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ストーカーに対する保護観察の現状

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Academic year: 2021

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ストーカーに対する保護観察の現状

宇 井 総一郎

は じ め に Ⅰ ストーカー行為等に係る保護観察付執行猶予者に関する 警察との連携 Ⅱ 関連する専門的処遇プログラム Ⅲ ストーカー行為等に係る保護観察対象者の処遇

は じ め に

平成 24 年 11 月、神奈川県逗子市において、元交際相手の女性への脅迫事件 により保護観察に付されていた執行猶予者が、同女性を殺害し、自殺する事件 が発生した。当該保護観察事件においては、被害女性との一切の接触を禁じる 特別遵守事項が付されており、同再犯事件が発生するまでの過程において、加 害者が同女性に対して大量のメールを送信していたにもかかわらず、保護観察 所と警察との間で情報の共有がなされず、保護観察所において、加害者がスト ーカー行為を反復していた事実を把握しないまま、再犯の防止に必要な措置や 手続をとっていなかったことが、報道等において厳しく指摘された。この事件 等を踏まえ、平成 25 年度から、ストーカー行為等に係る保護観察付執行猶予 者に関する保護観察所と警察との連携の取組が新たに始められ、保護観察にお いて、この種事犯の犯罪的傾向を有する者に対する再犯防止機能の強化が図ら れた。 本報告では、この取組を始め、ストーカー事犯者及び同事犯の犯罪的傾向を 有する者の処遇に関係する保護観察の取組について紹介する。

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Ⅰ ストーカー行為等に係る保護観察付執行猶予者に関する

警察との連携

新たな枠組みの概要 前記の経緯により、法務省と警察庁との協議を経て、保護観察所と警察との 情報共有等の仕組みが構築されたものであり、平成 25 年 月 日から実施さ れている。 その概要は、ストーカー行為等に係る保護観察付執行猶予者の特異動向や特 別遵守事項等の情報につき、保護観察所、警察の間で、いずれかが把握した端 緒により交換し、共有した情報に基づき、双方において、再犯・再被害の防止 のために必要な措置をとるものである。 情報の共有等は、おおむね以下の手続によって行われる。 ⑴ 警察から保護観察所に対する連絡及び情報提供の要請があった場合の 措置 警察において、恋愛感情等のもつれに起因する各種のトラブルや事件のうち、 被害者やその親族等に危害が及ぶおそれのある事案に係る相談等を受け、行為 者が被害者等への接触を試みているなど特異動向を把握したときは、当該行為 者が保護観察付執行猶予者であるか否かの確認を行い、保護観察付執行猶予者 であることを確認した場合には、その保護観察をつかさどる保護観察所に対し、 特異動向の内容を速やかに連絡するとともに、当該保護観察付執行猶予者に関 する情報提供要請を行う。 同連絡等を受けた保護観察所は、当該保護観察付執行猶予者に付された特別 遵守事項等に係る情報を警察に回答し、同連絡に係る被害者等との接触等の禁 止に関する特別遵守事項が設定されている場合には、速やかに、刑の執行猶予 の取消しの申出その他適切な措置をとることを検討する。また、同特別遵守事 項が設定されていない場合には、速やかに当該保護観察付執行猶予者に対して 適切な措置をとるとともに、同特別遵守事項を新たに設定することを検討する。 ⑵ 保護観察所から警察に対する連絡

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保護観察所は、保護観察に付される理由となった犯罪の罪名にストーカー行 為等の規制等に関する法律(以下 ストーカー規制法 という。)違反若しく は配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下 DV 防止 法 という。)違反が含まれている保護観察付執行猶予者又は罪名にかかわら ず、ストーカー規制法に規定する つきまとい等 が保護観察に付される理由 となった犯罪に関連していると認められる保護観察付執行猶予者であって、被 害者等との接触等の禁止に関する特別遵守事項を付されたものについて、被害 者等への接触等を試みているなどの問題行動を把握した場合には、警察に対し、 当該問題行動等の内容等を速やかに連絡する。 警察は、同連絡を受けたときは、被害者への情報提供、助言等、再被害防止 のために必要な措置を講じる。 ⑶ 情報共有後の措置 上記⑴又は⑵の連絡がなされたときは、その後も引き続き、保護観察所と警 察との間で連絡を密にして連携を強化し、共有した情報に基づき、両者におい て、再犯・再被害を防止するために必要な措置を講じる。 運 用 状 況 本取組開始後平成 26 年度末までの間、保護観察所と警察との間で情報の共 有がなされた保護観察付執行猶予者は 99 名であった(法務省保護局の統計に よる。)。これらの者に対しては、各保護観察所において、質問 1) 調査、段階 別 2) 処遇における処遇段階の引上げ、被害者等との接触等の禁止に関する特別遵 守事項の新たな設定、刑の執行猶予の取消しの申出等の再犯防止のために必要 1) 遵守事項違反の事実等を保護観察対象者又はその関係人から録取し、仮釈放取消しの 申出、刑の執行猶予の取消しの申出等のいわゆる不良措置の検討を行うに当たっての疎 明資料となる質問調書を作成する手続。 2) 保護観察対象者を、改善更生の進度や再犯の可能性の程度及び補導援護の必要性等に 応じて、 区分されたいずれかの段階に編入し、各段階に応じて、保護観察官の関与の 程度や接触頻度等を異にする処遇を実施するもの。

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な措置が、事案の内容及び保護観察の状況等に応じて実施された。 なお、ストーカー行為等に係る保護観察付執行猶予者であって、被害者等と の接触等の禁止に関する特別遵守事項を付された人員(平成 25 年末現在)は 266 名であり、保護観察付執行猶予者の総数に占める割合は 2.5%であった3) (法務省保護局の統計による。)。

Ⅱ 関連する専門的処遇プログラム

保護観察においては、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識に 基づく特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇、すな わち専門的処遇プログラムが導入されており、認知行動療法を理論的根拠とす る 種のプログ 4) ラムが実施されている。ここでは、それらのうち、性犯罪者処 遇プログラムと暴力防止プログラムについて紹介する。ストーカー行為等に係 る保護観察対象者であって、これらのプログラムの対象要件を満たす者に対し ては、プログラムが実施される。 性犯罪者処遇プログラム 平成 18 年 月、専門的処遇プログラムの中で最も早くに導入されたもので あり、性犯罪を反復する傾向のある保護観察対象者に対して、性犯罪に結び付 くおそれのある認知の偏り、自己統制力の不足等の自己の問題性について理解 させるとともに、再び性犯罪をしないようにするための具体的な方法を習得さ せ、その犯罪的傾向を改善するものである。 プログラムは、コア・プログラム、導入プログラム、指導強化プログラム及 3) 保護観察に付される理由となった犯罪の罪名にストーカー規制法違反若しくは DV 防止法違反が含まれている保護観察付執行猶予者又は同罪名にかかわらず、ストーカー 規制法に規定する つきまとい等 が保護観察に付される理由となった犯罪に関連して いると認められる保護観察付執行猶予者であって、被害者等との接触等の禁止に関する 特別遵守事項を付されたものの合計数を指す。 4) 性犯罪者処遇プログラム、覚せい剤事犯者処遇プログラム、暴力防止プログラム及び 飲酒運転防止プログラムの 種。

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び家族プログラムからなり、それぞれの内容は、以下のとおりである。 ⑴ コア・プログラム 本プログラムの中核をなす、認知行動療法に基づく教育課程。全 課程のワ ークブックにより、保護観察官が個別又は集団処遇により指導する。 ⑵ 導入プログラム 刑事施設においてプログラムを受けていない対象者に対し、コア・プログラ ムの内容の説示、受講の動機付けを行うもの。 ⑶ 指導強化プログラム 対象者の問題性の高低に応じた接触による生活実態の把握・助言指導等。 ⑷ 家族プログラム 対象者の家族、引受人等に対し、プログラムの内容及び受講の必要性につい て理解を深めさせ、必要な相談助言を行うもの。保護観察官(個別方式又は集 団方式)又は保護司が実施。 プログラムは、保護観察類型別 5) 処遇における 性犯罪等対象 6) 者 に認定され た男性の仮釈放者及び保護観察付執行猶予者を対象としているが、このうち、 コア・プログラムの受講は、仮釈放者については地方更生保護委員会が、保護 5) 保護観察対象者の問題性その他の特性を、その犯罪・非行の態様等によって類型化し て把握し、各類型ごとに共通する問題性等に焦点を当てた効果的な処遇を実施すること により、保護観察の実効性を高めることを目的とした処遇施策。保護観察官及び保護司 の執務参考資料が作成されており、それを活用した保護観察の実施計画の策定、保護観 察対象者に対する指導等が実施されている。 保護観察対象者の類型の区分として、シンナー等乱用対象者、覚せい剤事犯対象者、 問題飲酒対象者、暴力団関係対象者、暴走族対象者、性犯罪等対象者、精神障害等対象 者、中学生対象者、校内暴力対象者、高齢対象者、無職等対象者、家庭内暴力対象者及 びギャンブル等依存対象者の 13 類型が設けられている。 6) 以下のいずれかに該当する保護観察対象者が性犯罪等対象者に認定される。 ①本件処分の罪名又は非行名に、強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ・準強姦、集 団強姦等、強制わいせつ等致死傷又は強盗強姦及び同致死が含まれる者(未遂を含む。) ②本件処分の罪名又は非行名のいかんにかかわらず、犯罪・非行の原因・動機が性的 欲求に基づく者(下着盗、住居侵入等)

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観察付執行猶予者については裁判所の意見を聴いた上で保護観察所の長が、そ れぞれ、更生保護法第 51 条第 項第 号に基づき設定する特別遵守事項によ り、義務付けら 7) れる。その実施対象者が正当な理由なくプログラムの受講を怠 り、又は、拒んだ場合には、保護観察所において、地方更生保護委員会に対す る仮釈放取消しの申出又は検察官に対する刑の執行猶予の取消しの申出等の措 置の検討が行われる。 直近 年間の性犯罪者処遇プログラム(コア・プログラム)の実施状況は表 のとおりである。 暴力防止プログラム 更生保護法が全面施行された平成 20 年 月に導入されたプログラムであり、 他人の生命又は身体の安全を害する暴力 8) 犯罪を反復する傾向のある保護観察対 7) 性犯罪等対象者 に認定された者であっても、重度の精神障害者又は重度の知的障 害者、日本語を理解できない者、保護観察期間が 月未満の仮釈放者等については、コ ア・プログラムを受講する旨の特別遵守事項は設定しないこととしている。 8) 暴力防止プログラムの実施対象となる暴力犯罪は、殺人、傷害、傷害致死、暴行、逮 捕又は監禁、逮捕又は監禁致死傷、強盗、強盗致死傷、暴力行為等処罰ニ関スル法律違 年間実施人員 仮釈放者 保護観察付執行猶予者 合 計 平成 22 年 618 人 292 人 910 人 平成 23 年 552 人 298 人 850 人 平成 24 年 542 人 291 人 833 人 平成 25 年 562 人 340 人 902 人 平成 26 年 582 人 318 人 900 人 性犯罪者処遇プログラム実施人員 (法務省保護局の統計による。)

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象者に対して、暴力犯罪に結び付くおそれのある認知の偏り、自己統制力の不 足等の自己の問題性について理解させるとともに、再び暴力犯罪をしないよう にするための具体的な方法を習得させ、その犯罪的傾向を改善するものである。 プログラムは、第 から第 までの全 課程で構成され、保護観察対象者を 保護観察所に定期的に出頭させ、保護観察官がワークブックにより保護観察対 象者を個別指導することにより受講させる。 仮釈放者、保護観察付執行猶予者のうち、保護観察に付される理由となった 犯罪に、暴力犯罪の罪名が含まれ、それ以前にも、暴力犯罪による前科又は保 護処分歴を有するもの、また、今回の刑事施設又は少年院への収容中に執行さ れた刑のうち、暴力犯罪により言い渡されたものが複数ある仮釈放者に対して は、性犯罪者処遇プログラムのコア・プログラムと同様の手続により、特別遵 守事項が設定さ 9) れる。 このプログラムの受講は、性犯罪者処遇プログラムのコア・プログラムと同 様に、更生保護法に基づき保護観察対象者に義務付けられるものであり、正当 な理由のない不受講等があった場合には、保護観察所において、不良措置の検 討が行われる。 暴力防止プログラムは、特別遵守事項により仮釈放者又は保護観察付執行猶 予者に受講を義務付けて実施する場合のほか、暴力犯罪の犯罪経歴等があるも のの、特別遵守事項による義務付けの対象とならない保護観察対象者に対して、 保護観察所の長が定める生活行動指針(更生保護法第 56 条)に基づいて実施 する場合や保護観察対象者本人の同意に基づいて実施する場合もある。 なお、平成 27 年度において、本プログラムの内容の充実が図られ、DV 事 反(行為が暴行又は傷害である場合に限る。)及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の 規制等に関する法律違反(行為が殺人、逮捕又は監禁である場合に限る。)である(未 遂を含む。)。 9) 同要件に該当する者であっても、現に暴力団の幹部、構成員又は準構成員である者、 重度の精神障害者又は重度の知的障害者、日本語を理解できない者、保護観察期間が 月未満の仮釈放者等については、暴力防止プログラムを受講する旨の特別遵守事項は設 定しないこととしている。

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案及び飲酒の問題を有する事案に対応する教育内容がワークブックに盛り込ま れた。 直近 年間の暴力防止プログラムの実施人員は表 のとおりで 10) ある。

Ⅲ ストーカー行為等に係る保護観察対象者の処遇

処遇の事例 ここでは、ストーカー行為等に係る保護観察対象者の処遇について、参考ま でに事例を紹介する。いずれの事例も、個人の特定を避けるため、省略・一部 改変していることを了承願いたい。 〔事例 〕 40 代男性 (罪名・処分)ストーカー規制法違反(元交際相手へのつきまとい等)による 保護観察付執行猶予 10) 同表には、暴力防止プログラムを実施した仮釈放者及び保護観察付執行猶予者の総 数を計上しており、ストーカー事犯者、DV 事犯者以外の者も含まれている。また、生 活行動指針又は同意に基づき同プログラムを受講した保護観察処分少年及び少年院仮退 院者は同表に計上していない。 年間実施人員 仮釈放者 保護観察付執行猶予者 合 計 平成 22 年 162 人 112 人 274 人 平成 23 年 152 人 107 人 259 人 平成 24 年 193 人 96 人 289 人 平成 25 年 191 人 117 人 308 人 平成 26 年 160 人 124 人 284 人 暴力防止プログラム実施人員 (法務省保護局の統計による。)

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(処遇の経過)警察から、 本人が被害者のマンションに押しかけ、玄関前で 待ち伏せするなどした。 旨の情報提供を受け、本人に対し、保護観察所への 出頭を命じ、質問調査を行うとともに、被害者からも被害状況を聴取するなど し、被害者への接触禁止に係る特別遵守事項違反により刑の執行猶予取消手続 を行った。 〔事例 〕 20 代男性 (罪名・処分)脅迫(知人女性への脅迫)による保護観察付執行猶予 (処遇の経過)警察から、 本人が被害者宅付近で被害者の行動を見張り、つ きまとった。 旨の情報提供を受け、本人を保護観察所に呼び出し、厳重指導 (質問調査)。被害者に一切接触しないこと、被害者の自宅や職場付近を徘徊し ないことを義務付ける特別遵守事項を新たに定めるとともに、保護観察官、保 護司の面接回数を増やして指導を強化した結果、その後は特段の問題なく経過 した。 〔事例 〕 40 代女性(境界性人格障害) (罪名・処分)ストーカー規制法違反(夫以外の男性へのつきまとい等)によ る保護観察付執行猶予 (処遇の経過)初回の保護観察官面接において、遵守事項の説示に耳を塞ぎ、 その後も、担当保護司との面接が滞るなど、保護観察を忌避する姿勢が続いた。 保護観察官が中心となって本人に働き掛け、生活状況の把握と遵守事項の遵守 に係る指導を行っている。また、本人の状況に関して警察に情報提供しつつ、 適宜警察から被害者に接触してもらい、再被害がないことの確認を行っている。 処遇上の重点事項、まとめ ストーカーは、特定の人に対する異常な認知の偏り、執着心等の問題傾向を 有する者であり、暴力的な性向が顕著な事案、心情が不安定な事案の場合には、 被害者等の生命又は身体に重大な危害を及ぼす再犯に至るおそれがある。この

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ため、これらの者の処遇においては、通常の事案にも増して、犯罪の内容、被 害者との関係、粗暴性、精神障害の有無等、個々の対象者の特性を十分に踏ま えた上で心情や生活実態をきめ細かく把握することが必要となる。また、問題 行動やその兆候を覚知したときは、事実関係の確認、不良措置の検討や処遇の 強化等について迅速かつ適切な対応が求められ、警察をはじめとする関係機関 との緊密な連携も必要となる。 保護観察所においては、これらの点を踏まえ、保護観察官の主体的・積極的 な処遇関与、管理職による適切な事件管理及び担当保護観察官への指導など、 保護観察の実施体制に万全を期すこととしている。 (うい・そういちろう=法務省保護局観察課)

参照

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