塩 酸 プ ロ カ イ ン の 麻 醉 力 と
PHと
の 関
係
に つ
い
て
東 京 歯 科 大 学 薬 理 学 教 室
長
尾
喜
景
九 津 見
侃
吾 々は,蟇 の 摘 出 座 骨 神 経 幹 腓 腸 筋 を 用 い て,各PH 値 に於 け る塩 酸 プ ロ カ イ ン溶 液 の 麻 痺 力 を,単 一 神 経 線 維 で 臨界 濃 度 を,又 神 経 幹 で 麻 痺 発 現 時 間 を 測 定 して 次 の結 果 を 得 た 。 第 一 表 1単 一 神 経 に 於 け る,諸 種PH値 塩 酸 プ ロ カ イ ンの 麻 痺 臨 界 濃 度 。PH5.8 に 於 け る臨 界 濃 度 0.11%を 境 と して そ れ よ り酸 性 とな る も,ア ル カ リ性 とな る も,麻 痺 力 は増 大 し,PH5.8 よ りア ル カ リ性 の 面 で は従 来 の報 告 と一致 して,PH6 6で は0.03%,PH 7.4で は0.008%で あつ た 。(第 一表) 2神 経 幹 に於 け る諸 種PH値 塩 酸 プ ロ カ イ ンの 麻 痺 発 現 時 間 。PH5.0,PH5.8で は麻 痺 発 現 時 間 は60分 以 上 を 要 した が,PH6.0で は約30分,PH7.0で は 約18分,PH 7.4で は 約13分 を要 した に過 ぎ なか つ た。(第 二 表)第
二
炎
市 販 の 塩 酸 プ ロ カ イ ン溶 液 は,い つ れ もPH4.8∼PH5.3で,2%で あ る に も拘 らず,麻 痺 発 現 時 間 は 52分 あ る い は60分 以 上 を 要 した 。 同 一の 市 販 塩 酸 プ ロ カ イ ン溶 液 を 重 曹 を 加 え て,PH7.4に 補 正 した とこ ろ,約18分 で麻 痺 発 現 を得 た。 3神 経 幹 を囲 い,ピ ア ウ ロ ニ ダー ゼ が 麻 痺 発 現 痔 間 を短 縮 し得 るか ど うか 検 査 した と こ ろ,殆 ん ど ヒ ア ウ ロ ニ ダ ー ゼ の 作 用 を 認 あ る こ と は 出 来 なか つ た 。 4本 実験 で は,種 々の 要 素 即 ち 拡 散 組 織 の 緩 衝 能 な ど を除 いて,要 素 を よ り単 純 な もの と した 単 一 神 経 線 維 を 用 い て,塩 酸 プ ロ カ イ ン溶 液 の効 力 に対 す るPH 値 の 影 響 を 臨 界 濃 度の 変 化 に よつ て,検 索 し,又 麻痺 現 時 間 を確 実 に測 定 し得 る 神 経 幹 を 用 い て,PH値 の 影響 を 検 索 し,以 上 の様 な 成 績 を 得 た 。 即 ち,酸 性 の 塩 酸 プ ロ カイ ン溶 液 よ り も,PH7.4の 塩酸 プ ロ カイ ン溶 液 は 臨 界 濃 度 に 於 て 約1/10麻 痺 発現 時 間 に 於 て 釣1/6を 要 し た に過 ぎな い 。 従 つ て 市 販 の 塩 酸 プ ロ カ イ ン注 射 液 は,ア ドレ ナ リ ンの 分 解 を防 ぐた め と防 腐 剤 のた め に酸 性 溶 液 と して 保 存 さ れ る か ら使 用 に 当 つ て,そ のPH値 を 人 体 組 織 液 のPH値 に 最 も近 いPH7.4前 後 に補 正 して 使 用 す べ き と考 え る。 註(参 考 歯科 学 報 第52巻 第8号)再 生 不 能 性 貧 血 、上 顎 癌 の 二 症 例 と
そ の
直 接
死
因
に1)い
て
東 京女子医科 大学 口腔 外科学 教室(主 任 教授
村瀬 正雄)
大
橋
良
昭
第 一例
再生 不能性貧 血の大要
21才未婚 女性
主訴歯齦 出血及 び
口臭,家 族歴,既 往症 に特記す べき
事はない 。来院3ケ 月前 より時折鼻
出血 あ り,最 近特 に疲労感 を覚 えた
が,歯 槽膿 漏のため と思つて来院 し
た。現症,全 身の貧血著 明で両 足拇
指 爪下 に溢 血 あ り,口 腔 丙 は〓 部 に 出 血 あ り,血 餅 を形 成 し て い た。 直 ち に 入 院 せ しめ,輸 血を 初 め 鉄 剤,肝 臓 製 剤,そ の 他 栄 養 剤,止 血 剤 の 内 服,注 射 を反 覆 施 行 した 。 鼻 出 血,歯 齦 出 血,を 反 覆 し入 院 後 1ケ 月で死 亡 した 。 血液像 は 次 の 如 くで あ つ た 。 初 期 赤 血球163万,白 血 球1200,血 色 素28%,末 期83万,850,14%
病 理解割 の主要 所見 は
1,少
数の島状の赤色髄を含む 脂
肪髄 性の変化 島状の赤色髄 中に赤色
球 の新生 像が見 られ た事。 「リンパ
球」 「プラズマ細胞」様 の増生が 見
られ,血 鉄 素を含んだ細 胞 が あ つ
た。之は投与薬物の効果の一部表現
―2―と考 へ た い。 2,心 筋 丙 に 多 数 の 少 出 血 あ り, そ の 他 出 血性 素 因 と して 重 要 臓 器 の 点 状 出 血があ つ た 。 骨 脱 の 脂 肪 髄 性 変 化 は 致 命 的 で あ るが,心 筋 内 出 頃【 が 接 死 因 と考 へ られ る。 第二 例 上顎 癌 の 大 要 62才 男 子 で 大 工,家 族 歴,既 住症 に特 記 事 項 な し。 頬 部 よ り眼 霞 下部 の 腫 脹 の た め 某 医 で 骨 膜 炎 として の 処置 を うけ た が 著変 は な か つ た。 腫瘍 嫡 出 後 「ナ イ ト ロ ミン 」 全量 8.500mg「 ラ ドン シ ー ド」 】6本を使 川,末 期 に は 大 した 発熱 な く感 冒 嶺 所 見が 続 き死 亡 した 。 病 理 解:剖主要 所 見は 1,腫 瘍 は試 験 切 除 片 では 扁 平 上 皮 癌 で,解 剖 時 の 所 見は 単 純 癌 と云 うべ き 像が 多 か つ た 。 1,前1行 性 及 リンバ 達転 移 の欠 除 3,両 側 中等 度 の 竃 状 肺 炎(特 に 右 側 に強 い) 病 理解 剖上 の 直 接 死 因 と考 え られ る もの は 此 の 第3項 の 肺 炎 で あ る。 死 亡 直 前 の僅 がの 感 目所 見 は 聴 診 上 に特 別 の 著変 もな く突然 死 亡 した 。 身 休 の抵 抗 減 弱 した 場 合 の 無 熱 性 怖 炎 で 呼 吸 代 謝 機 能 の 低 下 が 致命 的 と な つ た 。 之 は ささ い な 所 見 も 見逃 す 事 の 出 家 ぬ と警 告 され た 症 例 で あ る。
歯科X線 写 眞 撮 影 時 にお け ろ皮 膚線 量
東 京医科歯科大学
放射 線科
村
井
竹
雄
近 頃 放 射 線 災 害 防 止 に関 す る 問 題 が や か まし く論 ぜ ら れ て い る が 我 国 の 歯 科X線 診 断 に於 け るX線 量 に関 して は今 迄 比較 的 関 心 が うす か つ た 。 之 れ は 歯 科 診 断 に 用 い ら れ る 装 置 が 小型 であ るの と,フ イ ルム も小 さ い ので 理 由 な しに 何 とな く関 心 が 持 た れ て な か つ た もの か と考 え られ る 。 然 し患 者 の 皮 膚 の受 け る線 量 は 一 般 医 科 で 行 わ第 一表
撮
影
條
件
第二 表
條 件 別 皮 膚 線 量"r"
第三表
條
件
別
れ て い る4ツ 切 胸 部 写 真 撮 影 に於 け る よ り多 い事 が 想 像 さ れ る。 以 上に よ り教 室 に於 け る 一般X線 診 療 時 に 於 け る散 乱 線 測 定 の 一 環 として 歯 科X線 診 断 に 際 す る線 量 の 測 定 を行 つ た の で 光 づ患 者 の 受 け る 皮 膚線 量 測 定 の 結 果 を 報 告 す る。 測 定 に は35mmポ ジ フイ ル ム を 約1.5cm平 方 に 切断 黒 紙 包 装 を 行 つ た もの を 測 定 点 に附 着 せ し めて 露 出を す る と云 う所 謂 写 真 法 に よる線 量 測 定 法 を 応 用 した 。 装 置 はN-歯 科X線 装 置 を使 用,国 産 デ ソ タル,フ イル ムに 対 す る露 出條 件 を標 準 とした 参考 と して 大 型 装 置 も使 用 した。 第 一 表 は 夫 々適 当 と 思 つ て 行 つ た露 出條 件 を 示 す。 第 二表 は第 一 表 に よ り得 られ た 皮 膚線 量 を 示 す 。 第 三 表 は 比 較 の 意 味 で 一 般 撮 影時 に患 者 の受 け る線 量 を示 した が,之 れ に よ る と歯 科 診 断 時 のX線 量 は 可 な り多 い 部 に 入 り胸 部 の時 の 最 少限10倍 には 達 す る。 職 業 的 に放 射 線 を 浴 び る場 合 の 耐 容 量 は1日0.05rと さ れ てhる 事 か ら考 え る と上 述 の 結 果 に も とつ く散 乱線 に 対 す る防 禦 に も十 分 の 注 意 が 必 要 であ ろ う。(実 験 は 菊 地,大 竹 が 行h,日 本 医学 放 射 線 学 会 関 東部 会 に 於 て 大 竹 が 発 表 した)詳 細 は さ くらXレ イ写 真 研究1953年8 月号 に あ る。 ―3―拔歯創治癒経過 の レン トゲ ン的 な らび に
病 理 組 織 的 所 見 に 関 す る 実 験 的 研 究
東 京歯科大学病 理 学 教 室(主 任教授
松宮誠一博土)
東京歯科大学 口腔外科学教室(主 任教授 大 井清博士)
高
橋
庄
二
郎
拔 菌 創 の 治 癒 経 過 に 関 す る病 理 組 織 的 観 察 は,従 来 か な り多 数 に な さ れ てい る に も拘 らず,そ の レ ン トゲ ン的 観 察 は,き わ め て 少い。 したが つ て 拔 歯創 治 癒 経 過 の レ ン トゲ ン所 見 に 関 して は,ま だ 諸 説 混 沌 と し, 何 等 系 統 的 な 知 見が 示 さ れ て い な い 。 さ らに 拔 歯 創 治 癒 経 過 の レ ン ト ゲ ン所 見 と病 理 組 織 所 見 とを 併 せ 観 察 し,そ の レ ソ トゲ ン症 候 の 意 義 を 探 索 し た もの は,全 く見 当 らな い 。 そ こで 余 は,21頭 の犬 に142例 の拔 歯 創 を つ く りこれ を種 々の 期 間 飼 育 し た の ち,電 殺 し,そ の レ ン トゲ ン 所 見 と病 理 組 織 所 見 と を併 せ 観 察 し た。 実 驗 方 法 生 後 一 年 半 な い し二 年 の成 犬 に, まず5%塩 酸 モル ヒ ネ水 溶 液2∼5cc を 腹部 皮 下 に 注射 して 麻 酔 を は か り,な お 不 十 分 の 場 合 に は ア ル コー ル,ク ロロ ホル ム,エ ーテ ル(1;2, 3の 容 量 比)の 吸 入 麻 酔 を 併 用 し た 。 つ い で 通 法 の 如 く消 毒 を行 つ た の ち,複 根 歯 にお い て は 根 分 離 を な し,鉗 子 お よび ニ レベ ー タ ーを 用 い て 拔 歯 を した 。実 験 歯牙 と して は, 上 顎 第 二 切歯 お よび 第 二 小 臼齒,下 顎 第 二 お よび 第 四 小 臼 歯 を 選 ん だ 。 な お動 物 は拔 歯 後2,4.8.15.30. 50.80日 間 飼 青 した うえ,250ボ ル ト,40ミ リア ン ベ アの電 流 を 舌,肛 門 間 に 通 じて 致 死 せ しめ た 。 そ の 後 直 ち に,顎 骨 を鋸 断 し,10%ホ ル マ リ ン水 で 固 定 し,レ ン トゲ ン撮 影 を 行 つ た の ち,通 法 に従 つて 脱 灰,ツ エロ イヂ ン包 埋,連 続 切片 標 本 を 調 製 し,ヘ マ トキ シ リン,エ オ ヂ ン重 染 色 を施 した 。 実 験 成 績 (A) 病 理 組 織 所 見 歯 齦 組 織 は,拔 歯後 急 速 に 増 殖 し,拔 歯 後15日 目に は 創 口を 完 全 に 閉 鎖 す る。 拔 歯 窩 内 は 最 初 血 餅 で 充 た さ れ て い るが,時 日の 経 過 に 伴 い,窩 底 お よび 窩壁 部 か ら肉芽 組織 が 増殖 し,さ らに進 んで は 骨 新生 が み られ,拔 歯後30日 目に は,ほ と ん ど 完 全 に新 生 骨 梁 で 充 た さ れ るに い た る。 そ の後 この 新 生 骨 梁 は 肥 厚 して きわ め て 緻 密 とな るが,50日 目頃 よ り骨 髄 形 成 が起 り,漸 次 周 囲 歯槽 骨 と同様 に な る 。 した が つて 拔 歯 創 の 治 癒 経 過 は,拔 歯 窩内 の 状 態 に よ り,血 餅 期,肉 芽 組 織 期,仮 骨 期, 治 癒 期 の 四 期 に 分 け られ る。 拔 歯 窩 縁 は 長 期 間 に わ た つ て 著 明 の 窩状 吸 収 が み られ る。 しか し時 日の 経 過 に 伴 い骨 質 の添 加 も起 る。 残 存 歯 根 膜 組 織 は速 や か に 硝 子様 化 を来 し,吸 収 され て 消 失 す るか,あ るい は これ に石 次化 現 象が 現 われ,拔 歯 後15日 目に は全 く認 め られ な くな る。 周囲 歯 槽 骨骨 髄 は,早 期 に は 炎 症性 変 化 が 著 明 で,繊 維 化 の 傾 向 を 示す と と もに 骨 髄 の 挾 窄が 起 る。 しか しそ の 後 は漸 次 正常 の構 造 とな る. (B) レ ン トゲ ン所 見 拔 齒 創 治 癒 経 過 に 関す る レ ン トゲ ン所 見の うち,主 な る もの は,歯 槽 硬 線 の 消 失,拔 歯 寓 内 骨 梁 の不 明 瞭 化,拔 歯 窩 の陰 影化 お よび拔 歯 窩 の 消失 で あ る.す な わ ち,歯 槽 硬線 は 拔 歯 後 漸 次 消 失 す る しか しそ の 完 全 消 失 に は,き わ め て 長 期 間 を要 し, 拔 歯 後50日 月で も完 全消 失 を きた し た もの は 少 い。 拔 歯窩 内骨 梁 は漸 次 不 明 瞭 化 し,再 び 明 瞭 化 す る も の と,最 初 か ら不 明 瞭 化 しな い もの と の 二 型 が あ る。 拔 歯 窩 は 時 日の 経 過 に従 い,漸 次陰 影 化 を き た す 。 な お 拔 歯 後50日 目の 例 の 半 数で は,拔 歯 窩 の 陰 影 度 が 周囲 歯 構 骨 の そ れ よ り も高 い 。 しか し,さ ら に長 期 間 の 例 で は,こ の よ うな 例 が非 常 に 少い 。 拔 歯 窩 は,拔 歯後 漸 次 消失 す る。 し か しこ の完 全 消失 に は,き わ め て 長 期 間 を要 し,拔 歯後80日 目の 例 で も 拔 歯 窩 の消 失 して い な い も の が あ る。 (C) レン トゲ ン 所 見 と 病 理 組 織 所 見 との 關 係 拔 歯創 の レ ン トゲ ン診 断 は,骨 組 織 の変 化 に つ い て のみ 価値 が あ り, そ の 他 の組 織 変化 につ い て は,ほ と ん ど無 力 と思 わ れ る。 拔 歯窩内 骨 新 生 の 判 定 に は,拔 歯 窩 の陰 影 化 に信 頼 度が 最 も高 い 。 強 度 の陰 影 化 を伴 う拔 歯窩 内 骨梁 の 不明 瞭 化 な らび に レ ン トゲ ン像 に お け る拔 歯 窩 の 消 失 は,常 に骨 新 生 の 著明 な こ とを 示 す しか し骨 新 生 の 著 明 な例 で も,か か る レ ソ トゲ ン症 候 を示 さ ない こ とが あ る 。 また 歯 槽 硬 線 の 消 失 は,骨 新 生 の 著 明 な こ とを 意味 す る 。 しか し 象骨 新 生 が 著明 で あつ て も,歯 槽 硬 線 の 完 全 に消 失 して い な い 例 が あ る,な お 拔 歯創 が 治 癒 す る 場 合,レ ン トゲ ン所 見 には 二 型 が あ る。 そ の 第 一 型 は,拔 歯 窩 の陰 影 度 が 周 囲 歯 横 骨 とほ ぼ 同 様 で,骨 梁 の 明 瞭 な も の,第 二 型 は,拔 歯 窩 の 陰 影 度 が 周 囲 歯 窩 骨 の陰 影 度 よ わ も高 く,か つ 骨 梁 の不 明瞭 な もの,で あ る。 (本 研究 の全文 は 歯 科 学報52卷 6,8,9,10,11号 に発 表 した 。 ―4―グ レ ー ス 太 陽 燈 の 口 腔 外 科
領 域 に 於 け る 治 療 成 績 に つ い て
東 京医科歯科 大学 口腔外科学教室
吉
屋
勝
市
川
貢
吾 々は今般,神 戸 医科電 気製作所
製の グ レー ス太陽灯(低 温 部 赤 外
線,可 視線,及 び長 波長 紫外線 発生
装置)を 試 用する機会を得,主 とし
て 口腔外科領 域の疾 患に応用 して 見
たので,そ の臨牀 成績 の結果 を考察
してみた 。
本機の 口腔 外科領域 に於 ける応用
は32例に して,照 射回数は71回 に亘
つてお り,主 として,
A)疼 痛 を主訴 とす る者
B)腫 脹 を主訴 とする者
C)鍋 口障害を主訴 とす る者
D)術 後の疼痛 む主訴 とする もの
に対して照射 を行 つた。照射方法は
導光子 を患部 皮膚 に直接圧抵 し,口
腔内創傷又は抜 歯窩 内の場 合には歯
科用導光 子を用いて局所 に挿 入圧抵
した。又,照 射時間及 び回 数は1日
1回5分 を標準 とし,10分 迄 を限度
とした。
その結 果得た成績に よ る と,a)
疼痛 のみに対す る治療 成 績 に 於 て
は,上 行 性 歯髄 炎,歯 肉炎,歯 槽 骨 炎,顎 骨 周 囲 炎 等 にて は 著 効 を 示 し た 。 また,関 節 炎 に は 相 当 の 効 果が あ つ た が,三 叉 神 経痛,ロ イロ チ ス 等 に は 効 果 が な か つ た。b)腫 脹 に 対 す る治 療 成績 に於 て は,歯 槽 骨 炎 (12例)に て は,そ の 約 半 数(5例) は2∼3回 の 照 射 に よ り 腫 脹 減 退 し,残 りの 半 数(5例)は 軽 快を き た したが,最 後 の2例 に て は 効 果 が な か つ た 。c)開 口障 碍 に対す る治 療 成 績 。 開 口障 碍 の種 頬 は智 歯 周 囲 炎 並 に 智歯 拔 去 後 の 感 染 に よ る炎 症 性 開 口不 能 の4例 で あつ て,疼 痛 の 消 退 は 全 例 に於 て 著 効 を示 し,腫 脹 の 減 退 は1例 に於 て は 著効 を示 し,他 の3例 に 於 て は 軽 快 を 示 した 。 また, 開 口障 碍 は3∼4回 の 照 射 に よ り全 例 に 於 て 著効 を 示 した。d)術 後 の 疼 痛 に 対 す る治 療 成 績 。 抜 歯 後 疼 痛 11例,歯 根端 切 除 後 疼 痛1例 に本 療 法 を 試 み た 結 果12例 中9例 に 於 て は 著 効 を 示 し,2例 に 於 て は 軽 快 し, 1例 に於 て は 効 果 が な か つ た。 以 上 め 中A),B)及 びC)に て はそ の 殆 どが 炎症 性 疾 患 で あつ た 為,太 陽 灯 照 射 の み の療 法 で は な く,照 射 と同時 に 各種 療 法,例 え ば ペ ニ シ リ ン注 射,ス ルラ ア ミン剤 投 与,罨 法 等 を併 用し てい る場 合 もあ るの で, 必 ず し も太 陽 灯 照 射 に よ る効果 とは 断言 し得 な い が,照 射 に よる疼 痛 の 緩 解 比 較 的 短 時 日中 に於 け る牙 関緊 急 の 消 失,腫 脹 の減 退 等が 認 め ら れ るの は 本 機 に よ る効 果 も多 分 に含 ま れ て い るの で あ ろ うと考 え られ る特 にDの 術 後 の疼 痛 を 主訴 とせ る患 者 12例 に関 して は各 種 療 法 を併 用 せ ず 本 機 に よ る療 法 のみ に よつ たの で あ るが,比 較 的 速 か に疼 痛 の 消 失 が 認 め られ,予 後 は良 好 で あつ た 。 しか し,三 叉 神 経痛,ロ イ マ チ ス等 の 神 経 症 に対 して は 本 機 に よ る効 果 は 全 く認 め られな か つ た 。口腔 外科 領 域 に於 け るク ロ ロ フ イル誘 導 体
(サ ン グ リ ー ン)の
臨 床 成 績
東京歯科大学 口腔外科学教室(主 任教授 大井清博士)
矢
島
敏
夫
鈴
木
和
男
最近葉緑素 が医学並 に歯科 医学方
圖の治療 剤 として,使 用価値が 闡明
されて 来た。その葉緑葉 に関す る幾
多の研究 中特に,1913年 独逸のR.
Willstaterの分子構 造解 明に よる ノ
ーベル賞授 与は,斯 界の輝かしいー
頁であ る。最近 歯科臨床 に於 て,米
国のS.L.Goldbergが
ワンサン氏
口内炎及び慢性歯槽膿漏の800例 を
擧 げて,葉 緑 素の臨床効果顕 著なる
こ とを力脱してい るのが特に注 目に
値す る。〓い 我 々は 日本 生化学工業
株式会社 製品の葉緑棄剤Sungreen
を入手 し得 たので,日 常我 々の最 も
贋々遭遇す る口腔外科疾患に試用 し
た臨床成績の一端を御紹介 したいと
思 う。
【実
験材料 及び方法】(1)材
料:
―5―サ ン グ リー ン(Smgreen=Chloro-phyllin-Potassium,Crysta11)で,. 紫 黒 色,金 属様 光 沢 を 有 す る吸 濕 性 結 品性 の粉 末で,常 温 で は安 定,遮 光 して貯 え る。 (2) 方法:主 と して 局 所塗 布 即 ち 鈍 針又 は消 息子 の 柄(約10mgに 相 当す る)に 戴 せ て,患 部 に直 接 擦 り貼 薬 す る。 必要 に よ り注射 を併 用 した 。 量 は 塗 布で は1回 量 約10mg。 注 射 は1日1回10∼50mgの 葉 緑 素 を,蒸 溜水,生 理 食 塩 液 又 は低 張 葡 萄 糖 液 に溶 解 して用 い た 。 (3) 被 檢者:昭 和27年6月 よ り 昭 和28年2月 迄 の 東 京 歯 科 大 学病 院 口腔 外科 の,外 来 及 び 入 院 患者 で あ る。 【臨 床 成 績 】 応 用 した 範 囲 は第 一 表 の 如 くで,比 較 的 軽 症 の もの と慢 第 一 表 性 で 頑 固 な もの 合 計95例 で あ る。 そ の 臨 床 成績 を一 括 して 図 表 に示 せ ば 第 二 表 の 如 くで あ る。 (1)所 謂拔 歯 後 疼痛 症 は平 均3 日で 治癒 状 態 を示 し,特 に注 目す べ きは,所 謂dry socketの 状 態 が 本 品 の塗 布 に よ り驚 異的 に早 く,拔 歯 創 内面 に新 生 肉芽 組 織 の発生 と悪 臭 の 消 失が み られ,各 種 刺 戟に対 す る 疼 痛 が 著明 に減 退 した こ とで あ る。 (2) ア フタは 直 接 塗 布後1分30秒 ∼2分 間 で 自発 痛 消 失 が み られ た 。 (3)歯 齦 炎,歯 槽 膿 漏 症 に於 て は 短 期 間 に 局 所 療 法 を行 い 易 い状 態 に
第
二
表
迄 恢 復 した 。(4)智 歯 周囲 炎 は 何 れ も1回 の 塗 布 で 自発 痛 が 殆 ん ど消 失 した 。(5)潰 瘍 も孤 立 性 ア フ タ と同 様 に約2分 間 で 鎮 痛 した 。(6) 手 術 創 の全 症 例共 に 新 生 肉 芽 組 織 及 び 上 皮組 織 形 式 の 促 進 的 傾 向 と,術 後 の 浮腫 め予 防,除 去 及 び 欝血 除 去 等 が 認 め られ た 。(7)慢 性 再 発 性 ア フタ,地 図 状 舌,扁 平 紅 色苔 癬 に は無 効 でつ あ た 。(8)三 叉神 経 痛 に対 して は 筋 肉 丙 注 射 を 試 み た が, 局 所 の 圧 痛 乃 至 紅 斑 が み られ た の で 中 止 した 。 本 症 につ いて は そ の後 方 法 を変 え て,静 脈 丙 注 射1日10mg を7∼10日 位 続 け る こ とに よ り殆 ん ど全 治 した症 例 を 数 例 得 た の で,改 め て報 告 す る 予 定 で あ る。 【結 論 】 以 上 の こ とか ら次 の こ と が 言 え る。1)Sungreenは 局 所 に著 明 な 鎮痛,鎮 静 作 用 を現 わ し,本 法 は臨 床 上簡 便,有 効 と思 う。2)肉 芽 組 織 及 び 上 皮 発 生 に一 定 の 促 進 的 影 響 を与 え る よ うに 思 われ る 。3) 局 所 塗 布,静 脈 丙 注 射 で は 認 む べ き 副 作 用 は なか つ た 。3)三 叉神 経 痛 に は有 効 と思 うが 研究 中 で あ る。 (本研 究 の 全 玄 は 齒 科 学 報 第53卷 第3号 に発 表 した) ―6―神 経 痛 と歯 牙 疾 患 に関 す る症 例
聖 路 加 病 院 歯 科
長
谷
川
慶
藏
近頃 特 に 臨 床 病 理 検査 方 法 が 発 達 してい て も,徴 熱 神 経 痛 等の 症 状 を 主訴 とす る症 例 を診 査 す る こ とは, その病 因 の本 態 をつ か む の に 仲 々容 易でな い が,誠 に複 雑 な 経 過 と症 状 を有す る もの に就 て は 尚 更の 事 で あ る。此 処 に記 載 す る もの は,そ の 症 状経 過が 復雑 で診 断 が 困 難 で あつ た が,最 後 に 歯 牙 の抜 去 に よつ て,首 尾よ く治 療 効 果を現 した 。 症 例 ♀52才 主 婦 主 訴 左 肩 甲 部 神 経 痛 と咽 喉 粘 膜 の 疼 痛 既 往 歴 約1年 有 余 前 が ら左 側 肩 甲部 に神 経 痛 を 感 じ,針 仕 事 に 不 自 由であ つ た が,日 と共 に激 痛 とな り ために一 年 近 く病 床 に あ つ て,臥 し ていた方 が 楽 な の で 今 日に及 ん だ 。 家族 の 者 が 側 を歩 いて も床 の 振 動 で 痛み を覚 え,不 眠 が 続 き,体 温 は 朝 37°午 後38°,局 所 の 発 赤腫 脹 はな い が患 部 を下 に して は寝 られ な い程 で あつた 。 来 院5ケ 月前 に子 宮 頸 菅 ポ リープ の手 術 を 受 け た が,少 し も神 経痛 は 良 くな らぬ の で 来 院 して 外 科 の診 断 を受 け た 。 現症 直 達 鏡 と レ ン トゲ ン診査 等 によつ て,右 側 縦 隔 窩 に於 け る腫瘍 と診 断 さ れ 手 術す る準 備 を し たが, 其後 再 参 の 検 査 の結 果,上 行 大 動 脉 の位 置 異 常 で あ る と判 定 さ れ た 。 然 し肩 の 神 経痛 は入 院 中 安 静 の た め稍 軽 快す るに 至 つ た が,時 々発 作 的 に 痛 み を反 復 す る状 態 で あ つ た 。 一 方 この 痛 み が 肩 胛関 節 周 囲 炎(所 謂 五 十 肩)で な い 事 が 鑑 別 診 断 され たの で そ の 感 染 源 を求 め る た め に 歯 科 の 診 査 をす る こ とに な つ た 。 口腔 所見 患 者 は 幼 時 か ら偏 食 で 動 物 性 蛋 白 の摂 食 が 不 足 で あ り,従 つ て 歯 牙 疾 患 に悩 さ れ て い た 。 二 子 を 出 産 後 は特 に 歯 痛 に 苦 しみ,下 顎 前 歯 を除 い て は 全 歯 に 金 冠 架 工義 歯 が 装 着 さ れ た 。 口腔 清 掃 状 態 は 稍 良 で 歯 に関 す る 自覚 的 症 状 は な い。 口 腔 診 断75475414567慢 性 肉芽 性 歯 膜 炎 処 置 先 づ 最 も病 巣 の 著 明 な754 754を 抜 去 手 術 した 処,術 後 一 時 神 経 痛 は 悪 化 したが,漸 時 に して 一 年 以 上 続 いた 疼 み が 初 め て 軽 くな つ た の で,患 者 は 非 常 に驚 いた 。 勿 論神 経 痛 に対 す る 投薬 もそ の 他 の 治 療 も 行 わ な か つ た 。 然 か も微 熟 が とれ 久 し振 りに 気 分 が 爽 快 に な つ た 。 と の 時 か ら左 上 肢 の 挙 上 が 自由 に な り, 自身 で頭 髪 を 結 ぶ こ とが 出来 る よ う に なつ た 。 残 る右 側上 顎 歯 も全 部抜 去 して,総 て の 苦 痛 を 忘 れ て 退 院 し た の は 入 院 後ニ ケ 月 目で あ つ た 。 其 後 今 日に 至 る迄 時 々来 院 す るの で, つ ぶ さに 経 過 を観 察 す る こ とが 出来 る が 神 経 痛 は再 発 せ ず,全 身状 態 も 極 め て 良 好 で あ る 。 考 察 この 症 例 に つ い て 第 一 に 重 視 す る こ とは,所 謂 五 十 肩 との 鑑 別 で あ る。 五 十 肩 の 病 理 は 粘 液 嚢 の枯 渇 が 主 な る病 変で,関 節周 囲の 軟 組 織 の 硬 変 と,之 に 伴 う石 灰 変性 とさ れ,発 赤 腫 脹 疼痛 熱 感 等 は 外 部 が らは 認 め られ な い 。勿 論 患 者 は上 肢 運 動 の 障 碍 が あ るか ら動 かせ ば激 痛 が あ る。 就 寝後 疼 痛 で不 眠 を 呈 す る。 安 静 に して 居れ ば 普通2,3ケ 月 で 良 好 とな る。 然 し稀 に 半 年 以上 が か る もの が あ る。 処 が 本症 は歯 牙 漫性 疾 患 を 原 因 と す る神 経 痛 で あ るか ら,1,必 ず 歯 牙 慢 吐病 巣 の 存 在 を認 め る 。2,そ の 病 巣 中 の 病 原 菌 例 え ば 連 菌 又は 葡 萄 菌 等 に よ る転 位 感 染か,又 は これ 等 の 排 出 す る毒 素 の 刺 戟 に よ る神 経 炎 と 想 像 され る。3,殊 に組 織 の過 労 に よ つ て 抵 抗 減 弱 して い る組 織 の 親和 性 4,年 齢 的 に30才 台40才 台 に 多 い 。 (但 し本 例 は別)5,女 性 に 多 く見 ら れ る。 等 が 考 え られ る 。 依 つ て 本症 が 病 巣 感 染 に関 係 あ る 如 く思 わ れ る し,勿 論 病 理解 剖 的 研 究 に 侍た ね ば 確 言 は 許 さ れ ぬ 。 こ れ に 関 聯 して 阪 大 の堂 野 前 教授 に よ る心 内 膜 炎 の 研 究 か ら想 像 して も,本 症 の 成 立 が ア レル ギ ー性 機 序 が 主 役 を演 じ,且 抗 元 の 一 つ として 原 病 巣産 物 中 の蛋 白 体 特 に オ イ グ ロ ブ リ ンに極 め て 重 要 な る意 義 あ りと想 うもの で あ る。再 癒 着 に 依 る 強 度 の 顎 関 節 強 直 症
東 京 大 学 医 学 部 附 属 病 院 分 院 歯 科
(主任
堀越講 師)山
本
一
郎
症例24才 女 性 幼時急 性 化 膿 性 中 耳 炎 を患 い,慢 性 に移 行 し耳 漏 は長 く止 まな か つ た 。 学齢期 よ り,開 口障 碍 が 著 明 に現 れ て 来 た。13才 の 時 慢 性中 耳 炎 の根 治 手 術 を受 け,更 に 翌 年顎 関 節授 動 術 を行 つ た 。 術 後2横 指 位 開 口 したが 約1年 半 に して 再 び 開 口障 碍 が 表 れ 18才 の 時 は 全 く開 口不 能 とな つ た 。 下 顎 の 萎 縮 は 著 明 で,所 謂 鳥 顔 の 状 態 が 顕 著 で あ る。 開 口は 全 く不 能 で 口腔 は 非 常 に 不 潔 で あ る。X線 所 見 ―7―は,右 顎 関 節の 骨性 癒 着 の 像 が 著 明 で,関 節 の 構 造 は全 く識 別 し難 い 状 態 で あ る。 一 般 症 状 及 び 各 種 臨 床 検 査 所 見 に は,特 記 す べ き事 項 はな い 処 置Murplly氏 耳 前 切 開 法 を選 び 右 頬 部 に稍 大な るL型 の皮 膚 切開 を 加 え,顎 関 節 を充 分 に露 出 して,広 汎 且つ 板 状 に癒 着 した 下 顎 枝 を,頬 骨 弓 よ り離 断 し,頭 部 を概 ね 半 円形 滑 沢 に し,大 腿 内 側 よ り採 取 した 二 重 皮 膚 弁 を挿 入 して,縫 合 閉 鎖 し た 。 術 後 上下 歯 間 に木 栓 を 挿 入 開 口 位 に 固 定 した 。 術 後10日 に して,完 全 に 抜 糸 し,木 栓 を 除 去 す る事 が 出 来 た 。 患 者 に厳 命 し,術 後 の顎 運 動 を 特 に 熱 心 に行 な わせ た 。 其 後 の 経 過 は,術 後10日 に して2横 指,1ケ 月 で3横 指 開 口す る蟻 を 認 め た 。 現 在 手 術 後1年 に な るが,経 過 は 極 め て良 好で あ る 。 鳥 顔 の 整 形 と して は,共 の 後 他 家 肋骨 片 を下 顎 骨 体 部 頬 側 骨 膜 下 に移 植 して,顔 貌 の 対 称 性 を 回 復 し,上 顎 前 歯 の 前 突 は 補 綴 架 工 術 に依 つ て 処 置 した 。 (本 例 の 詳 細 は,日 本 口腔 科 学 会 雜 誌 第2巻 第4号 に掲 載 して あ る)
姙 産 婦 の 口 腔 内 変 化(第 一報)
特 に齲 歯 唾 液PH歯
齦 炎 及 び 歯 石 沈着 に就 い て
東 京 医 大
歯 口 科
白
根
芳
明
姙 産 婦 の 口腔 丙 変 化 に 就 い て は, 多 くの 先 人 の 報 告 が な され,そ の特 徴 と して 硬 組 織 では,(1)小 臼歯 舌 側 咬 頭 齲 蝕(2)上 顎 切 歯 部 の 褐 色 齲蝕 (3)歯 頸 部 よ りの軟 性 齲 蝕 が 多 い事 。 軟 組 織 で は(1)口 腔内 粘 膜 部 に現 は れ る充 血(2)姙 娠 時 の歯 齦 炎が 注 目 さ れ 。 これ 等 の 因 子 と して(1)姙 娠 に よ る新 陳 代 謝 変 調(石 灰 化 代 謝― 乳 酸 量 増加)(2)唾 液 分 泌 の 変 化, 3)口 腔 丙 局 部 疾 患 及 び 口腔 丙 不 潔 が 考 へ られ て い る。然 しなが ら之 等 の 報 告 は,姙 娠 初 期 よ り分娩 迄 の 逐 月 的 観 察 と,そ の 対 照 とな るべ き同 年 齢 層,非 経 産 婦 との 比 較 成 績 が,つ か み 難 い故 に,明 確 な結 論 に まで 至 つ て 居 らな い状 態 に あ る。 そ こで 私 は 姙 産 婦 の 口腔 内変 化 の 内,主 と し て 齲 蝕,唾 液PH,歯 齦 炎 及 び 歯 石 沈 着 の 状 態 を取 りあ げ,改 め て 調 査 を 始 め た の で,こ こに 少 数 例 で は あ るが 一 括 し,見 るべ き一,二,の 点 を 報 告 し,御 批 判,御 教示 を 仰 ぎた い と思 う。 調 査 方 法 被 検 者 は 姙 産 婦20i∼37i100名,及 び 同 年 齢 層 の 非 姙産 婦17i∼27i40名 を対 照 と した もの で,東 京 医 大病 院 の産 婦 人科 との協 力 の も とに,口 腔 内所 見及 び 再 度 に 亘 る唾 液PHを 東 洋 濾 紙(唾 液 用)B・T・B,M・Rで 通 例 の如 く測 定 した もの で あ る 。 な お 本 報 告 で は 齲 蝕 数 は 処 置,未 処 置 歯 数 の 計 な る事,及 び 歯齦 炎 の各 型 を 含 め て 歯 齦 炎 と謂 う事 を記 す 。 調 査 成 績 及 び 考 按 A) 姙 産婦 と齲 蝕 との 關 係 グ リ コ ーナ氏 は150名 中148名 に齲 蝕 が あ り,佐 藤 シー フ エル ト氏 は 分 娩 と齲 蝕 数 は 正 比 例 す る と報 告 し て い る 。私 の 調 査 で は初 産 婦 一 人 平 均 齲 蝕 数8.43本,経 産 婦 一 人平 均 齲 蝕 数11.06本,対 照 例 一 人 平 均 齲 蝕 数7.10本,又 姙 婦100名 中齲 蝕 な き も の は2名 で あ つ た 。 これ は 先 人 の 叢 蹟 と全 く一 致 す る結 果 で あ る 。 B) 姙 産 婦 と唾 液PHと の 関係 月径 時 に酸 性 に移 行 す る の は,生 理 的 動 揺 の 範 囲 丙 に あ る もの の 様 で あ る と二 の 宮 氏 は 云 い,亦 姙 娠 時 分 娩 時 に は 大 少 の 差 異 は あ るが 酸 性 に 傾 く事 は,佐 藤,今 川,斉 藤,Pet-orson,Hoff,氏 等 の一 致 した 見 解 で あ る 。 私 の 調 査 で も,姙 産 婦 平均 唾 液PHはPH6.32,対 照 例 の 平 均 唾 液PHはPH6.80と 明 らか に 酸 性 に 傾 い て い た 。 C) 姙 産 婦 と 歯齦 炎 及 び 歯 石 沈 着 と の 関係 Friedrich氏 は 所 謂姙 娠 性 歯 齦 炎 な る もの を 認 め,2∼4月 に 発現 し200 名 中単 純 性30%,瀰 蔓 性2%肥 大 性 39.4%計70%を 認 め た と報 告 し,ロ ー ゼ ン ス タイ ン氏 は 之 に対 して,姙 娠 のみ で 歯 齦 炎は 起 らな い,と 云 へ ど も,何 らか の 影 響 を持 ち,罹 患 率 は 多 くな る事 を認 め てい る 。私 の 調 査 で は,(i)歯 齦 炎 は初 産 婦 で は70名 中38名,経 産婦 で は30名 中16名 即 ち 姙 婦 で は100名 中54名 に歯 齦 炎 を 認 め,対 照 例 で は40名 中8名 を 認 め た に 過 ぎぬ 。 (2) 歯 石 沈 着 で は初 産 婦 は70名 中53 名,経 産 婦 で は30名 中26名 に 即 ち姙 婦 に於 て は100名 中79名 の 歯 石 沈 着 を 認 め,対 照 例 で は、40名中16名 を 認 め た 。 こ れ を要 す る に イ)歯 石 沈 着 歯 齦 炎 共 に初 産 婦,経 産 婦 は 対 照 の 約2倍 の罹 患 率 を 示 し,ロ)歯 石 沈 着 と歯 齦 炎 との 関 係 は,対 照 で は歯 石 沈 着 は 歯 齦 炎 の約2倍 とな つ て 居 り,姙 産 婦 で は1.5倍 とな つ て い る 。 要 約 姙 産 婦 の 口腔 内 変化 を 調 査 した 結 果,齲 蝕 及 び 歯 齦 炎 の罹 患 率 が 同 年 齢 層 の非 姙 産 婦 よ り多 くな つ て 居た 事,並 び に 唾 液PHが 酸 性 に 傾 く を認 め た 。 之 は 先 人 の 報 告 と一 致 し た 成績 で あ る。 今 後 調 査 数 の 増 加 に 従 い齲 蝕,歯 齦 炎 罹 患 率 の 逐 月 的 変 動 も明 らか に す る と共 に,よ り基 礎 的 な 調 査 に 進 み たい と思 う。 ―8―Plummer-Vinson氏
症
候 群
に つ
い
て
東京医科歯科大学口腔外科学教 室上
野
正
高
倉
和
夫
我 々は 頑 固 な 口 腔 乾 燥 を 訴 と し て 来 た 女性 が,著 明 な 舌 乳 頭 の萎 縮 と.灼 熱 様 疼痛 が あ り,血 液 及 び 胃 液 検査 の 結 果,所 謂Plummer-Vi-nson氏 症 候 群 と呼 ば れ て居 る もの と一 致 す る症 例 に 遭 遇 した 。 症 例1は76才 の 女 性 で,口 腔 の 乾 燥 惑 嚥 下 困 難,味 覚 異常,舌 の 疼 痛 等 を 主 訴 として 来 院 した 。 彼 女 は 一 昨 年5月 頃 か ら 口 腔 丙 に乾 燥 感 が あ つ て,唾 液 の 分 泌 が 減 少 し,食 物 摂 取 時 も殆 ん ど唾 液 が 出 ず,「 ノ ド」 が 引つ れ る様 で,嚥 下が 困 難 で あ つ た と云 う。最 近 は 味 覚 異 常 と舌 の 疼 痛 を伴 う様 に な つ た 。 来 院 時 の 所 見 は,口 腔 丙 は 殆 ん ど 唾 液 に よ る湿 潤 が 見 られ ず,舌 表 面 の 乳 頭 は 完 全 に消 失 して 光 沢 を有 し て 居 り,舌下 部 粘 膜 も平 滑 とな つ て, 唾 液 乳 頭 も消 失 して 居た 。 血 液 所 見 は 白 血球 数7750,赤 血球 数377万,色 素 量50%,色 素 係 数0.66で,低 色素 性 貧 血が 見 られ,胃 液 検査 で は,総 酸量20,遊 離 塩 酸9で 胃 液 欠 乏 が 認 め られ た 。 療 法 は還 え鉄1.0gか ら3.09迄 漸 次増 量 し,そ れ にV.Bcornplex,V. C各2.0gを 併 用 丙 服 させ た 所,9日 Hに は舌 尖部 に わ ず か に乳 頭 が 現 れ 始 め,甘 味 が 少 し くわ か る様 に な つ1 て 来 た 。1ケ 月後 には 舌 の 約 豆 前 方 の部 分 は 正 常 に 近 い程 乳 頭が 現 れ て 来,口 腔 内 も濕 潤性 を増 し患 者 自身 も時 に 口腔 乾燥 感 を 忘 れ る 位 に な り,甘 味 も殆 ん ど正 常 に恢 復 した 。 芭素 係 数 も0.8に 上 昇 し,来 院 よ り 約50日 で 症 状 は 一 応 軽 決 した 。 症 例2は64才 の 女 性 で,口 腔 丙 の 乾 燥 威 感 熱 感 を 主 訴 と し て 来 院 し た 。 現 病 歴 は9年 前 に,長 時 間 寒 気 に触 れ 「ノ ド」 の 乾 燥 感 を 自 覚 し, 耳 鼻 科 え2年 程 通 院 し症 状 は 一応 軽 快 した が,3年 後 に再 び 同 じ様 な 症 状 を 起 して 来 た 。 来 院 時 の 所 見 は,口 腔 内 粘 膜 に軽 度 の 貧 血1性を 呈 し,乾 燥 して 居 るが 症 例1の 場 合 程 著 明 で な く,舌 乳 頭 の萎 縮 も軽 度 で あ つ た 。 口 唇 は乾 燥 し,シ ワが 多 く見 られ た 。 症 例1の 様 な 味 覚 異 常 は 見 られ な か つ た 。 血 液 所 見 は,白 血球 数5625,赤 血球 数 350万,血 色素 量74%,色 素 係 数1・0 5で あ つ た。 処 置 は,症 例1に 準 じて 行 つ た が その 後 の経 過 は観 察 出来 なか つ た 。 この症 例 は,患 者 が 貧 血に 気 付 か ず に,口 腔 内の 乾 燥 及 び嚥 下 困 難 を 主 訴 と して 来 院 した 事 に興 味 が あ る この 嚥 下困 難 の本 態 につ い て は, 種 々意 見が 述 べ られ て 居 るが,本 例 で は,唾 液 分 泌 の減 少 と同 じ頃 に 咽 頭 の 引つ れ 威 を 訴 え て 居 る の で,口 腔 乾 燥 症 も,嚥 下 困 難 の 大 きな 原 因 で あ ろ う と想 像 さ れ る 。又 症 候 群 の 本 態 を 丙 分 泌 障 碍 に 求 あて 居 る もの も あ るが,こ の症 例 で は それ を 立 証 す る様 な 事 実 は 認 め られ な か つ た 。 この 症 候 群に 見 られ る貧 血 は,嚥 下困 難 に よ る食 事 の 制 限 か ら来 る. 二 次的 な 変 化 で あ る と云 うの が 一 般 的 な意 見 で あ り,我 々の 症 洌 で も, 症 状 発 現 以 前 に,貧 血 を起 し得 る様 な 事 項 は 発 見 出来 な か つ た 。 治 療 には,以 前 か ら推 賞 され て 居 る鉄 剤 とV・Bcomplexの 内 を 行 い 一 応 症 状 を軽 快せ しめ る事 が 出来 た この症 候 群 は,口 腔 或 は咽 頭 癌 発 生 の,前 癌 状 態 と して 注 意 す べ き事 とさ れ て 居 るの で,歯 科 臨 床 に 於 て も,口 腔 乾 燥 症 は,注 意 す べ き症 状 で あ る と思 う。下 顎 に 発 生 ぜ る 歯 牙 腫 の 一 例
寅 京 逓 信 病 院 歯 科
山
崎
長
夫
歯牙 腫Odntomaは,Oudetに 依 り1821年 始 めて 報 告 さ れ 爾 来 多数 の 報 告 が 発 表 さ れ て い るが,歯 系腫 瘍 中で は比 較 的 少 数 とさ れ て い る 。 本 症 例 は31才 女 性 の 右 下 第 一大 臼 歯 歯 根端 附 近 に 発 生 した 歯 牙 腫 の 一 例 で,小 は 粟粒 大 不 整 形 よ り大 は 小 指頭 大 歯 冠 様 に至 る 迄 の 明 視 し得 る 範 囲で は大 小15個 以 上 より な る歯 牙 腫で,全 体 の大 き さ は 鳩 卵 大3.6gで 歯牙様 硬 固 体が 軟 組 織 に 包 まれて 埋 没 して,14年 前 よ り逐 次増 大 した も の と思 わ れ る。 摘 出 した 腫 瘍 の軟 組 織 部 を 検 鏡 す る と,全 体 に亘 り線 様 の 組 織 堀殖 が 見 られ,其 の 中 に 多 数 の 硬 組 織 が 形 成 され て い る 。 硬 組 織 は 略 円形 で 封 入 細 胞 の 殆 ん どな い もの と,骨 稜 様 の 形 態 を とつ て 其 の 中 に比 較 的 多数 の 封 入 細 胞 を有 す る も のが あ る。 前 者 は 白亜 質 に類 似 し た 石 友 化竈 を示 して い る よ う で あ る 。病 理 組 織 学 的 に は,白 亜 質 歯 牙 腫 と見 な され る もの の よ うで あ る。 歯 牙 腫 は 一 股 に25才 以下 の 成 人 の 下 顎 臼 歯 部 附 近 に多 い 向 が あ る と 報 告 され て い る。 歯 牙 腫 の 発 生 機 転 及 び分 類 に関 して は,従 来 種 々 の説 が 発 表 され て い るが,組 識学 的,発 生 学 的,形 態 学 的 に 三大 別 さ れ る様 で あ り,歯 牙 原基 の発 育異 常 に 依 る もの で あ ろ う と云 わ れ て い る。 歯 牙 腫 は 大 い に 議 論 の 余 地 の あ る もの と して 文 献 上 で 問 題 に され て 来 てい る。 組 織 発 生 学 的 に も形 態学 的 に も明 瞭 に一 般 歯 系腫 瘍 と区 別 さ れ る べ き で あ る とさ れ て い る。 ―9―兄 妹 に 現 わ れ た 無 カ タ ラー ゼ症 追 加
九 州 歯 科 大 学 口 腔 外 科 教 室
(主任
平川正輝 教授)
久
原
勝
之
人 類 に於 け る無 カ タ ラー ゼ血 症 並 に これ に 起 因 して 口腔,或 は 鼻 咽 腔 に 星 疽 形 成,歯 横 骨 吸 収,歯 牙 の 動 揺 脱 落,顎 骨 の腐 骨 形 威,等 が 起 る 事 は高 原 の提 唱 に 始 ま り1新 疾 患 と して 学 会 の 注 目 を引 くに致 つた 。 高 原,宮 本,吉 屋,等 の 研 究 調査 に よ り,本 症 は しば しば,近 親 結 婚 家 系 に 於 て,然 も,同 一 家 系 中 数 名 の 患 者 が 発 見 され る事 が 判 明 し,現 在 迄 高 原 の3家 系9名,吉 屋 の2家 系4名 等 が 報 告 さ れ て い る。 高 原 の 本 症 提 唱 以 来 カ タ ラ ーゼ の 生 体 内 に於 け る存 在 意 義,そ の 他 に関 して 新 し い 見地 か ら再 検 討 が 加 え られ て い る こ とは 周 知 の 事 実 で あ る。 私 も今 回,高 度 の 歯 糖 骨 萎 縮 を主 訴 と して 来 院 した 患 者 の 一 例 に遭 遇 し,血 液 検 査 の 結 果,従 来 諸 氏 の報 告 の如 き,無 カ タ ラ ー ゼ症,な る こ とを 知 り,又,更 に本 患 者 の 家 系 調 査 の 際,妹 に於 て も本 症 に起 因 す る と 目 され る歯 槽 部 病 変 を有 す る こ と を 認 め た の で,こ れ らの 所 見 を報 告 し,本 症 の1家 系2症 例 を追 加 報告 した 。 (1) 第1例(兄)17才 ♂ の 口 腔 症 状 は,下 口膳 は 著 明 に 丙飜 し, 下 顎 歯 槽 部 と癒 着 して,可 動 性 は 全 く失 わ れ,口 裂 の 閉 鎖 も困 難 で あ る 。 歯 肉縁 及 び 歯 槽 部 は 高 度 の 歯 槽 膿 漏 様 感 を呈 し,各 歯 牙 は,歯 根2/3以上 を 露 出 し,歯 槽 骨 は 吸 収 し,歯 牙 の 動 揺は 著 明 で あ る 。又 欠損 せ る下 顎 前 歯部 の歯 槽 堤 は ほ とん ど平 坦 とな り,下 品 唇 と強 固 に 癒 着 してい る。 歯 肉部 は全 般 的 に,暗 紫 赤 色 を呈 し 深い 盲 嚢 を形 成 し排 膿 が あ り,歯 肉 縁 は壊 疸状 を 呈 し,黄 緑 色 の苔 が 附 着 し,汚 染 され て い る。 最 近 脱 落 し た124な どの 歯 牙 脱 落 創 は 未 だ 治 癒 せ ず 黄 緑 白 色苔 に覆 わ れ てい る 。 其 の 他の 口 腔粘 膜,扁 桃 部 等 に は 変 化 を 認 め ない 。 又 牙関 緊 急 は 全 く無 い 。 (2) 第2例(妹)6才 ♀ に 於 て は,上 下 顎 共,乳 中 切 歯 及 び 乳 側 切 歯 は脱 落 し,下 顎 永 久 歯 中切 歯 は 左 右 共 崩 出完 了 して い るが,す で に 歯 肉縁 は歯 槽 膿 漏様 萎 縮 を しめ し, 歯 牙 の動 揺が 認 め られ る,又,残 存 乳 歯 の 歯 槽 部 も同 様 の 症 状 を呈 し, 特 に,上 下 顎 乳 犬 歯,及 び,下 顎 乳 臼 歯 は 動 揺 い ち ぢ る し く,歯 根 の2/3 以 上 の 根 を露 出 して お り,歯 肉 縁 部 に は 唐嚢 を形 成 し,そ の辺 縁 は壊 疸 状 或 は部 分的 に,瘢 瘍状 を 呈 して い る 。 又 歯 肉 部 は 全 般 的 にや や 暗 紫 赤 色 を 呈 してい る 。本 例 の 場 合 の 斯 か る症 状 は 本 症 の 初 期 症 状 とも 見 る べ き もの で,今 後 の 本 症 診 断 の 参 考 に な る もの と思 われ る。 (3) 本 症 の 際 の 歯槽 部 萎縮 高 度 の 歯 牙動 揺,口 腔 丙 壊 疸,等 の 局 所 症 状 は,カ タ ラー ゼ 欠乏 に よつ て 招 来 さ れ た 続 発 性 口腔 症 状 と 見 ら れ る 。 (4) 本 症 は 近 観 結 婚 家 系 に 現 れ た もの で あ つ て,従 来 の 報 告 と併 せ て本 症 の 発 現 に は 遺 伝 的 関 係 が 有 力 な る因 子 を な してい る もの と思 は れ る。 (5) 本 症 の 際 現 わ れ る局 所 病 変 の 進 行 機 序 に 就 て は 高 原 吉 屋 の 解 釈 が 妥 当 な もの と考 え ら れ る 。=
再 生 不 能 性 貧 血 の1例=
東 京 医 科 歯 科 大 学 口 腔 外 科
(主任 中 村 教 授)
常
葉
信
雄
向
井
健
郎
宮
川
喜
光
種 々の 全 身疾 患 に於 て,症 状 の一 部 が 口腔 に現 われ,之 が その 疾 病 の 診 断 の 助 とな る場 合 が あ る。 就 中 血 液 疾 患 に於 ては,口 腔 粘 膜 の 変 化 即 ち 歯 肉 よ りの 出 血,歯 肉の 壊 死 が 現 わ れ る事 が 多 い 。 そ れ 故 歯 科 を訪 れ た 為 に斯 様な 疾 患 が 判 明 した場 合 が 多い と云 う事 実 は,我 々の注 意 を 要 す る点 で あ る。 我 々 は,顎 角部 の 腫 脹,開 咬 困 難 を 主訴 と して来 院 した 患 者 で,検 査 の 結 果,之 が 血液 疾 患 で あ り,而 も 興 味 あ る 臨 床 経 過 を とつ た 症 例 を経 験 した の で,そ の 所 見 を 簡 単 に報 告 す る 。10才 の 男 性 で 主 訴 は左 側顎 角 部 の 腫 脹 開 咬 困 難,6部 の 疼痛,全 身 所 見 として,体 骼,中 等 度,皮 膚 眼 瞼 結 膜,口 腔 粘 膜 は蒼 白,乾 燥性 で あ るが 出 血斑 は ない 。 舌 は 湿 潤 し 僅 か に 白苔 で被 わ れ てい る外 は 麥" は ない 。下 肢,足 背 に浮 腫 は ない 。 体 温38°,脈膊12° で 速 いが 緊 張 度 は よい 。 心 臓 は 稍 々大 き く,肺 動 賑 弁 口に 収 縮 期 雑 音 が 認 め られ るが, 肺 に は 殆 ど変 化 は な い 。 肝,脾 は 触 れ ず,胸 骨,長 管 骨 の 打 痛 もない 。 左 右 の 側 頸 部,腋 窩,鼠蹊 部 の 各 ―10―淋 巴線 は大 豆大 の も の夫 々 一 個 触 れ,何 れ も可 動 性 て 圧 痛 は な い 。 左 側 顎下淋 巴 線 は雀 卵 大 に腫 脹 し,可 助性 で僅 か に 圧 痛 が あ る。 又 局 所 所 見 と して は,左 側 顎角 部 を 中心 に瀰 漫性 に 腫 脹 し圧 痛 が あ る 。 口腔 内粘 膜は 蒼 白 で あ るが 歯 肉 炎 もな く,出 血 も全 くない 。6の 遠 心 部 歯 肉 に は 境 界 明瞭 大 豆 大 の 次 白色 を した 壊 死 部 が あ り,周 囲 の 粘 膜 は 稍 々発 赤 し てい る。 血液 所 見で は,赤,白 血 球 数,血 小板,血 色素量 と も著 し く減 少 し赤 血球 の大 小 不 同 は 僅 か で あり,そ の 大 さ も殆 ん ど正 常 に近い 。 而 も白 血 球 百分 比 では,小淋 巴 球 が71%を 占 め.顆 拉白 血球 も著 し く減 少 して い た 。 そ れ で 先 ず 悪 性 貧血 か,再 生 不 能性 貧血 を 疑 つ た の で あ る 。 此 の 場 合.脾 腫 が著明 でない の で 「バ ン チ 氏病 」 は 考 え られ な か つ た 。併 し第 病15日 目に骨 髄 穿 刺 を行 つ た結 果, 有核 赤血 球 は 著 し く減 少 し,幼若 な ものが 殆 ど認 め られ な か つ た の で 再 生 不 良 性 貧 血で は な いか と云 う考 え が 強 くな つ て来 た 。 そ して 輸 血(1回 100∼200cc計17回)を 主 体 に各 治 療 法 を行 つ た所,約1.5ケ 月 して 症 状 は 次 第 に恢 復 し,遂 に64日 目 血液 所 見 も殆 ど正 常 とな わ退 院 した 。 退院 後 も経 過 良 好 で あつ た が,約3ケ 月 後 よ り再 発 し,同 様 な症 状 を訴 え, 入 院 す る様 に な つ た が,血 液 所 見 も 全 身状 態 も前 回 よ り不 良 で あ つ た 。 第1.回 入 院 時 と同 様 に,輸 血(1回 100∼200cc計8回)を 主 に治 療 法 を 行 つ た が,入 院 来11日 で 鬼 籍 に入 つ た 。 剖検 の 結 果,大 要 次 の様 な 所 見 が 分 つ た 。 全 身 の 高 等 の 貧 血 と,下 肢 足 背 に 浮 腫 が あ る。 胸 部 下 縁 よ り臍 部 に 亘 る皮 膚 面 に多 数 の溢 血 斑 が あ り,皮 下 脂 肪 組 織 は 浮 腫 性 で あ る。 大 腿 骨 骨 髄 は浮 腫 性 でGelatin様 の 髄 質 を 呈 して い る。 肝 臓 は 高 度 に腫 脹 し,嚢 膜 下 に 溢 血斑 が あ り,中 心 部 は 脂 肪 変 性 に 陷 り,左 右 両 葉 に Hamosidorosis及 び 米 粒 大 の 壊 死 部 が 多 く認 め られ る。 脾 臓 は 肥 大 し て い る。淋 巴線 の腫 脹,特 に後 腹膜 部 と側 頸 部 に 著 しい,体 表 を 始 め腎 膀 胱,肺 等の 臓 器 に も出 血が 認 め ら れ る 。腎 臓 は左 右共 に貧 血性 で,腫 脹 し,貧 血性 梗 塞が あ る。 腸 に は 浮 腫 とHamosiderosisが あ り,直 腸 に於 て は 直 腸 膨 大部 よ りS状 結 腸 部 に か け て 強い 壊 死部 が あ りDouslas 窩 に穿 孔 してい る。 虫 様 突 起 は稍 々 充 血性 で 癒 着 して い る。 第2回 入院 の際,1週 間 後 に 溢 血 斑 が み られ たが,遂 に 歯 肉 出 血は 認 め る事 が 出来 なか つ た点 は諸 家 の報 告 例 と比 較 す る と珍 ら しい こ とで あ る。 併 し前 記 した剖 見 した 結 果 で も 高 度 な 貧 血 の様 子が 証 明 され,又 大 腿 骨 骨 髄 がGelatin様 に 変 化 し て いた 点 か ら も骨髄 の 再生 機 能 が 著 し く低 下 して い た事 も分 る。 斯 様 な 所 見か ら も本 例 は,「 再生 不 能 性 貧 血」 と診 断 され た 。