Wai2575 勧告」等をもとにした 「Equity Principle」と、2019 年から開始された現政府の国家予算「Wellbeing Budget」の理 念に則った「Wellbeing Principle」の二つを COVID-19 対策の決定原理として定めている。 つまり、同戦略は以上のCOVID-19 及びその対策が内包する課題に対峙することを前提と した内容であり、日本を含む世界各国がニュージーランドから学べる実践である。 三点目は、包括的な社会保障制度を基盤とした危機対応である。ニュージーランドは税 方式により保健医療と所得保障を柱とした全国民の生活保障を行う包括的な社会保障制度 を80 年間運営してきたが、大規模災害、経済恐慌等の危機が発生する度に社会保障制度が そのクッションとなり、国民にとっても危機を乗り越えるための実質的なセーフティネッ トとしての役割を果たしてきた。COVID-19 の拡大以降も、所得保障給付受給者数は増加 しており、制度が機能していることがうかがえる。さらに、新しく10 以上の COVID-19 に 関連する緊急生活支援政策が講じられ、事業者・労働者への賃金補助、休職・休業支援等 の経済的支援、エッセンシャル・ワーカーの在宅保育支援、家計相談や情報提供・相談・ カウンセリングサービス等の細やかな支援が速やかに実施された。従来の社会保障制度に ついてもCOVID-19 対策と矛盾がないように各種申請書の提出期限の配慮や給付額の引き 上げ等の運用上の変更を行った。このような国民生活に対する危機対応が実施されたこと

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-3- により、一点目、二点目の徹底した感染症の除去や予防の対策を断行することができてお り、ニュージーランドの実践からは社会保障制度こそがCOVID-19 対策の重要な柱である ということを認識させられる。 以上、2020 年 8 月までの時点でのニュージーランドの COVID-19 対策について論じさせ て頂いたが、状況は刻々と変化をしている。感染症が終息し、無事に学会の研究大会が開 催できるようになった暁には、是非、会員の皆様と本テーマについてディスカッションを 深めたいと考えている。

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